説明

油性顔料インク組成物

【課題】カーボンブラック顔料を有する油性顔料インク組成物であって、長期保存後でもインクジェットプリンタでのノズル目詰まりが少なく、安定なインクジェット印刷を行うことができる油性顔料インク組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラック顔料、高分子化合物、及び有機溶媒を含む油性顔料インク組成物において、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppm以下とする。上記油性顔料インク組成物は、長期保存後でも析出物の発生が少なく、ヘッド目詰まりが発生しないで優れた保存安定性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック顔料、高分子化合物、及び有機溶媒を含む油性顔料インク組成物に関し、特に、インクジェット記録方式において、目詰まりがなく好適に用いられる油性顔料インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、圧力、熱、電界などを駆動源として用いることにより、液状のインクをノズルから記録媒体に向けて吐出させて印刷する記録方式である。このような記録方式は、ランニングコストが低く、高画質化が可能であり、また用途に合わせて各種のインクを印字できることから、近年、市場を拡大している。
【0003】
上記のようなインクジェット記録方式に用いられるインクとしては、色材として染料を、分散溶媒として水を用いた水性染料インクが主として使用されてきたが、染料インクは堅牢性に劣る。このため、色材として顔料を用いた水性顔料インク、また、水性顔料インクを用いるインクジェットプリンタが開発され、屋内用途のポスターなどに利用されてきている。しかしながら、水性インクは耐水性に劣るため、屋外用途には不向きであり、また、水性インクはポリ塩化ビニルなどのプラスチック基材への印刷が困難という問題がある。このため、色材として顔料を、分散溶媒として有機溶媒を用いた油性顔料インクの開発が行われている。
【0004】
例えば、顔料と、水及びエタノールに対する溶解度が25℃で3質量%未満である高分子化合物と、有機溶媒として、(ポリ)アルキレングリコール誘導体を30〜90質量%及び含窒素複素環化合物を1〜30質量%含有する油性顔料インク組成物を用いることにより、耐候性や定着性を向上した油性顔料インクが提案されている(例えば、特許文献1)。また、上記のような油性顔料インクは水性染料インクと異なり、インク中で顔料が溶解していないため、吐出不良が生じやすい。そのため、有機溶媒中での顔料の分散安定性を改善することを目的として、顔料と、バインダー樹脂と、顔料分散剤と、グリコールエーテルアセテートの少なくとも1種、並びにシクロヘキサノン及びイソホロンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる有機溶媒とを含有する油性顔料インクが提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−60716号公報
【特許文献2】特開2006−56991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような油性顔料インクに用いられる顔料は、酸化チタンなどの無機顔料と、キナクリドン系、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチン系、カーボンブラックなどの有機顔料とに大別される。インクジェット用インクとして油性顔料インクを使用する場合、これらの顔料の中から所望の特性に応じて、シアン、マゼンダ、イエロー、白色、及び黒色の各色相を呈する顔料を選定し、各顔料を用いて調製された油性顔料インクを充填したインクタンクを組み合わせたインクセットの形態でインクジェット印刷に用いられている。
【0006】
しかしながら、上記のような油性顔料インクの顔料としてカーボンブラック顔料を使用した場合、連続印刷などでプリントヘッドからインクを長期間吐出し続けるとノズル目詰まりが頻発し、インクジェットプリンタによる吐出が困難になるという問題が明らかとなった。特に、近年開発されてきたノズル径が直径25μm以下の高精細ヘッドを用いたインクジェットプリンタでは、目詰まりが起こりやすく、インク滴が曲がったり吐出しなかったりという問題を抱えていた。
【0007】
この原因について調査したところ、インクジェットプリンタヘッドのノズル部分において、カーボンブラック顔料自体とは異なる固形の析出物が付着しており、それによって目詰まりを起こしていることが確認された。インク調製時にはインク中に析出物は生じていなかったことから、この析出物は連続印刷や長期間保存することにより発生したと考えられた
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、色材としてカーボンブラック顔料を有する油性顔料インク組成物において、連続印刷や長期間の保存においてもインクジェットプリンタでのノズル目詰まりが少なく、安定なインクジェット印刷を行うことができる油性顔料インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カーボンブラック顔料、高分子化合物、及び有機溶媒を少なくとも含む油性顔料インク組成物であって、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppm以下であることを特徴とする。
【0010】
上記油性顔料インク組成物によれば、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であるため、長期保存後でも、目詰まりの原因となるカーボンブラック顔料に由来する析出物の発生を抑えることができる。すなわち、アルカリ金属とアルカリ土類金属は原材料の不純物として存在し、インク中に混在する水分やプリンタの使用環境にて湿度が高い場合など、水分の介在により容易にイオン化して溶出しやすい。特に、1価の陽イオンの中でも、ナトリウムイオンやカリウムイオンは析出物を形成しやすいことから、これらの合計濃度がインク固形分中100ppm以下であることが好ましい。
【0011】
また、上記油性顔料インク組成物によれば、硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppm以下であることが必要である。特に、硫黄元素を含む化学物質の中でも、硫酸イオンは析出物を形成しやすいことから、含有量はインク固形分中900ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、カーボンブラック顔料に由来する析出物の発生の少ない油性顔料インク組成物を提供することができる。これにより、インクを長期保存した場合でも、ノズル目詰まりが少なく、安定な吐出が可能なインクジェット用インクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
インク組成物中で析出物を形成しうる成分について検討した結果、カーボンブラック顔料中に含まれる陽イオンと陰イオンといったイオン性不純物が、連続印刷や長期間保存によってインク中に溶出し、塩を生成することが析出物の原因であると推測された。すなわち、カーボンブラック顔料の製造工程においては、イオン性不純物の混入が伴う。例えばファーネス法は、密閉された耐火レンガ製の燃焼炉の中に、イオウ成分などの不純物を含む原料であるオイルや天然ガスを噴霧し、不完全燃焼を起こさせる。カーボンブラック顔料の一次粒子径の制御は、火炎温度や冷却水の噴霧によって調整され、バグフィルターによって回収される。尚、カーボンブラック顔料のストラクチャーの制御は、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属類を用いて行う。
【0014】
このようなアルカリ金属とアルカリ土類金属のイオン性不純物を含有するカーボンブラック顔料を有機溶媒中に分散させたインクを連続印刷に用いた場合、ノズル内部と外気の界面において、環境湿度による水分の吸着が起こり、陽イオンと陰イオンといったイオン性不純物は水分に溶解して塩を形成し、不可逆的にインク溶媒には溶解しない析出物が発生したものと考えられる。また、長期間の保存も同様であり、有機溶媒などに含まれていた微量の水分により上記のような析出物が発生したものと考えられる。
【0015】
さらに、析出物中の金属成分について詳細に分析した結果、析出物はマグネシウムやカルシウムなどの2価のアルカリ土類金属よりも、ナトリウムやカリウムなどの1価のアルカリ金属を主たる金属成分として含んでいたことから、連続印刷や長期間保存時に析出物を生成するのは、上記のカーボンブラック製造の際に混入する無機塩中の1価の陽イオンが主であると考えられた。また、析出物の陰イオンは硫黄元素を含んでおり、カーボンブラック製造の際に混入する陰イオンや、顔料の結晶抑制や分散性向上のため用いる顔料誘導体の陰イオンが主であると考えられた。従って、このような析出物を生成する主要因となる1価の陽イオン、及び陰イオンの少なくともいずれか一方を低減したインク組成物であれば、析出物の発生が抑えられると期待できた。
【0016】
以上の知見に基づき、本発明者等は、インク組成物中のカーボンブラック顔料のアルカリ金属とアルカリ土類金属(以下アルカリ金属類という)に着目し、該インク固形分中の濃度を低減するための検討を行った。カーボンブラック顔料のアルカリ金属類の濃度のみならず、硫黄元素の濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析などの定量分析法によって分析可能なことを利用して、アルカリ金属類の濃度、さらに、硫黄元素の濃度が一定値以下であれば、これらの含有に依存して、連続印刷や長期間の保存でも、析出物の発生の少ないインクが得られることを見出した。すなわち、アルカリ金属類のインク固形分中の濃度は100ppm以下が好ましく、50ppm以下であればより好ましい。また、硫黄元素のインク固形分中の濃度は900ppm以下が好ましく、300ppm以下であればより好ましい。これにより、インクを長期保存した後でも析出物の発生が抑えられ、連続印刷性と保存安定性に優れるインクが得られる。特に、ナトリウムイオンやカリウムイオンと硫酸イオンとの塩によって生成する硫酸ナトリウム、硫酸カリウムの発生が、顕著に抑えられることを見出した。
【0017】
硫黄元素については、特許第3538660号で、遊離硫黄の含有量を10ppm以下にするという発明が開示されている。しかし、課題が、インクヘッドにおいてインクの気泡の発生を抑制することを目的としたもので、本発明の課題であるノズルに発生する析出物のための目詰まりについては何らの示唆もなされていない。さらに、該発明は10ppm以下ではあるが、遊離硫黄を含有させるというのが本質的思想であって、本発明の硫黄含有量をできるだけ少なくするという思想と異なるものである。
【0018】
本実施の形態の油性顔料インク組成物において、インク組成物中のアルカリ金属類の含有量と硫黄元素の含有量を上記範囲に調整するにあたっては、析出物発生の主たる原因と考えられるカーボンブラック顔料にイオン性不純物の少ないものを使用することが好ましい。特に、インクジェット用インクとして使用する場合、カーボンブラック顔料の含有量の範囲においては、カーボンブラック顔料を蒸留水やイオン交換水で洗浄したものを使用する方法が挙げられる。なお、カーボンブラック顔料の含有量が多い場合、水相中の1価陽イオンの合計濃度、及び水相の比伝導度が増加するため、可能な限りアルカリ金属類の含有量や硫黄元素の含有量の低いカーボンブラック顔料を使用することが好ましい。この場合、カーボンブラックの灰分値(JIS−K−6218記載)が、アルカリ金属類元素や硫黄元素量を示す指標となりうる。例えば、灰分値が0.3質量%以下が好ましく、特に、0.1質量%以下がより好ましい。
【0019】
次に、本実施の形態の油性顔料インク組成物に用いられる各成分について具体的に説明する。
【0020】
本実施の形態で用いられるカーボンブラック顔料としては、製造方法で分類されるサーマルブラック、ファーネスフラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、カーボンチューブなど、また、表面官能基で分類される酸性カーボンブラック、中性カーボンブラック、塩基性カーボンブラックが挙げられる。具体的には、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF、キャボット社製のモナーク、リーガル、デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス、東海カーボン社製のトーカブラック、コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、デグサジャパン社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45、プリンテックス25、プリンテックスU、プリンテックスV、ColorBlackS160、ColorBlackS170、ColorBlackFW1、ColorBlackFW18、SpecialBlack4、SpecialBlack5、SpecialBlack6からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
【0021】
インク組成物中のカーボンブラック顔料の含有量としては、特に限定されるものではないが、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、インク組成物全体に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。
【0022】
カーボンブラック顔料の色調の制御や濃度の向上において、補色用顔料を含有してもよい。例えば、有機顔料としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジアセトアセトアリライド系などが挙げられる。また、無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが用いられる。これらの顔料は、単独でも複数混合して使用してもよい。
【0023】
カーボンブラック顔料や補色用顔料の分散性向上のために、顔料誘導体を含有してもよい。例えば、顔料誘導体の種類としては、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系などのアゾ系顔料誘導体や、アントラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、ピロコリン系、フルオルビン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系などの多環式顔料誘導体などが挙げられる。本実施の形態において、顔料誘導体とは、油性顔料インクの製造に一般に用いられる通常のものを意味し、顔料分子または染料分子を母核とし、この母核に酸性基や塩基性基などの極性を有する官能基あるいは有機溶剤との親和性を向上する官能基を導入して得られる誘導体型の化合物を意味する。顔料誘導体に導入される官能基としては、塩素基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、カルボン酸基、カルボン酸アミド基、アミノ基、アミノメチル基、イミド基、イミドメチル基、フタルイミド基、フタルイミドメチル基、ニトロ基、シアノ基、リン酸基などが挙げられる。これらの官能基は単独でまたは複数含有されていてもよい。インク最終組成における顔料誘導体の含有量は、顔料や有機溶剤の種類、分散条件などにより異なるが、顔料100質量部に対して、0.1〜200質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。中でも、硫黄元素を含む誘導体については、インク固形分中、硫黄元素の濃度を900ppm以下にすることが好ましい。
【0024】
本実施の形態の油性顔料インク組成物は、高分子化合物を含有する。このような高分子化合物は、顔料分散剤または/及び定着性樹脂として用いられる。高分子化合物からなる顔料分散剤はカーボンブラック顔料との親和性に優れ、分散安定性を向上させることができる。また、高分子化合物からなる定着性樹脂は基材に対する密着性に優れ、印字物の耐久性を向上させることができる。なお、高分子化合物の種類によっては、1種類で上記両方の働きを持つものもある。
【0025】
上記のような高分子化合物は、水及びエタノールに対する溶解度が3質量%未満、特に1質量%未満であるものが好ましい。顔料分散剤及び定着性樹脂は、インクジェット記録方式による印字後、基材の表面または表層部に残り、乾燥して定着する。このため、樹脂成分が水に易溶であると、印字物の耐水性に欠け、屋外で使用する際に雨などで印字物が流れるおそれがある。また、印字物をポスターなどとして使用する際、表面にコート剤などを吹き付けて使用する場合があり、このコート剤にはアルコール成分を主溶媒とするものが多い。このため、高分子化合物がアルコールに易溶であると、印字物がコート剤により垂れ落ちるおそれがある。従って、水及びエタノールに対する溶解度の低い高分子化合物を用いることにより、耐水性及び耐アルコール性を向上することができる。
【0026】
顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物が好ましく用いられる。これらの中でも、分散安定性、耐水性、耐搾過性などの観点から、カチオン性基またはアニオン性基を有する高分子化合物がより好ましい。上記のような顔料分散剤としては、具体的には、例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKAなどが挙げられる。
【0027】
定着性樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びニトロセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びニトロセルロース樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、塩化ビニル系樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、プラスチック基材に対する定着性に優れており、樹脂中の官能基や構造などを変えることにより、耐水性、分散安定性、印字性などをコントロールすることができる。アクリル系樹脂としては、具体的には、例えば、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル、積水化学社製のエスレックPなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、具体的には、例えば、ユニチカ社製のエリーテル、東洋紡社製のバイロンなどが挙げられる。ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、例えば、東洋紡社製のバイロンUR、大日精化社製のNT−ハイラミック、大日本インキ化学工業社製のクリスボン、日本ポリウレタン社製のニッポランなどが挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、日信化学工業社製のSOLBIN、積水化学社製のセキスイPVC−TG、セキスイPVC−HA、ダウ・ケミカル社製のUCARシリーズなどが挙げられる。ニトロセルロースとしては、具体的には、例えば、旭化成社製のHIG、LIG、SL、VX、ダイセル化学社製の工業用ニトロセルロースRS、SSなどが挙げられる。定着性樹脂の重量平均分子量は2,000〜100,000が好ましく、5,000〜80,000がより好ましく、10,000〜50,000が最も好ましい。重量平均分子量が2,000未満では、インク組成物中で顔料粒子にアニオン性樹脂が吸着した際に立体反発の効果が得られにくく、保存安定性を向上させる効果が少ない。また、媒体と顔料粒子との定着性を高める効果が得られにくく、塗膜強度が十分に得られないおそれがある。また、重量平均分子量が100,000を超えると、効果が飽和するとともに、インクの粘度が高くなり、流動性が十分に発揮されないおそれがある。
【0028】
本実施の形態において、高分子化合物からなる顔料分散剤を使用する場合、顔料分散剤の含有量は、カーボンブラック顔料、顔料分散剤及び有機溶媒の種類や分散条件などにより異なるが、通常、カーボンブラック顔料100質量部に対して、5〜150質量部が好ましい。また、高分子化合物からなる定着性樹脂を使用する場合、定着性樹脂の含有量は、カーボンブラック顔料、定着性樹脂及び有機溶媒の種類や分散条件などにより異なるが、通常、カーボンブラック顔料100質量部に対して、5〜300質量部が好ましい。
【0029】
本実施の形態の油性顔料インク組成物は、有機溶媒を含有する。このような有機溶媒としては、公知の各種のものを使用できる。これらの中でも、(ポリ)アルキレングリコール誘導体が特に好ましい。
【0030】
有機溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、インク組成物全体に対して、30〜99質量部が好ましく、50〜98質量部がより好ましい。特に、(ポリ)アルキレングリコール誘導体の含有量は、インク組成物全体に対して、1〜95質量部が好ましく、20〜90質量部がより好ましく、50〜90質量部がさらに好ましい。
【0031】
上記の(ポリ)アルキレングリコール誘導体としては、(ポリ)アルキレングリコール、すなわち、アルキレングリコールなどの遊離の水酸基を2つ以上有する化合物;(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテル化合物もしくはモノアルキルエステル化合物などの遊離の水酸基を1つ有する化合物;(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物、ジアルキルエステル化合物などの遊離の水酸基を持たない化合物が挙げられる。これらの中でも、遊離の水酸基を持たない化合物である、モノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物、及びジアルキルエステル化合物からなる群から選ばれる1種が好ましく、エステル基を有する化合物である、モノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、及びジアルキルエステル化合物からなる群から選ばれる1種がより好ましい。
【0032】
このような(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物及びジアルキルエステル化合物としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、テトラエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、テトラプロピレングリコー
ルモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールジアルキルエステル、ジエチレングリコールジアルキルエステル、トリエチレングリコールジアルキルエステル、プロピレングリコールジアルキルエステル、ジプロピレングリコールジアルキルエステル、トリプロピレングリコールジアルキルエステル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、トリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
【0033】
本実施の形態の油性顔料インク組成物は、カーボンブラック顔料、高分子化合物、及び有機溶媒のほかに、必要により、任意成分として、界面活性剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、紫外線吸収剤、香料、顔料誘導体など、公知の添加剤を配合してもよい。
【0034】
本実施の形態の油性顔料インク組成物を調製する方法としては、従来公知の方法を使用することができる。好ましい調製方法としては、以下の調製方法が挙げられる。まず、カーボンブラック顔料と、高分子化合物(顔料分散剤)と、有機溶媒の一部と、必要により他の任意成分とを、分散して顔料分散体を調製する。分散機としては、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル;サンドミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミル;ディスパーなどが挙げられる。油性顔料分散体の顔料濃度は、特に限定されるものではないが、10〜50質量%が好ましい。
【0035】
次に、得られた顔料分散体に、さらに高分子化合物(定着性樹脂)と残りの有機溶媒とを添加し、撹拌機を用いて均一に混合する。撹拌機としては、具体的には、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザーなどが挙げられる。また、ラインミキサーなどの混合機を用いてもよい。さらに、インク組成物中の粒子をより微細化する目的で、ビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いてもよい。さらに、混合後、顔料の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルタ、クロスフローなどの分級処理を行ってもよい。
【0036】
このようにして調製される油性顔料インク組成物は、20〜40mN/m(25℃)の表面張力を有することが好ましく、また2〜15mPa・s(25℃)の粘度を有することが好ましい。表面張力及び粘度を上記範囲内に設定すると、インクジェット用インクとして用いた場合、ジェット曲がりなどが少ない優れた噴射性が得られるとともに、普通紙、マット紙などの基材に印字した際の滲みを抑えることができる。また、油性顔料インク組成物中のカーボンブラック顔料の分散平均粒子径は20〜200nmが好ましく、50〜160nmがより好ましい。分散平均粒子径が20nm未満となると、粒子が細かいために、印字物の耐光性が低下する場合がある。一方、分散平均粒子径が200nmを超えると、印字物の精細さが低下する場合がある。さらに、目詰まりを防止するため、最大分散粒子径は、1,000nm以下が好ましい。なお、上記した表面張力、粘度、分散平均粒子径、及び最大分散粒子径は、各成分の種類及び含有量を変更することにより容易に調整することができる。
【0037】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。なお、下記実施例で使用した器具は、イオン性物質の影響を除外するため全て純水により予め洗浄したものを用いた。
【実施例】
【0038】
<カーボンブラック顔料の調製>
市販のカーボンブラック顔料(三菱化学(株)製MCF#1000、灰分1.8質量%)100部と、純水(イオン濃度:0ppm)1000部とを、3,000ccのプラスチック製ディスポカップに投入し、これをディスパーにより室温(25℃)で10分間撹拌し、混合液をろ紙(孔径:1μm)を用いて吸引ろ過、脱水、乾燥、粉砕する洗浄方法と、種々のイオン交換方法にて調整し、洗浄工程の異なるカーボンブラック顔料(a)〜(h)を調製した。尚、(i)は未洗浄品である。
【0039】
上記のようにして得られた各カーボンブラック顔料中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度は、以下により測定した。表1はこの結果を示す。
【0040】
<カーボンブラック顔料中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度>
カーボンブラック顔料の試料0.3gを精秤し、混酸10ml入れる。これを加熱して乾固手前まで煮沸した後、純水5mlを加えて再溶解加熱する。その後冷却、ろ過したものを25mlメスフラスコに所定量採って、原子吸光分光光度計(日立Z-8100)で測定した。
【0041】
【表1】

【0042】
<インクの調製>
(実施例1)
250ccのプラスチック製ビンに、下記表2に示す配合量で各成分を計り取り、これにジルコニアビーズ(直径:0.3mm)100部を加えてペイントコンディショナー(東洋精機社製)により、4時間分散して顔料分散体(1)を調製した。
【0043】
【表2】

【0044】
次に、100ccのプラスチック製ビンに、下記表3に示す配合量で各成分を秤り取り、溶液をマグネチックスターラーにより30分間撹拌した後、グラスフィルタ(桐山製作所製)を用いて吸引ろ過を行い、インクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0045】
【表3】

【0046】
(実施例2)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(b)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(2)を調製した。この顔料分散体(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(c)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(3)を調製した。この顔料分散体(3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(a)を30部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(4)を調製した。この顔料分散体(4)を用いて、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂を2部用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:8.6部)。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(d)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(5)を調製した。この顔料分散体(5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0050】
(実施例6)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(三菱化学(株)製MCF#970、灰分0.25質量%)を10部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(6)を調製した。この顔料分散体(6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0051】
(実施例7)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(デグサジャパン社製ColorBlackS170、灰分0.02質量%)を10部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(7)を調製した。この顔料分散体(7)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0052】
(実施例8)
実施例1において、顔料誘導体(日本ルーブリゾール社製、SOLSPERSE5000)を0.5部追加した以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(8)を調製した。この顔料分散体(8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(e)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(9)を調製した。この顔料分散体(9)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(f)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(10)を調製した。この顔料分散体(10)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(g)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(11)を調製した。この顔料分散体(11)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0056】
(比較例4)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(h)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(12)を調製した。この顔料分散体(12)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0057】
(比較例5)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(i)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(13)を調製した。この顔料分散体(13)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
以上のようにして調製した実施例及び比較例の各インクについて以下の評価を行った。
【0058】
<インクのアルカリ金属類および硫黄元素の濃度>
各インクをスポイトでアルミ箔製の試料皿に滴下して乾燥させる。乾燥後の塗膜を試料皿から剥離して0.3gを精秤する。これを前述した方法で含有量を測定した。得られた各インク中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度を、下記表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
<保存安定性>
インクを30ccのガラスビンに充填し、これを60℃の恒温槽に28日間保存する高温加速試験を行った。保存後、インク中析出物の発生の有無について、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いてインクを吸引ろ過し、ろ紙上の残留物の状態を目視により観察し、以下の基準により保存安定性を評価した。
◎:残留物なし
○:わずかに残留物あり
△:残留物あり
×:多量の残留物あり
【0061】
<プリンタ連続印刷性>
インクジェットプリンタMJ510C(セイコーエプソン社製)を用いて、製造直後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクにインクを充填し、100枚連続でA4サイズの塩ビシートの全面に印字し、連続印刷試験を行った。次に、長期保存後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクに上記の保存安定性の評価を行った油性顔料インクを充填して、同様にして連続印刷試験を行った。各試験における連続印刷中のインクの吐出状態を確認し、以下の基準によりプリンタ運転性を評価した。
◎:吐出不良が全くなく、極めて安定した吐出状態である
○:わずかにサテライト滴が発生するが、安定した吐出状態である
△:サテライト滴が発生し、やや不安定な状態である
×:印字抜けやサテライト滴が多発し、不安定な状態である
【0062】
下記表5に各実施例及び比較例で使用したカーボンブラック顔料の種類と、評価結果を併せて示す。
【0063】
【表5】

【0064】
上記表5に示すように、油性顔料インクにおいて、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppm以下であるインクは、保存後でも析出物の生成がなく、連続印刷でも安定して吐出可能なインクであることが分かる。これは、インク中に析出物を発生させるナトリウムイオンおよびカリウムイオンなど陽イオンが少なく、また硫黄元素を含む陰イオンも少なく、インク全体におけるイオン性物質の量が少ないため、造塩反応による析出物発生が少ないためと考えられる。また、カーボンブラック顔料の含有量が多くても、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であれば、析出物の発生が抑えられていることが分かる。
【0065】
これに対して、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppmより多く含有する比較例のインク、および/または硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppmより多く含有する比較例のインクは、析出物が発生し、保存安定性、プリンタ連続印刷性に劣ることが分かる。このため、これらのインクは保存後に大孔径のフィルタに対しても、目詰まりが生じることが分かる。また、カーボンブラック顔料の洗浄を行い、インク中のナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度を低下させても、これらの合計濃度が100ppmを超える場合、析出物が発生することが分かる。さらに、同じカーボンブラック顔料を用い、含有量を少なくしても、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が100ppmより多いと、析出物が発生することが分かる。なお、従来の保存安定性を改善したインクでも、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計が高い場合、同様に析出物が発生し、保存安定性に劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック顔料、高分子化合物、及び有機溶媒を含む油性顔料インク組成物において、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク固形分中の濃度が100ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク固形分中の濃度が900ppm以下である油性顔料インク組成物。

【公開番号】特開2011−195597(P2011−195597A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60244(P2010−60244)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】