説明

油吸着材

【課題】エスカレータ用の排油吸収材として、難燃性の繊維で作成した袋体に油吸収材を充填したものが提案されている。しかし、この油吸収材でもなお、難燃性袋体から潤滑油が染み出し、その結果、火災を起こす可能性は否定できなかった。
【解決手段】本発明の油吸着材は、繊維密度が0.01g/cm3を超え、0.5g/cm3未満の範囲および厚さが3〜30mmの範囲の不燃性または難燃性繊維からなることを特徴とする。不燃性または難燃性繊維としては、耐炎化アクリル繊維、PBO繊維、炭化珪素繊維またはセラミック繊維が好適である。本発明は、特にエレベータやエスカレータ等の昇降機の油受け用に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機やモーター用の油受け用として好適な不燃性または難燃性繊維からなる油吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータは、ガイドレールに案内されて昇降するが、昇降動作を円滑に行うために、ガイドレールには潤滑油が塗布される。この潤滑油は自重でガイドレールを伝わって垂下する。また、エスカレータにおいても、無端状の踏段が反転する機械室下部で踏台に塗布された潤滑油が落下する。
【0003】
このため、これら昇降機からの潤滑油による油汚染の可能性ある所には、油吸着材が敷設される。
【0004】
しかし、油吸着材が敷設された環境では、静電気やタバコ等を原因として油吸着材が発火し、火災を起こす可能性がある。
【0005】
そこで、油吸着材を難燃性の袋体に封入した油吸着材が提案されている。
【特許文献1】特開2001−192196号公報
【特許文献2】特許第3193660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、油吸着材自体として、特定の物理的性質を有する不燃性または難燃性繊維を使用することで、火災の可能性をなくした油吸着材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維密度が0.01g/cm3を超え、0.5g/cm3未満であり、厚さが3〜30mmの不燃性または難燃性繊維からなることを特徴とする油吸着材である。好ましくは、繊維密度が0.01〜0.3g/cm3の不燃性または難燃性繊維からなることを特徴とする油吸着材で ある。
【0008】
また、本発明は、不燃性または難燃性繊維が耐炎化アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、炭化珪素繊維またはセラミック繊維である油吸着材である。
【0009】
本発明の油吸着材は、一般工場のモーター用油受けに使用できるが、特にエレベータやエスカレータ等の昇降機の油受け用に好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油吸着材は、特定の物理的性質を有する不燃性または難燃性繊維を採用したため、潤滑油を吸着しても、きわめて着火しにくく、その結果、油吸着材による火災の可能性をなくすことができる。また、吸着力に優れているため、潤滑油がはねて周囲を汚すこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の油吸着材の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明においては、不燃性または難燃性繊維を使用する。不燃性または難燃性繊維としては、耐炎化アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維等が例示される。
【0013】
このうち、耐炎化アクリル繊維は、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維をトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等の難燃剤をコーティングするか、または原料ポリマに前記難燃材を混合して製造したもの等が例示され、市販品として、ニューラスタンフェルト(日曹商事社商品名)が挙げられる。また、PBO繊維の市販品として、ザイロン(旭化成社商品名)が例示される。炭化珪素繊維の市販品として、ハイニカロン(日本カーボン社製品名)が例示され、セラミック繊維は、例えば、ニチビ社から市販されている。
【0014】
本発明においては、これらの不燃性または難燃性繊維は特定の物理的性質を有するように整形される。すなわち、繊維密度が0.01g/cm3を超え、0.5g/cm3未満、好ましくは0.05〜0.3g/cm3、および厚さが3〜30mmとなるように整形される。
【0015】
繊維密度はウエブの繊維間の隙間を調整することより、所望の繊維密度となすことができる。
【0016】
不燃性または難燃性繊維の形状は、シート状、マット状等、任意の形状を選択できる。シート状を選択した場合、その大きさは敷設場所等の用途に応じて決定されるが、例えば、100〜300mm×50〜200mmとすることができる。
【0017】
不燃性または難燃性繊維の上記物理的性質がこれらの範囲を外れると、吸着された潤滑油が漏出して発火する可能性があったり、吸油量が少なくなったりして、本発明の所期の効果を発揮しにくくなる。
【0018】
本発明の不燃性または難燃性繊維は、昇降機から潤滑油が漏出する場所に設置できる。例えば、エレベータの場合、ガイドレールの下部、エスカレータの場合、無段踏台が反転する機械室下部に設置される。
【0019】
潤滑油を吸着した本発明の油吸着材は、そのまま廃棄物として捨ててもよいし、加圧等により吸着した潤滑油を搾り出し、再利用してもよい。
【0020】
本発明の不燃性または難燃性繊維は、特定の物理的性質を有するように作成されるため、吸油量も多い。
【実施例1】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1、比較例1
潤滑油(昭和シェル製オマラオイルVG150)を充填した容器に、繊維密度0.1g/cm3、大きさ220mm×150mm、厚さ5mmに調製されたシート状油吸着材(耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるニューラスタンフェルト:日曹商事製品)を10分間浸漬し、その後引き上げて5分間懸吊した後、重量を測定して吸油量を測定した。その後、火炎温度900℃のライターを着火状態で5秒間接触させて着火性の試験を行った。
【0023】
一方、比較例として、厚さ1mmの耐炎化ポリアクリロニトリル繊維2枚を縫製で張り合わせて大きさ220mm×150mm、厚さ10mmの袋体にし、その中に熱可塑性エラストマーからなる吸油材を充填した。ついで上記実施例と同一の操作を行って潤滑油を吸着させた後、吸油量と着火性の試験を行った。
【0024】
上記実施例と比較例の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より本発明の油吸着材は、着火性を示さず、しかも、従来の2倍の吸油量を示すことがわかる。
【0027】
実施例2、比較例2〜5
実施例1で用いたものと同一の素材であるが、厚さと繊維密度が異なる不燃性または難燃性繊維の油吸着材を用いて実施例1と同一の操作を行って、吸油量と着火性を測定した。厚さ、繊維密度、及び吸油量と着火性の結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、繊維密度が0.01g/cm3を超え、0.5g/cm3未満の範囲および厚さが3〜30mmの範囲をはずれると、着火性が高まったり、吸油量が悪化したりすることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により提供される不燃性または難燃性繊維の油吸着材は、着火性が極めて低く、また吸油量に優れることから、エレベータやエスカレータ等の昇降機や一般の工場におけるモーター等から漏出する潤滑油の吸着材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維密度が0.01g/cm3を超え、0.5g/cm3未満であり、厚さが3〜30mmの不燃性または 難燃性繊維からなることを特徴とする油吸着材。
【請求項2】
請求項1において、繊維密度が0.05〜0.3g/cm3の不燃性または難燃性繊維からなることを特徴とする油吸着材。
【請求項3】
請求項1または2において、不燃性または難燃性繊維が耐炎化アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、炭化珪素繊維またはセラミック繊維である油吸着材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、油吸着材が昇降機の油受け用である油吸着材。

【公開番号】特開2006−263604(P2006−263604A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86371(P2005−86371)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】