説明

汚染区域の遮水方法

【課題】汚染区域の地中に有害物質を封じ込め、有害物質が地下水の流れに乗って上昇して地表に達するのを阻止する。
【解決手段】不透水層2の上部に帯水層3が積層され、この帯水層3の上部に盛土層4が積層され、少なくとも帯水層3の土壌及び帯水層3を流通する地下水が汚染された汚染区域1の遮水方法であって、汚染区域1の所定の位置に、地上から盛土層4及び帯水層3を貫通して下端が不透水層2に達する遮水壁10を設け、この遮水壁10によって囲まれる部分の地中に遮水性及び可撓性を有するメンブレン6を、その端部が遮水壁10の内側面に水密に接合されるように敷設する。遮水壁10の内側の部分をメンブレン6によって上層部分7と下層部分8とに水密に区画することができるので、メンブレン6の下方の下層部分8の地中に有害物質を封じ込め続けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌及び地下水が有害物質で汚染された汚水区域の遮水方法に関し、特に、有害物質を地中に封じ込めるのに好適な汚染区域の遮水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、化学工場等の跡地のように、地中に有害物質により汚染された土壌や地下水が残存する汚染区域では、汚染された土壌や地下水の浄化処理に高額な費用がかかるため、汚染区域を囲むように遮水壁を設け、遮水壁の内側の区域の地中に有害物質を封じ込め、有害物質が遮水壁の外側に拡散するのを防止している。
【0003】
このような有害物質を地中に封じ込める方法の一例が特許文献1に記載されている。この方法は、有害物質により汚染された土壌が存在する汚染区域に、汚染された土壌を囲むように遮水壁を設け、汚染された土壌の上部に、砂あるいは砂礫からなる遮断層と、粘性土を含む遮水層と、砂あるいは砂礫からなる排水層とをそれらの順に堆積して複合遮水層を形成し、複合遮水層の上部に良質の土からなる表層を積層したものであって、複合遮水層により有害物質の毛管上昇を防ぐことにより、有害物質を複合遮水層の下方の地中に封じ込めるように構成したものである。
【特許文献1】特開2003−1212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成の方法にあっては、複合遮水層により、複合遮水層の下方の地中に封じ込めた有害物質が毛管上昇によって地表まで上昇するのを防止できるが、地震の発生によって複合遮水層の粘性土を含む遮水層にクラックが生じた場合に、クラックを介して複合遮水層の上下間で雨水及び地下水が流通してしまい、複合遮水層の下方の地中に封じ込めた有害物質が地表まで上昇してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、地震の発生の有無に関わらずに、有害物質を地中に封じ込め続けることができる汚染区域の遮水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、不透水層の上部に帯水層が積層され、該帯水層の上部に盛土層が積層され、少なくとも前記帯水層の土壌及び前記帯水層を流通する地下水が汚染された汚染区域の遮水方法であって、前記汚染区域の所定の位置に、地上から前記盛土層及び前記帯水層を貫通して下端が前記不透水層に達する遮水壁を設け、該遮水壁によって囲まれる部分の地中に遮水性及び可撓性を有するメンブレンを、その端部が前記遮水壁の内側面に水密に接合されるように敷設したことを特徴とする。
【0007】
本発明の汚染区域の遮水方法によれば、少なくとも帯水層の土壌及び帯水層を流通する地下水が有害物質により汚染された汚染区域の所定の位置に、地上から盛土層及び帯水層を貫通して下端が不透水層に達する遮水壁を設け、この遮水壁によって囲まれる部分の地中に遮水性及び可撓性を有するメンブレンを、その端部が遮水壁の内側面に水密に接合されているように敷設したので、遮水壁によって囲まれる部分をメンブレンによって上下方向に上層部分と下層部分とに水密に区画することができる。
従って、上層部分と下層部分との間での雨水及び地下水の流通を規制することができるので、上層部分に浸透する雨水がメンブレンを越えて下層部分の地下水に混入することはなく、また、下層部分を流通する地下水がメンブレンを越えて上層部分に流出することはなく、地下水の流れに乗って有害物質がメンブレンを越えて上層部分の地表まで上昇することはなく、有害物質をメンブレンの下方の下層部分の地中に封じ込め続けることができる。
【0008】
また、本発明は、前記メンブレンは、前記帯水層の地中、前記帯水層と前記盛土層との境界部、又は前記盛土層の地中に略水平に敷設されていることを特徴とすることとしてもよい。
【0009】
また、本発明は、前記メンブレンは、弛みが生じた状態で敷設されていることを特徴とすることとしてもよい。
【0010】
本発明の汚染区域の遮水方法によれば、メンブレンは、弛みが生じた状態で敷設されているので、地震の発生時に地盤が変動した場合に、その変動に追従してメンブレンの弛みの部分を伸縮変形させて、メンブレンの各部に過大な引張力が加わるのを防止でき、メンブレンの各部が損傷、破損等するのを防止できる。
従って、地震の発生の有無に関わらず、有害物質をメンブレンの下方の下層部分の地中に封じ込め続けることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上、説明したように、本発明の汚染区域の遮水方法によれば、汚染区域の所定の位置に、地上から盛土層及び帯水層を貫通して下端が不透水層に達する遮水壁を設け、この遮水壁によって囲まれる部分の地中に遮水性及び可撓性を有するメンブレンを、その端部が遮水壁の内側面に水密に接合されるように敷設したので、メンブレンの下方の地中に有害物質を封じ込め続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図4には、本発明による汚染区域の遮水方法の一実施の形態が示されている。図1は本発明による汚染区域の遮水方法の一例を示す概略断面図、図2は図1の平面図、図3は遮水壁とメンブレンとの接合部を示す説明図、図4はメンブレンの弛みの部分を示す説明図である。
【0013】
すなわち、本実施の形態の汚染区域の遮水方法は、化学工場等の跡地のように、地中に有害物質(重金属、有機溶剤、農薬、油等、以下、同じ。)により汚染された土壌や地下水が残存する汚染区域に適用可能なものであって、汚染区域の地中に有害物質を封じ込めることにより、有害物質が汚染区域の地表まで上昇するのを防止するのに有効なものである。
【0014】
汚染区域1は、図1に示すように、例えば、不透水層2と、不透水層2の上部に積層される帯水層3と、帯水層3の上部に積層される盛土層4と、盛土層4の上部に積層されるアスファルト舗装、コンクリート舗装等からなる表層5とを備えており、本実施の形態においては、帯水層3及び盛土層4の土壌中及び帯水層3を流通する地下水中に有害物質21が残存している。
【0015】
上記のような構成の汚染区域1において、本発明による汚染区域の遮水方法を実施するには、図1及び図2に示すように、まず、汚染区域1の所定の位置(遮水方法を適用する位置)に、地上から表層5、盛土層4、及び帯水層3を貫通して先端が不透水層2に達する遮水壁10を環状に設ける。
【0016】
ここで、遮水壁10を構成する材料としては、例えば、鋼矢板、鋼管矢板、コンクリート矢板等が挙げられる。本実施の形態においては、図3に断面で示すように、ウエブ11aと、フランジ11bと、フランジ11bの両端部に設けられる継手11cとからなる略コ形状の鋼矢板11を用い、この鋼矢板11を互い違いになるように打設し、隣接する鋼矢板11、11の継手11c、11c同士を互いに接合することにより、遮水壁10を構成している。
【0017】
次に、遮水壁10によって囲まれた内側の部分を有害物質21が残存している層(盛土層4又は帯水層3)まで掘削し、有害物質21によって汚染されている層(盛土層4又は帯水層3)の土壌の表面を露出させ、露出させた土壌の全表面を閉塞するようにメンブレン6を敷設する。
【0018】
本実施の形態においては、盛土層4及び帯水層3の両方の土壌が有害物質21で汚染されている場合を想定しているので、盛土層4の汚染されている土壌の部分まで掘削し、有害物質21により汚染されている土壌の表面を露出させ、その露出させた土壌の表面にメンブレン6を敷設している。
【0019】
ここで、メンブレン6は、遮水性及び可撓性を有するシート状をなすものであって、例えば、ポリエチレン系遮水シート、ポリプロピレン系遮水シート、ゴム系遮水シート、アスファルト系遮水シート、それらを複合した複合系遮水シート等の各種の遮水シートによって構成されている。但し、これらに限定することなく、同様の機能を有するものであればよい。
【0020】
メンブレン6は、有害物質21により汚染された土壌の全表面を閉塞するように敷設するが、1枚のメンブレン6では汚染された土壌の全表面を閉塞しきれない場合には、複数枚のメンブレンン6を端部同士が互いに重合するように敷設し、重合部を接着、熱融着等の接合手段によって水密に接合する。
【0021】
また、メンブレン6は、有害物質21により汚染された土壌の全表面を閉塞するように、汚染された土壌の全表面に一層に、又は複数層に敷設する。複数層に敷設する場合には、隣接するメンブレン6間に所定の間隙を形成し、その間隙内に不織布等の緩衝材を介装させるように構成してもよい。
【0022】
さらに、図4に示すように、弛み6aが形成されるようにメンブレン6を敷設する。このように弛み6aが形成されるようにメンブレン6を敷設することにより、地震の発生時に地盤が変動した場合に、その変動に追従してメンブレン6の弛み6aの部分を伸縮変形させることができるので、メンブレン6の各部に過大な引張力が加わるのを防止でき、メンブレン6の各部が損傷、破損等するのを防止できる。
【0023】
メンブレン6の端部は、図3に示すように、遮水壁10の内側面に接合手段12を介して水密に接合され、メンブレン6の端部と遮水壁10の外側面との間を介して上下方向に雨水及び地下水が流通するのが規制されている。
【0024】
接合手段12は、例えば、一方の面が遮水壁10の内側面に合致する凹凸形状に形成され、一方の面の凹凸を遮水壁10の外側面に嵌合させた状態で、遮水壁10の外側面に溶接等により一体に接合される鋼製の板状の内側板14と、内側板14の外側にボルト・ナット16により連結される鋼製の板状の外側板15とからなる接合部材13と、内側板14と外側板15との間に介装されるシール部材(図示せず)とから構成される
【0025】
接合手段12の内側板14と外側板15との間にシール部材を介してメンブレン6の端部を介装させ、この状態で外側板15を内側板14にボルト、ナット16により連結することにより、メンブレン6の端部が遮水壁10の内側面に水密に接合される。
なお、接合手段12は、上記のような構成のものに限らず、メンブレン6の端部を遮水壁10の内側面に水密に接合できるものであればよい。
【0026】
上記のように、遮水壁10によって囲まれた内側の部分にメンブレン6を略水平に敷設して、有害物質21により汚染された土壌の全表面を閉塞した後に、掘削して取り除いた土(有害物質21の含まれてない土)をメンブレン6の上部に埋め戻して所定の厚さの盛土層4を形成し、盛土層4の上部にアスファルト舗装、コンクリート舗装等を敷設して所定の厚さの表層5を形成する。
【0027】
上記のように構成した本実施の形態による汚染区域の遮水方法にあっては、汚染区域1の所定の位置に遮水壁10を設けて、遮水壁10によって囲まれた部分にメンブレン6を敷設し、その部分をメンブレン6によって上下方向に上層部分7と下層部分8とに水密に区画し、メンブレン6の下方の下層部分8の地中に有害物質21を封じ込めるように構成したので、地上で降った雨水が上層部分7に浸透しても、その雨水が上層部分7からメンブレン6を越えて下層部分8に流入するようなことはなく、また、下層部分8を流通する地下水がメンブレン6を越えて上層部分7に流通することもない。
【0028】
従って、地上に降った雨水が下層部分8の地下水に混入して地下水の水位が上昇するようなことはないので、地下水の流れに乗って下層部分8に残存している有害物質21がメンブレン6を越えて上層部分7まで上昇し、上層部分7の地表に達するようなことはなく、長期に亘って有害物質21をメンブレン6の下方の下層部分8の地中に封じ込め続けることができる。
【0029】
また、メンブレン6に弛み6aを設けているので、地震の発生によって地盤が変動しても、その地盤の変動に追従してメンブレン6の弛み6aの部分を伸縮変形させることができるので、メンブレン6の各部に過大な引張力が加わることはなく、メンブレン6の各部が損傷、破損等することはなく、長期に亘ってメンブレン6の下方の下層部分8の地中に有害物質を封じ込め続けることができる。
【0030】
さらに、遮水壁10によって囲まれた内側の部分をメンブレン6によって上層部分7と下層部分8とに水密に区画し続けることができるので、地震の発生時に液状化現象が生じても、液状化した土壌をメンブレン6の下方に封じ込めることができるので、液状化した土壌がメンブレン6を越えて上層部分7まで上昇するようなことはない。
【0031】
なお、前記の説明においては、遮水壁10の内側の部分を、有害物質21により汚染されている層まで掘削してメンブレン6を敷設したが、遮水壁10の内側の部分を掘削せずにメンブレン6を直接に敷設し、その上部に盛土層4及び表層5を積層するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による汚染区域の遮水方法の一実施の形態を示した概略断面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の遮水壁とメンブレンとの接合部を示した説明図である。
【図4】メンブレンの弛みの部分を示した説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 汚染区域
2 不透水層
3 帯水層
4 盛土層
5 表層
6 メンブレン
6a 弛み
7 上層部分
8 下層部分
10 遮水壁
11 鋼矢板
11a ウエブ
11b フランジ
11c 継手
12 接合手段
13 接合部材
14 内側板
15 外側板
16 ボルト・ナット
21 有害物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透水層の上部に帯水層が積層され、該帯水層の上部に盛土層が積層され、少なくとも前記帯水層の土壌及び前記帯水層を流通する地下水が汚染された汚染区域の遮水方法であって、
前記汚染区域の所定の位置に、地上から前記盛土層及び前記帯水層を貫通して下端が前記不透水層に達する遮水壁を設け、該遮水壁によって囲まれる部分の地中に遮水性及び可撓性を有するメンブレンを、その端部が前記遮水壁の内側面に水密に接合されるように敷設したことを特徴とする汚染区域の遮水方法。
【請求項2】
前記メンブレンは、前記帯水層の地中、前記帯水層と前記盛土層との境界部、又は前記盛土層の地中に略水平に敷設されていることを特徴とする請求項1に記載の汚染区域の遮水方法。
【請求項3】
前記メンブレンは、弛みが生じた状態で敷設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染区域の遮水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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