説明

油脂性軟膏剤

【課題】エステル系ステロイドおよびジフェンヒドラミン類を含有する保存安定性に優れた油脂性軟膏剤を提供する。
【解決手段】安定化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン及びメントールを組み合わせて添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル系ステロイドおよびジフェンヒドラミン類を含有する皮膚疾患の予防・治療に有用な油脂性軟膏剤に関する。さらに詳しくは、エステル系ステロイドの分解をジブチルヒドロキシトルエン及びメントールにより防止した保存安定性に極めて優れた油脂性軟膏剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、肌荒れ、湿疹、皮膚炎等の皮膚疾患の予防・治療にエステル系ステロイド等の抗炎症剤と塩酸ジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン薬を組み合わせたものが用いられている。エステル系ステロイドとジフェンヒドラミンの混合物に、皮膚炎の消炎鎮痛剤、香料、清涼化剤としてのメントールを配合した薬剤も知られている(例えば特許文献1参照)。また、エステル系ステロイドとジフェンヒドラミンの混合物に、酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエンを加えることも提案されているが、具体的な安定化効果は確認されていない(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−286860
【特許文献2】特開2001−247463
【0003】
エステル系ステロイドにジフェンヒドラミン類を配合した場合、ステロイドのエステル分解が促進されるという問題があり、これを解決した油脂性軟膏剤を開発することが求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エステル系ステロイドおよびジフェンヒドラミン類を含有する保存安定性に優れた油脂性軟膏剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、酸化防止剤として知られているジブチルヒドロキシトルエンを、エステル系ステロイドとジフェンヒドラミン類を含む油脂性軟膏剤に添加した場合、油脂性軟膏剤の変色を若干抑制できるが、エステル系ステロイドの分解は反って促進されること、また、エステル系ステロイドとジフェンヒドラミン類の組み合わせにメントールを加えた場合にはエステル系ステロイドの加水分解が促進されること、しかしながら、エステル系ステロイドとジフェンヒドラミン類を含有する油脂性軟膏剤に、ジブチルヒドロキシトルエン及びメントールを組み合わせて添加した場合、驚くべきことにエステル系ステロイドの分解が防止されることを見出した。
したがって、保存安定性に優れたエステル系ステロイドとジフェンヒドラミン類を含む油脂性軟膏剤は、ジブチルヒドロキシトルエン及びメントールを組み合わせて安定化剤として添加することによって達成される。
【発明の効果】
【0006】
この安定化剤の使用により、エステル系ステロイドの分解を抑制し、エステル系ステロイドの分解物である有機酸による悪臭を防ぎ、油脂性軟膏剤の変色を防止し保存安定性に優れる油脂性軟膏剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
抗炎症性ステロイド類としては、例えばプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメサゾン、ベタメタゾン等が用いられ、これらは、通常エステルの形(エステル系ステロイ
ド)で用いられる。本発明に用いられるエステル系ステロイドは、有機酸とのエステルをなし、消炎活性を有するものが好ましい。ステロイドとしては、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸等が挙げられる。本発明で用いられるエステル系ステロイドの具体例としては、吉草酸酢酸プレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、酪酸クロベタゾン、プロピオン酸デプロドン、プロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸べタメタゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ジフルコルトロン、ジプロピオン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酢酸ジフロラゾン、プロピオン酸クロベタゾールが示されるが、好ましくは、吉草酸酢酸プレドニゾロンである。
エステル系ステロイドの配合量は、用いるステロイドによってその作用の強弱が異なることから、一概にはいえないが、皮膚外用剤中、0.01〜10w/w%程度配合でき、好ましくは、0.1〜0.2w/w%である。
【0008】
本発明のジフェンヒドラミン類は、ジフェンヒドラミンまたはその塩である。配合量は、0.1〜5w/w%含有でき、好ましくは、1〜2w/w%である。
【0009】
本発明では、安定化剤として、ジブチルヒドロキシトルエンおよびメントールが添加される。メントールとは、l−メントール、dl−メントールであり、好ましくは、l−メントールである。添加量は、0.3〜2w/w%であり、好ましくは、0.5〜1w/w%である。また、ジブチルヒドロキシトルエンの添加量は、0.01〜0.1w/w%であり、好ましくは、0.02〜0.08w/w%である。
【0010】
油分としては、白色ワセリン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素、中鎖脂肪酸トリグリセライド、固形パラフィン、サラシミツロウ、セトステアリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、オクチルドデカノール、パルミチン酸イソプロピル、乳酸セチル、酪酸ラノリン等があるが、好ましくは、白色ワセリン、流動パラフィンである。
【0011】
本発明の油脂性軟膏剤には、上記成分の他に、通常、医薬品や化粧品の皮膚外用剤に用いられる他の成分を本発明の目的、効果を損なわない質的、量的範囲内で添加することができる。
【0012】
界面活性剤として、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100、モノステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が添加できるが、好ましくは、モノステアリン酸グリセリンである。
【0013】
油溶性成分として酢酸トコフェロール、トコフェロール、大豆レシチン、ベンゾトリアゾールのような酸化防止剤、イソプロピルメチルフェノール、エデト酸、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、パラオキシ安息香酸アルキルエステル(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等)、ヘキサクロロフェン等の抗菌・防腐剤等、クロタミトン、アジピン酸イソプロピル、オリブ油、カンフル、硬化油、スクワラン、スクワレン等の溶解剤、リドカイン、ジブカイン等の局所麻酔剤、コレカルシフェロール、レチノール等及びそのエステルのビタミン剤を添加できるが、好ましくは、クロタミトン、酢酸トコフェロール、イソプロピルメチルフェノールである。
【0014】
水溶性成分としてエデト酸Na、安息香酸Na、サリチル酸Na、ソルビン酸Na、デヒドロ酢酸Na、パラオキシ安息香酸Na等の抗菌・防腐剤塩類等、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の溶剤、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の分散剤、リドカイン及びジブカインの塩等の局所麻酔剤、ピリドキサール、ピリドキシン、リボフラビン、アスコルビン酸等及びその塩又はエステルのビタミン剤を添加できるが、好ましくは、プロピレングリコールである。
【0015】
pH調整剤として水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸、クエン酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミンを微量の水に溶解し、適量添加できる。pH調整剤を添加した本発明の油脂性軟膏剤のpHは、3.5〜5.0とするが、好ましくは3.6〜4.8である。
【0016】
本発明の皮膚外用剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等、外皮に適用されるもので、剤型は、油脂性軟膏剤の形態をとる。油脂性軟膏剤の基になる油分量は、油脂性軟膏剤を形成する範囲内で調節できるが、一般に60〜90w/w%であり、好ましくは70〜85w/w%、特に好ましくは、75〜85%である。
【0017】
本発明の油脂性軟膏剤は、当業者によく知られている方法によって製造することができる。まず、油分の一部、界面活性剤を加温溶融した組成物にジブチルヒドロキシトルエン、メントール、その他の油溶性成分を溶解させた油性組成物を調製する。油性組成物を撹拌・混合しながら徐冷し45〜55℃とする。エステル系ステロイドは、油分の一部と混合・分散し、油性組成物に添加する。更にpH調整剤を水に溶解させ、水溶性成分と撹拌混合してpHを3.5〜5.0する。撹拌・混合しながら徐冷し室温とし本発明の油脂性軟膏剤を調製する。ジフェンヒドラミン類のジフェンヒドラミンは、油溶性成分として、ジフェンヒドラミンの塩は、水溶性成分として添加する。
【0018】
以下、実施例を上げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものでない。尚、配合量は重量%である。
〔実施例1〜3〕
油脂性軟膏剤の調製法
油分の一部、界面活性剤を加温(70℃)溶融した組成物にメントール、ジブチルヒドロキシトルエン、その他の油溶性成分を溶解させた油性組成物を調製した。油性組成物を撹拌・混合しながら徐冷し50℃とした。エステル系ステロイドは、油分の一部と混合・分散し、油性組成物に添加する。更にpH調整剤を微量の精製水に溶解し、適量を添加してpHを4.2に調整した。塩酸ジフェンヒドラミン、その他の水溶性成分と撹拌混合した。撹拌・混合しながら徐冷し室温とし本発明の油脂性軟膏剤を調製した。
上記の油脂性軟膏剤の製法を用いて調製された、実施例1〜3の油脂性軟膏剤の成分を表1に示した。
【0019】
安定化剤としてジブチルヒドロキシトルエンおよびメントールを用いた場合の効果を確認するため、ジブチルヒドロキシトルエンとメントールの両者を用いないもの(比較例1)およびそのうちの一方のみを用いるもの(比較例2、3)と、実施例1〜3の油脂性軟膏剤と比較した。安定化試験は、実施例1〜3および比較例1〜3の油脂性軟膏剤を、ポリエチレン容器に入れ、50℃、75%RHにおいて3ケ月保存した。その後、その外観、吉草酸酢酸プレドニゾロン(PVA)の残存率を測定することにより行った。50℃、75%RHにおける保存は、一般的な医薬品の保存期間3年間の安定性をみる目安となるものである。その結果を表1に示した。
【0020】
外観試験:試験開始時には、実施例1〜3および比較例1〜3のもの全てが白色であっ
たが、比較例1〜3のものは試験終了後、淡黄色、微黄色に変色していた。これに対し、実施例1〜3のものは、白色を維持していた。
PVAの残存率試験:残存PVA量の測定は、日本薬局方の一般試験法、液体クロマトグラフ法に従って行った。比較例1では、ほぼ規格値下限まで減少し、比較例2、3では規格値を下回った。
【0021】
〔実施例4〜20〕
上記の油脂性軟膏剤の調製法に従い、実施例4〜20の油脂性軟膏剤を調製した。その組成を、表2〜表4に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル系ステロイド、ジフェンヒドラミン類、ジブチルヒドロキシトルエン、メントール、油分を含有することを特徴とする油脂性軟膏剤。
【請求項2】
エステル系ステロイドが吉草酸酢酸プレドニゾロンであり、ジフェンヒドラミン類が塩酸ジフェンヒドラミンである請求項1記載の油脂性軟膏剤。
【請求項3】
ジブチルヒドロキシトルエン0.01〜0.1w/w%、メントール0.3〜2w/w%を含有する請求項1または2記載の油脂性軟膏剤。



【公開番号】特開2006−28124(P2006−28124A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211907(P2004−211907)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000158219)岩城製薬株式会社 (4)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】