説明

水門装置

【課題】 平常時におけるゲート扉の無駄な開閉を極力なくす一方、非常時には確実にかつ的確なゲート扉の開閉が行われるようにした水門装置を提供する。
【解決手段】 水門装置1のゲート扉2よりも上流側及び下流側に水位計10a、10bを備えると共に、ゲート扉2の制御装置4には下流側水位が予め設定した基準下流側水位よりも高いか低いかを比較判定する下流側水位比較判定手段15aと、上流側と下流側の水位差が予め設定した基準水位差よりも大きいか小さいかを比較判定する水位差比較判定手段15bとを備える。そして、下流側水位比較判定手段15aにて下流側水位が基準下流側水位よりも低いと判定されればゲート扉2を開放させる一方、高いと判定されれば続いて水位差比較判定手段15bにて比較判定し、水位差が基準水位差よりも大きいと判定されればゲート扉2を開放させ、小さいと判定されればゲート扉2を閉鎖させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路が河川に流れ込む合流部や河川が海に流れ込む河口部などに設置される水門装置に関し、特に水門装置の上流側と下流側における水位や水位差に基づいてゲート扉を開閉させるようにした水門装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水路が河川に流れ込む合流部や河川が海に流れ込む河口部などにおいては、台風や集中豪雨、或いは高潮などによって合流先である下流側の河川の水位や海の潮位が大幅に上昇すると合流元である上流側の水路や河川へと逆流することがあり、時として周辺地域に浸水などの甚大な被害を及ぼすおそれがある。このため、そのような場所には水門装置が設置され、台風や集中豪雨、或いは高潮などによって水路や河川に逆流が生じそうなとき、即ち、下流側の水位が上流側の水位よりも高くなるような状況となれば、水門管理者は直ちに水門装置のゲート扉を閉鎖させて逆流を阻止して水防措置を図るようにしている。
【0003】
ところで、上記のような非常時においては、水門管理者が上流側の水位と下流側の水位とを直接見比べてどちらが高いか、或いは今後どちらが高くなっていくのかを常に正確に見極めることは非常に難しく、またそのような状況下で現場に出向くこと自体非常に危険を伴うことであるため、例えば特許文献1に示すように、水門の上流側、及び下流側の水位を計測する水位計をそれぞれ設置し、これら各水位計にて得られた各水位の水位差に基づいてゲート扉をシビアにかつ自動的に開閉制御するようにした水門装置がある。
【特許文献1】実開平6−43028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような水門装置では、上流側と下流側との水位差だけに基づいてゲート扉の開閉制御を行う構成としているため、台風や集中豪雨、或いは高潮などといった非常時はともかく、例えば平常時における潮の干満や、或いは多少大雨が降った程度でも起こり得るごく小規模の逆流現象に対してもシビアに反応してその都度ゲート扉が閉鎖してしまう。その結果、無闇に水路や河川が堰き止められることとなり、あまり好ましいものではなく、制御面において改良の余地がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑み、平常時におけるゲート扉の無駄な開閉を極力なくす一方、非常時には確実にかつ的確なゲート扉の開閉が行われるようにした水門装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、河川や水路にゲート扉を開閉自在に配設し、該ゲート扉を開閉駆動する駆動装置を備え、該駆動装置を駆動制御する制御装置を備えて成る水門装置において、前記ゲート扉よりも上流側及び下流側の水位を計測する水位計をそれぞれ備えると共に、前記制御装置には下流側の水位計にて計測される下流側水位が予め設定した基準下流側水位よりも高いか低いかを比較判定する下流側水位比較判定手段と、上流側と下流側の水位計にて計測される各水位の水位差が予め設定した基準水位差よりも大きいか小さいかを比較判定する水位差比較判定手段とを備え、前記下流側水位比較判定手段にて比較判定した結果下流側水位が基準下流側水位よりも低いと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させる一方、下流側水位が基準水位よりも高いと判定されれば、続いて前記水位差比較判定手段にて比較判定し、その結果上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも大きいと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させ、上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも小さいと判定されれば、前記駆動装置を閉鎖側へ駆動制御してゲート扉を閉鎖させるように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水門装置によれば、河川や水路にゲート扉を開閉自在に配設し、該ゲート扉を開閉駆動する駆動装置を備え、該駆動装置を駆動制御する制御装置を備えて成る水門装置において、前記ゲート扉よりも上流側及び下流側の水位を計測する水位計をそれぞれ備えると共に、前記制御装置には下流側の水位計にて計測される下流側水位が予め設定した基準下流側水位よりも高いか低いかを比較判定する下流側水位比較判定手段と、上流側と下流側の水位計にて計測される各水位の水位差が予め設定した基準水位差よりも大きいか小さいかを比較判定する水位差比較判定手段とを備え、前記下流側水位比較判定手段にて比較判定した結果下流側水位が基準下流側水位よりも低いと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させる一方、下流側水位が基準水位よりも高いと判定されれば、続いて前記水位差比較判定手段にて比較判定し、その結果上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも大きいと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させ、上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも小さいと判定されれば、前記駆動装置を閉鎖側へ駆動制御してゲート扉を閉鎖させるように構成したので、平常時におけるゲート扉の無駄な開閉動作を極力無くすことができる一方、非常時には確実かつ自動的にゲート扉の開閉動作を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る水門装置によれば、例えば、河川の合流部や河口部などに、ゲート扉と、該ゲート扉を開閉駆動する駆動装置、及び該駆動装置を駆動制御する制御装置から成る水門装置を設置する。また、ゲート扉よりも上流側及び下流側の水位を計測する水位計をそれぞれ備える。また、前記制御装置には、平常時か非常時かの判断基準とする下流側水位の基準値、例えば警戒水位など、を予め設定登録しておくと共に、上流側から下流側へ一定の水流があるかどうかの判断基準とする上流側水位と下流側水位との水位差の基準値、例えば0.1m程度、も併せて設定登録しておく。更に、制御装置には、計測した下流側水位が設定した基準下流側水位よりも高いか低いかを比較判定する下流側水位比較判定手段と、計測した上流側水位と下流側水位との水位差が設定した基準水位差よりも大きいか小さいかを比較判定する水位差比較判定手段とを備える。
【0009】
そして、下流側水位が基準下流側水位よりも低いと判定されれば、常にゲート扉を開放させ、また、下流側水位が基準下流側水位よりも高いと判定され、かつ上流側水位と下流側水位との水位差が基準水位差よりも大きいと判定されれば、同様にゲート扉を開放させる一方、水位差が基準水位差よりも小さいと判定されれば、ゲート扉を閉鎖させるように制御装置に設定する。
【0010】
そして、平常時においては基本的にゲート扉を開放して水路や河川を開放状態に保っている。そして、例えば、平常時における潮の干満や、或いは多少大雨が降ることなどによって河川や水路にごく小規模の逆流現象が生じた場合には、前記水位差比較判定手段では水位差を基準水位差よりも小さいと判定するものの、下流側水位判定手段では下流側水位を基準下流側水位よりも低いと判定するため、ゲート扉を開放状態のまま維持する。一方、台風や集中豪雨、或いは高潮などの非常時において逆流現象が生じた場合には、下流側水位判定手段にて下流側水位を基準下流側水位よりも高いと判定すると共に、水位差判定手段にて水位差を基準水位差よりも小さいと判定するため、ゲート扉を直ちに閉鎖して逆流を阻止する。また、ゲート扉閉鎖後には上流からの水流が溜まっていって次第に水位が上昇していき、やがて水位差判定手段にて水位差が基準水位差よりも大きいと判定するまでになれば、ゲート扉を一旦開放して堰き止めていた水流を流下させ、堰き止めすぎによるゲート扉上流側地域への水害を防止すると共に、ゲート扉への過負荷を未然に防ぐ。
【0011】
このように、本発明に係る水門装置によれば、平常時において不必要にゲート扉が閉鎖するようなことがなく、水路や河川が無闇に堰き止められるおそれがなくて好適である。一方、台風や集中豪雨、或いは高潮などの非常時においては、水路や河川の水流が順流か逆流かの状態に応じて適宜自動的にゲート扉が開閉動作し、人手によらずとも確実に水防措置を図ることができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0013】
河川Aの両岸には水防用の堤Bが築かれており、水路Cはこの堤Bを横切る形で河川Aに合流している。1は前記水路Cと河川Aとの合流部に設置される水門装置であって、水路Cを開閉するゲート扉2と、該ゲート扉2を開閉駆動する駆動装置3、及び該駆動装置3を駆動制御する制御装置4を主体に構成している。
【0014】
前記ゲート扉2は略水路C幅のステンレス製の板体であって、その両側縁部を水路Cの両岸部に対向配置した基台5に設けた一対のガイド溝6にて摺動自在に支持している。また、対向する基台5上部間に架台7を架設しており、該架台7よりラック棒8にて前記ゲート扉2を吊り下げ、架台7上部に配設した駆動装置3と制御装置4による駆動操作によってラック棒8を上下移動させてゲート扉2を昇降自在としている。9は手動にてラック棒8を上下移動させるための操作ハンドルであって、駆動装置3や制御装置4などに故障が生じたり、或いは停電時などの緊急時には、前記操作ハンドル9を手動操作することによってラック棒8を上下移動させてゲート扉2を昇降可能としている。
【0015】
10a、10bは水位を計測する水位計であって、10aはゲート扉2よりも上流側の水路C内に設置している一方、10bはゲート扉2よりも下流側の河川A内に設置しており、それぞれ水路Cの水位と河川Aの水位とをリアルタイムに計測可能としている。
【0016】
また、前記制御装置4には、図3に示すように、水位データなどを基に駆動装置3の駆動制御など各種制御を行う制御部11と、前記水位計10a、10bから水位データを取り込んだり、制御部11から駆動装置3に対する制御命令を出力する入出力部12と、河川Aの水位の基準値や、水路Cと河川Aの水位差の基準値などを設定入力する設定入力部13と、該設定入力部13にて設定入力した各基準値などを記憶する記憶部14、及びこの記憶部14に記憶した各基準値と水位計10a、10bから取り込まれる水位データとに基づいて各種演算をする演算部15とを備えている。
【0017】
前記設定入力部13を介して記憶部14に記憶させる各基準値のうち、先ず、ゲート扉2の下流側に位置する河川Aの水位の基準値(以下基準下流側水位という)は、水位データを取り込んだ時点が平常時か、或いは台風や集中豪雨、高潮などの非常時なのかを判断するための目安となるものであり、例えば河川Aにおける警戒水位や危険水位などを設定している。また、ゲート扉2の上流側に位置する水路Cと下流側に位置する河川Aとの水位差の基準値(以下基準水位差という)は、上流側の水路Cから下流側の河川Aに向けて逆流することなく一定の水流があるのかどうかを判断するための目安となるものであり、例えば安定した水流が見込める0.1m程度を設定している。
【0018】
また、前記演算部15には、水位計10bから取り込んだ河川Aの水位データを、前記記憶部14に登録してある基準下流側水位と比較してそれよりも高いか低いかを判定する下流側水位比較判定手段15aと、水位計10aから取り込んだ水路Cの水位データと水位計10bから取り込んだ河川Aの水位データとから水位差を演算し、この水位差と記憶部14に登録してある基準水位差とを比較してそれよりも大きいか小さいかを判定する水位差比較判定手段15bとを備えている。
【0019】
そして、前記下流側水位比較判定手段15aにて、河川Aの水位を基準下流側水位よりも低いと判定すれば、即ち水門装置1周辺が現在平常時であると判断されると、ゲート扉2を開放させるように入出力部12を介して制御信号を駆動装置3へ向けて発信するようにしている。また、河川Aの水位を基準下流側水位よりも高いと判定すれば、即ち水門装置1周辺が現在台風や集中豪雨、或いは高潮などにより非常時であると判断されると、続いて水位差比較判定手段15bにて、水路Cと河川Aの水位差を基準水位差と比較して、水位差が基準水位差よりも大きいと判定すれば、即ちゲート扉2上流側の水路Cから下流側の河川Aに向けて一定の水流があると判断されると、前記同様にゲート扉2を開放させるように制御信号を発信する一方、水位差が基準水位差よりも小さいと判定すれば、即ちゲート扉2下流側の河川Aから上流側の水路Cに向けて逆流していると判断されると、逆流を阻止するためにゲート扉2を閉鎖させるように制御信号を発信するようにしている。
【0020】
図4は、上記各制御フローを説明するフロー図であって、図中のS1、S2、…は各ステップをあらわしている。
【0021】
先ず、水門装置1の周辺が現在平常時か、或いは非常時かを判断する基になる基準下流側水位を予め設定入力する(S1)。続いて、ゲート扉2の上流側の水路Cから下流側の河川Aに向けて逆流することなく一定の水流があるのかどうかを判断する基になる基準水位差を設定入力する(S2)。そして、各基準値の設定入力が完了であれば入力を終了してゲート扉2の自動開閉制御に移り、そうでなければS1に戻って再度設定入力を行う(S3)。
【0022】
ゲート扉2の自動開閉制御に移ると、水位計10a、10bにてそれぞれ計測される水路Cの水位、及び河川Aの水位を随時取り込む(S4)。そして、これら各水位データのうち、先ず下流側の河川Aの水位データとステップS1にて予め設定入力した基準下流側水位とを下流側水位比較判定手段15aにて比較し(S5)、河川Aの水位が基準下流側水位よりも高いか低いかを判定する。もし、低いと判定すれば、ゲート扉2を開放させ(S6)、逆に高いと判定すれば、引き続いて上流側の水路Cと下流側の河川Aとの水位差と、ステップS1にて設定入力した基準水位差とを水位差比較判定手段15bにて比較し(S7)、水路Cと河川Aの水位差が基準水位差よりも大きいか小さいかを判定する。もし、大きいと判定すれば、同様にゲート扉2を開放させる一方(S6)、小さいと判定すれば、ゲート扉2を閉鎖させる(S8)。そして、ステップS6、S8にてゲート扉2を開放・閉鎖した後は、ステップS4に戻り、水位計10a、10bからそれぞれ最新の水位データを取り込み直し、それらに基づいてステップS5、S7にて再度判定を行う。
【0023】
このように、本発明に係る水門装置1によれば、先ず水門装置1周辺が現在平常時か非常時かを判断してから水位差を判断するようにしているため、平常時における無用なゲート扉2の閉鎖がなくなり、水路Cが無闇に堰き止められることがなくて好適である。また、その一方で台風や集中豪雨、高潮などの非常時においては、水路Cの水流が順流か逆流かの状態に応じて適宜遅滞なくゲート扉2が開閉動作し、確実かつ自動的に水防措置を講じることができる。
【0024】
なお、本実施例においては、水門装置1を水路Cと河川Aとの合流部に設置し、ゲート扉2の上流側が水路C、下流側が河川Aである場合について記載したが、これに限定するものではなく、河川と海との河口部に設置し、ゲート扉の上流側が河川、下流側が海である場合でも同様に好適に採用することができる。また、本実施例においては、ゲート扉を上下方向に昇降させて水路や河川を開閉するタイプのものを採用しているが、特にこれに限定するものではなく、例えば、横方向にスライドさせるタイプのものや、観音開きタイプのものなどでも好適に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る水門装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の一部切り欠き側面図である。
【図3】本発明に係る水門装置の制御装置の説明図である。
【図4】本発明に係る水門装置の制御フローを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0026】
1…水門装置 2…ゲート扉
3…駆動装置 4…制御装置
10a…水位計(上流側) 10b…水位計(下流側)
11…制御部 12…入出力部
13…設定入力部 14…記憶部
15…演算部 15a…下流側水位比較判定手段
15b…水位差比較判定手段 A…河川
B…堤 C…水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川や水路にゲート扉を開閉自在に配設し、該ゲート扉を開閉駆動する駆動装置を備え、該駆動装置を駆動制御する制御装置を備えて成る水門装置において、前記ゲート扉よりも上流側及び下流側の水位を計測する水位計をそれぞれ備えると共に、前記制御装置には下流側の水位計にて計測される下流側水位が予め設定した基準下流側水位よりも高いか低いかを比較判定する下流側水位比較判定手段と、上流側と下流側の水位計にて計測される各水位の水位差が予め設定した基準水位差よりも大きいか小さいかを比較判定する水位差比較判定手段とを備え、前記下流側水位比較判定手段にて比較判定した結果下流側水位が基準下流側水位よりも低いと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させる一方、下流側水位が基準水位よりも高いと判定されれば、続いて前記水位差比較判定手段にて比較判定し、その結果上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも大きいと判定されれば、前記駆動装置を開放側へ駆動制御してゲート扉を開放させ、上流側と下流側の水位差が基準水位差よりも小さいと判定されれば、前記駆動装置を閉鎖側へ駆動制御してゲート扉を閉鎖させるように構成したことを特徴とする水門装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45914(P2006−45914A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228507(P2004−228507)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000226482)日工株式会社 (177)
【出願人】(500580286)日工マシナリー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】