説明

氷濃度計

【課題】シャーベットアイスの氷濃度を正確に直接計測することができなかったり、リアルタイムに氷濃度を計測することができなかった。
【解決手段】シャーベットアイス2を加熱容器5に導入し、加熱容器内の電気ヒータ7により加熱して氷分を融かし、加熱容器に導入する前のシャーベットアイスのシャーベットアイス温度と、加熱容器から導出されたシャーベットアイス溶解後の水の温度およびその流量と、電源から電気ヒータに流れる電流値とを入力し、それらを演算することによりシャーベットアイスの氷濃度を連続的に測定することが出来るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はシャーベットアイスの氷濃度を直接、リアルタイムに計測することが出来る氷濃度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚介類の鮮度保持用のシャーベットアイス或いは地域冷暖房システムにおける冷房用の熱源として用いられるシャーベットアイス(氷スラリー)においては、シャーベットアイス中の氷濃度が高くなると粘度が大となり、シャーベットアイスを搬送パイプを通じて搬送する時の搬送ポンプでの搬送効率が悪くなったり、又は搬送が出来なくなる。従って、シャーベットアイス中の氷濃度を所定値に保つため、氷濃度を測定する必要がある。
また、冷却用シャーベットアイスの特性は氷濃度に依存するために、氷濃度を正確に把握する必要がある。現状では、シャーベットアイスの温度で氷濃度を換算して求めているが、正確でない。
【0003】
従来の氷濃度を測定する方法として、所定量のシャーベットアイス(氷スラリー)と、所定量の凝固点降下液とを混合して混合液とし、この凝固点降下した混合液の温度を検出して演算装置に入力し、演算装置によりシャーベットアイスの氷濃度を演算するようにしたものがある。(特許文献1参照)
【0004】
また、氷濃度を直接計測するものではないが、潜熱蓄熱物質を芯物質として微小なカプセル内に封入して構成した微小カプセルを、水と混合してスラリー状態とした微小カプセルスラリーと、既知の物性を持つ媒体(温水)とを、所定の温度で所定の流量割合で混合器に入れ、混合後のスラリー温度を計測することによって芯物質の熱量計測を行うこと、さらに微小カプセルスラリーラインに体積流量計を設けて質量流量と同時計測することにより、芯物質の比重計測も行うようにしたものがある。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平5−340903号公報
【特許文献2】特許第3327866号公報([0064]〜[0065]、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す従来の方法(シャーベットアイスと凝固点降下液との混合液の温度よりシャーベットアイスの氷濃度を演算する方法)は、凝固点降下液を検査液として用いる必要があり、また混合液の凝固点の低下する際の温度を測定して氷濃度を測定するようにし、氷濃度を測定した後は混合タンク内の混合液を排出して、再度同様な測定を繰り返して氷濃度を測定するため、リアルタイムに氷濃度を測定することはできなかった。さらに貯氷タンクにシャーベットアイスを入れたまま、長時間製氷と停止を繰り返したとき、シャーベットアイス温度と氷濃度の関係が崩れ、氷濃度が異常に高くなるケースがあり、直接氷濃度を計測したい要求があった。
【0006】
また、特許文献2に示す従来の方法(それぞれ質量と温度の分かったスラリーと温水を混合器に入れ、混合後の温度を計測し、熱量バランスからスラリーの熱量および比重を計算する方法)は、スラリーとは別に質量と温度の分かった既知の物性を持つ媒体(温水)を別途準備する必要があり、またスラリーの熱量および比重を計測した後は混合器内の混合液を排出して、再度同様な測定を繰り返す必要があり、リアルタイムに計測することは困難であった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、シャーベットアイスの氷濃度を直接計測することが出来ると共に、リアルタイムに計測することが出来る氷濃度計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の氷濃度計は、シャーベットアイスが導入される加熱容器、この加熱容器内に設けられ、シャーベットアイスを加熱して融かす電気ヒータ、この電気ヒータに電力を供給する電源、及び加熱容器に導入する前のシャーベットアイスの温度と、加熱容器から導出されたシャーベットアイス溶解後の水の温度と流量と、電源から電気ヒータに流れる電流値とを入力とし、それらを演算することによりシャーベットアイスの氷濃度を計測する演算器を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、シャーベットアイスを加熱容器に導入し、また溶けたシャーベットアイスを加熱容器から連続的に排出するだけで、リアルタイムで氷濃度を計測することができ、しかもシャーベットアイスには何も混合しないので、氷濃度を直接計測でき、精度の良い氷濃度計が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1によるシャーベットアイスのリアルタイム氷濃度計について図1に基づいて説明する。
図1において、貯氷タンク1は海水シャーベットアイス製造装置などで製造されたシャーベットアイス2を蓄えており、貯氷タンク1には手動バルブ3を介してシャーベットアイス配管4の一端が接続され、シャーベットアイス配管4の他端は加熱容器5の流入口に接続される。加熱容器5内には、撹拌羽根6と電気ヒータ7が設置されている。加熱容器5の流出口には排出管8が接続され、この排出管8には定量ポンプ9と流量計10が設けられ、加熱容器5によって溶けて水となったシャーベットアイス2はこの排出管8から排出される。シャーベットアイス配管4には第1の温度計11が取り付けられ、加熱容器5の後段の排出管8には第2の温度計12が取り付けられている。加熱容器5内の電気ヒータ7には電源13から電力が供給され、この電源13と電気ヒータ7との間には電流計14が取り付けられている。演算器15は流量計10、第1の温度計11、第2の温度計12および電流計14でそれぞれ計測された各検出値を入力し、氷濃度を計算して氷濃度出力値16を出力する。
【0011】
実施の形態1における動作について説明する。
図1において、貯氷タンク1に蓄えられたシャーベットアイス2は定量ポンプ9の駆動により、手動バルブ3を介してシャーベットアイス配管4から加熱容器5に導かれる。加熱容器5内の電気ヒータ7は電源13から電力が供給されることにより、加熱容器5内のシャーベットアイス2を加熱し、シャーベットアイス2の氷分を融かす。また加熱容器5内の撹拌羽根6にて加熱容器5内のシャーベットアイスの対流をよくし、確実に氷が融けるようにする。融けたシャーベットアイス2は定量ポンプ9を通り、更に流量計10を通って排出管8から連続的に排出される。加熱量が適正で氷が完全に融けたとき、第1の温度計11で観測されるシャーベットアイス温度、第2の温度計12で観測される塩水温度、流量計10で観測される流量、電流計14で観測される電流値により、シャーベットアイスの氷濃度を演算器15で計算する。
【0012】
ここで、第1の温度計11で観測されるシャーベットアイス温度をT1、第2の温度計12で観測される塩水温度をT2、流量計10で観測される流量をV、電流計14で観測される電流値をIとすれば、氷濃度は以下のように計算できる。
ここに以下のとおり定義する。
Mwo:シャーベットアイス(水+氷)の質量流量 kg/sec
(流量計10で観測する流量Vから求める。 Mwo=ρw*V)
Cw:水の比熱 kJ/kg・K
Ci:氷の比熱 kJ/kg・K
ρw:融解後の水の密度 kg/m3
Two:融解後の温度 ℃またはK (温度計12で観測する量T2である。)
Ts:シャーベットアイスの温度 ℃またはK(温度計11で観測する量T1である。)
L:氷の潜熱 kJ/kg
r:氷濃度(シャーベットアイス質量中の氷の質量の割合) 水の濃度は1−rとなる。
【0013】
以下、エネルギー関係を1秒間に流路断面を通過するシャーベットアイスの質量に関して表す。まずシャーベットアイス融解前のエネルギーを整理する。
(1)シャーベットアイス中、氷のエネルギー(顕熱)(即ち氷の温度上昇に寄与し
た分で融解前に保有しているエネルギー)は
氷のエネルギー(顕熱)=氷の質量*氷の比熱*シャーベットアイスの温度(即
ち氷の温度)
氷の質量はr*Mwo、氷の比熱はCi、シャーベットアイスの温度はTs
但し、Mwo=ρw*V
よって氷のエネルギー(顕熱)=rMwoCiTs (1)
(2)シャーベットアイス中、水のエネルギー(温度上昇から見た融解前に保有してい るエネルギー)は
水のエネルギー=水の質量*水の比熱*シャーベットアイスの温度(即ち水の温
度)
水の質量は(1−r)*Mwo、水の比熱はCw、シャーベットアイスの温度は Tsよって水のエネルギー=(1−r)MwoCwTs (2)
(3)ヒータによる外部からの投入エネルギー(加熱量)Pは
加熱量 P=IR (3)
但し、Rは電気ヒータ7の抵抗値 Iは電流値
【0014】
次にシャーベットアイス融解後のエネルギーを整理する。
(4)融解後の水のエネルギー(温度上昇から見た融解後に保有しているエネルギー) は融解後の水のエネルギー=水の質量*水の比熱*融解後の温度
溶解後の水の質量はMwo、水の比熱はCw、溶解後の水の温度はTwo
よって融解後の水のエネルギー=MwoCwTwo (4)
(5)潜熱即ち温度上昇に寄与せず氷が水になるための消費したエネルギーは
潜熱=氷の質量*氷の潜熱(単位質量当たり)
氷の質量はr*Mwo、氷の潜熱(単位質量当たり)はL
よって潜熱=rMwoL (5)
【0015】
エネルギーバランスを、融解前のエネルギーと融解後のエネルギーが等しいことで表すと
(1)+(2)+(3)=(4)+(5)となる。
よって
rMwoCiTs+(1−r)MwoCwTs+P=MwoCwTwo+rMwoL(6)
但し、Mwo=ρw*V
式(6)より
r(MwoCiTs-MwoCwTs-MwoL)=MwoCwTwo−MwoCwTs−P
よってrMwo(CiTs−CwTs−L)=CwMwo(Two−Ts)−P
以上から、式(7)となる。
【数1】

式(7)の分母、分子に−1を掛け、分数の表現を/で書き直すと
氷濃度rは、
r={P+(Ts−Two)CwMwo}/Mwo(L+(Cw−Ci)Ts)(8)
となる。
但し、P=IR Mwo=ρw*V
【0016】
以上から、演算器15は、第1の温度計11で観測されるシャーベットアイス温度Ts(T1)、第2の温度計12で観測される塩水温度Two(T2)、流量計10で観測される流量V、電流計14で観測される電流値Iを入力し、既に演算器15の中のメモリーなどに記憶している、水の比熱Cw、氷の比熱Ci、融解後の水の密度氷濃度ρw、氷の潜熱Lから、式8に基づいて演算することにより氷濃度rを測定でき、氷濃度出力値16として出力する。
【0017】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2について図2を用いて説明する。実施の形態1においては、電源13の出力値は固定のため、氷濃度が薄いとき第2の温度計12で計測される温度T2は高く、氷濃度が高いとき第2の温度計12で計測される温度T2は低くなり、氷が融けきらないことがある。この実施の形態2は氷濃度の大小にかかわらず、氷が融けた後の水温を一定値に保つことが出来る制御機能を付加することにより、精度良く氷濃度を算出することが出来るようにしたものである。
【0018】
図2において、出力制御器17は、電源13の出力値を第2の温度計12で計測される温度T2に基づいて可変できるようにしたものである。その他の構成は実施の形態1で説明したものと同じにつき、その説明を省略する。図3は出力制御器17の詳細な回路を示し、図3に示すように、所定の温度に設定したメモリー17aと、このメモリー17aに設定された温度と第2の温度計12で計測された計測温度T2を比較し、その温度差に基づいて電源13の電圧を制御する比較器17bとからなる。
第2の温度計12で計測される温度T2は、氷が完全に融けていることが前提で、出来るだけ低い温度が望ましい。したがってメモリー17aに設定される温度設定値は10〜20℃の範囲である。
【0019】
第2の温度計12で計測される計測温度T2が、メモリー17aに設定された設定温度よりも低い場合は、比較器17bは電源13の出力値を上げ、加熱容器5内の氷を完全に融かすようにする。一方、第2の温度計12で計測される計測温度T2が、メモリー17aに設定された設定温度よりも高い場合は、比較器17bは電源13の出力値を下げる。こうして第2の温度計12で計測される温度T2を適正な一定値に保つことにより、加熱容器5に導入される氷濃度の大小にかかわらず、精度良く氷濃度を算出することが出来る。
要するに実施の形態2の電源13は、加熱容器5から導出される水温を所定値に保つことが出来る制御機能を備えたものになる。
【0020】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3について図4、図5を用いて説明する。実施の形態1、2においては、加熱容器5にて氷を完全に融かすために撹拌羽根6を設けたが、撹拌羽根6を取り付けることにより、機構が複雑となり信頼性が低下することや、撹拌による動力の熱への変化による温度上昇で測定精度の悪化の課題があった。
実施の形態3では、これらの課題をなくしたもので、図4はこの発明の実施の形態3に使用される加熱容器5の正面図、図5(a)は加熱容器5の断面図、図5(b)は加熱容器5内のシャーベットアイス2の状態を示す拡大図である。
【0021】
図4、図5において、加熱容器5は細長い円柱容器とし、その中に電気ヒータ7を入れ、電気ヒータ7の形状を、その周りに乱流が生成して氷分を融けやすくするようコイル状とする。またこの時、コイル状の電気ヒータ7のコイル直径を加熱容器5の内径の60%程度とする。即ち、電気ヒータ7のコイルは、加熱容器5の中心部と外縁部からはずして配置されるようにする。
このように電気ヒータ7のコイル直径を加熱容器5の内径の60%程度にすると、電気ヒータ7のコイルの内側(面積40%程度)と、外側(面積60%程度)の間でシャーベットアイス2の流れの行き来が促進し、激しい乱流となることにより、伝熱を促進する。またシャーベットアイス2は電気ヒータ7のヒータ線に流れを遮られて激しい乱流状態となり、微細氷18はヒータ線より熱を受け、伝熱を促進することで速やかに融ける。従って撹拌羽根を使わなくても、速やかな融解が可能となる。
更に細長い円柱容器の加熱容器5の中心部と外縁には電気ヒータ7のコイルが存在しないから、加熱容器5の流入口側(図4の左側)から流出口側(図4の右側)へのシャーベットアイス2の流れがスムースに行われる。
【0022】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4について図6を用いて説明する。実施の形態3においては、加熱容器5内にコイル状の電気ヒータ7を入れて撹拌羽根を不要としたが、重力の影響により、加熱容器5の上部に氷が溜まり、そのまま、外部へ流出する可能性があった。
実施の形態4では、加熱容器5を縦置きとして、その上部からシャーベットアイス2を流入させ、下部から排出することで、軽い微細氷18は上方へ浮き、シャーベットアイス2がそのまま融けずに流出することを防止することが出来る。従って、氷濃度の測定精度を増すことが出来る。
【0023】
なお以上の各実施の形態では、海水からシャーベットアイスを製造して、その氷濃度を計測するものについて説明したが、この発明は、海水に限らず真水あるいは他の成分を含んだものから製造したシャーベットアイスの氷濃度を計測する場合にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態2に使用される出力制御器のブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態3に使用される加熱容器の正面図である。
【図5】この発明の実施の形態3に使用される加熱容器の断面図である。
【図6】この発明の実施の形態4に使用される加熱容器の正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1:貯氷タンク 2:シャーベットアイス
3:手動バルブ 4:シャーベットアイス配管
5:加熱容器 6:撹拌羽根
7:電気ヒータ 8:排出管
9:定量ポンプ 10:流量計
11:第1の温度計 12:第2の温度計
13:電源 14:電流計
15:演算器 16:氷濃度出力値
17:出力制御器 18:微細氷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーベットアイスが導入される加熱容器、この加熱容器内に設けられ、前記シャーベットアイスを加熱して融かす電気ヒータ、この電気ヒータに電力を供給する電源、及び前記加熱容器に導入する前の前記シャーベットアイスの温度と、前記加熱容器から導出された前記シャーベットアイス溶解後の水の温度と流量と、前記電源から電気ヒータに流れる電流値とを入力とし、それらを演算することにより前記シャーベットアイスの氷濃度を計測する演算器を備えた氷濃度計。
【請求項2】
請求項1の氷濃度計において、前記電源は前記加熱容器から導出される水の温度を所定値に保つ制御機能を備えた氷濃度計。
【請求項3】
請求項1または請求項2の氷濃度計において、前記加熱容器内の電気ヒータをコイル形状にした氷濃度計。
【請求項4】
請求項1または請求項2の氷濃度計において、前記加熱容器を縦置きとして、その上部から前記シャーベットアイスを導入し、その下部から前記シャーベットアイス溶解後の水を導出するようにした氷濃度計。
【請求項5】
請求項3の氷濃度計において、前記加熱容器は円柱容器とし、前記電気ヒータのコイルの直径を前記加熱容器の内径の60%程度としたことを特徴とする氷濃度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−70233(P2008−70233A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249275(P2006−249275)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】