説明

沈下防止杭の造成方法及び沈下防止杭

【課題】 従来工法に比べ、場所打ち杭に大きい軸力が作用した場合も、場所打ち杭の沈下を低減することができる沈下防止杭の造成方法を提供すること。
【解決手段】 掘削孔底部に砂利を敷設して砂利層を形成した後、柱主筋と帯筋とから組み立てられた鉄筋籠と注入管とを掘削孔に挿入する。注入管が砂利層に差し込まれるように、注入管の先端は鉄筋籠から所定長突出させる。次に、鉄筋籠内部にコンクリート打設用のトレミー管を設置してコンクリートを打設し、所定のコンクリート強度が発現するまでコンクリートの養生を行う。続いて、グラウト材をグラウトポンプからバルブを介して掘削孔底部に注入し、砂利層の空隙に充填する。グラウト材の注入が完了したと判断すると、次に、グラウト材に圧力をかけた状態で地上部のバルブを閉め、グラウト材を内圧を保持した状態で固化し、支持地盤体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沈下防止杭の造成方法及び沈下防止杭に係り、場所打ち杭の先端部にグラウト材を圧入して、杭先端付近の地盤の改良と締固めを行い、杭に上向きの力を作用させて沈下を防止する沈下防止杭の造成方法と、同方法で造成された沈下防止杭に関する。
【背景技術】
【0002】
場所打ちコンクリート杭工法(以下、場所打ち杭工法とする)は大口径杭の施工が容易であることから、大きな支持力が必要な高層建築物等の基礎工法として広く用いられている。特に建築の分野では、杭の先端部の径を拡大して、大きな支持力を有した場所打ち拡底杭が多く採用されている。
【0003】
一般に、場所打ち杭工法は掘削時に周辺地盤を乱して応力解放を伴うため、先端支持力が発揮されるまでに、場所打ち杭にはかなりの沈下を伴うという欠点を有している。例えば、地盤の極限支持力時までに発生する場所打ち杭の沈下量は、杭径の10%程度に達するとされている。また、正常に管理された施工においても、数cmオーダーの沈下が生じることが多い。そのため、上部構造の構築に伴い杭位置や軸力の違いによる不同沈下が発生し、不具合を生じる場合があった。
【0004】
建築構造物の高層化・大スパン化に伴い、杭に期待される支持力は増大する傾向にある。そのため、場所打ち杭に大きい軸力が作用した場合も、従来の工法と比べて沈下量を低減することができる場所打ち杭工法が期待されている。
【0005】
図13は、施工された従来の場所打ち拡底杭の先端部を示した概念図である。この種の場所打ちコンクリート杭90の沈下の要因としては、例えば次のようなものが挙げられる。第一に、掘削孔底部の掘削土砂と孔壁保護泥水とが混じり合ったスライムに起因するものである。スライムが堆積した状態でコンクリートを打設した場合、支持力を十分に得ることができず、場所打ち杭90の沈下を招くことになる。第二に、掘削孔底部に形成された地盤の弱層部81に起因するものである。掘削孔底部は掘削によりその上面が乱され、地山強度に比べ弱い層が形成される。第三に、土砂掘削による応力開放に伴い、場所打ち杭90の先端付近の地山80に発生するゆるみ域86に起因するものである。掘削孔の土砂が掘削されると、土砂の自重や応力を伝達する媒体がなくなる。その結果、地山80の拘束圧が小さくなり、周辺地山80の膨張を招くことになる。この状態では、場所打ち杭90を支持する地山の剛性が低下しているため、上部構造物が構築されることによる荷重の増加に伴い場所打ち杭90に沈下が生じ、不同沈下等の不具合を発生させる。また、スライムおよび弱層部81が相乗的に沈下を引き起こす原因となることも多い。
【0006】
掘削孔底部に溜まったスライムの処理方法として、特許文献1には、回収したスライムを含む安定液の物性の測定結果を基に、スライムの取り出し手段を制御し、また、取り出し手段の上下動に水平移動を加えた制御を行うことにより、孔内のスライム除去が効率よく確実に行えるとする発明が開示されている。また、特許文献2では、テーパー部を有した場所打ち拡底杭の施工にあたり、掘削直後に掘削ビットや掘削バケットを引き上げることなくセメントミルク等を注入することにより、杭先端にスライムが狭在することが無く、また拡底地盤を緩めることも少ないので、本来の地盤強度に応じた杭の支持力が確保できるとしている。
【特許文献1】特開2005−213866号公報
【特許文献2】特開2004−263561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された発明では、スライムに起因する場所打ち杭の沈下を防ぐことは可能であるが、上述したその他の要因に起因する沈下を防ぐことはできない。また、特許文献2に開示された発明では、スライムの処理を行え、掘削底部の地盤を改良することにより場所打ち杭の沈下を低減することができる。しかし、建築物の高層化に伴い、杭の支持力が増大している傾向を考慮すると、場所打ち杭の沈下をより効果的に抑制する工法が望まれる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、従来工法に比べ、場所打ち杭に大きい軸力が作用した場合も、場所打ち杭の沈下を低減することができる沈下防止杭の造成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る沈下防止杭の造成方法は、鉄筋籠に支持させて、管底が杭底部に位置するグラウト材注入管を杭孔内に立設し、前記杭孔内に場所打ちコンクリートを打設後、前記注入管を介して前記杭底部にグラウト材を圧入し、前記グラウト材を、前記杭底部注入後も所定の内圧を保持したまま硬化させ、前記杭底部に支持地盤体を形成することを特徴とする。
【0010】
また上記目的を達成するため、本発明に第2の観点に係る沈下防止杭の造成方法は、鉄筋籠に支持させて、管底が杭底部に位置するグラウト材注入管を杭孔内に立設し、前記杭孔内に場所打ちコンクリートを打設後、前記注入管を介して前記杭底部から地盤にグラウト孔を削孔し、該グラウト孔にグラウト材を圧入し、前記グラウト材を、前記杭底部注入後も所定の内圧を保持したまま硬化させ、前記杭底部に支持地盤体を形成することを特徴とする。
【0011】
前記場所打ちコンクリートの打設前に前記杭底部に砂利層を形成し、該砂利層内の砂利間の空隙に前記グラウト材を圧入することが好ましい。
【0012】
前記砂利層内の外縁部に、ケーシング内に収容された圧力計を埋設し、前記グラウト材作用圧を測定することが好ましい。
【0013】
前記グラウト材を圧入する際の前記グラウト材作用圧は、前記場所打ち杭に作用する上向き力をもとに決定することが好ましい。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る沈下防止杭は、上述した造成方法により造成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、従来工法に比べ、場所打ち杭に大きい軸力が作用した場合も、場所打ち杭の沈下を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1(a)及び図1(b)は、それぞれ後述する別の施工手順で造成された場所打ち拡底杭10の杭底部を示した部分拡大概要図である。同図上部には後述する工程における鉄筋籠17と注入管20とが挿入された状態が示されており、場所打ち拡底杭10の底部には、最終工程を経て支持地盤体35が形成された状態が示されている。図1(c)は、図1(a)及び図1(b)中の矢視c−cで示した断面図である。図に示すように、主筋24と帯筋25とから組み立てられた鉄筋籠17に、4本の注入管20が主筋24に沿って所定位置に配設支持され、コンクリート19を打設して硬化した後、注入管20からグラウト材を圧入して場所打ち拡底杭の杭底部に支持地盤体35が形成する。以下、図面を用いて場所打ち拡底杭10の施工手順について説明する。
【実施例1】
【0017】
図2及び図3各図は、図1(a)に示した場所打ち拡底杭10を造成するために、アースドリル工法による場所打ち拡底杭10の施工工程を示した施工順序図である。なお、図2(a)〜(c)は従来の場所打ち拡底杭の施工工程と同様であるため、簡述する。
【実施例2】
【0018】
[表層掘削工程](図2(a))
底に刃の付いたドリルバケット13を回転させ、土砂をドリルバケット13内にかき込み排出しながら地盤を掘削する。ケーシング14の建込み予定深度まで地盤を掘削した後、孔壁保護を目的にケーシング14を鉛直に建てこむ
【0019】
[軸部掘削工程](図2(b))
ケーシング14の建て込みが完了すると、再度ドリルバケット13を回転させ、ベントナイト溶液からなる安定液15を注入しながら、所定の支持層深さまで掘削孔26を掘削する。
【0020】
[底部掘削、一次スライム処理工程](図2(c))
軸部の掘削が完了すると、掘削孔底部に拡底ドリルバケット16を据付け、底部の掘削孔径を拡大する。掘削孔径が所定の径に拡大すると、拡底ドリルバケット16を引き上げる。この段階で、掘削孔底部にはスライムが沈殿している場合が多いため、図示しない底ざらいバケットを使用してスライムを除去する(一次スライム処理)。
【0021】
[鉄筋籠、注入管の挿入工程](図2(d))
次に、注入管20が取り付けられた鉄筋籠17を掘削孔26に挿入する。注入管20は、例えばφ30〜φ50mmの鋼管を直切りに切断して形成されている。鉄筋籠17を掘削孔26に挿入した際に注入管20が掘削孔底部に密着するように、注入管20の先端は鉄筋籠17から所定長突出させるのがよい。
【0022】
[トレミー管の挿入、二次スライム処理工程](図3(a))
次に、鉄筋籠17内部にコンクリート打設用のトレミー管18を設置する。トレミー管18は数本の鋼管を接続して形成されており、上部にはコンクリート打設口としてホッパ27が取り付けられている。この時点で掘削孔底部にスライムが沈殿している場合は、サクションポンプ方式,エアリフト方式,サンドポンプ方式などの図示しない専用のスライム処理機により沈殿したスライムを吸い上げて除去する(二次スライム処理)。
【0023】
[コンクリート打設工程](図3(b))
続いて、ホッパ27からコンクリート19を流し込み、掘削孔にコンクリート19を打設する。図中の矢印は、コンクリート19の流れを示している。コンクリートを打設する際、トレミー管18の先端は常に打設しているコンクリート19の中に入っている状態を保ち、徐々にトレミー管18を引き上げながら連続的に所定位置までコンクリート19を打設する。これにより、安定液15とコンクリート19とが混ざらないようにすることができる。また、注入管20内部にコンクリート19が侵入しないように、注入管20を確実に掘削孔底部に密着する必要がある。例えば、コンクリート19の打設時に注入管20を下方に押し込み、注入管20の先端と掘削孔底部とを密着させるとよい。
【0024】
[コンクリート養生、グラウト材圧入機材の準備工程](図3(c))
コンクリート19の打設が終了すると、所定のコンクリート強度が発現するまでコンクリート19の養生を行う。所定のコンクリート強度とは、後述するグラウト材の注入時の圧力により、杭体のコンクリート部19に過度なひび割れが発生する等の不具合が生じない強度を言い、1〜2週間程度の養生期間を設ける。注入管20の上部には、後述するように注入管20内部の圧力を保持するため、バルブ23を取り付ける。地上にはグラウトポンプ21とグラウトミキサ22を配し、バルブ23を介してグラウトポンプ21と注入管20とを接続する。
【0025】
[グラウト材注入工程](図3(d))
グラウト材30は地上に配したグラウトミキサ22により混練され、グラウトポンプ21からバルブ23と注入管20を介して掘削孔底部に注入される。図中の矢印は、グラウト材30の流れを示している。グラウト材30は、掘削孔底部全体に行き渡らせるために流動性が良く、また、後述するように、グラウト材30圧入後に注入管20内の圧力を保持する必要があるため、十分粘性が高く、地山への浸透が少ないものが選定される。また、グラウト材30は、場所打ち拡底杭10の形成後の弱点にならないように、場所打ち拡底杭10本体を構成するコンクリート部19と同等以上の強度を有するものが望ましい。これらの条件を満たすグラウト材30としては、高強度のセメントペースト、または、混和材としてフライアッシュを添加したモルタル、または、増粘剤を加えたモルタル等が挙げられる。
【0026】
図4は、本実施例の特徴部分を構成する、グラウト材30が注入管20を介して地山80に注入された状態に着目し、掘削孔底部付近を示した施工順序図である。図4(a)はグラウト材30の注入開始直後の状況を示している。なお、注入管20内の矢印はグラウト材30の流れを示している。グラウト材30は、地上に配されたグラウトポンプ21(図3(c))から注入管20を介し、掘削孔底部に圧入される。注入されたグラウト材30は、地山80を押し付けながら掘削孔底部に広がっていく(一部は地山80に浸透する)。この時、掘削孔底部に形成した弱層部81(図13)が掘削孔底部から押し出されて排除され、あるいはグラウト材30により改良が行われ、支持地盤体35が形成される。
【0027】
図4(b)はグラウト材30の注入が進行し、支持地盤体35が拡大しつつある状況を示している。支持地盤体35はグラウト材30の注入により、掘削孔底部の全体にわたり形成されることになる。グラウト材30にはグラウトポンプ21(図3(c))により圧力がかけられているため、支持地盤体35の上下面には掘削孔底部の地山80の押下げ力36Dと、それと相反する場所打ち拡底杭10の押し上げ力36Uとがその上下方向に作用する。
【0028】
図4(c)はグラウト材30の注入が終了し、形成された支持地盤体35の全体が示されている。掘削孔底部に広がった支持地盤体35の下方には、グラウト材30の圧力により地盤が締め固められた地盤領域85が形成される。グラウト材30の注入時は前述のように内圧が発生しているが、場所打ち拡底杭10を押し上げる力を維持するためには、グラウト材30の注入完了後もこの内圧を保持することが必要となる。グラウト材30の注入圧力は、図示しない圧力測定器により計測する。所定の圧力でグラウト材30を注入し、設定したグラウト材30の内圧が一定時間変動せずに一定の状態になると、グラウト材30の注入が完了したと判断する。そして、グラウト材30が固化する前の支持地盤体35に圧力をかけた状態で地上部のバルブ23(図3(c))を閉めることにより、支持地盤体35への作用圧を保持する。
【0029】
上述した杭底に作用する上向き力は、杭の周面摩擦力として周面地盤に伝達され、その多くは場所打ち拡底杭10の拡底部側面に作用する。そのため、この上向きの力と釣り合う以上の下向き荷重が作用するまでは、場所打ち拡底杭10は沈下することがない。
【0030】
以上のように、本発明の実施形態に係る沈下防止杭の構成により、次のような効果を得ることができる。
(1)掘削孔底部に残ったスライムと、掘削孔底部の弱層部とを、グラウト材を注入することにより、改良して固化することができる。
(2)グラウト材を圧入することにより、掘削孔底部にひろがったゆるみ域を締め固めることができる。
(3)グラウト材の注入圧力により、場所打ち拡底杭には上向きの力を作用させることができる。この上向きの力と釣り合う以上の下向き荷重が作用するまでは、杭が沈下することがない。
これらの効果から明らかなように、本発明では、従来工法に比べ、場所打ち杭に大きい軸力が作用した場合も、場所打ち杭の沈下を低減することができる。
【0031】
上述の実施例では、注入管内部にコンクリートの侵入を防止するため、注入管を掘削孔底部に密着させてコンクリートを打設する方法について説明した。しかし、次のような方法を併用すると、より確実にコンクリートの進入を防ぐことができる。図5各図は注入管のコンクリート侵入防止対策の例を示した概略図である。例えば、図5(a)は、注入管20の先端部にフランジ31を取り付け、そのフランジ31と取り合うように逆止弁32を取り付ける例を示している。また、他の方法として、図5(b)に示すように、注入管20先端を低強度の固化物33で封印して、コンクリート打設後に取り除くようにしてもよい。また、図5(c)に示すように、注入管20先端にシース管34を移動可能に取り付けたり、伸縮自在な部材(例えば伸縮継手等)を取り付けると、注入管20の先端部と掘削孔底部との密着をより確実なものとすることができる。
【0032】
また、次のような方法によっても本発明を実施することができる。以下、他の実施例について説明する。
【実施例3】
【0033】
本実施例における杭の施工手順は、実施例1で説明した図2(a)〜図3(a)までとは同様である。図6各図は掘削孔にコンクリート打設した後の施工手順を示した施工順序図である。図6(a)に示すように、コンクリート部19に所定の強度が発現して注入管20がコンクリート部19内に固定されると、注入管20の中から掘削孔底部の下方に位置する地山80にボーリングを行う。この際、注入管20をガイドパイプとすることができるため、ボーリング孔29は容易にかつ正確な位置に施工することができる。このボーリング作業により、注入管20内に進入したコンクリート19を除去することができる。また、グラウト材30を掘削孔底部の下方に位置する地山80の深くまで圧入することができる。ボーリング孔29が形成されると、図6(b)に示すように、実施例1で記述したグラウト材30を、地上に配されたグラウトポンプ21(図3(c))から注入管20を介してボーリング孔29に圧入する。このボーリング孔29に注入されたグラウト材30は、地山80を押し付けながらボーリング孔29と掘削孔底部に広がっていく(一部は地山80に浸透する)。グラウト材30はやがて掘削孔底部の全体に充填される。グラウト材30の注入圧力は、図示しない圧力測定器により計測する。所定の圧力でグラウト材30を注入し、未固化の支持地盤体35としての範囲での内圧が変動せず一定になると、グラウト材30の注入が完了したと判断する。そして、支持地盤体35に加圧した状態で地上部のバルブ23(図3(c))を閉めることにより、支持地盤体35への作用力を保持することが可能となる。図6(c)はグラウト材30の注入が終了し、所定範囲にわたり、支持地盤体35が形成された状況が示されている。実施例1と同様に、グラウト材30(支持地盤体35)に発生させた内部圧力により、場所打ち杭10の押上げ力36Uと、掘削孔底部の押下げ力36Dとが作用する。そして、掘削孔底部の下方には、締め固められた地盤領域85が形成される。以上により、本実施例も実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0034】
また、コンクリートを掘削孔内に打設する前に掘削孔底部に砂利を敷設して、砂利層による空隙を掘削孔底部全面に形成してもよい。以下、コンクリートを打設する前に、掘削孔底部に砂利を敷設して沈下防止杭を造成する方法について説明する。
【実施例4】
【0035】
本実施例における杭の施工手順は、実施例1で説明した図2(a)〜(c)までとは同様であるため、その後の施工手順について説明する。図7及び図8の各図は、掘削孔施工後の本実施例における杭の施工手順を示した施工順序図である。
【0036】
[支柱設置工程](図7(a))
まず、支柱28を図中矢印で示すように掘削孔26に挿入して、掘削孔底部の中心付近に支柱28の一端を到達させる。次に、支柱28の他端に打撃等を加え、掘削孔底部に支柱28の一端を貫入させる。これにより、支柱28は掘削孔底部に固定され、支柱28を掘削孔26内で自立させることができる。支柱28は、例えば、複数の鋼材が連結され形成されている。それぞれの鋼材の端部には、おねじ、或いはめねじが形成されおり、これらを突き合わせて螺合することで、支柱28の継ぎ目の凹凸の程度を小さくすることができる。これにより、後述する中穴金具52(図7(b))を、スムーズに支柱28に沿わして動かすことができる。
【0037】
[圧力計ケーシング設置アーム設置工程](図7(b))
次に、圧力計ケーシング設置アーム50(以下、単にケーシング設置アームと記す。)を、図中矢印で示すように、支柱28に沿わせながら掘削孔26に挿入する。
ケーシング設置アーム50は、例えば所定の長さを有した鋼材製アームがピン連結されて形成されており、先端(図中下端)から所定の位置に関節部となるピン結合部54を備えている。ケーシング設置アームの先端部50aには地上まで延びたワイヤ53が取り付けられており、このワイヤ53を引いたり緩めたりすることで先端部50aをピン結合部54を中心に回動させることができる。また、ケーシング設置アーム50には、支柱28を通すことができる開口を備えた中穴金具52が長さ方向に沿って複数取り付けられている。この中穴金具52を支柱28に通していくことで、ケーシング設置アーム50を支柱28に沿わせて掘削孔26に挿入することができる。さらに、ケーシング設置アーム50の先端には、把持部51が設けられている。把持部51は、ケーシング40を把持した状態でケーシング設置アーム50とともに掘削孔26を降下する。
【0038】
[ケーシング載置工程](図7(c))
先端が掘削孔底部に達するまでケーシング設置アーム50を降ろした後、地上でワイヤ53を引いて、ケーシング設置アームの先端部50aをピン結合部54を中心に回動させる。これにより、把持部51に把持されたケーシング40は、掘削孔底部の隅に移動する。続いて、把持部51にケーシング40の把持状態を解除させて、ケーシング40を掘削孔底部の隅に載置する。ケーシング40の載置が完了すると、ケーシング設置アーム50を掘削孔26から引き上げて、ケーシング40の載置工程が完了する。
【0039】
ここで、図7(c)の点線で囲んだ部分の拡大図を図9(a)及び図9(b)に示す。図9(a)に示すように、ケーシング設置アーム50は、ピン結合部54を挟んでワイヤ53と取り合う2つのピースを備えている。一方はピン結合部54よりも図中下方に位置し、ワイヤ53が締結されるワイヤ固定ピース55で、他方はピン結合部よりも図中上方に位置し、ワイヤ53の通し孔が明けられたワイヤ通しピース56である。そして、ワイヤ53の一端はワイヤ固定ピース55に締結される。また、ワイヤ53は、ワイヤ通しピース56に形成された通し孔に通されて地上まで延設されている。このような構成により、地上でワイヤ53を引くと、図9(b)に示すように、ケーシング設置アームの先端部50aはピン結合部54を中心に回動する。
把持部51は、ケーシング40を保持する短い把持爪を有し、この把持爪は地上から伝えられる油圧や電気信号を利用して遠隔操作することができる。上述のようにケーシング40を掘削孔底部の砂利層の外縁部の所定位置まで移動し、把持部51を遠隔操作してケーシング40の把持状態を解除し、ケーシング40を掘削孔底部の外縁部に載置する。これにより、後述するケーシング40内の圧力計42の測定結果から、グラウト材が掘削孔の外縁部まで確実に注入されているか判定することができる。
【0040】
ケーシング40内には、図9(c)及び(d)に示すように、圧力計42が収容されている。ケーシング40は、例えば、鋼管を切断して形成された胴板部43aと、砂利の進入を防ぎグラウト材の通過を許容するグラウト通過孔43aが形成された蓋43bとから形成されている。圧力計42は、例えば受圧板に作用する圧力を油圧に変換して測定する公知の土圧計が用いられ、ケーシング40内に進入したグラウト材の作用圧を測定する。また、圧力計42には、測定データを転送するための圧力測定用ケーブル41が繋がれている。圧力測定用ケーブル41は、胴板部43aを貫通して地上まで延設されており、圧力計42が測定したデータは、圧力測定用ケーブル41を介して地上に伝えられる。これにより、地上にいる作業者は、圧力計42が測定した圧力データを元に、グラウト材30の注入作業が順調に行なわれているか適宜確認することができる。また、圧力計42を容器43内に収容することで、圧力計42を後述する砂利や拡底ドリルバケットから防護するとともに、グラウト材に発生した作用圧を直接測定(砂利70が圧力計42に直接触れることによる誤計測を排除)することができる。また、他のグラウト作用圧の測定手段として、圧力水導管を用いることもできる。たとえば上述したグラウト作用圧の測定位置に、内部水で満たされた圧力水導管を設置し、グラウト注入時の圧力水導管内の水圧(あるいは水頭)を測定することで、グラウト作用圧を間接的に測定することもできる。この測定方法では、間接測定値が得られるが、測定装置が簡略化できるので、装置のコストダウンを図ることができる。
【0041】
[砂利投入工程、支柱撤去](図7(d))
続いて、砂利投入管60を掘削孔26に挿入していき、砂利投入管60の先端を掘削孔底部付近まで到達させる。なお、砂利投入管60を挿入する際は、ケーシング設置アーム50を挿入する際と同様に、砂利投入管60に取り付けられた中穴金具62を支柱28に通していくことで、砂利投入管60を支柱28に沿わせて掘削孔26に挿入することができる。次に、砂利投入管60の上部から砂利70(砕石でもよい)を投入し、掘削孔底部に砂利70を敷設する。砂利70は、後述するグラウト材が浸透しやすいように、寸法40〜60mm程度のものを選定するのが好ましい。砂利70を投入する際は、ケーシング設置アーム50と同様に、砂利投入管の先端部60aに定着したワイヤ63を引いたり緩めたりして、先端部60aを屈曲自在に操作しながら、砂利投入管60を支柱28周りに回動させて、砂利70を掘削孔底部に均一に敷設する。掘削孔底部に敷き詰める砂利層の厚さは、後述するコンクリートが砂利層に浸透する厚さ(50mm程度)から、グラウト材の浸透に供する砂利の厚さを考慮して、200〜300mm程度とするのが好ましい。掘削孔底部への砂利70の敷設が完了すると、砂利投入管60と支柱28とを掘削孔26から撤去する。
砂利投入管60は、砂利70により閉塞することがない径に設定されており、例えばφ200mm〜300mm程度の鋼管から形成されている。また、砂利投入管60には、先端(図中下端)から所定の位置にフレキシブル管64が介在している。このフレキシブル管64は、砂利投入管の先端部60aを屈曲自在に接続している。そして、先端部60aにワイヤ固定ピースを、フレキシブル管64よりも上部にワイヤ通しピース66を取り付け、これらのピースにワイヤ63を接続することで、地上でワイヤ63を引いたり緩めたりすることで、先端部60aを屈曲自在に操作することができる。
【0042】
[砂利敷均し工程](図8(a))
次に、掘削時に使用した拡底ドリルバケット16を掘削孔底部に据付ける。続いて、拡底ドリルバケット16の下部で敷設した砂利70を押さえながら、回転させて掘削孔底部に敷設した砂利70を均す。拡底ドリルバケット16を作動させる際は、拡底ドリルバケット16の拡径用羽を掘削時より小さめに拡げることで、拡底ドリルバケット16がケーシング40と圧力測定用ケーブル41とに接触することを防止する。
【0043】
[鉄筋籠、注入管の設置工程](図8(b))
次に、注入管20が取り付けられた鉄筋籠17を掘削孔26に挿入する。注入管20は、鉄筋籠17にその下端から所定長突出させて取り付けられている。注入管20が敷設された砂利70上に到達すると、鉄筋籠17を揺動させるか、あるいは注入管20の上部に打撃等を加えて、注入管20の先端を砂利70に貫入させる。鉄筋籠17は、上述した実施例1で示したものと同様の鉄筋籠を用いることができる。注入管20は、例えばφ30〜φ50mmの鋼管から形成され、砂利70中に差し込みやすくするため注入管20の先端は円錐状に加工されている。図10は、図8(b)中の点線で囲んだ部分の拡大図を示している。図に示すように注入管20の先端には、4つのグラウト材吐出孔20aが等角度ごとに形成されている。グラウト材吐出孔20aは、φ10〜20mm程度の大きさで形成されている。また、それぞれのグラウト材吐出孔20aは、注入管20の軸方向にずらして形成されている。
【0044】
[コンクリート打設工程](図8(c))
コンクリート打設工程は、実施例1と同様であるため、簡述する。まず、鉄筋籠17内部にコンクリート打設用のトレミー管18を設置する。次に、ホッパ27からコンクリート19を流し込み、掘削孔にコンクリート19を打設する。図中の矢印は、コンクリート19の流れを示している。コンクリートを打設する際、トレミー管18の先端は常に打設しているコンクリート19の中に入っている状態を保ち、徐々にトレミー管18を引き上げながら連続的に所定位置までコンクリート19を打設する。
【0045】
[コンクリート養生、グラウト材注入工程](図8(d))
コンクリート19の打設が終了すると、所定のコンクリート強度が発現するまで養生期間(1〜2週間程度)を設ける。地上にはグラウトポンプ21とグラウトミキサ22を配し、注入管20の上部にバルブ23を取り付け、このバルブ23を介してグラウトポンプ21と注入管20とを接続する。グラウト材30は地上に配したグラウトミキサ22により混練され、グラウトポンプ21からバルブ23と注入管20を介して掘削孔底部に注入される。図中の矢印は、グラウト材30の流れを示している。なお、本実施例で用いるグラウト材30は、実施例1で説明したグラウト材と同様である。
【0046】
図11は、本実施例の特徴部分を構成する、グラウト材30が注入管20を介して掘削孔底部に注入された状態に着目し、掘削孔底部付近を示した順序図である。図11(a)はグラウト材30の注入開始直後の状況を示している。なお、注入管20内の矢印はグラウト材30の流れを示している。グラウト材30は、地上に配されたグラウトポンプ21(図8(e))から注入管20を介し、掘削孔底部に注入する。注入したグラウト材30は、掘削孔底部に敷設した砂利層の空隙を充填していくとともに、一部は地山80に浸透する。そして、図11(b)に示すように、グラウト材30が砂利層の空隙を充填し、地山80にも浸透しなくなると、グラウトポンプ21からの注入圧によりグラウト材30の内圧が高められる。内圧が高められたグラウト材30は、掘削孔底部の地山80の押下げ力36Dと、それと相反する場所打ち拡底杭10の押し上げ力36Uとを作用する。そのため、場所打ち拡底杭10の下方には、グラウト材30により締め固められた地盤領域85が形成される。なお、上述したように、グラウト材30の内圧は砂利70内に埋設されたケーシング40で測定し、測定結果は圧力測定ケーブル41で伝送して地上で確認することができる。そのため、グラウト材30の内圧が一定時間変動せずに所定の圧力(2〜3MPa程度)で維持されていることが確認できると、グラウト材30の注入を止めてバルブ23(図8(d))を閉める。これにより、グラウト材30の内圧を高めた状態のままグラウト材30は固化するため、場所打ち拡底杭10の押し上げ力36Uを保持したまま支持地盤体35を形成することができる。
【0047】
図12は,本実施例で造成された場所打ち拡底杭10の杭底部を示した部分拡大概要図である。本実施例によれば、掘削孔底部に敷設した砂利層にグラウト材を充填する空隙を形成できるため、地山80の土質に依ることなく場所打ち拡底杭10の底部全域に支持地盤体35を形成することができる。そのため、場所打ち拡底杭10全体を押し上げる力を確実に作用させることができる。
【0048】
本実施例においては、先端が円錐状に加工された注入管20の使用について説明したが、上述した注入管20は一例を示したもので、他の例としては、例えば図5各図に示したように、先端にコンクリート侵入防止対策を施した注入管を用いてもよい。また、実施例2で説明したように、注入管をガイドパイプとして、掘削孔底部にボーリングを行なってもよい。
【0049】
以上の説明では、4本の注入管20を鉄筋籠17内部に配設した。しかし、注入管20の本数や径、材質等は、場所打ち拡底杭10の径やグラウト材30の注入圧力や掘削する地盤等の条件をもとに決定することが好ましい。そのため、上述した注入管20はその一例であり、上記実施例に限定するものではない。注入管20は、場所打ち杭10の形成後も場所打ち杭10の内部にとどまるため、グラウト材30注入時の圧力を受けるとともに、場所打ち杭10の一部として断面力を受け持つ。そのため、注入管20は材料強度が大きく、剛性の高い鋼管等を使用するのが好ましい。また、推定されるグラウト材30の注入量が多く、場所打ち杭10の径が大きい場合は、注入管20の数を増やしたり、注入管径を大きくするなど、施工上不具合が生じない範囲でこれらを自由に設定することが可能である。なお、グラウト材30を掘削孔底部に均等に充填するために、注入管20の数を増やす場合は、鉄筋籠17内部に等間隔に配置するのが望ましい。
【0050】
また、以上の説明では、場所打ち拡底杭を例に説明した。当然、杭径が変化しない場所打ち杭にも本発明の効果を享受することができる。
【0051】
また、これらの実施例では、場所打ち拡底杭の施工法としてアースドリル工法を例に挙げて説明したが、ベノト工法やリバース工法など、その他の機械掘削による場所打ち杭工法においても、本発明を実施することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例に係る沈下防止杭を示した部分構造図で、(a)は実施例1に示した造成方法によって形成された沈下防止杭、(b)は実施例3に示した造成方法によって形成された沈下防止杭、(c)は矢視c−cで示した断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る沈下防止杭の造成方法による施工手順(a)〜(d)を示した施工順序図。
【図3】本発明の実施例1に係る沈下防止杭の造成方法による施工手順(a)〜(d)を示した施工順序図。
【図4】本発明の実施例1に係る沈下防止杭の支持地盤体の形成状況(a)〜(b)示した説明図。
【図5】沈下防止杭の注入管先端のコンクリート侵入防止策(a)〜(c)を示した概略図。
【図6】本発明の実施例2に係る沈下防止杭の支持地盤体の形成状況(a)〜(c)を示した説明図。
【図7】本発明の実施例3に係る沈下防止杭の造成方法による施工手順(a)〜(d)を示した施工順序図。
【図8】本発明の実施例3に係る沈下防止杭の造成方法による施工手順(a)〜(d)を示した施工順序図。
【図9】掘削孔底部に圧力測定器を載置する手順を示した説明図(a)〜(b)と、載置する圧力測定器の詳細図(c)〜(d)。
【図10】注入管の先端部を示した一例で、(a)は側面図、(b)は矢視b−bで示した断面図。
【図11】本発明の実施例3に係る沈下防止杭の支持地盤体の形成状況(a)〜(b)を示した説明図。
【図12】本発明の実施例3に係る沈下防止杭の説明図。
【図13】従来の場所打ち拡底杭の杭先端に着目した概略図。
【符号の説明】
【0053】
10 場所打ち(拡底)杭
13 ドリルバケット
14 ケーシング
15 安定液
16 拡底ドリルバケット
17 鉄筋籠
18 トレミー管
19 コンクリート(部)
20 注入管
21 グラウトポンプ
22 グラウトミキサ
26 掘削孔
28 支柱
30 グラウト材
35 支持地盤体
40 ケーシング
50 圧力計ケーシング設置アーム
54 ピン結合部
60 砂利投入管
64 フレキシブル管
70 砂利
85 締め固められた地盤領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋籠に支持させて、管底が杭底部に位置するグラウト材注入管を杭孔内に立設し、
前記杭孔内に場所打ちコンクリートを打設後、前記注入管を介して前記杭底部にグラウト材を圧入し、
前記グラウト材を、前記杭底部注入後も所定の内圧を保持したまま硬化させ、前記杭底部に支持地盤体を形成することを特徴とする沈下防止杭の造成方法。
【請求項2】
鉄筋籠に支持させて、管底が杭底部に位置するグラウト材注入管を杭孔内に立設し、
前記杭孔内に場所打ちコンクリートを打設後、前記注入管を介して前記杭底部から地盤にグラウト孔を削孔し、該グラウト孔にグラウト材を圧入し、
前記グラウト材を、前記杭底部注入後も所定の内圧を保持したまま硬化させ、前記杭底部に支持地盤体を形成することを特徴とする沈下防止杭の造成方法。
【請求項3】
前記場所打ちコンクリートの打設前に前記杭底部に砂利層を形成し、該砂利層内の砂利間の空隙に前記グラウト材を圧入して、支持地盤体を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の沈下防止杭の造成方法。
【請求項4】
前記砂利層内の外縁部に、ケーシング内に収容された圧力計を埋設し、前記グラウト材作用圧を測定することを特徴とする請求項3に記載の沈下防止杭の造成方法。
【請求項5】
前記グラウト材を圧入する際の前記グラウト材作用圧は、前記場所打ち杭に作用する上向き力をもとに決定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の沈下防止杭の造成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項の造成方法によって造成されたことを特徴とする沈下防止杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−36010(P2009−36010A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119864(P2008−119864)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】