説明

油圧保持機構

【課題】油圧源が一時的に停止している間に潤滑油通路の内圧が急激に低下するのを防止する。
【解決手段】カムシャフト10に対して軸方向に挿入されて、少なくともその内側端部24aがカムシャフト10の内部に位置し、カムシャフト10に対して周方向に相対変位可能に設置された相対固定部材24と、カムシャフト10の内部において相対固定部材24に対して軸方向に連ねて配置され、カムシャフト10に対して同期回転可能に固定された同期回転部材26と、を含んで油圧保持機構を構成する。相対固定部材24は、内側端部24aにおいて周方向に亘って切欠きを有して、潤滑油通路14に対して同期回転部材26を介して区画された貯留室pを形成し、同期回転部材26は、カムシャフト10の周方向に関して給油口22とは異なる位置に、この部材26を軸方向に貫通する連通路cを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油通路が内部に形成された回転管状部材において、油圧源が一時的に停止している間に潤滑油通路の内圧を維持し又は少なくともこの内圧の急激な低下を抑制する油圧保持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年実用が急速に進んでいるアイドルストップ・スタート型のエンジンでは、信号待ち等の状況によってエンジンの停止及び再始動が繰り返されるため、エンジンの各種摺動部に潤滑油を供給する給油路の油圧がエンジンを停止させるたびに低下し、停止後の再始動に際して潤滑に充分な油膜を再始動直後から確保することが難しく、潤滑不足によって摺動部に摩耗を生じる場合がある。例えば、一般的なエンジンにおいて、エンジンオイル(潤滑油)は、カムシャフトの管壁を内外に貫通させて形成した給油口からカムシャフト内の潤滑油通路に供給され、この潤滑油通路を通じて摺動部に供給されるが(下記特許文献1)、特にカムシャフトが吸気バルブ及び排気バルブの上方に配置されたカムシャフト・オーバーヘッド配置型のエンジンでは、カムシャフト内の潤滑油通路を流れるエンジンオイルが高水頭条件にあるため、アイドルストップによってエンジンを一時的に停止させた際に潤滑油通路からエンジンオイルが抜け落ちてしまい、その後の再始動時に潤滑油通路の内圧を上昇させ、カムの摩擦面に充分な油膜を形成するまでに時間がかかってしまうのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−107724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイドルストップによってエンジンを一時的に停止させた際にカムシャフト内の潤滑油通路にエンジンオイルを保持し、潤滑油通路の内圧が低下してしまうのを抑制し得る技術として、次のようなものが存在する。カムシャフトに対して断面Y字状の区画部材を軸方向に挿入し、カムシャフトの内部をその軸周りに並ぶ複数の潤滑油通路(シャフト内油路)に区画する。そして、カムシャフトのジャーナル部においてそれぞれのシャフト内油路ごとに給油口(オイル流入口)を形成し、軸受けのオイル吐出口を、各シャフト内油路に対してカムシャフトの回転に応じて順次連通させるものである(特開2009−228544号公報)。このような構造によれば、カムシャフトがジャーナル部によってオイル吐出口を閉塞させる位置で停止した場合に、潤滑油通路からのエンジンオイルの抜けが抑制され、潤滑油通路の内圧が保持されることになる。しかし、このものは、カムシャフト内の潤滑油通路における圧力低下の抑制を目的としたものではなく、カムシャフト側のオイル流入口と軸受け側のオイル吐出口とが連通する状態でカムシャフトが停止した場合は、エンジンオイルの抜けを抑制することができない。
【0005】
本発明の目的は、エンジンのアイドルストップ等によって油圧源が一時的に停止している間に潤滑油通路の内圧を維持し又は少なくともこの内圧の急激な低下を確実に防止することのできる油圧保持機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、その一形態において、軸方向に伸びる潤滑油通路が内部に形成された回転管状部材であって、軸周りに回転可能に支持され、その管壁に前記潤滑油通路に通じる給油口が形成された回転管状部材に設けられる油圧保持機構であって、前記回転管状部材に対してその軸方向に挿入されて、少なくともその内側端部が前記回転管状部材の内部に位置し、前記回転管状部材に対してその周方向に相対変位可能に設置された相対固定部材と、前記回転管状部材の内部において前記相対固定部材に対して軸方向に連ねて配置され、前記回転管状部材に対して同期回転可能に固定された同期回転部材と、を含んで構成される。前記相対固定部材は、前記内側端部においてその周方向に亘って切欠きを有して、前記潤滑油通路に対して前記同期回転部材を介して区画された前記給油口に通じる貯留室を形成し、前記同期回転部材は、前記回転管状部材の周方向に関して前記給油口とは異なる位置に、前記同期回転部材を軸方向に貫通する連通路を有する。好ましい一形態において、前記回転管状部材の給油口と前記同期回転部材の連通路とは、前記回転管状部材の回転に従い、前記給油口が前記貯留室に連通する一方、前記連通路が前記相対固定部材の内側端部によって遮断される第1作動状態と、前記給油口が前記相対固定部材の内側端部によって遮断される一方、前記連通路が前記貯留室に連通する第2作動状態と、を繰り返す関係にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、油圧源によって供給された潤滑油は、第1作動状態において回転管状部材の給油口を通過し、回転管状部材内の貯留室(同期回転部材によって潤滑油通路から区画される。)に供給される。第1作動状態では、相対固定部材の内側端部によって同期回転部材の連通路が遮断されているので、給油口を介して供給された潤滑油は、貯留室に留まることになる。回転管状部材の回転が進み、第2作動状態に至ると、給油口が相対固定部材の内側端部によって遮断される一方、貯留室と潤滑油通路とが同期回転部材の連通路を介して通じるので、貯留室に蓄えられている潤滑油が連通路を介して潤滑油通路に送り出され、各種摺動部に供給されることになる。ここで、本発明によれば、回転管状部材内の潤滑油通路と外部給油路との流体接続が、相対固定部材の内側端部により、第1作動状態においては連通路を閉じることによって遮断され、第2作動状態においては給油口を閉じることによって遮断されるので、アイドルストップ等の油圧源の一時的な停止に際して回転管状部材の回転位置によらず潤滑油通路と外部給油路との接続を遮断し、潤滑油通路の内圧を維持し又は少なくともこの内圧の急激な低下を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧保持機構を採用したエンジンにおける潤滑油(エンジンオイル)の流れを模式的に示す説明図
【図2】同上実施形態に係る油圧保持機能の第1作動状態を説明する概略図
【図3】同上実施形態に係る油圧保持機構の第2作動状態を説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧保持機構を実装したエンジンにおける潤滑油の流れを、オイルパン2からカムシャフト10に至る給油路について模式的に示したものである。
本実施形態では、油圧保持機構をアイドルストップ・スタート型のエンジンに適用している。本実施形態に係るエンジンは、カムシャフト・オーバーヘッド配置(OHC)型のエンジンであり、燃焼方式は問わず、火花点火式であっても圧縮着火式であってもよい。
【0010】
エンジンのクランクケース底部に取り付けられたオイルパン2には潤滑油であるエンジンオイルが貯蔵されており、このエンジンオイルは、エンジン出力を受けて駆動されるオイルポンプ4によって吸い上げられ、エンジンの気筒間に亘って形成されたオイルギャラリ6(図中太線によって示す。)に送り込まれる。エンジンオイルは、オイルギャラリ6を通過した後、図中二点鎖線によってその概略を示すシリンダヘッドHの内部に形成された潤滑油通路(以下「シリンダ内給油路」という。)8を通じて燃焼室上方に向かい、シリンダヘッドHの上部に配置されたカムシャフト10に供給される。シリンダヘッドH上でカムシャフト10を支持するカムブラケット12a,12b,12cのうち、最も車両背面側に位置するカムブラケット12aの内部に潤滑油通路が形成されており、シリンダ内給油路8を通過したエンジンオイルは、このカムブラッケト12a内の潤滑油通路を介してカムシャフト10の内部においてその軸方向に形成された潤滑油通路(以下「シャフト内分配路」という。)14に流入し、このシャフト内分配路14を通じてカムシャフト10の摺動部に供給される。本実施形態では、カムシャフト10に排気側のカムシャフトを採用しており、シャフト内分配路14内のエンジンオイルは、各気筒に対応するカム10aに形成された分岐路16を通じてカム10aの摩擦面に供給される。具体的には、エンジンオイルは、カム10aと排気バルブ18のバルブリフタ(又はロッカーアーム)20との接触面に供給される。これと同様の給油路構造を吸気側のカムシャフトについても設け、エンジンオイルを吸気側のカムシャフトの摺動部(具体的には、カムとバルブリフタとの接触面)に供給するようにしてもよい。
【0011】
図2は、車両背面側に位置するカムシャフト10端部の断面図であり、本実施形態に係る油圧保持機構の構成を、油圧保持機構がその第1作動状態にある場合について示している。
カムシャフト(「回転管状部材」に相当する。)10は、排気側のカムシャフトであり、その内部には軸方向に伸びるシャフト内分配路(回転管状部材の「潤滑油通路」に相当する。)14が形成されている。カムシャフト10のうちそれぞれの気筒に対応する所定の位置にはカム10aが一体的に形成されており、このカム10aがバルブリフタ又はロッカーアーム20を押し下げることで、排気バルブ18が開弁し、シリンダヘッドHの図示しない排気ポートが開放される。本実施形態において、カムシャフト10は、シリンダヘッドHの上部に載置されており、3つの軸受け12a,12b,12cによって軸周りに回転可能に支持されている。カムシャフト10の管壁にはこれを径方向に貫通する給油口(回転管状部材の「給油口」に相当する。)22が設けられており、シャフト内分配路14は、この給油口22を介してカムシャフト10外の給油路(具体的には、オイルギャラリ6及びシリンダ内給油路8)と連通している。
【0012】
本実施形態において、圧力保持機構は、大まかにはカムシャフト10に取り付けられる2つの部材、即ち相対固定部材24及び同期回転部材26から構成される。相対固定部材24は、断面半円状の内側端部24aと円盤状の外側端部24bとからなり、これらの部材24a,24bのうち内側端部24aのみがカムシャフト10に対してその軸方向に挿入されてカムシャフト10の内部に配置される一方、外側端部24bはカムシャフト10外に配置されてカムシャフト10の軸端に突き当たり、カムシャフト10の車両背面側の一端を封止している。この相対固定部材24は、外側端部24bがシリンダヘッドHに固定されることで、カムシャフト10に対してその軸周りに相対変位可能に設置されている。同期回転部材26は、カムシャフト10の内部において相対固定部材24に対して軸方向に連ねて(本実施形態では、軸方向内方に隣接させて)配置され、その周面をカムシャフト10の内面に固着させることで、カムシャフト10に対して同期回転可能に固定されている。ここで、本実施形態では、相対固定部材24の内側端部24aが断面半円状であることで、内側端部24aを残余とする円柱の切欠きに当たる部分がエンジンオイルの貯留室pとなり、この貯留室pは、シャフト内分配路14に対して同期回転部材26を介して区画され、図2に示す第1作動状態で給油口22と通じている。同期回転部材26は、カムシャフト10の周方向に関して給油口22とは異なる位置(本実施形態では、給油口22に対して180°ずらした位置)に、この部材26を軸方向に貫通する連通路cを有しており、後に述べる第2作動状態において、この連通路cを介してシャフト内分配路14と貯留室pとが連通する。
【0013】
本実施形態に係る圧力保持機構の動作について、図2及び3を参照しつつ以下に説明する。
図2に示す第1作動状態では、カムシャフト10の給油口22が貯留室pに連通する一方、同期回転部材26の連通路cは、その一端が相対固定部材24の内側端部24aによって封止されており、シャフト内分配路14との連通が遮断されている。この第1作動状態において、オイルポンプ4によって圧送されたエンジンオイルは、オイルギャラリ6及びシリンダ内給油路8を通過した後、給油口22を介して貯留室pに供給される。第1作動状態では、内側端部24aによって連通路cが封止されているので、貯留室pに供給されたエンジンオイルは、貯留室pに留まることになる。
【0014】
第1作動状態からカムシャフト10の回転が進み(本実施形態では、第1作動状態からカム角に関して180°)、第2作動状態となると、図3に示すように、カムシャフト10の回転に伴って同期回転部材26も回転し、シャフト内分配路14と貯留室pとが連通路cを介して連通するようになる。一方で、第2作動状態ではカムシャフト10が回転したことによって給油口22が内側端部24aの周面によって封止されることとなるため、貯留室pと外部給油路との連通が遮断される。この第2作動状態では、貯留室pに蓄えられているエンジンオイルが連通路cを介してシャフト内分配路14に送り出され、シャフト内分配路14及び分岐路16を通じてカムシャフト10の摺動部(本実施形態では、カム10aの摩擦面)に供給される。
【0015】
ここで、本実施形態についてアイドルストップによってエンジンが一時的に停止した場合を想定する。アイドルストップによってエンジンが停止すると、これに伴ってカムシャフトもその回転を停止することとなる。しかし、本実施形態では、シャフト内分配路14と外部給油路(オイルギャラリ6及びシリンダ内給油路8)との流体接続が、第1作動状態では内側端部24aの端面によって連通路cが封止されることにより、第2作動状態では内側端部24aの周面によって給油口22が封止されることによりいずれも遮断されるため、エンジン停止中にシャフト内分配路14内のエンジンオイルが給油口22を介して抜け落ちてしまうのを抑制し、シャフト内分配路14内の圧力が急激に低下するのを防止することができる。従って、本実施形態によれば、アイドルストップ等による油圧源(オイルポンプ4)の一時的な停止に際してカムシャフト10の回転位置によらずシャフト内分配路14と外部給油路との接続を遮断し、シャフト内分配路14の圧力を維持し又は少なくともこの圧力の急激な低下を確実に防止することができる。
【0016】
以上の説明では、本発明をカムシャフトにおける圧力保持機構に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、クランクシャフトにおける圧力保持機構に適用し、アイドルストップ等によるエンジンの一時的な停止に際してクランクケース内の潤滑油通路における圧力を保持することが可能である。
【符号の説明】
【0017】
2…オイルパン、4…オイルポンプ、6…オイルギャラリ、8…シリンダ内給油路、10…カムシャフト、10a…カム、12a,12b,12c…軸受け、14…シャフト内分配路、16…分岐路、18…排気バルブ、20…バルブリフタ(又はロッカーアーム)、22…給油口、24…相対固定部材、24a…内側端部、24b…外側端部、26…同期回転部材、p…貯留室、c…連通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に伸びる潤滑油通路が内部に形成された回転管状部材であって、軸周りに回転可能に支持され、その管壁に前記潤滑油通路に通じる給油口が形成された回転管状部材に設けられる油圧保持機構であって、
前記回転管状部材に対してその軸方向に挿入されて、少なくともその内側端部が前記回転管状部材の内部に位置し、前記回転管状部材に対してその周方向に相対変位可能に設置された相対固定部材と、
前記回転管状部材の内部において前記相対固定部材に対して軸方向に連ねて配置され、前記回転管状部材に対して同期回転可能に固定された同期回転部材と、
を含んで構成され、
前記相対固定部材は、前記内側端部においてその周方向に亘って切欠きを有して、前記潤滑油通路に対して前記同期回転部材を介して区画された前記給油口に通じる貯留室を形成し、
前記同期回転部材は、前記回転管状部材の周方向に関して前記給油口とは異なる位置に、前記同期回転部材を軸方向に貫通する連通路を有し、
前記回転管状部材の給油口と前記同期回転部材の連通路とは、
前記回転管状部材の回転に従い、
前記給油口が前記貯留室に連通する一方、前記連通路が前記相対固定部材の内側端部によって遮断される第1作動状態と、
前記給油口が前記相対固定部材の内側端部によって遮断される一方、前記連通路が前記貯留室に連通する第2作動状態と、
を繰り返す関係にある、油圧保持機構。
【請求項2】
前記回転管状部材は、アイドルストップ・スタート制御を実施するエンジンにおいてその摺動部にエンジンオイルを供給する給油路に配置され、前記潤滑油通路によって前記給油路の一部を構成する、請求項1に記載の油圧保持機構。
【請求項3】
前記回転管状部材は、オーバーヘッド配置型のエンジンのカムシャフトであり、前記潤滑油通路は、前記給油路を通じてカムシャフトの前記給油口に供給されたエンジンオイルをそれぞれのカムの摩擦面に分配する分配路を構成する、請求項1又は2に記載の油圧保持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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