説明

汚泥の脱水方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、最適使用範囲の細分化された多くの凝集剤の中から最適凝集剤を選定し、また汚泥の性状変化に対応して凝集剤を変更するという多大な労力を要する作業を軽減することにあり、この発明は、汚泥性状の広い範囲、特に汚泥pH域の広い範囲に実際に適用でき、これにより最適凝集剤の選定が容易で、かつ汚泥性状が変動しても、凝集剤を変更することなく、汚泥性状の変動を受け難い凝集剤を用いた汚泥の脱水方法を提供することにある。
【解決手段】
汚泥にカチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤の内の少なくとも一種を添加して処理するに際し、カチオン性及び/または両性系架橋高分子を共存させることによって、該架橋高分子を添加しない場合と比較して、適用できる汚泥pH範囲が飛躍的に拡大することを見出した。本発明の方法により、最適薬剤の選定や汚泥性状の変動時の対応が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥の脱水方法に関するものであり、詳しくはカチオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤の少なくとも一種とカチオン性及び/または両性架橋高分子とを併用することによる汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市下水やし尿処理場から発生する汚泥は、有機分の高含有化が進み、また汚泥の集中処理による輸送時間の増大などが重なって、ますます難脱水となってきている。一方、脱水ケーキの最終処分としての乾燥、焼却に要するエネルギーを極力少なくすることが望ましく、脱水ケーキの含水率を出来るだけ下げることが重要な課題となっている。そのため、
凝集剤の選定では、脱水ケーキの含水率が最も重要であるが、その他にSS回収率、凝集フロック径、ろ過性、脱水ケーキの剥離性、凝集剤添加量なども重要な選定因子であり、脱水機に適合した脱水性のよい凝集汚泥を形成すること、低コストであることなどを総合的に考慮して、凝集剤の選定が行われている。
【0003】
この課題に対応するため、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、無機凝集剤、さらにその組合せを含め、数多くの凝集剤系が提案され、実際に用いられている。高分子凝集剤による凝集性と凝集物の脱水性は種々の要因が関係するが、例えば汚泥のpHを例に取ると、凝集性、脱水性は汚泥のpHによっても大きく変わり、汚泥のpHは凝集反応を支配する因子の一つである。大きく分ければ、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤、両性凝集剤で、最適なpH範囲は大きく異なり、一般的にはカチオン系凝集剤はpH3〜10、アニオン系凝集剤はpH5〜12、ノニオン系凝集剤はpH3〜8、両性凝集剤はpH3〜9とされ、また、同じカチオン性凝集剤でも、構成されるカチオン種や構成単位の組成比等によって、最適pH範囲を含めて特性の異なる多くの種類のカチオン性凝集剤が準備されている。汚泥処理において、最良の効果を得ようとすると、実際にはこの最適pH範囲はさらに狭い範囲となる。凝集剤の選定にあたっては、pH範囲を含めて種々の要因を考慮して、ビーカー試験によって多くの凝集剤の中から候補薬剤を絞り、最終的に実機試験を行って最適薬剤を決定するという、多くの労力を要する方法が一般に行われている。
【0004】
一方、都市下水やし尿処理場から発生する汚泥は、有機分の高含有化が進み、また汚泥の集中処理による輸送時間の増大などが重なって、ますます難脱水となってきているのと同時に、季節的要因や天候、その他の要因で汚泥の性状が変化し、それに伴って汚泥pHも変動する。この汚泥性状の変動という点では、飲料水を含めた食品工場、畜産関係、農業集落排水等の比較的小規模の廃水処理場では特に大きく、しばしば問題となる。この汚泥の変動に際しては、その変動の大きさによって凝集汚泥の性状にまで影響が及び、汚泥処理量、脱水ケーキ含水率、SS回収率、ケーキの濾布からの剥離性などが悪化し、使用している凝集剤の見直しが必要となる場合があり、その時点で最適な凝集剤に変更することが行われているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、以上のように最適使用範囲の細分化された多くの凝集剤の中から最適凝集剤を選定し、また汚泥の性状変化に対応して凝集剤を変更するという多大な労力を要する作業を軽減することにあり、この発明は、汚泥性状の広い範囲、特に汚泥pH域の広い範囲に実際に適用でき、これにより最適凝集剤の選定が容易で、かつ汚泥性状が変動しても、凝集剤を変更することなく、汚泥性状の変化に強い凝集剤を用いた汚泥の脱水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、汚泥にカチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤の内の少なくとも一種を添加して処理するに際し、カチオン性及び/または両性架橋高分子を共存させることによって、該架橋高分子を添加しない場合と比較して、適用できる汚泥pH範囲が飛躍的に拡大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下水処理場、し尿処理場、その各種廃水処理施設で発生する汚泥を脱水するに際し、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤の内の少なくとも一種とカチオン性及び/または両性系架橋高分子とからなる凝集剤を汚泥に添加し、脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法に関する。凝集剤の添加方法としては、各凝集剤を同一溶液に溶解して添加する方法、凝集剤の各溶液を同時に添加する方法、順次添加する方法など、いずれの方法でも同様の効果を得ることが出来る。
【0008】
本発明で使用する両性高分子凝集剤としては、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとノニオン性モノマーの共重合物、あるいはアニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物のマンニッヒ変性物またはホフマン分解物などを挙げることができる。具体的には、カチオン性モノマーとしては、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミドなどの3級化物あるいは4級化物が挙げられ、例えばジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの3級化物あるいは4級化物が具体例として挙げられるが、これらに限定されない。アニオン性ビニル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。ノニオン性ビニル系モノマーとしては、例えばアクリルアミド、メタクリルアミドなどのビニル基含有アミド類、さらにはビニル基含有ニトリル類、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
本発明で使用するカチオン性高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートまたはそれらの4級塩もしくは3級塩の単独重合物、あるいはそれらとアクリルアミドまたはメタクリルアミドとの共重合物、ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドのホフマン分解物、ポリアミジンなどが挙げられる。
【0010】
本発明で使用するカチオン性及び/または両性架橋高分子は、カチオン性高分子、両性高分子を構成する単量体の単一または混合溶液に、アルデヒド等の架橋剤を添加して、乳化重合等によって架橋重合させた架橋高分子であり、好ましい架橋高分子としてアクリレート系またはメタクリレート系架橋高分子が挙げられる。
【0011】
本発明において、各凝集剤、高分子を汚泥に添加する場合、最適な方法は汚泥性状によっても異なるが、カチオン性高分子凝集剤および/または両性高分子凝集剤、カチオン性および/または両性架橋高分子を同一水溶液に溶解して添加することが好ましい。あるいは、カチオン性高分子凝集剤および/または両性高分子凝集剤に次いでカチオン性および/または両性架橋高分子を逐次添加することも可能である。
【0012】
本発明で使用する高分子凝集剤、架橋高分子の添加量は、高分子凝集剤全量:架橋高分子=1:0.1〜1(重量比)の割合が好ましく、高分子凝集剤と架橋高分子の合計量として、汚泥固形分に対して0.1〜3重量%を汚泥に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、カチオン性高分子凝集剤および/または両性高分子凝集剤を用いて汚泥の処理を行うに当たり、カチオン性および/または両性架橋高分子を共存させることによって、カチオン性および/または両性架橋高分子を共存させない場合に比較して、汚泥性状のより広い範囲で十分に実用的な効果が得られることを特徴とし、従って最適薬剤の選定が容易になると共に、汚泥性状の比較的大きな変動でも、それを吸収し、薬剤の変更を必要としないなどの大きな利点を有する処理方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0014】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各実施例、比較例に使用した高分子凝集剤および架橋高分子を表−1に示した。
【表−1】

【実施例1】
【0015】
混合生汚泥(pH:5.98、TS:8500mg/L、SS:5910mg/L、VTS:84.8%、Mアルカリ度:402mg/L、粗繊維:6.7%SS)の一定量をビーカーに取り、pHをポリ鉄あるいはNaOHで調整して、pH5.16〜8.00の範囲で変化させ、アクリレート系カチオン凝集剤ACとアクリレート系架橋高分子CLとを5:5(重量比)で混合した凝集剤組成物を1.88%(対TS)添加して凝集・脱水試験を行い、フロック径、ろ液SS量、ケーキ含水率を測定した。アクリレート系カチオン凝集剤単独の場合と比較した結果を表−2に示す。表より明らかな通り、アクリレート系架橋高分子を添加した凝集剤組成物の場合、アクリレート系凝集剤単独の場合に比較して、ケーキ含水率、フロック径、分離液SS量のいずれも、pHの変動に対して、変動幅が極めて小さく、しかも特にフロック径、分離液SS量で良好な値が得られることが分かる。
【表−2】

【実施例2】
【0016】
混合生汚泥(pH:5.98、TS:8500mg/L、SS:5910mg/L、VTS:84.8%、Mアルカリ度:402mg/L、粗繊維:6.7%SS)の一定量をビーカーに取り、pHをポリ鉄あるいはNaOHで調整して、pH5.16〜8.00の範囲で変化させ、ポリアミジン系カチオン凝集剤PAとアクリレート系架橋高分子CLとを50:50(重量比)で混合した凝集剤組成物を1.88重量%(対TS)添加して凝集・脱水試験を行い、フロック径、ろ液SS量、ケーキ含水率を測定した。その結果を表−3に示す。表より明らかな通り、アクリレート系架橋高分子を添加した凝集剤組成物の場合、ポリアミジン系凝集剤単独の場合に比較して、特にフロック径、分離液SS量において、pHの変動に対して、変動幅が小さく、しかも良好な値が得られることがわかる。
【表−3】

【実施例3】
【0017】
混合生汚泥(pH:5.98、TS:8500mg/L、SS:5910mg/L、VTS:84.8%、Mアルカリ度:402mg/L、粗繊維:6.7%SS)の一定量をビーカーに取り、pHをポリ鉄あるいはNaOHで調整して、pH5.16〜8.00の範囲で変化させ、両性凝集剤AMとアクリレート系架橋高分子CLとを50:50(重量比)で混合した凝集剤組成物を1.88重量%(対TS)添加して凝集・脱水試験を行い、フロック径、ろ液SS量、ケーキ含水率を測定した。その結果を表−4に示す。表より明らかな通り、アクリレート系架橋高分子を添加した凝集剤組成物の場合、両性凝集剤単独の場合に比較して、ケーキ含水率、フロック径、分離液SS量のいずれも、pHの変動に対して変動幅が小さく、しかも良好な値が得られることがわかる。
【表−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤の内の少なくとも一種とカチオン性および/または両性アクリレート系架橋高分子とからなる凝集剤を汚泥に添加し、脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法。

【公開番号】特開2006−187688(P2006−187688A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382883(P2004−382883)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(598044257)カヤフロック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】