説明

油圧装置におけるリリーフ弁の構造

【課題】部品点数が多く,大型化や重量増加、のアップ熱感応性が低いなどの問題点を解消したリリーフ弁の構造を提供する。
【解決手段】弁箱1に,その弁室2内への油圧入口ポート3と弁室2外への油圧リリーフポート4とを設ける一方,弁室2内に,油圧入口ポート3を開閉する弁体8を設けて成るリリーフ弁において,温度が低いときに,油圧が高くなることを回避するため、弁体8を,弁体8の背面に形成の密閉室又は密閉容器10内に充填した気体11にて閉方向に押圧付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,油圧ポンプを備えた油圧装置において,前記油圧ポンプからの吐出圧が所定の設定値を越えることがないように規制するためのリリーフ弁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術としての特許文献1には,例えば,内燃機関における潤滑用等の油圧装置に使用するリリーフ弁に関し,
「このリリーフ弁における弁箱に,油圧ポンプから弁室内への油圧入口ポートと弁室外への油圧リリーフポートとを設ける一方,前記弁室内に,前記油圧入口ポートを開閉する弁体と,この弁体を前記油圧入口ポートの常時閉方向に押圧付勢するコイルばねとを設けることに加えて,前記コイルばねによる前記弁体の閉方向への押圧付勢力を温度に応じて増減するようにした固形のサーモワックス体を設ける。」
という構成にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭49−075944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この先行技術の構成によるリリーフ弁は,前記弁体に対するコイルばねによる閉方向への押圧付勢力を,温度が低い状態のときにおいて,前記固形のサーモワックス体の収縮にて下げることができることにより,油圧ポンプから所定の箇所に供給される油圧が過剰に高くなることを自動的に防止し,温度が低いときにおけるメカロスの低減を図ることができる。
【0005】
しかし,その反面,弁体を閉方向に押圧付勢するコイルばねを,前記固形のサーモワックス体にて支持するという構成であることにより,弁箱には,前記弁体及びコイルばねを内蔵することに加えて,前記固形のサーモワックス体を内蔵しなければならないから,部品点数が多くなり,リリーフ弁の大幅な大型化を招来するばかりか,重量のアップを招来するのであった。
【0006】
しかも,油圧ポンプからの油圧に常時接触している弁体と,前記サーモワックス体との間には,弁体を閉方向に押圧付勢するコイルばねが存在し,換言すると,前記サーモワックス体は前記コイルばねの分だけ前記弁体から離れることにより,前記サーモワックス体への熱伝達性が悪いから,熱感応性が低いのであった。
【0007】
本発明は,これらの問題を解消したリリーフ弁の構造を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「弁箱に,その弁室内への油圧入口ポートと弁室外への油圧リリーフポートとを設ける一方,前記弁室内に,前記油圧入口ポートを開閉する弁体を設けて成るリリーフ弁において,
前記弁体は,当該弁体の背面に形成の密閉室内に充填した気体にて閉方向に押圧付勢されている。」
ことを特徴としている。
【0009】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記密閉室は,少なくとも前記弁体の開閉方向に変形し得る構成にした密閉容器である。」
ことを特徴としている。
【0010】
請求項3は,
「前記請求項2の記載において,前記密閉容器は,当該密閉容器のうち前記弁体側の部分から反対側の部分にまで達する貫通空洞を備えて成るドーナッツ型であり,その貫通空洞内に,支柱体が挿入されている。」
ことを特徴としている。
【0011】
請求項4は,
「前記請求項3の記載において,前記支柱体は,前記弁体側に設けて成る中空体の構成であり,その内部に前記油圧入口ポートの圧油が入る構成になっている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の記載において,弁体は,その背面における密閉室に充填した気体の圧力にて弾性的に閉方向に押圧付勢されているから,油圧入口ポートにおける油圧が所定値を越えると,前記気体をその弾性に抗して圧縮しながら開くことになるから,余分な油圧をリリーフし,前記油圧入口ポート箇所の油圧を所定値に維持できる。
【0013】
前記気体は,温度が低くなると,体積が収縮してその圧力が下がることにより,当該気体による前記弁体の閉方向への押圧付勢力が低下し,油圧リリーフポートからのリリーフ量が多くなって,前記油圧入口ポートの箇所における油圧が,温度が高いときよりも下がるから,温度が低いときにおける油圧の上昇を確実に回避できる。
【0014】
このように,弁体を気体によって閉方向に押圧付勢するから,先行技術のコイルばねを省略することができるか,或いは,コイルばねを使用するにしても,コイルばねを気体の分だけ小型化でき,しかも,固形のサーモワックス体を使用しないので,部品点数の低減,及び,大幅な小型・軽量化を達成できる。
【0015】
その上,気体を弁体に近づけることができて,当該気体への熱伝達を向上できるので,熱感応性の大幅な改善を達成できる。
【0016】
請求項2によると,気体を密閉容器内に充填したことで,気体の漏れを確実に少なくできて,性能の安定化を達成できる。
【0017】
また,請求項3によると,密閉容器を,ドーナッツ型として,その貫通空洞内に支柱体が挿入されているので,当該密閉容器内の気体への熱伝達性,ひいては熱感応性をより向上できるものでありながら,前記ドーナッツ型密閉容器の横方向への変形及び動きを阻止でき,性能を向上できる。
【0018】
更にまた,請求項4によると,前記気体への熱伝達をより向上できるから,熱感応性の更なる改善を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における第1の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図2】第1の実施の形態に使用する密閉容器を示す断面図である。
【図3】第1の実施の形態に使用する別の密閉容器を示す断面図である。
【図4】第1の実施の形態に使用する更に別の密閉容器を示す正面図である。
【図5】本発明における第2の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図6】本発明における第3の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図7】本発明における第4の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図8】第3及び第4実施の形態に使用する密閉容器を示す一部切欠斜視図である。
【図9】第3及び第4実施の形態に使用する別の密閉容器を示す一部切欠斜視図である。
【図10】本発明における第5の実施の形態を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明における実施の形態を,図面について説明する。
【0021】
図1〜図4は,第1の実施の形態を示している。
【0022】
これらの図において,符号1は,リリーフ弁における弁箱を示し,この弁箱1には,その内部に円筒形にした弁室2を備えているとともに,この弁室2内の頂部への油圧入口ポート3と,前記弁室2内の側面から外への油圧リリーフポート4とが設けられている。
【0023】
前記油圧入口ポート3は,油圧タンク5から油圧ポンプ6にて汲み上げた油圧を各所(潤滑箇所等,図示せず)に輸送する油圧供給管路7に接続され,前記油圧リリーフポート4は,前記油圧タンク5に接続されている。
【0024】
前記弁室2の内部には,弁体8が設けられ,この弁体8は,その軸線方向に往復摺動することによって前記油圧入口ポート3を開閉するという構成であり,前記弁室2のうち前記油圧入口ポート3と反対側の部分には,前記弁室2を塞ぐ構成のプラグ体9が,螺着等にて着脱可能に装着されている。
【0025】
図1及び図2において,符号10は,前記弁室2内のうち前記弁体8と前記プラグ体9との間の部分に装填した密閉容器を示す。
【0026】
この密閉容器10は,例えば,ゴム又は軟質合成樹脂にて風船体に構成する等のように,少なくとも,前記弁体3の軸線方向に変形し得る中空の構成であり,その内部には,空気又は窒素等のような不活性な気体11を,適宜圧力に圧搾した状態で充填することにより,この気体11の圧力で,前記弁体8を油圧入口ポート3の閉方向に常時・押圧付勢するという構成にしている。
【0027】
この構成において,弁体8は,その背面における密閉容器10内に充填した気体11の圧力にて弾性的に閉方向に押圧付勢されていることにより,油圧入口ポート3における油圧が所定値を越えると,前記気体11をその弾性に抗して圧縮しながら開くことになるから,余分な油圧を油圧リリーフポート4からリリーフする。
【0028】
前記気体11は,温度が低くなると,体積収縮してその圧力が下がることにより,当該気体11による前記弁体8の閉方向への押圧付勢力が低下するから,前記油圧入口ポート3の箇所における油圧が,温度が低いときにおいて過剰に高くなることを防止できる。
【0029】
前記気体を充填した密閉容器は,前記図1及び図2に示すように,一つの密閉容器10に構成することに限らず,図3に示すように,例えば気体充填の風船体の構成にした密閉容器10aの複数個を,前記弁体3の軸線方向に直列に並べた構成にすることができる。
【0030】
また,気体を充填した密閉容器は,前記したように,ゴム又は軟質合成樹脂による風船体に構成することに限らず,図4に示すように,前記弁体3の軸線方向にのみ伸縮変形ができるように構成した金属製ベローズによる密閉容器10bにすることができる。
【0031】
この場合,ベローズ部分が熱交換フィンと同様の働きをし,密閉容器内の気体と外部とで熱伝達が効率良く行われるため,油温の変化に対する空気バネの硬さ変化の応答性が良くなる。
【0032】
次に,図5は,第2の実施の形態を示している。
【0033】
この第2の実施の形態は,前記第1の実施の形態のように密閉容器10,10a,10bを使用しない場合である。
【0034】
すなわち,前記弁箱1内のうち前記弁体8の背面の部分に,例えば,前記弁体8を前記プラグ体9に対して摺動自在に嵌合し,その嵌合部にシール体12を設けて密閉室13を形成し,この密閉室13内に,空気又は窒素等のような不活性な気体11を適宜圧力に圧搾した状態で充填することにより,前記弁体8を閉方向に押圧付勢するという構成にしたものであり,前記第1の実施の形態の場合と同様に作用・効果を有する。
【0035】
この第2の実施の形態は,前記した第1の実施の形態のように密閉容器10,10a,10bを使用しない分だけ部品点数を少なくできるが,前記した第1の実施の形態のように密閉容器10,10a,10bを使用する場合には,気体11の漏れを確実に低減できる利点がある。
【0036】
図6は,第3の実施の形態を,図7は,第4の実施の形態を各々示している。
【0037】
この第3及び第4の実施の形態は,ドーナッツ型に構成した密閉容器10cを使用した場合である。
【0038】
すなわち,例えば,ゴム又は軟質合成樹脂にて風船体に構成する等のように,少なくとも,前記弁体3の軸線方向に変形し得る中空の構成にした密閉容器10cを,図8に示すように,当該密閉容器10cのうち前記弁体8側の部分から反対側の部分にまで達する貫通空洞14を備えて成るドーナッツ型に構成している。
【0039】
そして,前記した各実施の形態の場合と同様に,ドーナッツ型の密閉容器10cの内部に,空気又は窒素等のような不活性な気体11を,適宜圧力に圧搾した状態で充填することにより,この気体11の圧力で,前記弁体8を油圧入口ポート3の閉方向に常時・押圧付勢するという構成にしており,前記と同じ作用・効果を得ることができる。
【0040】
これに加えて,図6の第3の実施の形態においては,前記密閉容器10cにおける貫通空洞14内に,前記プラグ体9又は弁箱1側に設けた支持体15を挿入するという構成にし,また,図7の第4の実施の形態においては,前記密閉容器10cにおける貫通空洞14内に,前記弁体8側に設けた支持体16を挿入するという構成にしている。
【0041】
この構成にすることにより,前記密閉容器10c内の気体11への熱伝達性,ひいては熱感応性を,支柱体15,16にてより向上できるものでありながら,前記ドーナッツ型密閉容器10cの横方向への変形及び動きを,前記支柱体15,16にて確実に低減することができる。
【0042】
なお,前記ドーナッツ型密閉容器10cは,例えばゴム又は軟質合成樹脂による風船体に構成することに代えて,図9に示すように,前記弁体3の軸線方向にのみ伸縮変形ができるように構成した金属製ベローズによるドーナッツ型密閉容器10dにすることができる。
【0043】
そして,図10は,第5の実施の形態を示している。
【0044】
この第5の実施の形態は,ドーナッツ型にした密閉容器10c,10dを使用し,その貫通空洞14内に,前記弁体8に設けた支柱体16を挿入するという構成にすることに加えて,前記支持体16に中空部16′を形成して,その中空部16′に,これに設けたガイド板17等にて,前記油圧入口ポート3における油圧を流入させるという構成にしたものである。
【0045】
この構成によると,前記各実施の形態と同様に作用・効果を得ることができるほか,前記密閉容器10c,10d内の気体11への熱伝達をより向上できるから,熱感応性の更なる改善を達成できる。
【符号の説明】
【0046】
1 弁箱
2 弁室
3 油圧入口ポート
4 油圧リリーフポート
5 油圧タンク
6 油圧ポンプ
8 弁体
9 プラグ体
10,10a,10b,10c,10d 密閉容器
11 気体
12 シール体
13 密閉室
14 貫通空洞
15,16 支柱体
17 ガイド板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱に,その弁室内への油圧入口ポートと弁室外への油圧リリーフポートとを設ける一方,前記弁室内に,前記油圧入口ポートを開閉する弁体を設けて成るリリーフ弁において,
前記弁体は,当該弁体の背面に形成の密閉室内に充填した気体にて閉方向に押圧付勢されていることを特徴とする油圧装置におけるリリーフ弁の構造。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記密閉室は,少なくとも前記弁体の開閉方向に変形し得る構成にした密閉容器であることを特徴とする油圧装置におけるリリーフ弁の構造。
【請求項3】
前記請求項2の記載において,前記密閉容器は,当該密閉容器のうち前記弁体側の部分から反対側の部分にまで達する貫通空洞を備えて成るドーナッツ型であり,その貫通空洞内に,支柱体が挿入されていることを特徴とする油圧装置におけるリリーフ弁の構造。
【請求項4】
前記請求項3の記載において,前記支柱体は,前記弁体側に設けて成る中空体の構成であり,その内部に,前記油圧入口ポートの圧油が入る構成になっていることを特徴とする油圧装置におけるリリーフ弁の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−61055(P2013−61055A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201528(P2011−201528)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】