説明

永久磁石材を有する金属部材の溶接装置及びその溶接方法並びに回転電機

永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材を抵抗溶接するとき、永久磁石材が溶接電流によって不要に着磁されるのを抑制する溶接装置及び溶接方法を得る。ワーク14を保持するワーク保持部3と、ワーク保持部3にワーク供給空間を介在
させて配置された加圧装置4と、加圧装置4の可動部4aに設けられた第1の溶接電極及8と、第2の溶接電極10と、両溶接電極8,10に溶接電流を供給する溶接トランス11とを備え、両溶接電極8,10は、それぞれ一方の金属部材と他方の金属部材に対してワーク14の一端部側に配置され、かつ、一方の金属部材と他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には永久磁石材18を介さないように配置して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石材を有する金属部材に他の金属部材を抵抗溶接する溶接装置及びその溶接方法、並びにその溶接装置で製造される回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石材を有する金属部材に他の金属部材を溶接して構成した製品の一例として、回転電機の回転子がある。例えば、車両用交流発電機の回転子の場合では、回転軸上で突合わされた一対の界磁鉄心(ポールコア)が、外周で軸方向に延在し交互に噛合する形態の爪状磁極をもち、隣接した爪状磁極同士の周方向対向側面の間隙に永久磁石材が装着されており、この界磁鉄心の軸方向の前後より、発電機の温度上昇を抑制するための冷却ファンが溶接等によって固着されたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、冷却ファンを界磁鉄心に溶接する溶接装置として、例えば、車両用充電発電機の磁極に冷却ファンを溶接する溶接装置が開示されている。この溶接装置では、回転子のシャフトを垂直方向に向け、磁極の背面(上下)に冷却ファンを重ね、冷却ファンの外側から溶接用の電極を押し当て、上下に配置した電極を加圧しながら、上側の電極、上側の冷却ファン、上側の磁極、下側の磁極、下側の冷却ファン、下側の電極の順に電流を流して溶接するように構成されている。このとき溶接部に流す溶接電流は、直流であることが一般的である(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に示すような回転子の冷却ファンをポールコアに溶接するに当たり、特許文献2に示すような溶接装置によって溶接しようとすれば、ポールコアに永久磁石材を装着後、冷却ファンをポールコアの軸方向端面の所定位置に当接させて、一方の電極を一方の冷却ファンに電気的に接触させ、もう一方の電極をポールコアの反対側に位置する他方の冷却ファンに電気的に接触させて保持し、例えば、両電極間にピーク値で数十kAのパルス状電流を流して抵抗溶接する。このとき、溶接電流は回転子の軸近傍を軸方向に貫通して流れることになる。上述のように、爪状磁極の対向面の間隙には永久磁石材を装着しているので、複数の溶接箇所を流れる溶接電流が軸方向に集中して流れた場合、その大電流により生じた磁界が永久磁石材を十分着磁できる磁界強度となり、永久磁石材が周方向に同一極性に着磁されてしまう。回転子の永久磁石材の使用目的は、隣接する爪状磁極の間隙に漏洩する磁束を減殺するためのものなので、細長い永久磁石材の厚さ方向の両側は異なる磁極に着磁されている必要があるが、上記のように溶接電流の影響で、永久磁石材の半分は本来着磁される向きと逆向きに着磁されてしまうという不具合が生じる。その際の着磁量は、発明者らの実験では、フル着磁量を100%としたとき、平均で80%を超えるものであることを確認している。
【0004】
通常、回転電機の回転子に用いる磁石は、起動トルクを向上させるために残留磁束密度が大きく、かつ高温での使用環境にも耐えられるよう保磁力の高い磁石(ネオジ磁石など)を用いることが望ましいが、磁石の保磁力が高い場合、一度逆方向に着磁されてしまうと、次に順方向の着磁をするために、初回の着磁に比べて強い磁界が必要となり、正規の着磁工程のときに十分な着磁ができない。また、着磁した磁石に加工時に発生する鉄粉が付着して取れなくなり、回転電機として組立てた後も鉄粉が異物として残るため、コイルを傷つけて短絡するなどの不具合を発生させるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−56616号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献2】特開平9−205757号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、例えば永久磁石材を備えた回転子のように、永久磁石材を有する金属部材と他の金属部材とを溶接により固着させる場合、永久磁石材への不要な着磁を抑制することができる、永久磁石材を有する金属部材の溶接装置、及びその溶接方法、並びにその溶接装置で製造される回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係わる永久磁石材を有する金属部材の溶接装置は、永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの両金属部材を抵抗溶接する溶接装置であって、ワークを保持するワーク保持部と、ワーク保持部にワーク供給空間を介在させて配置された加圧装置と、加圧装置の可動部側に設けられワークに当接させる第1の溶接電極と、ワークに当接させる第2の溶接電極と、両溶接電極に溶接電流を供給する溶接トランスとを備え、両溶接電極は、それぞれ一方の金属部材と他方の金属部材に対してワークの一端部側に配置され、かつ、一方の金属部材と他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には永久磁石材を介さないように配置して構成したものである。
【0008】
また、この発明の永久磁石材を有する金属部材の溶接方法は、上記のように構成された溶接装置を用いて、上記両溶接電極から上記ワークに上記溶接電流を供給して抵抗溶接するものである。
【0009】
また、この発明に係わる永久磁石材を有する金属部材の溶接装置は、ワークは回転電機の回転子であり、その回転子は、それぞれの外周側に形成した複数の爪状磁極を互いに噛み合わせて軸方向に対向配置した一対のポールコアと、ポールコアを貫通するシャフトと、ポールコアの周方向の隣り合う爪状磁極間に配置した複数の永久磁石材と、ポールコアの内部に装着して一対のポールコアを異なる磁極に励磁する界磁コイルと、ポールコアの軸方向の端面に設けた板状部材とを備えて構成されており、回転子の軸方向の同一端部側に配置した第1の溶接電極と第2の溶接電極とから上記板状部材側と上記ポールコア側との間に溶接電流を供給するようにしたものである。
【0010】
また、この発明に係わる回転電機は、上記の溶接装置によって製造した回転子を備えたものである。
【0011】
更に、この発明に係わる永久磁石材を有する金属部材の溶接装置は、永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの両金属部材を抵抗溶接する溶接装置であって、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置、又はその溶接方法によれば、ワークに当接させる第1の溶接電極と第2の溶接電極は、それぞれ一方の金属部材と他方の金属部材に対してワークの一端部側に配置され、かつ、一方の金属部材と他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には永久磁石材を介さないように配置されているので、ワークに流れる溶接電流経路を永久磁石から遠ざけることができ、溶接電流で発生する磁界による永久磁石材への影響を小さくできるので、溶接終了後の永久磁石材への着磁量を小さくできる。
【0013】
また、この発明の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置によれば、ワークは回転電機の回転子であり、永久磁石材を有する回転子のポールコアに板状部材を溶接する場合に、回転子の軸方向の同一端部側に配置した2個の溶接電極から板状部材とポールコア側との間に溶接電流を供給して抵抗溶接により固着するようにしたので、溶接電流がポールコアの内部を軸方向に集中して流れるのを避けることができ、溶接電流により永久磁石が不要に着磁するのを抑制することができる。
【0014】
また、この発明の回転電機によれば、上記の溶接装置で製造した回転子を備えたので、溶接電流による不要な着磁を脱磁する工程を必要とせず、生産性が向上する。
【0015】
更にまた、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給するようにしたので、溶接電流によって発生する磁界の向きが変わることから、一旦着磁された永久磁石材が脱磁されて溶接終了後の永久磁石材への着磁量を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の構成図であり、図2は図1のワーク周辺を拡大した部分断面図である。
本実施の形態では、溶接対象物であるワーク、すなわち、永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークとして、永久磁石材を有する回転電機の回転子を例に挙げて説明する。永久磁石材を有する一方の金属部材はポールコアであり、他方の金属部材は冷却ファンである。
【0017】
まず溶接装置1の構成について説明する。図1に示すように、ベース2に後述のワーク14を保持するワーク保持部3が設けられており、このワーク保持部3の上方に、ワークワーク供給空間を介し、図示しない支持部材に支持された、例えばエアシリンダからなる加圧装置4が配置されている。この加圧装置4のうちの上下に可動する可動部4aに、例えばウレタンゴムからなる弾性部材5を介して天板6が取り付けられ、この天板6に第1の溶接電極ホルダ7が固定されている。第1の溶接電極ホルダ7には複数個の第1の溶接電極8が取り付けられている。また、第1の溶接電極ホルダ7の近傍に、第2の溶接電極ホルダ9が配置され、この第2の溶接電極ホルダ9に複数個の第2の溶接電極10が取り付けられている。第2の溶接電極ホルダ9は、図示しない支持部材に取り付けられた可動機構(上記可動部4aとは別)によって駆動され、第2の溶接電極10をワーク14の所定の箇所に押圧できるようになっている。
【0018】
第1の溶接電極8と第2の溶接電極10に電力を供給するための溶接トランス11を、ワーク14に対して両側に1台ずつ配置している。2台の溶接トランス11は同じ仕様のもので、これらは並列に電気接続されている。溶接トランス11の一方の極は、ジャンパケーブル12、天板6、第1の溶接電極ホルダ7を介し第1の溶接電極8に電気的に接続されている。溶接トランス11の他方の極は、ジャンパケーブル12、第2の溶接電極ホルダ9を介して第2の溶接電極10に電気的に接続されている。このように、並列に電気接続した2台の溶接トランス11で複数の溶接個所に溶接電流を供給し、複数の溶接個所を同時に溶接できるように構成されている。
ワーク保持部3のワーク側には、載置するワーク14と電気的に絶縁するために、絶縁部材13が設けられている。上記2から13までと、図示しない制御装置とで溶接装置1の主要部を構成する。
【0019】
前述したとおり、ワークは回転電機の回転子の場合を示しており、図2にそのワーク周辺部分の詳細を示す。図のように、ワーク14は、冷却ファン15、爪状磁極16aを有するポールコア16,爪状磁極17aを有するポールコア17、爪状磁極16a,17aの間に固定された永久磁石材18、ポールコア16,17の内部に配置された界磁巻線19、及びポールコア16,17に圧入したシャフト20で構成されている。溶接装置1によって、冷却ファン15をポールコア16の端面に溶接して固定するものである。
【0020】
ここで、両溶接電極8,10の配置関係について説明する。両溶接電極8,10は、それぞれポールコア16(一方の金属部材)と冷却ファン15(他方の金属部材)に対してワーク14の一端部側に配置され、かつ、第1の溶接電極8を冷却ファン15に当接させ、第2の溶接電極10をポールコア16に当接させたとき、それぞれの当接端間には永久磁石材18を介さないように配置されている。
【0021】
次に、本実施の形態による溶接装置1により、冷却ファン15をポールコア16に溶接する場合の溶接方法について説明する。冷却ファン15をポールコア16の端面の所定位置に合わせ、第2の溶接電極10をポールコアに当接させる。次に加圧装置4のエア圧を上げて第1の溶接電極8を冷却ファン15の表面に当接させる。さらに加圧装置4のエア圧を増加させ、第1の溶接電極8によって冷却ファン15をポールコア16端面に押し付け、溶接トランス11から溶接電流を供給する。これにより、第1の溶接電極8で押し付けられた冷却ファン15とポールコア16の接触部に溶接電流が流れて抵抗発熱し、冷却ファン15とポールコア16は溶接される。冷却ファン15の溶接点には突起を形成することで、冷却ファン15とポールコア16の接触する部分を制限し溶接電流を集中させて、より小さい溶接電流で安定な溶接品質を得ることができる。この溶接方法は抵抗溶接のうち一般にプロジエクション溶接と呼ばれている。
【0022】
次に作用について説明する。ワーク14に装着されている永久磁石材18は、その製品が必要とする極性の方向に磁化される必要がある。従って、溶接電流によって本来の磁化を邪魔するのは好ましくない。例えば、図2において、第2の溶接電極10が図の位置ではなくポールコア16,17を介して反対側、すなわち、ポールコア17の下側に当接させた場合は、溶接電流は両ポールコア16,17を軸方向に貫通してシャフト20に平行方向に流れる。この電流により、永久磁石材18は本来必要な方向とは別の方向に磁化されてしまう。
そこで、本発明の溶接装置1では、第1の溶接電極8と第2の溶接電極10とを、上記で説明したように、ワーク14の一端部側に配置し、かつ、冷却ファン15とポールコア16とのそれぞれの当接端間には永久磁石材18を介さないように配置しているので、溶接電流パスは図2の矢印の経路に示すようになり、永久磁石材18から遠ざかり、溶接電流で発生する磁界による永久磁石材18への影響がほとんどなく、溶接終了後の永久磁石材18の着磁量が小さくなる。その結果、溶接後の脱磁工程を追加することなく、本来の着磁工程のみで永久磁石材が所望の着磁量に着磁できることから生産性の向上と製造コストの低減が図れる。
【0023】
図1,図2では、第2の溶接電極10のポールコア16との当接位置はポールコア16の端面で内周側の冷却ファン15部分で覆われていない部分としているが、ワークの一端部側で、例えば図3に示すように、第2の溶接電極10の当接位置は、ポールコア16の外周部の面取り部分でもよく、また、ポールコア16の一端部側のシャフト20の端面でもよい。なお、ワークの一端部側とは、ワークを一端部と他端部に分けた場合、その半分側を示す。
【0024】
また、本溶接装置1では、ワーク保持部3とワーク14とは絶縁部材13によって確実に電気的に絶縁している。この絶縁部材13は、ワーク14側からの溶接電流がワーク保持部3へ流れるのを阻止するものである。溶接トランス11が電気的に絶縁されていることから、永久磁石材18の近傍を流れる溶接電流は、ワーク14を貫通してワーク保持部3へと流れる分流が発生せず、両溶接電極8,10の溶接電流パスを確実に永久磁石材18から遠ざけることができる。
なお、図1,図2では絶縁部材13をワーク14とワーク保持部3の間に設置することでワーク保持部3と溶接トランス11の絶縁を行っているが、ワーク保持部3そのものを絶縁体で構成しても良い。
【0025】
また、図1では、溶接トランス11を2台とし、ワーク供給空間の両側に1台ずつ配置した場合を示した。この溶接トランス11は1台で構成することも可能であるが、複数台、例えば図のように2台とした場合の作用効果を説明する。溶接電流は、溶接トランス11に近い溶接個所ほど抵抗が少ないので大きくなる。もし、溶接トランス11が1台の場合には、各溶接個所の間で溶接トランス11との距離に差が生じ、溶接電流にも差が生じて各溶接個所の溶接強度にばらつきが発生する場合がある。これに対して、並列に電気接続した2台の溶接トランス11を用いることで、各溶接個所の間で溶接トランス11との距離の差が小さくなり、各溶接個所に流れる溶接電流が均一化される。また、これら2台の溶接トランス11は、ワーク14に対して1台ずつ両側に配置されており、前面がワーク導入部として大きく開いている。このため、溶接装置1へのワーク14の着脱機構(図示を省略)が簡単に構成できる。
図1では溶接トランスの台数が2台の場合を例示したが、2台に限定するものではなく、複数台あれば同様の効果を得ることができる。
【0026】
次に、加圧装置4の可動部4aと天板6との間に取り付けている弾性部材5の作用について説明する。天板6には第1の溶接電極ホルダ7が固定され、更に複数個の第1の溶接電極8が取り付けられている。溶接開始時に、加圧装置4(例えばエアシリンダ)のエア圧の増加に伴いその可動部4aが降下し、第1の溶接電極8は冷却ファン15の表面に押し付けられる。このとき、複数の第1の溶接電極8の端面と冷却ファン15の上面が完全に一致しないと片当たりが発生する。しかし、弾性部材5が設けられているため、天板6、すなわちそれと連結した複数の第1の溶接電極8は冷却ファン15の表面に沿うように揺動し、片当たりせずに接触する。これにより、第1の溶接電極8と冷却ファン15の間の接触面積が十分確保されて異常発熱が抑制される。
なお、弾性部材5はウレタンゴム以外に、圧縮ばねや板ばね等でも良い。また、第2の溶接電極10側を同様に揺動させて、片当たりを防止するようにしても良い。
【0027】
次に、溶接トランス11へ溶接電流を供給する電気回路について説明する。図4は、電気回路の一例を示す図である。先ず、スイッチ21を充電回路側に接続しておき、3相交流の電源入力を整流回路22で直流に変換してコンデンサ23に蓄える。次に、スイッチ21を放電回路側に切替えて、コンデンサ23に蓄積した電力を放電回路に放出し、スイッチング回路24を介し溶接トランス25の1次側コイルに電流を供給する。溶接トランス25で換変された大電流は、整流・極性切換回路26を介して溶接ヘッド27に供給され、ワークが溶接される。溶接ヘッド27に供給したい電流値や時間等の値は入力・表示装置28で設定する。溶接トランス25の1次コイルに実際に流れている電流は、常に電流センサ29と電流測定回路30でモニタし、設定値から要求される値とモニタ値のずれを零に近づけるよう、スイッチング回路24のドライブ回路30を制御回路31によって制御するように構成されている。
なお、溶接トランス25は、図1の溶接トランス11に対応するものである。
【0028】
制御方法の詳細を図に基づいて説明する。図5は、溶接トランス25の1次側のスイッチング回路24による電圧波形を示す。このスイッチング回路24によって直流電圧がピーク電圧V、周波数Tの交流電圧に変換される。この交流電圧のパルス幅t1,・・・はドライブ回路31によって制御される。このパルス幅を変化させることによって交流電圧の実効値を制御し、所望の電流値に合せ込む。その制御のイメージを図6に示す。
【0029】
所望の電流値Iを入力・表示装置28から制御回路32へインプットすると、制御回路32では、設定した電流値Iに対して各パルス毎の電流設定値I01〜I0Xとして認識すると同時に、交流電圧の実効値V01〜V0Xが設定される。
通電開始の信号を出すと、最初の1パルス目ではV01と同じ電圧実効値Va1に対応したパルス幅だけドライブ回路31によってスイッチング回路24がオンする。その時に流れた電流を電流センサ29で測定し、電流測定回路30から制御回路32に伝達する。制御回路32では、その電流測定値Ia1と電流設定値I01を比較し、その差を次のパルスの電圧補正値ΔVに換算する。さらに、次のパルスで印加する電圧値Va2をV02−ΔVに決め、それに対応したパルス幅だけドライブ回路31でスイッチング回路24をオンにする。その時に流れた電流測定値から電圧値を補正してドライブ回路31でスイッチング回路24をオンにすることを繰り返すことによって、実際に流れる電流を所望の電流値に近づける。
【0030】
この電気回路によって溶接電流値、保持時間、極性を自由に設定できることから、溶接電流を交流の溶接電流波形とし、大きさを変えたり、ピーク電流を一定時間保持したりすることが可能となり、溶接終了後の永久磁石材の着磁量を極めて小さい値に抑えることができる。
【0031】
また、このような電流回路を用いて、例えば、ワークとして車両用交流発電機の回転子に冷却ファンを溶接する場合、従来の交流電源では電源電圧400Vで電気容量200kVAクラスが必要であり、受電容量の小さい場所には設置しづらいという制約があった。これに対し、上記のように溶接電流を流すための電力を充電するコンデンサを具備することで、電源電圧200Vで電気容量20kVA程度の電源でも対応可能となった。
【0032】
なお、本実施の形態では、プロジェクション溶接として説明したが、スポット溶接や抵抗ろう付等他の抵抗溶接にも適用して、同様の効果を得ることができる。また、ワークは回転電機の回転子以外でも、永久磁石材を有する金属部材に他の金属部材を抵抗溶接するようなワークであれば適用可能である。
【0033】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、ワークを保持するワーク保持部と、ワーク保持部にワーク供給空間を介在させて配置された加圧装置と、加圧装置の可動部側に設けられてワークに当接させる第1の溶接電極と、ワークに当接させる第2の溶接電極と、両溶接電極に溶接電流を供給する溶接トランスとを備え、両溶接電極は、それぞれ一方の金属部材と他方の金属部材に対してワークの一端部側に配置され、かつ、一方の金属部材と他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には永久磁石材を介さないように配置したので、永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材からなるワークを溶接するに際し、溶接電流により永久磁石材が着磁されるのを抑制でき、溶接後の脱磁工程を追加することなく、本来の着磁工程のみで永久磁石材が所望の着磁量に着磁できる溶接装置、及び溶接方法を提供することができる。
【0034】
また、ワーク保持部とワークとは絶縁部材により電気的に絶縁されているので、溶接電流は、ワークを貫通してワーク保持部へと流れる分流が発生せず、両溶接電極の溶接電流パスを確実に永久磁石材から遠ざけることができ、溶接終了後におけるワークの永久磁石材の着磁量が小さくなる。
【0035】
また、溶接トランスは複数台を並列に電気接続し、各溶接トランスに接続した両溶接電極により複数の溶接部を同時に溶接するようにしたので、複数の溶接トランスによって複数の溶接部に流れる電流が均一化される。その結果、各溶接個所の溶接強度のばらつきが小さくなり、溶接品質が向上して、製品の信頼性が向上する。
【0036】
また、両溶接電極の少なくともいずれか一方を、ワークとの接触によって揺動させるようにしたので、溶接電極のワークへの片当たりが防止でき、溶接電極とワークとの間での異常発熱が抑制されて溶接電極端面やワーク表面の損傷を抑制できる。また、加圧力が均一化されることから、各溶接個所での溶接強度のばらつきが小さく、高品質の溶接部が得られる。また、電極端面の損傷が起こりにくくなり、電極寿命が長くなって生産性が向上する。また、特にワークが亜鉛メッキ鋼板の場合、表面損傷による耐食性が低下するのを防止でき、製品の信頼性が向上する。
【0037】
また、溶接電流の電流値とその持続時間および極性を任意に設定できる電気回路を備えたので、溶接部の形状や表面状態に応じ、溶接終了後の永久磁石材の着磁量が小さくなる溶接電流波形を設定できる。
【0038】
また、電気回路は、電力を蓄えるコンデンサと、コンデンサからの放電電流を交流に変換して溶接トランスに供給するスイッチング回路と、スイッチング回路を制御する制御回路と、所定の電流波形を得るための設定値を制御回路に設定する入力部と、スイッチング回路からの出力電流をモニタする電流センサとを備えて構成し、出力電流と設定値を比較しながら溶接電流を制御するようにしたのでたので、所望の電流波形をもつ溶接電流を容易に得ることができる。
【0039】
更にまた、ワークを回転電機の回転子とし、ポールコアに冷却ファンを溶接する場合は、溶接終了後の永久磁石材の着磁量が小さくなることから、溶接後の脱磁工程を追加することなく正規の着磁工程のみで永久磁石材を所望の着磁量に着磁できるので、回転電機の品質と生産性が向上し、また製造コストを低減できる。特に、高い信頼性が要求される車両に搭載されるような回転電機の場合は、信頼性が向上することにより、商品価値の向上に貢献できる。
【0040】
実施の形態2.
実施の形態2に示す溶接装置は、対象ワークを、永久磁石材を有する回転電機の回転子に限定したものである。すなわち、永久磁石材を有する一方の金属部材が回転子のポールコアであり、他方の金属部材が板状部材(例えば、冷却ファン)の場合である。図7は、実施の形態2による溶接装置の対象ワークである回転電機の回転子を示す斜視図であり、図8はその回転子を組み込んだ回転電機の上半分を示す断面図である。また、図9は図7の側面断面図である。
なお、溶接装置本体の構成については、実施の形態1で説明したものと同等なので、説明は省略する。以下の本実施の形態で説明する溶接電極109,110は、実施の形態1で説明した溶接電極8,10に対応するものである。
【0041】
先ず回転子の全体構造を図7及び図9に基づいて説明する。ランデル型のポールコア101および102は、通常鉄製であり、軸心にシャフト103の貫通穴を有する円筒状の基部101aおよび102aと、基部101a,102aの外周側に周方向に所定のピッチで略台形状に突出する複数の爪状磁極101b,102bとから成っている。この一対のポールコア101,102を、爪状磁極101b,102bを互い噛み合うように組み合わせて軸方向に対向配置し、それらの貫通穴にシャフト103を圧入して固定し、シャフト103と一体に回転するように構成している。従って、外部から見れば、爪状磁極101b,102bが周方向に交互に並ぶように組み合されて配置されている。各爪状磁極101b,102bの間隙には爪状磁極101b,102b間の磁束の漏洩を減少する向きに着磁した永久磁石材104が装着されている。また、ポールコア101,102の内部には、両ポールコア101,102を異なる磁極に励磁するための界磁コイル105が装着されている。更に、シャフト103の一端にはスリップリング106が設けられ界磁コイル105と電気的に接続されており、このスリップリング106(および図示しないブラシ)を介して外部から電流が供給されるようになっている。ポールコア101,102の軸方向両端の略平坦部には、板状部材が溶接により固着されている。図では、板状部材として冷却ファン107を設けた場合を示している。冷却ファン107の詳細は後述するが、ポールコア101または102への溶接面となる平坦部107aと周囲に切り起こしによって形成したブレード107bとから成っている。上記の101〜107で回転子108を構成する。
【0042】
図8は、この回転子108を備えた回転電機の一例を示す断面図である。回転子108の外周に、ポールコアの爪状磁極101b,102bと僅かな間隙を介して固定子121が配置され、それらを収納すると共にシャフト103を支承するブラケット122が全体を取り囲むように配設されている。さらに、シャフト103にはプーリ123が設けられ、ベルトにより回転駆動できるように構成されている。
【0043】
次に、回転子108の軸方向端面に冷却ファン107を溶接する場合の溶接方法について説明する。図9に示すように、まず片側(図の上部側)の冷却ファン107をポールコア101の軸方向端面の所定の位置に当接させ、溶接装置(図示せず)の第1の溶接電極109,第2の溶接電極110のうち、第1の溶接電極109を冷却ファン107の所定の溶接位置(溶接点111)に電気的に接触させ、第2の溶接電極110を電極109と同一端部側のポールコアの軸方向端面の所定の溶接位置へ電気的に接触させる。両溶接電極109,110をセット後、溶接装置から両溶接電極109,110を介してパルス大電流を流し、抵抗溶接により溶接を行う。次に、反対側(図の下部側)の冷却ファン107も同様に、同一端部側から、両溶接電極109,110を冷却ファン107とポールコア102へ電気的に接触させて抵抗溶接する。
なお、回転子の発熱が小さい場合は、冷却ファンは片側だけとしてもよい。
【0044】
溶接過程において、溶接電流は図9の矢印に示すような経路を通って流れる(但し、電流方向は交流の場合は交互となる)。両溶接電極109,110を図のように回転子108の軸方向の同一端部側に配置したために、大電流である溶接電流が、ポールコア101,102内を軸方向に貫通して軸近傍を反対側の端面に向けて流れることが無いため、溶接電流により永久磁石材104が着磁されるのを抑制することができる。
【0045】
なお、図9では冷却ファン107の1箇所を溶接する状態を示しているが、作業効率を上げるために複数箇所を同時に溶接する場合は、両溶接電極109,110をそれぞれ複数個用意し、所定の溶接箇所に一度に電極を接触させて溶接すればよい。
【0046】
また、両溶接電極109,110が回転子108の軸方向の同一端部側に配置されていれば、溶接電極110の位置は図9の位置以外にも、例えば、ポールコア101または102の外周肩部(大きく45度に面取りした部分)や、後述のように冷却ファン107のブレード107b間のポールコア101または102が露出している部分でもよい。
【0047】
永久磁石材104への影響をできるだけ抑制し着磁量を小さくするには、ポールコア101または102を流れる溶接電流が、溶接点111を基点に永久磁石材104から遠ざかる方向に流れるように溶接電極110を配置し、更に両溶接電極109,110が近接している方が、ポールコア101または102内の溶接電流経路が短くなるので望ましい。そこで、以下にこのための工夫をした冷却ファン107の形状について説明する。
【0048】
図10および図11は、冷却ファン107の形状の一例を示す図である。図のように、冷却ファン107は薄板鋼鈑等からなり外形が略円形で、放射方向に不等角度間隔に配置された曲面状(平面状でもよい)のブレード107bが平坦部107aより切り起こされて形成され、平坦部107aからブレード107bにかけて補強のために補強リブ107cが設けられている。不等角度間隔にしているのは、冷却風の騒音次数成分スペクトルの分散を図り、騒音の低減を図るためである。また、冷却ファン107の溶接点111には、溶接部をポールコア101または102の端面に点接触させるために、予め例えば直径2〜3mm程度のエンボス加工を施してある。
【0049】
溶接の際にポールコア側の第2の溶接電極110を冷却ファン側の第1の溶接電極109の位置である溶接点111の近傍に配置できるように、冷却ファン107の平坦部107aの一部に切り欠き部107dを設けているのがこの冷却ファンの特長である。図10は冷却ファン107の平坦部107aの内周側に、溶接点111と対応させて欠き部107dを設けたものであり、図11は冷却ファン107の外周側のブレード107b間の平坦部107aにも切り欠き部107dを設けたものである。図中で溶接点111の周囲に点線で示すのが冷却ファン側の電極位置112、網掛けで示すのがポールコア側の電極位置113である。なお、切り欠部の代わりに貫通穴としてもよい。
【0050】
冷却ファン側の第1の溶接電極109の数とポールコア側の第2の溶接電極110の数は必ずしも同数である必要はない。例えば図11のように、冷却ファン側の二つの電極位置(ア)に対しポールコア側は1つの電極位置(イ)で対応させても良い。対応させる溶接電極の接触面積をほぼ等しくするのが望ましい。
【0051】
なお、全溶接点を一度に溶接するような場合は、ポールコア側の溶接電極は図10や図11のように溶接点111に個々に対応させるのではなく、例えば、ポールコア側の溶接電極を冷却ファン107の内径より小さい外形の円筒状電極とすれば、1個の溶接電極で接触面積を大きく取ることができる。この溶接電極を、シャフト103と同軸上にシャフト103を包み込むように配置してポールコアの端面に当接させればよい。
【0052】
以上までは、板状部材が冷却ファンの場合について説明したが、冷却ファン以外に例えば次のような板状部材がある。図12は板状部材として異物侵入防止板を取り付ける場合の溶接方法を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は一部省略した側面断面図を示す。符号101,103〜105,109〜111は図9と同等なので説明は省略する。また溶接方法も図9で説明したものと同等である。
異物侵入防止板114は、ポールコアの爪状磁極の間の開口部から回転子の内部に異物が侵入しないために設けるものであり、外径がほぼポールコアの外径と等しい薄板鋼鈑で構成している。回転子は運転時に発熱を伴うので、図のように回転子内部に冷却媒体を導入するための通風孔114aを設けている。従って、通風孔114aの穴径よりも大きな異物の侵入を防止することができる。発熱が小さく通風孔114aによる冷却媒体の導入の必要性がない場合は通風孔114aを設けなくてもよい。
【0053】
図13は更に他の板状部材の例で、板状部材として磁石脱落防止板を取り付ける場合の溶接方法を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は一部省略した側面断面図を示す。磁石脱落防止板115以外は図12と同等なので、同等部分の説明は省略する。永久磁石材104は先に図7で説明したように、ポールコア101の周方向に所定のピッチで略台形状に突出するように形成された爪状磁極の間に装着されているので、シャフト103の回転軸とは軸方向にある角度を持って配設されている。このため、回転子が回転した場合に永久磁石材104には軸方向に飛び出そうとする力が働く。磁石脱落防止板115はこれを防止するためのものである。外径がほぼポールコア101の外径と等しい薄板鋼鈑から成り、外周の先端部115aを内側に折り曲げて、この部分で永久磁石材104が軸方向に飛び出すのを係止している。
【0054】
なお、前述の冷却ファン107の場合と同様に、異物侵入防止板114または磁石脱落防止板115に、切り欠き部または貫通穴を設けてもよい。
また、冷却ファンと異物侵入防止板、または冷却ファンと磁石脱落防止板のように、2枚以上の板状部材を重ねて使用する場合も、本実施の形態の発明を適用して同様の溶接方法で溶接することができる。
【0055】
溶接電極の配置として、以上までの説明では第2の溶接電極はポールコアに当接させたものについて述べたが、図14に別の例を示す。図14の101〜111は図9と同等なので符号と動作の説明は省略する。図のように、2個の溶接電極のうちの第1の溶接電極109を冷却ファン107に、第2の溶接電極110を回転子108の軸方向の同一端部側のシャフト103に押圧し電気的に接触させている。溶接電流は図の矢印のように流れる。この電流経路は永久磁石材104から遠く離れており、また永久磁石材104の長手方向に並行して流れることはない。なお、冷却ファン107に替えて、他の板状部材とした場合も同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。
【0056】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、板状部材の取り付けは、永久磁石材をポールコアに装着後に、板状部材をポールコアの軸方向端面に当接させ、回転子の軸方向の同一端部側に配置した2個の電極から板状部材とポールコアとの間に溶接電流を供給して抵抗溶接により固着するようにしたので、溶接電流が回転子の軸方向に集中して流れるのを避けることができ、溶接電流により永久磁石材が不要に着磁するのを抑制することができる。従って、本来の着磁工程で永久磁石材に十分な着磁が可能となる。また、板状部材の溶接後、本来の着磁工程に至るまでの製造工程で、永久磁石材に鉄粉が付着するのを抑制でき、生産性が向上する。
また、この溶接装置によって製造した回転子を備えた回転電機によれば、溶接電流による不要な着磁を脱磁する工程を必要とせず、生産性が向上する。
【0057】
また、ポールコア側の電極の取付用の切り欠き部、または貫通穴を板状部材に設けたので、溶接時の電極配置に制約を受けずに2個の電極を近接させて配置できるため、ポールコアに流れる溶接電流の経路が短くなり、永久磁石材が溶接電流によって着磁されるのを最小限に留めることができる。
【0058】
更にまた、2個の溶接電極のうちの第1の溶接電極を板状部材に、第2の溶接電極をシャフトに電気的に接触させて抵抗溶接を行うようにしたので、溶接電流が永久磁石材の長手方向と並行して流れることはなく、溶接電流により永久磁石材が不要に着磁するのを防止することができる。また、2個の電極の内の1個の位置をシャフトに固定したことにより電極の配置が簡単となり、溶接の作業時間の短縮を図ることができる。
【0059】
なお、回転子として、ランデル型のポールコアについて説明したが、それ以外の回転子でも、外周に永久磁石材を備え、冷却ファン等の板状部材を回転子の軸方向端面に溶接により固着する構成の回転子であれば、同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0060】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3による永久磁石材を有する金属部材の溶接装置を図によって説明する。これまでと同様に、永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークを対象とする。そして、この溶接装置は、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給して抵抗溶接するものであり、その溶接電流波形に特徴を有するものである。溶接装置の構成としては、例えば、実施の形態1で説明した図1のような装置でもよく、交流発生装置としては、例えば、同じく実施の形態1で説明した図4のような電気回路が利用できる。
【0061】
交流発生装置で生成される溶接電流は、交流であり、以下に、具体的な電流波形について説明する。
図15は、永久磁石材を有する金属部材を溶接する場合の溶接電流波形の一例を示す図である。図のように、振幅が時間の経過に伴って減衰していく電流波形であり、同じ振幅で1.5サイクル通電した後、時間の経過に伴って一定の割合で振幅が減衰していくものである。また、通電開始直後の半サイクルの極性はプラスであるのに対し、通電終了直前の半サイクルの極性はマイナスとしている。(通電開始直後の半サイクルの極性と、通電終了直前の半サイクルの極性とが異なっていることが重要であり、通電開始直後をマイナスから始めても良い。)
【0062】
次に、この溶接電流の作用について説明する。もし、直流の溶接電流波形で永久磁石材を有する金属部材を溶接すると、溶接電流が永久磁石材の近傍に流れた場合、溶接電流で発生する磁界によって永久磁石材が着磁される。このとき、本来永久磁石材が必要とする着磁方向と逆方向に大きく着磁されると、その後の正規の着磁工程では十分な着磁量が得られず、製品の性能が低下する。このため、溶接後に脱磁工程を追加しなければならず、生産性の低下と製造コストの増加が発生する。
【0063】
これに対し、図15の溶接電流波形では、通電開始直後の半サイクルで発生する磁界によって着磁された永久磁石材は、次の極性が反転した半サイクルによって発生する逆方向の磁界で脱磁されて着磁量は小さくなる。しかし、さらにその次の半サイクルは極性が反転するので、その電流によって発生する磁界の方向は反転し、小さくなった永久磁石材の着磁量は再び大きくなる。さらに、次の半サイクルでは極性が反転して逆方向の磁界が発生するため、永久磁石材は脱磁されて着磁量は小さくなる。この永久磁石材の着磁量増減サイクルは、通電が停止されるまで縁り返されるが、半サイクル毎に振幅を徐々に小さくしていくと、通電開始直後から1サイクル毎の永久磁石材の着磁量は徐々に小さくなっていき、その結果、溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
この溶接電流波形では、振幅減衰時の通電サイクルが長いほど、また、通電終了直前の振幅が小さいほど、溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0064】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、溶接電流を交流としたので、溶接電流によって発生する磁界の向きが変わることから、対称ワークの永久磁石材が、一旦着磁されても脱磁されるので、溶接終了後の永久磁石材への不要な着磁量を小さくできる。
また、通電開始直後の半サイクルの極性と通電終了直前の半サイクルの極性とを異なる電流波形としたので、通電開始直後の着磁方向と通電終了直前の着磁方向が反対で打ち消しあうことから、極性が同じ場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0065】
また、溶接電流を交流とし、時間の経過に伴って振幅が減衰していく電流波形としたので、永久磁石材を有する金属部材を溶接した場合、溶接終了後の溶接電流による永久磁石材の着磁量が小さくなり、溶接後の脱磁工程を追加することなく、永久磁石材に必要な強さと方向に着磁する正規の着磁工程のみで永久磁石材が所望の着磁量に達して製品性能を確保できるため、生産性の向上と製造コストの低減が図れる。
【0066】
なお、図15では、同じ振幅で1.5サイクル通電した後に振幅を減衰させているが、同じ振幅の半サイクルの数は奇数個であるのが望ましく、従って、0.5サイクルや2.5サイクルとしても良い。
また、各サイクルでの振幅の減衰量を一定量としているが、これに限定するものではなく、各サイクルでの振幅の減衰量を変化させる場合や、減衰の途中過程において振幅を一定に保つ場合においても同様の効果が得られる。
【0067】
実施の形態4.
図16は、実施の形態4による永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の、電流波形の一例を示す図である。溶接装置そのものは、実施の形態3と同様に、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給して抵抗溶接するものであ。実施の形態3と異なるのは交流の溶接電流波形の部分なので、相違点を中心に説明する。
【0068】
図のように、溶接電流は交流であり、振幅が時間の経過に伴って上昇していく電流波形である。通電開始直後の半サイクルの極性はマイナスであり、その後、極性を反転しながら徐々に振幅が大きくなっていく。振幅が最大となる半サイクルの数は、図14では3つの場合を示しているが、3つに限定するものではなく、奇数個とする。また、振幅が最大となる最初の半サイクルの極性は通電開始直後の半サイクルとは逆極性とする。図の場合は通電開始直後がマイナスなので振幅が最大となる最初の半サイクルの極性はプラスとしている。さらに、通電終了直前の半サイクルの極性は、通電開始直後の半サイクルとは異ならせている。
【0069】
従来の直流の溶接電流波形によって永久磁石材を有する金属部材を溶接する場合の問題点は、実施の形態3に記載した通りである。これに対し、本実施の形態による溶接電流波形では、通電開始直後の半サイクルで発生した磁界によって着磁された永久磁石材は、次の、より振幅の大きい半サイクルで発生する逆方向の、より強い磁界によって脱磁される。しかし、さらにその次の半サイクルは極性が反転するので、その電流によって発生する磁界の方向は反転し、小さくなった永久磁石材の着磁量は再び大きくなる。この永久磁石材の着磁量増減サイクルは、振幅の増大が終わるまで繰り返されるが、着磁された永久磁石材を効果的に脱磁するには、着磁時と逆方向でより強い磁界が必要であり、振幅の増大によってより強い磁界を発生させることで通電終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0070】
本発明の溶接電流波形では、通電開始直後の半サイクルの極性と振幅が最大となる半サイクルの極性が異なる場合、逆方向の磁界で永久磁石材が脱磁されるサイクルで振幅の増大が終了することから、それらの極性が同じ場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。さらに、その振幅が最大となる半サイクルの数が奇数の場合、逆方向の磁界で脱磁するサイクルで振幅の増大が終了した後に、振幅が最大となるプラスの半サイクルの数とマイナスの半サイクルの数が等しいので、逆方向の磁界で永久磁石材が脱磁されるサイクルで通電が終了することから、振幅が最大となる半サイクルの数が偶数の場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0071】
また、通電開始直後の半サイクルの極性と通電終了直前の半サイクルの極性とが異なる場合、逆方向の磁界で永久磁石材が脱磁されるサイクルで通電が終了することから、それらの極性が同じ場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0072】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、溶接電流を交流とし、時間の経過に伴って振幅が上昇していく電流波形としたので、この電流波形で永久磁石材を有する金属部材を溶接した場合、溶接終了後の溶接電流による永久磁石材の着磁量が小さくなり、溶接後の脱磁工程を追加することなく、正規の着磁工程のみで永久磁石材が所望の着磁量に達して製品性能を確保できることから、生産性の向上と製造コストの低減が図れる。
【0073】
また、通電開始直後の半サイクルの極性と振幅が最大となる半サイクルの極性とを異ならせているので、逆方向の磁界で永久磁石材が脱磁されるサイクルで振幅の増大が終了するため、溶接電流による永久磁石材の着磁量を更に少なくできる。
【0074】
更にまた、振幅が最大となる半サイクルの波数を奇数としているので、通電開始直後の半サイクルによる着磁が、磁界の強さが最大となる最初の半サイクルで打ち消された後、その後に発生する最大磁界は向きが異なる半サイクルの数が同数で打ち消し合うので、偶数の場合に比べ、溶接終了後の永久磁石の着磁量が小さくなる。
【0075】
なお、各サイクルで振幅を一定の割合で増大させるか、割合を変化させながら増大させるかは、いずれでもよく、増大の途中過程において、振幅を一定に保つ場合においても同様の効果が得られる。更に、本実施の形態の溶接電流波形は、通電開始直後の極性がマイナスであるが、プラスの場合でも同様の効果が得られる。
【0076】
実施の形態5.
図17は本発明の実施の形態5による溶接装置の、電流波形の一例を示す図である。溶接装置そのものは、実施の形態3と同様に、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給して抵抗溶接するものであ。実施の形態3と異なるのは交流の溶接電流波形の部分なので、相違点を中心に説明する。
【0077】
図に示すように、溶接電流波形は交流であり、時間の経過に伴って上昇し、通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅が最大となる。通電サイクルは1サイクルであり、通電開始直後の半サイクルの極性はマイナス、次の半サイクルの極性はプラスである。更に、通電開始直後の半サイクルの振幅Iは次の半サイクルの振幅Iの1/3〜2/3の範囲とする。
【0078】
従来の直流の溶接電流波形によって永久磁石材を有する金属部材を溶接する場合の問題点は、実施の形態3に記載した通りである。これに対し、本実施の形態の溶接電流波形では、通電開始直後の半サイクルで発生した磁界によって着磁された永久磁石材は、次の、より振幅の大きい半サイクルで発生する逆方向のより強い磁界によって脱磁される。この溶接電流波形では、最小限の時間しか溶接電流を流さないので振幅増大時の通電サイクルが長い場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0079】
ここで、通電開始直後の半サイクルの振幅と次の半サイクルの振幅の割合を、上記のようにした理由について説明する。
図18は、溶接電流の振幅比と着磁率の関係の一例を示す図である。図17のような溶接電流波形において、通電開始直後の半サイクルの振幅Iと次の半サイクルの振幅Iの比に対する着磁率(フル着磁量に対する溶接終了後の着磁量の割合)の関係を示したものである。図から分かるように、着磁率は振幅比が1/2付近で極小値を示し、1/3〜2/3では約2%と非常に小さな値となる。このことから、通電開始直後の半サイクルの振幅を、通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅の1/3〜2/3の範囲とすれば、非常に効果が大きいことが分かる。
【0080】
図19は、図17の溶接電流波形の変形例である。但し、溶接電流の基本波形としては、時間の経過に伴って上昇する電流波形と、時間の経過に従って減衰する電流波形を組み合わせたものである。すなわち、交流であって振幅が時間の経過に伴って一旦上昇した後に減衰していく電流波形である。
時間の経過に従って上昇する部分の電流波形を、図17のような波形とし、その後、振幅が徐々に減衰していく波形とすれば、上昇過程の部分では上記のような効果を得られ、更に、僅かに着磁した永久磁石材は、溶接電流の低下に伴って着磁量が徐々に低下することから、減衰波形を追加していない場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0081】
なお、図19では振幅が上昇した後、直ちに減衰しているが、振幅が最大となる半サイクルが複数(奇数個が良い)となる場合でも同様の効果が得られるので、図に限定するものではない。
また、図17,図19共、通電開始直後の極性がマイナスであるが、プラスから始めても同様の効果が得られる。
【0082】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、溶接電流の通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅が最大となる電流波形で溶接するようにしたので、溶接電流を流す時間を必要最小限として、効率よく、溶接終了後の永久磁石材の着磁量を減らすことができる。
【0083】
また、通電開始直後の半サイクルの振幅が、通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅の1/3〜2/3の範囲となるようにしたので、通電開始直後の半サイクルによって永久磁石材が着磁されたのを、その次の半サイクルによって効率よく脱磁でき、溶接終了後の永久磁石材の着磁量を効率よく小さくできる。従って、溶接後の脱磁工程を追加することなく、正規の着磁工程のみで永久磁石材を所望の着磁量にでき、製品性能を確保できるので、生産性の向上と製造コストの低減が図れる。
【0084】
更にまた、溶接電流波形を、振幅が時間の経過に伴って一旦上昇した後に減衰していくようにしたものでは、減衰波形を追加していない場合と比較して溶接終了後の永久磁石材の着磁量は小さくなる。
【0085】
実施の形態6.
図20は本発明の実施の形態6による溶接装置の、電流波形の一例を示す図である。溶接装置そのものは、実施の形態3と同様に、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給して抵抗溶接するものであ。実施の形態3と異なるのは交流の溶接電流波形の部分なので、相違点を中心に説明する。
【0086】
図に示すように、溶接電流波形は交流であり、溶接電流のピーク電流値が、所定の時間持続する電流波形とし、通電開始直後の半サイクルの極性と通電終了直前の半サイクルの極性を異なる波形としている。図では、すべてのサイクルにおいてピーク電流を所定の時間持続する波形を示しているが、少なくとも溶接電流の振幅が最大となる半サイクルのピーク電流値を所定の時間だけ持続させればよい。また、図では振幅が一旦上昇した後減衰する電流波形を示しているが、電流波形は、上昇だけの場合や減衰だけの場合でもよい。更に、これまでの実施の形態と同様に、通電開始直後の極性はマイナスの場合でもプラスの場合でも良い。
【0087】
次に、作用について説明する。これまでの実施の形態で説明したような溶接電流波形では、ピーク電流が保持されないため、大きな抵抗発熱を得るにはピーク電流値を高くするしか有効な手段はない。しかし、プロジエクシヨン溶接では高い溶接強度を得るためにピーク電流値を高くすると、ワークの一方の部材の溶接部に設けた突起が、急峻な発熱で溶融・飛散し、かえって溶接強度が低くなってしまう場合がある。特に、交流の溶接電流波形では、発熱・冷却の繰り返しのために突起が膨張・収縮を繰り返して飛散しやすい傾向にある。これに対して、本実施の形態の溶接電流波形では、ピーク電流が所定の時間保持されて、大きい発熱量を長時間維持できることから、ピーク電流を保持しない場合よりも低いピーク電流で高い溶接強度を得ることができる。
【0088】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、少なくとも溶接電流の振幅が最大となる半サイクルのピーク電流値が、所定の時間持続する電流波形としたので、大きい発熱量を長時間維持できるため、低いピーク電流で高い溶接強度を得られ、また、ピーク電流が低くなると緩やかな発熱となり、突起が飛散しにくくなるため、安定した溶接強度が得られる。更に、永久磁石材の着磁量はピーク電流によって決まることから、溶接終了後の永久磁石材の着磁量が小さくなる。
【0089】
実施の形態7.
次に、実施の形態7による永久磁石材を有する金属部材の溶接装置について説明する。溶接装置そのものは、実施の形態3と同様に、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給して抵抗溶接するものである。本実施の形態の発明は、ワークの溶接部の形状に特徴を有するものである。
【0090】
図21は、ワークの溶接部のプロジエクシヨンの断面図である。ワークとして回転子を例に説明すると、図に示すように、プロジェクシヨンは冷却ファン41の溶接部に半球状の突起部41aとその突起部の周囲を囲む溝41bを形成している。この突起部41aをポールコア42の溶接面に当接させて通電するとこにより溶接するものである。
例えば、回転電機の回転子のポールコア42に冷却ファン41を溶接する場合、回転時の遠心力に耐え得るように、冷却ファン41に複数のブロジェクシヨンを形成して複数個所を溶接するが、複数箇所を同時に溶接する場合、溶接トランスとの距離関係、プロジェクション形状のばらつき、溶接電極の加圧力のばらつき等で、一部の溶接個所で適切な溶接条件から外れてしまう場合が起こる。適切な溶接条件から外れると、例えば突起部41aが過度の膨張により飛散し溶接部が所定の温度に達せず、十分な溶接強度が得られないような不具合が生じる。特に、交流の溶接電流波形では発熱・冷却の繰り返しのために突起部が膨張・収縮を繰り返して飛散しやすい。
【0091】
これに対し、突起部41aの周囲に溝部41bを形成した場合、複数の溶接個所の一部が適切な溶接条件から外れた場合でも、飛散しかけた突起部41aがその周囲に形成した溝部41bに入り込んで溶接部近傍にとどまり、冷却ファン41およびポールコア42が十分昇温して溶接が達成され、複数の溶接個所全てで十分に高い溶接強度が得られる。
【0092】
なお、本実施の形態では突起部の形状が半球状としたが、円錐台形状や断面V字形状でも同様の効果が得られる。また、溝部の断面形状も本実施の形態に限定するものではなく、飛散しかけた突起部が入り込めるような断面形状であればよい。
【0093】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、永久磁石材を有する金属部材と他の金属部材からなるワークの一方の部材の溶接面に、突起部とその突起部の周囲を囲む溝を形成し、突起部を他方の部材の溶接面に当接させて通電するとこにより溶接するようにしたので、複数の溶接個所の一部が適切な溶接条件から外れてしまい突起部が飛散しかけても、溝部でカバーして溶接に必要な温度上昇を達成でき、安定した溶接部を得られるので信頼性が向上する。
【0094】
また、以上までに説明した実施の形態3から実施の形態7の発明において、第1の溶接電極と第2の溶接電極を、それぞれ一方の金属部材と他方の金属部材に対してワークの一端部側に配置し、かつ、一方の金属部材と他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には永久磁石材を介さないように配置した溶接装置とすれば、溶接電流の経路を永久磁石から遠ざけて永久磁石材が着磁されるのを抑制でき、加えて、実施の形態3から実施の形態7で説明した電流波形の工夫による効果が得られ、永久磁石の着磁量を効率よく小さくできる。
また、実施の形態3から実施の形態7の発明において、第1の溶接電極及び第2の溶接電極により、複数の溶接部を同時に溶接するようにした場合は、作業が効率化されるので、生産性が向上する。
更にまた、実施の形態3から実施の形態7の発明において、対象とするワークを、回転電機の回転子とした場合は、溶接終了後の永久磁石材の着磁量が小さくなり、溶接後の脱磁工程を追加することなく、正規の着磁工程のみで永久磁石材が所望の着磁量に着磁できて回転電機の性能が確保できることから、回転電機の生産性が向上し、製造コストの低減が図れる。また、冷却ファンの溶接部の品質が向上するので、回転電機の信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
永久磁石材を有する金属部材に他の金属部材を溶接する溶接装置及び溶接方法に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
[図1]この発明の実施の形態1における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の構成図である。
[図2]図1のワーク周辺の部分断面図である。
[図3]図1の溶接装置において、溶接電極をワークへ当接させる一例を示す図である。
[図4]図1の溶接装置の電気回路の一例を示す図である。
[図5]図4の電気回路のスイッチング回路による電圧波形を示すである。
[図6]図4の電気回路の溶接電流の制御イメージを示す図である。
[図7]この発明の実施の形態2における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の対象ワークである回転電機の回転子を示す斜視図である。
[図8]図7の回転子を組み込んだ回転電機の上半分を示す断面図である。
[図9]図7の側面断面図である。
[図10]図7の回転子の冷却ファンの一例を示す図である。
[図11]図7の回転子の冷却ファンの他の例を示す図である。
[図12]図7の回転子に適用する異物侵入防止板を示す図である。
[図13]図7の回転子に適用する磁石脱落防止板を示す図である。
[図14]実施の形態2における溶接装置の、溶接電極をワークへ当接させる一例を示す図である。
[図15]この発明の実施の形態3における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の溶接電流波形を示す図である。
[図16]この発明の実施の形態4における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の溶接電流波形を示す図である。
[図17]この発明の実施の形態5における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の溶接電流波形を示す図である。
[図18]実施の形態5における溶接装置の溶接電流の振幅比と着磁率の関係の一例を示す図である。
[図19]この発明の実施の形態5における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の溶接電流波形の他の例を示す図である。
[図20]この発明の実施の形態6における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の溶接電流波形を示す図である。
[図21]この発明の実施の形態7における永久磁石材を有する金属部材の溶接装置の対象ワークの溶接部の形状を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
1 溶接装置 3 ワーク保持部
4 加圧装置 5 弾性部材
8 第1の溶接電極 10 第2の溶接電極
11 溶接トランス 13 絶縁部材
14 ワーク 15 冷却ファン
16,17 ポールコア 18 永久磁石材
21 スイッチ 22 整流回路
23 コンデンサ 24 スイッチング回路
25 溶接トランス 28 入力・表示装置
29 電流センサ 32 制御回路
41 冷却ファン 41a 突起部
41b 溝 42 ポールコア
101,102 ポールコア 101b,102b 爪状磁極
103 シャフト 104 永久磁石材
105 界磁コイル 107 冷却ファン
107d 切り欠き部 108 回転子
109 第1の溶接電極 110 第2の溶接電極
114 異物侵入防止板 115 磁石脱落防止板
121 固定子 122 ブラケット。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの上記両金属部材を抵抗溶接する溶接装置であって、上記ワークを保持するワーク保持部と、上記ワーク保持部にワーク供給空間を介在させて配置された加圧装置と、上記加圧装置の可動部側に設けられ上記ワークに当接させる第1の溶接電極と、上記ワークに当接させる第2の溶接電極と、上記両溶接電極に溶接電流を供給する溶接トランスとを備え、上記両溶接電極は、それぞれ上記一方の金属部材と上記他方の金属部材に対して上記ワークの一端部側に配置され、かつ、上記一方の金属部材と上記他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には上記永久磁石材を介さないように配置されていることを特徴とする永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項2】
上記ワーク保持部と上記ワークとは絶縁部材により電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項3】
上記溶接トランスは複数台が並列に電気接続され、上記各溶接トランスに接続した上記第1の溶接電極及び上記第2の溶接電極により、複数の溶接部を同時に溶接することを特徴とする請求項1記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項4】
上記第1の溶接電極又は上記第2の溶接電極の少なくともいずれか一方が、ワークとの接触によって揺動するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項5】
上記溶接電流の電流値とその持続時間および極性を設定できる電気回路を備えていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項6】
上記電気回路は、電力を蓄えるコンデンサと、上記コンデンサからの放電電流を交流に変換して上記溶接トランスに供給するスイッチング回路と、上記スイッチング回路を制御する制御回路と、所定の電流波形を得るための設定値を上記制御回路に設定する入力部と、上記スイッチング回路からの出力電流をモニタする電流センサとを備え、上記出力電流と上記設定値とを比較しながら溶接電流を制御するようにしたことを特徴とする請求項5記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項7】
上記ワークは回転電機の回転子であることを特徴とする請求項1記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項8】
永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの上記両金属部材を抵抗溶接する溶接方法であって、上記ワークを保持するワーク保持部と、上記ワーク保持部にワーク供給空間を介在させて配置された加圧装置と、上記加圧装置の可動部側に固定され上記ワークに当接させる第1の溶接電極と、上記ワークに当接させる第2の溶接電極と、上記両溶接電極に溶接電流を供給する溶接トランスとを備え、上記両溶接電極を、それぞれ上記一方の金属部材と上記他方の金属部材に対して上記ワークの一端部側に配置し、かつ、上記一方の金属部材と上記他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には上記永久磁石材を介さないように配置し、上記両溶接電極から上記ワークに上記溶接電流を供給して抵抗溶接することを特徴とする永久磁石材を有する金属部材の溶接方法。
【請求項9】
永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの上記両金属部材を抵抗溶接する溶接装置であって、上記ワークは回転電機の回転子であり、上記回転子は、それぞれの外周側に形成した複数の爪状磁極を互いに噛み合わせて軸方向に対向配置した一対のポールコアと、上記ポールコアを貫通するシャフトと、上記ポールコアの周方向の隣り合う上記爪状磁極間に配置した複数の永久磁石材と、上記ポールコアの内部に装着して上記一対のポールコアを異なる磁極に励磁する界磁コイルと、上記ポールコアの軸方向の端面に設けた板状部材とを備えて構成されており、上記回転子の軸方向の同一端部側に配置した第1の溶接電極と第2の溶接電極とから上記板状部材と上記ポールコア側との間に溶接電流を供給するようにしたことを特徴とする永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項10】
上記2個の溶接電極のうちの第1の溶接電極を上記板状部材に、上記第2の溶接電極を上記ポールコアに電気的に接触させて抵抗溶接を行うことを特徴とする請求項9記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項11】
上記第2の溶接電極を上記ポールコアに接触させるために、上記板状部材の上記ポールコアとの対向面に切り欠き部または貫通穴が設けられていることを特徴とする請求項10記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項12】
上記2個の溶接電極のうちの第1の溶接電極を上記板状部材に、上記第2の溶接電極を上記シャフトに電気的に接触させて抵抗溶接を行うことを特徴とする請求項9記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項13】
それぞれの外周側に形成した複数の爪状磁極を互いに噛み合わせて軸方向に対向配置した一対のポールコアと、上記ポールコアを貫通するシャフトと、上記ポールコアの周方向の隣り合う上記爪状磁極間に配置した複数の永久磁石材と、上記ポールコアの内部に装着して上記一対のポールコアを異なる磁極に励磁する界磁コイルと、上記ポールコアの軸方向の端面に設けた板状部材とを有する回転子と、上記回転子の外周に微少間隙を介して配置した固定子とを備えた回転電機において、上記回転子の軸方向の同一端部側に配置した2個の溶接電極から上記板状部材と上記ポールコアとの間に供給される溶接電流により上記板状部材が上記ポールコアに抵抗溶接された回転子を使用することを特徴とする回転電機。
【請求項14】
永久磁石材を有する一方の金属部材と他方の金属部材とからなるワークの上記両金属部材を抵抗溶接する溶接装置であって、溶接電流として交流を発生する交流発生装置を備え、上記交流発生装置から第1の溶接電極と第2の溶接電極を通じワークに交流の溶接電流を供給することを特徴とする永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項15】
上記溶接電流は、通電開始直後の半サイクルの極性と、通電終了直前の半サイクルの極性とが異なる電流波形であることを特徴とする請求項14記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項16】
上記溶接電流は、振幅が時間の経過に伴って減衰していく電流波形であることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項17】
上記溶接電流は、振幅が時間の経過に伴って上昇していく電流波形であることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項18】
上記溶接電流の通電開始直後の半サイクルの極性と、振幅が最大となる最初の半サイクルの極性とが異なる電流波形であることを特徴とする請求項17記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項19】
上記溶接電流の上記振幅が最大となる半サイクルの波数が奇数であることを特徴とする請求項18記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項20】
上記溶接電流の通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅が最大であることを特徴する請求項18又は請求項19記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項21】
上記溶接電流の通電開始直後の半サイクルの振幅が、上記通電開始直後から数えて第2番目の半サイクルの振幅の1/3〜2/3の範囲に有ることを特徴とする請求項20記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項22】
上記溶接電流は、振幅が時間の経過に伴って一旦上昇した後に減衰していく電流波形であることを特徴とる請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項23】
上記溶接電流は、少なくとも振幅が最大となる半サイクルのピーク電流値が、所定の時間持続する電流波形であることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項24】
上記ワークは、上記一方の金属部材と上記他方の金属部材のいずれかの溶接面に、突起部とその突起部の周囲を囲む溝とが形成されていることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項25】
上記両溶接電極は、それぞれ上記一方の金属部材と上記他方の金属部材に対して上記ワークの一端部側に配置され、かつ、上記一方の金属部材と上記他方の金属部材とのそれぞれの当接端間には上記永久磁石材を介さないように配置されていることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項26】
上記第1の溶接電極及び上記第2の溶接電極により、複数の溶接部を同時に溶接することを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。
【請求項27】
上記ワークは、回転電機の回転子であることを特徴とする請求項15記載の永久磁石材を有する金属部材の溶接装置。

【国際公開番号】WO2005/072902
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517422(P2005−517422)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000693
【国際出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】