説明

油圧走行駆動装置

【課題】オーバーラン傾向になったときに、リリーフ作用を抑えながらオーバーラン防止機能を確実に発揮させる。
【解決手段】エンジン1によって駆動される主油圧ポンプ2に可変容量型のブレーキモータ18を接続するとともに、このブレーキモータ18に負荷としてのブレーキ装置19を接続する。車両がオーバーラン傾向になったときに、コントローラ17からの信号により、走行モータ5の容量を増加させて同モータ出口側の主管路4にブレーキ圧力を発生させるとともに、ブレーキモータ18の容量を増加させることにより、走行モータ5の容量増加に伴うモータ吐出流量の増加分を主油圧ポンプ2とブレーキモータ18とで吸収し、かつ、ブレーキ装置19によってブレーキトルクを発生させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホイールショベル等の作業車両に用いられるHST(Hydrostatic Transmission(静油圧式無段変速機)付きの油圧走行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、HST車両の油圧走行駆動装置として、エンジンで駆動される油圧ポンプと走行モータとを前進、後進両側主管路で接続して閉回路を構成し、油圧ポンプの回転により走行モータを前進側または後進側に回転駆動するものが一般的である。
【0003】
また、同装置において、走行モータを可変容量型とし、急な下り坂等で車両がオーバーラン(車体重量に引きずられてエンジン回転数が許容値を超える)傾向となったときに、走行モータの容量を増加させてモータ出口側の主管路にブレーキ圧力を発生させ、このブレーキ圧力を油圧ポンプでトルク変換して原動機に吸収させることによってブレーキ作用を得るように構成したものが公知である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−235032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記公知技術によると、走行モータの容量を増加させることで同モータからの流出流量が増加する一方で、油圧ポンプの流入流量は少ないままのため、モータ流出流量の増加分を油圧ポンプで吸収し切れなくなってリリーフ弁が作動する。このため、発熱による油温の上昇によってポンプや走行モータにダメージを与えるおそれがあった。
【0005】
また、走行モータ容量を増加させるのみであるため、たとえば急な下り坂で車体重量に引きずられて車両速度が急増するのに対してブレーキトルクが不足し、オーバーラン防止機能が十分働かないおそれもあった。
【0006】
そこで本発明は、走行モータ容量を増加させるブレーキ方式を前提として、モータ流出流量の増加分を確実に吸収するとともにブレーキトルクを発生させ、リリーフ作用を抑えながらオーバーラン防止機能を確実に発揮させることができる油圧走行駆動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプによって駆動される走行駆動源としての可変容量型の走行モータとが前進、後進両側主管路により接続されて閉回路が構成された油圧走行駆動装置において、上記油圧ポンプの駆動軸に接続された可変容量型のブレーキモータと、このブレーキモータに接続された負荷と、車両がオーバーラン傾向にあることを検出するオーバーラン検出手段と、上記走行モータ及びブレーキモータの容量を制御する制御手段とを具備し、上記オーバーラン検出手段によって車両がオーバーラン傾向にあることが検出されたときに、上記制御手段により、上記走行モータの容量を増加させて同モータ出口側の主管路にブレーキ圧力を発生させるとともに、上記ブレーキモータの容量を増加させることにより、上記走行モータの容量増加に応じたモータ吐出流量の増加分を上記油圧ポンプとブレーキモータとで吸収し、かつ、上記負荷によってブレーキトルクを発生させるように構成したものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、ブレーキモータの回転軸に、負荷としてのブレーキ装置を接続したものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、オーバーラン検出手段として、車速を検出する車速センサと、油圧ポンプの吐出圧を検出するポンプ圧センサとを設け、制御手段は、車速の上昇とポンプ吐出圧の低下とに基づいて車両がオーバーラン傾向にあるか否かを判別するように構成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、オーバーラン傾向にあることが検出されたときに、走行モータの容量を増加させるとともに、この走行モータの容量増加に伴う同モータ流出流量の増加分を、油圧ポンプとブレーキモータとで分担して吸収し、かつ、ブレーキモータに接続した負荷によってブレーキトルクを発生させるため、モータ流出流量の増加分を確実に吸収してリリーフ弁の作動を抑えながら、十分なブレーキトルクによって車両のオーバーランを確実に防止することができる。
【0011】
この場合、請求項2の発明によると、ブレーキモータの負荷としてブレーキ装置(たとえばメカニカルブレーキ装置)を接続したから、高いブレーキトルクを発生させることができるとともに、このブレーキトルクを車体の慣性等に応じて適正に調整することができる。
【0012】
また、請求項3の発明によると、車速の上昇とポンプ吐出圧の低下とによってオーバーラン傾向にあることを検出するため、たとえば車速の上昇または車速が一定値以上となったことのみによってオーバーラン傾向を検出する場合のように平坦路での加速との区別がつかずに余計なブレーキトルクが発生してしまうという弊害が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1において、1はエンジンで、このエンジン1により双方向型で可変容量型の主油圧ポンプ2が駆動される。
【0014】
この主油圧ポンプ2の両側ポートは前進側及び後進側両主管路3,4を介して双方向型で可変容量型の走行モータ5に接続されている。これにより、閉回路が構成され、主油圧ポンプ2によって走行モータ5が車両前進方向または後進方向に回転駆動される。
【0015】
この走行モータ5の回転力は図示しない変速機、アクスルを介して駆動輪に伝えられ、これにより車両が走行する。
【0016】
主油圧ポンプ2はポンプレギュレータ6によって、走行モータ5は走行モータレギュレータ7によってそれぞれ傾転(容量)が制御され、この両者の傾転の変化に応じて走行の加減速作用及び前後進切換作用が行われる。
【0017】
すなわち、ポンプレギュレータ6には、エンジン1によって駆動される補助ポンプ8からの油が、図示しない切換スイッチによって切換制御される電磁切換弁9を介して送られる。
【0018】
この電磁切換弁9は、中立位置aと前進位置bと後進位置cとを有し、中立位置aではポンプレギュレータ6は図の左右いずれ側にも作動せず、主油圧ポンプ2は傾転がほぼ0の状態となる。この状態では、両側主管路3,4のいずれにも圧油は供給されず、走行モータ5も回転しないため、車両は停止状態となる。
【0019】
この状態から電磁切換弁9が前進位置bに切換わると、ポンプレギュレータ6が図右側に作動し、主油圧ポンプ2の傾転が一方向に増加して主管路3に圧油が供給される。これにより、走行モータ5が前進方向に回転し、車両が前進する。
【0020】
これに対し、電磁切換弁9が後進位置cに切換わると、ポンプレギュレータ6が図左側に作動し、主油圧ポンプ2の傾転が反対方向に増加して主管路4に圧油が供給される。これにより、走行モータ5が後進方向に回転し、車両が後進する。
【0021】
10は補助ポンプ8の吐出流量に応じた圧力を発生させる絞りで、この絞り10によって発生した圧力が減圧弁11により減圧され、図2中に示すポンプ容量指令圧力として電磁切換弁9経由でポンプレギュレータ6に送られる。
【0022】
12,12は回路圧力の最大値を規制するリリーフ弁である。
【0023】
なお、主油圧ポンプ2と走行モータ5は閉回路で接続されているが、それぞれ図示しないドレン回路を通じて回路内の油が流出するため、補助ポンプ8からの油がチェック弁13,13を介して両側主管路3,4に補充される。
【0024】
走行モータレギュレータ7には、両側主管路3,4の圧力(回路圧力)がモータ容量を減少させる方向の圧力としてチェック弁14,14経由で導入されるとともに、補助油圧源15から電磁比例減圧弁であるレギュレータ制御弁16を介して図3中に示すモータ容量指令圧力がモータ容量を増加させる方向の圧力として導入される。
【0025】
レギュレータ制御弁16は、制御手段を構成するコントローラ17からの指令信号に基づいて開度が変化し、これによって上記容量指令圧力が変化する。
【0026】
一方、両側主管路3,4間に可変容量型の油圧モータであるブレーキモータ18が設けられ、このブレーキモータ18が補助ポンプ8と同軸上で主油圧ポンプ2の駆動軸に接続されている。従って、エンジン1によって主、補助両油圧ポンプ2,8とブレーキモータ18とが同時に回転駆動される。
【0027】
また、ブレーキモータ18には、ブレーキ装置(たとえばディスクと摩擦板とによってブレーキ力を発生させるメカニカルブレーキ装置)19が接続され、このブレーキ装置19がブレーキモータ18の負荷となる。
【0028】
なお、ブレーキモータ18には、チェック弁20によって前進側主管路3からの油のみが流入する。
【0029】
このブレーキモータ18の容量を制御するブレーキモータレギュレータ21には、両側主管路3,4の圧力が、チェック弁22,23、及びコントローラ17によって制御されるレギュレータ制御弁(電磁切換弁)24を介して取り込まれる。
【0030】
レギュレータ制御弁24は、コントローラ17からの信号により、車両の前進時には前進位置aに、後進時には後進位置bにそれぞれセットされ、このレギュレータ制御弁24の前進位置aで前進側主管路3の圧力がブレーキモータ容量を増加させる方向の指令圧力として、後進位置bで後進側主管路4の圧力がブレーキモータ容量を減少させる(ほぼ0とする)方向の指令圧力としてそれぞれブレーキモータレギュレータ21に取り込まれる。
【0031】
コントローラ17には、前進側主管路3の圧力(前進時のポンプ吐出圧)が圧力センサ25により検出されて取り込まれるとともに、車両速度が車速センサ26により検出されて取り込まれ、この両検出信号に基づいて車両がオーバーラン傾向にあると判別されたときに、コントローラ17からレギュレータ制御弁16,24にオーバーラン防止のための指令信号が出力される。
【0032】
この点を含めた本装置の作用を説明する。
【0033】
通常走行時
電磁切換弁9をたとえば前進位置bに切換えた状態で図示しないアクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転数が増加し、このエンジン回転数に応じたポンプ容量指令圧力(減圧弁11の二次圧)が電磁切換弁9経由でポンプレギュレータ6に送られる。
【0034】
これにより、ポンプレギュレータ6が作動し、図2に示すように主油圧ポンプ2の容量が指令圧力の上昇に応じて増加するため、走行モータ入口側の主管路3に加速圧力が発生して車両が前進を開始する。
【0035】
そして、車両速度の上昇とともに回路圧力が図3のPaよりも小さくなると、同図に示すように走行モータ5の容量が減少して車両がさらに加速する。
【0036】
登坂時には、主管路3に登坂勾配に応じた負荷圧が発生し、回路圧力が図3のPbよりも大きくなるとモータ容量が増加して車両速度が低下する。
【0037】
また、アクセルペダルを戻すと、エンジン回転数の低下、これに伴うポンプ容量指令圧力の低下によって主油圧ポンプ2の容量が減少し、モータ出口側の主管路4にブレーキ圧力が発生して車両速度が低下する。
【0038】
なお、主管路4のブレーキ圧力は、通常は図3中のPbよりも低く、走行モータ5の容量は小さいままとなる。
【0039】
オーバーラン傾向時
長い下り坂や急な下り坂を走行すると、車体重量に引きずられてエンジン回転数が許容値を超えるオーバーランが発生し易くなる。
【0040】
このオーバーランの傾向にあるか否かは、コントローラ17において車速の上昇とポンプ吐出圧の低下に基づいて判別され、オーバーラン傾向にあることが判別されると、走行モータ5及びブレーキモータ18双方の容量を増加させる信号がそれぞれのレギュレータ制御弁16,24に送られる。
【0041】
これにより、走行モータ5の容量が増加するため、同モータ5からの流出流量が増加して出口側(後進側)主管路4にブレーキ圧力が発生し、基本的にはこのブレーキ圧力が主油圧ポンプ2でトルク変換されてエンジン1に吸収される。
【0042】
このとき、ブレーキモータ18の容量も増加するため、走行モータ5の容量増加に伴う流出流量の増加分がブレーキモータ18で分担されて吸収されるとともに、ブレーキモータ18に接続されたブレーキ装置19によってブレーキトルクが発生する。
【0043】
こうして、エンジン1と、ブレーキ装置19付きのブレーキモータ18とによって走行モータ5の回転を抑えるブレーキトルクを発生させるため、オーバーランを確実に防止することができる。
【0044】
また、モータ流出流量の増加分をブレーキモータ19で分担して吸収するため、リリーフ弁12の作動を抑えることができ、リリーフ作用に伴う発熱によって回路内油温が上昇して主油圧ポンプ2や走行モータ5にダメージを与えるおそれがなくなる。
【0045】
さらに、ブレーキモータ18の負荷としてブレーキ装置19を接続しているため、高いブレーキトルクを発生させることができるとともに、ブレーキ性能の調整によってこのブレーキトルクを車体の慣性等に応じて適正に調整することができる。
【0046】
なお、ブレーキ装置19の作動によってブレーキ熱が発生するが、このブレーキ熱は回路油温には影響を与えないため、ポンプや走行モータにダメージを与えるおそれはない。
【0047】
加えて、車速の上昇とポンプ吐出圧の低下とによってオーバーラン傾向にあることを検出するため、たとえば車速の上昇または車速が一定値以上となったことのみによってオーバーラン傾向を検出する場合のように平坦路での加速との区別がつかずに余計なブレーキトルクが発生してしまうという弊害が生じない。
【0048】
以上の作用を図4のフローチャートを併用してまとめると次のようになる。
【0049】
ステップS1でオーバーラン傾向ではないと判別されると(NOの場合)、走行モータ5の容量を前記通常走行時の制御に従って指令する信号が出力される(ステップS2)とともに、ブレーキモータ18の容量を最小(ほぼ0)とする指令信号が出力される(ステップS3)。
【0050】
なお、ブレーキモータ18は後進時にも最小容量に設定される。このため、通常の前進走行時及び後進時にブレーキモータ18が走行の邪魔(大きな負荷)になるおそれはない。
【0051】
一方、ステップS1でオーバーラン傾向にあると判別されると(YESの場合)、ステップS4で走行モータ5の容量を増加させる指令信号、ステップS5でブレーキモータ18の容量を増加させる指令信号がそれぞれ出力される。これにより、前記のように両モータ5,18の容量がともに増加する。
【0052】
ところで、上記実施形態では、ブレーキモータ18の負荷としてブレーキ装置19を接続したが、これに代えて発電機または発電電動機を接続してもよい。こうすれば、ブレーキモータ18の回転による発電作用によってバッテリに充電し、ハイブリッド方式をとる車両の場合は発電電動機によってエンジン1をアシストすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態にかかる回路構成図である。
【図2】実施形態における原動機の回転数とポンプ容量及びポンプ容量指令圧力の関係を示す図である。
【図3】実施形態におけるモータ容量と回路圧力及びモータ容量指令圧力の関係を示す図である。
【図4】実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2 主油圧ポンプ
3,4 両側主管路
5 走行モータ
7 走行モータレギュレータ
16 制御手段を構成する走行モータレギュレータ用のレギュレータ制御弁
17 制御手段を構成するコントローラ
18 ブレーキモータ
19 負荷としてのブレーキ装置
21 ブレーキモータレギュレータ
24 制御手段を構成するブレーキモータレギュレータ用のレギュレータ制御弁
25 ポンプ吐出圧を検出する圧力センサ
26 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプによって駆動される走行駆動源としての可変容量型の走行モータとが前進、後進両側主管路により接続されて閉回路が構成された油圧走行駆動装置において、上記油圧ポンプの駆動軸に接続された可変容量型のブレーキモータと、このブレーキモータに接続された負荷と、車両がオーバーラン傾向にあることを検出するオーバーラン検出手段と、上記走行モータ及びブレーキモータの容量を制御する制御手段とを具備し、上記オーバーラン検出手段によって車両がオーバーラン傾向にあることが検出されたときに、上記制御手段により、上記走行モータの容量を増加させて同モータ出口側の主管路にブレーキ圧力を発生させるとともに、上記ブレーキモータの容量を増加させることにより、上記走行モータの容量増加に応じたモータ吐出流量の増加分を上記油圧ポンプとブレーキモータとで吸収し、かつ、上記負荷によってブレーキトルクを発生させるように構成したことを特徴とする油圧走行駆動装置。
【請求項2】
ブレーキモータの回転軸に、負荷としてのブレーキ装置を接続したことを特徴とする請求項1記載の油圧走行駆動装置。
【請求項3】
オーバーラン検出手段として、車速を検出する車速センサと、油圧ポンプの吐出圧を検出するポンプ圧センサとを設け、制御手段は、車速の上昇とポンプ吐出圧の低下とに基づいて車両がオーバーラン傾向にあるか否かを判別するように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の油圧走行駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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