説明

油圧緩衝器のバルブ構造

【課題】 油圧緩衝器のピストンを安価で成形容易な樹脂材料だけで構成すること。
【解決手段】 油圧緩衝器10のバルブ構造において、ピストン33の他方の端面の側に設けられ、ピストン33の一方の端面を減衰バルブ34に押圧する弾性体(ばね32)を有し、ピストン33は弾性体(ばね32)の伸縮に応じてピストンロッド12の軸方向に移動し、該ピストン33の一方の端面を減衰バルブ34に対して接離可能にするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器のバルブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器は、ピストンロッドに挿着されるピストンにより第1と第2の2つの油室を区画し、第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けている。
【0003】
従来の油圧緩衝器のバルブ構造では、ピストンの流路が開口している受圧面(端面)に減衰バルブを押し当てるように締結し、流路の圧力により減衰バルブを撓ませて該流路を開閉している。締結力が作用するピストンの構成材料として高価な高強度金属材料を採用し、加工精度の高い焼結や切削加工によって高精度に受圧面を加工している。
【0004】
これに対し、ピストンのコスト低減を図るために、特許文献1に記載の如く、ピストンのピストンロッドに挿着されて締結力を受ける内周部(ボス部)が金属材料で補強され、流路が設けられる外周部を安価な樹脂材料で構成するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-293594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の油圧緩衝器のバルブ構造では、油圧緩衝器が使用により高温化したとき、樹脂材料の熱膨張が大きく、樹脂材料に設けた流路を開閉するように設けられている減衰バルブに、樹脂材料の熱膨張に起因する荷重がかかる。このため、減衰力が不安定になるおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、油圧緩衝器のピストンを安価で成形容易な樹脂材料だけで構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、ピストンロッドに挿着されるピストンにより第1と第2の2つの油室を区画し、第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けてなる油圧緩衝器のバルブ構造において、ピストンの他方の端面の側に設けられ、ピストンの一方の端面を減衰バルブに押圧する弾性体を有し、ピストンは弾性体の伸縮に応じてピストンロッドの軸方向に移動し、該ピストンの一方の端面を減衰バルブに対して接離可能にするようにしたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、ピストンロッドに挿着されるピストンをシリンダの内部に挿入し、該ピストンによりシリンダの内部に第1と第2の2つの油室を区画し、第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けてなる油圧緩衝器のバルブ構造において、ピストンの他方の端面の側に設けられ、ピストンの一方の端面を減衰バルブに押圧する弾性体を有し、ピストンは弾性体の伸縮に応じてピストンロッドの軸方向に移動し、該ピストンの一方の端面を減衰バルブに対して接離可能にし、弾性体がピストンロッドに固定したばね受とピストンの他方の端面との間に介装されてなるようにしたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記ピストンの外周にピストンリングが装填されてなるようにしたものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記減衰バルブがピストンロッドに締結されるバルブストッパにより該ピストンロッドに保持され、減衰バルブより小径をなし、該減衰バルブの背面に接するバルブシートが、該減衰バルブとバルブストッパとの間に挟持されてなるようにしたものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記減衰バルブがピストンロッドに締結されるバルブストッパにより該ピストンロッドに保持され、減衰バルブより小径をなし、該減衰バルブの正面に接するバルブサポートが、ピストンロッドに固定されてなるようにしたものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において更に、前記バルブサポートがピストンロッドの外周に沿う環状固定部と、環状固定部の外周の複数ヵ所から放射状に延在されたバルブ支持部とを有し、ピストンのピストンロッドに挿着される内径に、バルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部に嵌合し得る異形孔部を有してなるようにしたものである。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明において更に、前記ピストンの移動ストロークが、該ピストンの異形孔部とバルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部との嵌合長さより短いようにしたものである。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに係る発明において更に、前記ピストンと減衰バルブと弾性体とからなるバルブユニットの組をピストンロッド上に2組設け、各バルブユニットの組を互いに背中合せに配置してなるようにしたものである。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれかに係る発明において更に、前記ピストンが樹脂材料だけで構成されてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
(請求項1、2、9)
(a)ピストンは弾性体の伸縮に応じて減衰バルブに対して接離し、減衰バルブを締結する力を受けることがないから、減衰力の発生に起因する荷重のみに耐えれば良く、高価な高強度金属材料を採用する必要がない。従って、ピストンは減衰バルブが密着する端面の加工精度が出せれば、よりラフな加工法、弱い材料を採用できる。
【0018】
即ち、ピストンを安価な例えば樹脂材料だけで構成し、高精度かつ複雑形状を成形できる射出成形により製作できるし、熱膨張しても減衰力が不安定にならない。また、ピストンのピストンロッドに挿着される中心孔にガタを持たせることにより、ピストンロッドとシリンダの偏心誤差をある程度許容でき、ピストンの摺動性も期待できる。
【0019】
(請求項3)
(b)ピストンの外周にピストンリングが装填されるとき、ピストン自体の外周精度を必要とすることなく、シリンダとのシール性を確保できる。
【0020】
ピストンとピストンリングとの間に隙間を設け、又はピストンリングを弾性材料からなるものとすることで、ピストンが径方向に熱膨張しても、ピストンとシリンダの摺動抵抗が増加しない。
【0021】
(請求項4)
(c)ピストンの減衰バルブが設けられている側と反対側の油室の圧力が上がる、正方向のオイル流れ時に、ピストンの中心軸に対する流路の径よりもバルブシートの径を小さくすると、ピストンの背後の弾性体のプリセット荷重によっても減衰バルブを開かせる作用を生じ、低速減衰力が低下する。この特性は減衰力のセッティング上の制約にもなるが、この特性をうまく活用して新しいセッティング手法としても使い得る。
【0022】
(請求項5)
(d)ピストンの減衰バルブが設けられている側の油室の圧力が上がる、逆方向のオイル流れ時に、ピストンが弾性体を圧縮して減衰バルブから離隔する方向に移動し、減衰バルブとピストンの間にオイルが流れる隙間を生じ、減衰力が発生するものになる。このとき、上述の油室の圧力は減衰バルブにも作用し、減衰バルブの逆反りによって、減衰バルブとピストンの上述の隙間が十分に開かず、減衰力の過大上昇、減衰バルブの破損を生ずるおそれがある。この逆反りは、減衰バルブの剛性に対して弾性体の剛性を十分に低くすることにより回避できるが、減衰バルブの正面に接するバルブサポートにより該減衰バルブを担持することによっても回避できる。
【0023】
(請求項6)
(e)上述(d)のバルブサポートがピストンロッドの外周に沿う環状固定部と、環状固定部の外周の複数ヵ所から放射状に延在されたバルブ支持部とを有し、ピストンのピストンロッドに挿着される内径に、バルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部に嵌合し得る異形孔部を有する。バルブサポートのバルブ支持部が減衰バルブに対する支点半径を大きくとり、上述の逆反りを効果的に回避する。
【0024】
このとき、バルブサポートのバルブ支持部を環状固定部の外周の複数ヵ所だけに設け、バルブサポートのバルブ支持部を減衰バルブの周方向に間欠配置したことにより、減衰バルブの全周に設けた場合に比し、バルブサポートによる減衰バルブの担持範囲を効果的に減縮する。これにより、正方向のオイル流れ時に、減衰バルブの撓み抵抗を減じ、高速減衰力が意に反して高くなるのを回避する。
【0025】
従って、減衰バルブの剛性を高くせず、相対的に低い場合でも、安定して逆反りを防止できる。
【0026】
(請求項7)
(f)上述(e)において、ピストンの移動ストロークが、該ピストンの異形孔部とバルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部との嵌合長さより短くなるようにした。これにより、ピストンが弾性体の伸縮に応じて移動するとき、バルブサポートのバルブ支持部がピストンの異形孔部に嵌合し続ける。ピストンとバルブサポートとが互いに回り止めされなくても、それらの軸方向に嵌合し続けるものになる。
【0027】
(請求項8)
(g)ピストンと減衰バルブと弾性体とからなるバルブユニットの組をピストンロッド上に2組設け、各バルブユニットの組を互いに背中合せに配置する。これにより、圧側行程と伸側行程の両方の減衰力を、減衰バルブの撓み抵抗により発生できる。従って、減衰力特性を高減衰力化できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は実施例1の油圧緩衝器を示す断面図である。
【図2】図2は図1の要部拡大断面図である。
【図3】図3は伸側行程と圧側行程の減衰力発生状況を示す断面図である。
【図4】図4は図2の分解斜視図である。
【図5】図5は実施例2の油圧緩衝器の要部拡大断面図である。
【図6】図6は図5とは異なる断面を示す断面図である。
【図7】図7はピストンとバルブサポートを示す斜視図である。
【図8】図8は図5の分解斜視図である。
【図9】図9は実施例3の油圧緩衝器を示す断面図である。
【図10】図10は伸側行程の減衰力発生状況を示す断面図である。
【図11】図11は圧側行程の減衰力発生状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施例1)(図1〜図4)
油圧緩衝器10は、図1に示す如く、シリンダ11にピストンロッド12を挿入し、シリンダ11とピストンロッド12の外側に不図示の懸架スプリングを介装している。シリンダ11は車体側取付部材14を備え、ピストンロッド12は不図示の車軸側取付部材を備える。
【0030】
シリンダ11はピストンロッド12が貫通するロッドガイド20を液密に嵌着されて備える。ロッドガイド20は、オイルシール21、ブッシュ22等を備える内径部にピストンロッド12を液密に摺動自在にする。尚、シリンダ11は、ロッドガイド20の内側にワッシャ23、リバウンドラバー24を備える。
【0031】
油圧緩衝器10はピストンバルブ装置30を有する。油圧緩衝器10は、ピストンバルブ装置30が発生する減衰力により、懸架スプリングによる衝撃力の吸収に伴なうシリンダ11とピストンロッド12の伸縮振動を制振する。
【0032】
ピストンバルブ装置30は、図2、図4に示す如く、シリンダ11に挿入されたピストンロッド12の先端部に1組のバルブユニット30Aを挿着し、これをナット37で保持してある。バルブユニット30Aは、ばね受31、弾性体としての圧縮コイルばね32、樹脂材料だけからなるピストン33、複数枚のベンディング板を積層した減衰バルブ34、バルブシート35、バルブストッパ36からなる。ばね受31はピストンロッド12の中間部に係着した止め輪31Rにかしめ止めされる。ばね32及びピストン33はピストンロッド12の周囲に挿着される。減衰バルブ34、バルブシート35、バルブストッパ36はピストンロッド12の先端小径段差部に装填され、ナット37によりその小径段差部に締結される。
【0033】
ピストンバルブ装置30は、ピストン33の外周溝部に装填したピストンリング33Rを介してシリンダ11の内部を液密に摺動し、シリンダ11の内部をピストンロッド12が収容されないピストン側油室37A(第1油室)と、ピストンロッド12が収容されるロッド側油室37B(第2油室)とに区画する。ピストン33は、油室37Aと油室37Bを連絡可能にする流路38を設けるとともに、この流路38が開口するピストン側油室37A側(一方)の端面に減衰バルブ34を設けている。
【0034】
ピストンバルブ装置30は、ピストン33を前述の通りに樹脂材料だけで構成し、ピストン33のロッド側油室37B側(他方)の端面の側に設けられるばね32により、ピストン33のピストン側油室37A側(一方)の端面を減衰バルブ34に押圧する。ピストン33は、ピストン側油室37Aの圧力とロッド側油室37Bの圧力を受ける圧側と伸側の行程で、ばね32の伸縮に応じてピストンロッド12の軸方向に移動し、該ピストン33のピストン側油室37A側(一方)の端面を図3(A)、(B)に示す如くに減衰バルブ34に対して接離する。
【0035】
ピストンバルブ装置30は、ピストンロッド12に締結されるバルブストッパ36により減衰バルブ34とバルブシート35を該ピストンロッド12に保持する。そして、減衰バルブ34とバルブストッパ36との間に挟持されるバルブシート35は、減衰バルブ34より小径をなし、該減衰バルブ34の背面に接する。尚、バルブシート35は、バルブユニット30Aの減衰特性に応じて減衰バルブ34より大径をなすものとすることもできる。
【0036】
油圧緩衝器10は、シリンダ11のピストン側油室37Aに対し体積補償室40を区画する隔壁部材41を備える。隔壁部材41は、シリンダ11の内径に設けた突条部42に固定的に保持される。体積補償室40は、油溜室40Aと、この油溜室40Aとフリーピストン43により区画される気体室40Bとからなり、ピストン側油室37Aと油溜室40Aとを連通するオリフィス41Aが隔壁部材41の中心軸上に穿設されている。油圧緩衝器10は、圧縮時と伸長時に、シリンダ11に進入/退出するピストンロッド12の体積を補償するため、ピストン側油室37Aの油を体積補償室40の油溜室40Aに対し給排するように、圧縮側と伸長側の両方向の油の流れを同一のオリフィス41Aに通し、該オリフィス41Aが油に付与する絞り抵抗に基づく、圧縮側と伸長側の減衰力を発生する。
【0037】
従って、油圧緩衝器10は以下の如くに減衰作用を行なう。
(伸側行程)(図3(A))
伸側行程で、ロッド側油室37Bの圧力が上がると、減衰バルブ34が撓む。このとき、減衰バルブ34の撓み曲線は曲線的になり、撓んだ減衰バルブ34の傾きは外周に行くほど大きくなる。これに対し、ピストン33はロッド側油室37Bの圧力に押されて減衰バルブ34に押し付けられるが、ピストン33に十分な剛性があれば、減衰バルブ34の撓み曲線には追随しない。これにより、減衰バルブ34の外周側に、ピストン33の端面との間の隙間を生じ、この隙間がロッド側油室37Bからピストン33の流路38を通ってピストン側油室37Aに向かうオイルの流れ(図3(A)の矢印)に流路抵抗を及ぼし、減衰力を生じる。この減衰特性は、減衰バルブ34の剛性、バルブシート35の径、ピストン33に設けた流路38の形状、ピストン33の中心軸に対する流路38の半径方向位置等によって決定されるものであり、調整し得る。
【0038】
このとき、ピストン33の中心軸に対する流路38の半径方向位置に対してバルブシート35の半径を小さくすると、ピストン33の背後のばね32のプリセット荷重によっても減衰バルブ34を開く作用が生じ、低速減衰力が低下する。
【0039】
(圧側行程)(図3(B))
圧側行程で、ピストン側油室37Aの圧力が上がると、ピストン33は減衰バルブ34から離れる方向に移動する。これにより、ピストン33と減衰バルブ34の間に隙間を生じ、この隙間がピストン側油室37Aからピストン33の流路38を通ってロッド側油室37Bに向かうオイルの流れ(図3(B)の矢印)に流路抵抗を及ぼし、減衰力を生じる。この減衰特性は、ばね32のばね力が支配的な要素になる。
【0040】
このとき、ピストン側油室37Aの圧力は、減衰バルブ34にも作用し、減衰バルブ34の逆反りによって、減衰バルブ34とピストン33の隙間が十分に開かず、減衰力の過大上昇、減衰バルブ34の破損を生ずるおそれがある。この逆反りは、減衰バルブ34の剛性に対してばね32の剛性を十分に低くすることにより回避できる。
【0041】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ピストン33はばね32の伸縮に応じて減衰バルブ34に対して接離し、減衰バルブ34を締結する力を受けることがないから、減衰力の発生に起因する荷重のみに耐えれば良く、高価な高強度金属材料を採用する必要がない。従って、ピストン33は減衰バルブ34が密着する端面の加工精度が出せれば、よりラフな加工法、弱い材料を採用できる。
【0042】
即ち、ピストン33を安価な樹脂材料だけで構成し、高精度かつ複雑形状を成形できる射出成形により製作できるし、熱膨張しても減衰力が不安定にならない。また、ピストン33のピストンロッド12に挿着される中心孔にガタを持たせることにより、ピストンロッド12とシリンダ11の偏心誤差をある程度許容でき、ピストン33の摺動性も期待できる。
【0043】
(b)ピストン33の外周にピストンリング33Rが装填されるとき、ピストン33自体の外周精度を必要とすることなく、シリンダ11とのシール性を確保できる。
【0044】
ピストン33とピストンリング33Rとの間に隙間を設け、又はピストンリング33Rを弾性材料からなるものとすることで、ピストン33が径方向に熱膨張しても、ピストン33とシリンダ11の摺動抵抗が増加しない。
【0045】
(c)ピストン33の減衰バルブ34が設けられている側と反対側の油室の圧力が上がる、正方向のオイル流れ時に、ピストン33の中心軸に対する流路38の径よりもバルブシート35の径を小さくすると、ピストン33の背後のばね32のプリセット荷重によっても減衰バルブ34を開かせる作用を生じ、低速減衰力が低下する。この特性は減衰力のセッティング上の制約にもなるが、この特性をうまく活用して新しいセッティング手法としても使い得る。
【0046】
(実施例2)(図5〜図8)
実施例2が実施例1と異なる点は、以下の点である。
即ち、バルブユニット30Aにおいて、減衰バルブ34がピストンロッド12に締結されるバルブストッパ36によりピストンロッド12の小径段差部に締結されて保持されるとき、減衰バルブ34の正面(ピストン33に臨む面)に接するバルブサポート39が、図5、図6、図8に示す如く、ピストンロッド12の小径段差部に固定される。バルブサポート39は減衰バルブ34より小径をなす。
【0047】
このとき、バルブサポート39は、図7に示す如く、ピストンロッド12の外周に沿って該ピストンロッド12に挿着される環状固定部39Aと、環状固定部39Aの外周の複数ヵ所から放射状に延在されたバルブ支持部39Bとを有する。また、ピストン33は、図7に示す如く、ピストンロッド12に挿着される内径に、バルブサポート39の環状固定部39A及びバルブ支持部39Bに嵌合し得る異形孔部33Aを有する。
【0048】
また、ピストン33の前述したピストンロッド12の軸方向への移動ストロークStは、図5に示す如く、ピストン33の異形孔部33Aと、バルブサポート39の環状固定部39A及びバルブ支持部39Bとの嵌合長さLより短く設定されている。尚、図5、図6は圧側行程で、ピストン33がピストン側油室37Aの圧力により減衰バルブ34から離れる方向に移動したストローク端を示している。そして、図5は相隣るバルブ支持部39Bの隙間を通る断面を示し、図6はバルブ支持部39Bの全長を切断した断面を示したものである。
【0049】
従って、本実施例によれば、実施例1の(a)〜(c)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
(d)ピストン33の減衰バルブ34が設けられている側のピストン側油室37Aの圧力が上がる、逆方向のオイル流れ時に、ピストン33がばね32を圧縮して減衰バルブ34から離隔する方向に移動し、減衰バルブ34とピストン33の間にオイルが流れる隙間を生じ、減衰力が発生するものになる。このとき、上述のピストン側油室37Aの圧力は減衰バルブ34にも作用し、減衰バルブ34の逆反りによって、減衰バルブ34とピストン33の上述の隙間が十分に開かず、減衰力の過大上昇、減衰バルブ34の破損を生ずるおそれがある。この逆反りは、減衰バルブ34の剛性に対してばね32の剛性を十分に低くすることにより回避できるが、減衰バルブ34の正面に接するバルブサポート39により該減衰バルブ34を担持することによっても回避できる。
【0050】
(e)上述(d)のバルブサポート39がピストンロッド12の外周に沿う環状固定部39Aと、環状固定部39Aの外周の複数ヵ所から放射状に延在されたバルブ支持部39Bとを有し、ピストン33のピストンロッド12に挿着される内径に、バルブサポート39の環状固定部39A及びバルブ支持部39Bに嵌合し得る異形孔部33Aを有する。バルブサポート39のバルブ支持部39Bが減衰バルブ34に対する支点半径を大きくとり、上述の逆反りを効果的に回避する。
【0051】
このとき、バルブサポート39のバルブ支持部39Bを環状固定部39Aの外周の複数ヵ所だけに設け、バルブサポート39のバルブ支持部39Bを減衰バルブ34の周方向に間欠配置したことにより、減衰バルブ34の全周に設けた場合に比し、バルブサポート39による減衰バルブ34の担持範囲を効果的に減縮する。これにより、正方向のオイル流れ時に、減衰バルブ34の撓み抵抗を減じ、高速減衰力が意に反して高くなるのを回避する。
【0052】
従って、減衰バルブ34の剛性を高くせず、相対的に低い場合でも、安定して逆反りを防止できる。
【0053】
(f)上述(e)において、ピストン33の移動ストロークStが、該ピストン33の異形孔部33Aとバルブサポート39の環状固定部39A及びバルブ支持部39Bとの嵌合長さLより短くなるようにした。これにより、ピストン33がばね32の伸縮に応じて移動するとき、バルブサポート39のバルブ支持部39Bがピストン33の異形孔部33Aに嵌合し続ける。ピストン33とバルブサポート39とが互いに回り止めされなくても、それらの軸方向に嵌合し続けるものになる。
【0054】
(実施例3)(図9〜図11)
実施例3が実施例1と異なる点は、図9に示す如く、ピストンロッド12の先端部に2組のバルブユニット30A、30Bを設け、各バルブユニット30A、30Bの組を互いに背中合せに配置したことにある。
【0055】
一方のバルブユニット30Aは、実施例1のバルブユニット30Aであり、ピストンロッド12の中間部に係着した止め輪31Rにかしめ止めされたばね受31、ばね32、ピストン33、減衰バルブ34、バルブシート35、バルブストッパ36からなる。他方のバルブユニット30Bは、バルブユニット30Aと同一の構成部品からなり、ピストンロッド12の先端部に螺着されたばね受31、ばね32、ピストン33、減衰バルブ34、バルブシート35、バルブストッパ36からなり、バルブユニット30Aのバルブストッパ36とバルブユニット30Bのバルブストッパ36を共通にしている。
【0056】
伸側行程では、図10に示す如く、ロッド側油室37Bの圧力により、バルブユニット30Aの減衰バルブ34が撓み、更にバルブユニット30Bのピストン33が減衰バルブ34から離れる方向に移動する。これにより、ロッド側油室37Bのオイルは、図10の矢印の如くに流れ、バルブユニット30Aにおいて、ピストン33の流路38、減衰バルブ34がピストン33の端面との間に形成する隙間を通る際に、この隙間の流路抵抗による減衰力を生じる。バルブユニット30Aの減衰バルブ34から出たオイルは、バルブユニット30Bにおいて、ピストン33の流路38を通ってピストン側油室37Aに流入する。
【0057】
圧側行程では、図11に示す如く、ピストン側油室37Aの圧力により、バルブユニット30Bの減衰バルブ34が撓み、更にバルブユニット30Aのピストン33が減衰バルブ34から離れる方向に移動する。これにより、ピストン側油室37Aのオイルは、図11の矢印の如くに流れ、バルブユニット30Bにおいて、ピストン33の流路38、減衰バルブ34がピストン33の端面との間に形成する隙間を通る際に、この隙間の流路抵抗による減衰力を生じる。バルブユニット30Bの減衰バルブ34から出たオイルは、バルブユニット30Aにおいて、ピストン33の流路38を通ってロッド側油室37Bに流入する。
【0058】
従って、本実施例によれば、圧側行程と伸側行程の両方の減衰力を、バルブユニット30Aの減衰バルブ34とバルブユニット30Bの減衰バルブ34のそれぞれの撓み抵抗により発生できる。従って、減衰力特性を高減衰力化できる。
【0059】
尚、実施例3の油圧緩衝器10のバルブユニット30A、30Bでも、実施例2のバルブユニット30Aが備えたバルブサポート39を採用することができる。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明のバルブ構造は、ピストンバルブ装置に限らず、油圧緩衝器のシリンダのボトム側に固定配置されるベースバルブ装置にも適用できる。
【0061】
また、本発明のバルブ構造は、ピストンを迂回するバイパス路に減衰力調整ニードル等の減衰力調整手段を設けるものでも良い。
【0062】
また、本発明のバルブ構造で採用されるバルブサポートは、ピストンロッド自体に一体成形されたり、ピストンロッドに接続されてピストンが挿着されるピストンボルトに一体成形されるものでも良い。
【0063】
また、本発明のバルブ構造で採用されるピストンの構成材料としては、軽く、弱い材料を採用でき、樹脂材料に限らず、アルミニウム、マグネシウム、セラミック等も採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ピストンロッドに挿着されるピストンにより第1と第2の2つの油室を区画し、第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けてなる油圧緩衝器のバルブ構造において、ピストンの他方の端面の側に設けられ、ピストンの一方の端面を減衰バルブに押圧する弾性体を有し、ピストンは弾性体の伸縮に応じてピストンロッドの軸方向に移動し、該ピストンの一方の端面を減衰バルブに対して接離可能にした。これにより、油圧緩衝器のピストンを安価で成形容易な樹脂材料だけで構成することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 油圧緩衝器
11 シリンダ
12 ピストンロッド
30 ピストンバルブ装置
30A、30B バルブユニット
32 ばね(弾性体)
33 ピストン
33A 異形孔部
33R ピストンリング
34 減衰バルブ
35 バルブシート
36 バルブストッパ
37A ピストン側油室(第1油室)
37B ロッド側油室(第2油室)
39 バルブサポート
39A 環状固定部
39B バルブ支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッドに挿着されるピストンにより第1と第2の2つの油室を区画し、
第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けてなる油圧緩衝器のバルブ構造において、
ピストンの他方の端面の側に設けられ、ピストンの一方の端面を減衰バルブに押圧する弾性体を有し、
ピストンは弾性体の伸縮に応じてピストンロッドの軸方向に移動し、該ピストンの一方の端面を減衰バルブに対して接離可能にすることを特徴とする油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項2】
ピストンロッドに挿着されるピストンをシリンダの内部に挿入し、該ピストンによりシリンダの内部に第1と第2の2つの油室を区画し、
第1油室と第2油室を連絡可能にする流路をピストンに設けるとともに、この流路が開口するピストンの一方の端面に減衰バルブを設けてなる油圧緩衝器のバルブ構造において、
ピストンの他方の端面の側に設けられ、ピストンの一方の端面を減衰バルブに押圧する弾性体を有し、
ピストンは弾性体の伸縮に応じてピストンロッドの軸方向に移動し、該ピストンの一方の端面を減衰バルブに対して接離可能にし、
弾性体がピストンロッドに固定したばね受とピストンの他方の端面との間に介装されてなることを特徴とする油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項3】
前記ピストンの外周にピストンリングが装填されてなる請求項1又は2に記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項4】
前記減衰バルブがピストンロッドに締結されるバルブストッパにより該ピストンロッドに保持され、
減衰バルブより小径をなし、該減衰バルブの背面に接するバルブシートが、該減衰バルブとバルブストッパとの間に挟持されてなる請求項1又は2に記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項5】
前記減衰バルブがピストンロッドに締結されるバルブストッパにより該ピストンロッドに保持され、
減衰バルブより小径をなし、該減衰バルブの正面に接するバルブサポートが、ピストンロッドに固定されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項6】
前記バルブサポートがピストンロッドの外周に沿う環状固定部と、環状固定部の外周の複数ヵ所から放射状に延在されたバルブ支持部とを有し、
ピストンのピストンロッドに挿着される内径に、バルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部に嵌合し得る異形孔部を有してなる請求項5に記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項7】
前記ピストンの移動ストロークが、該ピストンの異形孔部とバルブサポートの環状固定部及びバルブ支持部との嵌合長さより短い請求項6に記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項8】
前記ピストンと減衰バルブと弾性体とからなるバルブユニットの組をピストンロッド上に2組設け、各バルブユニットの組を互いに背中合せに配置してなる請求項1〜7のいずれかに記載の油圧緩衝器のバルブ構造。
【請求項9】
前記ピストンが樹脂材料だけで構成されてなる請求項1〜8のいずれかに記載の油圧緩衝器のバルブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96474(P2013−96474A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238644(P2011−238644)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】