説明

油分解処理槽

【課題】油脂分解剤を用いた際に、温度、水分、外部空気の供給において菌が活動しやすい条件を作り上げ、含油廃棄物を迅速に分解する方法を提供する。
【解決手段】本発明の油分解処理槽10は、底部に水を貯めることができ、この水を加熱する熱源を有する外殻容器20と、外殻容器20内に設置され、油脂分解菌を含有する腐植からなる油脂分解剤M16および含油廃棄物M17を貯留するための内殻容器30とを含む二重構造であって、両容器は水の加熱により発生する蒸気が連通することを特徴とする。さらに、内殻容器20内の油脂分解剤M16および含油廃棄物M17からなる菌床M15内に蒸気を循環させるための循環手段40を有する。さらに、循環手段40と内殻容器30の下部との間に設置される通気手段50を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油廃棄物の油分解処理槽に関し、より詳細には使用済みの食物油や鉱油のような含油廃棄物を油分解菌で簡易に分解処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
学校給食、スーパーストア、ホテル、大型店舗などから一度に大量に出される廃食油はそれなりの分別と流通のシステムがあるため、回収と再利用が可能である。しかし、家庭から廃棄される廃食油は、一部で瓶、PETボトルに詰めて石鹸・燃料製造業者に送られる場合もあるが、多くの自治体が分別ごみに廃食油を含めていないこともあって、廃食油のほとんどが生ごみとして処理されている。
【0003】
環境保全に理解のある家庭や主婦は、廃食油を油固化剤で固めて燃えるごみとして廃棄しているが、そうでない家庭では、料理に使われた油をそのまま廃棄することもある。これでは、下水管の詰まりや、河川や土壌の汚染となって環境を悪化させる原因となる。
【0004】
家庭で生ごみを簡易に処理する方法として、家庭用生ごみ処理機の使用が知られている。家庭用生ごみ処理機には、コンポスト型、乾燥型、炭化型、微生物分解型などがあるが、これらの中で油脂や油に対応するものは、微生物分解型である。しかし、微生物分解型であっても、油脂や油を常温で微生物処理可能な菌や菌材料(バイオチップなど)は少なく、存在しても分解効率が低くて実用性に乏しい。したがって、現状の家庭用生ごみ処理機で油脂や植物油を簡易に処理することは難しい。
【0005】
本出願人は、これまで含油廃棄物を処理する方法の開発を続け、これに関連して2件の発明を特許出願している。その特開2002−18401(特許文献1、有機性廃棄物の処理方法)では、油脂や油を含む廃棄物を処理する方法として、油吸着剤を廃棄物中に混入させることを提案した。また、特開2004−141766(特許文献2(油脂分解剤とその製造方法および使用方法)では、排水中の油、油脂分を分解するのに好適な油脂分解剤およびその使用方法を提案した。
【特許文献1】特開2002−18401
【特許文献2】特開2004−141766
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人が提案した上記の油脂分解剤やその使用方法を、現状の家庭用生ごみ処理機に適用することはそう簡単ではない。なぜなら、油分解剤を用いて油脂や油を分解する油分解処理槽で微生物の特性を発揮させるためには、温度、水、外部空気の条件が適当でなければならないが、それを容易に作る家庭用生ごみ処理機は存在しないからである。
【0007】
温度に関して、従来の家庭用生ごみ処理機内で菌床を加熱するには、電気式のコイルヒーター、リボンヒーター、プレートヒーターなどを菌床容器の壁の外側に設置することになる。これでは容器の壁が高温になりやすい。しかし、菌が高温壁に接することは好ましくない。加熱器を壁全体に均一に配置できないために、壁が局部的に熱くもなる。これらの欠点を改善しようとして容器壁の熱密度(単位面積あたりの貫通熱量)を平均化すると、容器の価格上昇を招く。
【0008】
既存の各種のリアクターもまた、隔壁の外側から加熱する方式のために、菌床内に温度分布が生じやすい。リアクター内温度分布をなくすために撹拌機を付帯させても、完全な撹拌機がないので、横または縦方向に温度分布が生じる。
【0009】
水分については、高精度で操作し易く安価な水分測定器が存在せず、菌床の水分制御が非常に難しいという問題がある。菌床に導入する外部空気中の湿度は、季節によらず一定が好ましいところ、価格の問題でそのような考慮がなされているものはない。
【0010】
油分解処理槽への外部空気(酸素)の供給は、多ければ菌床温度の低下となって菌の活動を不活発にする。逆に少なければ嫌気状態となって悪臭が発生する。家庭の廃棄物は日々変わるために、空気要求量も変動しやすい。したがって、空気供給量の調整は相当難しい。
【0011】
上記問題に鑑みで、本発明の目的は、本出願人が提案した油脂分解剤を用いた含油廃棄物処理の改善方法であって、温度、水分、外部空気の条件を菌が活動しやすいものにでき、その結果含油廃棄物を迅速かつ容易に分解する装置およびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、油分解菌の使用条件や油分解処理槽の在来技術の見直しから始まっていろいろな問題点を鋭意検討した結果、以下の装置により上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、底部に水を貯めることができ、この水を加熱する熱源を有する外殻容器と、該外殻容器内に設置され、油脂分解菌を含有する腐植からなる油脂分解剤および含油廃棄物を貯留するための内殻容器とを含む二重構造の油分解処理槽であって、両容器は水の加熱により発生する蒸気が連通するように構成されていることを特徴とする前記油分解処理槽を提供する。
【0013】
本明細書において、含油廃棄物とは、油または油脂を含有する液状または固状の廃棄物の総称をいう。含油廃棄物には、廃油そのものを含まれる。
【0014】
前記油分解処理槽は、さらに、前記内殻容器内の前記油脂分解剤および含油廃棄物からなる菌床内を通って前記蒸気を循環させるための循環手段を有することが好ましい。
【0015】
前記循環手段は、例えば内殻容器の上部と下部とを容器の外部で連結する通路の途中に設けた循環ファンからなる。
【0016】
前記油分解処理槽は、さらに、前記循環手段と内殻容器下部との間に設置される通気手段を有することが好ましい。
【0017】
前記通気手段は、例えば内殻容器下部に設置されるメッシュ管または多孔管からなる。
【0018】
本発明の油分解処理槽の作用を説明すると、加熱源を有する外殻容器内に内殻容器を収め、両容器を上部で連通させた二重構造の油分解処理槽の内殻容器内に油脂分解菌を含有する腐植からなる油脂分解剤および含油廃棄物を投入し、該外殻容器の底部に水を投入し、前記加熱源で水を加熱する。加熱により発生する蒸気は前記内殻容器の内部を加湿する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の油分解処理槽によれば、外殻容器内の水を加温して蒸気とし、外殻容器および内殻容器内の雰囲気を常に湿潤状態としたので、油分解菌の活動が活発となる。外殻容器と内殻容器の間に高温の蒸気が常に循環し、菌床の温度を限りなく均一化するので、分解効率が従来よりも顕著に改善される。外殻容器の熱損失を蒸気が補っており、外部温度変動の菌床への影響が緩和される。
【0020】
請求項2に記載の油分解処理槽は、前記内殻容器内の前記油脂分解剤および含油廃棄物からなる菌床内を通って前記蒸気を循環させるための循環手段を有するようにしたので、内殻容器内の菌床に、外殻容器内へ外部空気、蒸気、分解ガスなどを含む混合気体を効率的に供給することが可能となる。
【0021】
請求項3に記載の油分解処理槽によれば、前記循環手段を、内殻容器の上部と下部とを容器の外部で連結する通路の途中に設けた循環ファンとしたので、空気、蒸気、分解ガスなどを含む混合気体の流れる方向を、菌床の下部から上部へのアップフロー式、上部から下部へのダウンフロー式のいずれも可能にする。
【0022】
請求項4に記載の油分解処理槽は、前記循環手段と内殻容器下部との間に設置される通気手段を有するようにしたので、混合気体の菌床内への通気が、菌床内の菌体と酵素の拡散を助け、菌床上下や横方向の温度差が少ない均一な加温を保証するとともに、菌床の湿度を所望の状態に安定に保つ。
【0023】
請求項5に記載の油分解処理槽によれば、前記通気手段を、内殻容器下部に設置されるメッシュ管または多孔管で構成したので、メッシュ管をアップフロー式の循環ファンに連結した場合、メッシュ管から外部空気、蒸気、分解ガスなどを含む混合気体が吹き出して菌床に供給される。菌床内を通った混合気体は、菌床上面から保水カバーを通って、循環ファンの吸入口に戻る。こうして、菌床内の菌体と酵素の拡散、菌床上下や横方向の温度差の解消、菌床の湿度の適正な管理をより一層確実にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
添付の図面を用いて、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。油分解菌が含油廃棄物中に含まれるセルロース、脂肪、蛋白質、糖、デンプンなどの餌を食べて分解するためには、含油廃棄物と油分解菌との接触面において、ある程度の温度と、水分および外部空気(酸素)の供給が必要である。
【0025】
水分の供給と調整を容易にするために、本発明の油分解処理槽10は、加熱蒸気を利用する。具体的には、本発明の油分解処理槽10は、加熱源を有する外殻容器20内に内殻容器30を収め、両容器の上部同士を蒸気が連通するように構成された二重構造を採用する。内殻容器30内に油脂分解剤および含油廃棄物を含む菌床を投入し、外殻容器20の底部に水を投入し、加熱源で水を加熱することにより発生する蒸気で内殻容器内の試料を加湿する。
【0026】
外殻容器20の内側と内殻容器30の外側との間に形成される空間の底部には、温水M11を貯めるための温水貯留域21を設ける。そして、この空間に常に湯温と平衡の蒸気M13を存在させる。温水M11から立ち上がる蒸気M13によって、内殻容器30内の菌床M15を加熱および加湿する。蒸気M13は、他の熱源と異なり、菌床全体をやさしく加熱する。また、内殻容器30の保温も可能である。
【0027】
温水M11を貯留する温水貯留域21には、水を加熱するための熱源として電気加熱器22を設ける。電気加熱器22の主たる負荷(加熱容量)は、油脂の分解が始まっている定常状態ではほぼ外殻容器20の表面の放散熱量となる。よって、電気加熱器の加熱容量は小さくてよく、通常、30〜100kcal/m・hであり、好ましくは40〜90kcal/m・hである。
【0028】
外殻容器20の蓋24には、原料投入口25、および外部空気M14の取り入れ、分解ガスなどの排出のための通気口26が設けられる。発酵の速度は、いわゆる化学反応よりも遅いので、通気口26の大きさが適度であれば、必要な外部空気の流入量、流出量が確保される。
【0029】
外殻容器20の蓋24は、図1Bに示すように、長手方向にかまぼこ型の曲面を形成することが好ましい。かまぼこ型蓋24の内面では、外殻容器20内の蒸気M13が凝縮する。その凝縮液は、かまぼこ型蓋24に沿って周壁23に集められ、さらに周壁23を伝い温水貯留域21に流下する。
【0030】
図1Aの例のように、外殻容器20の温水貯留域21の横にU字管式シール27を設け、微増する水を排出するようにしてもよい。
【0031】
外殻容器20内には、内殻容器30が収納される。内殻容器30は、混合気体M12が外殻容器20からも流出入できるように、上部で外殻容器20と連通している。
【0032】
図1Aおよび1Bに示すように、内殻容器30の菌床M15内には、撹拌手段31を設けることが好ましい。撹拌手段31は、含油廃棄物M17の投入時や水の補給時に、菌床内部の均質化に寄与する。撹拌手段31に特別な制限はなく、ニーダー式(図1A)、スクリュー式、パドル式などの汎用のものでよい。
【0033】
図1Aおよび1Bに示すように、内殻容器30の菌床M15の上面には、布などでできた保水カバー33で覆うことが好ましい。保水カバー33により、菌床M15の表面の乾燥を防止できる。さらに、保水カバー33を支持するための格子を設けてもよい。
【0034】
本発明の油分解処理槽10は、内殻容器30内の油脂分解剤M16および含油廃棄物M17を含む菌床M15内を通って蒸気M13を循環させるための循環手段40を設けることが好ましい。循環手段40は、内殻容器30内の菌床M15に、外部空気M14、蒸気M13、分解ガスなどを含む混合気体M12を外殻容器へ供給する。
【0035】
循環手段40の例として、図1Aでは、外殻容器20の外側であって、内殻容器30の上部と下部とを容器の外部で連結する通路の途中に設けた循環ファン41が示されている。循環ファン41は、混合気体M12の流れ方向を菌床M15の下部から上部へのアップフロー式、上部から下部へのダウンフロー式のいずれも可能にする。菌床M15内の状態や分解工程に応じて、適宜、使い分けることもできる。
【0036】
循環手段40の別の例として、図2Aのように、外殻容器20の内側であって、内殻容器30の下部に連結したエアポンプ42でもよい。
【0037】
本発明の油分解処理槽10は、循環手段40と内殻容器30の下部との間に設置される通気手段50を有することが好ましい。通気手段50による混合気体M12の菌床M15内への通気は、菌床M15内の菌体と酵素の拡散を助け、菌床上下や横方向の温度差の小さい均一な加温を保証するとともに、菌床の湿度を所望の状態に安定に保つ。その結果、菌床の撹拌と加湿が同時に行なわれて油分解がより効率的となる。なお、混合気体M12は加熱されているので、通気量を増やしても、菌床が冷却されることはない。
【0038】
通気手段50の構造は、循環手段40から送られてきた混合気体M12を菌床15方向へ一定の流速で噴出できるものであればよい。その例として、図1Bおよび1Cでは、内殻容器30の下面を長手方向に切り欠いてそこに半割りの管32が溶接され、その内部にメッシュ管51(または多孔管)が設置される。メッシュ管51には、循環ファン41が連結される。循環ファン41がアップフロー式の場合に、メッシュ管51から混合気体M12が吹き出し、菌床M15に供給される。菌床M15内を通った混合気体M12は、菌床上面から保水カバー33を通って、循環ファン41の吸入口に戻る。
【0039】
通気手段50の別の例として、図2Aでは、内殻容器30の下部に金網52が設置される。金網52の孔は、菌床M15を保持するが、通気が可能な程度の径を有する。金網52の下には、循環手段40としてのエアポンプ42が連結されている。エアポンプ42から金網52を介して混合気体M12が吹き出して、菌床M15に供給される。菌床M15内を通った混合気体M12は、菌床上面から保水カバー33を通って、エアポンプ42の吸入口に戻る。
【0040】
次に、図1Aの油分解処理槽10の使用方法を説明する。まず、内殻容器30内に、油脂分解剤M16を投入して、菌床M15の基礎を形成する。含油廃棄物M17の種類や形状によっては、菌床M15の通気抵抗を改善するためのパッキング材M18を使用することもできる。パッキング材の例として、粒状炭、木炭、パーライト、バーミキュライト、ココチップが挙げられる。
【0041】
油脂分解剤M16は、腐植に微生物の栄養源を加え発酵させたものである。微生物の栄養源の例は、米糠、フスマ、麦糠、大豆粕、菜種粕、綿実粕、ごま粕、ドロマイト、油脂類、無機化合物、ミネラル、ビタミンなどである。これらは、腐植に含まれるP、K0、CaO、MgOなどの成分を増したり、他成分を補充したりして細菌の増殖を活発にする。そして油分解酵素リパーゼの生産を高めている。これらの栄養源が細菌増殖とリパーゼ生産に役割分担しているが、例えば無機物のうちのCaCOはこれを添加しないときに比べて添加すると大幅にリパーゼの生産が高くなる。このようにそれぞれの栄養源が複合的に活躍して細菌増殖とリパーゼ生産に寄与している。
【0042】
前記発酵は、アルカリ液の添加によりpH7〜9、および、含水率が好ましくは40〜60%に調整された状態で行われる。pHおよび含水率を上記範囲に調整することによって、バチルス属細菌や放線菌を活発に繁殖させることができる。
【0043】
発酵条件は、培養温度が通常、30〜70℃、好ましくは40〜60℃、発酵期間は、通常、1〜3週間、好ましくは7〜14日である。発酵を促進させるために、一般に、通気や撹拌によって好気性条件下にすることが好ましい。
【0044】
発酵によって得られる物質は、バチルス属細菌や放線菌および従属栄養細菌が腐植1g当たり10個以上となり、特に好ましくは10個以上となり、油分解特性が向上している。油分解性だけでなく、デンプン分解性、タンパク質分解性および悪臭分解性も向上する。
【0045】
油脂分解剤M16は、腐植に微生物の栄養源を加え発酵させたものにさらに油脂および炭素源を加えて再発酵させたものが特に好ましい。再発酵により、油脂の分解に有機物を必要としないバチルス属細菌、放線菌のような独立栄養細菌だけでなく、油脂分解に有機物を必要とする従属栄養細菌が多く増殖することができ、油分解性をさらに高めることにつながる。再発酵は、約1週間の自然発酵でよい。温度は、通常、20〜40℃でよい。このような油脂分解剤は、エンザイム株式会社製から商品名「ベノ」(登録商標)が市販されており、これを本発明に用いることができる。ベノは、特に油脂分解性を強化するために上記した再発酵が行なわれた結果、油脂分解能力に極めて優れる。
【0046】
油脂分解剤M16の形状は、粉末、顆粒状、ペレットなどである。含油廃棄物M17が固状の場合は粉状や顆粒状が好ましく、液状の場合はペレット状が好ましい。ペレットは、例えば直径5〜20mm、長さ5〜30mmの円柱形、直径1〜10mmの球形、縦横長さ各5〜10mm、厚さ2〜5mmの板状に成型する。
【0047】
油脂分解剤M16の投入量は、内殻容器30の容積に対して、通常、60〜90%であり、好ましくは70〜80%である。ペレットを粒状にて含油廃棄物を含む液状の廃棄物に適用する場合は、メッシュ状の袋に入れて槽内に吊るすこともできる。
【0048】
内殻容器30内の菌床M15の含水率を、通常、35〜60重量%、好ましくは38〜50重量%に調整する。含水率を上記範囲に維持すると、油や油脂が良好に分解して、品温が約60℃になる。
【0049】
次に、内殻容器30内に含油廃棄物M17を投入する。含油廃棄物の例には、食品に使われる植物性や動物性の油脂、天ぷら廃油のような廃食油、グリース・トラップの油脂、廃切削油、廃マシーン油、廃モーターオイルのような鉱物系廃油、ならびにこれらの油脂を含む生ごみのような含油廃棄物や含油排水が挙げられる。
【0050】
含油廃棄物M17の投入量は、内殻容器30の容積に対して、通常、5〜25%であり、好ましくは10〜15%である。
【0051】
菌床M15のpHは、微生物反応の重要な因子である。pHの適正範囲は、通常、6〜9であり、より好ましくは7.5〜8.5である。外部空気の供給量、水分、温度の条件が適切に選定されれば、pH変動は少ないため、アルカリ剤の添加は通常必要ない。
【0052】
水を電気加熱器22で加熱し、温水M11を作るとともに、蒸気M13を発生させる。加熱の温度は、通常、30〜70℃であり、好ましくは35〜60℃である。kW容量を一度設定したら、温度制御の必要はない。
【0053】
外殻容器20内の温度は、上記温水M11と平衡の温度となる。この温度は、植物油では45〜60℃が適温である。容器内上部の温度を40〜50℃の範囲で一定として操作すると、内殻容器30内の菌床M15の温度は、発酵により当初温度より10℃程度高くなる。
【0054】
加熱で発生した蒸気M13を循環ファン41で内殻容器30へ送る。循環ファン41を運転する際、混合気体M12の菌床内の供給量は、単位菌床量(m)当たり、通常、3〜30m/m・分、好ましくは10m/m・分程度にするとよい。こうすると、菌床M15の平面、上下の全面において発酵しているのが認められ、極めて良好な状態となる。
【0055】
内殻容器30内の含油廃棄物M17は、油脂分解剤M16の存在下で、空気供給量、水分、温度、pHが適正に管理される。油は、撹拌手段31で適宜撹拌されながら、時間ととともに油脂分解菌によってグリセリンと脂肪酸になる。グリセリンと脂肪酸は、さらに生物処理によってCOとHOまで分解される。これらの分解ガスは、外殻容器20の蓋24の隙間や通気口26から外部に拡散する。逆に、これらの場所から新鮮な外部空気M14も流入する。
【0056】
脂肪酸は、その分解過程で大量のエネルギーを発生する。脂肪酸の一例として、パルミチン酸は、式(1):
1632十230→16CO十16H0十2338kcal(1)
【0057】
式(1)の異化反応(発エネルギー反応)で発生したエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)として取り出され、他の有機物の同化反応(吸エネルギー反応)に使われて、有機物の生合成に役立つことになる。例えば、生物処理過程におけるグリセリン→グリセリンリン酸の反応の進行に必要なエネルギーとして吸収利用される。このように、油脂分解菌による油分解と生物処理を組み合わせるによって、エネルギーバランスがとれて、油脂除去を円滑に進ませることができる。
【0058】
本発明の油分解処理槽を用いた油分解処理方法は、外部空気(酸素)の存在と分解温度が適切に管理されるので、悪臭のもととなるノルマル酪酸、プロピオン酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸などの揮発性脂肪酸が効率よく分解される。よって悪臭が発生しない。また、分解触媒も必要としない。
【0059】
油分解後、油はなくなって、微生物が生息する菌床M15だけが残る。含油廃棄物M17を継続的に与えることで、微生物の増殖、酵素生産、油脂分解の連鎖反応が継続するので、菌床M15を長期間(例えば半年〜1年間)にわたり連続使用可能である。
【0060】
内殻容器30に含油廃棄物M17を一度投入したら、1〜10日毎に、含油廃棄物を投入することを繰り返す。切り返しや空気供給を継続すると、含油廃棄物の量が内殻容器に貯まることなく、油分と廃棄物を除去できる。
【0061】
発酵が進行すると、菌床M15は乾燥する。菌床M15内の含水率を維持して菌床の乾燥を防止するために、内殻容器30に含油廃棄物を投入する毎に一定量の水を滴下する。水の滴下量は、1日24時間操業で、通常、菌床重量の5〜12%であり、好ましくは6〜10%である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
〔実施例1〕
市販のすし飯保温容器(表面積0.6m、容積23L、電気加熱器の消費電力量47Wh(40kca1/h))を外殻容器20として用い、その内側に内殻容器30(径210mm、高さ180mm、容積6L)およびエアポンプ42(風量2.9L/分)を組み込んで、図2Aに示す油分解処理槽10を作製した。電気加熱器の加熱容量は、67kcal/mであった。
【0064】
次に、内殻容器30内に、油脂分解剤M16(商品名:ベノ、形式EZ−MB−500、エンザイム株式会社製)2000gを深さ120mmとなるように敷設して、菌床M15を形成した。油脂分解剤の特性を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
菌床の含水率を45%に調整した。外殻容器内の電気加熱器をONし、温水を58℃にした。
【0067】
次いで、市販の植物油100g(菌床の5重量%に相当)を添加した。このとき菌床と植物油を金属ヘラで撹拌した。次いで、循環ファン23を起動し、油分解操作を開始した。
【0068】
開始後まもなく、菌床温度は63℃に上昇し、発酵が順調に進行した。2日後、油はなくなって、微生物が生息する菌床M15だけが残り、油の分解はほぼ終了したことを確認した。
【0069】
菌床の含水率が元の45%に戻るように内殻容器内に水を滴下した。再び、200gの植物油を添加した。以後、この操作を繰り返した。加湿により乾燥を防ぐことができたため、水分調整の負担が大幅に減じた。その結果、含油廃棄物の量が内殻容器に貯まることなく、油の除去ができた。
【0070】
〔実施例2〕(グリセリンの分解処理)
実施例1の油分解処理槽を用いてグリセリン分解を2週間実施した。まず、実施例1の内殻容器30内に油分解剤M16(商品名ベノ)1050g(全体の70%相当)と粒状炭450g(30%相当)を混合した菌床M15を敷設し、加熱器循環ファンをスタートさせた。粒状炭は非成型品で3メッシュ(6.73mm)の篩下が75%、そして篩上が25%である。粒状炭は菌床内の外部空気の流通をよくすることと、高価なベノの使用量を低減するためである。
【0071】
次いで、市販のグリセリンを菌床全体1500gの2%に相当する30gを投入した。グリセリンの投入に際しては、菌床の過乾燥防止のため投入する補給水と混ぜ合わせて投入した。
【0072】
グリセリンと水はよく溶け合い、グリセリンの菌床への分散性を向上させ、好ましい。投入する水の量は、1日当たり、ベノ重量の5〜10%程度(好ましくは6〜8%)であった。
【0073】
開始後まもなく、菌床温度は上昇しはじめ、反応ピークでは湯温を追い越した。1日(24時間)後、グリセリンはほぼ分解し、同時に菌床の乾燥も進んだ。菌床をかき混ぜるとともに、新たにグリセリン30gと水84gを混合して投入した。投入後、防水カバーをして蓋をした。
【0074】
以後、この操作を2週間継続した。グリセリンおよび水の投入時期を、図2Bに示す。投入の間隔が不規則なのは特に理由がなく、連日投入することも可能であった。
【0075】
〔比較例1〕(プラスチック容器型油分解処理槽)
図3Aに示す単なるプラスチック製容器(径20cm、高さ23cm、容積5L)を、油分解処理槽として使用した。この容器に、実施例1と同じ油分解剤2450gを入れ、菌床にサラダ油150gおよび油粕460gを一度に添加して、金属ヘラで撹拌した。以降、金属ヘラの攪拌を1日1回とした。菌床の含水率を50%に調整した後、そのまま放置して、油分解を開始した。
【0076】
発酵が進むと、粉末状油脂分解剤と油脂分の混合物の温度は上昇し、加温することなく30〜70℃となった。初期に投入した3060gの混合物は、9日後には430g減量して2630gになった。順次、表2に示す添加工程に従って、サラダ油、野菜などを投入した。この間、油分を一定間隔で供給したので、熱発酵による蒸発量とのバランスがとれて、含水率は40〜60%に維持された。
【0077】
【表2】

【0078】
油分解処理槽を用いた含油廃棄物の減量の状況を、図3Bに示す。食用油と生ごみからなる含油廃棄物を順次添加して1日に1回の菌床の切返しを行なった結果、廃棄物が分解されて、含油廃棄物の重量が減少した。しかし、切り返し時に菌床が乾燥し過ぎて水分不足になっていたので、切り返し毎に水を50〜200ml供給した。この水分供給によって菌床含水率を約50%に維持するように努めたが常に水分調整されているとはいえなかった。水分調整が不安定であったので、混合物分解率も不安定になり、水分調整を安定して行うことが望まれた。
【0079】
〔比較例2〕(ドラムミキサー型油分解機)
図4に示すドラムミキサー型分解機を用いて、実施例1と同様の実験を行った。このドラムミキサーは、容積70Lの外殻容器の中に容積50Lの回転可能な内殻容器が収められている。
【0080】
表3に示すように、開始日に、内殻容器内に実施例1と同様の油脂分解剤20kgを投入した。菌床の含水率は水分調整が不十分で高めの含水率69%でスタートした。
【0081】
次いで、内殻容器内に、食用油2.0kgおよび野菜類2.1kgを添加した。さらに、表3に示す日程に従って、食用油1.5kg×2回、魚類300g、すじ肉300g、牛脂180gを追加した。期間中に、食用油5.0kg、野菜類2.1kg、魚類300g、すじ肉300g、牛脂180gの合計7.88kgを加えたことになる。
【0082】
ドラムミキサー型分解機の胴体を一日に一度30分間回転させることにより、内部の試料を混合したが、常時は静置して発酵させた。
【0083】
【表3】

【0084】
総量27.88kgの混合物の油分解と有機物分解が有効に行われた結果、試験16日経過後には13.64kgに減少した。この期間中、加熱無しで混合物の品温は、45〜60℃となった。しかし、スタート時の含水率が高いことも原因のひとつとなるが、ドラムミキサーが傾斜していたので、菌床の上部表面は乾燥し、傾斜下部の底面は結露水が貯まり、菌床全体の含水率は場所・位置により大きく異なる結果となった。全体としては分解進行したが、菌床は乾燥部分をなくし、菌床温度を平均化する必要があった。乾燥部分を防ぐとともに菌床全体の温度を均一化し、乾燥部分をなくすために加湿するのがよいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】本発明に従う油分解処理槽の断面図である。
【図1B】図1Aの油分解処理槽のAA矢視断面図である。
【図1C】図1Aの油分解処理槽の半割り管およびメッシュ管の部分を切欠いた拡大図である。
【図2A】本発明の別の実施形態の油分解処理槽の断面図である。
【図2B】図2Aの油分解処理槽を用いた際の、グリセリンを分解する様子を示す図である。
【図3A】比較例1の油分解処理槽の断面図である。
【図3B】図3Aの油分解処理槽を用いた際の含油廃棄物の減量の様子を示す図である。
【図4】比較例2の油分解処理槽の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10 油分解処理槽
20 外殻容器
21 温水貯留域
22 熱源(電気加熱器)
24 蓋(かまぼこ型蓋)
23 周壁
25 原料投入口
26 通気口
27 U字管式シール
30 内殻容器
31 撹拌手段
32 半割りの管
33 保水カバー
40 循環手段
41 循環ファン
42 エアポンプ
50 通気手段
51 メッシュ管(多孔管)
52 金網
M11 温水
M12 混合気体
M13 蒸気
M14 外部空気
M15 菌床
M16 油脂分解剤
M17 含油廃棄物
M18 パッキング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に水を貯めることができ、この水を加熱する熱源を有する外殻容器と、該外殻容器内に設置され、油脂分解菌を含有する腐植からなる油脂分解剤および含油廃棄物を貯留するための内殻容器とを含む二重構造の油分解処理槽であって、両容器は水の加熱により発生する蒸気が連通するように構成されていることを特徴とする前記油分解処理槽。
【請求項2】
さらに、前記内殻容器内の前記油脂分解剤および含油廃棄物からなる菌床内を通って前記蒸気を循環させるための循環手段を有する、請求項1に記載の油分解処理槽。
【請求項3】
前記循環手段は、内殻容器の上部と下部とを容器の外部で連結する通路の途中に設けた循環ファンからなる、請求項2に記載の油分解処理槽。
【請求項4】
さらに、前記循環手段と内殻容器下部との間に設置される通気手段を有する、請求項2または3に記載の油分解処理槽。
【請求項5】
前記通気手段は、内殻容器下部に設置されるメッシュ管または多孔管からなる、請求項4に記載の油分解処理槽。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−94612(P2010−94612A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268238(P2008−268238)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(591177129)エンザイム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】