説明

水面境界線検知装置、水面境界線検知方法及び水面境界線検知プログラム

【課題】どのような壁面であっても1枚の画像から高速に水面の境界線を検知する。
【解決手段】座標変換処理部13が、カメラ3で撮影された1枚の画像における水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換を行い、第1ヒストグラム処理部14が、座標変換された水位画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換し、第2ヒストグラム処理部15が、輝度変換された水位画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを壁面に対する水面境界線として検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や河川等の岸壁に対する水面の境界線を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気象等の自然科学分野において、海や河川等といった流体状に変化する対象の状態変化を測定することが盛んに行われている。そして、その測定には、超音波センサや水位センサ等がよく用いられているが、それら各センサを適切に使用するには設置方法や設置場所が限定されており、更には高価であるにもかかわらずその用途が極めて限られているため、局所的な場所でしか測定することができず、その応用性は非常に低いものであった。例えば、超音波センサを用いる場合には、通常、5分から10分単位毎の平均データに基づいて水位を検知するが、浮遊物の影響を受け易く、その測定精度は低いものであった。一方、そのような短時間であっても1m以上も瞬時に増水する場合もあり、1秒間に数回以上検知できる方法が切望されていた。
【0003】
そこで、現在では、上記方法以外に、カメラを用いる技術が開発されている。俯瞰撮影が可能となるように測定対象である河川の近隣にカメラを設置し、そのカメラで撮影された画像を通じて河川等の状態をセンシングすることにより、その河川の状態変化を随時把握することが可能となっている。カメラ技術によれば広汎な範囲を撮影できるので、広域性と多様性の観点から非常に有効な手段の一つと考えられている。すなわち、河川のみではなく、河川の周辺に聳える自然風景や、歩行者や交通等の関連情報も一括して収集できるため、前述の方法と比べて利便性が高い技術であると言える。
【0004】
このようにカメラ撮影された画像を処理してダムや河川等の水面や水位を検知する方法として、特許文献1には、時系列画像を用いて明度変化が急峻な部分であるエッジに着目する技術が開発されている。また、非特許文献1によれば、ウェーブレット変換に基づいて特定方向のエッジを強調処理して水面や水位を推定する方法も存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−41803号公報
【特許文献2】特開2000−146675号公報
【特許文献3】特開2000−329608号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Masahiro IWAHASHI、外3名、「WATER LEVEL DETECTION FOR FUNCTIONALLY LAYERED VIDEO CODING」、IEEE International Conference on Image Processing、Vol.2、2007年、p.II-321〜II-324
【非特許文献2】「アフィン写像」、[online]、ウィキペディア、[平成21年10月1日検索]、インターネット<URL : http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E5%86%99%E5%83%8F>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ダムや河川等の水面や水位を画像処理によって特定することは様々な環境外乱のため容易ではない。これは、太陽光・壁・樹木・空・雲等が鏡のように水面に映し出され、更には水面の波打ちが重なり合うこと等により、撮影された画像から水面を特定することが困難なものとなっている。また、岸壁に対する水面の境界付近では、その岸壁で反射された反射光も水面に映し出されているため、その境界が曖昧なものとなっている。特に、街中に存在する河川では、近くを走行している車のヘッドライトや緊急車両の赤灯、夕闇の街灯等をも水面に映し、その水面境界の検知を更に困難なものとしている。そして、このような環境外乱以外にも、季節の変化を受けて風雨や降雨により画像のコントラストが低下することや、カメラが備えるホワイトバランス機能(画像のコントラストを自動で一定に保持する機能)による人工的な輝度変化も環境外乱の一つであると言える。
【0008】
前述した従来技術(特許文献2及び特許文献3を含む)やその他の公知技術によれば、人工的な壁面を前提とする手法が多く、都市部等の各種光が氾濫している場所や大雪等の悪天候の影響や、水面上にヘッドライト等の強い光が通り過ぎた場合にはホワイトバランス機能により画像全体が白く飽和又は急に暗くなるという影響が考慮されていないため、木々や草等の自然環境を壁面とした場合には水面や水位の検知が難しいという問題があった。具体的には、前述した様々な環境外乱の影響により水位に不自然なバラツキが生じるという問題があった。
【0009】
また、そのようなカメラは通常屋外に設置されるため、撮影された画像は有線ではなく無線で送信される場合が多い。しかしながら、前述した従来技術によれば時系列画像における明度の時間差分に基づいて水面や水位を検知するため、サンプリングレートが極めて低い通信状態の場合や画像が1枚である場合には、水面や水位を安定的に検知することが困難であるという問題もあった。特に、そのカメラが携帯電話のカメラである場合には、手ぶれによって画像にボケが生じることも安定的な検知を妨げる要因となっている。
【0010】
更には、非特許文献1によれば、時系列な複数の画像を用いて、ウェーブレットの畳み込み積分計算の重さに基づいて計算するため、リアルタイムの処理が困難であるという問題もあった。
【0011】
更にまた、カメラによって画像が圧縮(高速且つ確実に送信するためMPEG等の技術に基づく画像圧縮)されて低品質なものである場合には、画像間のブロックノイズが不均一となるため、エッジを確実に検知できず水面や水位をやはり安定的に検知できないという問題もあった。
【0012】
更にまた、水位板をもカメラに収めて水面の境界と水位版の水位表示から水位を検知する技術も存在するが、河川法により水位版を随所に設置できない制約条件があるため、水位の検知場所が限定されるという問題もあった。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、どのような壁面であっても1枚の画像から高速に水面の境界線を検知することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の本発明は、壁面に対する水面の境界が撮影された画像を入力する画像入力手段と、入力された前記画像を記憶する画像記憶手段と、前記画像を前記画像記憶手段から読み出して、前記水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換する座標変換手段と、座標変換された前記画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する輝度変換手段と、輝度変換された前記画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを前記壁面に対する水面境界線とする水面境界線検知手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の本発明は、前記水面境界線に基づいて、現在の水位又は水位の上昇若しくは下降を検知する水位検知手段を更に有することを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の本発明は、前記水面境界線検知手段が、前記輝度値の合算値を度数に用いたヒストグラムを生成し、当該度数が最大であるラインを特定することにより、前記合算値が最大となるラインを検知することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の本発明は、前記輝度変換手段が、前記座標変換された画像の画素数を度数に用いた輝度値のヒストグラムを生成し、各輝度値に対する画素数のバラツキを画素移動により平坦化して、平坦化後の各画素に基づいて画像を生成することにより、前記座標変換された画像の輝度値を変換することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の本発明は、コンピュータにより、壁面に対する水面の境界が撮影された画像を入力する第1ステップと、入力された前記画像を画像記憶手段に記憶する第2ステップと、前記画像を前記画像記憶手段から読み出して、前記水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換する第3ステップと、座標変換された前記画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する第4ステップと、輝度変換された前記画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを前記壁面に対する水面境界線とする第5ステップと、を有することを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の本発明は、前記水面境界線に基づいて、現在の水位又は水位の上昇若しくは下降を検知するステップを更に有することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の本発明は、前記第5ステップが、前記輝度値の合算値を度数に用いたヒストグラムを生成し、当該度数が最大であるラインを特定することにより、前記合算値が最大となるラインを検知することを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の本発明は、前記第4ステップが、前記座標変換された画像の画素数を度数に用いた輝度値のヒストグラムを生成し、各輝度値に対する画素数のバラツキを画素移動により平坦化して、平坦化後の各画素に基づいて画像を生成することにより、前記座標変換された画像の輝度値を変換することを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の本発明は、請求項5乃至8のいずれか1項に記載した各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、どのような壁面であっても1枚の画像から高速に水面の境界線を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一実施の形態に係る水面境界線検知装置の機能ブロック構成を示す図である。
【図2】カメラで撮影された画像の一例を示す図である。
【図3】画像から抽出された矩形領域と当該矩形領域の座標変換により生成された水位画像との一例を示す図である。
【図4】輝度値のヒストグラム平坦化により生成された水位画像の一例を示す図である。
【図5】水位画像における水平方向の各ライン上の画像の総和に基づいて生成されたヒストグラムの一例を示す図である。
【図6】水面境界線検知装置の処理フローを示す図である。
【図7】水面境界線検知装置と超音波センサとによる水位検知に関する検証実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、一実施の形態に係る水面境界線検知装置を図面を用いて説明する。図1は、一実施の形態に係る水面境界線検知装置の機能ブロック構成を示す図である。この水面境界線検知装置1は、データ入力部11と、データ蓄積部12と、座標変換処理部13と、第1ヒストグラム処理部14と、第2ヒストグラム処理部15と、水位検知部16と、水位表示部17とを備えている。以下、この水面境界線検知装置1における各部の機能について個別具体的に説明すると共に、全体の処理フローについて説明する。
【0026】
データ入力部11は、カメラ3により撮影された1枚以上の画像を入力する機能を備えている。なお、カメラ3は、水面や水位を検知する対象河川を俯瞰撮影するように河川近傍に固定設置され、撮影された画像は無線又は有線の通信ネットワーク5を介して水面境界線検知装置1に送信されるものとする。このようなカメラ3としては、デジタル媒体を使用して被写体を撮影するものであればどのようなカメラを用いてもよく、汎用的な小型デジタルカメラや携帯電話カメラ等も用いることができる。
【0027】
そして、このデータ入力部11を通じて水面境界線検知装置1に入力された画像には、図2に示すように、対象河川の水面、その河川の形状を形成している壁面、その壁面に対する水面の境界、近隣に設置された街頭や柵、近隣に建設された建物、対象河川に架けられた橋、その他草木等の自然物が撮影されているものとする。また、その水面には、街頭からの光や柵の影が映し出され、風や水の流れ等による波のうねりが形作られているものとする。以降、このような様々なノイズを総括して環境外乱と称する。なお、上記壁面としては、街中の河川・港湾・ダム等にみられる人工的な壁面以外に、土・草・木等の自然現象によって形成された壁面を含むものとする。
【0028】
データ蓄積部12は、データ入力部11を通じて入力された上記1枚以上の画像を一時的に蓄積しておく機能を備えている。なお、このようなデータ蓄積部12としては、一時的な記憶に利用されるRAM(Random Access Memory)等の半導体記憶装置(メモリ)や、光ディスク・ハードディスクなどの磁気記憶装置(ストレージ)を用いることが可能であり、水面境界線検知装置1の外部に位置するものを用いることも可能である。
【0029】
座標変換処理部13は、1枚の画像をデータ蓄積部12から読み出して、マウス操作を通じて指定された壁面付近の矩形領域を抽出し、抽出された矩形領域に対して幾何学的な歪み補正、より具体的には、その矩形領域内の水面の境界が水平になるようにアフィン変換を用いて矩形領域の座標を変換する機能を備えている。
【0030】
ここで、図2に示された画像から抽出された矩形領域を図3の上段に示す。図3のa点〜f点は図2のa点〜f点に対応し、a点・b点・e点・f点で囲まれた領域は壁面を示し、c点・d点・e点・f点で囲まれた領域は対象河川の水面を示し、e点−f点のラインは壁面に対する水面の境界を示している。なお、想定される水位の限界値及び最低値が含まれるようにある程度の範囲を持った領域が矩形領域として指定され、このような矩形領域を一度指定すれば再度指定する必要はないものとする。
【0031】
そして、抽出された矩形領域内の壁面が正面から見た状態となるように、換言すれば、e点−f点のラインが画像の横軸方向に対して水平となるように、その矩形領域をアフィン変換により変換する。変換後の画像は図3の下段に示すようになり、以降、水位画像と称する。
【0032】
なお、アフィン変換とは、線形の回転と移動に関する座標変換の一種であり、広く用いられている技術である(非特許文献2参照)。変換前の画像上の各輝度の位置をxとし、回転行列をAとし、並進行列をtとした場合に、以下の式(1)を用いて変換後の位置x’を計算することができる。
【数1】

【0033】
第1ヒストグラム処理部14は、座標変換処理部13により座標変換された水位画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する機能を備えている。前述したように、この水位画像内には様々な環境外乱(照明、壁面による光の散乱、水面上の乱反射、ホワイトバランス等)が含まれているため、本来であればそのような環境外乱の元である個々のノイズを取り除く処理が必要である。しかしながら、それら各ノイズの種別をそれぞれ判別して個々に対処することは自然界の事象を相手にする以上極めて困難であって、その処理時間は長いものとなり、リアルタイム処理が難しい。また、時系列な複数の画像からではなく、1枚の画像から壁面に対する水面の境界線を検知することも本水面境界線検知装置の特徴の一つであるため、この水位画像内の情報を最大限に生かす方法が必要となる。
【0034】
そこで、本実施の形態では、壁面と水面とのテクスチャ性の相違に着目している。1枚の画像のみを用いて水面の境界線を検知する場合には、水位の時系列変化を解析できるように画像単位での正規化処理が必要となる。よって、第1ヒストグラム処理部14では、前述したように輝度値のヒストグラム平坦化により水位画像の輝度値を変換する。これにより、水位画像内の画像の輪郭を鮮鋭化したり、ホワイトバランス機能により画像全体が白くなった場合であっても水位画像内における対象間の相対的な特徴を保持した変換が可能となる。結果として、カメラ3から送信された画像に環境外乱(照明、壁面による光の散乱、水面上の乱反射、ホワイトバランス、手ぶれボケ、通信ネットワーク5が無線である場合には低ビットレートを考慮したMPEGの圧縮作用による品質の低下等)を有する場合であっても、水面の境界線をより確実に検知することが可能となる。
【0035】
ここで、輝度値のヒストグラム平坦化について説明する。まず、水位画像の画素数を度数に用いた輝度値のヒストグラムを生成し、各輝度値に対する画素数のバラツキを画素移動により平坦化する。例えば、水位画像の総画素数をMとし、輝度のレベルをK(0〜255の範囲(256階調))とした場合に、輝度値の最も小さいものから順番にM/K個の画素を選び出し、それら全ての画素に最小の輝度値を割り当てる。その後、輝度の小さい順序で次に続くM/K個を選び出し、2番目に小さい輝度値を割り当てる。以降同様の処理を最後のM/K個の画素を最大輝度値とするまで繰り返すことにより、生成されたヒストグラムのバラツキが平坦化される。その後、平坦化後の各画素に基づいて画像を生成する。これにより、図4の下段に示すような平坦化された輝度変換後の水位画像が生成されることになる。
【0036】
第2ヒストグラム処理部15は、第1ヒストグラム処理部14により輝度変換された水位画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値の和を計算し、計算された総和の値を度数に用いたヒストグラムを生成して、その度数が最大であるラインを壁面に対する水面境界線とする機能を備えている。なお、各ラインの画素の輝度値の総和に基づいて水面境界線を検知するので、あえてヒストグラムを生成しなくともよい。また、各ライン間の比較に基づいて最大値を判定するので、和計算に代えて、画素の輝度値を乗算するようにしてもよい。
【0037】
水位検知部16は、第2ヒストグラム処理部15により検知された水面境界線を用いて、現在の水位や水位の上昇・下降を検知する機能を備えている。具体的には、水位画像の垂直方向に対する水位を予め記憶しておき、検知された水面境界線の位置に対応する水位を検索することにより、現在の水位を検知する。また、過去に検知された水面境界線の位置を予め記憶しておき、今回検知された水面境界線の位置との高低差(上方向、下方向の高低差)に基づいて、水位の上昇又は下降を検知する。
【0038】
水位表示部17は、水位検知部16により検知された水位をグラフ化して時間軸に沿って画面に表示する機能を備えている。
【0039】
続いて、本実施の形態に係る水面境界線検知装置1の処理フローについて説明する。図6は、水面境界線検知装置の処理フローを示す図である。
【0040】
最初に、データ入力部11が、カメラ3により撮影された画像を入力して、データ蓄積部12が、入力された画像を一時的に蓄積する(S1)。
【0041】
次に、座標変換処理部13が、ユーザによるマウス操作又は予め指定された壁面付近の矩形領域を上記画像から抽出し、抽出された矩形領域に対して水面の境界が水平になるようにアフィン変換を用いて矩形領域の座標を変換する(S2)。
【0042】
その後、第1ヒストグラム処理部14が、座標変換された水位画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する(S3)。
【0043】
また、第2ヒストグラム処理部15が、輝度変換された水位画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値を度数に用いたヒストグラムを生成して、その度数が最大であるラインを水面境界線として検知する(S4)。
【0044】
その後、水位検知部16が、検知された水面境界線を用いて現在の水位や水位の上昇・下降を検知する(S5)。
【0045】
最後に、水位表示部17が、検知された水位をグラフ化して画面に表示する(S6)。
【0046】
本実施の形態によれば、壁面に対する水面の境界が撮影された画像を入力し、入力された画像における水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換を行い、座標変換された水位画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換し、輝度変換された水位画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを壁面に対する水面境界線として検知するので、どのような壁面であっても1枚の画像から高速に水面の境界線を検知することが可能となる。
【0047】
より具体的には、カメラ3で撮影された時系列画像のうち1枚の画像から、座標変換と、2段階のヒストグラム処理と、各ラインにおける輝度値の和計算と、最大値の検出といった比較的単純な画像処理に基づくので、高速(リアルタイム)に水面境界線を検知することが可能となり、画像が1枚であっても確実に検知することが可能となる。また、輝度値のヒストグラム平坦化を行うので、画像に環境外乱を有する場合であっても水面境界線を確実に検知することが可能となる。更に、壁面と水面とのテクスチャ性の相違に着目して輝度値のヒストグラム平坦化により水位画像の輝度値を変換するので、壁面の質が人工的なコンクリートの場合であっても自然物の場合であっても水位の変化を検知することが可能となる。
【0048】
すなわち、本水面境界線検知装置は、自然・人工の壁面に依存しない水面や水位の検知方法であって、高速性を有し、様々な環境外乱に耐性があり、1枚の画像のみから、たとえ圧縮画像であっても確実に水面や水位を検知することが可能となる。
【0049】
最後に、上述した本水面境界線検知装置と従来の超音波センサとを用いた水位検知に関する検証実験結果について説明する。ここでは、実際の河川において約30分で2m近く急増水した時に撮影されたカメラの画像を用いた。本水面境界線検知装置によれば、1秒間に20枚の画像から水位を随時計算を行い、図7の実線(−)で示すように水位の時間推移は連続的であるため、微小時間での水位変化を確実に把握することが可能となる。一方、超音波センサによれば、浮遊物やノイズへの感度の高さから10分毎の平均データが用いられるため、結果的には本水面境界線検知装置の測定結果と同一の測定結果を得ることができたものの、図7の黒丸(●)に示すように不連続性なものとなってしまい、隣り合う測定結果間内で急増水するような場合には超音波センサには依存できない状況があることも示唆される(図7の丸い破線で示した部分)。よって、本水面境界線検知装置によれば水面や水位の検知の有効性が示されたといえる。
【0050】
なお、以上のような水面境界線検知装置1は、CPU等の演算処理装置やメモリ等の記憶装置を備えたコンピュータにより構成可能なものであり、各部の処理はプログラムによって実行される。また、このプログラムは記憶装置に記憶されており、記録媒体に記録することも、通信ネットワークを通して提供することも可能であることを付言しておく。
【0051】
また、本水面境界線検知装置は、マルチメディア分野、符号化分野、通信分野、気象予測分野、防災分野といった、1枚の観測画像から自然環境の変化を検知すること、又は利用することが必要となっている産業分野に応用することが可能であることも付言しておく。
【符号の説明】
【0052】
1…水面境界線検知装置
3…カメラ
5…通信ネットワーク
11…データ入力部(画像入力手段)
12…データ蓄積部(画像記憶手段)
13…座標変換処理部(座標変換手段)
14…第1ヒストグラム処理部(輝度変換手段)
15…第2ヒストグラム処理部(水面境界線検知手段)
16…水位検知部(水位検知手段)
17…水位表示部
S1〜S6…ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に対する水面の境界が撮影された画像を入力する画像入力手段と、
入力された前記画像を記憶する画像記憶手段と、
前記画像を前記画像記憶手段から読み出して、前記水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換する座標変換手段と、
座標変換された前記画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する輝度変換手段と、
輝度変換された前記画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを前記壁面に対する水面境界線とする水面境界線検知手段と、
を有することを特徴とする水面境界線検知装置。
【請求項2】
前記水面境界線に基づいて、現在の水位又は水位の上昇若しくは下降を検知する水位検知手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の水面境界線検知装置。
【請求項3】
前記水面境界線検知手段は、
前記輝度値の合算値を度数に用いたヒストグラムを生成し、当該度数が最大であるラインを特定することにより、前記合算値が最大となるラインを検知することを特徴とする請求項1又は2に記載の水面境界線検知装置。
【請求項4】
前記輝度変換手段は、
前記座標変換された画像の画素数を度数に用いた輝度値のヒストグラムを生成し、各輝度値に対する画素数のバラツキを画素移動により平坦化して、平坦化後の各画素に基づいて画像を生成することにより、前記座標変換された画像の輝度値を変換することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水面境界線検知装置。
【請求項5】
コンピュータにより、
壁面に対する水面の境界が撮影された画像を入力する第1ステップと、
入力された前記画像を画像記憶手段に記憶する第2ステップと、
前記画像を前記画像記憶手段から読み出して、前記水面の境界が水平になるようにアフィン変換により座標変換する第3ステップと、
座標変換された前記画像の輝度値をヒストグラムの平坦化により変換する第4ステップと、
輝度変換された前記画像における水平方向の各ライン上の画素の輝度値を合算し、合算値が最大となるラインを前記壁面に対する水面境界線とする第5ステップと、
を有することを特徴とする水面境界線検知方法。
【請求項6】
前記水面境界線に基づいて、現在の水位又は水位の上昇若しくは下降を検知するステップを更に有することを特徴とする請求項5に記載の水面境界線検知方法。
【請求項7】
前記第5ステップは、
前記輝度値の合算値を度数に用いたヒストグラムを生成し、当該度数が最大であるラインを特定することにより、前記合算値が最大となるラインを検知することを特徴とする請求項5又は6に記載の水面境界線検知方法。
【請求項8】
前記第4ステップは、
前記座標変換された画像の画素数を度数に用いた輝度値のヒストグラムを生成し、各輝度値に対する画素数のバラツキを画素移動により平坦化して、平坦化後の各画素に基づいて画像を生成することにより、前記座標変換された画像の輝度値を変換することを特徴とする請求項5乃至6のいずれか1項に記載の水面境界線検知方法。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載した各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする水面境界線検知プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80859(P2011−80859A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233241(P2009−233241)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】