説明

水酸基含有化合物、放射線硬化性組成物及び光学部材

【課題】光学部材に必要な諸特性(優れた機械的特性、黄変度の低さ等)を有し、かつ、高い屈折率を備えた硬化物を与えることのできる放射線硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の放射線硬化性組成物は、(a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物に由来する構造単位と(b)チオールに由来する構造単位とを含む水酸基含有化合物の水酸基に、(メタ)アクリロイル基を付加してなる硬化性化合物を含む。本発明の放射線硬化性組成物の硬化物は、屈折率(n25)が1.60以上であり、かつ、イエローインデックスも例えば4以下に調整し得るため、光学レンズ等に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基含有化合物、該水酸基含有化合物に(メタ)アクリロイル基を付加してなる硬化性化合物、該硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物、及び該放射線硬化性組成物の硬化物からなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置のバックライトに使用されるプリズムレンズシートや、プロジェクションテレビ等に使用されるフレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等の光学レンズは、プレス法、キャスト法等の方法により製造されてきた。しかし、これらの方法では、製造時の加熱及び冷却に長時間を必要とするため、生産性が低いという問題があった。
このような問題点を解決するために、近年、紫外線硬化性樹脂組成物を用いてレンズを製作することが検討されている。具体的には、レンズ形状の付いた金型と透明樹脂基板との間に紫外線硬化性樹脂組成物を流し込んだ後、透明樹脂基板の側から紫外線を照射し、該組成物を硬化させることによって、短時間でレンズを製造することができる。
近年のプロジェクションテレビやビデオプロジェクターの薄型化及び大型化に伴い、光学レンズを形成するための紫外線硬化性樹脂組成物に対して、硬化後に、高い屈折率を有することや、優れた力学的特性(機械的強度、靭性等)を有することや、黄変の程度が少ないこと等が要求されている。
【0003】
ここで、光学レンズを形成するための樹脂組成物として、例えば、特定の構造を有するジオール(a)と芳香族有機ポリイソシアネート(b)と水酸基含有(メタ)アクリレート(c)との反応物であるウレタン(メタ)アクリレート(A)、該(A)成分以外のエチレン性不飽和基含有化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含むことを特徴とする樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
また、A成分:特定の一般式で表わされるビス(アクリロキシメチル又はメタクリロキシメチル)トリシクロデカン40〜80重量%、B成分:ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)又はペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)10〜50重量%、C成分:ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート又はジビニルベンゼン10〜40重量%、からなる混合物を重合硬化して得た、屈折率(N20℃)が1.53以上、アッベ数(ν20℃)が40以上である高アッベ数レンズ(特に、眼鏡用レンズ)が提案されている(特許文献2)。
しかし、現在、プロジェクションテレビ等のさらなる薄型化及び大型化に伴って、光学レンズはさらに高い屈折率を有することが求められつつあり、特許文献1、2等の技術では、このような高屈折率化の要求に十分に応えることはできない。
【特許文献1】特開平5−255464号公報
【特許文献2】特開平2−141702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、特定のエポキシ開環化合物を(メタ)アクリル化してなる硬化性化合物を用いることにより、光学部材に必要な諸特性(優れた機械的特性、黄変度の低さ等)を有し、かつ、非常に高い屈折率を備えた硬化物を与えることのできる放射線硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[12]を提供するものである。
[1](a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物に由来する構造単位と、(b)チオールに由来する構造単位とを含むことを特徴とする水酸基含有化合物。
[2]前記(a)エポキシ化合物が、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、及びテトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[1]に記載の水酸基含有化合物。
[3]前記(a)エポキシ化合物が、エピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンを含む前記[1]又は[2]に記載の水酸基含有化合物。
[4]前記(b)チオールが、下記一般式(1)で表される構造を有するポリチオール、メルカプトベンゾチアゾール、及びベンジルメルカプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の水酸基含有化合物。
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレンであり、nは1〜5の整数である。Rが2つ以上存在する場合、これらのRは同じでもよいし異なっていてもよい。)
[5]さらに、(c)前記(b)チオール中のチオール基と反応して、(b)チオール同士を連結するための化合物に由来する構造単位を含む前記[1]に記載の水酸基含有化合物。
[6]前記(c)化合物が、ジブロモメタン、ベンズアルデヒド、ジクロロメタン、ブロモクロロメタン、フェニルベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[5]に記載の水酸基含有化合物。
[7]下記一般式(10)で表される構造を有する水酸基含有化合物。
【化2】

(式中、R、R及びRは各々独立に、水素原子または一価の有機基である。)
[8]前記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の水酸基含有化合物の水酸基の少なくとも一部に、(メタ)アクリロイル基を付加してなる硬化性化合物。
[9]前記[8]に記載の硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物。
[10]硬化物の屈折率(n25)が1.60以上である前記[9]に記載の放射線硬化性組成物。
[11]光学部材形成用である前記[9]又は[10]に記載の放射線硬化性組成物。
[12]前記[11]に記載の放射線硬化性組成物の硬化物からなる光学部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の特定の水酸基含有化合物、及び、該水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化してなる硬化性化合物は、いずれも、それ自体が高い屈折率を有する。また、前記硬化性化合物を放射線硬化性組成物の成分として用いることによって、非常に高い屈折率を有する硬化物を形成することができる。
さらに、本発明の硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物の硬化物は、機械的特性(曲げ強度、靭性等)が良好であり、黄変度も低いため、液晶表示装置のバックライトに使用されるプリズムレンズシートや、プロジェクションテレビ等に使用されるフレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等の光学レンズに好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の硬化性化合物は、特定の水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化してなる化合物である。まず、水酸基含有化合物について説明する。
[水酸基含有化合物]
本発明の水酸基含有化合物は、(a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物に由来する構造単位(以下、構造単位Aともいう。)と、(b)チオールに由来する構造単位(以下、構造単位Bともいう。)を含むものである。
本発明の水酸基含有化合物は、例えば、(a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物と、(b)チオールとを開環付加反応させることによって得ることができる。なお、この反応生成物を以下、エポキシ開環化合物ともいう。
また、本発明の水酸基含有化合物は、前記(a)エポキシ化合物及び(b)チオールに加えて、さらに(c)前記(b)チオール中のチオール基と反応して、(b)チオール同士を連結するための化合物、を反応させて得ることができる。この場合、本発明の水酸基含有化合物は、前記構造単位A及びBに加えて、前記(c)化合物に由来する構造単位Cを含む。
以下、前記(a)〜(c)の各化合物について詳述する。
【0008】
[(a)エポキシ化合物]
(a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、1つのエポキシ基を有する化合物と、2つ以上のエポキシ基を有する化合物のいずれも用いることができる。
好ましくは、1つ又は2つのエポキシ基を有する化合物である。このような化合物を用いることによって、高い屈折率を有し、かつ黄変の程度の少ない硬化物を得ることができる。
エポキシ基は、分子構造のいずれの部位に存在してもよい。例えば、主鎖の末端に存在してもよいし、側鎖の末端に存在してもよい。反応効率の観点からは、通常、主鎖の末端にエポキシ基を有する化合物が好ましい。
1つのエポキシ基を有する化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、グリシドール、エポキシブタン、ペンタメチレンオキシド、エポキシペンタン、エポキシブタン、エポキシシクロペンタン、エポキシシクロヘキサン、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル等の1つのチオール基と反応する化合物(以下、(a1)成分ともいう。);エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等の2つのチオール基と反応する化合物(以下、(a2)成分ともいう。)が挙げられる。
2つのエポキシ基を有する化合物(以下、(a3)成分ともいう。)としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、1,3−ビス−{4−[1−メチル−1−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−エチル]−フェノキシ}−プロパン−2−オール、1,3−ビス−{2,6−ジブロモ−4−[1−(3,5−ジブロモ−4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−メチル−エチル]−フェノキシ}−プロパン−2−オール、1−(3−(2−(4−((オキシラン−2−イル)メトキシ)フェニル)プロパン−2−イル)フェノキシ)−3−(4−(2−(4−((オキシラン−2−イル)メトキシ)フェニル)プロパン−2−イル)フェノキシ)プロパン−2−オール等が挙げられる。
ここで、上記(a1)成分は、1つのチオール基と反応して、A−Bの構造(ただし、Aはエポキシ化合物に由来する構造単位、Bはチオールに由来する構造単位を示す。)を形成するものであり、上記(a2)成分及び(a3)成分は、2つのチオール基と反応して、B−A−Bの構造を形成するものである。
【0009】
上述のエポキシ化合物のうち、芳香環構造を有するエポキシ化合物が好ましく、さらに、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0010】
【化3】

【0011】
式中、Xは単結合又はO(酸素原子)であり、Y及びYは、各々独立して、水素原子又は臭素原子であり、nは0〜5の整数であり、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは1(メチレン基)である。
このようなエポキシ化合物を(a)エポキシ化合物として用いると、高い屈折率を有する水酸基含有化合物及び硬化性化合物を得ることができ、さらに、該硬化性化合物を放射線硬化性組成物の成分として用いることによって、高い屈折率を有する硬化物を形成することができる。
【0012】
このようなエポキシ化合物としては、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールFジグリシジルエーテルが挙げられる。特に、(a)エポキシ化合物は、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0013】
また、(a)エポキシ化合物として、2つのチオール基と反応するエポキシ化合物(具体的には(a2)又は(a3)成分)を用い、かつ、後述の(b)チオールとしてポリチオールを用いると、ポリチオール同士を前記エポキシ化合物介して連結することができ、より高い屈折率を有し、黄変の程度の低い硬化物を得ることができる。この場合のエポキシ化合物としては、(a2)成分がより好ましく用いられる。
【0014】
[(b)チオール]
(b)チオールのチオールとしては、(b1)チオール基を1個有するモノチオールと、(b2)チオール基を2個以上有するポリチオールのいずれも用いることができる。
(b1)モノチオールの例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン等の脂肪族メルカプタン化合物;メルカプトベンゾチアゾール、ベンジルメルカプタン、エチルフェニルメルカプタン、チオフェノール等の芳香族メルカプタン化合物が挙げられる。
(b1)モノチオールとしては、芳香族メルカプタン化合物が好ましい。芳香族メルカプタン化合物を用いると、高い屈折率を有する硬化物を形成することができる。芳香族メルカプタン化合物としては、メルカプトベンゾチアゾール、ベンジルメルカプタン等が好ましい。
また、(b1)モノチオールは、上述の(a)エポキシ化合物のうち、(a3)2つの末端にエポキシ基を有する化合物と組み合わせて用いることが好ましい。このような組み合わせで用いることにより、非常に高い屈折率を有し、機械的特性、黄変度等も良好な硬化物を得ることができる。
(b2)ポリチオールとしては、(i)2個以上のチオール(−SH)を末端に有し、かつ、末端以外の構造部分に1個以上の硫黄原子を含む化合物や、(ii)3個以上のチオール(−SH)を末端に有する化合物等が挙げられる。
前記(i)の例として、含硫黄脂肪族構造(例えば、−S−(CH−(式中、nは1以上の整数である。)で表わされる構造)を有するポリチオールが挙げられる。含硫黄脂肪族構造は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
(b2)ポリチオールの具体例としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(3)〜(5)で表される化合物、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート(TMTG)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート(TMTP)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(PETP)等が挙げられる。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R及びRは、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレンであり、nは1〜5の整数である。Rが2つ以上存在する場合、これらのRは同じでもよいし異なっていてもよい。)
【0017】
【化5】

【0018】
一般式(1)中、複数のR及びRは、各々独立して、炭素数1〜3のアルキレンであることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。
一般式(1)中、nは、1〜3の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
このような化合物の具体例としては、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン等が挙げられる。
【0019】
(b2)ポリチオールとしては、一般式(1)で表される構造を有する化合物(含硫黄脂肪族構造を有する化合物)が好ましく、中でも、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタンが好ましい。特に好ましくは、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタンが用いられる。
(b2)ポリチオールは、上述の(a)エポキシ化合物のうち、(a1)成分(1つのチオール基と反応する化合物)と組み合わせて用いることが好ましい。このような組み合わせで用いることにより、高い屈折率を有し、機械的特性、黄変度等も良好な硬化物を得ることができる。
また、(b2)ポリチオールは、(a1)成分に加えて、(a2)成分、(a3)成分、又は後述の(c)化合物と組み合わせて用いられることが好ましく、(a2)成分又は(c)化合物と組み合わせて用いられることがより好ましい。このような組み合わせで用いることにより、(b2)ポリチオール同士を、(a2)成分、(a3)成分、又は(c)化合物を介して連結することができ、(b2)成分に由来する構造単位の数を増やすことができる。その結果、より高い屈折率を有し、黄変の程度が低い硬化物を得ることができる。
【0020】
[(c)化合物]
(c)前記(b)チオール中のチオール基と反応して、(b)チオール同士を連結するための化合物としては、例えば、ジブロモメタン、ベンズアルデヒド、ジクロロメタン、ブロモクロロメタン、フェニルベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド等が挙げられる。中でも、ジブロモメタン、ベンズアルデヒドが好ましい。
(c)化合物を用いることにより、(b)チオールに由来する構成単位の数を増やすことができ、その結果、水酸基含有化合物や硬化性化合物自体の屈折率をより高くすることができ、さらには、前記硬化性化合物を放射線硬化性組成物に用いることによって、より高い屈折率と、低い黄変度とを有する硬化物を形成することができる。
なお、(c)化合物は、上記(a)エポキシ化合物のうち(a1)成分(1つのチオール基と反応するエポキシ化合物)と、上記(b)チオールのうち(b2)成分(ポリチオール)とともに用いられることが好ましい。
【0021】
本発明の水酸基含有化合物は、(a)少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物に由来する構造単位Aと、(b)チオールに由来する構造単位Bとを含む。
ここで、(a)エポキシ化合物のうち、前記(a1)成分、(a2)成分、及び(a3)成分に由来する構造単位を、各々、A1、A2、及びA3とし、(b)チオールのうち、前記(b1)成分、(b2)成分に由来する構造単位を、各々、B1、B2とし、前記(c)化合物に由来する構造単位をCとすると、本発明の水酸基含有化合物は例えば以下の式(6)〜(9)で表される。
B1−[A3−B2]−A3−B1 (6)
(式中、pは0以上の整数である。)
A1−[B2−A3]−B2−A1 (7)
(式中、qは0以上の整数である。)
A1−[B2−A2]−B2−A1 (8)
(式中、rは1以上の整数である。)
A1−[B2−C]−B2−A1 (9)
(式中、sは1以上の整数である。)
【0022】
式(6)中、pは0以上の整数であり、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。式(6)中、複数個のA3、B1、及びB2は同一でも異なってもよい。
式(7)中、qは0以上の整数であり、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。式(7)中、複数個のA1、A3、及びB2は同一でも異なってもよい。
式(8)中、rは1以上の整数であり、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1又は2である。式(8)中、複数個のA1、A2、及びB2は同一でも異なってもよい。
式(9)中、sは1以上の整数であり、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1又は2である。式(8)中、複数個のA1、B2、及びCは同一でも異なってもよい。
【0023】
ここで、本発明の水酸基含有化合物は、(a)エポキシ化合物のエポキシ化合物中のエポキシ基と、(b)チオールのチオール中のチオール基とが反応してなる、水酸基を含む特定の構造を有している。この水酸基を含む構造は下記一般式(10)で表される。
【化6】

(式中、Rは、水素原子又は一価の有機基であり、水素原子である。)
【0024】
一般式(10)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又は1価の有機基であり、好ましくは水素原子である。一価の有機基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基等が挙げられる。
【0025】
上記式(6)又は式(7)で表される水酸基含有化合物の分子中に含まれる水酸基の数は、1〜4個、好ましくは2個である。また、この水酸基含有化合物の分子量は、通常300〜1,000、好ましくは350〜850である。
上記式(8)又は式(9)で表される水酸基含有化合物の分子中に含まれる水酸基の数は、1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2又は3個である。また、この水酸基含有化合物の分子量は、通常300〜5,000、好ましくは300〜3,000である。
本発明の水酸基含有化合物の屈折率(n25)は、好ましくは1.60以上である。なお、屈折率(n25)とは、25℃でのナトリウムD線の屈折率である。
【0026】
さらに、本発明の水酸基含有化合物は、上記(b)チオールに由来する含硫黄構造(具体的には、(b2)成分のポリチオールが、上記(a2)、(a3)、又は(c)化合物を介して複数連結されてなる含硫黄構造)を含むことができる。特に、水酸基含有化合物が、上記式(8)又式(9)で表される化合物であると、多数の硫黄原子(例えば6個以上の硫黄原子(−S−))を含む長鎖の含硫黄脂肪族構造を含むことができる。この場合、水酸基含有化合物あるいは該水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化してなる硬化性化合物の硬化後の屈折率を高くすることができ、さらに、前記硬化性化合物を放射線硬化性組成物の成分として用いることによって、低い黄変度と高い屈折率とを兼ね備えた硬化物を得ることができる。
【0027】
この含硫黄脂肪族構造は、例えば、下記一般式(11)で表される。下記一般式(11)の含硫黄脂肪族構造は、(b)チオールが上記一般式(1)で表されるポリチオールである場合の例である。
なお、一般式(11)で表される含硫黄脂肪族構造中、末端の−S−は、上記一般式(10)で表される水酸基を有する構造中の−S−に対応するものである。
【化7】

(式中、R、R、R、及びRは、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレンであり、Xは2価の基であり、n及びmは、各々独立して、1〜5の整数であり、lは、1以上の整数である。R、Rは、2つ以上存在する場合、同じでもよいし異なっていてもよい。)
【0028】
一般式(11)中、Xは、上記(a2)又は(c)化合物に由来する2価の基である。Xの具体例としては、−CH−CH(−OH)−CH−(エピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリン((a2)成分)に由来する2価の基)、−CH−(ジブロモメタン((c)化合物))に由来する2価の基)、−CH(−Ph)−(ここで、Phはフェニル基である。)(ベンズアルデヒド((c)化合物)に由来する2価の基)等が挙げられる。
なお、上記含硫黄脂肪族構造は、上記式(8)中の−[B2−A2]−B2−の部分、又は上記式(9)中の−[B2−C]−B2−の部分に対応するものである。
本発明の水酸基含有化合物中、含硫黄脂肪族構造は、4個以上、好ましくは6個以上、より好ましくは6〜20個、さらに好ましくは6〜9個の硫黄原子(−S−)を含む。これにより、水酸基含有化合物や硬化性化合物自体の屈折率をより高くすることができ、さらに、前記硬化性化合物を放射線硬化性組成物に用いることによって、高い屈折率と、低い黄変度とを有する硬化物を形成することができる。
【0029】
ここで、本発明の水酸基含有化合物のうち、上記式(6)又は式(7)で表される水酸基含有化合物は、例えば、以下の(1)〜(2)の方法によって合成することができる。
(1)(b)チオール(又は(a)エポキシ化合物)と、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)と、テトラヒドロフラン又はメタノール(溶媒)とを混合した後、溶液中に(a)エポキシ化合物(又は(b)チオール)をゆっくりと添加し、撹拌する方法
(2)(b)チオールと、(a)エポキシ化合物と、炭酸カリウム(触媒)と、テトラヒドロフラン又はメタノール(溶媒)とを混合した後、撹拌し、次いで、炭酸カリウムを除去する方法
前記(1)または(2)の後、濾過又は抽出を行うことにより、水酸基含有化合物が得られる。
なお、(1)の方法において用いられる触媒としては、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの他に、トリブチルアンモニウムヒドロキシド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。撹拌する時間は、通常15分〜2時間、好ましくは15分〜1時間である。反応温度は、通常20〜50℃である。
(2)の方法において用いられる触媒としては、炭酸カリウムの他に、炭酸ナトリウム、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。撹拌する時間は、通常1〜4時間、好ましくは2〜3時間である。反応温度は、通常20〜50℃である。
この場合、(a)エポキシ化合物及び(b)チオールは、(a)エポキシ化合物中のエポキシ基と(b)チオール中のチオール基とのモル比(エポキシ基/チオール基)が1/1となるように配合される。
【0030】
また、本発明の水酸基含有化合物のうち、上記式(8)又は式(9)で表される水酸基含有化合物は、下記(3)又は(4)の方法により得られる。
(3)(b2)ポリチオール(又は(a1)エポキシ化合物)と、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)と、テトラヒドロフラン又はメタノール(溶媒)とを混合した後、溶液中に(a1)エポキシ化合物(又は(b2)ポリチオール)をゆっくりと添加し、撹拌する。その後、(a2)エポキシ化合物又は(c)化合物をゆっくりと添加し、撹拌し、さらに、水酸化ナトリウムを加えて撹拌する方法。
(4)(b2)成分(ポリチオール)と、(c)化合物と、トルエン(溶媒)とを混合した後、生成する水を除去しながら反応を行う。次いで、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)を添加した後、(a1)成分(エポキシ化合物)をゆっくりと添加し、撹拌する方法。
前記(3)または(4)の後、洗浄、溶剤の留去や、濾過又は抽出を行うことにより、水酸基含有化合物が得られる。
(3)の方法において用いられる触媒としては、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの他に、トリブチルアンモニウムヒドロキシド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。(3)の方法において、(a1)成分と(b2)成分とを混合した後の撹拌、及び(a2)又は(c)化合物を添加した後の撹拌は、各々、通常15分〜2時間、好ましくは15分〜1時間で、反応温度、20〜50℃で行われる。水酸化ナトリウムを添加した後の撹拌は、2〜3時間で、反応温度30〜70℃で行われる。
(4)の方法における溶媒の例としては、トルエンの他に、ベンゼン等が挙げられる。生成する水を除去する方法としては、還流下でかつDean−Stark管を用いる方法が挙げられる。反応時間((b2)成分と(c)化合物との反応時間)は、通常1〜6時間、好ましくは1.5〜4.5時間である。また、触媒の例としては、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドの他に、トリブチルアンモニウムヒドロキシド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。撹拌する時間は、通常15分〜5時間、好ましくは30分〜4時間、より好ましくは1時間〜3時間である。撹拌する際の温度は、室温(通常20〜50℃)である。
なお、上記(3)の方法は、上記式(8)で表される水酸基含有化合物、上記式(9)で表される水酸基含有化合物中、(c)化合物がジブロモメタン、ジクロロメタン等のジハロメタンである化合物である場合の製造方法に適している。また、上記(4)の方法は、上記式(9)で表される水酸基含有化合物中、(c)化合物がベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド等アルデヒドを含有する化合物である場合の製造方法に適している。
【0031】
ここで、得られる水酸基含有化合物の例を、下記式(12)〜(14)に示す。式(12)で表される水酸基含有化合物は、上記式(7)の化合物において、(a1)成分がフェニルグリシジルエーテル、(b2)成分が1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、qが0であるものである。式(13)で表される水酸基含有化合物は、上記式(8)の化合物において、(a1)成分がフェニルグリシジルエーテル、(a2)成分がエピクロロヒドリン、(b2)成分が1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、rが1であるものである。式(14)で表される水酸基含有化合物は、上記式(9)の化合物において、(a1)成分がフェニルグリシジルエーテル、(b2)成分が1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、(c)化合物がジブロモメタン、sが1であるものである。
【0032】
【化8】

【0033】
[硬化性化合物]
本発明の硬化性化合物は、水酸基含有化合物中の水酸基の少なくとも一部に、(メタ)アクリロイル基を付加することによって、得ることができる。
具体的な方法としては、例えば、以下の(5)の方法が挙げられる。
(5)水酸基含有化合物、N,N−ジメチルアニリン、及びテトラヒドロフラン(溶媒)を混合した後、溶液中にアクリル酸クロリドをゆっくりと添加し、発熱が収まったのを確認してから撹拌を行い、その後、抽出、洗浄を行って、溶剤を留去する方法
なお、(5)の方法における撹拌は、上記式(6)又は式(7)の水酸基含有化合物を用いる場合は、通常1〜3時間、好ましくは1.5〜2.5時間で、40〜60℃、好ましくは50℃程度(例えば45〜55℃)の温度で行われる。一方、上記式(8)又は式(9)の水酸基含有化合物を用いる場合の撹拌は、通常3〜5時間、好ましくは3.5〜4.5時間で、0〜60℃、好ましくは10〜30℃の温度で行われる。
上記洗浄は、酸及び/又は塩基を用いて行われる。
なお、上述の水酸基含有化合物の製造方法1〜4において、溶媒としてテトラヒドロフランを用いると、水酸基含有化合物の洗浄、濾過又は抽出を行わずに、水酸基含有化合物を含む溶液のまま、(メタ)アクリル化を行うこともできる。この場合、得られた水酸基含有化合物を含む溶液に、上記と同様、N,N−ジメチルアニリンを混合した後、アクリル酸クロリドをゆっくりと添加し、撹拌する。そして、同様に、抽出、洗浄、溶剤の除去を行うことにより、硬化性化合物が得られる。添加、撹拌等の温度や時間の条件は上記と同様である。
この方法によると、水酸基含有化合物の抽出等を行う手間が省けるため、製造効率を向上させることができる。また、直接(メタ)アクリル化まで行うこの方法は、例えば水酸基含有化合物の粘度が高く、溶剤の除去が困難である場合等でも、適用することができ、好ましい。
この場合の具体的な方法(水酸基含有化合物の製造方法として上記(1)の方法を採用した場合の例)を以下に示す。
まず、(b)チオール(又は(a)エポキシ化合物)と、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)と、テトラヒドロフラン(溶媒)とを混合した後、溶液中に(a)エポキシ化合物(又は(b)チオール)をゆっくりと添加し、30分程度撹拌する。次いで、溶液中にN,N−ジメチルアニリンを添加した後、アクリル酸クロリドをゆっくりと添加し、発熱が収まってから50℃程度で2時間程撹拌する。その後、抽出、洗浄を行い、溶剤を留去することにより、硬化性化合物を得ることができる。
【0034】
得られる硬化性化合物は、分子中に、(メタ)アクリロイル基を1個以上有する化合物である。すなわち、硬化性化合物は、下記一般式(15)で表される構造を有する。
【0035】
【化9】

(式中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又は一価の有機基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)
【0036】
一般式(15)中のR、R、及びRの詳細は、一般式(10)中のR、R、及びRと同様である。
【0037】
上記式(6)又は式(7)の水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化して得られる硬化性化合物は、分子中に、(メタ)アクリロイル基を2個以上有することが好ましく、(メタ)アクリル基を2個有することがより好ましい。上記式(8)又は式(9)の水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化して得られる硬化性化合物は、分子中に、(メタ)アクリロイル基を1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2又は3個有する。これにより、該硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物に、良好な光硬化性を付与することができる。
また、硬化性化合物は、対応する水酸基含有化合物中の水酸基の80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上に、(メタ)アクリロイル基が付加してなるものである。
本発明の硬化性化合物の屈折率(n25)は、好ましくは1.56以上、より好ましくは1.57以上である。
硬化性化合物の分子量は、上記式(6)又は式(7)の水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化して得られる硬化性化合物の場合には、500〜1,500、好ましくは500〜1,200であり、上記式(8)又は式(9)の水酸基含有化合物を(メタ)アクリル化して得られる硬化性化合物の場合には、400〜5,000、好ましくは450〜3,000である。
【0038】
ここで、本発明の硬化性化合物の例を、下記式(16)〜(18)に示す。式(16)で表される化合物は、上記式(12)で表される水酸基含有化合物を、アクリル化してなるものであり、式(17)で表される化合物は、上記式(13)で表される水酸基含有化合物を、アクリル化してなるものであり、式(18)で表される化合物は、上記式(14)で表される水酸基含有化合物を、アクリル化してなるものである。
【0039】
【化10】

【0040】
[放射線硬化性組成物]
本発明の放射線硬化性組成物は、上述の硬化性化合物を含有し、さらに必要に応じて、光重合開始剤、他の添加剤、他の硬化性のモノマー、オリゴマー、又はポリマー等を含むことができる。
光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生し、重合を開始せしめるものであればいずれでもよく、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
光重合開始剤の市販品としては、例えばIrgacure184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI−1700、−1750、−1850、CG24−61、Darocur 1116、1173(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0041】
配合される他の添加剤としては、光増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤等が挙げられる。
光増感剤としては、例えばトリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が挙げられ、その市販品としては、例えばユベクリルP102、103、104、105(以上、UCB社製)等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えばIrganox1010、1035、1076、1222(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、Antigen P、3C、FR、GA−80(住友化学工業(株)製)等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、例えばTinuvin P、234、320、326、327、328、329、213(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、Seesorb102、103、110、501、202、712、704(以上、シプロ化成(株)製)等が挙げられる。
光安定剤としては、例えばTinuvin 292、144、622LD(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、サノールLS770(三共(株)製)、Sumisorb TM−061(住友化学工業(株)製)等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、市販品として、SH6062、6030(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、KBE903、603、403(以上、信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
塗面改良剤としては、例えばジメチルシロキサンポリエーテル等のシリコーン添加剤が挙げられ、市販品としてはDC−57、DC−190(以上、ダウコーニング社製)、SH−28PA、SH−29PA、SH−30PA、SH−190(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、KF351、KF352、KF353、KF354(以上、信越化学工業(株)製)、L−700、L−7002、L−7500、FK−024−90(以上、日本ユニカー(株)製)等が挙げられる。
配合される他の硬化性のモノマー、オリゴマー、及びポリマーとしては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシロキサンポリマー、グリシジルメタアクリレートとそのほかの重合性モノマーとの共重合体と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる反応性ポリマー等が挙げられる。
【0042】
本発明の放射線硬化性組成物中の上記硬化性化合物の配合割合は、組成物の全量を100質量%として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
本発明の放射線硬化性組成物の硬化物の屈折率(n25)は、好ましくは1.59以上であり、より好ましくは1.60以上、さらに好ましくは1.61以上、特に好ましくは1.62以上である。
また、本発明の放射線硬化性組成物の硬化物(200μm厚)について測定したYI値(イエローインデックス;黄色度)は、好ましくは15.0以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは5.0以下、特に好ましくは4.0以下である。
【0043】
本発明の硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物は、高い屈折率を有し、黄変も少なく、機械的強度(曲げ強度等)も良好な硬化物を与えることができるため、プリズムレンズ、フレネルレンズ等の光学部材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
撹拌機を備えた反応容器に、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン16.7g((b2)成分)、40%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液2.7g、メタノール100.0gを仕込み、次いで、フェニルグリシジルエーテル((a1)成分)32.2gをゆっくりと添加した。30分撹拌した後、減圧下で濾過を行い、得られた固体物を減圧下で乾燥後、水酸基含有化合物(1)を得た。
続いて、撹拌機を備えた反応容器に、得られた水酸基含有化合物(1)17.9g、N,N−ジメチルアニリン9.6g、テトラヒドロフラン18.0gを仕込んだ後、アクリル酸クロリド7.2gとテトラヒドロフラン7.2gの混合溶液をゆっくりと添加した。発熱が収まるのを確認してから、液温を50℃程度に制御しながら2時間撹拌し、抽出、洗浄を行い、溶剤を留去することによって、硬化性化合物(1)を得た。さらに、硬化性化合物(1)10.0gと、光重合開始剤0.3g(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irgacure184)を配合し、液状組成物(1)を得た。
水酸基含有化合物(1)及び硬化性化合物(1)のNMRチャートを、各々、図1、図2として示す。なお、NMRチャートは、ブルカー社製「AVANCE500」(500MHz)を用いて作成した。
水酸基含有化合物(1)及び硬化性化合物(1)のGPCチャートを、図3として示す。なお、GPCチャートは、東ソー社製「HLC−8220GPC」を用いて作成した。
水酸基含有化合物(1)の屈折率及び分子量、硬化性化合物(1)の屈折率、液状組成物(1)の硬化物の屈折率及びYIを下記の方法により測定した。なお、硬化物の物性は、液状組成物(1)を、ガラス板上に膜厚が200μmとなるようにアプリケーターバーを用いて塗布し、1.0J/cmの紫外線を窒素下で照射して得た試験片を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0046】
測定方法
[屈折率(n25)]
JIS K7105に従い、(株)アタゴ製アッベ屈折計を用いて、25℃におけるD線(589nm)の屈折率を測定した。
[YI]
色差計(日本電色工業社製のSZ−Σ80分光色差計)を用いて、YI(イエローインデックス)を測定した。
【0047】
[実施例2]
(a)エポキシ化合物として、スチレンオキシドを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、各種物性を測定した。なお、スチレンオキシドの配合量は、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン6.5gに対して、10.2gである。
結果を表1に示す。
[実施例3]
(a)エポキシ化合物として、ジブロモフェニルグリシジルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、各種物性を測定した。なお、ジブロモフェニルグリシジルエーテルの配合量は、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン3.9gに対して、15.9gである。
結果を表1に示す。
実施例3のエポキシ開環化合物のNMRチャートを、図4に示す。
【0048】
[実施例4]
撹拌機を備えた反応容器に、メルカプトベンゾチアゾール14.6g((b)チオール)、ビスフェノールFジグリシジルエーテル14.8g((a)エポキシ化合物)、炭酸カリウム0.6g、及びメタノール40.0gを仕込み、3時間撹拌した。その後、炭酸カリウムを除去し、抽出を行って、水酸基含有化合物(2)を得た。
続いて、撹拌機を備えた反応容器に、得られた水酸基含有化合物(2)17.3g、N,N−ジメチルアニリン13.0g、テトラヒドロフラン18.0gを仕込んだ後、アクリル酸クロリド9.4gとテトラヒドロフラン9.4gの混合溶液をゆっくりと添加した。発熱が収まるのを確認してから、液温を50℃程度に制御しながら2時間撹拌し、抽出、洗浄を行い、溶剤を留去することによって、硬化性化合物(2)を得た。さらに、硬化性化合物(2)10.0gと、光重合開始剤0.3g(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irgacure184)を配合し、液状組成物(2)を得た。
水酸基含有化合物(2)、硬化性化合物(2)、及び液状組成物(2)の各種物性について、実施例1と同様にして測定した。
結果を表1に示す。
実施例4のエポキシ開環化合物のNMRチャートを、図5に示す。
【0049】
[実施例5]
(b)チオールとしてベンジルメルカプタン、(a)エポキシ化合物としてビスフェノールFジグリシジルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、各種物性を測定した。なお、ベンジルメルカプタンの配合量は、ビスフェノールFジグリシジルエーテル8.5gに対して、6.3gである。
実施例5のエポキシ開環化合物のNMRチャートを、図6に示す。
【0050】
[実施例6]
撹拌機を備えた反応容器に、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル((a)エポキシ化合物)16.2g((b)チオール)、40%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液0.8g、テトラヒドロフラン21.0gを仕込み、次いで、ベンジルメルカプタン5.1gをゆっくりと添加し、30分間撹拌した。
その後、N,N−ジメチルアニリン6.8gを添加し、アクリル酸クロリド5.2gとテトラヒドロフラン5.2gの混合溶液をゆっくりと添加した。発熱が収まるのを確認してから、液温を50℃程度に制御しながら2時間撹拌し、抽出、洗浄を行い、溶剤を留去することによって、硬化性化合物(3)を得た。さらに、硬化性化合物(3)10gと、光重合開始剤0.3g(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irgacure184)を配合し、液状組成物(3)を得た。
硬化性化合物(3)の屈折率及び分子量、液状組成物(3)の硬化物の屈折率及びYIを実施例1と同様にして測定した。
結果を表1に示す。
なお、実施例1〜3で得られた水酸基含有化合物は、A1−B2−A1の構造を有する化合物(式(7)においてq=0である化合物)であり、実施例4〜6で得られた水酸基含有化合物はB1−A3−B1の構造を有する化合物(式(6)においてp=0である化合物)である。実施例1〜6で得られた硬化性化合物は、いずれも、分子中に2個のアクリロイル基を有する化合物であった。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例7]
撹拌機を備えた反応容器に、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン9.69g((b2)成分)、40%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)0.79g、THFを44.00g仕込み、フェニルグリシジルエーテル9.45g((a1)成分)をゆっくりと添加し、室温(23℃)で45分間撹拌した。さらに、エピクロロヒドリン2.91g((b2)成分)をゆっくりと添加し、室温(23℃)で45分間撹拌した。その後水酸化ナトリウム2.64g加え、50℃で2時間撹拌した。溶媒を留去した後、水を加え、析出した固体を減圧下で濾過を行い、得られた固体物を減圧下で乾燥して、水酸基含有化合物(4)を得た。なお、(a1)成分、(b2)成分、及び(a2)成分は、(a)エポキシ化合物/(b2)成分/(a2)成分のモル比が、2/2/1となる割合で配合されている。
続いて、撹拌機を備えた反応容器に、得られた水酸基含有化合物(4)8.63g、N,N−ジメチルアニリン4.87g、THF15.00gを仕込んだ後、アクリル酸クロリド3.52gとテトラヒドロフラン3.52gの混合溶液を23℃でゆっくりと添加した。液温を23℃程度に制御しながら4時間撹拌した。その後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、洗浄、溶剤の留去を行うことによって、硬化性化合物(4)を得た。さらに、硬化性化合物(4)と、光重合開始剤等を配合し(配合の詳細は下記の測定方法参照。)、液状組成物(4)を得た。
硬化性化合物(4)の屈折率、液状組成物(4)の硬化物の屈折率及びYIを下記の方法により測定した。
結果を表2に示す。
【0053】
測定方法
[屈折率(n25)]
液状組成物(硬化性化合物(4)10.0gと、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irgacure184)0.3gとを配合してなる組成物)を、ガラス板上に膜厚が200μmとなるようにアプリケーターバーを用いて塗布し、1.0J/cmの紫外線を窒素下で照射して硬化物(試験片)を得た。得られた試験片に対して、JIS K7105に従い、(株)アタゴ製アッベ屈折計を用いて、25℃におけるD線(589nm)の屈折率を測定した。
[YI]
液状組成物(硬化性化合物(4)3gと、ビスフェノールAエチレンオキシド付加ジアクリレート(大阪有機化学工業社製、ビスコート700)7gと、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irgacure184)0.3gとを配合してなる組成物)を、ガラス板上に膜厚が200μmとなるようにアプリケーターバーを用いて塗布し、1.0J/cmの紫外線を窒素下で照射して硬化物(試験片)を得た。得られた試験片に対して、色差計(日本電色工業社製のSZ−Σ80分光色差計)を用いて、YI(イエローインデックス)を測定した。
【0054】
[実施例8]
(a1)成分(フェニルグリシジルエーテル)、(b2)成分(1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン)、及び(a2)成分(エピクロロヒドリン)を、(a1)成分/(b2)成分/(a2)成分のモル比が、2/5/4となる割合で配合したこと以外、実施例7と同様に行い、各種物性を測定した。
結果を表2に示す。
[実施例9]
エピクロロヒドリン((b2)成分)のかわりに、ジブロモメタン((c)化合物)用いたこと以外は、実施例7と同様に行い、各種物性を測定した。なお、(a1)成分(フェニルグリシジルエーテル)、(b2)成分(1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン)、及び(c)化合物(ジブロモメタン)は、(a1)成分/(b2)成分/(c)化合物のモル比が、2/2/1となる割合で配合されている。
結果を表2に示す。
【0055】
[実施例10]
撹拌機を備えた反応容器に、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン21.49g((b2)成分)、ベンズアルデヒド7.31g((c)化合物)、p−トルエンスルホン酸0.066g(触媒)、トルエン58.00g(溶媒)を仕込み、還流下でかつDean−Stark管を用いて生成する水を除去しながら2時間反応させた。次いで、40%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(触媒)1.44gを添加した後、フェニルグリシジルエーテル20.69g((a1)成分)をゆっくりと添加し、室温(23℃)で45分間撹拌した。なお、(a1)成分、(b2)成分、及び(c)化合物は、(a1)成分/(b2)成分/(c)化合物のモル比が、2/2/1となる割合で配合されている。
その後、N,N−ジメチルアニリン20.37g、を添加し、さらにアクリル酸クロリド15.22gとテトラヒドロフラン15.22gの混合溶液を23℃でゆっくりと添加した。液温を23℃程度に制御しながら4時間撹拌した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、洗浄、溶剤の留去を行うことによって、硬化性化合物(5)を得た。
得られた硬化性化合物(5)に対して、実施例7と同様にして各種物性を測定した。
結果を表2に示す。
[実施例11]
(a1)成分(フェニルグリシジルエーテル)、(b2)成分(1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン)、及び(c)化合物(ベンズアルデヒド)を、(a1)成分/(b2)成分/(c)化合物のモル比が、2/3/2となる割合で配合したこと以外、実施例10と同様に行い、各種物性を測定した。
結果を表2に示す。
なお、実施例9〜11で得られた硬化性化合物は、いずれも、分子中に2個のアクリロイル基を有する化合物であった。また、実施例7、8で得られた硬化性化合物は、各々、分子中に3個、6個のアクリロイル基を有する化合物であった。
【0056】
【表2】

【0057】
表1、2から、本願発明に属する実施例1〜11では、高い屈折率を有するエポキシ開環化合物及び硬化性化合物が得られており、さらに、硬化性化合物を含む液状組成物によると、高い屈折率を有し、黄変の程度も少ない硬化物を形成し得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1のエポキシ開環化合物のNMRチャートである。
【図2】実施例1の硬化性化合物のNMRチャートである。
【図3】実施例1のエポキシ開環化合物及び硬化性化合物のGPCチャートである。
【図4】実施例3のエポキシ開環化合物のNMRチャートである。
【図5】実施例4のエポキシ開環化合物のNMRチャートである。
【図6】実施例5のエポキシ開環化合物のNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物に由来する構造単位と、(b)チオールに由来する構造単位とを含むことを特徴とする水酸基含有化合物。
【請求項2】
前記(a)エポキシ化合物が、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、及びテトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水酸基含有化合物。
【請求項3】
前記(a)エポキシ化合物が、エピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンを含む請求項1又は2に記載の水酸基含有化合物。
【請求項4】
前記(b)チオールが、下記一般式(1)で表される構造を有するポリチオール、メルカプトベンゾチアゾール、及びベンジルメルカプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水酸基含有化合物。
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立して、炭素数1〜5のアルキレンであり、nは1〜5の整数である。Rが2つ以上存在する場合、これらのRは同じでもよいし異なっていてもよい。)
【請求項5】
さらに、(c)前記(b)チオール中のチオール基と反応して、(b)チオール同士を連結するための化合物に由来する構造単位を含む請求項1に記載の水酸基含有化合物。
【請求項6】
前記(c)化合物が、ジブロモメタン、ベンズアルデヒド、ジクロロメタン、ブロモクロロメタン、フェニルベンズアルデヒド、及びナフチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の水酸基含有化合物。
【請求項7】
下記一般式(10)で表される構造を有する水酸基含有化合物。
【化2】

(式中、R、R及びRは各々独立に、水素原子または一価の有機基である。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水酸基含有化合物の水酸基の少なくとも一部に、(メタ)アクリロイル基を付加してなる硬化性化合物。
【請求項9】
請求項8に記載の硬化性化合物を含む放射線硬化性組成物。
【請求項10】
硬化物の屈折率(n25)が1.60以上である請求項9に記載の放射線硬化性組成物。
【請求項11】
光学部材形成用である請求項9又は10に記載の放射線硬化性組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の放射線硬化性組成物の硬化物からなる光学部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−273930(P2008−273930A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42753(P2008−42753)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】