説明

治療上の使用のためのC−19ステロイド

本発明は、C−19ステロイド化合物、特にアンドロステン−17−(OR)−3−オン構造(式中、Rは水素原子、又は非置換の若しくは置換のアルキル基、アリール基、アシル基又は生物学的代謝若しくは化学的脱保護反応により水酸基に導く如何なる置換基を表す。)を持つC−19ステロイドの予防及び/又は治療上の使用に関する。本発明は、より詳細には、ジヒドロテストステロンの結合を遮断するためにアンドロゲン受容体への高い結合親和性の特性を示すと同時に同化作用効果を提供するC−19ステロイドに関するものであり、特定用途に有効である。治療上の応用は、特にコラーゲン及び関係する治療上の局面に影響を与える又は制御することをベースとした概念;及び直接のアロマターゼ阻害効果を主に回避しながら、天然のアンドロゲン、ジヒドロテストステロン(DHT)との結合に抗してアンドロゲン受容体(AR)を遮蔽することをベースとする上記C−19ステロイド化合物のある開示した効果を利用する概念;を含む。また、本発明は、この化合物とジメチルイソソルビドの組合せから成る医薬用組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C−19(炭素数が19の)ステロイド化合物の新規使用に関し、特にアンドロステン−17−(OR)−3−オン構造を持つC−19ステロイドの特定の治療上の使用に関する。ここでRは水素原子又は非置換の若しくは置換されたアルキル基、アリール基、アシル基又は生物学的代謝又は化学的脱保護反応により水酸基に変わる全ての置換基である。本発明は、特に、ある種の治療上の応用に対して有用な特別な性質を示す、選択されたC−19ステロイドに関する。本発明に従う治療上の応用は、特にコラーゲン及び関係する治療上の局面に影響を与え又は制御することをベースとした概念、及び以下に詳細に記載するように、直接のアロマターゼ阻害効果を主に回避しながら、アンドロゲン受容体(AR)を遮蔽して、天然のアンドロゲン、ジヒドロテストステロン(DHT)との結合阻害をベースとする上記C−19ステロイド化合物のある開示した効果を利用する概念を含む。
【背景技術】
【0002】
様々な身体状態を楽にするために、コラーゲンを含む組織を制御する又は影響を与える従来の試みとしては、アロマターゼ及び5α−レダクターゼ酵素の直接の阻害処理を含む。5α−レダクターゼの薬剤的な阻害は、良性前立腺肥大(BPH)を治療する又は予防する一般的手段であり、また前立腺癌の予防に対して用いられる。
体内におけるDHT産生の文脈における、5α−レダクターゼ及びこの組織特異的発現性質の研究は、テストステロン及びジヒドロテストステロンレベルに影響を与える抗アンドロゲン及び非ステロイド性選択的アンドロゲン受容体調節因子(SARM)を開発した。この酵素を発現する細胞のみが、充分な量のDHTを自ら産生することができる。例えば、ステロイド性フィナステリド(finasterid)又は非ステロイド性ビカルタミド(bicalutamide)又はフルタミド(flutamide)の様な薬剤は、広く用いられてきた。ビカルタミドは、前立腺癌に対するアンドロゲン抑制療法の骨粗鬆症副作用を抑制することができるが、内在する同化作用効果を持たない。今までのところ、可能な限り、又はさらに完全にDHTのアンドロゲン性効果を抹消し、及び同時に同化作用効果を有する薬剤は知られてない。この目標に最も近いものとしては、去勢ラットの肛門挙筋の重量を増加させ、及び萎縮した前立腺の重量をほんの僅か増加させることができる物質を含む。
【0003】
同化ステロイド性アンドロゲンは肝臓毒性、前立腺刺激活性、男性化作用、及び関係するステロイド受容体に対する交差反応性に由来する他の副作用と結びつき、同化ステロイド性アンドロゲンの使用は難しい。もし、虚弱体質又は骨粗鬆症の治療に用いる同化SARMがステロイド性性質ならば、ステロール環のC5位置で芳香族化も還元も起こるべきではない。今までのところ、DHTにより起こるアンドロゲン性効果(髪の成長又は喪失、過度な皮脂産生、前立腺の成長、癌細胞の増殖)を遮断することができる、及び同時にテストステロンの様な同化作用効果を及ぼすことができる、SARMは開発されてない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、コラーゲンを含む身体部位のコラーゲン状態の病気;及び障害のあるホルモンバランス又はホルモン機能と結びついた他の病理学的又は疾患状態;をより良く制御し、及びより良い影響を与えるために、ある範囲の有用な応用への改善された適用可能性を提供することである。
【0005】
本目的を解決するために、本発明は、特許請求の範囲に示すような特別な応用に対して、C−19ステロイド化合物を提供する。これらの応用の範囲内で、特に選択したC−19ステロイド化合物と結びつくことが分かった特別な性質について使用がなされる。特定の理論に縛られることなく、本発明の概念は、以下の考慮に基づく。
アンドロゲン受容体をコードする遺伝子は、X−染色体上に位置する。男は唯一のX染色体のみを有するので、この染色体の欠失は劇的な結果をもたらす。冒されたXY−胎児は、表現形質上、真の男の子になる代わりに、女の子に成長する。
哺乳動物の主要なアンドロゲンは、テストステロンとその代謝物である活性がより高いジヒドロテストステロン(DHT)である。アンドロゲン受容体(AR)は、少なくとも910アミノ酸残基からなる大きなタンパク質である。この分子は、アンドロゲンと結合する部分;核クロマチンのステロイド応答性ドメイン(領域)でDNAと結合する亜鉛フィンガー部分;及び転写を制御するドメイン;から成る。
【0006】
テストステロン(T)は、循環して全ての細胞の細胞質に拡散する。細胞質に存在する酵素及びこれら酵素の活性により、幾つかのテストステロンは、アロマターゼによりエストラジオールに代謝され、一部はDHTに還元され(5α−レダクターゼ)、一部はテストステロンのまま残る。T及びDHTの両者は、アンドロゲン受容体に結合して、活性化させることができるが、DHTの方がより強力な活性を持ち長時間作用する。DHT(又はT)が受容体に結合するに従い、このタンパク質の一部が切断される。このAR−DHTコンビネーション(連結体)は、第2のAR−DHTと結合して2量体化し、両者はリン酸化し、及び全複合体は、細胞核に移動し、またアンドロゲン感受性標的遺伝子のプロモーター領域のアンドロゲン応答性要素(レスポンスエレメント)と結合する。転写効果は、コアクチベーター又はコリプレッサーにより、亢進又は阻害される。
アンドロゲンは,極めて特異的にアンドロゲン受容体(AR)に結合することによりその効果を発揮する。受容体タンパク質は、良く定義されたドメイン組織を持ち;及び、結合した異なる作用薬及び拮抗薬配位子を伴うC−末端リガンド(配位子)結合ドメイン(LBD)、及び亜鉛フィンガーDNA結合ドメイン(DBD)に対して、高分解能構造が利用可能である。
【0007】
幾つかの、ステロイド受容体のリガンド結合ドメインの構造研究により、C−末端ヘリックス12(H12)の動的特性がこれらの受容体の活性化(アクティベーション)状態の主要な決定因であることを明らかにした。H12は、リガンド無しでは、高い易動性及び異なるコンフォメーション(立体配座)を示す。リガンドが結合すると、H12は、正確な位置に安定化し、リガンド結合ポケットを密閉し、活性化機能(AF−2)ドメインの集合を確定する。リガンド結合ポケットの易動性のあるカルボキシル末端ヘリックス12の再配置を妨げることにより、抗アンドロゲンは働くことができるが、このことがARリガンド結合ドメインに位置するリガンド依存性トランス活性化機能(AF−2)を阻害する。
アンドロゲン受容体は、2種のトランス活性化機能を持つことが示されている:一方は、ヘリックス3,4,5及び12(AF−2)からの残基により形成されるLBDの表面上の構造的に定義付けられた疎水性溝(グルーブ)により代表され、他方は、構造的に柔軟性のあるN−末端ドメイン(NTD)に位置づけ(マップ)られ、AF1と名付けられる。トランス活性化に対する主要な決定因は、NTDに位置づけられる。このNTDは、複数のタンパク質―タンパク質相互作用に関与する可能性があり、このドメインの長さは、核内受容体スーパーファミリーの異なる要素に対するAF1の活性と正の相関関係を持つ。
【0008】
真核生物の転写制御因子としての、全ての核内受容体スーパーファミリー要素は、ホルモン結合性カルボキシル末端ドメイン内に、極めて保存された活性化機能2(AF2)、及び、幾つかに対して、保存されてない、NH(2)−末端領域内に付加的な活性化機能1を含む。AF2の分子的基礎は、リガンド結合ドメイン内の疎水性裂け目に対するLXXLLモチーフを含むコアクチベーター(共活性化)のホルモン依存的補充現象である。アンドロゲン受容体(AR)におけるAF2は、LXXLLモティーフを含むコアクチベーターに単に弱く結合し、及びその代わり、その生理学的機能に対して要求されるAR NH(2)―末端ドメインとのアンドロゲン依存性相互作用を媒介する。2個のαヘリックス領域は、このアンドロゲン依存性、NH(2)―及びカルボキシル末端相互作用を媒介する。AR NH(2)−末端ドメインにおけるFXXLFは、AF2との相互作用を媒介し、及び優勢なアンドロゲン依存性相互作用部位である。このFXXLF配列、及び第2のNH(2)−末端WXXLF配列は、リガンド結合ドメインの異なる領域と相互作用してホルモン受容体複合体を安定化し、及びLXXLLモチーフを含むコアクチベーターのAF2補充現象と競合することができる。AF2における、T−依存性 AR FXXLF及びコアクチベーターLXXLLモチーフの間の好ましくない相互作用のために、テストステロンは、DHTより弱いアンドロゲンである。
【0009】
アンドロゲン受容体(AR)のリガンド結合構造は、様々なリガンド構造に適応できる、リガンド結合ポケットに埋め込まれた幾つかの残基のある程度の柔軟性を示す。リガンド構造(ステロイド核の配置又は隣接原子の電子構造、その他に影響を与える不飽和結合の、大きさ、存在及び位置)自体は、結合ドメインと行うことができる相互作用の数を決定する。ステロイド核の両端で静電的相互作用する原子の配置が、実験的測定によるテストステロンよりDHTに対するより高い親和性の主要な原因であるようである。それに対して、スポーツドーピングで用いられるアンドロゲン性ステロイドである、最高の親和性を有するテトラヒドロゲストリノン(THG)は、他のステロイドより受容体に対してより大きなファンデルワールズ接触を立証する。
DHTはテストステロンより、より平面的な構造を持ち、従ってリガンド結合ポケットにより良く適合する。
【0010】
5α−レダクターゼ、テストステロンをジヒドロテストステロンに代謝する酵素システムは、2種のイソ型で生ずる。1型イソ酵素は、259アミノ酸からなり、最適pHは6〜9であり、また"皮膚反応型"を表し;これは主に脂肪細胞に局在するが、性器及び非性器の皮膚由来の繊維芽細胞だけではなく、上皮性及び濾胞性ケラチン産生細胞、真皮性乳頭細胞、汗腺、にも局在する。2型イソ酵素は、254アミノ酸からなり、最適pHは約5.5であり、また毛嚢の内毛根鞘及び正常成人性器皮膚由来の繊維芽細胞のみならず、主に副睾丸、精嚢、前立腺及び胎児性器皮膚に局在する。1型及び2型イソ酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、染色体5p及び2pに見出され、また夫々5エクソン及び4イントロンからなる。
【0011】
1型イソ酵素は、胎児には検出されず、新生児皮膚及び頭皮に一時的に発現し、思春期以降皮膚に不変的に発現する。2型イソ酵素は、新生児の皮膚及び頭皮に一時的に発現する。2型は胎児性器皮膚、男性副生殖腺、及び良性前立腺過形成、及び前立腺アデノカルシノーマ組織を含め、前立腺に検出される主要なイソ酵素である。両イソ酵素は、肝臓に発現するが、生後のみである。2型イソ酵素の突然変異は、男性の偽半陰陽を引き起こし、また多くの突然変異が、様々な民族グループから報告されてきた。冒された46XY各個人は、正常な高い値から上昇した血漿テストステロンレベルで、減少したDHTレベル及び上昇したテストステロン/DHT比を有する。彼等は、誕生時に曖昧な外性器を持ち、その結果女子と信じられ、しばしば女子として養われる。しかしながら、Wolffian分化は正常に起こり、彼等は副睾丸、輸精管及び精嚢を有する。男性化は、しばしば思春期に起こり、恐らく性役割変化を伴う。成人における前立腺は小さく、未発達であり、また顔毛及び体毛は無い、又は減少する。禿は報告されてない。もし睾丸が下降するならば、精子形成は正常である。5α−レダクターゼ2欠乏の臨床的、生化学的及び分子遺伝学的解析により、男性性分化及び男性病理生理学におけるDHTの重要性が強調される。1型イソ酵素は、正常な男性化した男性のアンドロゲン生理学において重要な役割を演ずることができて、また思春期において2型欠乏男性における男性化に寄与することができる。
【0012】
骨細胞は、1型イソ酵素を含む。2種のイソ酵素をin vivoで阻害すると、インポテンスの発生率の増加、性欲の減少、射精不調及び女性化乳房を引き起こすことができる。骨には影響がない。
アンドロゲン受容体(AR)は、生殖型及び非生殖型組織に広く分布しており、これらの組織は前立腺、精嚢、男性及び女性外性器、皮膚、精巣、卵巣、軟骨、皮脂腺、毛嚢、汗腺、心筋、骨格筋及び平滑筋、胃腸小胞細胞、甲状腺濾胞上皮細胞、副腎皮質、肝臓、松果腺、及び脊髄運動神経を含む、無数の大脳皮質及び皮質下領域を含む。受容体のこの広い分布は、各組織、細胞種に存在するコファクター(補助因子)の特別な種類、及び濃度とともにマッピング(位置づけ)される必要がある。これは、夫々の場合に、リガンド活性化後、集合することができる、潜在的核受容体複合体のより正確な像を提供するだろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明において、驚くべきことに、ある一群のC−19ステロイド化合物が、以下により詳細に説明するように、特別な治療上の使用において、顕著な肯定的効果を示すことが見出された。この特別な使用は、コラーゲンの安定化、増加、強化と結びついた使用、及び天延のアンドロゲン、ジヒドロテストステロン(DHT)の結合に抗したアンドロゲン受容体(AR)のシア兵に基づく使用であり、一方、以下に詳細を記すようにそもそも直接のアロマターゼ阻害効果を回避する。本発明に従い選択したこのC−19ステロイド化合物の上記の有用な使用は、このC−19ステロイド化合物がアンドロゲン受容体(AR)に対して持つ高い結合親和性という特性;しかしながら、一般的にテストステロン及び特にジヒドロテストステロン(DHT)のような天然(体内)由来のアンドロゲンをARから遮蔽する効果を経由したアンドロゲン様活性を下げるという特性;及び同時に標的組織及び器官、及びそれ等の周囲の状態への同化作用活性を発揮する特性;に基いている。
【0014】
本発明によると、この使用を、C−19ステロイド化合物を選択することにより、相応して決定することができるが、選択されるC−19ステロイド化合物は、ARへのDHTの結合を阻害する効果(参照化合物としてDHTに対する結合研究により測定可能)、及び同化作用効果(例えば、このような亢進に感受性のある、繊維芽細胞のような、参照細胞のコラーゲン産生の亢進を測定することにより測定可能)の両効果を有する。この使用はさらに、AR結合及び同化作用効果に影響を与えるに適切な投与量により決定され、及び、適切な適用条件により決定されるが、適切な適用条件とは、患者の種類又はAR陽性(即ち、測定可能なアンドロゲン受容体を有すること)である標的部位又は器官の種類、又はin vivoにおいて上記の活性を患者内の指定された最終標的部位又は器官に輸送できる標的部位又は器官の種類である。
【0015】
生物学的経路上でアンドロゲン様効果を減少させ又は完全に取り除くことにおける高い活性を有し;他方、脂肪細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、基底細胞、骨細胞、前立腺の腺細胞及び他の細胞、乳房の腺細胞及び他の細胞、及び他の細胞、これらの細胞を囲む器官又は身体のような、治療上の適用に特に関係する標的部位、組織、及び器官上で同化作用活性を高めることに関して高い活性を有する化合物は、驚くべきことに、テストステロン及びジヒドロテストステロンを除外してアンドロステン−17−オール−3−オン構造と関係していることが分かったが、ここで本発明の所期の効果をもたらす、より高い活性の化合物は、一般的なC−19ステロイド構造内の17−オール(水酸)基に結合した、1−エン二重結合、及び/又は4−エン二重結合、及び/又は置換基により、更に定義される。
【0016】
本発明を具現化する上でより活性が高い、上記のように定義した化合物群内でのC−19ステロイド化合物の選択を対象とするより好ましい実施態様の中で、このC−19ステロイド化合物は:
(ii)同化作用活性の亢進、と組み合わせた(i)AR上の遮蔽効果に加えて、以下:
(iii)アロマターゼにより芳香族化されない化合物;
(iv)5α−レダクターゼにより還元されない化合物;
(v)5α−レダクターゼを阻害する化合物;
の諸効果、又はこれらの単独又は組み合わされた特性を有し、
(vi)そのC−17酸化代謝物の形で亢進したアロマターゼ阻害を示す。
【0017】
上記(iii)から(vi)の単独の、又は組合せの、特性の各々は、AR遮蔽及び同化作用亢進の一次活性と組み合わせたとき、ホルモン又はホルモン様代謝物のさらなる補給又は遮蔽を導き、これらは、さもなければ本発明に従う所期の効果を阻害する。例えば、選択した化合物が、アロマターゼ又は5α−レダクターゼ、又は両者により代謝されない場合、とりわけ、細胞、組織、腺、及び上記の関連器官のような標的部位に、エストロゲンも、エストロゲン様代謝物も、アンドロゲン様活性代謝物も産生されず、従って、同化作用効果は亢進されるが、アンドロゲン様効果は、更に減少する。大袈裟な男性化は効果的に減らすことができる。更なる、5α−レダクターゼの阻害は、更にアンドロゲン様活性を減少させる。更に、in vivoで適用後、本発明の化合物が17β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼにより酸化されると、これらは、活性のより高いアロマターゼ阻害剤に転換されることができて、従って、ある種の適用に価値のある標的部位での活性を更に変化させる。
【0018】
本発明によれば、上記の効果又は特性(iii)から(vi)を単独で又は組み合わせて持つC−19ステロイド化合物を選択することにより、その使用を相応して決定することができる。これらの(iii)から(vi)の効果又は特性は、既知の方法により、相応して、測定することができる。本発明に従う使用は、更に、化合物の適切な投与量、及び適切な適用条件、により決定することができて、適切な適用条件としては、患者の種類、又は上記(iii)から(vi)の効果又は特性を単独で又は組み合わせて可能にする標的部位又は器官の種類がある。
【0019】
本発明の化合物のステロイド性性質は、幾つかの更なる利点と関係する。例えば、この特色は、細胞内で2型17β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼにより、活性のより高いステロイド性アロマターゼ阻害剤に変換される。さらに、特に4−ヒドロキシテストステロン又はこの塩又はエステルの場合、脳下垂体からのゴナドトロピンの放出に負のフィードバックを発揮する潜在的能力がある。従って、性ホルモンの産生は、全身的に更に低下する。この化合物自体は、同化作用を示すことができるので、テストステロンの損失を補填することができて、及び良性前立腺肥大(BPH)及び前立腺癌の場合特に価値のある、DHTの遮蔽を助けることができる。更に、従来の治療による前立腺癌に対してアンドロゲン受容体遮蔽治療の間使用するならば、本発明に従う使用により達成されるフィードバック特性は、男子乳房肥大の発達の傾向を幾らか緩和する。
更に、ステロイド構造のお陰で、本発明の化合物は顕著に局所投与を助力することができる、疎水的特性を示す。
【0020】
本発明の特別な実施態様において、この化合物は、次の化学式:
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、但し、
a,b、及びcのうち少なくとも一つは、二重結合を表し、またもしaが単結合であり、bが二重結合であるならば、Rは水素原子ではなく;Rは水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基であり;
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖又は分枝アルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、cが二重結合の場合は、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し;
は、水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基、非置換の又は炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、CORアシル基(式中、Rは、水素原子;炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基;それぞれ非置換の又は炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基又はベンゾイル基を表す。)、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基になるいかなる置換基を表す。)で表される化合物及びこれらの塩から選択される。
【0021】
確実に芳香族化せず、ARに対して強い親和性を約束し、さらに上記の条件(iv)〜(vi)を満足する活性を有する、という好ましい整合性の観点において、好ましく選択される化合物は、化学式(化1)において、bが二重結合であり、Rが水酸基及び/又はRがメチレン基であり、またRが水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基又は炭素数が1〜6のアシル基である。特に好ましい化合物は、4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン(4−ヒドロキシテストステロン;4OHT)(化学式(化1)において、aは単結合、bは二重結合、cは単結合、RはOHであり、またRは水素原子である。)、及び対応するエステル類(例えば、化学式(化1)において、RがCORアシル基を表す。)及び塩類である。
本発明の特に好ましい化合物である、4OHT及びその塩類及びエステル類の場合、もし望むなら、ゴナドトロピン分泌への負フィードバックとなる効果を利用して使用することができる。
本発明の化合物はまた、代謝されて上記のように定義した化合物になる化合物も含まれる。
【0022】
更に、標的細胞上で、単なるアンドロゲン性効果ではなく、主に同化作用活性を有する化合物を用いることは好ましい。標的細胞上でアポトーシスの効果をも示す化合物は更に好ましい。これら全ての効果は4−ヒドロキシテストステロン(4OHT)と結びついていることが見出され、また同じことが上記化合物のエステル類及び塩類に対しても相応して適用すべきである。
理論上ばかりではなく、実際上、本発明の化合物及び特に4−OHT及びこの関連する類縁化合物は、理想的な同化作用物質である。これはそのまま残り、また芳香族化又は5α還元から逃れる。最小限のアンドロゲン性効果を実質的に発揮すること無く又は禁止さえして、ARに対してDHTより高い親和性を持って結合することにより、それ(4−OHT)は、DHTの受容体への結合を妨げるが、しかしこの化合物のアンドロゲン受容体への結合は、主として又は専ら同化作用効果に導く。このことは、皮膚への局所的投与から推量することができる。臀部上の皮膚部位において、この化合物は同化作用的に、コラーゲン繊維の濃度を増加させる。
【0023】
EP0307135Aは、上記の化学式に分類されるいくつかの化合物を部分的に開示できるかも知れないが、この治療構想はアロマターゼ阻害のみを扱う、又は、もし可能なアンドロゲン性の活性に関係するとしても、ゴナドトロピン分泌(即ち、生殖腺、卵巣、LH-関連効果及びその他を介する作用を必要とする、全身効果)の減少を介して、エストロゲン生合成の阻害効果に関係する。しかし本発明の構想は異なっており、従って、化合物は、明白に異なった規準により選択されるが、その規準は、標的細胞又は標的組織の受容体状態;投与方法;患者群;及び特定の指示した使用;に対して、単独又は組み合わせて、向けられた検討により所定の部位に直接働く効果の観点による。例えば、本発明に従う使用のために、もし、AR陽性標的細胞又は組織;皮膚又は粘膜への好ましい局所的投与;及び良性前立腺肥大、前立腺癌(恐らく、通常の治療への補完)、コラーゲンに関係する疾患;骨粗鬆症、女性の進行中のホルモン補充療法、及び乳腺痛に対する治療及び/又は予防的な処理;のような状況が観察されるならば、改善された効果が得られる。
US2,762,818Aの開示は、医学的意味合いとして、アンドロゲン欠乏状態自体を治療するための、4−ヒドロキシテストステロン及びこのエステル類の使用を越えない。C−4位置での置換がエストロゲンへの芳香族化を阻害し又はこの化合物を5α−還元してDHTに変えることにより男性化を妨げるという事実は述べられてない。テストステロンに内在するこれらの代謝的可能性は、この時点(1956年)には知られてなかった。本発明に従う使用を推量できたかも知れないアンドロゲン遮蔽活性を示唆する目的も、発見も無かった。
さらに、US2003/0229063Aは、ヒトにおける低アンドロゲン/エストロゲン比(内分泌疾患に至る)を取り扱い、及びこの目的の為だけに、エストロゲンレベルを下げる目的で主張されている直接的アロマターゼ阻害効果のみに基づき、4−ヒドロキシテストステロンを使用することを試みる。
【0024】
本明細書に参照文献としてその全体が取り込まれたWO2005/062760において、前立腺発癌及び乳癌におけるアンドロゲン受容体(AR)の可能性のある役割を討議して、ARの存在を検定することにより、乳癌を診断する方法を提示する。しかしながら、治療学的概念の観点では、WO2005/062760は、AR活性阻害による乳腺発達の文脈において、AR自体を制御することに限定されており、アンドロゲンを介在する活性ではない。
さらに、US2003/0199487A1は、4−ヒドロキシアンドロステンジオン代謝物及び、4−アンドロステンジオン前駆体ホルモンを経由して、DHTが関連する副作用なしに、脂肪のない体重及び運動実行の促進のために、アンドロゲンレベルを次第に増加させることを追求する。
【0025】
本発明で用いられる化合物は、アンドロゲン受容体(AR)に対してDHTよりも高い結合親和性を有することが好ましく、IC50<500nM、好ましくはIC50<100nM、より好ましくはIC50<50nMの範囲のARに対して特異的な高い結合親和性を有することがより好ましい。ここで、IC50は、参照化合物である5α−ジヒドロテストステロン(DHT)の結合を50%減少させるに必要な化合物の濃度で定義される。このIC50値は、例えばRaynaud他による、J. STEROID BIOCHEM. 6、615-622(1975)に記載されている、標準的デキストランで覆われた活性炭吸着法による、参照化合物として放射活性標識したDHTを用いて、1nM参照濃度の放射活性標識した[3H]−DHTを用いた既知の方法により、又は参照文献に記載されている同様のIC50測定法により測定することができる。標的細胞におけるARの濃度は非常に低く、通常ナノモル範囲なので、本明細書で検討されたオーダーの結合定数の差異は顕著である。
【0026】
アンドロゲン受容体(AR)に関して標的細胞又は標的組織の受容体状態、及び恐らく他の受容体について、他の情報又はデータが知られてなくとも、これらを測定することは可能であり、またもし望むのであれば、当業者に既知の標準的方法により測定できて、これらの標準的方法としては、AR-特異的又は他の受容体−特異的抗体を用いる免疫学的検定法、DNA及び/又はRNAハイブリダイゼーション検定法又はAR-特異的又は他の受容体−特異的核酸プローブを用いたPCR増幅検定法がある。
本発明の化合物は、指定した条件に対して有効量が用いられるであろう。本発明に従う"使用"は、特定の化合物による治療方法又は予防方法又は上記使用に対する適切な担体及び/又は希釈剤を伴う活性成分と同じものを含む組成物を含み、及びこの組成物の調製における使用を含む。
【0027】
本発明の化合物を用いて行う実験において、これらの化合物は優れた皮膚透過性を持ち、その結果所定の効果が単純な局所投与により達成されることが示され、単純な局所投与としては、例えば、軟膏、ローション又はクリーム等々であり、これらは治療の必要のある患者の局部に有効量の本発明の化合物を投与することを含む。局所投与後、この化合物(類)は皮膚を透過し、また脂肪組織に濃縮する。好ましい態様において、本発明の化合物は、皮膚透過促進剤と組み合わされる。
【0028】
本発明の特に好ましい化合物、4−ヒドロキシテストステロンは、US2762818Aに開示され、また商品として入手可能である(例えば、Bulk Nutrition, Graham, NC, USA-更なる情報はbulknutrition.comを参照;WINKOS GmbH D-79189 Bad Krozingen,DE)。好ましい4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オンの特に塩及びエステル等の誘導体は、直鎖型、分枝型又は環状の適切なエステル基;又は、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、及びベンゾイル基のような芳香族アシル基;を含むが、これらに制限されない。エステル類は、4及び/又は17水酸基、好ましくは17水酸基を伴って合成することができる。この塩類及びエステル類はまた既知の方法により調製できる(例えば、US2,762,818Aを参照)。
【0029】
本発明の化合物;及び調製又は組成物は、様々な形で投与することができて、例えば、局所的に、軟膏、クリーム、ローション、ゲル、スプレイ、粉末、油又は経皮的膏薬、(錠剤を含む)貯蔵型の形で;経口的に、錠剤、カプセル、砂糖又はフィルムで覆われた錠剤、液性溶液又は懸濁の形で:直腸に、座薬の形で;非経口的に、例えば、筋肉中に又は静脈注射又は輸液により投与することができる。好ましい実施態様によると、本発明の化合物類は、局所的投与の為に企画されている。
適用量は使用者の年齢、体重、体調及び投与形態による;例えば、成人の経口投与に適用される量は1使用あたり、約10から150〜1000mg、毎日1〜5回である。
本発明は、担体又は希釈剤と組み合わせた本発明の化合物を含む、調製又は組成物を含む。
【0030】
局所使用に対して、この組成物は、例えば植物油及びアーモンド油、ピーナッツ油、オリーブ油、桃芯油、調味用油のような脂肪;植物抽出物;製油;さらに植物性ワックス及び合成及び動物油;ステアリン酸及びステアリン酸エステル、ラウリン酸及びラウリン酸エステル、ソルビタンエステル、セテアリルアルコールのような脂肪及びワックス;レシチン、ラノリンアルコール、カロチン、フレグランス類、一価又は多価アルコール、尿素、プロロクサマー(Proloxamer)、トウィーン(Tween)等々のような界面活性剤;保存剤及び着色剤その他を含めて、処方することができる。水中油又は油中水懸濁液としての処方は好ましい。
【0031】
固体経口法は、例えば、活性化合物と共に、例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシ又はジャガイモ澱粉のような希釈剤;例えば、シリカ、滑石、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウム、及び/又はポリエチレングリコールのような潤滑剤;例えば、澱粉、アラビア糊、ゼラチン、メチルセルローズ、カルボキシメチルセルローズ又はポリビニールピロリドンのような結合剤;例えば、澱粉、アルギン酸、アルギン酸塩又はグリコール酸ナトリウム澱粉のような凝集防止剤;発泡性混合物;色素、甘味剤;レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩のような加湿剤;及び、一般的に、薬理学的処方に用いられる非毒性及び薬理学的に不活性な物質;を含むことができる。これらの調製物は、例えば、混合、粒状化、錠剤化、糖被覆又は薄膜被覆過程により既知の方法で加工することができる。経口使用のための液性懸濁物は、例えば、シロップ、乳濁液、及び懸濁液であることができる。
シロップは、例えば、サッカロース又はグリセリンを伴うサッカロース及び/又はマンニトール及び/又はソルビトールを、担体として含むことができる。
【0032】
懸濁液及び乳濁液は、担体として例えば天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコールを含むことができる。
筋肉内注射のための懸濁液又は溶液は、活性化合物と共に、例えば滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチルなどの医薬上許容される担体、例えば、プロピレングリコールのようなグリコール類、及びもし希望するなら、適切な量のリドカイン塩酸塩を含むことができる。
静脈内注射又は輸液のための溶液は、担体として、例えば滅菌水を含むことができて又は好ましくは、この溶液は滅菌した、水溶性、等張塩液の形であることができる。
座薬は、活性化合物と共に医薬上許容される担体、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤又はレシチンを含むことができる。
【0033】
適切な組成物の活性化合物含量は、本発明の化合物を0.0001〜20重量%、好ましくは、0.6〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%であることができる。通例の範囲は、0.6〜5重量%である。
皮膚透過性を促進するために薬物を混合するとするならば、これらの含量は、ヒアルロニダーゼの場合、例えば、0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%、ジメチルイソソルビド又はDMSOの場合、1〜25重量%、好ましくは5〜10重量%であることができる。
【0034】
本発明の特別な態様において、上記の化合物は、適切な溶媒を伴う適切な局所投与型に処方化される。化合物の上皮透過性の有効な補助剤と組み合わせて、本発明の化合物の種類に対して優れた溶解度という点で、特に効果的な溶媒として、ジメチルイソソルビド(アルラソルベ(Arlasolve)DMIとも呼ばれ;ICIより入手可能)が単独又は例えばエタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール及びこれらの混合物の様なアルコール類又はポリオール類及び恐らく上記の他の成分のような他の担体又は溶媒と組み合わせて見出された。
【0035】
もし望むのであれば、上記の効果は、さらに5α−レダクターゼを阻害するに充分な量の5α−レダクターゼ阻害剤、及び/又はARを遮るに充分な量の抗アンドロゲン又はSARMを用いて、補完することができる。この点で、フィナステリド、6−アザステロイド類のような5α−レダクターゼ阻害剤;及び1型又は2型の5α−レダクターゼを阻害する又は1型及び2型両者を阻害すると知られている他の化合物を;上記化合物と組み合わせて使用することができる。さらに、そのようなものとして既知の抗アンドロゲンを、ビカルタミド又はフルタミドなどと組み合わせて使用することができる。本発明によると、SARMは既知の抗アンドロゲンという用語に含まれるものと理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、好ましいが制限されない態様を示すが、そこでは特に有効な適用分野において、本発明の化合物の効果が示される。
良性前立腺肥大(BPH)
良性前立腺肥大(BPH)は、膀胱からの尿の流れに制限を与えることができる、前立腺の非癌性肥厚である。細胞蓄積及び腺の肥厚は上皮及び基質の増殖、損なわれたプログラムされた細胞死(アポトーシス)又は両者によることができる。上皮及び基質における増殖、分化、アポトーシス及び老化を含む細胞変化が、BPH病因に関係している。分子解析によると、疾患の進行に重要な無数の候補遺伝子が現れてきた。BPH組織におけるサイトカイン及び成長因子の発現差異(differential expression)により、炎症及び低酸素症の役割が示唆される。より最近、前立腺肥大及び膀胱出口障害(BOO)に続く排泄機能障害が、一般的に下部尿路症状(LUTS)と名付けられた。これらの実体は重なる;BPHを患う全ての男性がLUTSではなく、及び同様に、LUTSを患う全ての男性がBPHではない。同じことがBOOに対してもいうことができる。
BPHは、腺の尿道周囲及び移行帯に生ずる前立腺の基質及び上皮要素の両者に関係する;この状態は男性の老化の正常部分と考えられる。
【0037】
前立腺は、男性生殖システムの一部を形成する、クルミ大のサイズの腺である。この腺は、組織の外層(鞘)に囲まれた幾つかの部位又は葉からなる。異なるゾーンは、周囲、中央、前部線維筋性間質及び移行部である。尿道を囲む移行部は、ホルモン依存的に年齢とともに肥大する。去勢した男性は、BPHを患わない。過去において、慢性的な終末期のBOOは、しばしば腎臓故障及び尿毒症を導いた。今やこの合併症はずっと少ないが、BPHに対して2次的な慢性的BOOは、尿滞留、腎臓不全、再発性尿路感染、肉眼血尿及び膀胱結石を導くことができる。BPHは、50歳以上で約75%の男性の生活の質に影響を与える一般的問題であり、及び70歳及び80歳代で90%の男性は幾つかのBPHの症候を持つ。80歳までに90%の男性に、BPHの組織学的証拠が生ずる。世界的には、約3千万の男性がこの良性肥大に関係する症候を有する。
【0038】
BPHは進行性の疾患である。進行は幾つかの方法ではっきりすることができる:LUTSの悪化、尿流の減少、前立腺の引き続く成長、急性尿貯留、外科手術の必要、膀胱合併症、血尿及び再発する尿路感染。これらの事実は、一般的に、患者の生活の質を悪化させる。これらの疾患は幾つかの理由で予防できる。第1に、大部分の男性において、BPHは進行性疾患である;放置すると、やがて、前立腺はより大きくなり、尿流は遅くなり、及び排尿症状が増加する。第2に、BPHの進行は、危険性のある男性にBPH疾患に導くことができる。
第3に、30〜40cc又はそれ以上の前立腺容積を反映する、血清中のPSAレベルの増加、一般的に1.5ng/ml又はそれ以上、により危険性のある男性を同定することができる。第4に、薬剤を阻害する5α−レダクターゼは、BPHの主要な原因である前立腺内DHTを低下させることができて、及びそれにより危険性のある男性のBPH疾患を予防する。有効性は症候に関係するのではなく、血清PSAレベル>1.5ng/mlにより反映される前立腺容積のみに関係する。
【0039】
循環しているテストステロン(T)は、19歳から平均して1%/年の速度で長期的に減少する。血清中のTの遊離した分画又は透析可能な分画、及び生体利用可能(遊離分画及びアルブミン分画に緩い結合の総和)Tは、年齢とともにより早く減少する。プラズマ中のテストステロンの減少値及びゴナドトロピンに対する応答の乏しさは、老人における精巣の合成能の低下を示す。血漿テストステロン値が減少すると、LHが増加する。老人におけるLH−RH刺激に対する脳下垂体前葉の応答は、正常である。アンドロゲンからの変換の増加により、基礎条件下において、血漿エステロン及びエストラジオール濃度は、年齢とともに顕著に増加する。血漿エストロゲン値に平行して、性ホルモン結合グロブリン(SBHG)の濃度の増加が見出され、遊離した(=活性な)テストステロン分画の急激な減少をもたらす。SHBGにより強く結合し、血漿エステロン及びエストラジオール値を増加させるテストステロンの減少は、老人におけるアンドロゲン/エストロゲン不安定をもたらす。
【0040】
BPH基質は、上皮より2〜3倍高い5α−レダクターゼ活性を示す。BPHにおいて、前立腺は、正常腺より2倍高いDHTを含む。その大部分は核分画に見出され、それによって、BPH基質の核DHT含量は、BPH上皮より顕著に高い。更に、BPH基質の核は、上皮核より顕著に多くのエストラジオールを含む。アンドロゲン受容体は、BPH上皮及びBPH基質の間で均一分布するが、エストロゲン受容体は、好んでBPH基質に分析される。前立腺内エストロゲン及びこれらの受容体は、基質において上昇し、また濃縮されている。見かけ上BPH基質は、5α−レダクターゼ活性及びDHT濃縮の優先的組織であるだけではなく、核エストラジオール蓄積の優先的組織である。
【0041】
アンドロゲン及びエストロゲンの前駆体は、副腎皮質から由来する。主要な産物は、DHEA(側鎖が最早ない)である。DHEAは、哺乳動物に異常に高濃度存在する。これは、全ての細胞膜を透過することができる。細胞内に存在する異なる酵素に依存して、これは、最後はテストステロン又はエストラジオールとして終わることができる。鍵となる前駆体は、アンドロステンジオンであり、これはDHEAから細胞内で1段階で作られる。この段階及び以下の段階は、LHにより加速される。LHに対する受容体は、正常前立腺及び肥厚性前立腺に存在する。LHの増加は(老人における)、前立腺におけるDHTの濃度の増加に寄与することができる。DHT及びエストラジオールの局所的産生は、BPHにとって決定的に重要である。ヒトBPHにおいて、bFGF,KGF及びTGFbeta形成に対するエストロゲンの制御的効果が存在するというはっきりした証拠は無い。高い脂肪消費に特徴付けられる西欧の食習慣は、男性をBPHに罹りやすくし、他方、植物性エストロゲンを含むフラボノイド及びリグナンは、この危険度を下げる。これらのデータから、BPHの内科療法において、抗エストロゲン又はアロマターゼ阻害剤を用いることができる:しかしながら、現在までのところ、これらの治療の臨床結果は、期待が持てず、及び閉塞性症候群の改善は、偽薬の域を超えない。この不満足な結果の可能な説明は、アロマターゼ阻害剤使用に対して2次的なエストロゲン減少は、アンドロゲン前駆体の上昇により、相殺されるであろうということである。
【0042】
本発明に従って選択された化合物は、これらの薬剤が次の特徴:5α−レダクターゼの阻害;アンドロゲン受容体の遮蔽によるDHT結合阻害;ゴナドトロピン分泌への負フィードバックを発揮しうる;及び特に、in vivoでC−17位置で酸化された後、アロマターゼの阻害;を共通に有するので、BPHの予防に対して理想的である。これら全ての特徴は、4−ヒドロキシテストステロンに最も有効に見出され、このことは、この化合物の塩類及びエステル類にも適用される。特に、アロマターゼの不活性化は、前立腺の上皮に存在する、2型の17β−ヒドロステロイドデヒドロゲナーゼによる細胞内酸化により生ずることができる。C−19ステロールは、より少量産生され、DHTにゆっくり還元され、またDHTは、アンドロゲン受容体に結合できないので、アロマターゼ阻害を行う手法はこれである。本発明により開示された無害の薬剤を使用したこの種の1次予防は、全ての老人男性に対して役立つ。
【0043】
本発明に従って用いられる化合物はまた、座薬を等して局所的に前立腺に適用できる。この局所的適用は、高い前立腺内薬剤レベル、及び有用な全身的薬剤レベルをもたらすことができる。
男性乳癌とフィナステリドが結びつく証拠は、約3047人の男性の前立腺症候群の内科的治療(MTOPS)研究に由来する。4人の乳癌が発生し、グループの4人の中の3人はフィナステリド治療のみを受けた。本発明の化合物、特に4−ヒドロキシテストステロン及びこの塩類及びエステル類は、乳癌を刺激するよりむしろ妨げた。従って、本発明の化合物を、単独で;又は従来の5α−レダクターゼ阻害剤又はフィナステリドのような抗アンドロゲンと組み合わせて;BPHを防止又は治療するために用いることができる。
【0044】
前立腺癌の予防及び/又は治療
正常な男性又は前立腺癌の危険性のある男性におけるテストステロン補足の臨床試験において、癌発生率の見かけ上の増加はなく、多数の長期的研究において血清テストステロンレベルと前立腺癌危険性の関係はなく、低テストステロンの男性の前立腺癌の危険性の減少は無い。低血清テストステロン及び若年は転移性前立腺癌になりにくいと予想する。
前立腺癌を予防する従来の戦術は、食事脂肪の減少、及びビタミンD及びE及びセレンの補足である。今までのところ薬理的な介入は、シクロオキゲナーゼ阻害剤、抗エストロゲン、及び特に5α−レダクターゼ阻害剤を含む。前立腺癌予防プログラムにおいて、血清PSAレベルが3.0 ng/ml以下の55歳以上の全18,882人の男性をランダム化して、5mg/日のフィナステリド又は偽薬を7年間与えた。治療群において、前立腺癌が25%減少したが、この結果は論争的に考察された。この批判は大部分、フィナステリド処理群において、著しく多い高度癌の観察に由来することができる。
【0045】
前立腺癌の抗ホルモン療法は、アンドロゲン受容体遮蔽物質単独又はGnRH類縁体との組合せを含む。これらの小ペプチドは、脳下垂体によるゴナドトロピンの分泌を妨害する。従って、精巣は、テストステロンの産生ができなくなる。DHEAのテストステロンへの変換は理論上維持される。実際前立腺内テストステロンは、約75%のみ減少し、DHTは約90%減少する。
アンドロゲン受容体遮蔽物質による以前の試みは、骨には有害ではないが、患者の40%に女性化乳房を起こす。GnRH類縁体は、骨粗鬆症を引き起こす。しばらくして、この悪性腫瘍は、アンドロゲンに独立して増殖できる。
もし悪性腫瘍が局在するならば、"注意深い待機"は治療上のオプションである。これは、癌の危険性の低い70歳以上の患者又は中程度の危険性を持つ80歳以上の患者に対してのみ合理的である。注意深い待機により、医師は活動的に及び注意深く患者を癌が悪化した徴候に対して観察し、悪化したとき疾患の症候を治療する。このPSAフェーズの間、この腺のサイズ及び組織像を監視する。
【0046】
本発明の構想の範囲内で、この注意深い待機は、本発明の化合物の投与により有益に補足されることができる。この化合物及び特に4−ヒドロキシテストステロンは、アンドロゲン受容体を遮蔽し、5α−レダクターゼを阻害し、及びゴナドトロピンレベルを低下させる。このようにして、女性化乳房の現象は、付加的に緩和される。
事実上望ましくない効果が無いので、本発明の化合物は前立腺癌の全てのステージにおいて他の治療に加えることができる。注意深い待機の場合、この化合物は、疾患に冒された皮膚又は粘膜上の夫々の局所的処方として最適に用いることができる。これは、座薬としても最も適切に処方される。
【0047】
更に期待できる構想は、DHT及び本発明の化合物との間の評価の比較に基づく。DHTは培養したある種の乳癌細胞の増殖を妨げることができるが、それに対し4−ヒドロキシテストステロンは、より効果的であることが示された。DHTはヒト前立腺癌細胞株LNCaPの変異種の増殖を阻害するので、4−ヒドロキシテストステロン、及びこの類縁化合物は前立腺癌細胞の増殖を遅らせることができるということが信じられる。この効果は、ホルモン非依存性癌に対してもまた真実であることできる。
【0048】
前立腺癌と結びついた女性化乳房
多量の筋肉増強剤(同化ステロイド)を消費する男性(例えば、ボディービルをする人、一般的フィットネス擁護者)は、彼等の体脂肪が8〜10%(正常は15%)に減少するにも拘わらず、逆説的にしばしば女性のように乳房を成長させる。エストラジオール又はエストロンを生ずるステロイドのみが、これらの"雌犬の乳房"を作り出すことができる。女性化乳房は、乳房組織の性ホルモンの不均衡に二次的な男性乳房の腺成分の増殖を伴う一般的なの状況である。長期にわたる筋肉増強剤の投与は、テストステロンのエストロゲンへの変換を通して、循環エストロゲンの過剰を引き起こすことができる。女性化乳房組織には、エストロゲン及びアンドロゲン受容体の両者が存在するので、乳房への大きなエストロゲン効果は、乳房肥大を引き起こすことができる。乳房組織の優先は、アロマターゼは男性において、乳房組織で優先的に発現することを示す。月並みに、局所的調整されたDHTは、女性化乳房の制御に使用される。見かけ上、アンドロゲン受容体は、局所的体脂肪の蓄積に抗する防御をする。
【0049】
前立腺癌の治療において用いられる従来型のアンドロゲン遮蔽剤は、また女性化乳房を引き起こす(一回処理により、これら遮断剤は患者の約49%に女性化乳房を引き起こすが、GnRH作用薬と組み合わせてこれは20%に低下する)。GnRH作用薬はこれら自体、患者の9%に女性化乳房を引き起こす。LHは局所的なエストロゲンの産生を促進するので、このことは、ボディービルをする人におけるテストステロンレベルの増加は、LHの増加と合わせて、女性化乳房を引き起こすことを示す。テストステロンもLHも増加しないので、見かけ上、GnRH作用薬は、これら自体女性化乳房を引き起こす。この局所的テストステロン産生に対する基質は、DHEAの可能性が最も高い。LH受容体は、皮膚、乳房のような多くの組織に存在する。GnRH受容体もまた、乳房に存在する(Harrison 他, Endocr Relat Cancer. 11(4):725-748 (2004))。従来、女性化乳房を、非ステロイド性アロマターゼ阻害剤レトロゾール又は選択的エストロゲン受容体調節因子タモキシフェンを全身的に治療してきた。唯一エストロゲン受容体調節/遮蔽の治療だけが、幾つかの成功を示した。このことは、例えば4−ヒドロキシテストステロンに特有なアロマターゼ不活性化の潜在力は、前立腺癌治療を受けている患者の女性化乳房の治療に対して、主要な重要性を持たないことを示す。
本発明に従って用いられたこの化合物は、それ自体のアンドロゲン性なしに、同化作用活性を有するので、AR遮蔽薬剤により前立腺癌治療を受ける患者の女性化乳房に対する緩和効果は、脳下垂体によるゴナドトロピン分泌の負フィードバック制御を経て進む、従って、結果的に、全身的にLHのレベル、及び局所的にエストロゲンのレベルを減少させる。これは、特に4−ヒドロキシテストステロン及びこの塩類及びエステル類に適用される。
【0050】
コラーゲンの制御
セルライトは、不安定な皮下構造、及び特に脂肪組織及び真皮組織の領域又はこれらの間の領域に起因する問題である。これらの構造を安定化するために、構造タンパク質及び弾性繊維が関係する因子であり、また通常繊維芽細胞がこのような構造タンパク質及び繊維の産生に関わる。
アンドロゲン受容体の存在により、少なくとも部分的に、セルライト及び他の冒された皮下組織の形成に関与する当該標的細胞において、人は本発明の化合物と結びつく2重の活性を有効使用することができるが、ここで2重の活性とは即ち、ARとの結合であるが本質的にアンドロゲン性効果を持たず、他方、繊維芽細胞のような関係する標的細胞上に同化作用活性を示すことが見出された。本発明に従う好ましいステロイド類の選択により、DHTのような自然に誘導されたアンドロゲン類の効果に対抗してARを遮断し、他方構造タンパク質及び弾性繊維の産生を好ましく促進し、及びこれらの同化作用効果により、特にコラーゲン合成を好ましく促進する。
【0051】
アンドロゲン受容体はヒト皮膚に存在することが見出されている(例えば、Liang 他, J. Invest. Dermatol. 1993, 100(5), pp. 663-666 (1993)を参照)。さらに、アンドロゲン性効果が、より良く遮断されることができると、ますます同化作用効果及びとりわけコラーゲン産生の促進が盛んになる(例えば、J. Clin. Endocrinol. Metab. 89(6), pp. 2033-241 (2004)の中でMeier他による観察に基づく)。
セルライトの好発部位上の皮膚を、4−OHTを含む調剤で局所処理すると、4週間以内に、皮膚のかなりな固化が起こるという観察は、この調剤は、同化作用効果を持つことを確認する。この皮膚強化に横たわる機構は、コラーゲン繊維のメッシュ中にトラップされた脂肪細胞の顕著な減少と縮小を伴う、皮膚におけるコラーゲン繊維の劇的な増加である。セルライトは、下にある脂肪組織の真皮への広汎なパターンの押し出しを示す。2種の層の間の境界は、コラーゲン繊維からできている。繊維芽細胞を刺激してコラーゲン含量を増すことにより、この境界を強化すると、セルライトの様子が著しく改善される。
【0052】
本発明に従う4−OHT又は類縁化合物のような化合物を含む局所的処方により、繊維芽細胞が刺激されて、皮膚のコラーゲン含量を増加することができる。4−OHTを含む局所的処方は、4−OHAより優れていることが証明された。4−OHTは同化作用効果のみを持つと仮定することが妥当である。皮膚への適用後、この非常にアンドロゲン感受性の高い器官において、どんなものであれアンドロゲン性効果は観察することができなかった。見かけ上、4−OHTは発毛又は吹き出物のようなどんなアンドロゲン性効果も発揮することができない。
同様に、コラーゲンの強化、安定化、及び/又は増加が問題である適用症例、即ち、セルライト以外の目的に対する皮膚への適用に対して、有益な効果を、想定することができる。
対応して、本発明に従って予期される、靱帯、筋膜、腱、軟骨、骨、象牙質及び動脈、静脈の血管壁、及び尿路への応用のような、コラーゲン及び他の支持タンパク質が重要な役割を果たす予防上の応用及び/又は治療がある。同様に、本発明の化合物は、心筋梗塞及び脳梗塞;骨粗鬆症;動脈硬化;尿失禁;太陽へ暴露した皮膚の改善;のような予防及び/又は治療に対して有効であるが、これらに制限されない。
【0053】
骨粗鬆症;女性におけるホルモン補充療法(HRT)
最近、ホルモン補充療法は乳癌の進行を助けると伝えられたことで、閉経後の女性に対するこの療法が信用を落とした。本発明により開示された化合物、及び特に4−ヒドロキシテストステロンは、C−17位における酸化を通して、細胞内の変換により亢進したアロマターゼ阻害剤により、むしろ抗エストロゲン性であると推測されたけれども、これらの筋肉、骨に対する同化作用効果は、有益に、骨粗鬆症を緩和する。
更に、乳房内で、細胞内的に、C−17酸化型に変換された後、高い潜在的アロマターゼ阻害特性、及びこのエストロゲン受容体陽性の乳癌、及び大部分のエストロゲン受容体陰性の乳癌のサイズを減少させる本発明の化合物の活性は、本発明の化合物を閉経後の骨粗鬆症の予防に非常に適切なものにしている。閉経後状態の顕著な特徴は、持続的なゴナドトロピンの上昇である。多くの組織及び器官はLH受容体を有するので、本発明により開示した化合物を用いた予防及び/又は治療なしでは、支配的な酵素活性に依存したDHEAのエストロゲン又はアンドロゲンへの局所的変換が非常に増加することは有りうる。閉経に伴う他の病訴の幾つかはこの事実によると考えられる。
【0054】
骨粗鬆症の診断上の顕著な特徴は、X線における骨密度の減少である。治療は、今までのところ、ミネラル補給に集中する。しかしながら、コラーゲンがなければ、ミネラル補給するものがない。従って、計画は、骨分解の低下であるべきではなく、骨内のコラーゲン産生を活?にサポートすることである。骨粗鬆症は、純粋なアンドロゲン性効果を与えるアンドロゲン受容体の機能の遮蔽に殆ど依らない。XY女性(CAIS)には、骨問題がない。アンドロゲン受容体の治療上の遮蔽に対して最も良く用いられる物質である、ビカルタミドは、骨に対して僅かな負の効果のみを持つ。ステロイド性アロマターゼ不活性化剤及び非ステロイド性アロマターゼ阻害剤は、同化作用化合物を増加させることができるので、ステロイド性アロマターゼ不活性化剤は、非ステロイド性アロマターゼ阻害剤より、骨に対する直接の効果は少ない。
【0055】
本明細書に開示した化合物、及び特に4−ヒドロキシテストステロン及びこの類縁物質は、同化作用効果を示し、及び同化作用療法の結果と懸念されている不都合な効果である、真のアンドロゲン性効果を持たないので、この目的を達するために、理想的である。更に、これは体内由来のDHTと結びついたアンドロゲン性効果を阻害する。このことは、この化合物を、HRTに無関係に男女両性の老人に対する理想的な同化作用療法にする。
本発明の原理に基づき、4−ヒドロキシテストステロンのように開示した化合物は、脳下垂体によるゴナドトロピン分泌上に負のフィードバックを働く力が与えられるならば、閉経後の女性に更なる有益な効果を有する。あるいは、乳癌予防及び同化作用発揮への視点で、従来のHRTを補うことができる。乳癌はHRTをこのように補足することにより、より安全に予防することができる。
【0056】
乳房痛
生殖可能生活の間しばらく、女性の2/3に乳房痛が影響する。これは通常良性であるが、乳房癌の恐れから、多くの女性は評価を希望して見せる。乳房痛は、月経前症候群、繊維嚢腫性の乳房疾患、心理的混乱、及び、希に乳癌と結びつくことができる。およそ15%に鎮痛療法が必要である。非周期的乳房痛は、全身的治療に対して良く応答しないが、50%までの症例は、直ちに解決する。
ダナゾール(Danazol)は、FDA認可の唯一のホルモン治療であり、また不都合な効果を制限するために、周期的に用いられてきた。タモキシフェンより効果は少ないが、ダナゾールは多くの効果を有する。これは、黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の月経性ピークを抑えるが、生殖腺非去勢ヒトにおける基礎のLH又はFSHを顕著に抑制しない。去勢した動物において、LH及びFSHの補償的増加を防ぐことができる。ダナゾールはアンドロゲン、プロゲステロン、及びグルコーチコイド受容体と結合するが、エストロゲン受容体と結合しない。ダナゾールは、性ホルモン結合性グロブリン及びコルチコステロイド結合性グロブリンと結合し、ステロイド合成の多数の酵素を阻害し、及びプロゲステロンの代謝的クリアランス速度を増加する。ダナゾールの代謝物はホルモン的に活性であると知られている。ダナゾールの他の生物学的特性は、ゴナドトロピン効果抑制の主要な1つである以外に、アンドロゲン性と関係する。
【0057】
更に、4−ヒドロキシテストステロン及び本発明に従う類縁化合物は、確かに、アンドロゲン効果に依ってではなく、脂肪組織の萎縮をもたらす。これらは、目立った同化作用効果を有するので、このような効果が、乳房組織への内部圧の減少、従って痛みの除去に更に寄与する、脂肪組織の減少の原因でありそうである。
本発明の化合物、特に4−ヒドロキシテストステロン及びこの類縁化合物、に対して明らかとなった様々な効果に基づき、乳房痛は非常に期待が持て、このような標的疾患に対しておあつらえ向きである。特に、乳房細胞内で酸化され、更により活性の高いアロマターゼ阻害剤になるために、脳下垂体におけるゴナドトロピン分泌への負フィードバック制御の高い活性と組み合わせて、及び引き続いて、全身的にLHレベル、及び最後にエストロゲンレベルの局所的低下は、乳房痛に対する特に有効な軽減活性を提供する。これら全ての活性は、羅患した女性乳房内の低い局所的エストロゲンレベルに寄与する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1
本発明の化合物を以下のように合成することができる。
第1段階として、2.5gテストステロンを100mlの冷MeOHに溶解する。9mlのNaOH(2%)及び17mlのH(30%)を加えた後、混合物を4℃、24時間攪拌する。得られたエポキシドを氷水で沈殿させる。
第2段階として、2gの乾燥エポキシドを2%のHSOを含む200mlの酢酸に溶解する。この溶液を室温で、4時間攪拌する。反応産物を氷水で沈殿させる。
その後、反応産物を1%のNaOH溶液で洗浄して、アセチルエステルを加水分解する。精製した4−ヒドロキシテストステロンの全収量は、40〜50%の範囲である。
【0059】
実施例2
本発明の局所投与に対するクリームは、以下の量の成分を用いて従来の方法で処方することができる。量は100gのクリーム当たりで与えられている:
4−ヒドロキシ−17β−アセチルアンドロスト−4−エン−3−オン 4.5g
セテアリルアルコール 7.5g
パラフィンワックス 3.0g
カルボマーナトリウム塩 2.5g
ミリスチン酸イソプロピル 6.0g
モノステアリン酸ソルビタン 1.0g
ポリソルベート20 3.0g
ステアリルアルコール 2.0g
ジメチルイソソルビトール(Arlasolve DMI) 5.0g
純水ad 100.0g
得られたクリームをヒトのBPH又は前立腺癌の様な、治療すべき疾患に冒された身体部位上の皮膚又は粘膜に局所的に与えることができる。このようにして、一日に3回このクリームを与えることができる。局所的投与は、従来の他の5α−レダクターゼ阻害剤又は抗アンドロゲン用いた治療と組み合わせることができる。
【0060】
実施例3
本発明のゲルは、以下の量の成分を用いて従来の方法で処方することができる。量は100gのゲル当たりで与えられている:
4−ヒドロキシテストステロン 2.5g
95度エタノール 70.0g
カルボポール980 0.5g
ミリスチン酸イソプロピル 2.5g
トリエタノールアミン 0.5g
純水ad 100.0g
得られたゲルを、骨粗鬆症に冒された(例えば、治療上の処置)又は骨粗鬆症に冒されたと疑われる(例えば、予防的処置)身体部位上に局所的に与えることができる。
【0061】
実施例4
全量100g当たり、以下の成分を混合することにより組成物が調整される。
4−ヒドロキシテストステロン 7.5g
ジメチルイソソルビド(Arlasolve DMI) 15.0g
95度エタノール 15.0g
純水ad 100.0g
この組成物を乳房痛に冒された女性の乳房上の局所的適用に用いることができる。
4−ヒドロキシ−17β−アセチロキシ−アンドロスト−4−エン−3−オン(4−ヒドロキシテストステロンの17−アセチルエステル)を4−ヒドロキサテストステロンの代わりに指示された量だけ用いることができる。
【0062】
実施例5
各重量が0.150gであり、25mgの活性化合物を含む錠剤は、以下のように調製することができる(10,000錠剤に対する組成):
4、17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン 250g
ラクトース 800g
コーンスターチ 415g
滑石粉末 30g
ステアリン酸マグネシウム 5g
4、17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン、ラクトース及び半量のコーンスターチを混合する;混合物を0.5mmメッシュサイズの篩にかける。コーンスターチ(10g)を温水(90ml)に懸濁して、得られたペーストを用いて顆粒化して粉末にする。顆粒を乾燥して、1.4mmメッシュサイズの篩上で粒状化し、その後残量の澱粉、滑石、及びステアリン酸マグネシウムを加えて、注意深く混合して、錠剤に加工する。女性化乳房の危険性を軽減する又は減少させるために、この錠剤を、従来の5α−レダクターゼ又はフィナステリドのような、抗アンドロゲン薬剤によって前立腺癌治療を受ける男性に対する予防的又は治療的処置として経口的に用いることができる。
【0063】
実施例6
各分量が0.200gであり、20mgの活性化合物を含むカプセルを調製することができる(500カプセルに対する組成):
4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン 10g
ラクトース 80g
コーンスターチ 5g
ステアリン酸マグネシウム 5g
この処方物を、2枚の硬いゼラチンカプセルに包み込み、各カプセルに対し分量は0.200gである。心筋梗塞、脳梗塞、及び動脈硬化の危険性を減少させるために、この錠剤を、血管壁のようなコラーゲンを含む組織を強化するために、経口的に用いることができる。
【0064】
実施例7
本発明に従う局所投与のための軟膏は、以下の量の含有物を用いて、従来の手法で処方することができる。100gの軟膏当たりの量が与えられている:
17β−ヒドロキシ−6−メチレンアンドロスト−1,4−ジエン 2.5g
プロピレングリコール 25.0g
ミリスチン酸イソプロピル 6.0g
モノステアリン酸ソルビタン 1.0g
ポリソルベート80 2.0g
ステアリルアルコール 2.0g
ヒアルロン酸 0.1g
純水ad 100.0g
得られた軟膏を、靱帯、筋膜、腱、軟骨の衰弱又は他の疾患又は動脈硬化の位置のような、コラーゲンの不足により冒された組織部位上の皮膚に局所的に与えることができる。
【0065】
実施例8
本発明に従う局所投与のための軟膏は、以下の量の含有物を用いて従来の方法で処方することができる。100gの軟膏当たりの量が与えられている。
4−ヒドロキシ−17β−プロピオニルオキシ−アンドロスト−1,4−ジエン−3−オン 2.5g
プロピレングリコール 20.0g
ミリスチン酸イソプロピル 7.5g
ジメチルイソソルビド(Arlasolve DMI) 10.0g
ステアリルアルコール 5.0g
純水ad 100.0g
この軟膏を乳房痛の現象によって冒された組織部位上の皮膚に局所的に与えることができる。女性の乳房脂肪組織の減少は、乳房痛の緩和を助けることができる。
【0066】
実施例9
本発明に従う注射のための組成物は、以下の量の含有物を用いて処方することができる:
4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン 10.0mg
ベンジルアルコール 5.0mg
ポリソルベート 25.0mg
塩化ナトリウム 10.0mg
純水及び滅菌水ad 1ml
このように調整した組成物を骨粗鬆症の骨に近くに週に1度注射する。
【0067】
実施例10
局所的同時処理のための医薬的組合せ組成物に対する座薬処方は以下の量の成分を用いて従来の手法で処方される。量は50gゲル当たりである。
4−ヒドロキシテストステロン 2.75g
フィナステリド 1.25g
グリセロールジェラチン 20g
PEG 400 11g
カカオバター 15g
この座薬を、前立腺癌により冒された部位に対して直腸に局所的に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、但し、a,b、及びcのうち少なくとも一つは二重結合を表し、aが単結合かつbが二重結合である場合Rは水素原子ではない、
は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、cが二重結合の場合、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基、非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、COR(式中、Rは、水素原子、炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基、又は非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基若しくはベンゾイル基を表す。)で表わされるアシル基、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基に導くいかなる置換基を表す。)で表される化合物及びこれらの塩類から選択される、良性の前立腺肥大又は前立腺癌の予防及び/又は治療のための化合物。
【請求項2】
下記化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、但し、a,b、及びcのうち少なくとも一つは二重結合を表し、aが単結合かつbが二重結合である場合Rは水素原子ではない、
は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、cが二重結合の場合、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基、非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、COR(式中、Rは、水素原子、炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基、又は非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基若しくはベンゾイル基を表す。)で表わされるアシル基、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基に導くいかなる置換基を表す。)で表される化合物及びこれらの塩類から選択される、コラーゲンに関係する疾患;靱帯、筋膜、腱、軟骨、骨、象牙質及び動脈、静脈の血管壁、及び尿路の疾患;心筋梗塞及び脳梗塞;動脈硬化;尿失禁;太陽へ暴露した皮膚の疾病;骨粗鬆症、女性の進行中のホルモン補充療法、及び乳腺痛から選択される疾病又は健康状態の予防及び/又は治療のための化合物。
【請求項3】
前記化合物において、a及びcが単結合であり、bが二重結合であり、かつRがOR(式中、ORは上記と同様に定義される。)で表わされる請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が局所的に用いられる請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記予防及び/又は治療における使用が、
(i)アンドロゲン受容体(AR)への遮蔽効果、及び
(ii)亢進された同化作用活性、
が得られるような条件下で行われる請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記予防及び/又は治療における使用が、以下の効果又は特性
(iii)前記化合物が、アロマターゼにより芳香族化されない、
(iv)前記化合物が、5α−レダクターゼにより還元されない、
(v)前記化合物が、5α−レダクターゼを阻害する、
(vi)C−17酸化代謝物の形で、前記化合物が亢進したアロマターゼ阻害を示す、
を単独又は組み合わせて得られるような条件下で行われる請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物が4−ヒドロキシテストステロン又はこの塩類若しくはエステル類である請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記4−ヒドロキシテストステロン又はこの塩類若しくはエステル類が、ゴナドトロピン分泌に負のフィードバックをもたらす使用のために製造された請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前立腺癌治療に伴う女性化乳房を制御するために、前記化合物が、前記化学式により定義された化合物以外の5α−レダクターゼ阻害剤及び抗アンドロゲンからなる群から選択された薬剤と共に、前立腺癌治療前に、同時に又は後に、用いられる請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
、前記化学式により定義された化合物以外の5α−レダクターゼ阻害剤及び抗アンドロゲンからなる群から選択された化合物と組み合わされた請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
ジメチルイソソルビド及び下記化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、但し、a,b、及びcのうち少なくとも一つは二重結合を表し、aが単結合かつbが二重結合である場合Rは水素原子ではない、
は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、cが二重結合の場合、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基、非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、COR(式中、Rは、水素原子、炭素数が1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基、又は非置換の若しくは炭素数が1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基若しくはベンゾイル基を表す。)で表わされるアシル基、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基に導くいかなる置換基を表す。)で表される化合物及びこれらの塩類から選択される化合物の組み合わせから成る医薬用組成物。
【請求項12】
前記化合物が4−ヒドロキシテストステロン又はこの塩類若しくはエステル類である請求項11に記載の医薬用組成物。
【請求項13】
局所的処方の形態である請求項11又は12に記載の医薬用組成物。
【請求項14】
更に、前記化学式により定義された化合物以外の5α−レダクターゼ阻害剤及び抗アンドロゲンからなる群から選択された化合物を含む請求項11〜13のいずれか一項に記載の医薬用組成物。

【公表番号】特表2011−503130(P2011−503130A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533487(P2010−533487)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009541
【国際公開番号】WO2009/062683
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(310022349)プロシマ ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】PROCIMA GMBH
【Fターム(参考)】