説明

油性インクジェットインク

【課題】油性インクジェットインクをインクジェット適性およびトナー適性を有しつつ、画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのないものとする。
【解決手段】少なくとも顔料、分散剤、非水溶性有機溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記非水溶性有機溶剤に含まれるエステル溶剤が下記一般式(式中、nは8〜15の整数、mは4〜7の整数、xは2n−1〜2n+1である)で表わされるエステル溶剤であって、エステル溶剤をインク全量中に10〜30質量%含むものとする。
nx-COO-Cm2m+1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットインク、詳細にはインクジェット適性およびトナー適性を有しつつ、画像形成後(印刷後)の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのない油性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷紙に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる油性インクジェットインクが種々提案されている。
【0003】
例えば、本発明者らは特許文献1において、顔料をエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤等の非極性溶剤に分散させたインクを提案している。このインクは機上安定性に優れ、インクジェット適性を有するとともに、PPC複写機やレーザープリンターで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印字面を得ることができるという利点を有するものであり、トナー適性に優れたものである。
【0004】
ところで、インクジェット印刷に伴い、臭気が問題となる場合がある。例えば、UVインク中の残留モノマーによるもの(特許文献2)、印刷媒体が塩化ビニルである非水系インクに含まれる溶媒に因るもの(特許文献3)がある。しかし、一般に使用される油性インクに関しては、これまでの所、臭気の問題が報告された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2003−159791号公報
【特許文献3】特開2008−274034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、最近、上記のような臭気の原因となるような特定の物質を含有していない通常の油性インクを用いたインクジェットについても、画像形成後の印刷物から不快臭がするという問題が発生した。本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、紙中には、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等のカルシウム化合物が含まれているが、これらのうち、水に抽出され易く高いpHを示す水酸化カルシウムが臭気の問題を起こす原因となっていることがわかった。つまり、臭気の問題は一般のインクに広く使用されているエステル溶剤、例えばイソノナン酸イソノニル、パルミチン酸イソオクチル等のエステル溶剤に対して、印刷紙中の水酸化カルシウムが触媒として働いてエステル溶剤を加水分解し、不快臭を有するアルコールを発生するためであることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明はインクジェット適性およびトナー適性を有しつつ、画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのない油性インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、非水溶性有機溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記非水溶性有機溶剤に含まれるエステル溶剤が下記一般式(式中、nは8〜15の整数、mは4〜7の整数、xは2n−1〜2n+1である、以下この記載は省略する)で表わされるエステル溶剤であって、該エステル溶剤をインク全量中に10〜30質量%含むことを特徴とするものである。
nx-COO-Cm2m+1
【0008】
本発明の油性インクジェットインクは、非水溶性有機溶剤に炭素数12以上20以下のアルコール溶剤を併用することがより好ましい。前記アルコール溶剤の含有量はインク全量中に3〜15質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、非水溶性有機溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、非水溶性有機溶剤に含まれるエステル溶剤が下記一般式で表わされるエステル溶剤であって、このエステル溶剤をインク全量中に10〜30質量%含むものであるため、インクジェット適性およびトナー適性を有しつつ、印刷紙中に水酸化カルシウムが含まれている場合であっても、画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することを抑制することができる。
nx-COO-Cm2m+1
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の油性インクジェットインク(以下、単にインクという)は、少なくとも顔料、分散剤、非水溶性有機溶剤からなるインクにおいて、非水溶性有機溶剤に含まれるエステル溶剤が下記一般式で表わされるエステル溶剤であって、このエステル溶剤をインク全量中に10〜30質量%含むことを特徴とする。
nx-COO-Cm2m+1
【0011】
上記式中、nは8〜15の整数、mは4〜7の整数、xは2n−1〜2n+1である。mが4未満であると、加水分解で発生するアルコールの揮発性が高いために、印字用紙中への滞留が少ないために印字物からの臭気をあまり感じないが、エステル溶剤とトナーとの溶解性が高くなりトナー印字物が張りつく問題が発生する。一方で、mが7を超えると、加水分解で発生するアルコールの揮発性が低いために印字用紙中への滞留が多くなり、不快なアルコール臭気をより多く感じることとなる。
【0012】
上記式中におけるmが4〜7の場合、nが8未満であるとエステル溶剤自体の揮発性が高くなりエステル自体の臭気が強くなってしまい、揮発が進むとヘッドノズル近傍のインク粘度が上昇しインクジェット適性を得ることが困難になる。また、トナーとの溶解性も高くなる。一方、nが15を超えるとエステル溶剤の粘度が高くなるためインクジェット適性を得ることが困難になる。
上記式中、CnxおよびCm2m+1は直鎖であってもよいし、分岐していてもよい。
【0013】
エステル溶剤としてより詳細には、mが4のエステル溶剤としては、ノナン酸ブチル、カプリン酸ブチル、ウンデカン酸ブチル、ラウリン酸ブチル、トリデカン酸ブチル、ミリスチン酸ブチル、ペンタデシル酸ブチル、パルミチン酸ブチル、イソノナン酸ブチル、イソカプリン酸ブチル、イソウンデカン酸ブチル、イソラウリン酸ブチル、イソトリデカン酸ブチル、イソミリスチン酸ブチル、イソペンタデシル酸ブチル、イソパルミチン酸ブチル、ノナン酸イソブチル、カプリン酸イソブチル、ウンデカン酸イソブチル、ラウリン酸イソブチル、トリデカン酸イソブチル、ミリスチン酸イソブチル、ペンタデシル酸イソブチル、パルミチン酸イソブチル、イソノナン酸イソブチル、イソカプリン酸イソブチル、イソウンデカン酸イソブチル、イソラウリン酸イソブチル、イソトリデカン酸イソブチル、イソミリスチン酸イソブチル、イソペンタデシル酸イソブチル、イソパルミチン酸イソブチル、ミリストレイン酸ブチル、パルミトレイン酸ブチル、ミリストレイン酸イソブチル、パルミトレイン酸イソブチルが挙げられる。
【0014】
mが5のエステル溶剤としては、ノナン酸ペンチル、カプリン酸ペンチル、ウンデカン酸ペンチル、ラウリン酸ペンチル、トリデカン酸ペンチル、ミリスチン酸ペンチル、ペンタデシル酸ペンチル、パルミチン酸ペンチル、イソノナン酸ペンチル、イソカプリン酸ペンチル、イソウンデカン酸ペンチル、イソラウリン酸ペンチル、イソトリデカン酸ペンチル、イソミリスチン酸ペンチル、イソペンタデシル酸ペンチル、イソパルミチン酸ペンチル、ノナン酸イソペンチル、カプリン酸イソペンチル、ウンデカン酸イソペンチル、ラウリン酸イソペンチル、トリデカン酸イソペンチル、ミリスチン酸イソペンチル、ペンタデシル酸イソペンチル、パルミチン酸イソペンチル、イソノナン酸イソペンチル、イソカプリン酸イソペンチル、イソウンデカン酸イソペンチル、イソラウリン酸イソペンチル、イソトリデカン酸イソペンチル、イソミリスチン酸イソペンチル、イソペンタデシル酸イソペンチル、イソパルミチン酸イソペンチル、ミリストレイン酸ペンチル、パルミトレイン酸ペンチル、ミリストレイン酸イソペンチル、パルミトレイン酸イソペンチルが挙げられる。
【0015】
mが6のエステル溶剤としては、ノナン酸ヘキシル、カプリン酸ヘキシル、ウンデカン酸ヘキシル、ラウリン酸ヘキシル、トリデカン酸ヘキシル、ミリスチン酸ヘキシル、ペンタデシル酸ヘキシル、パルミチン酸ヘキシル、イソノナン酸ヘキシル、イソカプリン酸ヘキシル、イソウンデカン酸ヘキシル、イソラウリン酸ヘキシル、イソトリデカン酸ヘキシル、イソミリスチン酸ヘキシル、イソペンタデシル酸ヘキシル、イソパルミチン酸ヘキシル、ノナン酸イソヘキシル、カプリン酸イソヘキシル、ウンデカン酸イソヘキシル、ラウリン酸イソヘキシル、トリデカン酸イソヘキシル、ミリスチン酸イソヘキシル、ペンタデシル酸イソヘキシル、パルミチン酸イソヘキシル、イソノナン酸イソヘキシル、イソカプリン酸イソヘキシル、イソウンデカン酸イソヘキシル、イソラウリン酸イソヘキシル、イソトリデカン酸イソヘキシル、イソミリスチン酸イソヘキシル、イソペンタデシル酸イソヘキシル、イソパルミチン酸イソヘキシル、ミリストレイン酸ヘキシル、パルミトレイン酸ヘキシル、ミリストレイン酸イソヘキシル、パルミトレイン酸イソヘキシルが挙げられる。
【0016】
mが7のエステル溶剤としては、ノナン酸ヘプチル、カプリン酸ヘプチル、ウンデカン酸ヘプチル、ラウリン酸ヘプチル、トリデカン酸ヘプチル、ミリスチン酸ヘプチル、ペンタデシル酸ヘプチル、パルミチン酸ヘプチル、イソノナン酸ヘプチル、イソカプリン酸ヘプチル、イソウンデカン酸ヘプチル、イソラウリン酸ヘプチル、イソトリデカン酸ヘプチル、イソミリスチン酸ヘプチル、イソペンタデシル酸ヘプチル、イソパルミチン酸ヘプチル、ノナン酸イソヘプチル、カプリン酸イソヘプチル、ウンデカン酸イソヘプチル、ラウリン酸イソヘプチル、トリデカン酸イソヘプチル、ミリスチン酸イソヘプチル、ペンタデシル酸イソヘプチル、パルミチン酸イソヘプチル、イソノナン酸イソヘプチル、イソカプリン酸イソヘプチル、イソウンデカン酸イソヘプチル、イソラウリン酸イソヘプチル、イソトリデカン酸イソヘプチル、イソミリスチン酸イソヘプチル、イソペンタデシル酸イソヘプチル、イソパルミチン酸イソヘプチル、ミリストレイン酸ヘプチル、パルミトレイン酸ヘプチル、ミリストレイン酸イソヘプチル、パルミトレイン酸イソヘプチルが挙げられる。
【0017】
上記エステル溶剤は単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。上記エステル溶剤の中でもとりわけ、mが6のエステル溶剤が好ましく、さらにはラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ヘキシルがより好ましい。
【0018】
上記エステル溶剤の含有量はインク全量中に10〜30質量%である。10質量%未満ではインクジェット適性が悪くなる。一方で、30質量%を超えると、上記一般式のmを4〜7、nを8〜15としても臭気の不快さが大きくなってしまう。
【0019】
なお、溶剤に含まれるエステル溶剤はその全てが上記一般式で表わされるエステル溶剤であることが好ましいが、不快なアルコール臭を発生しない程度においては上記一般式で表わされるエステル溶剤以外のエステル溶剤を含んでいてもよい。
【0020】
上記一般式で表わされるエステル溶剤以外のエステル溶剤としては、例えば、ラウリン酸エチル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸イソブチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油イソブチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、モノカプリン酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチルヘキシル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。
【0021】
本発明の油性インクジェットインクは、非水溶性有機溶剤に炭素数12以上20以下のアルコール溶剤を併用することがより好ましい。このようなアルコールを併用することで、インクジェット適性をより良好にすることが可能となる。アルコール溶剤の炭素数が12未満の場合には、エステル溶剤や非極性溶剤との相溶性が悪くなる。一方で炭素数20を超えると、インク粘度が高くなり、吐出性能が悪くなる。
【0022】
炭素数12以上20以下のアルコール系溶剤としてはイソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、イソアイコシルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。これらのアルコール溶剤の含有量はインク全量中に3〜15質量%であることが好ましい。3質量%未満ではインクジェット適性が悪くなる。一方で、15質量%を超えると、インク粘度が高くなり、吐出性能が悪くなる。
【0023】
本発明のインクは、上記一般式で表わされるエステル溶剤およびアルコール溶剤以外に顔料、分散剤、その他の溶剤、必要に応じて各種添加剤等を含有することができる。
本発明で使用される顔料としては特に限定されず、従来公知の無機顔料および有機顔料を使用することができる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、タルク、シリカ等が挙げられる。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。顔料の添加量は、インク全量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0024】
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、高分子系分散剤が好ましく使用され、例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる:ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、11200(ポリアミド系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、22000、24000、及び28000(いずれも日本ルーブリゾール社製);エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、及び4055(変性ポリウレタン)(いずれもEfka CHEMICALS社製);デモールP、EP、ポイズ520、521、530、及びホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)(いずれも花王(株)製);ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)(いずれも楠本化成社製);ディスコール202、206、OA−202、及びOA−600(多鎖型高分子非イオン系)(いずれも第一工業製薬(株)製);ANTARON V216(ビニルピロリドン−ヘキサデセンコポリマー)(アイエスピー・ジャパン(株)製)。なかでも、ポリアミド系及びビニルピロリドン−ヘキサデセンコポリマーがより好ましい。分散剤の含有量は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であればよく、通常、1〜7質量%程度である。
【0026】
インクの溶剤としては、上記一般式で表わされるエステル溶剤の他に非極性有機溶剤、極性有機溶剤、又はこれらの混合物を含でいてよく、特に非極性溶剤を併用することが好ましい。非極性溶剤を併用することにより、臭気発生の抑制がより効果的になるうえ、吐出性能を良好なものとすることができる。溶剤全量に対する非極性溶剤と極性溶剤の含有量は、20〜80質量%の非極性溶剤と80〜20質量%の極性溶剤であることが好ましく、より好ましくは、30〜80質量%の非極性溶剤と70〜20質量%の極性溶剤、さらには、40〜80質量%の非極性溶剤と60〜20質量%の極性溶剤であることが好ましい。
【0027】
非極性有機溶剤の例としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系の溶剤が挙げられる。例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる。テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、及びAF−7(いずれも新日本石油(株)製);Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxolD40、ExxolD80、ExxolD100、ExxolD130、及びExxolD140(いずれもExxon社製)。芳香族炭化水素溶剤としては、新日本石油(株)製の日石クリーンソルG(アルキルベンゼン)、Exxon社製のソルベッソ200等が挙げられる。これらのうち、ナフテン系溶剤、AF−4、AF−5、AF−6、及びAF−7(商品名)が多用される。
【0028】
極性有機溶剤としては、上記一般式で表わされるエステル溶剤および上記で説明したアルコール溶剤以外に、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤を用いることができる。高級脂肪酸系溶剤としてはイソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸;エーテル系溶剤としてはジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルが挙げられる。
【0029】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0030】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。具体的には、予め溶剤の一部と顔料及び分散剤の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
以下に本発明の油性インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0031】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、ビーズミルにて約10分間分散させて実施例1〜6および比較例1〜7のインクを調製した。
【0032】
(評価)
(臭気)
インクジェットプリンター「オルフィスX9050」(商品名:理想科学工業社製)に実施例1〜6および比較例1〜7の各インクを導入し、普通紙(商品名:COPY&LAZER、April Paper社製)にベタ画像を20枚印刷し、エステル溶剤の加水分解が進行する前の印刷直後(5分以内)に印刷物の10枚目の臭気を3人のパネルにより臭いを嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。また、印刷後2週間室温で保管し、エステル溶剤の加水分解が進行した後の印刷物の10枚目の臭気を同様に3人のパネルにより臭いを嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。
○:不快な臭気がしない
△:わずかに臭気がある
×:不快な臭気がある
【0033】
(トナー適性)
インクジェットプリンター「オルフィスX9050」に実施例1〜6および比較例1〜7の各インクを導入し、普通紙(商品名:COPY&LAZER、April Paper社製)にベタ印字を行った。これらの印字物の印字面同士を重ね合わせ、30℃環境下で1ヶ月放置した。重ね合わせた印字物を剥がし、印字面の汚れを目視観察し、以下の基準で評価した。
○:印字面の汚れが目立たない
△:印字面の汚れがわずかにあるが許容できる
×:トナーがインクジェット印字面に転写して印字面の汚れが目立つ
【0034】
(インクジェット適性)
インクジェットプリンター「オルフィスX9050」に実施例1〜6および比較例1〜7の各インクを導入し、30℃環境で6ヶ月保存し、X9050の機能にあるストロングクリーニングを1回実施したのち、A3ベタを50枚印字し印字物を観察し吐出不良数を数えた(白線の本数)。この50枚印字を200回繰り返し(合計10000枚印字)下記基準によって吐出性能を評価した。
○:吐出不良ノズル数5本以下/10000枚
△:吐出不良ノズル数6〜19本/10000枚
×:吐出不良ノズル数20本以上/10000枚
各インクの処方と評価の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表に示すように本発明の一般式で表わされるエステル溶剤を用いた実施例1〜6では印刷後2週間経過しても臭気は認められなかった。実施例5および6ではほんのわずかに臭気は認められたものの許容範囲内であった。また、実施例1〜6のトナー適性、インクジェット適性も実用上は問題にならない程度であった。実施例2および実施例3は臭気、トナー適性、インクジェット適性の全てが良好であり、優れたインクジェットインクであることがわかる。
【0037】
また、実施例5は実施例6に比べ、インクジェット適性が良好であった。インク溶剤の揮発性を考慮すると、実施例5の方が実施例6よりも揮発しやすいはずであるが、実施例5のインクジェット適性が良好であるということは、アルコール溶剤の併用がインクジェット適性に対して好作用を発揮していると考えられる。
【0038】
一方で、本発明の一般式で表わされるエステル溶剤を用いた場合であってもその含有量が多い比較例1では臭気が顕著となり、含有量が少ない比較例2ではインクジェット適性は悪くなった。また、比較例3および4のようにmが8以上のラウリン酸イソオクチルやイソノナン酸イソノニルを用いた場合には印刷後2週間目にして顕著な不快臭が認められた。また、比較例5のようにmが3のミスチリン酸プロピルの場合には、加水分解で発生するアルコールの揮発性が高く、印字用紙中への滞留が少ないために印字物からの臭気をあまり感じなかったが、エステル溶剤とトナーとの溶解性が高くなるために印字物が張りつくという問題が発生した。
【0039】
比較例6の場合には、mが6であるもののnが8未満であるために、エステル溶剤自体の揮発性が高く、印刷直後からエステル自体の臭気があった。また、揮発が進むことによってインク粘度が上昇してインクジェット適性を得ることが困難となった。さらには、トナーとの溶解性も高くなり、トナー適性を得ることが困難となった。比較例7の場合には、mが6であるもののnが17と大きいためにエステル溶剤の粘度が高くなりインクジェット適性を得ることが困難となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、分散剤、非水溶性有機溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記非水溶性有機溶剤に含まれるエステル溶剤が下記一般式(式中、nは8〜15の整数、mは4〜7の整数、xは2n−1〜2n+1である)で表わされるエステル溶剤であって、該エステル溶剤をインク全量中に10〜30質量%含むことを特徴とする油性インクジェットインク。
nx-COO-Cm2m+1
【請求項2】
炭素数12以上20以下のアルコール溶剤をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
前記アルコール溶剤をインク全量中に3〜15質量%含むことを特徴とする請求項2記載の油性インクジェットインク。

【公開番号】特開2011−219732(P2011−219732A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6883(P2011−6883)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】