説明

油圧駆動式作業車両

【課題】エンジンストールによるエンジンの停止を防止することである。
【解決手段】エンジン(15)によって駆動される斜板式の油圧ポンプ(21,31)と、油圧ポンプ(21,31)からの作動油圧によって駆動される油圧モータ(24,34)とが接続された主回路(20,30)と、エンジン(15)によって駆動されるチャージポンプ(51)と、チャージポンプ(51)からの作動油圧がパイロット圧力として導入されることで移動し上記油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を傾転させるピストン(6a)を有するセンタリングスプリング(6d)付きのサーボシリンダ(61,62)とを有するチャージポンプ回路(50)とを備えている。チャージポンプ(51)の吐出側の主通路(52)には、主通路(52)から作動油の一部を漏らすためのブリードオフオリフィス(67)を有したブリードオフ通路(66)が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧駆動式作業車両に関し、特に、エンジンストールによるエンジン停止の防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧力で駆動する油圧駆動式の作業車両が知られており、例えば特許文献1に開示されているようなクローラ走行車両がある。このクローラ走行車両は、走行用の油圧システムが装備されている。油圧システムは、左右のクローラを駆動する2組のHST(Hydro Static Transmission:静油圧式変速装置)を備えている。
【0003】
このHSTは、エンジンによって駆動される可動斜板式の油圧ポンプと、該油圧ポンプからの作動油圧によって駆動される油圧モータとが閉回路に接続された主回路を備えている。また、HSTは、上記油圧ポンプの斜板を傾転させて該斜板の傾転角(傾斜角)を変更するサーボシリンダを有している。このサーボシリンダは、スプリングによってピストンが中立位置に付勢される復動式のシリンダであり、上記油圧ポンプとは別に設けられたチャージポンプから作動油圧が供給されることでピストンがスプリング力に抗して進退する。チャージポンプは、上記油圧ポンプと同様、エンジンによって駆動される。サーボシリンダのピストンは上記油圧ポンプの斜板に係合しており、このピストンの進退動作に伴い上記斜板が傾転動作し斜板の傾転角が変更される。この斜板の傾転角が変更されることによって油圧ポンプの容量(押しのけ容積)が変化し、その結果、油圧モータの回転数が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−162908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような作業車両では、走行時にその走行負荷が大きくなると、エンジンがストールし始め(エンジンの回転数が低下し始め)、遂にはエンジンが停止してしまう場合がある。つまり、エンジンは出力トルクが負荷に対し不足し始めると出力回転数が徐々に低下してゆく。そして、エンジンは、出力回転数がアイドリング時よりも低い領域まで低下するが、その状態においてもある程度の負荷が作用しているため不安定な状態となり最後には停止することとなる。このようにエンジンの停止が頻繁に発生すると、作業が断続的となり作業効率が悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、いわゆるHSTを備えた作業車両において、エンジンのストールによる停止を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の油圧駆動式作業車両は、チャージポンプ(51)の特に低回転域においてオーバーライドの勾配を大きくするようにした。
【0008】
第1の発明は、エンジン(15)によって駆動される可動斜板式の油圧ポンプ(21,31)と、該油圧ポンプ(21,31)からの作動油圧によって駆動される油圧モータ(24,34)とが閉回路に接続された主回路(20,30)と、上記エンジン(15)によって駆動されるチャージポンプ(51)と、該チャージポンプ(51)からの作動油圧がパイロット圧力として導入されることで移動し上記油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を傾転させるピストン(6a)を有するセンタリングスプリング(6d)付きのサーボシリンダ(61,62)と、上記チャージポンプ(51)の吐出通路(52)における作動油の一部を漏らすためのオリフィス(67)とを有するチャージポンプ回路(50)とを備え、上記油圧モータ(24,34)によって駆動軸が回転されて走行するものである。
【0009】
上記第1の発明において、チャージポンプ(51)からの作動油圧がパイロット圧力としてサーボシリンダ(61,62)に導入されると、ピストン(6a)がセンタリングスプリング(6d)に抗して移動する。このピストン(6a)の移動により、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が傾転動作し、斜板(S)の傾転角が変化する。この斜板(S)の傾転角の変化に応じて、油圧ポンプ(21,31)の容積(押しのけ容積)が変化し作動油の吐出流量が変化する。
【0010】
従来、エンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低くなってもそれ程チャージポンプ(51)からのパイロット圧力は低下しない。そのため、高負荷走行時にエンジン(15)がストールしてエンジン(15)の回転数(即ち、チャージポンプ(51)の回転数)が低下した場合でも、サーボシリンダ(61,62)には比較的高いパイロット圧力が導入される。そうすると、サーボシリンダ(61,62)ではピストン(6a)が中立位置にならず、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立状態にならない。よって、油圧ポンプ(21,31)には負荷が作用し続けるので、エンジン(15)は低回転領域にも拘わらず負荷がかかるため不安定な状態となって遂には停止してしまう。
【0011】
ところが、本発明では、チャージポンプ(51)から吐出された作動油の一部をチャージポンプ回路(50)外に漏らすオリフィス(67)が設けられているため、エンジン(15)の回転数が低下するに従ってパイロット圧力の低下度が従来に比べて大きくなる。つまり、パイロット圧力に関するオーバーライドの勾配が従来に比べて大きくなる。したがって、例えばエンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低い所定の回転数まで低下したときには、サーボシリンダ(61,62)には非常に低いパイロット圧力が導入されることとなる。そうすると、サーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)がセンタリングスプリング(6d)によって中立位置になり、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立状態となる。つまり、サーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)が中立位置となる圧力以下までパイロット圧力が低下するので、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を確実に中立状態となる。そのため、油圧ポンプ(21,31)ひいてはエンジン(15)は無負荷状態となり不安定な状態を回避できるため停止することはない。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記主回路(20,30)は、上記油圧モータ(24,34)の上下流の通路のうち低圧側通路の作動油を流通させるフラッシング弁(27,37)と、該フラッシング弁(27,37)を流通した作動油の圧力が所定値以上になると該作動油をタンク(T)へ戻すフラッシング用リリーフ弁(28,38)とを備えている。そして、上記フラッシング用リリーフ弁(28,38)は、所定の勾配を有する第1段オーバーライドと、該第1段オーバーライドに対応する作動油の流量域を超える流量域において上記第1段オーバーライドの勾配よりも大きい勾配を有する第2段オーバーライドとを有するものである。
【0013】
作業車両が軽作業(例えば、車庫入れや輸送トラックへの積み下ろし時等)を行うアイドル回転〜中回転域では、車速の変動を抑えて作業車両を安全確実に操作することが要求される。また、作業車両がフル馬力で作業を行う中回転域以上では、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を最大角度まで傾転させるだけの高いパイロット圧力が必要となる。ここで、上述のようにオリフィス(67)を設けたことによってパイロット圧力に関するオーバーライドの勾配は大きくなっている。そのため、エンジン(15)の回転数がアイドル回転〜中回転域では、負荷の変化に対してパイロット圧力の変化量が大きくなる。そうすると、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)の傾転角の変動量も大きくなり、その結果、油圧モータ(24,34)の回転数ひいては車速の変動を抑えることができなくなってしまう。そこで、フラッシング用リリーフ弁(28,38)についてオーバーライドの勾配が緩やかなものを用いることが考えられるが、そうすると、フル馬力で作業を行う中回転域以上において必要な高いパイロット圧力を得られなくなる。
【0014】
そこで、上記第2の発明では、2種類(第1段オーバーライドと第2段オーバーライド)の勾配をもつオーバーライド特性を有したフラッシング用リリーフ弁(28,38)を用いるようにした。つまり、エンジン(15)の回転数がアイドル回転〜中回転域においては勾配が比較的緩やかな第1段オーバーライド特性によってパイロット圧力の変動量が小さくなる。また、エンジン(15)の回転数が中回転域以上においては勾配が比較的大きい第2段オーバーライド特性によって高いパイロット圧力を得られる。
【0015】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の作動油の一部が分岐して上記主回路(20,30)に作動油圧が補充されるチャージ用通路(53)と、該チャージ用通路(53)に設けられ、上記油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立位置となる中立状態にチャージ用通路(53)の作動油をタンク(T)へ流すチャージ用リリーフ弁(65)とを備えているものである。
【0016】
上記第3の発明では、チャージ用通路(53)の作動油圧(チャージ圧)が所定値以上になると、チャージ用通路(53)の作動油がチャージ用リリーフ弁(65)を介してタンク(T)へ流れる。これにより、主回路(20,30)において作動油圧が許容限界を超えるのを回避できる。油圧ポンプ(21,31)が中立状態では油圧ポンプ(21,31)の上下流の作動油圧はほぼ同じである。その場合、フラッシング弁(27,37)は中立状態となるため、主回路(20,30)においては、余剰作動油がタンク(T)へ流れなくなる一方、チャージ用通路(53)から作動油圧が導入される。このままでは、主回路(20,30)における作動油圧(即ち、チャージ圧力)が増加していき許容限界を超える可能性がある。このように、チャージ用通路(53)の作動油圧が上昇しすぎるとチャージ用リリーフ弁(65)が開くため、主回路(20,30)の作動油圧が上昇が抑制される。
【0017】
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1の発明において、上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の終端に接続されるリモコン弁(54,55)と、該リモコン弁(54,55)から作動油圧がパイロット圧力として上記サーボシリンダ(61,62)の両シリンダ室(6b,6c)に導入するパイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)とを備えている。さらに、上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)に接続される圧抜き用主通路(71)と、該圧抜き用主通路(71)から分岐して上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)に接続される圧抜き用分岐通路(72)と、該圧抜き用分岐通路(72)に設けられ、上記圧抜き用主通路(71)から上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)へ向かう作動油の流れを阻止するチェック弁(73)とを有する圧抜き回路(70)を備えているものである。
【0018】
上記エンジン(15)の回転数(チャージポンプ(51)の回転数)が低下すると、サーボシリンダ(61,62)に導入されるパイロット圧力も低下する。ここで、チャージポンプ(51)からサーボシリンダ(61,62)までの経路には、リモコン弁(54,55)による流通抵抗や通路長さによる流通抵抗が存在する。そのため、エンジンの回転数が低下してチャージポンプ(51)の吐出圧力が低下した時点では、サーボシリンダ(61,62)に導入されるパイロット圧力は未だ低下していない。つまり、パイロット圧力の変化において応答遅れが生じる。そうすると、エンジン(15)の回転数がストールにより所定の回転数まで低下しても、その時点では未だパイロット圧力は所定の圧力まで低下しておらず、サーボシリンダ(61,62)が中立状態になっていない。つまり、サーボシリンダ(61,62)の中立状態になるタイミングが遅くなる。この応答遅れにより、エンジン(15)が負荷状態で運転され続け、エンジン(15)が停止する可能性がある。
【0019】
そこで、本発明では、上述の応答遅れが生じた状態では、パイロット圧力がチャージポンプ(51)の吐出通路(52)の作動油圧よりも高くなっている。そのため、パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)の作動油(圧力)がチェック弁(73)を介して吐出通路(52)に抜ける。これにより、パイロット圧力が吐出通路(52)の作動油圧まで瞬時に低下する。これにより、上述したパイロット圧力の応答遅れが解消される。
【0020】
第5の発明は、上記第1乃至第3の何れか1の発明において、上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の終端に接続されるリモコン弁(54,55)と、該リモコン弁(54,55)から作動油圧がパイロット圧力として上記サーボシリンダ(61,62)の両シリンダ室(6b,6c)に導入されるパイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)とを備えている。さらに、上記チャージポンプ回路(50)は、上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)同士の間に接続され上記サーボシリンダ(61,62)をバイパスするバイパス通路(82)と、上記吐出通路(52)および上記バイパス通路(82)の双方に共通に接続され、上記吐出通路(52)および上記バイパス通路(82)のうち上記吐出通路(52)を連通させる状態と上記バイパス通路(82)を連通させる状態とに切換可能なバイパス弁(81)とを有する圧抜き回路(80)を備えているものである。
【0021】
上記第5の発明では、エンジン(15)の回転数が中・高回転域のとき、バイパス弁(81)は吐出通路(52)が連通しバイパス通路(82)を遮断するように切り換わる。そして、エンジン(15)の回転数が低下して吐出通路(52)の作動油圧が低下すると、バイパス弁(81)は吐出通路(52)を遮断しバイパス通路(82)が連通するように切り換わる。この状態では、一方のパイロット圧通路(57a,58a)と他方のパイロット圧通路(57b,58b)との間で均圧される。つまり、パイロット圧力が瞬時に同圧になる。したがって、上記第4の発明と同様に、エンジン(15)の回転数がストールにより所定の回転数まで低下した際に、パイロット圧力の応答遅れが解消される。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、エンジン(15)がストールし始めてその回転数が低下すると、パイロット圧力をサーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)が中立位置となり得る圧力以下まで速やかに低下させることができる。これにより、油圧ポンプ(21,31)ひいてはエンジン(15)が無負荷状態となり不安定な状態となるのを回避することができる。その結果、エンジン(15)の停止を防止することができる。
【0023】
また、第2の発明によれば、フラッシング用リリーフ弁(28,38)として、2種類(第1段オーバーライドと第2段オーバーライド)の勾配をもつオーバーライド特性を有するものを用いるようにした。そのため、作業車両が軽作業を行うアイドル回転〜中回転域では、勾配が比較的緩やかな第1段オーバーライド特性により、負荷に対するパイロット圧力の変動量を小さくすることができる。よって、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)の傾転角の変動量も小さくなる。その結果、軽作業時では、油圧モータ(24,34)の回転数ひいては車速の変動を抑えて作業車両を安全確実に操作することができる。一方、作業車両がフル馬力で作業を行う中回転域以上では、勾配が比較的大きい第2段オーバーライド特性により、負荷に対するパイロット圧力の変動量を大きくすることができ、高いパイロット圧力を得ることができる。これにより、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)を最大角度まで傾転させることができ、油圧モータ(24,34)を最大出力で駆動することができる。
【0024】
また、第3の発明によれば、チャージ用リリーフ弁(65)を設けるようにしたため、油圧ポンプ(21,31)が中立状態時において主回路(20,30)に導入されるチャージ圧力ひいては主回路(20,30)の作動油圧が許容限界を超えるのを確実に回避することができる。その結果、主回路(20,30)が異常高圧により破損するのを回避でき、主回路(20,30)を確実に保護することができる。よって、油圧駆動式作業車両(1)の信頼性が向上する。
【0025】
また、第4および第5の発明によれば、パイロット圧力がチャージポンプ(51)の吐出圧力(即ち、吐出通路(52)の作動油圧)よりも高くなると、圧抜き回路(70,80)によって、パイロット圧力を瞬時に低下させることができる。これにより、パイロット圧力の応答遅れを解消することができる。その結果、エンジンストールによるエンジン(15)の停止を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施形態に係る作業車両を概略的に示す斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る油圧システムの構成を示す油圧回路図である。
【図3】図3は、油圧システムの要部を示す油圧回路図である。
【図4】図4は、パイロット圧力に対する油圧ポンプの容積変化について説明するための図である。
【図5】図5は、ブリードオフオリフィスのオーバーライド特性について説明するための図である。
【図6】図6は、フラッシング用リリーフ弁のオーバーライド特性について説明するための図である。
【図7】図7は、車両停止時におけるパイロット圧力のオーバーライド特性について説明するための図である。
【図8】図8は、車両走行時におけるパイロット圧力のオーバーライド特性について説明するための図である。
【図9】図9は、実施形態2に係る油圧システムの構成を示す油圧回路図である。
【図10】図10は、実施形態3に係る油圧システムの構成を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0028】
〈実施形態1〉
本発明の実施形態1について説明する。図1に示すように、本実施形態の作業車両(1)は、不整地整備用作業車両(CTL:Compact Tracked Loader)であり、本発明に係る油圧駆動式作業車両を構成している。この作業車両(1)は、左右の足回りにゴムクローラ(3)が装着されており、バケット(2)で土砂を押しながら整地する。
【0029】
そして、上記作業車両(1)は、ゴムクローラ(3)を駆動して走行するための油圧システム(10)が搭載されている。図2に示すように、油圧システム(10)はいわゆるHST(Hydro Static Transmission:静油圧式変速装置)である。この油圧システム(10)は、2つの主回路(20,30)と、チャージポンプ回路(50)とを備えている。
【0030】
上記2つの主回路(20,30)は、左側のゴムクローラ(3)を駆動する左側主回路(20)と、右側のゴムクローラ(3)を駆動する右側主回路(30)であり、同様の構成を成している。
【0031】
上記主回路(20,30)は、エンジン(15)によって駆動される油圧ポンプ(21,31)と、該油圧ポンプ(21,31)からの作動油圧によって駆動される油圧モータ(24,34)とが接続され閉回路をなしている。つまり、本実施形態の作業車両(1)は2ポンプ−2モータ駆動式である。油圧ポンプ(21,31)は、可動斜板式の容積(容量)可変型であり、双方向型のものである。油圧モータ(24,34)は、固定斜板式の双方向型のものである。油圧モータ(24,34)の出力軸は、ゴムクローラ(3)の駆動軸に減速機(図示省略)を介して接続されている。油圧ポンプ(21,31)と油圧モータ(24,34)とは、第1給排通路(22,32)および第2給排通路(23,33)によって接続されている。
【0032】
上記主回路(20,30)は、油圧ポンプ(21,31)側における第1給排通路(22,32)と第2給排通路(23,33)との間に連通路(2a,3a)が接続されている。この連通路(2a,3a)には、2つのチェック弁(26,36)が直列に設けられている。そして、各チェック弁(26,36)と並列に主リリーフ弁(25,35)が設けられている。
【0033】
また、上記主回路(20,30)は、油圧モータ(24,34)側にフラッシング弁(27,37)とフラッシング用リリーフ弁(28,38)が設けられている。フラッシング弁(27,37)は、3ポート3位置のスプリングセンタ式のものである。フラッシング弁(27,37)の上流側の2つのポートには、第1給排通路(22,32)および第2給排通路(23,33)のそれぞれから分岐したフラッシング用通路(2b,3c,2c,3b)が接続されている。フラッシング弁(27,37)の下流側のポートには、タンクに繋がる戻し通路(2d,3d)が接続されている。この戻し通路(2d,3d)に上記フラッシング用リリーフ弁(28,38)が設けられている。
【0034】
上記フラッシング弁(27,37)は、第1給排通路(22,32)と第2給排通路(23,33)のうち低圧側の通路と戻し通路(2d,3d)とを連通させるように切り換わる。つまり、フラッシング弁(27,37)は、いわゆる低圧選択弁であり、作動油が油圧モータ(24,34)から油圧ポンプ(21,31)へと向かう側の通路を選択する。フラッシング用リリーフ弁(28,38)は、フラッシング弁(27,37)で選択された低圧側の通路の圧力が所定値を超えると切り換わり作動油をタンクへ戻す。このように、フラッシング弁(27,37)およびフラッシング用リリーフ弁(28,38)は、主回路(20,30)における余剰作動油をタンクへ戻すフラッシング回路を構成している。このフラッシング回路の作用により、作動油の劣化やコンタミネーションが防止されると共に、作動油の温度上昇が抑制される。なお、主回路(20,30)においてタンクへ戻された分の作動油量(作動油圧)はチャージポンプ回路(50)によって補充(チャージ)される。
【0035】
また、上記油圧ポンプ(21,31)および油圧モータ(24,34)には各種ドレン通路(41,42,43,44)が設けられている。これらドレン通路(41,42,43,44)は、油圧ポンプ(21,31)等の内部で漏れ出た作動油をタンク(T)へ戻すためのものである。先ず、左側主回路(20)の油圧ポンプ(21)にはポンプ用ドレン通路(41)が接続され、各油圧モータ(24,34)にはモータ用ドレン通路(43,44)がそれぞれ接続されている。また、各主回路(20,30)の油圧ポンプ(21,31)同士の間には連絡ドレン通路(42)が接続されている。連絡ドレン通路(42)は、右側主回路(30)の油圧ポンプ(31)で漏れ出た作動油が左側主回路(20)の油圧ポンプ(21)内へ導入される。
【0036】
上記チャージポンプ回路(50)は、チャージポンプ(51)と、リモコン弁(54,55)と、サーボシリンダ(61,62)と、チャージ用リリーフ弁(65)とを備えている。このチャージポンプ回路(50)は、上述したように主回路(20,30)に作動油を補充(チャージ)すると共に、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を駆動する。
【0037】
上記チャージポンプ(51)は、上記油圧ポンプ(21,31)と同様に、エンジン(15)によって駆動される。なお、本実施形態の作業車両(1)では、前方から順に、エンジン(15)、左側主回路(20)の油圧ポンプ(21)、右側主回路(30)の油圧ポンプ(31)およびチャージポンプ(51)の順に配置されている(図示省略)。チャージポンプ(51)は、吐出側に吐出通路(52)が接続されており、タンク(T)から作動油を吐出通路(52)へ吐出する。
【0038】
上記リモコン弁(54,55)は吐出通路(52)の終端に接続されている。リモコン弁(54,55)は、全部で4つ設けられており、2つが左側リモコン弁(54)となっており、残りの2つが右側リモコン弁(55)となっている。左側リモコン弁(54)には2本の左側パイロット圧通路(57a,57b)が接続され、右側リモコン弁(55)には2本の右側パイロット圧通路(58a,58b)が接続されている。また、リモコン弁(54,55)にはタンク(T)へ繋がる戻し通路(59)が接続されている。このリモコン弁(54,55)は、操作レバー(56)の操作方向および操作量に応じて主通路(52)からの作動油を各通路(57a,57b,58a,58b,59)に分配するようになっている。
【0039】
上記サーボシリンダ(61,62)は、左側主回路(20)用の左側サーボシリンダ(61)と右側主回路(30)用の右側サーボシリンダ(62)の2つである。図3に示すように、サーボシリンダ(61,62)は各主回路(20,30)における油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を傾転させてその傾転角を変更するものである。つまり、サーボシリンダ(61,62)は斜板駆動部を構成している。具体的に、サーボシリンダ(61,62)は、いわゆる復動式シリンダであり、ピストン(6a)がセンタリングスプリング(6d)によって中立位置に付勢される。サーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)は、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)に係合している。左側サーボシリンダ(61)の両側のシリンダ室(6b,6c)には左側パイロット圧通路(57a,57b)が接続されており、右側サーボシリンダ(62)の両側のシリンダ室(6b,6c)には右側パイロット圧通路(58a,58b)が接続されている。なお、各パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)にはオリフィス(63,64)が設けられている。
【0040】
このサーボシリンダ(61,62)では、主通路(52)の作動油圧がパイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)を通じてシリンダ室(6b,6c)に供給されると、ピストン(6a)がセンタリングスプリング(6d)の付勢力に抗して移動する。つまり、主通路(52)の作動油圧がパイロット圧力としてサーボシリンダ(61,62)に導入される。ピストン(6a)の移動に伴い斜板(S)が傾転動作し、これによって斜板(S)の傾転角が変化する。そして、この斜板(S)の傾転角に応じて油圧ポンプ(21,31)の容積(押しのけ容積)が変化する。例えば、本実施形態では、図4に示すように、パイロット圧力が高くなるに従って油圧ポンプ(21,31)の容積が増大する。つまり、パイロット圧力が高くなると、ピストン(6a)の移動量が大きくなり、斜板(S)の傾転角が大きくなる。油圧ポンプ(21,31)では、斜板(S)の傾転角が大きくなるに従って容積(押しのけ容積)が増大し、作動油の吐出流量が増大する。また、パイロット圧力が所定値(6bar)以下では油圧ポンプ(21,31)の容積はゼロとなる。つまり、所定値以下のパイロット圧力ではセンタリングスプリング(6d)の付勢力に負けてピストン(6a)が中立位置になり、斜板(S)の傾転角がゼロ(即ち、斜板(S)が中立状態)となる。油圧ポンプ(21,31)では、容積がゼロになると無負荷状態となる。逆に言えば、本実施形態では、6bar以上のパイロット圧力がサーボシリンダ(61,62)に導入されている限り、斜板(S)がある角度で傾転し油圧ポンプ(21,31)に負荷が作用することとなる。
【0041】
上記主通路(52)の途中には、チャージ用通路(53)の始端が接続されている。チャージ用通路(53)の終端は、2つに分岐して各主回路(20,30)の連通路(2a,3a)に接続されている。このチャージ用通路(53)では、主通路(52)の作動油圧が各連通路(2a,3a)に導入される。そして、連通路(2a,3a)では、低圧側(即ち、作動油が油圧ポンプ(21,31)に向かって戻る側)のチェック弁(26,36)を介して作動油圧が主回路(20,30)に導入される。これにより、上述したように、主回路(20,30)において作動油圧がチャージ圧力として補充される。
【0042】
また、上記チャージポンプ回路(50)には、本発明の特徴として、ブリードオフオリフィス(67)およびブリードオフ通路(66)が設けられている。
【0043】
上記ブリードオフ通路(66)は、始端が主通路(52)におけるチャージ用通路(53)よりも上流に接続され、終端が右側主回路(30)の油圧ポンプ(31)のドレン通路に連通するように接続されている。このブリードオフ通路(66)の途中にブリードオフオリフィス(67)が設けられている。このブリードオフオリフィス(67)は、いわゆる漏らしオリフィスである。この構成では、常時、チャージポンプ(51)から吐出された作動油の一部がブリードオフオリフィス(67)を介して油圧ポンプ(31)のドレン通路へ流れる。
【0044】
このブリードオフオリフィス(67)を設けた場合の主通路(52)におけるオーバーライド特性は図5に太い実線で示すとおりとなる。なお、図5において、横軸はエンジン(15)の回転数(即ち、チャージポンプ(51)の回転数に相当。)を示し、縦軸はブリードオフオリフィス(67)の上流側圧力(即ち、主通路(52)における作動油圧)を示す。このように、エンジン(15)の回転数が低下するに従って主通路(52)における作動油圧の低下度が従来に比べて大きくなる。つまり、主通路(52)におけるオーバーライドの勾配が従来に比べて大きくなる。
【0045】
従来において、エンジン(15)がアイドル回転のとき(図5のR1)は軽負荷作業が可能な作動油圧(図5のP1)が保持される一方、エンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低くなってもそれ程作動油圧は低下しない。そうすると、高負荷走行時にエンジン(15)がストールしてエンジン(15)の回転数(即ち、チャージポンプ(51)の回転数)が低下していっても、サーボシリンダ(61,62)には比較的高いパイロット圧力が導入され続ける。そのため、サーボシリンダ(61,62)ではピストン(6a)が中立位置にならず、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立状態にならない。よって、油圧ポンプ(21,31)には負荷が作用し続ける。そうすると、エンジン(15)は低回転領域にも拘わらず負荷がかかるため不安定な状態となって遂には停止してしまう。
【0046】
ところが、本実施形態では、ブリードオフオリフィス(67)を設けているため、エンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低くなると、主通路(52)における作動油圧が著しく低下する。そうすると、例えばエンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低い所定の回転数(図5のR2)まで低下したときには、サーボシリンダ(61,62)には非常に低いパイロット圧力(図5のP2)が導入されることとなる。そうすると、サーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)が中立位置になり、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立状態となる。例えば、P2のパイロット圧力を上述したようにサーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)が中立位置となる圧力以下(6bar以下)に設定すれば、油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を確実に中立状態にすることが可能となる。つまり、このようなオーバーライドとなるようにブリードオフオリフィス(67)の径を選定すればよい。このように、エンジン(15)がストールして回転数が低下すると油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立状態になる。そのため、エンジン(15)は無負荷状態となり不安定な状態を回避できるため停止することはない。以上により、エンジン(15)のストールによる停止を回避することができる。なお、エンジン(15)は、無負荷状態となると再び回転数が復帰し始める(増加し始める)。
【0047】
また、本実施形態では、上記フラッシング用リリーフ弁(28,38)についてオリフィス式のものを採用している。このフラッシング用リリーフ弁(28,38)は、図6に示すように、勾配が2段階(第1段オーバーライドと第2段オーバーライド)に変化するオーバーライド特性を有している。なお、図6において、横軸はエンジンの回転数を示し、縦軸はフラッシング用リリーフ弁(28,38)の上流側圧力(即ち、第1給排通路(22,32)および第2給排通路(23,33)のうち低圧側の圧力)を示す。具体的に、フラッシング用リリーフ弁(28,38)は、エンジン(15)の回転数が低回転域〜中回転域(図6のR3)の間では弁体(8a)がスプリング(8b)の付勢力に抗して開くことによる第1段オーバーライド特性が発揮される。つまり、弁体(8a)は隙間(8d)の分だけ上昇して停止する。そして、エンジン(15)の回転数が中回転域以上では、弁体(8a)の先端部に設けられたオリフィス(8c)による第2段オーバーライド特性が発揮される。つまり、図6のR3の時点でオリフィス(8c)が下流側通路に連通し、そのオリフィス(8c)のみによる圧力変化が生じる。このように、フラッシング用リリーフ弁(28,38)は、オーバーライドの勾配がエンジン(15)が中回転域以下では比較的小さく中回転域以上では大きくなるように構成されている。
【0048】
以上のように、オリフィス式のフラッシング用リリーフ弁(28,38)を用いることにより、作業車両(1)が軽作業(例えば、車庫入れや輸送トラックへの積み下ろし時等)を行うアイドル回転〜中回転域では、勾配が比較的緩やかな第1段オーバーライド特性によってパイロット圧力の変動量が小さくなる。そのため、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)の傾転角の変動量も小さくなる。これにより、軽作業時では、油圧モータ(24,34)の回転数ひいては車速の変動を抑えて作業車両を安全確実に操作することができる。一方、作業車両(1)がフル馬力で作業を行う中回転域以上では、勾配が比較的大きい第2段オーバーライド特性によって高いパイロット圧力を得ることができる。これにより、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)を最大角度まで傾転させることができ、油圧モータ(24,34)の出力を最大にすることができる。
【0049】
また、上記チャージポンプ回路(50)において、チャージ用通路(53)の分岐した終端側にはチャージ用リリーフ弁(65)が設けられている。これにより、主回路(20,30)を保護することができる。油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立位置にあるとき(即ち、油圧ポンプ(21,31)が中立状態のとき)、油圧ポンプ(21,31)は容積がゼロとなり無負荷状態となる。この状態では、第1給排通路(22,32)と第2給排通路(23,33)の作動油圧が同じ(概ね同じ)になるため、フラッシング弁(27,37)は作動せず中立状態となる。そのため、主回路(20,30)においては、余剰作動油がタンク(T)へ流れなくなる一方、チャージ用通路(53)から連通路(2a,3a)を介してチャージ圧力が導入される。このままでは、主回路(20,30)における作動油圧(即ち、チャージ圧力)が増加していき許容限界を超える可能性がある。つまり、ブリードオフオリフィス(67)のオーバーライド特性により、チャージ圧力の増加量が大きくなるため、チャージ圧力が許容限界に達しやすくなる。
【0050】
ところが、本実施形態では、チャージ圧力が所定値まで増加すると、チャージ用リリーフ弁(65)が開き、チャージ用通路(53)の作動油がチャージ用リリーフ弁(65)を介してタンク(T)へ流れる。これにより、主回路(20,30)の作動油圧が許容限界を超えるのを確実に防止することができ、主回路(20,30)を保護することができる。つまり、チャージポンプ回路(50)のチャージ圧力(パイロット圧力)は、図7の「ポンプ中立時のオーバーライド特性」に示すように変化する。具体的に、チャージ圧力は、エンジン(15)が低回転域ではブリードオフオリフィス(67)のオーバーライド特性のみに則して変化するが、中・高回転域ではブリードオフオリフィス(67)のオーバーライド特性とチャージ用リリーフ弁(65)のオーバーライド特性の双方によって緩やかな勾配で変化する。なお、チャージ用リリーフ弁(65)の設定圧力は従来に比べて高い値に設定されている。
【0051】
作業車両(1)の走行時におけるチャージ圧力(パイロット圧力)のオーバーライド特性をまとめると、図8の「走行時のオーバーライド特性」に示すとおりとなる。つまり、エンジン(15)の回転数がアイドル回転よりも低い回転域(低回転域)では、勾配の大きいオーバーライド特性を有するブリードオフオリフィス(67)のみによってチャージ圧力は大きく変化する。また、エンジン(15)の回転数がアイドル回転以上の中回転域では、負荷に対する車速の変動を抑えるため、ブリードオフオリフィス(67)に加えフラッシング用リリーフ弁(28,38)の勾配が小さい第1段オーバーライド特性によってチャージ圧力は低回転域よりも緩やかに変化する。また、エンジン(15)の回転数が高回転域では、油圧モータ(24,34)を最大出力で駆動する一方主回路(20,30)の保護の観点から、ブリードオフオリフィス(67)に加え、フラッシング用リリーフ弁(28,38)の勾配が大きい第2段オーバーライド特性、さらにはチャージ用リリーフ弁(65)によってチャージ圧力が変化する。このように、本実施形態では、チャージ圧力(パイロット圧力)に関するオーバーライド特性が概ね3段階に変化する。
【0052】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態では、HSTである油圧システム(10)において、チャージポンプ(51)の吐出側に接続された主通路(52)から作動油の一部を漏らすようにした。具体的には、主通路(52)の途中と油圧ポンプ(31)のドレン通路との間にブリードオフ通路(66)を接続し、該ブリードオフ通路(66)にいわゆる漏らしオリフィスであるブリードオフオリフィス(67)を設けるようにした。そのため、サーボシリンダ(61,62)に導入されるパイロット圧力のオーバーライド特性について勾配を従来よりも大きくすることができる。そのため、エンジン(15)がストールし始めてその回転数が低下すると、パイロット圧力をサーボシリンダ(61,62)のピストン(6a)が中立位置となり得る圧力以下まで速やかに低下させることができる。これにより、油圧ポンプ(21,31)ひいてはエンジン(15)が無負荷状態となり不安定な状態となるのを回避することができる。その結果、エンジン(15)の停止を防止することができる。
【0053】
また、本実施形態では、フラッシング用リリーフ弁(28,38)について2種類(第1段オーバーライドと第2段オーバーライド)の勾配をもつオーバーライド特性を有するものを用いるようにした。そのため、作業車両(1)が軽作業を行うアイドル回転〜中回転域では、勾配が比較的緩やかな第1段オーバーライド特性により、負荷に対するパイロット圧力の変動量を小さくすることができる。よって、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)の傾転角の変動量も小さくなる。その結果、軽作業時では、油圧モータ(24,34)の回転数ひいては車速の変動を抑えて作業車両を安全確実に操作することができる。一方、作業車両(1)がフル馬力で作業を行う中回転域以上では、勾配が比較的大きい第2段オーバーライド特性により、高いパイロット圧力を得ることができる。これにより、油圧ポンプ(21,31)において斜板(S)を最大角度まで傾転させることができ、油圧モータ(24,34)の出力を最大にすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、チャージ用リリーフ弁(65)を設けるようにした。したがって、油圧ポンプ(21,31)が中立状態時において、主回路(20,30)に導入されるチャージ圧力ひいては主回路(20,30)の作動油圧が許容限界を超えるのを確実に回避することができる。その結果、主回路(20,30)が異常高圧により破損するのを回避でき、主回路(20,30)を確実に保護することができる。よって、作業車両(1)の信頼性が向上する。
【0055】
〈実施形態2〉
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、図9に示すように、上記実施形態1の油圧システム(10)において圧抜き回路(70)を設けるようにしたものである。
【0056】
上記圧抜き回路(70)は、圧抜き用主通路(71)と4つのチェック弁(73)を備えている。圧抜き用主通路(71)は、一端がチャージポンプ回路(50)における主通路(52)の途中に接続され、他端が4つの圧抜き用分岐通路(72)に接続されている。この4つの圧抜き用分岐通路(72)は、それぞれ左側パイロット圧通路(57a,57b)と右側パイロット圧通路(58a,58b)の途中に接続されている。4つのチェック弁(73)は、それぞれ圧抜き用分岐通路(72)に設けられている。このチェック弁(73)は、圧抜き用主通路(71)からの作動油の流れを阻止する。
【0057】
上述したように、エンジン(15)の回転数(チャージポンプ(51)の回転数)が低下すると、サーボシリンダ(61,62)に導入されるパイロット圧力も低下する。ここで、チャージポンプ(51)からサーボシリンダ(61,62)までの経路には、リモコン弁(54,55)やオリフィス(63,64)による流通抵抗や通路長さによる流通抵抗が存在する。そのため、エンジンの回転数が低下してチャージポンプ(51)の吐出圧力が低下した時点では、サーボシリンダ(61,62)に導入されるパイロット圧力は未だ低下していない。つまり、パイロット圧力の変化において応答遅れが生じる。そうすると、エンジン(15)の回転数がストールによりアイドル回転以下の所定の回転数まで低下しても、その時点では未だパイロット圧力は所定の圧力まで低下しておらず、サーボシリンダ(61,62)が中立状態になっていない。つまり、サーボシリンダ(61,62)の中立状態になるタイミングが遅くなる。この応答遅れにより、エンジン(15)が負荷状態で運転され続け、エンジン(15)が停止する可能性がある。
【0058】
ところが、本実施形態では、上述の応答遅れが生じた状態では、パイロット圧力がチャージポンプ(51)の吐出圧力(即ち、主通路(52)の作動油圧)よりも高くなっている。そのため、各パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)の作動油(圧力)がチェック弁(73)を介して主通路(52)に抜ける。これにより、パイロット圧力は主通路(52)の作動油圧と同等になる。即ち、パイロット圧力が主通路(52)の作動油圧まで瞬時に低下する。これにより、パイロット圧力の応答遅れを解消することができる。その結果、エンジンストールによるエンジン(15)の停止を確実に防止できる。その他の構成、作用および効果は上記実施形態1と同様である。
【0059】
〈実施形態3〉
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態は、図10に示すように、上記実施形態1の油圧システム(10)において上記実施形態2とは異なる構成の圧抜き回路(80)を設けるようにしたものである。
【0060】
上記圧抜き回路(80)は、バイパス弁(81)とバイパス通路(82)を備えている。バイパス通路(82)は2本設けられている。つまり、2本の左側パイロット圧通路(57a,57b)同士を繋ぐバイパス通路(82)と、2本の右側パイロット圧通路(58a,58b)同士を繋ぐバイパス通路(82)である。主通路(52)および2本のバイパス通路(82)の途中には共通の上記バイパス弁(81)が設けられている。このバイパス弁(81)は、3ポート・2位置式の切換弁である。エンジン(15)の回転数が中・高回転域では、バイパス弁(81)は主通路(52)が連通し2つのバイパス通路(82)を遮断するように切り換わる。そして、エンジン(15)の回転数が低下して主通路(52)の作動油圧が低下すると、バイパス弁(81)は主通路(52)を遮断し2つのバイパス通路(82)が連通するように切り換わる。この状態では、左側パイロット圧通路(57a,57b)同士の間で均圧され、右側パイロット圧通路(58a,58b)同士の間で同圧になる。つまり、パイロット圧力が瞬時に低下する。したがって、本実施形態においても、エンジン(15)の回転数がストールにより所定の回転数まで低下した際に、パイロット圧力の応答遅れを解消することができる。その結果、エンジンストールによるエンジン(15)の停止を確実に防止できる。その他の構成、作用および効果は上記実施形態1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、HSTの油圧システムを備えた油圧駆動式作業車両について有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 作業車両(油圧駆動式作業車両)
15 エンジン
20,30 左側、右側主回路(主回路)
21,31 油圧ポンプ
24,34 油圧モータ
27,37 フラッシング弁
28,38 フラッシング用リリーフ弁
50 チャージポンプ回路
51 チャージポンプ
52 主通路(吐出通路)
53 チャージ用通路
54,55 リモコン弁
57a,57b 左側パイロット圧通路
58a,58b 右側パイロット圧通路
61,62 サーボシリンダ
65 チャージ用リリーフ弁
67 ブリードオフオリフィス(オリフィス)
70,80 圧抜き回路
71 圧抜き用主通路
72 圧抜き用分岐通路
73 チェック弁
81 バイパス弁
82 バイパス通路
6a ピストン
6b,6c シリンダ室
S 斜板
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(15)によって駆動される可動斜板式の油圧ポンプ(21,31)と、該油圧ポンプ(21,31)からの作動油圧によって駆動される油圧モータ(24,34)とが閉回路に接続された主回路(20,30)と、
上記エンジン(15)によって駆動されるチャージポンプ(51)と、該チャージポンプ(51)からの作動油圧がパイロット圧力として導入されることで移動し上記油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)を傾転させるピストン(6a)を有するセンタリングスプリング(6d)付きのサーボシリンダ(61,62)と、上記チャージポンプ(51)の吐出通路(52)における作動油の一部を漏らすためのオリフィス(67)とを有するチャージポンプ回路(50)とを備え、上記油圧モータ(24,34)によって駆動軸が回転されて走行する
ことを特徴とする油圧駆動式作業車両。
【請求項2】
請求項1において、
上記主回路(20,30)は、上記油圧モータ(24,34)の上下流の通路のうち低圧側通路の作動油を流通させるフラッシング弁(27,37)と、該フラッシング弁(27,37)を流通した作動油の圧力が所定値以上になると該作動油をタンク(T)へ戻すフラッシング用リリーフ弁(28,38)とを備え、
上記フラッシング用リリーフ弁(28,38)は、所定の勾配を有する第1段オーバーライドと、該第1段オーバーライドに対応する作動油の流量域を超える流量域において上記第1段オーバーライドの勾配よりも大きい勾配を有する第2段オーバーライドとを有するものである
ことを特徴とする油圧駆動式作業車両。
【請求項3】
請求項2において、
上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の作動油の一部が分岐して上記主回路(20,30)に作動油圧が補充されるチャージ用通路(53)と、該チャージ用通路(53)に設けられ、上記油圧ポンプ(21,31)の斜板(S)が中立位置となる中立状態にチャージ用通路(53)の作動油をタンク(T)へ流すチャージ用リリーフ弁(65)とを備えている
ことを特徴とする油圧駆動式作業車両。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、
上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の終端に接続されるリモコン弁(54,55)と、該リモコン弁(54,55)から作動油圧がパイロット圧力として上記サーボシリンダ(61,62)の両シリンダ室(6b,6c)に導入するパイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)とを備えると共に、
上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)に接続される圧抜き用主通路(71)と、該圧抜き用主通路(71)から分岐して上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)に接続される圧抜き用分岐通路(72)と、該圧抜き用分岐通路(72)に設けられ、上記圧抜き用主通路(71)から上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)へ向かう作動油が流れを阻止するチェック弁(73)とを有する圧抜き回路(70)を備えている
ことを特徴とする油圧駆動式作業車両。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項において、
上記チャージポンプ回路(50)は、上記吐出通路(52)の終端に接続されるリモコン弁(54,55)と、該リモコン弁(54,55)から作動油圧がパイロット圧力として上記サーボシリンダ(61,62)の両シリンダ室(6b,6c)に導入されるパイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)とを備えると共に、
上記チャージポンプ回路(50)は、上記パイロット圧通路(57a,57b,58a,58b)同士の間に接続され上記サーボシリンダ(61,62)をバイパスするバイパス通路(82)と、上記吐出通路(52)および上記バイパス通路(82)の双方に共通に接続され、上記吐出通路(52)および上記バイパス通路(82)のうち上記吐出通路(52)を連通させる状態と上記バイパス通路(82)を連通させる状態とに切換可能なバイパス弁(81)とを有する圧抜き回路(80)を備えている
ことを特徴とする油圧駆動式作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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