説明

油水分離装置とそれを備えた廃水処理システム

【課題】POME中の油分を嫌気性ラグーンの上流で予め分離・回収することで、それ以後の処理に対する負担を低減するとともに、メタンガスの発生を抑制することが可能な油水分離装置とそれを備えた廃水処理システムを提供する。
【解決手段】廃水処理システム1は、油水分離槽2と、POME供給ポンプ21及びPOME供給管15と、油水分離槽2に接続されるマイクロバブル発生装置3と、汚泥循環ポンプ4a及び好気性ラグーン53と嫌気性ラグーン52を接続する汚泥返送管4と、好気性ラグーン53の内部に設置される液膜式酸素供給装置5と、マイクロバブル発生装置3に接続される処理水返送管6及び処理水循環ポンプ6aと、POMEや処理水に対する流量センサー8a,8b及び水質センサー8c,8dと、処理水循環ポンプ6a,汚泥循環ポンプ4a及び液膜式酸素供給装置5の動作を制御するシステムコントローラー7によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーム油工場で発生する廃水から油分を分離する油水分離装置とそれを備えた廃水処理システムに係り、特に、廃水中に含まれる油分を回収してメタンガスの発生を抑制することが可能な油水分離装置とそれを備えた廃水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界最大のパーム油生産国であるマレーシアは、パーム油を生産する過程で大量の廃液(POME:palm oil mill effluent)を排出している。現在、POMEの処理には、オープンラグーン方式が利用されることが多い。これは、地表に掘った穴にPOMEを流し込み、それに含まれる有機物を地中の微生物によって分解させるというものである。以下、オープンラグーン方式について図8を用いて説明する。なお、図8は一般的なオープンラグーン方式の構成を示すブロック図である。
【0003】
図8に示すように、まず、パーム油工場50におけるパーム油の製造過程でPOMEが発生する。このとき、POMEの温度は80〜90℃であり、POME中のCOD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)の濃度はおよそ50,000ppmである。次に、高温のPOMEは冷却用溜池51に数時間貯留されて冷却される。なお、この工程ではメタンガスは発生しない。次に、POMEは深さが3〜8m程度の複数の嫌気性ラグーン52に順次送られ、合計約80日間にわたって嫌気性処理が施される。ここで、POMEに含まれる有機物が分解され、メタンガスとして大気中に放出される。また、ラグーンの水温は年間を通じて外気温と略等しい30℃程度に保たれている。
【0004】
さらに、POMEは複数の好気性ラグーン53に順次移されて合計約40日間にわたって好気性処理が施される。これらのラグーンの深さは1m程度であり、嫌気性ラグーン52に比べて浅くなっている。この処理により、CODの濃度は100ppm程度まで低下する。そして、処理済みのPOMEは、灌漑用排水溝54を通じて農園55へ散布される。なお、ラグーンの表面や底にはスラッジと呼ばれる汚泥が溜まるが、そのまま長期間放置しておくと、排水処理能力が低下してしまう。そのため、2〜3年に1度の割合で定期的に重機等を用いてスラッジを除去しなければならない。
【0005】
オープンラグーン方式は極めて簡単な構成であり、初期費用や保守費用がほとんど掛からないため、広い敷地さえあれば、容易に実施することができる。また、POMEを移送する際に使用する送水ポンプ以外にエネルギーを必要としないため、経済性に優れている。しかしながら、POMEの処理効率は高くないため、現状、ラグーンから発生した大量のメタンガスや悪臭が周辺の環境を悪化させるという問題が生じている。そこで、このような問題を解決するべく、近年、POMEを効率良く処理するシステムについて様々な研究が行われている。そして、それに関して既に幾つかの発明や考案が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「パームオイル排水処理装置」という名称で、POME中のBOD成分(Biological Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)及びSS成分(Suspended Solids:懸濁固形物)を十分に低減することが可能な装置に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、メタン発酵後のPOMEに生物処理を施す曝気槽と、この曝気槽からのPOMEに凝集剤を供給する凝集剤供給手段と、処理水と凝集汚泥を分離させる凝集汚泥処理手段と、処理水から分離された凝集汚泥を曝気槽に返送するための汚泥返送手段を備えるものである。
このような構成によれば、曝気槽での生物処理によってPOMEに含まれる有機物が分解されるため、主として溶解性のBOD成分が低減される。また、凝集剤とSS成分との反応によって生成された凝集汚泥が凝集汚泥処理手段によって処理水から分離される。その結果、分離後の処理水はSS成分が低減されるとともに、SS由来のBOD成分が低減されたものとなる。
【0007】
また、POMEを処理する技術ではないが、特許文献2には、「活性汚泥処理装置及び返送汚泥のコントロール方法」という名称で、原水中の有機物濃度が変動した場合でも活性汚泥処理を安定して行うことが可能な方法及びそれに適した装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明である活性汚泥処理装置は、曝気槽と、沈殿槽と、溶存酸素飽和手段と、曝気槽から活性汚泥の一部を採取する手段と、この採取した活性汚泥と溶存酸素飽和原水との混合物を調整する手段と、この混合物中のDO(Dissolved Oxygen:溶存酸素)濃度の変化量を測定する手段と、DO濃度の変化量の測定結果に基づいて排水原水中の有機物濃度に応じた返送汚泥量を推定する手段と、この推定値に基づいて沈殿槽から曝気槽へ汚泥を返送する手段を備えるものである。
このような構造によれば、曝気槽中の汚泥量を処理対象物の濃度に応じて保持することが可能である。従って、原水中の有機物濃度が変動した場合でも安定した活性汚泥処理を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−83745号公報
【特許文献2】特開平11−226590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術である特許文献1に開示された発明は、メタン発酵後のPOMEに対して処理を行う構成となっているため、POME中のBOD成分やSS成分を低減することはできてもメタンガスの発生を抑制することはできないという課題があった。また、凝集剤が必要であるため、ランニングコストが高くなるという課題もあった。さらに、発生汚泥量も増大するという課題もあった。
【0010】
また、特許文献2に開示された発明においては、曝気槽中の活性汚泥の濃度をコントロールすることで原水中の有機物の処理を効率良く行うことができるものの、原水に含まれる油分を曝気槽の上流側で予め分離・回収する構成となっていないため、メタンガスの発生を抑制できないという課題があった。
【0011】
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたものであり、POMEの原水中に含まれる油分を嫌気性ラグーンの上流で予め分離・回収することにより、それ以後の処理に対する負担を低減するとともに、メタンガスの発生を抑制することが可能な油水分離装置とそれを備えた廃水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、含油廃水から油分を分離させる油水分離装置であって、地面に立設される円筒型の油水分離槽と、この油水分離槽の円筒軸上に,開口部が上方に向くように設置される油分捕集カップと、この油分捕集カップで捕集された油分を油水分離槽の外へ排出する油分排出管と、この油分排出管に設置される排出ポンプと、含油廃水から油分が分離された中間処理水を油水分離槽の外へ排出する中間処理水排出管と、油水分離槽の下部に接続される気泡供給管と、この気泡供給管を介して油水分離槽の内部に直径20〜50μmのマイクロバブルを供給するマイクロバブル発生手段と、気泡供給管の上方に接続されたエジェクタノズルを介して油水分離槽の内部に直径0.5〜5mmの気泡とともに含油廃水を供給する含油廃水供給管と、この含油廃水供給管に設置される含油廃水供給ポンプと、エジェクタノズルに気体を供給する気体自吸管と、を備え、気泡供給管及び含油廃水供給管は先端が油水分離槽の周壁に対して接線をなすように接続されたことを特徴とするものである。
【0013】
このような構造の油水分離装置においては、気泡供給管から高圧の処理水が噴射されるとともに,含油廃水供給管から高圧の含油廃水が噴射されることにより、油水分離槽内に,その円筒軸を中心とする旋回流が発生する。また、含油廃水中の油分は気泡供給管から供給される直径20〜50μmのマイクロバブルの表面に油滴となって付着し、このマイクロバブルは浮上して含油廃水供給から供給される直径0.5〜5mmの気泡の表面に付着する。これにより、マイクロバブルに付着した油滴の浮上速度が増加する。さらに、この気泡やマイクロバブルは、水よりも比重が小さいため、上述の旋回流の作用により、その回転中心に集まり、油水分離槽の円筒軸に沿って浮上する。そして、油滴が表面に付着したマイクロバブルは、油分捕集カップの外面に沿って液面まで浮上し、油分捕集カップの内部に流れ込んだ後、油分排出管を通って油水分離槽の外部へ排出される。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の油水分離装置において、側面に複数の孔が設けられ,中心軸が油水分離槽の円筒軸に一致するように油分捕集カップの下方に設置される油分誘導管を備えたことを特徴とするものである。
このような構造の油水分離装置においては、旋回流の作用により油水分離槽の円筒軸上に集まった気泡やマイクロバブルが油分誘導管の内部へ、側面の孔から流入した後、油分誘導管内を浮上する。すなわち、本発明は請求項1記載の発明の作用に加えて、油分誘導管はマイクロバブルを介して油滴が付着した気泡が旋回流等の外乱を受けて崩壊してしまい、浮上速度が減少したり、油滴が気泡から脱落したりするという事態を防ぎつつ、気泡やマイクロバブルが油水分離槽の円筒軸に沿って浮上するように誘導するという作用を有する。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の油水分離装置において、油水分離槽の円筒軸を中心とする含油廃水による旋回流を発生可能に油水分離槽内の底部に設置される撹拌手段を備えたことを特徴とするものである。
このような構造の油水分離装置においては、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、油水分離槽の内部へ噴射される含油廃水や処理水の勢いが弱い場合でも撹拌手段によって油水分離槽の円筒軸を中心とする旋回流が発生するという作用を有する。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の油水分離装置において、中間処理水排出管は、少なくとも一部が伸縮自在に形成されるとともに、前記タンクに接続される基端より上方に設けられる排出口が高さを変更可能に設置されることを特徴とするものである。
このような構造の油水分離装置においては、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、中間処理水排出管の排出口の高さを変更することにより、中間処理水の排出量が調整されるという作用を有する。
【0017】
請求項5記載の発明である廃水処理システムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の油水分離装置と、この油水分離装置の下流に設置される嫌気槽と、この嫌気槽の下流に設置される好気槽と、この好気槽内の汚泥の一部を嫌気槽へ返送する汚泥返送管と、この汚泥返送管に設置される汚泥循環ポンプと、好気槽内へ酸素を供給する酸素供給装置と、好気槽から排出された処理水の一部をマイクロバブル発生手段へ返送する処理水返送管と、この処理水返送管に設置される処理水循環ポンプと、油水分離槽に供給される含油廃水の流量及び水質をそれぞれ検出する流量センサー及び水質センサーと、流量センサー及び水質センサーの検出値に基づいてマイクロバブル発生手段,汚泥循環ポンプ及び酸素供給装置の動作をそれぞれ制御するシステムコントローラーと、を備え、水質センサーは含油廃水中のBOD,COD及びDOの濃度のうち少なくともいずれか1つを検出し、マイクロバブル発生手段はシステムコントローラーの指令に従って,マイクロバブルの発生量を増減し、汚泥循環ポンプはシステムコントローラーの指令に従って,嫌気槽への汚泥返送量を増減し、酸素供給装置はシステムコントローラーの指令に従って,好気槽内への酸素供給量を増減することを特徴とするものである。
このように構成される廃水処理システムは、メタンガスの発生源である油分や固形分(スラッジ)が油水分離槽や嫌気槽において短時間に効率良く分離・回収されるという作用を有する。また、含油廃水の水質や流量に応じて、油水分離装置及び好気槽の処理能力やシステムの稼働に必要なエネルギーが調節されるという作用を有する。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の廃水処理システムにおいて、流量センサーは、油水分離装置に供給される含油廃水に代えてあるいは加えて好気槽から排出される処理水の流量を検出することを特徴とするものである。
このように構成される廃水処理システムにおいては、請求項5に記載の発明の作用に加えて、油水分離装置に返送される処理水の量を増減させることにより好気槽から排出される処理水の流量が適切に調節されるという作用を有する。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載の廃水処理システムにおいて、水質センサーは、油水分離槽に供給される含油廃水の水質に代えてあるいは加えて好気槽の水質を検出することを特徴とするものである。
このように構成される廃水処理システムでは、請求項5又は請求項6に記載の発明の作用に加えて、嫌気槽及び好気槽の汚泥の量が所望の範囲内に調節されるという作用を有する。これにより、嫌気槽及び好気槽の内部がそれぞれ嫌気性微生物及び好気性微生物の活動に適した状態に維持される。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の廃水処理システムにおいて、酸素供給装置は、酸素の気泡を発生する散気装置と、この散気装置から供給される気泡の流路となる筒状体と、この筒状体内の上方に設置されて流路を区切る流路板と、開口部を下方に向け,筒状体の上部を覆うように設置される椀形の気体貯留室と、この気体貯留室の上部を覆うように設置される傘状部と,この傘状部が下端に取り付けられた筒状の接続部からなる気泡集積部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0021】
上記構造の酸素供給装置においては、散気装置から発生した酸素の気泡が周囲の液体を伴って筒状体内を上昇し、気体貯留室内において液泡に変化するとともに、筒状体の上端から放出された液泡が集団となって液泡塊になる。そして、液泡塊の水膜に、水深に応じた水圧を受ける気体が接触した場合、気体中のガス成分が分圧に応じて水膜に吸収されるとともに、水膜内に余分に溶解していたガスが空間へ放出されるという作用を有する。また、液泡塊は端から水霧(ミスト)となって崩壊するため、気体貯留室内では、分圧に応じて気体の水霧中への吸収が促進されるとともに、水霧中に溶存するガスの放出が分圧に応じて促進される。その結果、気体貯留室内で破裂した液泡塊中の気体は、気体貯留室の下部から外部へ放出され、新たな気泡となって上昇して気泡集積部によって捕集される。さらに、液泡塊の水膜を形成していた水は、気体貯留室の下部から排出される。そして、気体貯留室の下部から放出された気体によって生成された新たな気泡は周囲の液体を伴って気泡集積部の開口部内を上昇するという作用を有する。従って、このような酸素供給装置が好気槽の内部に設置された本発明の廃水処理システムにおいては、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、酸素供給装置を作動させることにより好気槽内のDO濃度が容易に高まるという作用を有する。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の請求項1記載の油水分離装置においては、対体積表面積が大きく,油分の吸着性を有する直径20〜50μmのマイクロバブルを、浮上効果の大きい直径0.5〜5mmの気泡に付着させることにより、油分の浮上速度が高まる結果、油分の分離・回収の効率が向上するという効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項2記載の油水分離装置においては、請求項1記載の発明の効果に加えて、含油廃水中の油分を効率良く分離・回収できるという効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項3記載の油水分離装置においては、請求項1又は請求項2に記載の効果に加えて、含油廃水や処理水の供給量が少ない場合でも旋回流が安定して発生するため、処理効率が低下しないという効果を奏する。
【0025】
本発明の請求項4記載の油水分離装置においては、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明の効果に加え、中間処理水の排出量を調節することにより、含油廃水中の油分の量に応じた適切な処理時間を設定することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明の請求項5記載の廃水処理システムにおいては、温室効果ガスであるメタンガスの発生を抑制することができる。また、油水分離装置に供給される含油廃水の流量や水質が変動した場合でも、油分の分離及び好気処理を効率的に行うことができる。さらに、システムの稼働に必要なエネルギーを節約することが可能である。
【0027】
本発明の請求項6記載の廃水処理システムにおいては、請求項5に記載の発明の効果に加えて、含油廃水の供給量が変動した場合でも嫌気槽や好気槽に貯留される水量が所定の範囲内に保たれるため、各槽に、その処理能力を超える過剰な負荷が掛かるおそれがないという効果を奏する。
【0028】
本発明の請求項7記載の廃水処理システムにおいては、請求項5又は請求項6に記載の発明の効果に加えて、嫌気槽内での嫌気処理及び好気槽内での好気処理がそれぞれ適切に行われるという効果を奏する。
【0029】
本発明の請求項8記載の廃水処理システムにおいては、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、好気槽中のDO濃度が許容範囲の下限を下回っている場合でも短時間でDO濃度を許容範囲内の値に戻し、好気処理を効率良く行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る廃水処理システムの実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る油水分離装置の実施例を模式的に示した正面図及び平面図である。
【図3】(a)乃至(c)はそれぞれ本実施例の廃水処理システムを構成するマイクロバブル発生装置の断面図、正面図及び斜視図である。
【図4】(a)及び(b)はそれぞれ図2(a)に示した油水分離槽内を浮上するマイクロバブル及び気泡の状態を示す模式図である。
【図5】本実施例の廃水処理システムを構成する液膜式酸素供給装置の外観図である。
【図6】(a)及び(b)はそれぞれ図5に示した液膜式酸素供給装置を構成する曝気ユニットの外観図及び断面図である。
【図7】(a)乃至(c)は図6に示した曝気ユニットの気体貯留室内で生成される液泡塊の模式図である。
【図8】一般的なオープンラグーン方式の構成を示すブロック図である。
【図9】油水分離実験に使用した装置の構成を示す模式図である。
【図10】(a)及び(b)はエマルジョンの吸光度及び分離率の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態に係る油水分離装置とそれを備えた廃水処理システムの実施例について図1乃至図7を参照しながら説明する。なお、嫌気性ラグーン及び好気性ラグーンはそれぞれ嫌気槽及び好気槽の一形態と考えられるため、嫌気性ラグーン及び好気性ラグーンをそれぞれ嫌気槽及び好気槽に置き換えた場合についても、以下の説明は同様に成り立つ。すなわち、本発明の技術範囲には、嫌気性ラグーン及び好気性ラグーンをそれぞれ嫌気槽及び好気槽に置き換えたものも含まれる。
【実施例】
【0032】
本実施例の廃水処理システムの構成について図1を用いて説明する(特に、請求項5乃至請求項7に対応)。なお、図8に示した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
図1に示すように、廃水処理システム1は、パーム油工場50から含油廃水槽61に送られて遠心分離器により固形分を除去されたPOMEから油分を回収するものである。従って、廃水処理システム1の油水分離槽2には含油廃水槽61からPOME供給管15を介してPOMEが供給される。そして、廃水処理システム1は油水分離槽2の他、嫌気性ラグーン52、好気性ラグーン53、マイクロバブル発生装置3及び液膜式酸素供給装置5などによって構成されている。なお、POME供給管15にはPOME供給ポンプ21が設置されている。
【0033】
油水分離槽2の下流には嫌気性ラグーン52が設置されている。また、油水分離槽2の内部に気泡供給管14を介して微細な気泡(以下、マイクロバブルという。)を供給するマイクロバブル発生装置3と、好気性ラグーン53から汚泥の一部を嫌気性ラグーン52に返送する汚泥返送管4と、この汚泥返送管4に介装される汚泥循環ポンプ4aと、好気性ラグーン53の内部に設置される液膜式酸素供給装置5と、好気性ラグーン53から排出された処理水の一部をマイクロバブル発生装置3へ返送する処理水返送管6と、この処理水返送管6に介装される処理水循環ポンプ6aが設置されている。さらに、油水分離槽2に供給されるPOMEの流量及び水質をそれぞれ検出する流量センサー8a及び水質センサー8cと、好気性ラグーン53から排出される処理水の流量を検出する流量センサー8bと、好気性ラグーン53の水質を検出する水質センサー8dと、処理水循環ポンプ6a,汚泥循環ポンプ4a及び液膜式酸素供給装置5の動作を制御するシステムコントローラー7が設置されている。
【0034】
システムコントローラー7による処理水循環ポンプ6a,汚泥循環ポンプ4a及び液膜式酸素供給装置5の制御は、流量センサー8a,8bと水質センサー8c,8dの検出値に基づいて行われる。例えば、流量センサー8aによって検出されるPOMEの流量、又は水質センサー8cによって検出されるPOME中のBOD及びCODの濃度が許容範囲の上限を上回っている場合、システムコントローラー7は処理水循環ポンプ6aに指令信号7aを送って,油水分離槽2への処理水の返送量が増加するようにその動作を制御する。その結果、マイクロバブル発生装置3から油水分離槽2に供給されるマイクロバブルの量が増加して、油水分離槽2の処理能力が高まる。一方、流量センサー8a及び水質センサー8cの検出値が許容範囲の下限を下回っている場合、システムコントローラー7は処理水循環ポンプ6aに指令信号7aを送って,油水分離槽2への処理水の返送量が減少するようにその動作を制御する。これにより、処理水循環ポンプ6aの稼働に必要なエネルギーを節約することができる。
【0035】
また、水質センサー8dによって検出される好気性ラグーン53中のBOD及びCODの濃度が許容範囲の上限を上回っている場合、システムコントローラー7は汚泥循環ポンプ4aに指令信号7bを送って,嫌気性ラグーン52への汚泥の返送量が増加するようにその動作を制御する。一方、好気性ラグーン53中のBOD及びCODの濃度が許容範囲の下限を下回っている場合、システムコントローラー7は汚泥循環ポンプ4aに指令信号7bを送って,嫌気性ラグーン52への汚泥の返送量が減少するようにその動作を制御する。これにより、好気性ラグーン53内が常に好気性微生物の活動に適した状態に維持される。
【0036】
さらに、水質センサー8dによって検出される好気性ラグーン53中のDO濃度が許容範囲の下限を下回っている場合、システムコントローラー7は液膜式酸素供給装置5に指令信号7cを送って,好気性ラグーン53への酸素供給量が増加するようにその動作を制御する。一方、好気性ラグーン53中のDO濃度が許容範囲の上限を上回っている場合、システムコントローラー7は液膜式酸素供給装置5に指令信号7cを送って,好気性ラグーン53への酸素供給量が減少するようにその動作を制御する。これにより、液膜式酸素供給装置5の稼働に必要なエネルギーを節約することができる。
【0037】
加えて、流量センサー8bによって検出される処理水の量に応じて、システムコントローラー7は処理水循環ポンプ6aに指令信号7aを送って,その動作を制御し、油水分離槽2への処理水の返送量を増加若しくは減少させる。これにより、好気性ラグーン53から排出される処理水の量が調節される。
【0038】
このように、廃水処理システム1によれば、油水分離槽2に対するPOMEの流量や水質が変動した場合でも、システムの稼働に必要なエネルギーを最小限に抑えつつ、油分の分離及び好気処理を効率的に行うことができる。また、油水分離槽2に供給されるPOMEの量が変動した場合でも好気性ラグーン53からの処理水の排出量を調節することで、嫌気性ラグーン52や好気性ラグーン53に貯留される水量が所定の範囲内に保たれる。これにより、嫌気性ラグーン52や好気性ラグーン53に対して、その処理能力を超える過剰な負荷が掛からないようにすることができる。また、メタンガスの発生源である油分や固形分(スラッジ)が油水分離槽2や嫌気性ラグーン52において短時間で効率良く分離・回収される。これにより、温室効果ガスであるメタンガスの発生を抑制することができる。なお、回収された油分はパーム油工場50のプロセスに戻されて、粗パーム油の原料となり、固形分は脱水処理された後、農園55で肥料として用いられる。また、POMEから油分や固形分が除去された処理水の大半はパーム油工場50のプロセスで再利用され、残りは農園55で使用される。
【0039】
次に、油水分離装置について図2乃至図4を用いて説明する(特に、請求項1乃至請求項4に対応)。図2(a)及び図2(b)はそれぞれ油水分離槽を模式的に示した正面図及び平面図である。なお、図2では油分捕集カップと油分誘導管のみを断面表示としている。また、図2(b)では油分排出管及び油分排出ポンプの図示を省略する。
図2(a)に示すように、油水分離装置はPOMEに含まれる油分と水分を分離するものであり、上方に空間が形成された状態でPOMEを貯留する油水分離槽2に、マイクロバブル発生装置3と処理水循環ポンプ6aからなるマイクロバブル発生手段が接続された構造となっている。なお、油水分離槽2は直径50cm、高さ2〜3m、厚さ数ミリの円筒形であり、地面に埋設された状態、あるいは下部に脚をつけて地面より高くした状態で使用される。また、回収する油分を再利用するため、油水分離槽2はステンレス製であることが望ましい。
【0040】
油水分離槽2は、その円筒軸上に開口部が上方に向くように設置されて底に孔9aを有する油分捕集カップ9と、側面に複数の孔10aを有し,その中心軸が油水分離槽2の円筒軸に略一致するように油分回収カップ9の下方に設置される油分誘導管10と、上記円筒軸に回転軸が略一致するように油分誘導管10の下方に設置される撹拌羽根11と、この撹拌羽根11を回転駆動するモーター12を備えている。すなわち、撹拌羽根11とモーター12は油水分離槽2の円筒軸を中心とするPOMEによる旋回流を発生させる撹拌手段を構成している。
【0041】
油水分離槽2の下部には、上方へ向かって開口した先端13aの近傍に排出口13bを有する中間処理水排出管13の基端13cと、気泡供給管14の先端14aが接続されている。そして、気泡供給管14の基端14bにはマイクロバブル発生装置3が接続されており、マイクロバブル発生装置3には好気性ラグーン53から排出された処理水の一部が処理水返送管6を介して返送されるとともに、気体供給管16を介して空気が供給される。また、処理水排出管13の排出口13bの下方には水位調整器17が設けられている。なお、水位調整器17とは、中間処理水排出管13の一部を伸縮することにより排出口13bの高さを調節可能にしたものである。また、POME供給管15の先端15aはエジェクタノズルとなっており、その近傍に設けられた縮径部分には、上端18aが空中に開口した気体自吸管18の下端18bが接続されている。
【0042】
油分捕集カップ9には、内部に溜まった油分を油水分離槽2の外へ排出するための油分排出管19が挿設されている。また、油分排出管19には油分排出ポンプ20が設置され、POME供給管15にはPOME供給ポンプ21が設置されている。そして、POME供給管15は気泡供給管14の先端14aの上方で油水分離槽2に接続されている。なお、図2(b)に示すようにPOME供給管15は先端15aが油水分離槽2の周壁2aに対して接線をなすように取り付けられており、気泡供給管14も同様に先端14aが油水分離槽2の周壁2aに対して接線をなすように取り付けられている。従って、気泡供給管14及びPOME供給管15から油水分離槽2の内部へマイクロバブルや気泡を伴って高圧で噴射される処理水やPOMEにより、撹拌羽根11が作動していない場合でも油水分離槽2の円筒軸を中心とする旋回流Aが形成される。
【0043】
図3(a)乃至図3(c)に示すように、マイクロバブル発生装置3は、略球殻状をなす器体22に対し、大円の接線方向に気液導入管22aが接続されるとともに,器体22の球面と大円の中心軸の交点の一方に気液噴出孔22bが設けられ、流路断面積が緩やかに拡大する渦巻き状のデイフューザ部23が気液噴出孔22bに接続された構造となっている。そして、気液導入管22aには処理水返送管6及び気体供給管16が接続され、ディフューザ部23には気泡供給管14が接続されている。
【0044】
マイクロバブル発生装置3において、処理水循環ポンプ6aにより圧力をかけられて処理水返送管6から供給される処理水が、気体供給管16から供給される空気と混合された状態で気液導入管22aから器体22の内部に供給されると、図3(a)に示すように互いに逆方向へ向かう2種類の旋回流B,Bが発生する。このとき、比重の差に起因して液体には遠心力が働き、気体には向心力が働くため、処理水中に溶存している気体が旋回流B,Bの中心軸に集まり、負圧の気体軸24が形成される。また、旋回流Bは気液噴出孔22bの孔径まで収束して器体22の内周面22cに接触した後、反転して気液噴出孔22bの孔径の幅で反転旋回流Cとなる。そして、気液噴出孔22bの部分で合流した反転旋回流Cと旋回流Bはディフューザ部23の内壁部23aでせん断され、微細な気泡が生成される。その後、この気泡はディフューザ部23を通過する際に、急激な圧力変動に起因する衝撃圧を受けて崩壊し、さらに小さくなってマイクロバブルとなる。
【0045】
POME供給管15から油水分離槽2に供給されるPOMEには、油分がエマルジョンの状態で含まれており、油分を水と分離することは容易でない。これに対し、POME中にマイクロバブルが存在すると、油分は水との反発により油滴となってマイクロバブルの表面に吸着されることが知られている。従って、油水分離装置において、油水分離槽2にPOME供給管15からPOMEを供給するとともに、マイクロバブル発生装置3を作動させて、直径20〜50μmのマイクロバブル25を気泡供給管14から油水分離槽2に供給すると、POME中の油分はマイクロバブル25の表面に油滴26となって付着する(図4(a)参照)。また、前述したようにPOME供給管15の先端15aはエジェクタノズルとなっているため、油水分離槽2に供給されるPOMEは直径0.5〜5mmの気泡を含んでいる。従って、油水分離槽2の内部を浮上する上述のマイクロバブル25は、表面に油滴26が付着した状態のまま、気泡27の表面に吸着される(図4(b)参照)。これにより、マイクロバブル25は浮上速度が増加する。
【0046】
このような構造の油水分離装置においては、水よりも比重が小さい気泡27やマイクロバブル25が、上述の旋回流の作用によって、その回転中心に集まり、側面の孔10aから油分誘導管10の内部へ流入した後、油水分離槽2の円筒軸に沿って浮上する。このとき、油分誘導管10はマイクロバブル25を介して油滴26が付着した気泡27が旋回流等の外乱を受けて崩壊してしまい、浮上速度が減少したり、油滴26が気泡27から脱落したりするという事態を防いで、気泡27やマイクロバブル25を油水分離槽2の円筒軸に沿って確実に浮上するように誘導するという作用を有する。そして、油滴26が表面に付着したマイクロバブル25は、油分捕集カップ9の底に設けられた孔9aから、その内部へ導入され、また、孔9aから導入されなかったマイクロバブル25は油分捕集カップ9の外面に沿って液面まで浮上し、油分捕集カップ9の内部に流れ込んだ後、油分排出管19を通って油水分離槽2の外部へ排出される。
なお、本実施例では、油分補集カップ9の底に孔9aを設けているが、孔9aは必ずしも設けなくてもよい。ただし、孔9aを設けると、上述のとおり、マイクロバブル25の一部が孔9aからも油分補集カップ9に導入されることになり、油水分離作用を促進する効果が発現するので好ましい。
【0047】
また、モーター12に駆動されて回転する撹拌羽根11は、油水分離槽2の内部へ噴射されるPOMEや処理水の勢いが弱い場合でも油水分離槽2の円筒軸を中心とする旋回流を発生させるという作用を有する。さらに、水位調整器17により排出口13bの高さを変更すると、中間処理水排出管13から排出される中間処理水の量が調節されるという作用を有する。
【0048】
以上説明したように、油水分離槽2によれば、対体積表面積が大きく,油分の吸着性を有する直径20〜50μmのマイクロバブル25を、浮上効果の大きい直径0.5〜5mmの気泡27に付着させることで、油分を効率良くマイクロバブル25に付着させるとともに、その浮上速度を高めることができる。これにより、油分の分離・回収の効率が向上する。加えて、マイクロバブル25や気泡27が安定した状態で油分誘導管10内を浮上するとともに、POMEや処理水の油水分離槽2への供給量に係らず、油水分離槽2の円筒軸を中心とする旋回流が常に発生するため、油分を分離・回収する処理効率の低下を防ぐことができる。さらに、POME中の油分が増加したときは、水位調整器17を操作して中間処理水の排出量を減少させ、油水分離槽2におけるPOMEの処理時間を長く設定することにより、油分の除去効果を高めることができる。逆に、POME中の油分が減少したときには、水位調整器17を操作して中間処理水の排出量を増加させ、油水分離槽2におけるPOMEの処理時間を短く設定することにより、油分の除去に要する時間を短縮させることができる。
【0049】
次に、液膜式酸素供給装置5について図5乃至図7を用いて説明する(特に、請求項8に対応)。なお、図6(b)では曝気ユニット28のみを断面表示としている。また、図7(b)及び図7(c)は液膜式酸素供給装置を構成する曝気ユニットの気体貯留室内において、高速度カメラで撮影された液泡塊が破裂する様子を模式的に表した図である。
図5に示すように、液膜式酸素供給装置5は複数の曝気ユニット28が多段に接続され、最下部の曝気ユニット28の下方に散気装置29が設置された構造となっている。なお、図5には3つの曝気ユニット28が示されているが、曝気ユニット28の数はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0050】
図6(a)及び図6(b)に示すように、曝気ユニット28は、散気装置29によって下方から送り込まれた酸素が気泡となって内部を上昇可能に形成される筒状の気泡流路部30と、気泡流路部30の内部の上方に設置されて気泡の流路を複数に区切る流路板31と、開口部を下方に向け,気泡流路部30の上部を覆うように設置される椀形の気体貯留室32と、この気体貯留室32の上部を覆うように設置される傘状部33aと,傘状部33aが下端に取り付けられ,他の気泡流路部30の下端を接続可能に形成される筒状の接続部33bからなる気泡集積部33を備えるものである。また、気泡流路部30の下端は、取付具34を介して散気装置29を装着可能に形成されており、気体貯留室32の側面には、複数の孔32aが設けられている。そして、気泡流路部30の上端30aは、その水平レベルが孔32aよりも上方となるように、気体貯留室32の内部に配置されている。なお、本願明細書において「筒状」とは完全な「筒状」のみならず「略筒状」も含む概念であり、「椀型」とは完全な「椀型」のみならず、「略椀型」も含む概念である。
【0051】
図6(b)に示すように、散気装置29から発生した気泡35は周囲の液体(好気性ラグーン53に貯留されている中間処理水)を伴って気泡流路部30内を上昇し、気体貯留室32内において液泡に変化する。そして、上端30aから放出された液泡は、集団となって液泡塊36が生成される。このとき、図7(a)に示すように、液泡塊36の水膜fに、水深に応じた水圧を受ける気体Xが接触した場合、気体X中のガス成分が分圧に応じて水膜fに吸収されるとともに、水膜f内に余分に溶解していたガスgが空間へ放出される。すなわち、水膜f内に酸素ガスが不足している場合には、酸素ガスが水膜f内に吸収され、水膜f内に窒素ガスや流化水素ガスが余分に溶存している場合には、それらのガスが水膜f内から放出される。
【0052】
図7(b)及び図7(c)に示すように、液泡塊36は端から水霧(ミスト)mとなって崩壊する。その結果、気体貯留室32内において、分圧に応じて気体Xの水霧m中への吸収が促進されるとともに、水霧m中に溶存するガスgの放出が分圧に応じて促進される。これにより、気体貯留室32内で破裂した液泡塊36中の気体Xは、孔32aから気体貯留室32の外部へ放出され、新たな気泡35となって上昇して気泡集積部33によって捕集される。そして、液泡塊36の水膜fを形成していた水は、気体貯留室32の下部から排出される。また、孔32aから放出された気体Xによって生成された新たな気泡35は周囲の液体を伴って気泡集積部33の開口部33a内を上昇し、一段上の曝気ユニット28の気泡流路部30へ供給される。そして、液膜式酸素供給装置5においては、この一連の現象が曝気ユニット28の数だけ繰り返される。
【0053】
このような構造の液膜式酸素供給装置5においては、溶存酸素を豊富に含んだ多量の水が容易に生成される。そして、廃水処理システム1においては、好気性ラグーン53の内部に液膜式酸素供給装置5を設置していることから、液膜式酸素供給装置5を作動させることによりDO濃度が容易に高まるという作用を有する。従って、廃水処理システム1によれば、好気性ラグーン53中のDO濃度が許容範囲の下限を下回っている場合でも短時間でDO濃度を許容範囲内の値に戻し、好気処理を効率良く行うことができる。
【0054】
なお、本発明の廃水処理システムを構成するマイクロバブル発生装置は、油水分離槽の内部へ直径20〜50μmのマイクロバブルを供給可能であれば、必ずしも図3に示すような構造でなくとも良い。また、酸素供給装置として液膜式酸素供給装置以外のものを使用することもできる。さらに、液膜式酸素供給装置の構造も図5に示すものに限らず、適宜変更可能である。加えて、油水分離槽は必ずしも地中に埋設されていなくとも良い。
【0055】
次に、食料用のパームオイルより生成したエマルジョンからマイクロバブルを用いて油分を分離する実験を行った結果について図9及び図10を用いて説明する。
図9は油水分離実験に使用した装置の構成を示す模式図である。また、図10(a)及び図10(b)はエマルジョンの吸光度及び分離率の時間的変化を示すグラフである。なお、吸光度とは、物体を透過した光がどの程度弱まるかを示す無次元量であり、図10(a)の縦軸は油層の下方に形成される水層の吸光度を表している。従って、油水分離が進行した状態ほど、吸光度が小さい値となる。また、図10(b)の縦軸は油層から抽出したサンプルに含まれる油分の量を測定し、初期値と比較した結果を示している。
【0056】
図9に示すように、実験に用いた装置は、処理水60で満たされた水槽56と、処理水供給管57及び処理水返送管58を介して水槽56に接続されて直径20〜50μmのマイクロバブルを発生するマイクロバブル発生装置59によって構成されている。なお、マイクロバブル発生装置59に気体を供給するための管については図示を省略する。また、処理水60には家庭用のミキサーで作成したエマルジョン(オイル濃度は0.1g/L)を使用した。
【0057】
図10(a)及び図10(b)に示すように、時間の経過に伴って、処理水60の吸光度が下がるとともに、分離率が上がっていることが分かる。これは、マイクロバブルによってエマルジョンの油水分離が促進されたことを示している。なお、油水分離に長い時間を要しているが、これは、処理水供給管57の取水口57aと処理水返送管58の吐出口58aの設置箇所が近いため、処理水返送管58から吐出されたマイクロバブルの一部が油水分離作用を発揮することなく、再び処理水供給管57に取り込まれてしまうことや、処理水60の温度が低下により粘度が変化したことが原因と考えられる。これに対し、本発明の油水分離装置では、撹拌手段やエジェクタ等の機能を有しており、また、パーム油の濃度と温度が高いことから、本実験よりも格段に処理効率が高くなるものと予想される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
請求項1乃至請求項4に記載の油水分離装置及び請求項5乃至請求項8に記載の廃水処理システムは、POMEに限らず、各種の含油廃水から油分を回収する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…廃水処理システム 2…油水分離槽 2a…周壁 3…マイクロバブル発生装置 4…汚泥返送管 4a…汚泥循環ポンプ 5…液膜式酸素供給装置 6…処理水返送管 6a…処理水循環ポンプ 7…システムコントローラー 7a〜7c…指令信号 8a,8b…流量センサー 8c,8d…水質センサー 9…油分捕集カップ 9a…孔 10…油分誘導管 10a…孔 11…撹拌羽根 12…モーター 13…中間処理水排出管 13a…先端 13b…排出口 13c…基端 14…気泡供給管 14a…先端 14b…基端 15…POME供給管 15a…先端 16…気体供給管 17…水位調整器 18…気体自吸管 18a…上端 18b…下端 19…油分排出管 20…油分排出ポンプ 21…POME供給ポンプ 22…器体 22a…気液導入管 22b…気液噴出孔 22c…内周面 23…ディフューザ部 23a…内壁部 24…気体軸 25…マイクロバブル 26…油滴 27…気泡 28…曝気ユニット 29…散気装置 30…気泡流路部 30a…上端 31…流路板 32…気体貯留室 32a…孔 33…気泡集積部 33a…傘状部 33b…接続部 34…取付具 35…気泡 36…液泡塊 50…パーム油工場 51…冷却用溜池 52…嫌気性ラグーン 53…好気性ラグーン 54…灌漑用排水溝 55…農園 56…水槽 57…処理水供給管 57a…取水口 58…処理水返送管 58a…吐出口 59…マイクロバブル発生装置 60…処理水 61…含油廃水槽 A…旋回流 B,B…旋回流 C…反転旋回流 X…気体 f…水膜 g…ガス m…水霧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油廃水から油分を分離させる油水分離装置であって、
地面に立設される円筒形の油水分離槽と、
この油水分離槽の円筒軸上に,開口部が上方に向くように設置される油分捕集カップと、
この油分捕集カップで捕集された前記油分を前記油水分離槽の外へ排出する油分排出管と、
この油分排出管に設置される油分排出ポンプと、
前記含油廃水から前記油分が分離された中間処理水を前記油水分離槽の外へ排出する中間処理水排出管と、
前記油水分離槽の下部に接続される気泡供給管と、
この気泡供給管を介して前記油水分離槽の内部に直径20〜50μmのマイクロバブルを供給するマイクロバブル発生手段と、
前記気泡供給管の上方に接続されたエジェクタノズルを介して前記油水分離槽の内部に直径0.5〜5mmの気泡とともに前記含油廃水を供給する含油廃水供給管と、
この含油廃水供給管に設置される含油廃水供給ポンプと、
前記エジェクタノズルに気体を供給する気体自吸管と、
を備え、
前記気泡供給管及び前記含油廃水供給管は先端が前記油水分離槽の周壁に対して接線をなすように接続されたことを特徴とする油水分離装置。
【請求項2】
側面に複数の孔が設けられ,中心軸が前記油水分離槽の円筒軸に一致するように前記油分捕集カップの下方に設置される油分誘導管を備えたことを特徴とする請求項1記載の油水分離装置。
【請求項3】
前記油水分離槽の円筒軸を中心とする前記含油廃水による旋回流を発生可能に前記油水分離槽内の底部に設置される撹拌手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油水分離装置。
【請求項4】
前記中間処理水排出管は、少なくとも一部が伸縮自在に形成されるとともに、前記タンクに接続される基端より上方に設けられる排出口が高さを変更可能に設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の油水分離装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の油水分離装置と、
この油水分離装置の下流に設置される嫌気槽と、
この嫌気槽の下流に設置される好気槽と、
この好気槽内の汚泥の一部を前記嫌気槽へ返送する汚泥返送管と、
この汚泥返送管に設置される汚泥循環ポンプと、
前記好気槽内へ酸素を供給する酸素供給装置と、
前記好気槽から排出された処理水の一部を前記マイクロバブル発生手段へ返送する処理水返送管と、
この処理水返送管に設置される処理水循環ポンプと、
前記油水分離槽に供給される前記含油廃水の流量及び水質をそれぞれ検出する流量センサー及び水質センサーと、
前記流量センサー及び前記水質センサーの検出値に基づいて前記マイクロバブル発生手段,前記汚泥循環ポンプ及び前記酸素供給装置の動作をそれぞれ制御するシステムコントローラーと、
を備え、
前記水質センサーは前記含油廃水中のBOD,COD及びDOの濃度のうち少なくともいずれか1つを検出し、
前記マイクロバブル発生手段は前記システムコントローラーの指令に従って,マイクロバブルの発生量を増減し、
前記汚泥循環ポンプは前記システムコントローラーの指令に従って,前記嫌気槽への汚泥返送量を増減し、
前記酸素供給装置は前記システムコントローラーの指令に従って,前記好気槽内への酸素供給量を増減することを特徴とする廃水処理システム。
【請求項6】
前記流量センサーは、前記油水分離装置に供給される前記含油廃水に代えてあるいは加えて前記好気槽から排出される処理水の流量を検出することを特徴とする請求項5記載の廃水処理システム。
【請求項7】
前記水質センサーは、前記油水分離槽に供給される前記含油廃水の水質に代えてあるいは加えて前記好気槽の水質を検出することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の廃水処理システム。
【請求項8】
前記酸素供給装置は、
酸素の気泡を発生する散気装置と、
この散気装置から供給される前記気泡の流路となる筒状体と、
この筒状体内の上方に設置されて前記流路を区切る流路板と、
開口部を下方に向け,前記筒状体の上部を覆うように設置される椀形の気体貯留室と、
この気体貯留室の上部を覆うように設置される傘状部と,この傘状部が下端に取り付けられた筒状の接続部からなる気泡集積部と、
を備えたことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の廃水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−94704(P2013−94704A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237959(P2011−237959)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(800000013)有限会社山口ティー・エル・オー (6)
【Fターム(参考)】