説明

油・油脂資化微生物およびそれを用いた廃水処理方法ならびに消臭方法

【課題】 食堂などの事業所などから排出される油脂などを含む廃油や、排水中の廃油や油脂成分、および有機廃棄物を分解することができる油脂資化微生物ならびにそれらを用いた排水処理方法ならびに悪臭消臭方法の提供。
【解決手段】油脂資化微生物群ならびにそれらの混合物を利用して、排水中の油脂などの廃油などを分解する。油脂などの廃油などを分解する油脂資化微生物としては、スフィンゴモナス(Sphingomonas) 属ならびに/もしくはノカルデイア(Nocardia) 属に属する新規油脂資化微生物、ノカルデイア(Nocardia) 属に属する菌株、スフィンゴモナス(Sphingomonas) 属ならびに/もしくはミクロバクテリウム(Microbacterium)属ならびに/もしくはバチルス(Bacillus)属に属する菌株との混合物が使用することができる。かかる微生物もしくはかかる混合物を用いた油脂などの廃油などを分解する排水処理方法ならびに悪臭消臭方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境や人体に影響を与えずに効率良く廃油や油脂などの油または有機廃棄物を分解するもしくは悪臭を消臭することができる油脂資化微生物およびそれを用いた廃水処理方法ならびに厨房などから発生する悪臭を消臭する消臭方法に関するものである。更に、この発明は、排水中の高濃度の有機廃棄物およびn−ヘキサン抽出物を効率良く分解する油脂資化微生物群およびそれを用いた廃水処理方法ならびに消臭方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業や経済の発展や食生活の変化などの人間活動が盛んになるにつれて、天然性有機廃棄物の量が増加してきている。特に、今般の食生活の欧米化による畜産製品の消費の爆発的な増加、さらにそれに伴う廃水には多量の油や油脂などの廃油などが含まれることとなった。レストラン、食堂、ホテル、給食センター、病院などの業務用の厨房を有する事業所等では大量の油脂や油などが使用され、それらの大量の油脂や油などが廃油として廃棄されている。当然、このような事業所等からの大量の廃水には多量の油や油脂などの廃油などが混入してくることになる。
【0003】
油脂や油などの廃油が混入した廃水は、一般的には、これまで海洋投棄や焼却などの方法で処理されてきた。しかし、廃水の海洋投棄は、悪臭公害や河川や海洋の汚染の原因となり、社会問題化してきて、現在では、油脂や油などの廃油を含む廃水を海洋投棄することは法律で禁止されている。一方、廃油の焼却処理も、大気汚染の原因となり、環境破壊を引き起こして社会問題化している。また、廃油等の焼却処理は、地球温暖化の大きな原因の1つである炭酸ガスの排出の観点からも社会的に大きな問題である。そこで、油脂や油等の廃油などを環境破壊を引き起こさないまたは環境汚染をできるだけ少なくできる有効な処理方法の開発が急務となっている。
【0004】
家庭からも油や油脂等の廃油などを含んだ大量の排水が排出されている。都市などの下水処理場が完備しているところでは、かかる廃油などを含んだ排水は、下水処理場で、油脂等の廃油などを別処理して除去した上で河川などに排出されている。これらの処理に対する費用は莫大な金額になっていて、経済的負担も顕著に増大してきているのが現状である。他方、多くの地域では、下水処理場が十分に完備されて無く、廃油などを含んだ大量の排水が、下水処理されずにまたは十分に処理されないで河川などに直接排出されていて、河川や海洋の汚染の大きな原因となっていて、環境破壊を引き起こしているのが現状である。
【0005】
排水に含まれる油脂分は別の問題をも引き起こしていて、排水の温度が低下して、その排水温度が油脂や油などの凝固点以下になると、その油脂などが凝固して、配水管などに付着し、排水管などを詰まらせる原因ともなっている。特に、下水処理場などでは、配水管の維持管理にも余分の費用負担が強いられることになる。
【0006】
このような深刻な問題を解決するために、油脂分などの廃油を含む廃水の排出にあたっては油脂の阻集器であるグリーストラップの設置が義務づけられることになった。グリーストラップとは、食堂やレストランなどの厨房から排出された排水が流れ込む入り口とグリーストラップ内の排水を排水管や浄化槽などに排出する排水口を有し、槽内が3槽ないし4槽に区切られていて、排水の滞留時間を長くすることによって、排水中の油脂などの廃油がグリーストラップ内に捕捉されるような構造を有する貯水槽である。このようにグリーストラップは、油脂などの廃油を排水から分離収集するという物理的な機能は保持しているが、生物学的あるいは化学的に油脂などの廃油などを分解するという機能は有していない。
【0007】
このように分離・集積した油脂などの廃油などは、グリーストラップから定期的に回収され、除去されるとともに、これらの油や油脂等は適切な方法で処理しなければならない。これまでは、これらの回収物は産業廃棄物処理場で焼却処理されてきている。しかし、全国の産業廃棄物処理場はすでにその処理能力が限界に達しており、新たな産業廃棄物処理場の建設は環境の悪化などにより困難となっている。このような現状下で、油や油脂などの廃油などの回収物の不法投棄が頻発しているという厳しい状況が続いている。
【0008】
そこで、油脂などの廃油などを含有する排水の処理法として、化学的排水処理と生物学的排水処理が考案されているが、現在ではいずれの方法も実用的な技術にまで達していないものと考えられる。油脂などの廃油を含有する排水の化学的排水処理とは、例えば、化学薬剤で排水中の油脂などの廃油を分解して排水処理する方法であり、生物学的排水処理とは、例えば、油脂資化性微生物を用いて排水中の油脂を分解して排水処理する方法である。
【0009】
化学的排水処理方法としては、例えば、サポニンと、ヘキシルグルコシド、ヘキシルガラクトコシド、ヘキシルマンノシド、イソヘキシルグルコシドなどのアルキルグルコシドとを有効成分として含有している廃水処理剤(特許文献1)、デンプン−アクリル酸グラフト重合物、セルロース−アクリル酸グラフト重合物、ポリアクリル酸およびそのナトリウム塩、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸およびそのナトリウム塩、ポリメタクリルアミドなどのアクリル系重合体などの吸水性ポリマや、アミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩重合体、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩または4級塩、キトサンの酢酸塩、ポリアミンスルホン、ポリアリルアミン塩酸塩などのカチオン性ポリマ(特許文献2)、アニオン系の界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩と、ノニオン系の界面活性剤である脂肪酸ジエタノールアミドと、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの三種の界面活性剤と、からなる油脂含有廃液処理剤(特許文献3)などを使用する方法などが報告されている。
【0010】
生物学的排水処理方法において使用される微生物としては、例えば、クリプトコッカス属(Cryptococcus)(特許文献4)、アシネトバクター属(Acinetobacter)(特許文献5、6)、バチルス属(Bacillus)(特許文献7)、バークホルデイア属(Burkholderia)(特許文献8)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)(特許文献9)、シュードモナス属(Pseudomonas)(特許文献10)、アスペルギルス属(Aspergillus)(特許文献11)などに属する多くの菌株などが報告されている。これらの微生物を用いた文献記載の技術はいずれも、微生物を単独で使用して排水中の油脂分を分解するが、その分解力は十分とは言えず、同時に有機廃棄物を排水基準レベル以下まで効率良く減少できるものではなく、改良の余地があるといわざるを得ない。
【0011】
また、生物学的排水処理方法において油脂分解酵素として、リパーゼを使用することも提案されている。かかる油脂分解酵素としてのリパーゼとしては、動物由来または植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。このうちで、微生物由来リパーゼとしては、例えば、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium) 属、カンジダ (Candida) 属等の起源のものが挙げられる(特許文献12)。
【0012】
上記問題を解決すべく、本発明者らは、いずれも油脂などの廃油などを資化して生育できる特定のスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)ならびにミクロバクテリウム・エステラロマティクム(Microbacterium esteraromaticum)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)と同定するとともに、これらの微生物の混合物を利用して有機廃棄物を分解する方法を提案した(特許文献13)。しかし、これらの微生物混合物を利用した有機廃棄物を分解する方法でも更に改良すべき問題が残っていることが判明した。
【0013】
つまり、レストラン、食堂、ホテル、給食センター、病院などの業務用の厨房を有する多くの事業所などから排出される廃水には、種々の特徴があり、これらの廃水を効率よく処理するためには、かかる廃水に対応した微生物混合物が必要となることが明らかとなった。表1は、排水50トン以下の営業所からの排水中のBOD値およびn−ヘキサン抽出物の量の統計(環境省統計データ:2003年)である。
【0014】
表1:営業所からの排水中のBODおよびn−ヘキサン抽出物の量
BOD値(mg/l) nーへキサン抽出物(mg/l)
給食センター 40−1700 10−1200
中華料理店 30−3400 12−2200
そば屋 210−1200 10−250
料亭 50−2600 5−780
(下水排水基準 300以下 30以下)
【0015】
このように多くの事業所などから排出される排水には、n−ヘキサン抽出物が非常に多く含まれていて、BOD値も大きく、悪臭などの問題が発生する可能性が大きい。かかる問題を発生させないように排水処理するには、排水を効率的に分解してBOD値を低下させるとともに、悪臭などの発生源により近いところで廃水処理をして悪臭などの発生を防止する必要がある。しかし、レストラン、食堂、ホテル、給食センター、病院などのような小規模事業所では、排水処理は費用負担が重く経済的に困難である場合も多く、十分に廃水処理をせずに排水される場合もあり、問題が山積しているのが現状である。これらの問題を解決するために、汚染の発生源により近いグリーストラップ内で効率よく汚染処理ができる新規微生物混合物の開発が要請されている。
【0016】
また、合併浄化槽でも、排水中の有機物処理が充分に行われておらず、公共の排水へ放流される場合もあり、下水処理場の負担が過剰になるという問題もある。この問題を解決するためにも、汚染発生源の近くで排水処理することが可能な微生物混合物を開発することが有効である。
さらに、グリーストラップの油・廃油や合併浄化槽内の有機物の処理が効率的に行われていない為に悪臭の発生が恒常化して社会問題化しているが、食堂、レストランなど種々の事業所で悪臭処理が十分にできていないのが実状である。このような悪臭も消臭できる微生物混合物を開発することも廃水処理において重要である。
【特許文献1】特開平7−24454号公報
【特許文献2】特開平7−188647号公報
【特許文献3】特開2004−277550号公報
【特許文献4】特開平11−244892号公報
【特許文献5】特開2003−24051号公報
【特許文献6】特開平11−196861号公報
【特許文献7】特開2003−228号公報
【特許文献8】特開2002−125659号公報
【特許文献9】特開2000−228977号公報
【特許文献10】特開2000−270845号公報、特開2003−116526号公報
【特許文献11】特開2003−235465号公報
【特許文献12】特開2004−113238号公報
【特許文献13】特許第3400418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
油脂などの廃油を含む廃水処理における上記様々な問題に鑑みて、本発明者らは、排水中の油脂などの廃油や有機廃棄物などを分解することができる新規微生物について鋭意研究を重ねた結果、上記のように種々の特徴を持つ排水中の油脂などの廃油などおよび高濃度の有機廃棄物などを分解することができる新規微生物を見出すとともに、それらの微生物を組み合わせることによって排水中の油脂などの廃油や高濃度の有機廃棄物などを効率的に分解することができることを見出した。さらに、これらの微生物の培養物が、油脂などの廃油等の腐敗に起因する悪臭を消臭することができることを見出して、消臭用微生物製剤を作製することができることを見出して、この発明を完成した。
【0018】
したがって、この発明は、環境や人体に悪影響を与えずに、油や油脂などの廃油や、有機廃棄物などを簡便にかつ効率良く分解することができる油脂資化微生物ならびにかかる油脂資化微生物の混合物およびその油脂資化微生物もしくはそれらの混合物を用いた廃水処理方法ならびに厨房などから発生する悪臭を消臭する悪臭消臭方法を提供することを目的としている。この発明に係る油脂資化微生物およびそれを使用した廃水処理方法は、排水中に高濃度で含まれる油脂などの廃油や、有機廃棄物などを分解・除去でき、同時にトイレ、ペット飼育、厨房などの種々の悪臭をも効率的に除去することができる。
【0019】
本明細書中で用いられる用語について説明するが、その用語は下記に説明する特定の意味に限定して使用するものではなく、あくまでも関連技術を説明するために例示的に説明するだけであって、かつ、かかる用語から派生する一般的な意味を排除するものではないと理解すべきである。
例えば、本明細書で使用する用語「油」ならびに用語「油脂」は、脂肪酸のグリセリンエステル、脂肪酸およびそれらを含むような動植物性の有機性油状物質を意味し、またそれらが食用油の場合、調理その他によって変性した変性油などをも含有する意味として使用している。また、用語「油」と「油脂」とは、それぞれの意味が実質的に同じであって、相互に交換して使用することができ、一方の用語しか使用していない場合でも、他方の用語の意味をも有して使用しているものと理解することができる。用語「廃油」または「油脂含有廃水」は、これらの油や油脂などの廃油などやかかる廃油を含有する廃水または排水などを意味する。用語「資化」は、油や油脂などの廃油などの分解作用またはその同化作用を含んだ廃油浄化作用を意味する。用語「事業所」ならびに関連用語は、食堂、レストラン、ホテル、病院、給食センター、食品加工場、動物飼育施設や一般家庭などの廃油や油脂含有廃水などを排出するあらゆる場所を意味する。用語「有機廃棄物」は、事業所などから排出される廃油などの有機物を包含する廃棄物を意味し、用語「排水」とは、事業所などからのかかる廃水を含む排水および生活廃水を包含した意味である。また、用語「悪臭」とは、厨房、排水溝、廃棄物処理場、各種営業を行う室内や住居、ペットなどの動物などのあらゆるものから発生する人に不快感をあたえることを包含する。
【0020】
したがって、この発明に係る「油脂資化微生物」とは、脂肪酸のグリセリンエステル、脂肪酸およびそれらを含むような動植物性の有機性油状物質である油もしくは油脂またはその変性油などを分解することができる作用またはその同化作用を含む廃油浄化作用を有する微生物を意味する。この発明の油脂資化微生物ならびにそれらの混合物は、油や油脂などの廃油などを含む培地で培養すれば、かかる廃油などの量を減少することができ、それによって汚染や悪臭などを減少するか、消失させることができる。
【0021】
上記課題を解決するために、この発明は、第一に、油脂などの廃油や、有機廃棄物などを分解する油脂資化微生物を提供する共に、これらの微生物の組み合わせにより、効率的に油脂などの廃油および有機廃棄物などを分解することができる油脂資化性微生物混合物を提供すること、およびそれらを用いた廃水処理方法を提供することを目的としている。第二に、この発明は、廃棄すべき油脂などの廃油や有機廃棄物などを上記微生物またはそれらの微生物混合物と、油脂などの廃油などを分解槽を用いて、7%(v/v分解槽全体容積)までの油脂などの廃油などを分解する方法を提供することである。第三に、この発明は、油脂などの廃油などが上記よりも低い濃度で含有する厨房などからの排水の油脂などの廃油や有機廃棄物などを上記微生物またはそれらの混合物とグリーストラップとを利用して分解し、安全な排水として下水などへ排水する方法を提供することである。第四に、この発明は、上記微生物混合物に悪臭を消臭する効果があることに着目して、トイレ、厨房などの悪臭を消臭する微生物消臭剤ならびに悪臭消臭方法を提供することである。
【0022】
更に詳細には、この発明は、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属し、油脂などの廃油などを資化して生育できるスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)からなる油脂資化微生物を提供することを目的としている。また、別の形態として、この発明は、油脂などの廃油などを資化して生育できるノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物を提供することを目的としている。
【0023】
この発明はまた、別の形態として、油脂などの廃油などを資化して生育できるノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物と、油脂などの廃油などを資化して生育できるスフィンゴモナス(Sphingomonas)属および/またはミクロバクテリウム(Microbacterium)属および/またはバチルス(Bacillus)属に属する油脂資化微生物との混合物からなる油脂資化微生物混合物を提供することを目的としている。
【0024】
この発明は、更に別の形態として、上記油脂資化微生物および/または油脂資化微生物混合物を用いて廃水中の油脂などの廃油などおよび/または有機廃棄物を分解することができる廃水処理方法ならびに廃水処理用微生物製剤ならびに消臭用微生物製剤およびこれらの製剤を用いた廃水処理方法ならびに悪臭消臭方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明は、1つの形態として、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属し、油脂などの廃油などを資化して生育できる特定の菌株を提供する。更に別の形態として、この発明は、油脂資化微生物が油脂などの廃油などを資化して生育できるノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物を提供する。この発明はまた、好ましい態様として、上記ノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物として、油脂などの廃油などを資化して生育できる菌株を提供する。
【0026】
この発明は、更に別の形態として、上記ノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物と、上記スフィンゴモナス(Sphingomonas)属および/またはミクロバクテリウム(Microbacterium)属および/またはバチルス(Bacillus)属に属する油脂資化微生物との混合物からなる油脂資化微生物混合物を提供する。この発明はまた、好ましい態様として、上記油脂資化微生物が、油脂などの廃油などを資化して生育できる各属に属する菌株からなるかかる微生物の混合物を提供する。
【0027】
この発明は、更に別の形態として、上記油脂資化微生物および/または油脂資化微生物混合物を用いて廃水中の油脂などの廃油などおよび/または有機廃棄物を分解することからなる廃水処理用微生物製剤ならびに消臭用微生物製剤およびそれらの製剤を用いた廃水処理方法ならびに悪臭消臭方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
この発明は、油脂などの廃油などを分解するができるスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)またはノカルデイア(Nocardia sp.)属よりなる新規油脂資化微生物から構成されている。また、この発明は、ノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物と、スフィンゴモナス(Sphingomonas sp.)属、フィンゴモナス(Sphingomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属およびバチルス・エスピー(Bacillus)属の少なくとも1つの属に属する油脂資化微生物との混合物からなる油脂資化微生物混合物から構成されている。
【0029】
この発明に係る新規油脂資化微生物は、試料を液体ブロス培地中で連続培養し、増殖した菌株を油脂などの廃油などや有機物を添加した液体培地で培養して、かかる油脂などの廃油などや有機物を、このような極限環境で効率よく資化して生育できる油脂資化性微生物を選抜した。このような土壌微生物の選択に当たっては、土壌細菌から油脂分解を効率良く行うことができる微生物を選抜するための選抜培地を考案した。選択培地の組成を作製するに際しては、種々検討した結果、実際の厨房から排出される内容に近い組成を有する培地組成を作成した。かかる選択培地としては、魚肉およびブタ肉の熱水抽出物(50g/リットル)のみを用いて、糖分などを付加しない培地を考案した。糖分などを添加すると雑菌が増殖して有用な微生物ならびにその混合物が得られなかった。このような培地で過剰な酸素を供給した好気条件下室温で長期間連続培養し、油脂などの廃油などを効率よく分解する能力を保持する安定した微生物群を取得する事に成功した。さらに驚くべきことに、かかる微生物混合培養物には悪臭を消臭する能力があること見出して、消臭用微生物製剤を作製するに至った。
【0030】
この発明に係る油脂資化微生物は、上記培養物よりそれぞれ分離し、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー第8版(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology 8th)に準じて調べるとともに、それらの16SrRNAの部分塩基配列を決定してそれぞれの菌株を分類し同定した。その結果、かかる油脂資化微生物は、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)およびノカルデイア属(Nocardia)にそれぞれ属する新規菌株、つまり、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3bおよびノカルデア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2bであると決定した。これらの新規菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、平成16年2月3日に、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1bが寄託番号FERM P−19641、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3bが寄託番号FERM P−19643およびノカルデア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2bが寄託番号FERM P−19642として寄託されている。
【0031】
この発明に係る油脂資化性微生物混合物は、上記油脂資化微生物であるノカルデア(Nocardia)属に属する菌株と、油脂などの廃油などを資化して生育できるスフィンゴモナス(Sphingomonas)属および/またはミクロバクテリウム(Microbacterium)属および/または バチルス(Bacillus)属に属する油脂資化微生物との混合物からなっている。
【0032】
この発明の微生物混合物に使用することができる油脂などの廃油などを資化することができる油脂資化微生物であるノカルデア(Nocardia)属に属する菌株としては、例えば、ノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b(FERM P−19642)が使用できるが、そのほかの油脂資化微生物であるノカルデア(Nocardia)属に属する菌株も使用することができる。
【0033】
この発明の微生物混合物に使用することができる別の油脂資化微生物としては、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する菌株としては、例えば、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID 440−2(FERM P−17975)などが使用できる。このうち、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID 440−2(FERM P−17975)とも、本発明者らによって同定され、特許文献13に記載されている油脂資化微生物であって、上記寄託機関に寄託されている。
【0034】
この発明に使用できる別の油脂資化微生物としては、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する菌株としては、例えば、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)SIID 440−1(FERM P−17974)、ミクロバクテリウム・エステラロマチクム(Microbacterium esteraromaticum) SIID 440−3 (FERM P−17976)などが使用できる。この微生物は、本発明者らによって同定され、特許文献13に記載されている油脂資化微生物であって、上記寄託機関に寄託されている。
【0035】
この発明に使用できる別の油脂資化微生物としては、バチルス(Bacillus)属に属する菌株としては、例えば、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)SIID 440−4(FERM P−17977)などが使用できる。この微生物は、本発明者らによって同定され、特許文献13に記載されている油脂資化微生物であって、上記寄託機関に寄託されている。
【0036】
この発明に係る油脂資化微生物混合物においては、その混合比は、使用目的に応じてそれぞれを変えるのがよく、全種類が等量ずつであっても、いずれかが多くても、少なくてもよい。この発明の油脂資化微生物混合物は、油脂などの廃油などに対する資化能力が極めて高く、その再現性にも優れ、さらに制御が容易であるという大きな利点がある。
【0037】
この発明の油脂資化微生物混合物は、例えば、培養物に所定の油脂資化微生物をそれぞれ等量ずつ添加し、液体ブロス培地(魚肉およびブタ肉の熱水抽出物:50g/リットル)で15〜20℃で、好気条件にするために曝気(1立米当たり毎分60リットルの割合で通気)を行い、定常期まで(7日間)培養することによって作製することができる。実際の適用に際しては、この培養物からフィルターでゴミなどを除いたものを分注して用いるのがよい。
【実施例1】
【0038】
日本国大分県大分市内の土壌および排水溝より汚泥を回収し、一定量の試料を、魚肉およびブタ肉の熱水抽出物(50g/リットル)で希釈した培養液からなる液体ブロス培地を入れた500リットルの容器に入れ、好気条件下(1立米当たり毎分60リットルの割合での通気による曝気)で、15〜20℃で2年間にわたり連続的に培養を行って、所定の性質を有する油脂資化微生物の選抜を行って、最終的には、効率的に油脂などの廃油などを分解することができる複数の微生物からなる菌株を取得した。この培養に際しては、実際のグリーストラップの条件になるべく近い環境下で培養を行った。
【実施例2】
【0039】
実施例1で選択した新規微生物培養液を希釈して栄養寒天(Nutrient Agar)培地に塗布して生育させ、単コロニーを単離し、その性状から3種類の細菌(2629−1b株、2629−2b株および2629−3b株)を検出した。
これらの菌株をそれぞれ等量混合し、該培地で培養した培養物は、油脂などの廃油などを効率良く分解することが出来た。これらの微生物についてバージーズ・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)に記載されている試験方法に従って菌学的性質について調べた結果を下表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
これらの微生物について、その16SrDNAの部分塩基配列解析を行うことにより、これらの微生物を分類同定した。これらの菌体からPrepManTM Method (Applied Biosytems, U.S.)を使用してゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法により16SrDNAの5’末端の塩基配列約500bp領域を増幅した。その後、増幅した塩基配列をシークエンスして解析を行った。PCR産物の精製およびサイクルシークエンスにはMicroSeqTM 500 16SrDNA Bacterial Sequencing Kit (Applied Biosytems, CA、U.S.)を使用した。なお、ゲノムDNA抽出からサイクルシークエンスまでの操作は、Applied Biosytems社のプロトコール(P/N4308132 Rev.A)に従って行った。サーマルサイクラーには、GeneAmP(登録商標) PCR System9600(Applied Biosytems, U.S.)、DNAシークエンサーには、ABI PRISM(登録商標) 377 DNA Sequencer (Applied Biosytems, U.S.) を使用した。
【0042】
得られた16SrDNAの塩基配列を使って、相同性検索および系統樹の作製を行い、これらの菌株の近縁種および帰属分類群の検討を行った。相同性検索および系統樹の作製には、MicroSeqTM Microbial Identification System Software V.1.4. および MicroSeqTM Bacterial 500 Library v.0023 (Applied Biosystems, U.S.) を使用した。解析では、得られた16SrDNAの塩基配列を用いて相同性検索を行い、相同率上位10株を決定した。更に、検索された上位10株と検体の16SrDNAを用いて近隣結合法 (Saitou and Nei Mol. Biol. Evol. 1987 4:406-425 ) により分子系統樹を作成し、検体の近縁種および帰属分類群の検討を行った。また、MicroSeqTM Bacterial 500 Library での相同率が100%一致する菌株が検索されなかった場合、ブラスト(BLAST)(Altschul et al. Nucleic Acids Res. 1997 25:3389-3402) を用いてDNA塩基配列データベース(GenBank/EMBL/DDBJ)に対して相同性検索を行った。
【実施例3】
【0043】
油脂資化微生物 2629−1b 株の16SrDNA部分塩基配列を決定した(配列番号1)。
MicroSeqを用いた解析の結果、2629−1b株の16SrDNA部分塩基配列は、相同率97.66%でスフィンゴモナス・アダヘシヴァ(Sphingomonas adhaesiva)(Int. J. Syst. Bacteriol. 1990 40:320-321)の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。分子系統樹上では2629−1b株の16SrDNAは、スフィンゴモナス(Sphingomonas)の16SrDNAが形成するクラスター内に含まれ、スフィンゴモナス・エチノイド(S. echinoids)(Denner et al. 1962 Int. J. Syst. Bacteriol. 49:1103-1109) の16SrDNAとクラスターを形成した。ブラスト(BLAST)を用いた GenBank/EMBL/DDBJに対する相同性検索の結果、2629−1b株の16SrDNAは、相同率98.1%でアンカルチャウド・バクテリウム・アセッション番号(uncultured bacterium Accession No.):AF443570株の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。また、スフィンゴモナス・コレエンシス(Sphingomonas koreensis)JSS-26 株(基準株)(Lee et al. 2001 51:1491-1498)の16SrSDNAに対して相同率99.1%の相同性を示した。以上の結果から、スフィンゴモナス・コレエンシス(S. koreensis)の基準株に対して近縁であることが示唆された。しかし、完全に配列が一致しないことから、2629−1b株は、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)であると決定した。
【0044】
なお、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)は、同じスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する菌株である特許第3400418号(特許文献13)に記載のスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID440−2(FERM P−17975)株の16SrDNAの部分塩基配列と比較した。その結果、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)株は、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID440−2(FERM P−17975)株とは異なることが示された。
更に、有害物質であるポリビニルアルコールを分解することができるスフィンゴモナス・カプスラテ(Sphingomonas capsulate)(特開2003−250527)および石油製品を含む汚染物質を分解できるスフィンゴモナス・パウチモビリス (Sphingomonas paucimobilis)(特開平11−46756)が知られている。しかしながら、これらの菌株の性質および16SrDNAの塩基配列の分析から、この発明の2629−1b株とは異なることが明らかとなった。その上、16SrDNAの塩基配列分析より既知のスフィンゴモナス(Sphingomonas)属の菌株とも異なることが判明した。なお、2629−3b株も、同様に既知のスフィンゴモナス(Sphingomonas)属の菌株と異なっていた。
【実施例4】
【0045】
油脂資化微生物2629−2b 株の16SrDNA部分塩基配列を決定した(配列番号2)。
MicroSeqを用いた解析の結果、2629−2b株の16SrDNA部分塩基配列は、相同率99.2%でノカルデイア・アステロイズ(Nocardia asteroides)(Skerman et al. Int. J. Syst. Bacteriol. 1980 30:225-420)の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。分子系統樹上でも2629−2b株の16SrDNAは、ノカルデイア・アステロイズ(Nocardia asteroides)の16SrDNAとクラスターを形成した。ブラスト(BLAST)を用いたGenBank/EMBL/DDBJに対する相同性検索の結果、2629−2b株の16SrDNAは、相同率99.4%でノカルデイア・アステロイズ(N. asteroids)ATCC19247株およびDSM 43757(両株とも基準株)の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。以上の結果から、本菌株は、ノカルデイア(Nocardia)属に帰属する細菌であり、ノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)であると決定した。
【実施例5】
【0046】
油脂資化微生物2629−3b 株の16SrDNA部分塩基配列を決定した(配列番号3)。
MicroSeqを用いた解析の結果、2629−3b株の16SrDNA部分塩基配列は、相同率99.58%でスフィンゴモナス・マクロゴルタビダス(Sphingomonas macrogoltabidus)( Int. J. Syst. Bacteriol. 1993 43:864-865)の16SrDNAに対して最も高い相同性を示しました。分子系統樹上でも2629−3b株はスフィンゴモナス・マクロゴルタビダス(S. macrogoltabidus)とクラスターを形成した。そしてブラスト(BLAST)を用いた相同性検索では、この株は相同率99.4%でスフィンゴモナス・チレンシス(Sphingomonas chilensis)S37株の16SrDNAに対して最も高い相同性を示した。また、スフィンゴモナス・マクロゴルタビダス(Sphingomonas macrogoltabidus)IFO 15033 株(基準株)の16SrDNAに対して相同率99.1%を示した。以上の結果から2629−3b株はスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)と決定した。
【0047】
なお、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)は、同じスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する菌株である特許第3400418号(特許文献13)に記載のスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID440−2(FERM P−17975)株の16SrDNAの部分塩基配列と比較した。その結果、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)は、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID440−2 (FERM P−17975) 株とは異なることが示された。
【実施例6】
【0048】
上記油脂資化微生物スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b株、ノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b株およびスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b株による油脂などの廃油などの分解能について、これらの菌株をそれぞれ液体ブロス培地で定常期まで増殖させ、それぞれの培養液(500ミリリットル)をグリーストラップに添加して、24時間後に、入水と排水の生物化学的酸素要求量(BOD値)およびn−ヘキサン抽出物含有量を測定した。生物化学的酸素要求量(BOD値)はJIS KO102−21、n−ヘキサン抽出物含有量はJIS KO102―243に従い測定した。その結果、いずれの菌株を用いた場合も、BOD値およびn−ヘキサン抽出物含有量は、添加しない場合の0.1%以下に減少した。
また、上記7種類の微生物を等量ずつ液体ブロス培地(魚肉およびブタ肉の熱水抽出物:50g/リットル)に添加し、15〜20℃で、好気条件下の曝気(1立米当たり毎分60リットルの割合で通気)を行い、定常期まで(7日間)培養した。その結果、上記7種類の微生物混合培養物を添加した場合も、上記と同様に、BOD値およびn−ヘキサン抽出物含有量が、添加しない場合の0.1%以下に減少した。
【実施例7】
【0049】
食堂やレストラン(一日平均500食程度の規模)などの厨房からの油脂などの廃油などを含む排水を、この発明の油脂資化微生物混合物と通常のグリーストラップとを用いて、その油脂などの廃油および有機廃棄物などを分解する実験を行った。
この実施例に用いたグリーストラップは、通常のグリーストラップであって、このグリーストラップは3槽の分解槽からなっていた。それぞれの槽(1〜1.5立米の容量)には散気ノズルがあり、そのノズルはポンプに接続されていた。1番目の槽では、油脂資化微生物混合物を含む培養物を、1立米当たり毎分60リットルの割合で通気を行って培養した。2番目の槽では、1番目の槽同様に通気を行いながら培養をして残った油脂などの廃油などを分解、資化した。3番目の槽は、予備槽であって、培養物(100ppmから1000ppm:500ミリリットル)を、毎日業務終了時に流水とともにシンクより流し、グリーストラップへ添加した。なお、グリーストラップへの添加には一定量の培養物を一定時間に流すことができる自動化装置を導入した。
【0050】
排水の生物化学的酸素要求量(BOD値)およびn−ヘキサン抽出物含有量を測定した。生物化学的酸素要求量(BOD値)はJIS KO102−21、n−ヘキサン抽出物含有量はJIS KO102―243に従って測定した。
表2にはその1例を示している。同様の測定を50箇所以上の営業所で実施したところ、同様の結果が得られた。なお、添加した微生物混合物はグリーストラップ内でも増殖を行うが、栄養条件などの環境条件が異なるために微生物混合物内の微生物の存在比が大きく変化してしまうこと、および大量の排水により希釈されるために毎日微生物混合物の添加が必要であった。
【0051】
(表2)
BOD(mg/ml) n−ヘキサン抽出物(mg/ml)
添加時 98540 320400
12時間後 4560 320
24時間後 450 45
48時間後 320 40
無添加 89430 334030
【0052】
なお、合併浄化槽、産業廃棄物処理場や下水処理場に添加する場合は、含有する油脂や有機物などの種類や量に応じた微生物混合物を含む培養物の量を添加するのがよい。
【実施例8】
【0053】
微生物混合培養液(微生物消臭剤)の調製方法
スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)、スフィンゴモナス・エスピー (Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)およびノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b (FERM P−19642)の3種類の細胞を、等量(1〜4x106細胞/ml)ずつ液体ブロス培地(魚肉およびブタ肉の熱水抽出物:50g/リットル)に添加し、曝気(1立米当たり毎分60リットルの割合で通気)しながら、25℃で7日間培養した。この培養液をフィルターで濾過し、菌体を除き、微生物混合培養液(微生物消臭剤)として用いた。
【実施例9】
【0054】
(消臭試験)
大分県内にある営業所の厨房2ヶ所(A営業所およびB営業所)のグリーストラップを用いて、実施例7と同様に、微生物混合物を処理する前と、処理後について悪臭の原因であるメチルメルカプトン、トリメチルアミン、アンモニアおよび硫化水素の濃度を測定したところ、処理後にはこれらの化合物はいずれも検出限界以下に減少したことが判明した。
【実施例10】
【0055】
(官能試験)
上記のように、大量の悪臭発生物が存在している場合に分解することが確認された。しかしながら、悪臭がする現場では非常に少量の悪臭源が問題となるために、現在の測定機器では測定が困難であるため、ヒトの感覚に頼らなければならないので、消臭効果を官能試験で確認した。消臭効果の官能試験は、その臭いを判定し、下記に定義する6段階臭気表示法による評価を行った。
S0:無臭
S1:やっと感知出来る臭い
S2:何の臭いであるかがわかる弱い臭い
S3:楽に感知できる臭い
S4:強い臭い
S5:強烈な臭い
【0056】
実施例8で調製した微生物消臭剤の消臭効果を確認するために、10人の健常者により臭気試験を行い判定した結果は次のとおりである。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示されているように微生物消臭剤を添加した場合には明らかに悪臭が消臭したことが確認された。なお、この発明に係るスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)およびノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b(FERM P−19642)は、それぞれ単独で消臭効果は認められたが、3種類の混合培養物が最も効果が大きいことが認められた。
同様の官能試験の結果から、イヌや猫などのペット、トイレ、厨房、グリーストラップ、浄化槽、家禽・家畜関連施設などの悪臭を消臭することが確認された。この発明に係る微生物消臭剤を実際に用いた結果、大分、福岡、熊本、長崎、広島、岡山、東京の各地区での悪臭を発生するトイレ、厨房、浄化槽、養豚場、産業廃棄物処理場など100ヶ所以上の場所で好結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
この発明に係るスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)およびノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b(FERM P−19642)は、それぞれ油脂などの廃油などを含む大量の有機物を分解することができるが、n−ヘキサン抽出物含有量およびBOD値を減少させるためには、単一の微生物では十分には分解することができないと考えられた。
そこで効率良くこれらを分解処理するために、複数の微生物が存在する安定化した状態を形成させ、その状態の培養液から微生物群を選抜した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂資化微生物が、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属し、油脂などの廃油などを資化して生育できるスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)および/またはスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)であることを特徴とする油脂資化微生物。
【請求項2】
油脂資化微生物が油脂などの廃油などを資化して生育できるノカルデイア(Nocardia)属に属する微生物であることを特徴とする油脂資化微生物。
【請求項3】
請求項2に記載の油脂資化微生物において、前記油脂資化微生物がノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b(FERM P−19642)であることを特徴とする油脂資化微生物。
【請求項4】
油脂などの廃油などを資化して生育できるノカルデイア(Nocardia) 属に属する油脂資化微生物と、油脂などの廃油などを資化して生育できるスフィンゴモナス(Sphingomonas)属および/またはミクロバクテリウム(Microbacterium)属および/またはバチルス(Bacillus)属に属する油脂資化微生物との混合物からなることを特徴とする油脂資化微生物混合物。
【請求項5】
請求項4に記載の油脂資化微生物混合物において、前記ノカルデイア(Nocardia)属に属する油脂資化微生物がノカルデイア・エスピー(Nocardia sp.)2629−2b(FERM P−19642)であることを特徴とする油脂資化微生物混合物。
【請求項6】
請求項4または5に記載の油脂資化微生物混合物において、前記スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する油脂資化微生物が、スフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−1b(FERM P−19641)および/またはスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)2629−3b(FERM P−19643)および/またはスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)SIID 440−2(FERM P−17975)であることを特徴とする油脂資化微生物混合物。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の油脂資化微生物混合物において、前記ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する油脂資化微生物がミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)SIID 440−1(FERM P−17974)および/またはミクロバクテリウム・エステラロマチクム(Microbacterium esteraromaticum)SIID 440−3(FERM P−17976)であることを特徴とする油脂資化微生物混合物。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項に記載の油脂資化微生物混合物において、前記バチルス(Bacillus)属に属する油脂資化微生物がバチルス・セレウス(Bacillus cereus) SIID 440−4(FERM P−17977)であることを特徴とする油脂資化微生物混合物。
【請求項9】
請求項1に記載の油脂資化微生物および/または請求項2もしくは3に記載の油脂資化微生物および/または請求項4ないし8のいずれか1項に記載の油脂資化微生物混合物を用いて廃水中の油脂などの廃油などおよび/または有機廃棄物を分解することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項10】
請求項1に記載の油脂資化微生物および/または請求項2もしくは3に記載の油脂資化微生物および/または請求項4ないし8のいずれか1項に記載の油脂資化微生物混合物からなることを特徴とする消臭用微生物製剤。
【請求項11】
請求項10に記載の消臭用微生物製剤を使用して廃水の悪臭を消臭することを特徴とする廃水消臭方法。

【公開番号】特開2006−166874(P2006−166874A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367526(P2004−367526)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(500386884)環微研株式会社 (1)
【Fターム(参考)】