説明

油圧テンショナ

【課題】簡易な構造で且つ容易な作業でプランジャをロックすることが可能な油圧テンショナを提供する。
【解決手段】プランジャスプリング11により外部へ突出する方向に付勢されるプランジャ2と、プランジャ2を摺動自在に支持するテンショナハウジング4と、テンショナハウジング4と一体又は別体に構成されるテンショナボディ5と、を備えるテンショナ本体13と、を備え、カムチェーン又はタイミングベルトに張力を付与する油圧テンショナ1であって、プランジャ2とテンショナハウジング4の一方には、プランジャ2の付勢方向に延出する平面部が形成され、プランジャ2とテンショナハウジング4の他方には、プランジャ2の摺動に伴ってプランジャ2とテンショナハウジング4の相対回転が不能となるように平面部を摺動する棒状部材が設けられ、平面部には、プランジャ2が収縮した状態でプランジャ2とテンショナハウジング4の相対回転を許容し棒状部材が係合する溝部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンのタイミングチェーン又はタイミングベルトに適正な張力を付与するために用いられる油圧テンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフト側スプロケットとカムシャフト側スプロケットとの間で回転を伝達するタイミングチェーン又はタイミングベルトの走行時に生じる振動を抑止し、かつ、適正な張力を維持するために、油圧テンショナが広く採用されている。この油圧テンショナは、ハウジング本体から突出するプランジャがエンジン本体側に揺動自在に軸支されているテンショナレバーの揺動端近傍の背面を押圧することにより、テンショナレバーのシュー面がチェーンの弛み側に摺動接触して張力を付加する構成となっている。
【0003】
特許文献1には、テンショナハウジングのシリンダ室の開口縁部の内周に段付きのセット溝を形成し、該セット溝に径方向に弾性変形可能なセットリングを縮径状態で組み込み、プランジャの先端部外周に形成された係合溝にセットリングを嵌合させてプランジャを押し込み状態に保持するロック機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の油圧テンショナでは、部品点数が増え、構造が複雑化するという問題があった。また、プランジャをロックする際はセットリングを縮径させながらプランジャを押し込む必要があり、より簡便な機構が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構造で且つ容易な作業でプランジャをロックすることが可能な油圧テンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の油圧テンショナは、
プランジャスプリングにより外部へ突出する方向に付勢されるプランジャと、
前記プランジャを摺動自在に支持するテンショナハウジングと、前記テンショナハウジングと一体又は別体に構成されるテンショナボディと、を備えるテンショナ本体と、
を備え、カムチェーン又はタイミングベルトに張力を付与する油圧テンショナであって、
前記プランジャと前記テンショナハウジングの一方には、前記プランジャの付勢方向に延出する平面部が形成され、
前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方には、前記プランジャの摺動に伴って前記プランジャと前記テンショナハウジングの相対回転が不能となるように前記平面部を摺動する棒状部材が設けられ、
前記平面部には、前記プランジャが収縮した状態で前記プランジャと前記テンショナハウジングの相対回転を許容し前記棒状部材が係合する溝部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の油圧テンショナは、請求項1に記載の構成に加えて、
前記平面部の前記プランジャの付勢方向の端部に、前記棒状部材の付勢方向への移動を規制する壁部を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の油圧テンショナは、請求項1又は2に記載の構成に加えて、
前記平面部は、前記プランジャを付勢する前記プランジャスプリングと付勢方向でオーバーラップすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の油圧テンショナは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記プランジャは、前記テンショナハウジングの外周部に摺動自在に配置され、
前記テンショナハウジングに前記平面部を形成し、
前記プランジャに前記棒状部材を支持させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の油圧テンショナは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記プランジャは、前記テンショナハウジングの内周部に摺動自在に配置され、
前記プランジャに前記平面部を形成し、
前記テンショナハウジングに前記棒状部材を支持させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の油圧テンショナは、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記棒状部材は、前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方の外周面に沿って略リング状に形成され前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方とともに摺動及び回転するリング状部材の一部をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の油圧テンショナによれば、プランジャを収縮した状態でプランジャとテンショナハウジングを相対回転させるだけで棒状部材が溝部に収まるため、簡易な構造且つ容易な作業でプランジャをロックすることができる。
【0014】
また、請求項2に記載の油圧テンショナによれば、平面部の付勢方向の端部に棒状部材の付勢方向への移動を規制する壁部を設けることで、プランジャの抜け止めをすることができる。
【0015】
また、請求項3に記載の油圧テンショナによれば、油圧テンショナを小型化することができる。
【0016】
また、請求項4又は5に記載の油圧テンショナによれば、平面部が平面部を有する部材の外周側に位置するため、平面部を容易に形成することができる。
【0017】
また、請求項6に記載の油圧テンショナによれば、棒状部材をリング状部材の一部で構成するため、棒状部材の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る一実施形態の油圧テンショナをエンジンに取り付けた状態の断面図である。
【図2】(a)は後方から見た油圧テンショナの図であり、(b)は(a)からベースカバーを取り外した油圧テンショナの図であり、(c)は前方から見た油圧テンショナの図であり、(d)は(a)及び(b)のIID−IID線矢視図である。
【図3】(a)は後方から見た油圧テンショナの図であり、(b)は(a)からベースカバーを取り外した油圧テンショナの図であり、(c)は前方から見た油圧テンショナの図であり、(d)は(a)及び(b)のIIID−IIID線矢視図である。
【図4】(a)はテンショナハウジングの拡大図であり、(b)は(a)のB−B線矢視図であり、(c)は(a)のC−C線矢視図である。
【図5】(a)は図4に示すテンショナハウジングの先端部の部分拡大図であり、(b)はテンショナハウジングのフランジ部を前方から見た図である。
【図6】油圧テンショナのプランジャが突出する状態を説明する図である。
【図7】油圧テンショナのプランジャが反力を受けた状態を説明する図である。
【図8】油圧テンショナのプランジャが過大な反力を受けて収縮する状態を説明する図である。
【図9】油圧テンショナのロック機構を説明するための図であり、(a)はプランジャが突出した状態を示す図であり、(b)はプランジャがロックされた状態を示す図である。
【図10】(a)は第2実施形態に係る油圧テンショナのプランジャが突出した状態の断面図であり、(b)は(a)のB−B線矢視図であり、(c)は(a)の状態におけるロック機構を説明するための図である。
【図11】(a)は第2実施形態に係る油圧テンショナのプランジャがロックされた状態を示す断面図であり、(b)は(a)のB−B線矢視図であり、(c)は(a)の状態におけるロック機構を説明するための図である。
【図12】(a)は第3実施形態に係る油圧テンショナのプランジャが突出した状態の断面図であり、(b)は(a)のB−B線矢視図であり、(c)は(a)の状態におけるロック機構を説明するための図である。
【図13】(a)は第3実施形態に係る油圧テンショナのプランジャがロックされた状態を示す断面図であり、(b)は(a)のB−B線矢視図であり、(c)は(a)の状態におけるロック機構を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の油圧テンショナの各実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
本実施形態の油圧テンショナ1は、図1に示すように、車両、例えば自動二輪車のエンジン10のクランクシャフト側スプロケットとカムシャフト側スプロケットとの間で回転を伝達するカムチェーンCCの走行時に生じる振動を抑止し、かつ、適正な張力を維持するために用いたものであって、カムチェーンCCに向けて突出するように付勢されるプランジャ2が、エンジン本体側に揺動自在に軸支されているテンショナレバーTLの揺動端近傍の背面を押圧することにより、テンショナレバーTLのシュー面がカムチェーンCCの弛み側に摺動接触して張力を付加するようになっている。
【0020】
油圧テンショナ1は、プランジャ2がテンショナ本体13からプランジャスプリング11によってカムチェーンCCに向けて突出するように付勢される。テンショナ本体13は、プランジャ2の内周部に配置されプランジャ2を摺動自在に支持するテンショナハウジング4と、テンショナハウジング4とは別体に構成されるテンショナボディ5と、から構成される。テンショナボディ5には、不図示のオイルポンプから供給されるオイルを内部に導入するオイル導入管15が接続されるとともにオイル導入管15から供給されたオイルを貯留する低圧油室9が形成される。また、テンショナハウジング4には、低圧油室9に連通する低圧油路6と、低圧油路6からテンショナハウジング4の先端部45とプランジャ2との間に形成される高圧油室8にオイルを流入させるバルブ機構7とが設けられる。
【0021】
なお、以下の説明において、前後方向とはプランジャの中心軸線Pに沿う方向(付勢方向とも呼ぶ。)を意味し、前方とはプランジャ2の突出方向、後方とはプランジャ2の収縮方向をいう。また、上下方向とは、オイル導入管15の延出方向を意味し、上方とはオイル導入管15の入口側、下方とはオイル導入管15の出口(導入口15a)側をいい(図3(d)参照)、左右方向とは、油圧テンショナ1を後方から見て上下方向と直交する方向を意味する。
【0022】
プランジャ2は、図2〜図5に示すように、有底円筒形状を有し、中心軸線Pに沿って延びるスリーブ部21の先端にスリーブ部21より大径でテンショナレバーTLの揺動端近傍の背面を押圧する当接部22が形成される。スリーブ部21の後端部には、内周部に1本の棒状部材24が掛け渡されており、プランジャ2を摺動自在に支持するテンショナハウジング4の外周面に形成された平面部41に案内される。符号25は、スリーブ部21の外周面に取り付けられたオイルシールである。
【0023】
テンショナハウジング4の外周面には、図4(b)及び(c)に示すように、90°間隔で4箇所にプランジャスプリング11とオーバーラップするようにプランジャスプリング11の付勢方向に延出する平面部41が形成され、プランジャ2が摺動するとき、棒状部材24が1つの平面部41に案内されてプランジャ2の相対回転が規制されるとともに、平面部41を画成する先端側の壁部42(図4(a)参照) によりプランジャ2の抜け止めがなされる。なお、棒状部材24が壁部42に当接したときに、プランジャ2が最も突出するとともに高圧油室8に貯留するオイル量が最大となる。また、平面部41には、図13に示すように、後方側端部近傍に平面部41の周方向一方側を切り欠くことにより形成された溝部49が設けられており、プランジャ2が収縮してスリーブ部21の後端部に掛け渡される棒状部材24が溝部49に至ると、テンショナハウジング4に対するプランジャ2の相対回転が許容される。
【0024】
また、テンショナハウジング4の後方には、平面部41に隣接して六角形状のフランジ部43が設けられるとともに、さらに後方にはテンショナボディ5に形成された雌ネジ部55に螺合する雄ネジ部44が設けられ、テンショナボディ5にテンショナハウジング4がネジ固定される。なお、テンショナボディ5とテンショナハウジング4との固定方法はネジ固定に関わらず圧入により固定してもよい。フランジ部43の表面は、プランジャスプリング11の受け座として機能し、プランジャ2の外周部を覆うように配置されたプランジャスプリング11が、プランジャ2の当接部22をカムチェーンCCに向けて付勢している。
【0025】
テンショナボディ5は、図2及び図3に示すように、テンショナハウジング4とは反対側の後方側端面51aから3つの小室9a〜9cが上下方向に重なるように凹設されたベース部材51と、該後方側端面51aを覆うように取り付けられるベースカバー52とから構成され、ベース部材51とベースカバー52は4本のボルト16a、16bで固定され、そのうち対極に位置する2本のボルト16aによりエンジン10に共締めされる。このベース部材51とベースカバー52で画成された3つの小室9a〜9cが低圧油室9を構成する。ベース部材51の前方側には延出部51bが形成され、延出部51bの内周部にはテンショナハウジング4を包むように中心軸線Pと同心状に大径凹部53が形成される。また、ベース部材51には、大径凹部53からさらに窪んで内周面に雌ネジ部55を有する小径凹部54が形成され、小径凹部54にテンショナハウジング4が液密に螺着している。
【0026】
3つの小室9a〜9cを下から順に第1の小室9a、第2の小室9b、第3の小室9cとすると、最下部に位置する第1の小室9aはプランジャ2の中心軸線Pと重なる位置に配置されて小径凹部54側に開口し、テンショナハウジング4の内部と連通する。また、第1の小室9aは、中心軸線Pと同心状にベースカバー52に形成されたエア抜き穴52aで外部と連通可能に構成される。なお、エア抜き穴52aは常時ボルト16cで封止されている。
【0027】
3つの小室9a〜9cは、図3(d)に示すように、前後方向に延設され下方から上方に行くに従って、即ち、第1の小室9a、第2の小室9b、第3の小室9cの順で後方側端面51aからの距離が長く延出して形成される。また、第1の小室9aと第2の小室9bは、図2(b)及び図3(b)に示すように、左右方向に延出するように形成され、さらに第1の小室9aの天面は僅かに右上方に向かって傾斜して構成され、第1の小室9aの最高位置である右側端部において第2の小室9bと隔壁56に形成された連通穴56aで連通する。最上部に位置する第3の小室9cは、オイル導入管15が接続され、オイル導入管15の導入口15aの直下で第2の小室9bと隔壁57に形成された連通穴57aで連通する。
【0028】
さらに第3の小室9cは、図2(b)及び図3(b)、(d)に示すように、左右方向において隔壁58を挟んで反対側に設けられた第3の小室9cと略同一形状をなす排出通路3と後方上端部に形成された出口孔58aで連通している。この第3の小室9cと排出通路3は図2(a)及び図3(a)で示すように、上部に位置する2本のボルト16a、16b間に設けられている。排出通路3は、ベース部材51の延出部51bであって排出通路3の前方下端部に形成された排出口30で外部に連通する。排出口30の直上には、常時ボルト16dで封止されているピン挿入穴59が穿設されている。また、排出通路3及び排出通路3の入口と出口である出口孔58aと排出口30は、オイル導入管15の導入口15aより大きな断面積(流路面積)を有し、低圧油室9が最大限貯留された状態で導入口15aから導入されるオイルが確実に排出されるように設定されている。また、排出口30と、排出口30の下方に位置するテンショナハウジング4とは離間されて配置され、テンショナハウジング4でオイルの排出が妨げられないようになっている。
【0029】
このように構成された低圧油室9は、オイルポンプによりオイル導入管15からオイルが導入されて先ず第3の小室9cに貯留され、第3の小室9cから連通穴57aを介して第2の小室9bに供給され、第2の小室9bから連通穴56aを介して第1の小室9aに供給され、第1の小室9aからテンショナハウジング4の内部に供給される。また、低圧油室9が最大限貯留された状態で導入口15aから導入される過剰なオイルは、第3の小室9cから出口孔58aを介して排出通路3に流れ、排出口30から外部に排出される。
【0030】
テンショナハウジング4には、図4(a)に示すように、中心軸線Pと同心状にその後端面で開口するカラー部材挿入穴40aと中央部に位置するバルブ組込み穴40bとが形成され、先端部45にはさらにバルブ組込み穴40bを高圧油室8に連通させるオイル通路80が形成される。
【0031】
カラー部材挿入穴40aには、中心軸線Pと同心状に貫通孔61が形成されたカラー部材60が圧入することで挿通される。
【0032】
バルブ組込み穴40bには、中心軸線Pと同心状に貫通孔71が形成されたリリーフバルブボディ72と、ボール74とが設けられ、リリーフバルブボディ72がカラー部材60を受け座とするリリーフバルブスプリング73によりテンショナハウジング4の先端部45側に付勢される。また、図5に示すように、ボール74はボール保持部45aに保持され、先端部45の後方端面45bを受け座とするチェックバルブスプリング75によりリリーフバルブボディ72に形成された貫通孔71を封止するようにリリーフバルブボディ72側に付勢される。
【0033】
図4に戻って、リリーフバルブボディ72は、カラー部材60側に位置する小径筒部72aと、小径筒部72aより前方でテンショナハウジング4の内周面に摺動自在に支持される大径筒部72bと、から構成され、小径筒部72aの外周部に配置されるリリーフバルブスプリング73が大径筒部72bの背面72cを付勢し、大径筒部72b先端の外周縁部がリリーフバルブシートをなすテンショナハウジング4のテーパ面45cに当接する。また、大径筒部72bの外周面には周方向に所定の間隔で複数のV字溝72dが形成され、リリーフバルブボディ72がテーパ面45cから離間したときに高圧油室8側から低圧油路6側へのオイルの流入を許容する。また、小径筒部72aにも後方端部に周方向に所定の間隔で複数の切欠き72eが形成され、リリーフバルブボディ72がテーパ面45cから離間して後方端部がカラー部材60と当接してもオイルの流出を許容するように構成される。
【0034】
本実施形態では、カラー部材60に形成された貫通孔61とリリーフバルブボディ72に形成された貫通孔71により低圧油路6が構成される。また、低圧油路6の先端部に設けられたボール74と、チェックバルブスプリング75とによりワンウェイバルブとしてのチェックバルブ76が構成され、高圧油室8への油の流入を許容し逆に高圧油室8からの油の逆流を阻止する。さらに本実施形態では、リリーフバルブボディ72とリリーフバルブスプリング73とによりリリーフバルブ77が構成され、高圧油室8の油圧が設定圧を超えると開放して、高圧油室8内のオイルを低圧油室9に戻す。これらチェックバルブ76とリリーフバルブ77によりバルブ機構7が構成されている。
【0035】
また、図5も参照して、テンショナハウジング4の先端部45には、プランジャ2の当接部22と対向する先端フランジ部47と、先端フランジ部47の後方に隣接して全周に亘って凹設された環状凹部48とが形成され、シール部材82が環状凹部48に収容され先端フランジ部47で位置決めされている。シール部材82は、フリクションを小さくして摺動しやすいように断面視で前方に向かって開口するV字状の切欠きが設けられている。なお、これに限らずOリングやXリングを用いてもよい。そして、テンショナハウジング4の先端部45に形成された先端フランジ部47とプランジャ2との空間がシール部材82で封止され高圧油室8が形成される。
【0036】
低圧油路6を高圧油室8に連通させるオイル通路80は、ボール74を保持するボール保持部45a及びチェックバルブスプリング75を保持するスプリング保持部45dと径方向でオーバーラップするように中心軸線Pと平行に高圧油室8まで延びる軸方向オイル通路81が中心軸線Pを挟んで上下に2本延設される。また、先端フランジ部47には、環状凹部48との境界部に中心軸線Pを中心として径方向に十字状に伸びる2本の径方向オイル通路83が延設されており、2本のうちの一本の径方向オイル通路83は、上下方向に延設されて2本の軸方向オイル通路81と交わっている。なお、この径方向オイル通路83は、後述するオイルの初期充填時にエアが排出される通路として利用される。
【0037】
このように構成された本実施形態の油圧テンショナ1は、カムチェーンCCの張力が弱まってボール74に作用する低圧油路6側の力が、ボール74に作用する高圧油室8側の力、即ちチェックバルブスプリング75による付勢力と軸方向オイル通路81を介して作用する高圧油室8の油圧による力より大きくなると、図6に示すように、ボール74がチェックバルブスプリング75による付勢力に抗してリリーフバルブボディ72から離間して貫通孔71が開く。これにより、低圧油路6から軸方向オイル通路81を介して高圧油室8にオイルが流入して、プランジャ2が中心軸線Pに沿って突出し、カムチェーンCCに追従する。
【0038】
また、逆にカムチェーンCCの張力が強まってボール74に作用する低圧油路6側の力よりもボール74に作用する高圧油室8側の力の方が大きくなると、図7に示すように、ボール74がリリーフバルブボディ72に付勢されて貫通孔71が閉じた状態が維持される。これにより、高圧油室8に貯留されるオイルの流出が防止されてカムチェーンCCに所定範囲の張力が付与される。
【0039】
また、カムチェーンCCからの衝撃等により高圧油室8内の油圧が過大となってリリーフバルブボディ72に作用する高圧油室8側の力、即ち、チェックバルブスプリング75による付勢力と軸方向オイル通路81を介して作用する油圧による力が、リリーフバルブボディ72に作用する低圧油路6側の力、即ち、リリーフバルブスプリング73の付勢力と大径筒部72bの背面72cに作用する低圧油路6の油圧による力より大きくなると、図8に示すように、リリーフバルブボディ72がリリーフバルブスプリング73の付勢力に抗してテンショナハウジング4のテーパ面45cから離間する。そして、高圧油室8のオイルが軸方向オイル通路81を介して、リリーフバルブボディ72の大径筒部72bの外周面に形成されたV字溝72dから切欠き72eを経由して低圧油路6に戻される。
【0040】
低圧油路6に戻されたり、オイル導入管15から導入される過剰なオイルは、低圧油室9を構成する3つの小室9a〜9cのうち最上部に位置する第3の小室9cに貯留したオイルの液面が上端部に形成された出口孔58aを越えるとき、図3(b)及び(d)に示す出口孔58aから排出通路3に排出され、図2(d)に示す排出通路3の排出口30から外部に油圧テンショナ1の外部に排出される。
【0041】
次に、油圧テンショナ1のロック機構について説明する。図9は油圧テンショナのロック機構を説明するための図であり、(a)はプランジャが突出した状態を示す図であり、(b)はプランジャがロックされた状態を示す図である。なお、図9は説明のため、テンショナハウジング4と、テンショナハウジング4の平面部41を摺動するスリーブ部21に掛け渡された棒状部材24のみを示している。
オイルの初期充填がなされた油圧テンショナ1は、図1に示すようにエンジン10にボルト16aで取り付けられるが、プランジャ2が突出した状態ではテンショナレバーTLと干渉し取り付けることができない。そのため、プランジャ2を収縮させた状態で取り付ける必要がある。そのため本実施形態では、上述したように、平面部41の後方側端部近傍に平面部41の周方向一方側を切り欠くことにより形成された溝部49が設けられており、プランジャ2が収縮してスリーブ部21の後端部に掛け渡される棒状部材24が溝部49に至ると、テンショナハウジング4に対するプランジャ2の相対回転が許容される。
【0042】
従って、図9(b)に示すように、プランジャ2を収縮してプランジャ2を溝部49が設けられている方向に回転させることで棒状部材24が溝部49と係合し、プランジャスプリング11に抗してプランジャ2がテンショナハウジング4にロックされる。
【0043】
また、この溝部49の後方側端面49aは後方に傾斜したテーパ面をなしており、ロックした油圧テンショナ1をエンジン10にボルト16aで取り付けエンジン10を始動すると、撓んでいたカムチェーンCCにクランクシャフト側スプロケットから回転力が加わることでプランジャ2が収縮する方向に衝撃が加わる。これにより棒状部材24は溝部49のテーパ状の後方側端面49aに沿って摺動することになる。従って、プランジャ2は回転しながら収縮する方向に移動し、棒状部材24が溝部49から外れることで、棒状部材24が平面部41に復帰しプランジャ2の突出が許容される。
【0044】
このように本実施形態によれば、テンショナハウジング4にはプランジャ2の付勢方向に延出する平面部41が形成され、プランジャ2にはプランジャ2の摺動に伴ってプランジャ2とテンショナハウジング4の相対回転が不能となるように平面部41を摺動する棒状部材24が設けられ、平面部41にはプランジャ2が収縮した状態でプランジャ2とテンショナハウジング4の相対回転を許容し棒状部材24が係合する溝部49が設けられているので、プランジャ2を収縮した状態でプランジャ2とテンショナハウジング4を相対回転させるだけで棒状部材24が溝部49に収まるため、簡易な構造且つ容易な作業でプランジャ2をロックすることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、平面部41のプランジャ2の付勢方向の端部に、棒状部材24の付勢方向への移動を規制する壁部42を設けたので、プランジャ2の抜け止めをすることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、平面部41は、プランジャ2を付勢するプランジャスプリング11と付勢方向でオーバーラップするので、軸方向長さを短くすることができ油圧テンショナ1を小型化することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、プランジャ2はテンショナハウジング4の外周部に摺動自在に配置され、テンショナハウジング4の外周面に平面部41を形成し、プランジャ2に棒状部材24を支持させるので、平面部41を容易に形成することができる。
【0048】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態の油圧テンショナについて図10及び図11を参照しながら説明する。
本実施形態の油圧テンショナ100は、円筒状のテンショナハウジング104とテンショナボディ105とが一体に形成されてテンショナ本体113を構成し、有底円筒状のプランジャ102のスリーブ部121がテンショナハウジング104の内周部に摺動自在に支持される。プランジャ102の内周部には、テンショナボディ105を受け座とするプランジャスプリング111が配置され、プランジャ102の当接部122がプランジャスプリング111によりカムチェーンCCに向けて突出するように付勢される。
【0049】
テンショナハウジング104には、前端内周部に1本の棒状部材124が掛け渡されるとともに、プランジャ102のスリーブ部121の外周面には、周方向の一部に平面部141がプランジャスプリング111とオーバーラップするようにプランジャ102の付勢方向に延出して形成される。これにより、プランジャ102が摺動するとき、プランジャ102の平面部141がテンショナハウジング104に設けられた棒状部材124に案内され、プランジャ102の相対回転が規制されるとともに、平面部141を画成する後端側の壁部142によりプランジャ102の抜け止めがなされる。
【0050】
ここで、プランジャ102のスリーブ部121の外周面に形成された平面部141には、前方側端部近傍に平面部141の周方向一方側を切り欠くことにより形成された溝部149が設けられており、プランジャ102が収縮して溝部149が、テンショナハウジング104の前端部に掛け渡される棒状部材124に至ると、テンショナハウジング104に対するプランジャ102の相対回転が許容される。従って、プランジャ102を収縮させて回転させることにより溝部149が棒状部材124に係合し、プランジャスプリング111に抗してプランジャ102がテンショナハウジング104にロックされる(図11参照)。
【0051】
そして、このようにロックした油圧テンショナ100をエンジン10にボルト16aで取り付けエンジン10を始動すると、撓んでいたカムチェーンCCにクランクシャフト側スプロケットから回転力が加わることでプランジャ102が収縮する方向に衝撃が加わり、溝部149のテーパ状の前方側端面149aが棒状部材124に案内される。従って、プランジャ102は回転しながら収縮する方向に移動し、溝部149が棒状部材124から外れることで、プランジャ102の突出が許容される。
【0052】
このように本実施形態によれば、プランジャ102にはプランジャ102の付勢方向に延出する平面部141が形成され、テンショナハウジング104にはプランジャ102の摺動に伴ってプランジャ102とテンショナハウジング104の相対回転が不能となるように平面部141を摺動する棒状部材124が設けられ、平面部141にはプランジャ102が収縮した状態でプランジャ102とテンショナハウジング104の相対回転を許容し棒状部材124が係合する溝部149が設けられているので、プランジャ102を収縮した状態でプランジャ102とテンショナハウジング104を相対回転させるだけで棒状部材124が溝部149に収まるため、簡易な構造且つ容易な作業でプランジャ102をロックすることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、プランジャ102は、テンショナハウジング104の内周部に摺動自在に配置され、プランジャ102の外周面に平面部141を形成し、テンショナハウジング104に棒状部材124を支持させるので、平面部141を容易に形成することができる。
【0054】
<第3実施形態>
次に本発明の第3実施形態の油圧テンショナについて図12及び図13を参照しながら説明する。
本実施形態の油圧テンショナ200は、円筒状のテンショナハウジング204とテンショナボディ205とが一体に形成されてテンショナ本体213を構成し、有底円筒状のプランジャ202のスリーブ部221がテンショナハウジング204の外周部に摺動自在に支持される。プランジャ202の外周部には、テンショナボディ205を受け座とするプランジャスプリング211が配置され、プランジャ202の当接部222がプランジャスプリング211によりカムチェーンCCに向けて突出するように付勢される。
【0055】
プランジャ202には、後端内周部に1本の棒状部材224が掛け渡されるとともに、テンショナハウジング204の外周面には、周方向の一部に平面部241がプランジャスプリング111とオーバーラップするようにプランジャ202の付勢方向に延出して形成される。また、平面部241には、図12(c)に示すように、後方側端部近傍に平面部241の周方向一方側を切り欠くことにより形成された溝部249が設けられており、プランジャ202が収縮して棒状部材224が溝部249に至ると、テンショナハウジング204に対するプランジャ202の相対回転が許容される。
【0056】
ここで、本実施形態の棒状部材224はリング状部材227の一部をなしている。即ち、棒状部材224は、プランジャ202の外周面に沿うようにリング状に形成されたリング状部材227のリング部227aから平面部241に沿うように屈曲して形成され、リング部227aの一端と連続して形成されるとともに他端と切り欠かれて構成される。そして、リング部227aがプランジャ202の外周面に形成された凹溝228に収容されるとともに、棒状部材224がプランジャ202を貫通する不図示の貫通孔に挿通されて平面部241に押し付けるように初期歪が与えられてプランジャ202に取り付けられている。
【0057】
これにより、プランジャ202が摺動するとき、プランジャ202に掛け渡された棒状部材224がテンショナハウジング204の平面部241に案内され、プランジャ202の相対回転が規制されるとともに、平面部241を画成する先端側の壁部242によりプランジャ202の抜け止めがなされる。
【0058】
テンショナハウジング204の外周面に形成された平面部241には、後方側端部近傍に平面部241の周方向一方側を切り欠くことにより溝部249が設けられている。この溝部249の後方側端面249aは後方に傾斜したテーパ面をなしている。従って、プランジャ202が収縮して棒状部材224が、テンショナハウジング204の前端部に掛け渡される棒状部材224に至ると、テンショナハウジング204に対するプランジャ102の相対回転が許容される。そして、プランジャ202を回転させて溝部249が棒状部材224に係合すると、プランジャスプリング211に抗してプランジャ202がテンショナハウジング204にロックされる。
【0059】
そして、このようにロックした油圧テンショナ200をエンジン10にボルト16aで取り付けエンジン10を始動すると、撓んでいたカムチェーンCCにクランクシャフト側スプロケットから回転力が加わることでプランジャ202が収縮する方向に衝撃が加わり、棒状部材224は溝部249のテーパ状の後方側端面249aに沿って摺動する。これにより、プランジャ202は回転しながら収縮する方向に移動し棒状部材224が溝部249から外れることで、棒状部材224が平面部241に復帰しプランジャ202の突出が許容される。
【0060】
このように本実施形態によっても、簡易な構造且つ容易な作業でプランジャ2をロックすることができる。また、棒状部材224をリング状部材227の一部で構成するため、棒状部材224の脱落を防止することができる。
【0061】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、100、200 油圧テンショナ
10 エンジン
11、111、211 プランジャスプリング
13、113、213 テンショナ本体
2、102、202 プランジャ
24、124、224 棒状部材
227 リング状部材
4、104、204 テンショナハウジング
41、141、241 平面部
42、142、242 壁部
49、149、249 溝部
5、105、205 テンショナボディ
CC カムチェーン
P 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャスプリングにより外部へ突出する方向に付勢されるプランジャと、
前記プランジャを摺動自在に支持するテンショナハウジングと、前記テンショナハウジングと一体又は別体に構成されるテンショナボディと、を備えるテンショナ本体と、
を備え、カムチェーン又はタイミングベルトに張力を付与する油圧テンショナであって、
前記プランジャと前記テンショナハウジングの一方には、前記プランジャの付勢方向に延出する平面部が形成され、
前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方には、前記プランジャの摺動に伴って前記プランジャと前記テンショナハウジングの相対回転が不能となるように前記平面部を摺動する棒状部材が設けられ、
前記平面部には、前記プランジャが収縮した状態で前記プランジャと前記テンショナハウジングの相対回転を許容し前記棒状部材が係合する溝部が設けられていることを特徴とする油圧テンショナ。
【請求項2】
前記平面部の前記プランジャの付勢方向の端部に、前記棒状部材の付勢方向への移動を規制する壁部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の油圧テンショナ。
【請求項3】
前記平面部は、前記プランジャを付勢する前記プランジャスプリングと付勢方向でオーバーラップすることを特徴とする請求項1又は2に記載の油圧テンショナ。
【請求項4】
前記プランジャは、前記テンショナハウジングの外周部に摺動自在に配置され、
前記テンショナハウジングに前記平面部を形成し、
前記プランジャに前記棒状部材を支持させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧テンショナ。
【請求項5】
前記プランジャは、前記テンショナハウジングの内周部に摺動自在に配置され、
前記プランジャに前記平面部を形成し、
前記テンショナハウジングに前記棒状部材を支持させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧テンショナ。
【請求項6】
前記棒状部材は、前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方の外周面に沿って略リング状に形成され前記プランジャと前記テンショナハウジングの他方とともに摺動及び回転するリング状部材の一部をなすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の油圧テンショナ。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−179623(P2011−179623A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45872(P2010−45872)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】