説明

油水分離回収方法

【課題】熱交換器の入口付近の局所的腐食の発生を防止できる油水分離回収方法の提供。
【解決手段】下記の工程を含む油水分離回収方法。水添加工程:酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体2に、水添加後に気体8−油相4−水相5の三相からなる混合流体を形成する量の水6を添加する工程。凝縮工程:水添加工程で得られた混合流体を熱交換器102で冷却し、油水混合物及び未凝縮の気体を得る工程。気液分離工程:凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体を気体部分と液体部分とに分離する工程。油水分離工程:気液分離工程で得られた液体部分を油相と水相とに分離する工程。リサイクル工程:油水分離工程で得られた水相の一部を水添加工程で添加する水の少なくとも一部としてリサイクル使用する工程。この方法は、クミルアルコールを水素添加して得られる粗クメン1の蒸留精製に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離回収方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、熱交換器の入口付近の局所的腐食の発生を防止することができるという優れた特徴を有する油水分離回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキルベンゼンハイドロパーオキサイドとアルケンをエポキシ触媒の存在下に反応させて得られる芳香族アルコールに水素を添加して、脱水触媒の存在下にて脱水し、水添触媒の存在下に水添することで粗アルキルベンゼンとし、該粗アルキルベンゼンを蒸留により精製するに際し、蒸留塔の塔頂から酸性物質及び水と油との混合蒸気を含む気体が得られる。該気体は、通常、熱交換器により冷却凝縮された後、油と水とは各々分離して回収される。該凝縮により得られる油と水との2液相には、酸性物質が各相への溶けやすさに応じた分配比により溶解する。そして、無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸のような比較的炭素数の少ない有機酸等の酸性物質は水への分配傾向が強いため、熱交換器の腐食対策として、凝縮後に得られる水相の酸性物質の濃度やpHを管理する必要がある。ところが、熱交換器で冷却する過程において、水よりも沸点の高い油およびギ酸、酢酸、プロピオン酸等の酸性物質が先に凝縮するため、冷却の過程で水が凝縮して2液相を形成し始める初期部分において、微量の水相に酸性物質が溶解し、局所的な高酸性水相状態を作り出し、熱交換器に腐食が生じるという問題があった。その対策として、例えば、特許文献1には、凝縮性ガスの熱交換器入口付近において凝縮性ガスに希釈液を添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−126605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、しばしば希釈液である水が沸点の高い油や有機酸の凝縮熱により蒸発していまい、結果として水添加後の流体は気体−油相の2液相となり、熱交換器で冷却する際に、水相が生じるため、熱交換器の腐食防止の効果が不十分であった。
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、熱交換器の入口付近の局所的腐食の発生を防止することができるという優れた特徴を有する油水分離回収方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、 酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体から水と油とを各々分離して回収する、下記の工程を含む油水分離回収方法に係るものである。
水添加工程:酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体に水を添加して、酸性物質と水と油との混合流体を得る工程であって、該混合流体が、水添加後に気体−油相−水相の三相からなる混合流体を形成する量の水を添加する工程
凝縮工程:水添加工程で得られた混合流体を熱交換器で冷却し、該混合流体に含まれる気体の少なくとも一部を凝縮して、油水混合物及び未凝縮の気体を得る工程
気液分離工程:凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体を気体部分と液体部分とに分離する工程
油水分離工程:気液分離工程で得られた液体部分を油相と水相とに分離する工程
リサイクル工程:油水分離工程で得られた水相の一部を水添加工程で添加する水の少なくとも一部としてリサイクル使用する工程
【発明の効果】
【0006】
本発明により、熱交換器の入口付近の局所的腐食の発生を防止することができるという優れた特徴を有する油水分離回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1で用いたプロセスの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の油水分離回収方法における処理対象は、酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体である。特に油の主要成分が水よりも沸点の高いものである場合に好適である。このような気体としては、例えば、クミルアルコールを水素添加して粗クメンとし、該粗クメンを蒸留により精製するに際し、蒸留塔の塔頂から得られる気体等が挙げられる。
【0009】
酸性物質としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸等が挙げられ、気体中の酸性物質の濃度として、好ましくは、0.001〜0.2vol%である。
油としては、例えば、アルキルベンゼン等が挙げられ、好ましくは、クメンであり、気体中の油の濃度として、好ましくは、30〜50vol%である。
気体中の水の濃度として、好ましくは、50〜70vol%である。
【0010】
本発明の油水分離回収方法における水添加工程は、酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体に水を添加して、酸性物質と水と油との混合流体を得る工程であって、該混合流体が、水添加後に気体−油相−水相の三相からなる混合流体を形成する量の水を添加する工程である。
【0011】
水添加工程においては、水添加後に気体−油相−水相の三相からなる流体を形成する量の水を添加する必要がある。このようにすることにより、はじめて熱交換器の入口付近の局所的腐食の発生を十分に防止することができるのである。
【0012】
本発明においては、水添加後に気体−油相−水相の三相からなる流体を形成することが必須である。すなわち、水添加工程で添加された水の少なくとも一部が水相として存在するため、腐食を引き起こす酸性物質は熱交換器よりも手前の水添加工程の混合部(通常は配管部分)にて水相に溶解される。したがって、熱交換器での局所的な高酸性水相状態(局部濃縮)の形成を回避できるのである。
【0013】
本発明においては、水添加工程から下記凝縮工程を結ぶ連絡部(一般的に配管)が腐食しないように添加水量を調整したり、水添加工程後の水相のオンラインまたは定期サンプリングによるpHや酸性物質濃度の管理も有効である。また、連絡部を交換可能な構造にして定期的に新しい材料に更新することも効果的である。さらに、連絡部のみ2系列として交互に使用すれば、熱交換器を腐食により痛めることなく連続運転が可能である。
【0014】
水添加後に気体−油相−水相の三相からなる流体を形成する量は、例えば、次のようにして、求めることができる。
すなわち、本発明では、水添加工程にて添加される水の一部は油の凝縮熱で蒸気となり、一部は凝縮で得られた油相に溶解するため、下記(式1)よりも多くの水を必要とするのである。また、蒸気温度と添加する水の温度差等による顕熱補正が計算上無視できない場合は、この熱量に相当する水の重量を補正すればよく、このような流体の熱量計算は、当業者であれば容易に実施できる。
H20>(ΔH/ΔHH20)×W+W溶解H2O+W顕熱補正(式1)
ΔHH20:水の蒸発潜熱 ΔH:油の凝縮熱
H20:水添加工程にて添加される水の重量
:酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体中の油蒸気の重量
溶解H2O:凝縮した油相に溶解する水の重量
顕熱補正:蒸気温度、添加する水の温度等による顕熱補正分に相当する水の重量
【0015】
水添加工程で用いられる水の少なくとも一部は、下記リサイクル工程のものである。こうすることにより、新しく添加する水の使用量を削減でき、かつ排水処理の負荷を軽減することができる。
【0016】
本発明の油水分離回収方法における凝縮工程は、水添加工程で得られた混合流体を熱交換器で冷却し、該混合流体に含まれる気体の少なくとも一部を凝縮して、油水混合物及び未凝縮の気体を得る工程である。熱交換器の型式としては、例えば、固定管板式やUチューブ式のような多管円筒式熱交換器、エアーフィンクーラー、直接接触式(バロメトリック式)等が挙げられる。
【0017】
本発明の油水分離回収方法における気液分離工程は、凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体を気体部分と液体部分とに分離する工程である。気液分離工程は、凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体をドラム等の容器に導き、容器の上部から気体を系外に取り出すことにより実施できる。
【0018】
本発明の油水分離回収方法における油水分離工程は、気液分離工程で得られた液体部分を油相と水相とに分離する工程である。油水分離工程は、気液分離工程の容器内の油と水の混合液か比重差により油相と水相に分離することにより実施できる。
【0019】
本発明の油水分離回収方法におけるリサイクル工程は、油水分離工程で得られた水相の一部を水添加工程で添加する水の少なくとも一部としてリサイクル使用する工程である。油水分離工程は、油水分離工程で得られた水相の一部をポンプ等を介して水添加工程へ供給することにより実施できる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0021】
[実施例1](図1参照)
酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体として、クミルアルコールを水素添加して粗クメンとし、該粗クメン(1)を蒸留により精製するに際し、蒸留塔(101)の塔頂から得られた気体(2)を用いた。酸性物質としては乳酸0.01vol%、酢酸0.15vol%、プロピオン酸0.01vol%を含み、油としてクメン44vol%を含み、水55.8vol%を含むものであった。
【0022】
水添加工程として、酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体(2)に液体状の水(6)を添加した。水添加後に気体−油相−水相の三相からなる混合流体を形成する量は前記の方法(式1)により求めた。なお用いた水(6)の一部は、リサイクル工程から供給されたものである。
【0023】
凝縮工程として、水添加工程で得られた混合流体を熱交換器(102)で冷却し、気体の少なくとも一部を凝縮して油水混合物及び未凝縮の気体を得た。熱交換器(102)として多管円筒式(シェルアンドチューブ型)のものを用いた。
【0024】
気液分離工程として、凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体を気体部分と液体部分とに分離した。そのために、凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体をドラム(103)に導き、ドラムの上部から気体(8)を系外に取り出した。
【0025】
油水分離工程として、気液分離工程で得られた液体部分を油相(4)と水相(5)とに分離した。そのために、気液分離工程のドラム内の油と水との混合液から比重差により油相と水相とに分離した。
【0026】
リサイクル工程として、油水分離工程で得られた水相の一部を水添加工程で添加する水(7)の少なくとも一部としてリサイクル使用した。そのために、油水分離工程で得られた水相の一部をポンプを介して水添加工程へ供給した。
【0027】
油水分離工程の油水分離は極めて安定的に実施された。運転停止後、凝縮工程の熱交換器を開放点検した結果、腐食の発生は認められなかった。
【0028】
[比較例1]
水添加工程として、水添加後に気体−液体−液体の三相からなる混合流体を形成する量より少ない量の水を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。油水分離工程で得られた水相中の金属イオン濃度は低く維持され、凝縮工程の熱交換器の腐食は抑制された。
【0029】
[比較例2]
水添加工程における水添加を実施しなかったこと以外は実施例1と同様に行った熱交換器の入口付近に水を注入して酸濃度を低くすることができない。
【符号の説明】
【0030】
(1) 粗クメン
(2) 酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体
(3) 蒸留塔の塔底液
(4) 油相
(5) 水相
(6) 水添加工程で添加する水
(7) パージ水
(8) 気体
(101) 蒸留塔
(102) 熱交換器
(103) ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体から水と油とを各々分離して回収する、下記の工程を含む油水分離回収方法。
水添加工程:酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体に水を添加して、酸性物質と水と油との混合流体を得る工程であって、該混合流体が、水添加後に気体−油相−水相の三相からなる混合流体を形成する量の水を添加する工程
凝縮工程:水添加工程で得られた混合流体を熱交換器で冷却し、該混合流体に含まれる気体の少なくとも一部を凝縮して、油水混合物及び未凝縮の気体を得る工程
気液分離工程:凝縮工程で得られた油水混合物及び未凝縮の気体を気体部分と液体部分とに分離する工程
油水分離工程:気液分離工程で得られた液体部分を油相と水相とに分離する工程
リサイクル工程:油水分離工程で得られた水相の一部を水添加工程で添加する水の少なくとも一部としてリサイクル使用する工程
【請求項2】
油がアルキルベンゼンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸性物質と水と油との混合蒸気を含む気体が、クミルアルコールを水素添加して粗クメンとし、該粗クメンを蒸留により精製するに際し、蒸留塔の塔頂から得られる気体である請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77046(P2012−77046A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225446(P2010−225446)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】