説明

油圧システムにおける作動油成分補給装置および方法

【課題】油圧システムに使用される作動油の成分の劣化度合いを正確に判断し、作動油成分を最適な量だけ補給できるようにして、作動油の劣化を抑制し、作動油の性能を維持できるようにする。
【解決手段】一定温度における粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤が作動油に補給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油によって作動される油圧システムにおける作動油の成分を補給する装
置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械などの作業車両には、油圧システムが搭載されている。
【0003】
油圧システムは、作動油によって作動される。作動油の成分は、基油と添加剤からなる。
【0004】
近年、油圧システムに使用される作動油には、油漏れの防止、機械効率の向上を目的と
して、基油に、添加剤として粘度調整剤を加えたものが使用されるようになっている。
【0005】
しかし、作動油の使用に伴い、作動油の粘度が劣化(変化)し、初期の性能を維持でき
なくなる。そこで、作動油の粘度が劣化した場合には、最適な時期に最適な量の基油や粘
度調整剤を作動油に補給する必要がある。基油や粘度調整剤の補給が遅れたり補給量が不
足すると、作動油の劣化を抑えることができないし、基油や粘度調整剤の補給が早かった
り補給量が過剰であると、作動油が固くなるなどして、作業機の動きが鈍くなったりする
などの不具合を招くからである。
【0006】
下記特許文献1には、エンジンオイルの劣化度合いを総エンジン回転数を計測すること
よって判断し、計測した総エンジン回転数が基準値を超えた場合にエンジンオイルを補給
するという発明が記載されている。
【0007】
下記特許文献2には、エンジンオイルの粘度を計測し、粘度が基準値よりも低下した場
合にエンジンオイルが劣化したと判断し、エンジンオイルを補給するという発明が記載さ
れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開8-326519号公報
【特許文献2】特開2000-220429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
建設機械の作業機などの作動に使用される作動油は、特許文献1に記載のエンジンオイ
ルのように、エンジン回転数を目安にして、その劣化度を判断することはできない。すな
わち、たとえば建設機械では、車種にもよるが、エンジンのパワーは、油圧システムのみ
ならず、走行駆動力伝達経路を介して駆動輪にも伝達される。またエンジンが稼動してい
るからといって、必ずしも常時作業機が作動しているとは限らない。よってエンジンの使
用回転数、エンジンの稼動時間は、作動油の劣化度合いの目安とはなり得ないものであり、
特許文献1に記載された発明をそのまま、建設機械などの油圧システムに使用される作動
油の劣化度合いの判断に用いることはできない。
【0010】
特許文献2に記載のように、作動油の劣化度合いの目安を単に粘度とした場合には、粘
度は温度によって大きく変動することから、正確な判断に欠けるという問題がある。作動
油の温度が不明で単に粘度の測定結果のみで、劣化度合いを判断し補給した場合には、判
断の正確さ、補給量の正確さに欠けるという問題が起きる。たとえば、エンジン始動直後
の作動油温は一般的に低く粘度が高く、このときの粘度の測定結果から劣化度合いを判断
すると、作動油が劣化(粘度が低下)しているにもかかわらず、暖機時よりも作動油が固
くなっているため作動油が劣化していないと誤った判断をしてしまうことになる。
【0011】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、油圧システムに使用される作動
油の成分の劣化度合いを正確に判断し、作動油成分を最適な量だけ補給できるようにして、
作動油の劣化を抑制し、作動油の性能を維持できるようにすることを解決課題とするもの
である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明は、
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給装置
であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測する計測手段と、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っ
ていることを判断する判断手段と、
粘度調整剤が貯留されている貯留手段と、
前記貯留手段内の粘度調整剤を作動油に供給する供給路と、
前記供給路の開閉を調整する開閉手段と、
前記判断手段によって、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判
断された場合に、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤が作動油
に補給されるように前記開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0013】
第2発明は、第1発明において、
作動油を一定温度に温調する温調手段が設けられ、
計測手段は、前記温調手段によって一定温度に温調された作動油の粘度を計測すること
を特徴とする。
【0014】
第3発明は、
作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給装置であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測する計測手段と、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを
判断する判断手段と、
作動油の基油が貯留されている貯留手段と、
前記貯留手段内の基油を作動油に供給する供給路と、
前記供給路の開閉を調整する開閉手段と、
前記判断手段によって、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断され
た場合に、粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に補給されるよう
に前記開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0015】
第4発明は、第3発明において、
作動油を一定温度に温調する温調手段が設けられ、
計測手段は、前記温調手段によって一定温度に温調された作動油の粘度を計測すること
を特徴とする。
【0016】
第5発明は、
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給装置
であって、
高温の一定温度における作動油の粘度および低温の一定温度における作動油の温度を計
測する計測手段と、
高温の一定温度における高温粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基
準値とを比較し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることを判断す
る第1の判断手段と、
低温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における基油用粘度基準値とを比
較し、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを判断する第2の判断手段
と、
粘度調整剤が貯留されている第1の貯留手段と、
作動油の基油が貯留されている第2の貯留手段と
前記第1の貯留手段内の粘度調整剤を作動油に供給する第1の供給路と、
前記第2の貯留手段内の基油を作動油に供給する第2の供給路と、
前記第1の供給路の開閉を調整する第1の開閉手段と、
前記第2の供給路の開閉を調整する第2の開閉手段と、
前記第1の判断手段によって、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回ってい
ることが判断された場合に、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度
調整剤が作動油に補給されるように前記第1の開閉手段を制御するともに、
前記第2の判断手段によって、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていること
が判断された場合に、低温粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に
補給されるように前記第2の開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0017】
第6発明は、第1発明において、
供給路を通過する粘度調整剤の流量を計測する流量計測手段が設けられ、
制御手段は、計測された流量の累積値が、粘度計測値に対応する累積流量基準値に達す
るまで開閉手段を制御すること
を特徴とする。
【0018】
第7発明は、第3発明において、
供給路を通過する基油の流量を計測する流量計測手段が設けられ、
制御手段は、計測された流量の累積値が、粘度計測値に対応する累積流量基準値に達す
るまで開閉手段を制御すること
を特徴とする。
【0019】
第8発明は、第5発明において、
第1の供給路を通過する粘度調整剤の流量を計測する第1の流量計測手段と、第2の供
給路を通過する基油の流量を計測する第2の流量計測手段とが設けられ、
制御手段は、前記第1の流量計測手段で計測された流量の累積値が、高温粘度計測値に
対応する累積流量基準値に達するまで第1の開閉手段を制御するとともに、
前記第2の流量計測手段で計測された流量の累積値が、低温粘度計測値に対応する累積
流量基準値に達するまで第2の開閉手段を制御すること
を特徴とする。
【0020】
第9発明は、
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給方法
であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測するステップと、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っ
ていることを判断するステップと、
粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、粘度計
測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤を作動油に補給するステップと
を含む油圧システムにおける作動油成分補給方法であることを特徴とする。
【0021】
第10発明は、
作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給方法であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測するステップと、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを
判断するステップと、
粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断された場合に、粘度計測値が
基油用粘度基準値に低下するまで基油を作動油に補給するステップと
を含む油圧システムにおける作動油成分補給方法であることを特徴とする。
【0022】
第11発明は、
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給方法
であって、
高温の一定温度における作動油の粘度および低温の一定温度における作動油の温度を計
測するステップと、
高温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基準値
とを比較し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることを判断すると
ともに、
低温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における基油用粘度基準値とを比
較し、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを判断するステップと、
高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、高
温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤を作動油に補給するとと
もに、
低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断された場合に、粘度計測
値が基油用粘度基準値に低下するまで基油を作動油に補給するステップと
を含む油圧システムにおける作動油成分補給方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
第1発明によれば、一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、
対応する温度における粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘
度基準値を下回っていることが判断された場合に、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値
に達するまで粘度調整剤が作動油に補給されるようにしたので、油圧システムに使用され
る作動油に含まれる粘度調整剤の劣化度合いが、温度を同一条件とした粘度計測値と基準
値との対比の下で正確に判断され、新しい粘度調整剤を最適な量だけ補給することができ
るようになる。これにより作動油の劣化が抑制され、作動油の性能を維持することができ
るようになる。
【0024】
第2発明では、第1発明において、作動油を一定温度に温調した上で、一定温度におけ
る作動油の粘度が計測される。
【0025】
第3発明によれば、一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、
対応する温度における基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上
回っていることが判断された場合に、粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油
が作動油に補給されるようにしたので、油圧システムに使用される作動油に含まれる基油
の劣化度合いが、温度を同一条件とした粘度計測値と基準値との対比の下で正確に判断さ
れ、新しい基油を最適な量だけ補給することができるようになる。これにより作動油の劣
化が抑制され、作動油の性能を維持することができるようになる。
【0026】
第4発明では、第3発明において、作動油を一定温度に温調した上で、一定温度におけ
る作動油の粘度が計測される。
【0027】
第5発明によれば、高温の一定温度における高温粘度計測値と、対応する温度における
粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っ
ていることを判断するとともに、低温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度に
おける基油用粘度基準値とを比較し、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っている
ことを判断し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断され
た場合に、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤が作動油に
補給されるようにするとともに、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていること
が判断された場合に、低温粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に
補給されるようにしたので、油圧システムに使用される作動油に含まれる粘度調整剤の劣
化度合いが、温度を高温の同一条件とした粘度計測値と基準値との対比の下で正確に判断
されるとともに、油圧システムに使用される作動油に含まれる基油の劣化度合いが、温度
を低温の同一条件とした粘度計測値と基準値との対比の下で正確に判断され、新しい粘度
調整剤、新しい基油をそれぞれ最適な量だけ補給することができるようになる。これによ
り作動油の劣化が抑制され、作動油の性能を維持することができるようになる。
【0028】
第6発明では、第1発明において、粘度調整剤の補給の際に、供給される粘度調整剤の
流量を計測し、計測した流量が、粘度計測値に対応する基準値に達するまで供給するよう
にしたので、適正な量の粘度調整剤を補給することができる。
【0029】
第7発明では、第3発明において、基油の補給の際に、供給される基油の流量を計測し、
計測した流量が、粘度計測値に対応する基準値に達するまで供給するようにしたので、適
正な量の基油を補給することができる。
【0030】
第8発明では、第5発明において、粘度調整剤の補給の際に、供給される粘度調整剤の
流量を計測し、計測した流量が、高温粘度計測値に対応する基準値に達するまで供給する
とともに、基油の補給の際に、供給される基油の流量を計測し、計測した流量が、低温粘
度計測値に対応する基準値に達するまで供給するようにしたので、適正な量の粘度調整剤、
適正な量の基油をそれぞれ補給することができる。
【0031】
第9発明は、第1発明の装置の発明に対応する方法の発明であり、第1発明と同様の効
果が得られる。
【0032】
第10発明は、第3発明の装置の発明に対応する方法の発明であり、第3発明と同様の
効果が得られる。
【0033】
第11発明は、第5発明の装置の発明に対応する方法の発明であり、第5発明と同様の
効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は第1実施例の構成図である。
【図2】図2は第1実施例におけるコントローラの制御ブロック図である。
【図3】図3は第1実施例におけるセンサおよびヒータの構成図である。
【図4】図4は第1実施例における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は第2実施例の構成図である。
【図6】図6は第2実施例におけるコントローラの制御ブロック図である。
【図7】図7は第2実施例における処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は第3実施例の構成図である。
【図9】図9は第4実施例の構成図である。
【図10】図10は第5実施例の構成図である。
【図11】図11は第6実施例における処理手順を示すフローチャートである。
【図12】図12は第7実施例の構成図である。
【図13】図13(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、作動油の温度と粘度の関係を示したグラフである。
【図14】図14は第7実施例における処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る油圧システムにおける作動油成分補給装置および
方法の実施の形態について説明する。
【0036】
(第1実施例)
図1は、実施例の油圧システムにおける作動油成分補給装置を示している。
【0037】
図1に示す油圧システム1は、たとえば建設機械に搭載され、作業機、走行装置などを
作動させるものであり、一例として油圧アクチュエータが油圧モータである場合を示して
いるが、他に油圧シリンダを使用することもできる。
【0038】
油圧ポンプ2は、可変容量型であり、その吐出口2aは、ポンプ吐出油路3に連通して
いる。油圧ポンプ2は、図示しないエンジンによって駆動されて、オイルタンク4から作
動油を吸込み圧油をポンプ吐出油路3に吐出する。油圧ポンプ2の斜板2bは、図示しな
い制御装置によって駆動制御される。
【0039】
図2は、コントローラ10の制御機能を示すブロック図である。なお、図2では、本発
明に係る制御機能のみ示している。コントローラ10は、粘度計測部11と、制御開始判
断部12と、開閉弁開閉制御部13とから構成されている。
【0040】
ポンプ吐出油路3には、流量方向制御弁5が設けられている。
【0041】
流量方向制御弁5は、油圧モータ6に供給される圧油の方向および流量を制御する。流
量方向制御弁5の弁位置は、図示しない制御装置によって駆動制御される。
【0042】
流量方向制御弁5の弁位置が、A位置5Aに切り換えられると、弁位置に応じた開口面
積の開口を、油圧ポンプ2から吐出された圧油が通過し、その開口面積に応じた流量の圧
油が油路7Aを介して油圧モータ6の一方の入出口6Aに供給されるとともに、他方の入
出口6Bから圧油が油路7B、流量方向制御弁5を介してオイルタンク4に排出される。
【0043】
これにより油圧モータ6が一方向Aに回転作動される。また、流量方向制御弁5の弁位置
が、B位置5Bに切り換えられると、弁位置に応じた開口面積の開口を、油圧ポンプ2か
ら吐出された圧油が通過し、その開口面積に応じた流量の圧油が油路7Bを介して油圧モ
ータ6の他方の入出口6Bに供給されるとともに、他方の出口6Aから圧油が油路7A、
流量方向制御弁5を介してオイルタンク4に排出される。これにより油圧モータ6が他方
向Bに回転作動される。
【0044】
本発明に係る装置は、既存の油圧システム1に、分岐油路9、粘度センサ20、温調手
段30、補給タンク40、供給路50、開閉弁60を付加することで構成することができ
る。
【0045】
すなわち、ポンプ吐出油路3には、分岐油路9が連通されている。分岐油路9には、粘
度センサ20が設けられている。分岐油路9は、オイルタンク4に連通されている。油圧
ポンプ2から吐出された圧油は、分岐油路9を通過して、オイルタンク4に排出される。
【0046】
粘度センサ20は、作動油の粘度を検出する。粘度センサ20には、作動油を一定温度
に温調する温調手段30が設けられている。
【0047】
図3は、粘度センサ20および温調手段30の構成を示した図である。
【0048】
粘度センサ20は、分岐油路9に形成された絞り21と、絞り21の前後の圧力P1、P
2をそれぞれ検出する圧力計22、23と、絞り21を通過する作動油の流量qを検出する
流量計24とから構成されている。温調手段30は、分岐油路9の絞り21の周囲に配置
されたヒータ31と、絞り21を通過する作動油の温度を検出する温度計32と、温度計
32の検出信号をフィードバック信号として、ヒータ31に供給される電力を調整して、
絞り21を通過する作動油の温度を一定温度に制御する温調器33とから構成されている。
【0049】
ここで、一定温度とは、たとえば110℃である。なお、温調器33の機能をコントロー
ラ10に組み入れてもよい。
【0050】
粘度センサ20および温度計32の検出信号は、コントローラ10に入力される。
【0051】
コントローラ10の粘度計測部11では、圧力計22、23それぞれで検出される絞り
21の前後の圧力P1、P2の差圧P1−P2と、流量計24で検出される絞り21を通過
する作動油の流量qとに基づいて、作動油の粘度が計測される。温調手段30によって作
動油の温度が一定温度に制御される。このため一定温度における作動油の粘度が計測され
る。
【0052】
貯留手段としての補給タンク40には、作動油の添加剤を構成し、作動油の粘度を調整
する粘度調整剤が貯留されている。
【0053】
補給タンク40には、供給路50が連通されている。供給路50には、供給路50の開
閉を調整する開閉手段としての開閉弁60が設けられている。開閉弁60は、コントロー
ラ10の開閉弁開閉制御部13によって制御される。開閉弁60は、コントローラ10か
ら出力される開閉信号によって開閉される。供給路50は、オイルタンク4に連通されて
いる。
【0054】
コントローラ10の制御開始判断部12は、温度計32の検出信号に基づいて開閉弁6
0の制御を開始する時期を判断する。
【0055】
コントローラ10の開閉弁開閉制御部13は、制御開始判断部12で開閉弁60の制御
を開始する時期であると判断された場合に、粘度計測部11で計測された一定温度におけ
る粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値
が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、粘度計測値が粘度調
整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤がオイルタンク4内の作動油に補給されるよう
に開閉弁60を制御する。
【0056】
以下、図4に示すフローチャートを併せ参照してコントローラ10で行われる制御処理
の手順について説明する。
【0057】
まず、温度計32で検出された作動油の温度が、一定温度±αの許容温度範囲内に収ま
っているか否かが判断される。ここで、許容温度範囲は、作動油の温度が一定温度(11
0℃)に達していることを許容できる温度範囲(たとえば110℃±5℃)に設定される
(ステップ101)。
【0058】
検出温度が許容温度範囲から外れていれば(ステップ101の判断NO)、開閉弁60は
閉じたままとされるが(ステップ102)、検出温度が許容温度範囲に収まった場合には(ス
テップ101の判断YES)、開閉弁60の開閉制御を開始すべく、つぎのステップ103
に移行する。
【0059】
ステップ103では、粘度計測部11で計測された一定温度(110℃)における粘度
計測値と、対応する温度(110℃)における粘度調整剤用粘度基準値とが比較され、粘
度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っているか否かが判断される(ステップ103)。
【0060】
この結果、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合
には(ステップ103の判断YES)、開信号が開閉弁60に出力されて供給路50が開か
れ、補給タンク40から供給路50を介してオイルタンク4内の作動油に粘度調整剤が補
給される(ステップ104)。
【0061】
手順は、ステップ101に戻り、同様の処理が行われ、作動油の温度が一定温度(11
0℃)に達していることを許容できる温度範囲(たとえば110℃±5℃)にあり(ステ
ップ101の判断YES)、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達していない限りは
(ステップ103の判断YES)、開閉弁60は開状態のままとされ、補給タンク40から
供給路50を介してタンク4内の作動油に粘度調整剤が補給され続ける(ステップ104)。
【0062】
やがて、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達したと判断されると(ステップ10
3の判断NO)、閉信号が開閉弁60に出力されて供給路50が閉じられ、補給タンク40
からオイルタンク4内の作動油への粘度調整剤の補給が停止する(ステップ105)。
【0063】
以上のように本実施例によれば、一定温度における粘度計測値と、対応する温度におけ
る粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回って
いることが判断された場合に、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調
整剤が作動油に補給されるようにしたので、油圧システム1に使用される作動油に含まれ
る粘度調整剤の劣化度合いが、温度を同一条件とした粘度計測値と基準値との対比の下で
正確に判断され、新しい粘度調整剤を最適な量だけ補給することができるようになる。こ
れにより作動油の劣化が抑制され、作動油の性能を維持することができるようになる。
【0064】
上述した第1実施例に対しては種々の変形した実施が可能である。
【0065】
(第2実施例)
図5は、図1に対応する装置構成を示している。以下では、第1実施例と同一部分につ
いては繰り返しの重複した説明は省略し、付加ないしは変更した部分につき説明する。
【0066】
図5に示すように第2実施例の装置構成では、供給路50に、供給路50を通過する粘
度調整剤の流量Qを計測する流量計測手段としての流量計70が設けられる。流量計70
で計測された流量を示す信号は、コントローラ10に入力される。
【0067】
図6は、図2に対応するコントローラ10のブロック図である。図2に示す構成に対し
て、コントローラ10には、累積流量基準値メモリ14と、タイマ15と、累積流量演算
部16が付加されている。
【0068】
タイマ15は、オンされることにより、開閉弁60が開いている時間tを計時する。
【0069】
累積流量基準値メモリ14には、粘度計測値に応じて必要な粘度調整剤の累積流量基準
値Q0・T0が記憶されている。
【0070】
累積流量演算部16は、流量計70で計測された流量Qとタイマ15による計時時間t
とを乗算して、累積流量Q・tを演算する。
【0071】
開閉弁開閉制御部13は、 累積流量基準値メモリ14から、粘度計測値に対応する累
積流量基準値Q0・t0を読み出し、累積流量演算部16で演算された累積流量Q・tが、
読み出された累積流量基準値Q0・t0に達するまで開閉弁60の開閉を制御する。
【0072】
以下、図7に示すフローチャートを併せ参照してコントローラ10で行われる制御処理
の手順について説明する。
【0073】
まず、温度計32で検出された作動油の温度が、一定温度±αの許容温度範囲(たとえ
ば110℃±5℃)内に収まっているか否かが判断される(ステップ201)。
【0074】
検出温度が許容温度範囲から外れていれば(ステップ201の判断NO)、開閉弁60は
閉じたままとされるが(ステップ202)、検出温度が許容温度範囲に収まった場合には(ス
テップ201の判断YES)、開閉弁60の開閉制御を開始すべく、つぎのステップ203
に移行する。
【0075】
ステップ203では、粘度計測部11で計測された一定温度(110℃)における粘度
計測値と、対応する温度(110℃)における粘度調整剤用粘度基準値とが比較され、粘
度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っているか否かが判断される(ステップ203)。
【0076】
この結果、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合
には(ステップ203の判断YES)、開信号が開閉弁60に出力されて供給路50が開か
れ、補給タンク40から供給路50を介してオイルタンク4内の作動油に粘度調整剤が補
給される(ステップ204)。
【0077】
ついでタイマ15がオンされ、開閉弁60が開いている時間tを計時する(ステップ2
05)。
【0078】
つぎに、流量計70で計測された流量Qとタイマ15による計時時間tとが乗算され、
累積流量Q・tが演算される。そして、累積流量基準値メモリ14から、粘度計測値に対
応する累積流量基準値Q0・t0が読み出され、演算された累積流量Q・tが、読み出され
た累積流量基準値Q0・t0以上になったか否かが判断される(ステップ206)。累積流量
Q・tが、累積流量基準値Q0・T0未満である限りは(ステップ206の判断NO)、開閉
弁60の開状態が維持されるが、やがて累積流量Q・tが、累積流量基準値Q0・t0に達
すると(ステップ206の判断YES)、閉信号が開閉弁60に出力されて供給路50が閉
じられ、補給タンク40からオイルタンク4内の作動油への粘度調整剤の補給が停止する
(ステップ207)。以後、手順はステップ201に戻り同様の処理が行われるが、ステッ
プ203で粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達したと判断されると(ステップ20
3の判断NO)、開閉弁60は閉じたままとされる(ステップ208)。
【0079】
(第3実施例)
上述した実施例では、粘度センサ20に加え、温調手段30を設けることで、一定温度
における粘度計測値を計測し、一定温度(たとえば110℃)における粘度計測値と、対
応する一定温度(110℃)における粘度調整剤用粘度基準値とを比較するようにしてい
る。
【0080】
しかし、図8に示すように、粘度センサ20に加え、温度計32のみを設け、計測温度
T(温度計32で計測される今現在の任意の温度であり、たとえば90℃)における粘度
計測値と、対応する温度T(90℃)における粘度調整剤用粘度基準値とを比較する実施
も可能である。この場合、任意の各温度Tに対応する粘度調整剤用粘度基準値を予め記憶
しておく必要がある。
【0081】
(第4実施例)
また、図9に示すように、粘度調整剤を効率よく補給するために、補給タンク40に、
温調手段30と同様の温調手段30´を設けて、補給タンク40に貯留されている粘度調
整剤を一定温度に温調する実施も可能である。更に、オイルタンク4内の作動油の粘度と、
補給タンク40内の粘度調整剤の粘度が同一となるように、補給タンク40に貯留されて
いる粘度調整剤を温調する実施も可能である。これにより粘度調整剤がオイルタンク40
に供給された際に、供給された粘度調整剤がオイルタンク40内の作動油に混ざり易くな
る。
【0082】
(第5実施例)
また、図10に示すように、オイルタンク4に、オイルタンク4内の作動油を攪拌する
攪拌器80を設け、オイルタンク4内の作動油と、補給タンク40より補給された粘度調
整剤を均一に混ぜるように構成してもよい。
【0083】
(第6実施例)
上述した各実施例では、作動油の劣化成分として粘度調整剤を想定し、粘度調整剤が劣
化した場合に、粘度調整剤を補給するようにしている。しかし、作動油の劣化成分として
基油を想定し、基油が劣化した場合に、基油を補給する実施も可能である。
【0084】
基油が劣化した場合には、粘度調整剤が劣化した場合とは逆に、粘度が高くなる。よっ
て上述の第1実施例〜第5実施例における「粘度調整剤」を「基油」に代え、「粘度調整剤
用粘度基準値」を「基油用粘度基準値」に代え、判断における「下回っている」を「上回
っている」に代えることで同様に、基油が劣化した場合の制御を同様にして行うことがで
きる。
【0085】
一例として、第1実施例の図4のフローチャートに対応するフローチャートを図11に
示し、説明する。以下、図11に示すフローチャートを併せ参照してコントローラ10で
行われる制御処理の手順について説明する。
【0086】
まず、温度計32で検出された作動油の温度が、一定温度±αの許容温度範囲内に収ま
っているか否かが判断される(ステップ301)。
【0087】
検出温度が許容温度範囲から外れていれば(ステップ301の判断NO)、開閉弁60は
閉じたままとされるが(ステップ302)、検出温度が許容温度範囲に収まった場合には(ス
テップ301の判断YES)、開閉弁60の開閉制御を開始すべく、つぎのステップ303
に移行する。
【0088】
ステップ303では、粘度計測部11で計測された一定温度(たとえば40℃)におけ
る粘度計測値と、対応する温度(40℃)における基油用粘度基準値とが比較され、粘度
計測値が基油用粘度基準値を上回っているか否かが判断される(ステップ303)。
【0089】
この結果、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断された場合には(ス
テップ303の判断YES)、開信号が開閉弁60に出力されて供給路50が開かれ、補給
タンク40から供給路50を介してオイルタンク4内の作動油に基油が補給される(ステ
ップ304)。
【0090】
手順は、ステップ301に戻り、同様の処理が行われ、作動油の温度が一定温度(40℃)
に達していることを許容できる温度範囲(たとえば40℃±5℃)にあり(ステップ30
1の判断YES)、粘度計測値が基油用粘度基準値まで低下していない限りは(ステップ3
03の判断YES)、開閉弁60は開状態のままとされ、補給タンク40から供給路50を
介してタンク4内の作動油に基油が補給され続ける(ステップ304)。
【0091】
やがて、粘度計測値が基油用粘度基準値まで低下したと判断されると(ステップ303
の判断NO)、閉信号が開閉弁60に出力されて供給路50が閉じられ、補給タンク40か
らオイルタンク4内の作動油への基油の補給が停止する(ステップ305)。
【0092】
以上のように本実施例によれば、一定温度における粘度計測値と、対応する温度におけ
る基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判
断された場合に、粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に補給され
るようにしたので、油圧システム1に使用される作動油に含まれる基油の劣化度合いが、
温度を同一条件とした粘度計測値と基準値との対比の下で正確に判断され、新しい基油を
最適な量だけ補給することができるようになる。これにより作動油の劣化が抑制され、作
動油の性能を維持することができるようになる。
【0093】
(第7実施例)
また、作動油の劣化成分が粘度調整剤であるのか、基油であるのか、あるいは粘度調整
剤および基油の両方であるのかを判断して、判断結果に応じて補給を行う実施も可能であ
る。
【0094】
図12は、流量計70を備えた図5の装置構成、温調手段30´を備えた図9の装置構
成に対応する装置構成を示している。以下では、図5、図9と同一部分については繰り返
しの重複した説明は省略し、付加ないしは変更した部分につき説明する。なお、コントロ
ーラ10の構成は、図6に示した構成と同様である。
【0095】
以下では、「基油」と「粘度調整剤」を区別するために、符号にそれぞれ「A」、「B」を
付与する。
【0096】
分岐油路9A、9Bにはそれぞれ、粘度センサ20A、20Bが設けられている。粘度
センサ20A、20Bは、作動油の粘度を検出する。粘度センサ20A、20Bにはそれ
ぞれ、作動油を異なる低温の一定温度Ta(たとえば40℃)、高温の一定温度Tb(たと
えば110℃)に温調する温調手段30A、30Bが設けられている。温調手段30A、
30Bにはそれぞれ、実際の温度Tを検出する温度計32A、32Bが設けられている。
【0097】
コントローラ10の粘度計測部11では、低温の一定温度Ta(40℃)における作動
油の粘度および高温の一定温度Tb(110℃)における作動油の温度が計測される。
【0098】
補給タンク40Aには、基油が貯留され、補給タンク40Bには、粘度調整剤が貯留さ
れている。補給タンク40Aは、供給路50Aを介してオイルタンク4に連通されている
とともに、補給タンク40Bは、供給路50Bを介してオイルタンク4に連通されている。
【0099】
補給タンク40A、40Bにはそれぞれ、温調手段30´A、30´Bが設けられてい
る。
【0100】
供給路50A、50Bにはそれぞれ、開閉弁60A、60Bが設けられている。
【0101】
また供給路50A、50Bにはそれぞれ、流量計70A、70Bが設けられている。
【0102】
図13(a)は、作動油の温度と粘度の関係Lを示したグラフである。
【0103】
図13(a)において、符号は下記を意味する。
【0104】
Ta:粘度センサ20Aの温調温度(低温)
Tb:粘度センサ20Bの温調温度(高温)
A: 粘度センサ20Aで計測される低温における粘度計測値
B: 粘度センサ20Bで計測される高温における粘度計測値
At:低温における粘度計測値の許容範囲上限値
Ab:低温における粘度計測値の許容範囲下限値
Bt:高温における粘度計測値の許容範囲上限値
Bb:高温における粘度計測値の許容範囲下限値
図13(b)、(c)、(d)は、新鮮な作動油と劣化した作動油を対比させて、温度と粘
度の関係を示したグラフである。
【0105】
図13(b)は、新鮮な作動油の温度と作動油粘度の関係L0と、基油の劣化が支配的
な場合の温度と作動油粘度の関係LAを対比して示している。基油の劣化が支配的な場合
には、LAはL0に対して粘度上昇側に移動する。このため低温の一定温度Taにおける
低温粘度計測値Aが低温上限値Atを上回るとともに、高温の一定温度Tbにおける高温
粘度計測値Bが高温上限値Btを上回る。
【0106】
図13(c)は、新鮮な作動油の温度と作動油粘度の関係L0と、粘度調整剤の劣化が
支配的な場合の温度と作動油粘度の関係LBを対比して示している。粘度調整剤の劣化が
支配的な場合には、LBはL0に対して高温側の粘度が低下するように傾く。このため高
温の一定温度Tbにおける高温粘度計測値Bが高温下限値Bbを下回る。
【0107】
図13(d)は、新鮮な作動油の温度と作動油粘度の関係L0と、基油および粘度調整
剤の両方の劣化がみられる場合の温度と作動油粘度の関係LABを対比して示している。
【0108】
基油および粘度調整剤の両方の劣化がみられる場合には、LABはL0に対して低温側の
粘度が上昇するとともに高温側の粘度が低下するように傾く。このため低温の一定温度T
aにおける低温粘度計測値Aが低温上限値Atを上回るとともに、高温の一定温度Tbに
おける高温粘度計測値Bが高温上限値Btを下回る。
【0109】
よって、コントローラ10の開閉弁開閉制御部13は、制御開始判断部12で開閉弁6
0Bの制御を開始する時期であると判断された場合に、高温の一定温度Tbにおける高温
粘度計測値Bと、対応する温度Tbにおける粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、高温粘
度計測値Bが粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることを判断し、高温粘度計測値Bが
粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、高温粘度計測値Bが粘
度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤がオイルタンク4内の作動油に補給される
ように開閉弁60Bの開閉を制御する(図13(c)、図13(d))。
【0110】
また、コントローラ10の開閉弁開閉制御部13は、制御開始判断部12で開閉弁60
Aの制御を開始する時期であると判断された場合に、低温の一定温度Taにおける粘度計
測値Aと、対応する温度Taにおける基油用粘度基準値とを比較し、低温粘度計測値Aが
基油用粘度基準値を上回っていることを判断し、低温粘度計測値Aが基油用粘度基準値を
上回っていることが判断された場合に、低温粘度計測値Aが基油用粘度基準値に低下する
まで基油が作動油に補給されるように開閉弁60Aの開閉を制御する。
【0111】
以下、図14に示すフローチャートを併せ参照してコントローラ10で行われる制御処
理の手順について説明する。
【0112】
まず、温度計32A,32Bで検出された作動油の温度がそれぞれ、低温における一定
温度Ta±αの許容温度範囲(たとえば40℃±5℃)、高温における一定温度Tb±αの
許容温度範囲(たとえば110℃±5℃)内に収まっているか否かが判断される(ステッ
プ401)。
【0113】
検出温度が許容温度範囲から外れていれば(ステップ401の判断NO)、開閉弁60A、
60Bは閉じたままとされるが(ステップ402)、検出温度が許容温度範囲に収まった場
合には(ステップ402の判断YES)、開閉弁60A、60Bの開閉制御を開始すべく、
つぎのステップ403に移行する。
【0114】
ステップ403では、低温における一定温度Ta(40℃)における粘度計測値Aと、
対応する温度Ta(40℃)における基油用粘度基準値Atとが比較され、低温粘度計測
値Aが基油用粘度基準値Atを上回っているか否かが判断される(ステップ403)。
【0115】
この結果、低温粘度計測値Aが基油用粘度基準値Atを上回っていることが判断された
場合には(ステップ403の判断YES)、つぎに、高温における一定温度Tb(110℃)
における粘度計測値Bと、対応する温度Tb(110℃)における粘度調整材用粘度基準
値Btとが比較され、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基準値Btを上回っているか
否かが判断される(ステップ404)。この結果、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基
準値Btを上回っていることが判断された場合には(ステップ404の判断YES)、基油
の劣化が支配的な場合であると判断され(図13(b))、開信号が開閉弁60Aに出力さ
れて供給路50Aが開かれ、補給タンク40Aから供給路50Aを介してオイルタンク4
内の作動油に基油が補給される(ステップ405)。
【0116】
ついでタイマ15がオンされ、開閉弁60Aが開いている時間tAを計時する(ステッ
プ410)。
【0117】
つぎに、流量計70Aで計測された流量QAとタイマ15による計時時間tAとが乗算
され、累積流量QA・tAが演算される。そして、累積流量基準値メモリ14から、低温
粘度計測値Aに対応する累積流量基準値QA0・tA0が読み出され、演算された累積流量
QA・tAが、読み出された累積流量基準値QA0・tA0以上になったか否かが判断され
る(ステップ411)。累積流量QA・tAが、累積流量基準値QA0・tA0未満である限
りは(ステップ411の判断NO)、開閉弁60Aの開状態が維持されるが、やがて累積流
量QA・tAが、累積流量基準値QA0・tAT0に達すると(ステップ411の判断YE
S)、閉信号が開閉弁60Aに出力されて供給路50Aが閉じられ、補給タンク40Aから
オイルタンク4内の作動油への基油の補給が停止する(ステップ412)。
【0118】
ステップ403で、低温粘度計測値Aが基油用粘度基準値At以下であることが判断さ
れた場合には(ステップ403の判断NO)、つぎに、高温における一定温度Tb(110℃)
における粘度計測値Bと、対応する温度Tb(110℃)における粘度調整材用粘度基準
値Bbとが比較され、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基準値Bbを下回っているか
否かが判断される(ステップ406)。この結果、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基
準値Bbを下回っていることが判断された場合には(ステップ406の判断YES)、粘度
調整剤の劣化が支配的な場合であると判断され(図13(c))、開信号が開閉弁60Bに
出力されて供給路50Bが開かれ、補給タンク40Bから供給路50Aを介してオイルタ
ンク4内の作動油に粘度調整剤が補給される(ステップ407)。
【0119】
ついでタイマ15がオンされ、開閉弁60Bが開いている時間tBを計時する(ステッ
プ410)。
【0120】
つぎに、流量計70Bで計測された流量QBとタイマ15による計時時間tBとが乗算
され、累積流量QB・tBが演算される。そして、累積流量基準値メモリ14から、高温
粘度計測値Bに対応する累積流量基準値QB0・tB0が読み出され、演算された累積流量
QB・tBが、読み出された累積流量基準値QB0・tB0以上になったか否かが判断され
る(ステップ411)。累積流量QB・tBが、累積流量基準値QB0・tB0未満である限
りは(ステップ411の判断NO)、開閉弁60Bの開状態が維持されるが、やがて累積流
量QB・tBが、累積流量基準値QB0・tB0に達すると(ステップ411の判断YES)、
閉信号が開閉弁60Bに出力されて供給路50Bが閉じられ、補給タンク40Bからオイ
ルタンク4内の作動油への粘度調整剤の補給が停止する(ステップ412)。
【0121】
ステップ406で、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基準値Bb以上であることが
判断された場合には(ステップ406の判断NO)、作動油の劣化は生じていないと判断さ
れ、開閉弁60A、60Bは閉じられたままとされ(ステップ409)、手順はステップ4
01に戻る。
【0122】
ステップ404で、高温粘度計測値Bが粘度調整剤用粘度基準値Bt以下であることが
判断された場合には(ステップ404の判断NO)、基油および粘度調整剤の双方の劣化が
みられる場合であると判断され(図13(d))、開信号が開閉弁60A、60Bそれぞれ
に出力されて供給路50A、50Bが開かれ、補給タンク40Aから供給路50Aを介し
てオイルタンク4内の作動油に基油が補給されるとともに、補給タンク40Bから供給路
50Bを介してオイルタンク4内の作動油に粘度調整剤が補給される(ステップ408)。
【0123】
ついでタイマ15がオンされ、開閉弁60A、60Bが開いている時間tA、tBがそ
れぞれ計時される(ステップ410)。
【0124】
つぎに、流量計70Aで計測された流量QAとタイマ15による計時時間tAとが乗算
され、累積流量QA・tAが演算される。そして、累積流量基準値メモリ14から、低温
粘度計測値Aに対応する累積流量基準値QA0・tA0が読み出され、演算された累積流量
QA・tAが、読み出された累積流量基準値QA0・tA0以上になったか否かが判断され
る。同様にして流量計70Bで計測された流量QBとタイマ15による計時時間tBとが
乗算され、累積流量QB・tBが演算される。そして、累積流量基準値メモリ14から、
高温粘度計測値Bに対応する累積流量基準値QB0・tB0が読み出され、演算された累積
流量QB・tBが、読み出された累積流量基準値QB0・tB0以上になったか否かが判断
される(ステップ411)。累積流量QA・tAが、累積流量基準値QA0・tA0未満であ
る限りは(ステップ411の判断NO)、開閉弁60Aの開状態が維持される。また、累積
流量QB・tBが、累積流量基準値QB0・tB0未満である限りは(ステップ411の判
断NO)、開閉弁60Bの開状態が維持される。
【0125】
やがて累積流量QA・tAが、累積流量基準値QA0・tA0に達すると(ステップ41
1の判断YES)、閉信号が開閉弁60Aに出力されて供給路50Aが閉じられ、補給タン
ク40Aからオイルタンク4内の作動油への基油の補給が停止する。同様に累積流量Q
B・tBが、累積流量基準値QB0・tB0に達すると(ステップ411の判断YES)、閉
信号が開閉弁60Bに出力されて供給路50Bが閉じられ、補給タンク40Bからオイル
タンク4内の作動油への粘度調整剤の補給が停止する(ステップ412)。
【0126】
以後、手順はステップ401に戻り同様の処理が行われるが、作動油の劣化が見られな
いと判断されると(ステップ406の判断NO)、開閉弁60は閉じたままとされる(ステ
ップ409)。
【0127】
この第7実施例では、第2実施例と同様に流量計70A、70Bを設けて流量計測値か
ら正確に開閉弁60A、60Bの開閉を制御している。しかし第1実施例と同様に流量計
70A、70Bを省略する実施も可能である。
【0128】
また、第3実施例と同様に、粘度センサ20A、20Bに加え、温度計32A、32B
のみを設ける実施も可能である。
【0129】
また、第5実施例と同様に、オイルタンク4に、攪拌器80を設けてもよい。
【0130】
以上説明した各実施例では、本発明の装置が建設機械に搭載され、本発明の方法が建設
機械において実施されることを想定して説明した。しかし、本発明の装置および方法は、
作動油によって作動される油圧システムが搭載された機器であれば、一般産業機械等にも
広く適用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 油圧システム、10 コントローラ、20(20A、20B) 粘度センサ、30
(30A、30B) 温調手段、40(40A,40B) 補給タンク、50(50A、
50B) 供給路、60(60A、60B) 開閉弁、70(70A、70B) 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油
成分補給装置であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測する計測手段と、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っ
ていることを判断する判断手段と、
粘度調整剤が貯留されている貯留手段と、
前記貯留手段内の粘度調整剤を作動油に供給する供給路と、
前記供給路の開閉を調整する開閉手段と、
前記判断手段によって、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判
断された場合に、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤が作動油
に補給されるように前記開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項2】
作動油を一定温度に温調する温調手段が設けられ、
計測手段は、前記温調手段によって一定温度に温調された作動油の粘度を計測すること
を特徴とする請求項1記載の油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項3】
作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給装置であ
って、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測する計測手段と、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを
判断する判断手段と、
作動油の基油が貯留されている貯留手段と、
前記貯留手段内の基油を作動油に供給する供給路と、
前記供給路の開閉を調整する開閉手段と、
前記判断手段によって、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断され
た場合に、粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に補給されるよう
に前記開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項4】
作動油を一定温度に温調する温調手段が設けられ、
計測手段は、前記温調手段によって一定温度に温調された作動油の粘度を計測すること
を特徴とする請求項3記載の油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項5】
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油
成分補給装置であって、
高温の一定温度における作動油の粘度および低温の一定温度における作動油の温度を計
測する計測手段と、
高温の一定温度における高温粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基
準値とを比較し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることを判断す
る第1の判断手段と、
低温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における基油用粘度基準値とを比
較し、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを判断する第2の判断手段
と、
粘度調整剤が貯留されている第1の貯留手段と、
作動油の基油が貯留されている第2の貯留手段と
前記第1の貯留手段内の粘度調整剤を作動油に供給する第1の供給路と、
前記第2の貯留手段内の基油を作動油に供給する第2の供給路と、
前記第1の供給路の開閉を調整する第1の開閉手段と、
前記第2の供給路の開閉を調整する第2の開閉手段と、
前記第1の判断手段によって、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回ってい
ることが判断された場合に、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度
調整剤が作動油に補給されるように前記第1の開閉手段を制御するともに、
前記第2の判断手段によって、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていること
が判断された場合に、低温粘度計測値が基油用粘度基準値に低下するまで基油が作動油に
補給されるように前記第2の開閉手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項6】
供給路を通過する粘度調整剤の流量を計測する流量計測手段が設けられ、
制御手段は、計測された流量の累積値が、粘度計測値に対応する累積流量基準値に達す
るまで前記開閉手段を制御すること
を特徴とする請求項1記載の油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項7】
供給路を通過する基油の流量を計測する流量計測手段が設けられ、
制御手段は、計測された流量の累積値が、粘度計測値に対応する累積流量基準値に達す
るまで前記開閉手段を制御すること
を特徴とする請求項3記載の油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項8】
第1の供給路を通過する粘度調整剤の流量を計測する第1の流量計測手段
と、第2の供給路を通過する基油の流量を計測する第2の流量計測手段とが設けられ、
制御手段は、前記第1の流量計測手段で計測された流量の累積値が、高温粘度計測値に
対応する累積流量基準値に達するまで第1の開閉手段を制御するとともに、
前記第2の流量計測手段で計測された流量の累積値が、低温粘度計測値に対応する累積
流量基準値に達するまで第2の開閉手段を制御すること
を特徴とする請求項5記載の油圧システムにおける作動油成分補給装置。
【請求項9】
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動油
成分補給方法であって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測するステップと、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける粘度調整剤用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っ
ていることを判断するステップと、
粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、粘度計
測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤を作動油に補給するステップと
を含むことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給方法。
【請求項10】
作動油によって作動される油圧システムにおける作動油成分補給方法で
あって、
一定温度における作動油の粘度または作動油の温度および粘度を計測するステップと、
一定温度における粘度計測値または計測温度における粘度計測値と、対応する温度にお
ける基油用粘度基準値とを比較し、粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを
判断するステップと、
粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断された場合に、粘度計測値が
基油用粘度基準値に低下するまで基油を作動油に補給するステップと
を含むことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給方法。
【請求項11】
粘度調整剤を含む作動油によって作動される油圧システムにおける作動
油成分補給方法であって、
高温の一定温度における作動油の粘度および低温の一定温度における作動油の温度を計
測するステップと、
高温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における粘度調整剤用粘度基準値
とを比較し、高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることを判断すると
ともに、
低温の一定温度における粘度計測値と、対応する温度における基油用粘度基準値とを比
較し、低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることを判断するステップと、
高温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値を下回っていることが判断された場合に、高
温粘度計測値が粘度調整剤用粘度基準値に達するまで粘度調整剤を作動油に補給するとと
もに、
低温粘度計測値が基油用粘度基準値を上回っていることが判断された場合に、粘度計測
値が基油用粘度基準値に低下するまで基油を作動油に補給するステップと
を含むことを特徴とする油圧システムにおける作動油成分補給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−236575(P2010−236575A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82768(P2009−82768)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】