説明

油類及び毒性化学物質分解用の微生物製剤

本発明は、油類及び毒性化学物質分解用の微生物製剤に係り、油類及び毒性化学物質の分解能を持つ微生物、望ましくは、トリコスポロン属、トリコスポロンクタネウムまたは白色腐朽菌及び培養ろ液に、天然ワックス、合成ワックス、蝋、ろうそくのような親油性物質粉末と糖類及び大豆粉などの微生物栄養物質が混合されたことを特徴として、親油性粉末による油類または毒性化学物質との吸着面積が増加することにより、難分解性の汚染物質を効率的に短時間内に分解、処理できる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油類及び毒性化学物質分解用の微生物製剤に関し、さらに詳細には、ガソリン、ナフサ、灯油、バンカーC油などの油類と、主要油類成分であるBTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン)などの毒性化学物質とを分解及び処理することができる微生物製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、主要汚染物質であるガソリン、ナフサ、灯油又はバンカーC油などの油類及びBTEXなどの毒性化学物質等は、難分解性及び高い毒性によって、周辺土壌及び地下水に深刻な環境問題を引き起こしつつある。
【0003】
土壌及び地下水におけるこのような汚染物質を処理する既存の技術としては、物理的又は化学的方法が使われてきたが、高いランニングコストを要し、かつ土壌生態系の破壊という面で制約がある。これに対して、最近、汚染土壌及び地下水内に土着して棲息する微生物の自然分解原理を利用した生物学的浄化方法が、一つの解決策として提示された。しかし、油類及び毒性化学物質の場合、親油性あるいは疎水性によって油類間凝集又は低い溶解度のため、土着微生物による生分解が難しい。また、生物学的処理の使用は、浄化に長時間がかかるという別の問題があり、汚染物質の毒性が高い場合、土着微生物の活性に悪影響を及ぼして、全体処理効率が非常に低くなる。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、前記のような従来の生物学的処理方法が有する諸問題を解決するために、ガソリン、ナフサ、灯油、バンカーC油などの油類と、主要油類成分であるBTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン)などの毒性化学物質とを含む難分解性環境汚染物質を効率的に分解及び処理することができる微生物製剤を提供する。
【0005】
本発明の一側面によれば、油類及び毒性化学物質の分解能を有する微生物及び培養ろ液、親油性物質粉末ならびに微生物栄養物質を含む混合物を含有する微生物製剤が提供される。
前記微生物は、トリコスポロンルビエリ(Trichosporon loubieri Y1-A)(寄託番号:KCTC 18079P)、トリコスポロンクタネウム(Trichosporon cutaneum)または木材表面に寄生する白色腐朽菌からなる群から選択される少なくとも1種である。
前記親油性物質粉末は、天然ワックス、合成ワックス、蝋、ろうそくからなる群から選択される少なくとも1種である。
前記微生物栄養物質は、糖類及び大豆粉を含む。
前記微生物製剤は、前記微生物及び培養ろ液重量%に対して、親油性粉末1〜10重量%、糖類0.1〜1重量%及び大豆粉0.01〜0.1重量%を含む。
【0006】
本発明の微生物製剤は、親油性の高い物質粉末を、微生物製剤の製造時に、組成物に添加することによって、粉末表面に親油性または疎水性の汚染物質が自然に吸着されて、結果的に生分解が起こり得る全体汚染物質の表面積が増加することによって、微生物との接触面積が増加して、難分解性の汚染物質を効率的に短時間で分解することができる。
また、汚染物質が粉末表面に吸着された状態で、微生物により分解されるために、毒性汚染物質の微生物体内への流入や菌体に吸着される量が減少し、分解微生物に対する毒性が低下するので、生分解作用が安定的に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】アクリジンオレンジに染色された活性トリコスポロン属菌株の共焦点レーザー顕微鏡の蛍光写真(×200)である。
【図2】選択培地で成長した汚染土壌内のトリコスポロン属菌株である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の微生物製剤を詳細に説明する。
本発明の微生物製剤は、油類及び毒性化学物質の分解能を有する微生物及び培養ろ液、親油性物質粉末ならびに微生物栄養物質を含む混合物を含有する。
前記微生物は、トリコスポロンルビエリ(Trichosporon loubieri Y1-A)(寄託番号:KCTC 18079P)、トリコスポロンクタネウム(Trichosporon cutaneum)及び木材表面に寄生する白色腐朽菌からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0009】
前記油類は、ガソリン、ナフサ、灯油、バンカーC油などが例示され、毒性化学物質は、主要油類成分であるBTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)またはクロロフェノール化合物が例示され、これらは難分解性及び強い毒性によって、周辺土壌及び地下水に深刻な環境問題を引き起こす。
前記微生物の有用な例は、油類及び毒性化学物質の分解能を有する公知の微生物、好ましくは、トリコスポロン属、トリコスポロンクタネウム及び木材表面に寄生する白色腐朽菌からなる群から選択される少なくとも1種、あるいはそれらの混合微生物を含む。
より好ましくは、トリコスポロン属菌株は、本発明者が新規に開発したトリコスポロンルビエリ(寄託番号:KCTC 18079P)であることがさらに望ましい。木材表面に寄生する白色腐朽菌のより好ましい例は、ファネロカエテ属(Phanerochaete spp.)、フレウロタス属(Phleurotus spp.)などである。
【0010】
前記親油性物質粉末は、天然ワックス、合成ワックス、蝋、ろうそくからなる群から選択される少なくとも1種である。
前記ワックス、蝋、ろうそくなどのような親油性物質粉末の粒径が小さくなるほど、親油性粉末の体積当りの表面積が増加して、前記油類または毒性化学物質を容易に粉末に吸着させ、微生物との接触面積を大きく広げることによって、微生物の油類及び毒性化学物質の分解効率を最大化させる。
微生物の生存率を高めるために、前記微生物栄養物質は糖類を含み、嫌気性状態下で、酸素の代わりに電子受容体として作用する天然栄養物質である大豆粉を含むことが好ましい。
【0011】
前記微生物製剤は、前記微生物及び培養ろ液重量%に対して、親油性粉末1〜10重量%、糖類0.1〜1重量%及び大豆粉0.01〜0.1重量%を含む。前記栄養物質としては、微生物に有用な種々の成分、炭素、窒素、ビタミン、無機イオンなどを含むが、炭素源としては、生分解を経ずに微生物により容易に利用できるグルコースまたはデキストロースなどが望ましい。窒素、ビタミン、無機イオンと電子受容体の供給源としては、天然物質である大豆粉などを使用することが望ましい。
以下、実施形態を通じて本発明をさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明の例示であるだけで、本発明の範囲がそれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
トリコスポロン属菌株及び白色腐朽菌を、栄養液1リットル当り1mlの胞子懸濁液で接種する。栄養液は、蒸留水1リットル当りポテト・デキストロース培養液を24g及び親油性粉末10gを添加し、次いで滅菌することによって調製した。胞子懸濁液は、ジャガイモ寒天培地であらかじめ培養した菌を4℃以下で7日間低温処理して、胞子形成能を107spore/ml以上に最大化させる処理をした後、それに殺菌水10mlを加えることによって製造した。接種された微生物は、親油性粉末と微生物とを反応させるために、10psi以上の高圧の滅菌空気が反応器の下部から連続的に供給される培養器で、約30〜35℃の温度にて3〜5日間培養し、菌株及び培養ろ液を得た。その後、菌株及び培養ろ液に、菌株培養液基準で、親油性粉末1〜10重量%、グルコース0.1〜1重量%、大豆粉0.01〜0.1重量%を混合することにより、所望の生成物、つまり本発明の微生物製剤を得ることができる。
【0013】
本発明の微生物製剤は、塩素系有機化合物、農薬類(殺虫剤、除草剤、殺菌剤)、ガソリン、灯油、ナフサ、バンカーC油、BTEX(ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン)、PAHs(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons)により汚染された土壌及び地下水の浄化に望ましく適用することができる。
【0014】
油類及びその他の疎水性の汚染物質は、土壌及び地下水内の水分と混合されないが、油類汚染層の形態で存在しているか、フミン酸のような土壌内の有機物に吸着している。しかし、本発明では、油類及びその他の疎水性の汚染物質を、それらの高い親油性及び疎水性の特性によって、微生物製剤に含まれる、親油性で、微粉末粒子表面に吸着させることができる。つまり、油類及びその他の疎水性の汚染物質の粉末への吸着によって、汚染物質の表面積の増加をもたらし、それによって、汚染物質の分解能の高い選択菌株による分解が促進される。
【0015】
また、栄養物質として添加された天然物質の大豆粉は、選択された菌株であるトリコスポロン属菌株と白色腐朽菌の窒素及びビタミン供給源として作用するだけでなく、分解のための微生物のメカニズムがおきる間に土壌内の酸素が枯渇される場合、最終電子受容体である窒酸塩などを供給して、通性好気性菌であるトリコスポロン属菌株による嫌気性分解を可能にして、酸素供給が難しい粘土層及び溶存酸素の濃度の非常に低い地下水内に含まれた汚染物質の処理を可能にする。
【0016】
実験例1
1.汚染土壌の製造
実験室内でディーゼル油とナフサとを混合して、10,000ppm濃度のTPH(Total Petroleum Hydrocarbon)溶液2,400mlを調製した。次いで、105℃で2時間ずつ2回、間歇殺菌した土壌6,000mlに添加して均一に混ぜて混合した後、室温にて密閉容器内で24時間静置し、汚染土壌を最終的に製造した。
このように製造した土壌400mlずつを500ml容量の三角フラスコに分けて入れ、適正の土壌水分に調整するために、各フラスコに蒸溜水50mlずつを添加した後に密封した。
【0017】
2.汚染土壌の処理
前記のように準備された15個の土壌試料に、下記のような方法で5種の処理群を作ってそれぞれ3回ずつ反復して実験を行った。15個の試料を含む容器を密封して、15℃で2週間保管した。その後、各処理群別に土壌試料を採取し、土壌汚染工程試験方法によって油類を抽出した。気体クロマトグラフィ(GC−HP6890、Hewlette Packerd Co.,U.S.A)を使用してTPH濃度を測定した。密封された試料は、一日に一回ずつ約1分間密封されたふたを開けて、現場と同じ間歇的な空気循環をさせた。
【0018】
3.結果確認
このような方法で実験した結果を、下の表1に表した。
処理群別の処理方法は、
(1)ワックス粉末0.01g+グルコース0.001g+100ppmのH22を0.5ml+トリコスポロン属微生物培養液1ml、
(2)ワックス粉末0.01g+グルコース0.001g+100ppmのH22を0.5ml、
(3)グルコース0.001g+100ppmのH22を0.5ml+トリコスポロン属微生物培養液1ml、
(4)グルコース0.001g+100ppmのH22を0.5ml、
(5)100ppmのH22を0.5ml
である。
【0019】
表1は、処理群別によるTPH除去効率を表す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示した結果によれば、親油性のワックス粉末を微生物と共に処理した場合に最も高い処理効率を示し、微生物を単独で処理した場合より約22%の処理効率上昇を示した。微生物と共に処理されたワックス粉末が土壌内に侵入して、それ自体の親油性によって汚染油類を表面に吸着させた後、増加した汚染物質の表面積によって微生物による生分解が促進されたためであると判断される。
【0022】
前述した効果及び原理を証明するために、実験例1の(1)処理群の土壌上澄み液から親油性粉末を分離して、生きている細胞のみを緑色で選択的に染色するアクリジンオレンジ染色薬を利用して、分離された親油性粉末を染色した。その後、共焦点レーザー顕微鏡で蛍光を照射しつつ、粉末表面を観察した結果は、図1の通りである。
【0023】
図1に示すように、親油性粉末の表面全体が共に投入された生きているトリコスポロン属微生物細胞で覆われていることが分かった。これは、親油性粉末の表面に吸着された汚染物質が、共に投入されたトリコスポロン属菌株により分解されつつ、炭素源として利用されるので、トリコスポロン属菌株細胞が粉末表面に高濃度(濃緑色)で成長していることを示す。
【0024】
実験例2
原油で汚染された土壌を、実際の汚染現場で、深さ別に6ケ所で採取して密封後、低温状態で研究所に運搬して均一によく混ぜた後、下記のように処理した。
(1)汚染土220g+滅菌したトリコスポロン属微生物製剤1.5ml
(2)汚染土220g+トリコスポロン属微生物製剤1.5ml
(3)汚染土220g+親油性天然ワックス粉末0.015gと混合培養したトリコス
ポロン属微生物製剤1.5ml
【0025】
このように処理した汚染土を室温で7日間密封して保管し、トリコスポロン属微生物菌株のみを選択的に育てることができる選択培地を利用して、生きているトリコスポロン属微生物数を測定した。その結果は表2の通りである。
使われた選択培地は、土壌内の土着細菌が成長できないように、2種類の抗生物質を添加したPDA培地をから調製した。図2に示すように、トリコスポロン属菌株のみ育つことが確認された。
【0026】
表2は、処理群別に汚染土壌1g内に生存しているトリコスポロン属微生物の菌数を、cfu/g単位で表したものである。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果から分かるように、親油性粉末と共に培養した微生物製剤を処理した場合(3)が、トリコスポロン属微生物菌株のみを単独で処理した場合(2)より、生きているトリコスポロン属微生物菌株の濃度が約10倍高いことが分かった。これは、共に投入された親油性粉末表面に複数のトリコスポロン属微生物細胞が吸着されて、毒性の高い汚染物質に対する耐性が増加し、それにより生存率が高くなったと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上で説明したように、本発明の油類分解用の微生物製剤は、次のような効果がある。
(1)親油性成分による微生物製剤の汚染油類分解効果の増大及び全体復元期間の短縮による汚染土壌及び地下水浄化コストが低減される。
(2)天然成分の栄養物質の使用による微生物製剤の製造コストが低減される。
(3)無機イオン及びいろいろな種類のビタミンを含有した天然成分材料の使用による投入微生物の増殖率と活性増大及びそれによる生態系適応性及び生存力が高くなる。
(4)微生物製剤に含まれた選択微生物による毒性化学物質の分解と、それによる土着微生物の活性及び個体数が増加して全体処理効率が高くなり、土壌生態系の破壊なしに復元が可能である。
(5)従来の土壌及び地下水処理方法と併用する時に処理効果の上昇を期待でき、既存処理方式の問題点を克服できて、環境産業上非常に有用な発明である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
油類及び毒性化学物質の分解能を有するトリコスポロンルビエリ(Trichosporon loubieri Y1-A)(寄託番号KCTC18079P)、トリコスポロンクタネウム(Trichosporon cutaneum)または木材表面に寄生する白色腐朽菌からなる群から選択される少なくとも1つの微生物及び培養ろ液と、
天然ワックス、合成ワックス、蝋及びろうそくからなる群から選択される少なくとも1つの親油性物質粉末と、
微生物栄養物質とを含む混合物を含有する微生物製剤。
【請求項2】
前記微生物栄養物質は、糖類及び大豆粉を含む請求項1に記載の微生物製剤。
【請求項3】
前記混合物は、用いた前記微生物及び培養ろ液重量%に対して、親油性粉末1〜10重量%、糖類0.1〜1重量%及び大豆粉0.01〜0.1重量%である請求項1または2に記載の微生物製剤。


【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2006−517097(P2006−517097A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518457(P2005−518457)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/KR2004/000671
【国際公開番号】WO2004/085626
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505297057)
【Fターム(参考)】