説明

油脂用結晶化抑制剤

【課題】
5〜20℃で保存する場合に、ヨウ素価が56〜70となるパームオレインを含有する油脂成分の結晶化を抑制する油脂用結晶化抑制剤を提供すること、およびこの油脂用結晶化抑制剤を含有する油脂を提供すること。
【解決手段】
ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤であり、前記エステルを構成する全ての脂肪酸において、炭素数8〜14の飽和脂肪酸のモル比率が0.1〜0.3、炭素数16〜18の飽和脂肪酸のモル比率が0.5〜0.9、炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率が0〜0.3であり、この抑制剤におけるポリグリセリンの平均重合度が2〜20であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が80%以上である油脂用結晶化抑制剤、およびこの油脂用結晶化抑制剤を含有する油脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パームオレインを含有する油脂の成分が結晶化することを抑制する結晶化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液状油は、ドレッシングやマヨネーズに配合したり、また、揚げ物に利用したりするなど、様々な食品および調理に用いられる。これらの液状油には、大豆油、ナタネ油などがあり、これに加えて、パーム分別油であるパームオレインも利用される。この背景には、パーム油が世界最大の生産量であること、また、パームオレインは酸化安定性が高く、安価であるなどの理由が挙げられる。しかし、パームオレインやその調合油は、5〜20℃程度の温度では結晶化しやすい。そのため、油脂が白濁し、外観を損ねることで商品価値が低下したり、更に、結晶化が著しい場合には、油脂の流動性が損なわれ、容器からの採取が困難となったりする問題が生じる。
【0003】
これらの問題を解決するために、従来、ポリグリセリン脂肪酸エステルが結晶化抑制剤として使用されている。例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3にパームオレイン調合油に対して、効果が高い結晶抑制剤が開示されている。しかし、特許文献1および特許文献2に開示されたものは、5℃程度の低温領域で特異的に効果を示すものであり、それ以上の温度領域では十分な結晶抑制効果が得られない。また、特許文献3には、5℃および15〜35℃において結晶抑制効果を示すものは開示されているが、これらは10℃程度の温度領域では十分な結晶抑制効果が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3881452号公報
【特許文献2】特許4443628号公報
【特許文献3】特開2006−274126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、パームオレインおよびその調合油を5〜20℃で保存する場合に、何れの温度においても高い結晶抑制効果を示すが、特に5〜15℃程度の温度において高い効果を発揮する油脂用結晶化抑制剤を提供することにあり、さらに、この油脂用結晶化抑制剤を含有する油脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヨウ素価が56〜70となるパームオレイン20〜100重量%、20℃において透明な液状植物油0〜80重量%を含有する油脂に対して、5〜20℃において結晶析出を抑制するポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤であって、前記エステルを構成する全ての脂肪酸において、炭素数8〜14の飽和脂肪酸のモル比率が0.1〜0.3、炭素数16〜18の飽和脂肪酸のモル比率が0.5〜0.9、炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率が0〜0.3であり、この抑制剤におけるポリグリセリンの平均重合度が2〜20であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が80%以上である油脂用結晶化抑制剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パームオレインおよびその調合油を5〜20℃で保存する場合に、何れの温度においても高い結晶抑制効果を発揮する油脂用結晶化抑制剤が提供される。また、この油脂用結晶化抑制剤を含有する油脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、所定の脂肪酸を構成脂肪酸とし、その構成脂肪酸のモル比率が限定されたものとなっている。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸およびそのモル比率は、炭素数8〜14の飽和脂肪酸のモル比率が0.1〜0.3、炭素数16〜18の飽和脂肪酸のモル比率が0.5〜0.9、炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率が0〜0.3である。
【0009】
炭素数8〜14の飽和脂肪酸は、この炭素数および飽和の条件に当てはまるものであれば特に限定されるものではないが、主として直鎖脂肪酸が選択され、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が例示される。また、炭素数8〜14の飽和脂肪酸のモル比率は0.1〜0.3であり、特に0.15〜0.25が好適である。
【0010】
炭素数16〜18の飽和脂肪酸は、この炭素数および飽和の条件に当てはまるものであれば特に限定されるものではないが、主として直鎖脂肪酸が選択され、パルミチン酸、ステアリン酸が例示される。また、炭素数16〜18の飽和脂肪酸のモル比率は0.5〜0.9であり、特に0.6〜0.8が好適である。
【0011】
炭素数18の不飽和脂肪酸は、この炭素数および不飽和の条件に当てはまるものであれば、特に限定されるものではないが、主として直鎖脂肪酸が選択される。炭素数18の不飽和脂肪酸には、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸が例示される。また、炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率は、0〜0.3であり、特に0〜0.25が好適である。
【0012】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、平均重合度(n)が2〜20のものが良く、好ましくは、平均重合度が4〜20である。ここで平均重合度(n)とは、末端分析法によって得られる水酸基価から算出される値であり、具体的には、下記(式1)および(式2)から平均重合度(n)が算出される。
【0013】
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0014】
前記(式2)中の水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1g中のエステル化物に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を、中和するために要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、規準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0015】
本実施形態におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化率が80%以上、好ましくは90%以上である。エステル化率が80%以上であると、結晶化抑制効果が極めて優れたものとなる。ここでエステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。ここで水酸基価とは、上述の水酸基価と同様に算出される値である。
【0016】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下におけるエステル化反応により製造することができる。エステル化反応は、仕込んだ脂肪酸のほぼ全てがエステル化するまで反応させる。すなわち、遊離の脂肪酸がほとんどなくなるまで十分に反応させる。
【0017】
本実施形態におけるパームオレインは、パーム油を分別して得られる低融点成分をいう。パームオレインを得るためのパーム油の分別方法には、特に制限はなく、冷却による自然分別法や、界面活性剤や溶剤等を用いて分別する方法を採用することができる。また、得られたパームオレインのヨウ素価は、56〜70となるものであり、油脂中のパームオレインの含有量は、20〜100重量%である。ここで、ヨウ素価とは、油脂100gに付加することができるヨウ素のグラム数である。
【0018】
本実施形態における液状植物油は、20℃において透明で流動性を有する植物性油脂である。液状植物油としては、大豆油、ナタネ油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、亜麻仁油、落花生油、およびこれらの分別油脂が例示される。また、上記の液状植物油を2種以上混合して用いることもできる。油脂中の液状植物油の含有量は、0〜80重量%である。
【0019】
本実施形態における油脂には必要に応じ、一般的に油脂に使用されている他の原料、例えば、トコフェロール、カテキン類等の酸化防止剤や、シリコーン等も適宜使用することができる。また、人体に有効な生理活性を及ぼすとされる成分、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEやγ−オリザノール等を適宜使用することができる。
【0020】
本実施形態におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、油脂に混合することによって使用される。油脂へのポリグリセリン脂肪酸エステルの混合量は、特に限定されるものではなく、0.001〜5重量%であると良い。
【0021】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルが混合されている油脂は、結晶化が抑制されたものとなり、結晶析出による油脂の外観不良や流動性の低下を防止することができる。
【0022】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(合成例1)
実施例および比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下に示す方法により合成されたものである。すなわち、まず、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)および脂肪酸の混合物を調製した。この混合物に触媒として水酸化ナトリウムを添加し、その後、240〜250℃に昇温してエステル化反応を行い、実施例および比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを調製した。ここで使用される脂肪酸の種類およびそのモル比率、エステル化率は、後記の実施例および比較例に示されている。なお、エステル化反応は、窒素気流下において撹拌しながら、酸価が10以下となるまで行った。
【0024】
<実施例1〜4、比較例1〜4>
ポリグリセリンとしてテトラグリセリンおよびデカグリセリンを用い、合成例1の方法によりエステル化反応を行った。このエステル化反応により得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを表1に示した。なお、各実施例および比較例で使用したポリグリセリンおよび脂肪酸の種類、モル比率、エステル化率は表1中に示されている。
【0025】
【表1】

【0026】
(試験例1)
ヨウ素価60のパームオレインを50重量%、および大豆サラダ油を50重量%の割合で調合した油脂に、実施例1〜4および比較例1〜4のポリグリセリン脂肪酸エステルをそれぞれ0.1重量%添加し、10℃で保存した。そして、1ヶ月保存後の状態を目視にて観察し、次の基準により評価を行った。
[1ヶ月後の外観]
○:透明で流動性あり
△:結晶粒が析出、流動性あり
×:全体に結晶が析出し、流動性なし
試験例1の結果を表2に示す。
【0027】
(試験例2)
ヨウ素価58のパームオレインを30重量%、および大豆サラダ油を70重量%の割合で調合した油脂に、実施例1〜4および比較例1〜4のポリグリセリン脂肪酸エステルをそれぞれ0.1重量%添加し、15℃で保存した。そして、1ヶ月保存後の状態を目視にて観察し、次の基準により評価を行った。
[1ヶ月後の外観]
○:透明で流動性あり
△:結晶粒が析出、流動あり
×:多量に結晶が沈降
試験例2の結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示すとおり、比較例1〜4のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂は、十分な結晶抑制効果を発揮しなかった。一方、本願発明のポリグリセリン脂肪酸エステルである、実施例1〜4を含有した油脂は、1ヶ月保存後も結晶の析出は観察されず、パームオレイン調合油の結晶化を抑制することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が56〜70となるパームオレイン20〜100重量%、20℃において透明な液状植物油0〜80重量%を含有する油脂に対して、5〜20℃において結晶析出を抑制するポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤であって、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成する全ての脂肪酸において、炭素数8〜14の飽和脂肪酸のモル比率が0.1〜0.3、炭素数16〜18の飽和脂肪酸のモル比率が0.5〜0.9、炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率が0〜0.3、
ポリグリセリンの平均重合度が2〜20であり、
脂肪酸とのエステル化率が80%以上
であることを特徴とする油脂用結晶化抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂用結晶化抑制剤を含有する油脂。

【公開番号】特開2012−97154(P2012−97154A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244098(P2010−244098)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】