説明

治療剤

本発明は、ミセル粒子内にカプセル化された17−AAGを提供する。該ミセルは、安全なポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)(PEG−PLA)で構成され得る。担体としてのPEG−PLAの大きな利点は、Cremophor(登録商標)ELまたはDMSOよりも毒性が低いことである。さらに、PEG−PLAミセルは、DMSOより取り扱いが簡単であり、現在臨床試験中である17−AAG処方物に付随する問題である悪臭がない。また、本発明は、ミセルにカプセル化された活性剤を製造する方法、および該ミセルおよびそれらの対応する処方物を使用する治療方法、例えば、Hsp90の阻害および/または癌の処置のための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、米国特許法§119(e)の下、2007年7月9日に出願された米国仮特許出願第60/948,642号および2008年4月14日に出願された同第61/044,813号に対する優先権を主張し、これらは本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(政府の援助)
本発明は、the National Institutes of Healthにより授与される契約番号AI043346の下による政府の援助がなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
熱ショックタンパク質90(Hsp90)は、腫瘍細胞の増殖に関連するタンパク質の調節に重要な役割を果たすため、癌治療のための重要な標的である。ベンゾキノンアンサマイシン抗生物質であるゲルダナマイシンは、Hsp90のATP/ADP結合ポケットに強く結合し、多様な腫瘍ファミリーの生存および増殖を妨げることができることが見出された。ゲルダナマイシンは、有望な新しい抗癌剤であるが、その臨床的な開発は、高い肝毒性および難溶解性によって妨げられている。2種の類縁体、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG;タネスピマイシン)および17−ジメチルアミノ−エチルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−DMAG)が開発され、これらの問題を軽減した。
【0004】
17−DMAGは17−AAGに比べてより優れた水溶性およびより大きな経口バイオアベイラビリティを有するため、臨床解釈のためのいくつかの有望な先例では、医薬的により実用的な処方として、17−DMAGの開発が対象とされてきた。しかし、17−AGGより優れた明らかな利点にもかかわらず、17−DMAGは、動物への投与時の分布容積が大きいことを特徴とする。17−DMAGの最大許容用量は、17−AGGの最大許容用量よりかなり少ない(イヌにおいて、それぞれ、8mg/m/日および100〜200mg/m/日)ので、この広い分布により、望ましくない毒性が引き起こされる可能性がある。
【0005】
17−AAG送達の主な障害は、その限られた水溶解度(約0.1mg/mL)であり、このため、非経口投与の前に、Cremophor(登録商標)EL(CrEL)、DMSOおよび/またはエタノールを含む複雑な処方物を使用する結果となっていた。CrELは、過敏性反応およびアナフィラキシーを誘発することが知られているため、これは、患者の忍容性の点から望ましくなく、投与前に、抗ヒスタミン剤およびステロイド剤により患者を処置する必要がある。
【0006】
従って、より安全でより効果的な17−AAGの送達は、きつい界面活性剤を使用することなく薬物を可溶化することができる生体適合性送達システムの開発に依存する。従って、17−AAGを患者に送達する改良された組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明は、安全なポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)(「PEG−PLA」)ミセルによってカプセル化された17−AAG(17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン)のような活性剤を提供する。従って、本発明の組成物は、活性剤の効果的な可溶化を提供する。担体としてのPEG−PLAの大きな利点は、現在公知の組成物に使用されているCremophor(登録商標)ELまたはDMSOより毒性が低いということである。さらに、PEG−PLAミセルは、DMSOより取り扱いが簡単であり、現在臨床試験中の17−AAG処方物の問題である悪臭もない。また、ミセルによるカプセル化によって、体の標的範囲に送達されるまでミセル内に薬剤が保持されることによって起こる特定の薬剤の副作用(例えば、肝毒性、好中球減少症、神経障害など)の発生を減らすこともできる。
【0008】
PEG−PLAミセルは、17−AAGおよび/または第2活性剤をカプセル化し、医薬組成物を提供するために使用することができる。第2活性剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、テニポシドまたはエトポシドのような化学療法剤であり得る。該組成物は、静脈内(IV)注射または輸液投与のような、さまざまな形態の体内投与に適合するように処方することができる。そのような処方物は、17−AAG濃度が約20mg/mL以下の17−AAG含有ミセルを含み得る。該処方物は、生理食塩水またはデキストロース溶液のような適切な水性担体を含み得る。
【0009】
また本発明は、有効量のミセル内にカプセル化された17−AAGを含む組成物を投与することを含む、投与を必要とする患者に17−AAGを投与する方法を提供する。ミセルは、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(乳酸)のブロックを1つ以上含有するブロック共重合体を含み得る。
【0010】
本発明は、有効量の17−AAG含有ミセルを含有する組成物を癌細胞に接触させることにより、癌細胞を死滅させる方法をさらに提供する。接触は、インビボでもインビトロでもよい。17−AAG含有ミセルは、有効量の17−AAG含有ミセルを含有する組成物を腫瘍に接触させる、または投与することにより、癌腫瘍の成長を予防する、緩慢にする、あるいは阻害するために使用することもできる。
【0011】
本発明は、17−AAG含有ミセルを製造する方法であって、先ず、17−AAGおよびユニマー(ミセル配置にはないブロックポリマー鎖)を水混和性溶剤(例えば、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解する方法をさらに提供する。次いで、該溶液を透析装置(例えば、バッグまたはチューブ)に加えることができる。次いで、該透析装置を水浴中に配置し、透析バッグ内に17−AAG含有ミセルを得ることができる。次いで、該ミセルを、例えば遠心分離し、取り込まれていない薬物を沈殿させることができる。ナノろ過を使用して、単離された17−AAG含有ミセルを得ることができる。
【0012】
また本発明は、17−AAGおよびPEG−PLA(2000mw;50:50)がアセトニトリルまたはDMAcのような適切な溶剤に溶解している17−AAG含有ミセルを製造する方法を提供する。一実施形態では、PEG−PLAブロックは、約50:50の分子量2,000のブロックであり得る。該溶液を超音波処理して、次いで溶剤除去により濃縮することができる。次いで、温水(50〜70℃、または約60℃)を加えて、混合物を周囲温度(約23℃)に放冷することができる。次いで、例えば遠心分離により沈降物を除去(例えば、約13,000rpmで約1分間)して、該混合物を分離することができる。上澄み液を捕集し、例えば0.2μmPTFEフィルターを通してろ過して、単離された17−AAG含有ミセル処方物を得ることができる。得られたミセル医薬溶液は、例えば約4℃の低温で長期間保存することができる。
【0013】
以下の図面は、本明細書の一部を構成するものであり、本発明のある実施形態または種々の態様をさらに実証するために含まれるものである。ある場合には、本発明の実施形態は、添付の図面を本明細書に提示する詳細な説明と組み合わせて参照することによって、最もよく理解することができる。説明および添付の図面は、ある具体例あるいは本発明のある態様を強調することがあるが、当業者であれば、例または態様の一部を、本発明の他の例または態様と組み合わせて使用してもよいことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態によるミセルの特性評価を示し、(a)は、現れた平均径が242±5nmの無負荷ミセルの動的光散乱(DLS)であり、(b)は、350nMで測定したPEG−PLA(12:6kDa)の臨界ミセル濃度である。
【図2】図2は、一実施形態による、37℃およびpH7.4でのddHO中での、0.3mMのPEG−PLAミセルからの17−AAGのインビトロ放出を示す。ミセルは、表1に記載するように、PEG−PLA含量に対して11.4% w/wの17−AAGで調製した:PEG−PLA薬物負荷ミセル(●);薬物のみ(▽);およびCrEL−EtOH−PEG400に処方された17−AAG(■)。
【図3−1】図3は、一実施形態によるラットにおける薬物動態学的プロファイルを示し、(a)血清、(b)尿中に残存する17−AAGの量、(c)17−AAGの尿排泄速度、および(d)尿によって排泄された17−AAGの総量を含む。投与された処方物は、それぞれ10mg/kgの17−AAG(n=10、平均±SEM)を含んでいた。
【図3−2】図3は、一実施形態によるラットにおける薬物動態学的プロファイルを示し、(a)血清、(b)尿中に残存する17−AAGの量、(c)17−AAGの尿排泄速度、および(d)尿によって排泄された17−AAGの総量を含む。投与された処方物は、それぞれ10mg/kgの17−AAG(n=10、平均±SEM)を含んでいた。
【図4】図4は、(a)注射後、該投薬(10mg/kg;n=10、平均±SEM)から3時間後のラットにおける17−AAGの組織内分布、および(b)17−AAG(10mg/kg)のラットへの静脈内投与後、該投薬(n=10、平均±SEM)から3時間後の血清に対する組織比(Kp)を示す。星印()は、CrEL−EtOH−PEG400の標準的な処方とPEG−PLAミセル内にカプセル化された17−AAGとの間の統計的な有意差(p<0.05)を示す。
【図5】図5(a)および5(b)は、本発明の実施形態による17−AAGミセルの調製手順を示す。
【図6】図6は、一実施形態による、337nmでのUV測定によって決定された17−AAGをカプセル化したPEG−PLAミセルの薬物負荷の特性評価を示す。
【図7】図7は、一実施形態による、632.8nmでのDLS測定によって決定されたPEG−PLAミセルにおける粒度分布を示し、(a)は数−重量ガウス分布であり、(b)は容積−重量ガウス分布である。
【図8】図8は、PEO−b−PDLAミセルの透過型電子顕微鏡法(TEM)画像(18,000×)を示す。
【図9】図9は、一実施形態によるミセル負荷および形成手順を示す。ナノろ過後、処方物は、UVおよbRI検出モート゛によるHPLCを使用して分析することができる。
【図10】図10は、PEG−PLAミセルへのパクリタキセルおよび17−AAG両方の可溶化を示す。
【図11】図11は、17−AAG/パクリタキセルPEG−PLAミセルに関する物理的安定性の結果を示す。
【図12−1】図12は、(a)パクリタキセル(PTX)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のパクリタキセルおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのPTX/17−AAG二重薬剤ミセル中のパクリタキセル濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのパクリタキセルのみのミセル中のパクリタキセル濃度の比較を示す。
【図12−2】図12は、(a)パクリタキセル(PTX)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のパクリタキセルおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのPTX/17−AAG二重薬剤ミセル中のパクリタキセル濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのパクリタキセルのみのミセル中のパクリタキセル濃度の比較を示す。
【図13−1】図13は、(a)エトポシド(ETO)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のエトポシドおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのETO/17−AAG二重薬剤ミセル中のエトポシド濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのエトポシドのみのミセル中のエトポシドの濃度の比較を示す。
【図13−2】図13は、(a)エトポシド(ETO)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のエトポシドおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのETO/17−AAG二重薬剤ミセル中のエトポシド濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのエトポシドのみのミセル中のエトポシドの濃度の比較を示す。
【図14−1】図14は、(a)ドセタキセル(DCTX)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のドセタキセルおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのDCTX/17−AAG二重薬剤ミセル中のドセタキセル濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのドセタキセルのみのミセル中のドセタキセルの濃度の比較を示す。
【図14−2】図14は、(a)ドセタキセル(DCTX)および17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度(初期)、(b)24時間後のドセタキセルおよび17−AAG二重薬剤ミセルの溶解度、(c)0時間および24時間でのDCTX/17−AAG二重薬剤ミセル中のドセタキセル濃度の比較、および(d)0時間および24時間でのドセタキセルのみのミセル中のドセタキセルの濃度の比較を示す。
【図15A】図15は、(a)光学密度(OD)変化によって分析した、時間経過によるパクリタキセル(PTX)単一薬剤ミセルの物理的安定性、および(b)光学密度(OD)変化によって分析した、時間経過によるパクリタキセル/17−AAG二重薬剤ミセルの物理的安定性を示す。
【図15B】図15は、(a)光学密度(OD)変化によって分析した、時間経過によるパクリタキセル(PTX)単一薬剤ミセルの物理的安定性、および(b)光学密度(OD)変化によって分析した、時間経過によるパクリタキセル/17−AAG二重薬剤ミセルの物理的安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(詳細な説明)
ゲルダナマイシンは、産生微生物であるStreptomyces hygroscopicus var.geldanus NRRL3602を培養することによって得ることのできる周知の天然物である。化合物17−AAGは、米国特許第4,261,989号明細書(Sasakiら)に記載されるように、ゲルダナマイシンとアリルアミンとの反応によって、半合成的にゲルダナマイシンから製造される。該米国特許の開示は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0016】
ゲルダナマイシンは、Hsp90のATP/ADP結合ポケットに強く結合し、そのため、HER−2/erbB−2を過剰発現するパクリタキセル耐性乳癌を始めとするさまざまなファミリーの腫瘍の生存および増殖を妨げる。ゲルダナマイシンの臨床開発は、その難溶解性および高い肝毒性によって妨げられてきた(Geら、J.Med.Chem.49(15)(2006)4606〜4615)。従って、ゲルダナマイシン、またはその誘導体、例えば17−アリルアミノ−17−デメトキシ−ゲルダナマイシン(17−AAG、以下のスキーム1)を含有する医薬処方物の調製における重大な障害は、これらの親油性薬物の水溶性が非常に低いことである。
【0017】
スキーム1
【0018】
【化1】

適切な水溶性は、非経口投与に関して特に重要な要件である。17−AAGの水溶性は、中性pHで約0.1mg/mLしかなく、これでは安全で効果的な様式で投与することは難しい。溶解性の問題に対処すべく試みがなされたが、各処方物には、それ自身の欠点、例えば、DMSO、エタノール、または種々の望ましくない界面活性剤の使用が付随していた。
【0019】
化合物17−AAG(17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、またはタネスピマイシン)は、現在癌の治療のための臨床試験に供されている有望な熱ショックタンパク質90阻害剤である。癌細胞に対する作用の選択的メカニズムにもかかわらず、17−AAGは、その低い水溶性のために難しい課題に直面している。現在の17−AGG組成物は、Cremophor(登録商標)EL(CrEL)、DMSOおよび/またはエタノールを含む処方が必要である。米国特許出願公開第2005/0256097号公報(Zhongら)参照。
【0020】
Cremophor(登録商標)ELは、ひまし油誘導体であり、一般に、35モルのエチレンオキシドをひまし油の各モルと反応させることによって、ポリエトキシ化ひまし油(CAS番号61791−12−6)を得ることによって調製される。非経口処方物のためにCremophor(登録商標)EL(例えば、KOS−953)またはDMSOを使用することは、副作用の可能性があるため、患者の忍容性の点から望ましくない。種々の有害作用として、急性過敏性反応、末梢神経毒性、高脂血症および/またはP糖タンパク質の阻害を挙げることができる。さらに、17−AAGは、大きい分布容積(Vd)、および低用量(20mg/kg未満)での重大な全身毒性を有する。従って、17−AAGをそのような治療を必要とする患者に安全に投与するように改良された処方物が必要である。
【0021】
本明細書の開示は、ポリ(エチレンオキシド)−b−ポリ(D,L−乳酸)(PEG−PLA)で構成される両親媒性ジブロックミセルを使用して製造される、CrELを含有しない17−AAGの処方物を提供する。動的光散乱(DLS)により、約257nmの平均直径および約350nMの臨界ミセル濃度を持つPEG−PLA(12:6kDa)ミセルが明らかになった。該ミセルは、有意な量の特定の活性剤、例えば約1.5mg/mLの17−AAGを可溶化することができる。PEG−PLAミセルの曲線下面積(AUC)は、標準的な処方物の1.3倍であった。ミセル処方物を使用することによって、CrELを使用する標準的なビヒクルに比べて、腎クリアランス(腎CL)が増加し、肝クリアランス(肝CL)が減少した。従って、本明細書に記載するミセル処方物は、現在知られている組成物よりも優れたいくつかの利点を持つ17−AAG用の送達ビヒクルを提供する。
【0022】
さらに、17−AAGミセル処方物は、血清中の薬物の半減期(t1/2)において2.7倍の延長、および尿中のt1/2において1.3倍の増加を示した。予想されるように、17−AAGはより長い期間にわたって血中を循環したため、分布容積(V)の1.7倍の増加がこのミセル処方物でも観察された。これは、より迅速に除去される標準的な処方物に比べて非特異性(標的部位がない)であるためである。PEG−PLA(12:6kDa)ミセル中の17−AAGの新しい処方物は、溶解性において、17−AAG単独の場合と比較して150倍の増加という良好な結果となった。このデータは、本発明のナノキャリアシステムが、CrELおよびEtOHのような毒性薬剤を必要とすることなく、17−AAGの薬物動態的性質を保持することができることを示している。
【0023】
用語PEG−PLAは、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(乳酸)を意味する。ポリ(乳酸)ブロックとして、(D−乳酸)、(L−乳酸)、(D,L−乳酸)、およびそれらの組合せが挙げられ得る。PEG−PLAの種々の形態は、例えば、Polymer Source,Inc.、モントリオール、ケベックから市販されており、あるいは当業者に周知の方法により調製することができる。ポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量は、約1,000〜約35,000g/molであり得、あるいは該範囲内の約500g/molおきの数字であることもできる。ポリ(乳酸)の適切なブロックは、約1,000〜約15,000g/molの分子量を有し得、あるいは該範囲内の約500g/molおきの数字であることもできる。PEGブロックは、アルキル基、例えばメチル基(例えば、メトキシエーテル)、あるいは任意の適切な保護基、キャッピング基、またはブロック基を終端とすることができる。
【0024】
本明細書中の「一実施形態」、「1つの実施形態」、「1つの例示実施形態」その他の記載は、記載された実施形態が、特定の特性、構造または特徴を含み得ることを示すが、必ずしも全ての実施形態がその特定の特性、構造または特徴を含むとは限らないことに注意すべきである。さらに、該語句は、同じ実施形態を意味するとも限らない。さらに、特定の特性、構造または特徴がある実施形態に関連して記載されている場合、明確に記載されていてもそうでなくても、他の実施形態と関連して、そのような特性、構造または特徴に作用することは、当業者の知識の範囲内であることを示している。
【0025】
PEG−PLAミセルを調製する方法
臨界ミセル濃度(CMC)を超える量の溶剤中に存在する両親媒性ユニマー(一本鎖)は、内部が疎水性であり外部が親水性であるコア−コロナ構造、もしくはシェルであるミセルに凝集している。PEG−PLAミセルは、実施例1に記載し、図5(a)に模式的に図示するように調製することができる。図5(b)は、17−AAGミセル処方物を調製する具体的な一手順を示す。この手順は、一実施形態のための単なる例示であり、該手順は、当業者には容易に認識されるように、目的の調製規模に応じて変更することができる。図5に図示した手順の一利点は、ミセル溶液の透析を必要としないことである。
【0026】
本開示のミセルは、さまざまなブロックサイズ(例えば、先に記載した範囲のグロックサイズ)のPEG−PLAポリマーを、さまざまな比(例えば、PEG:PLAが約1:10〜約10:1、あるいは該範囲内の任意の整数の比)で使用して調製することができる。例えば、PEG−PLAポリマーの分子量(M)としては、2K−2K、3K−5K、5K−3K、5K−6K、6K−5K、6K−6K、8K−4K、4K−8K、12K−3K、3K−12K、12K−6Kおよび/または6K−12Kを挙げることができるが、これらに限定されない。薬物−ポリマー比も、約1:20〜約10:1、あるいは該範囲内の任意の整数の比とすることができる。適切な薬物−ポリマー比の具体例として、約1:2.5、約1:5、約1:7.5および/または約1:10が挙げられるが、これらに限定されない。適切なポリマーの1つは、約50:50の割合で約1〜3kDa(例えば、約2Kドルトン)のブロックを含むPEG−PLAである。この手順を使用することによって、ミセル内に予想外に高いレベルの薬物負荷が得られた。例えば、図5の手順を採用した場合、約5mg/mLの薬物負荷が達成された(約9mM、約17wt%)(図6参照)。
【0027】
ミセルカプセル化活性剤処方物は、透析法によっても製造することができる。薬剤およびPEG−PLAは、ジメチルアセトアミド(DMAc)のような適切な水混和性有機溶剤に溶解させることができる。次いで、溶液を透析バッグに移す。透析培養液は、0.9%生理食塩水のような水溶液を含有する。透析バッグとしては、例えば、3500MWCOチューブ(SpectraPor(登録商標))透析バッグが使用できる。溶解した薬剤およびポリマーを水性混合物に添加すると、活性剤を含有したミセルが形成する。次いで、ミセルをカプセル化した薬剤を単離することができる。例えば、取り込まれていない薬物は、遠心分離によって沈殿させることができる。残存する上澄み液のナノろ過により、単離されたミセルカプセル化活性剤の処方物を得る。図9参照。ミセルは、例えば、UVおよびRI検出モードを備えたHPLCを使用して測定および分析することができる(Yasugiらによって記載された手法、J.Control.Release,1999,62,99〜100参照)。準備方法は、水中油乳液の使用、溶液キャスティングおよび/または凍結乾燥を含み得る。Gaucherら、J.Controlled Release、109(2005)169〜188参照。
【0028】
一旦調製されると、ミセル−薬物組成物は、冷蔵下、好ましくは約−20℃〜約4℃の温度で、長期間貯蔵することができる。ミセル−薬物組成物を光から保護するために、茶色のガラスバイアルまたは他の適切な容器を使用することにより、それらの有効期間を延長することができる。ミセル−薬物組成物は、凍結乾燥して固体処方物にすることができ、この処方物を、薬物投与の前に水性ビヒクルに溶かすことができる。
【0029】
処方物
17−AAGをPEG−PLAミセルに含有させることによって、薬物を、ミセルを使用せずに溶解できる量より多くの量の流体、例えば、医薬担体もしくは血液または間質液のような体液に溶解することができる。従って、ミセルは、そうでない場合よりも高い程度に17−AAGを効果的に可溶化する。ミセルがフィルターを通過できるようにミセルを溶解する医薬担体は、医薬「溶液」に溶解し、本発明の実施形態による処方物を提供すると考えられる。
【0030】
ある実施形態では、ミセルは、15mg/mLまでの17−AAG、もしくは20mg/mLまでの17−AAGを可溶化することができる。いくつかの実施形態では、ミセルは、約3mg/mL、約5mg/mL、約10mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mLまたは約25mg/mLの活性剤を可溶化することができる。いくつかの実施形態では、処方物は、ミセルの容積、あるいは好ましくは水性担体の容積に関して、約0.5〜約5mg/mLの17−AAG濃度、約0.75〜約3mg/mLの17−AAG濃度、約1〜約2mg/mLの17−AAG濃度、または約1.5mg/mLの濃度を有し得る。同様の量の他の活性剤も、ある他の実施形態のミセル中に含まれ得る。
【0031】
一実施形態では、17−AAGカプセル化ミセルは、生理食塩水またはデキストロースのような水性担体などを含む混合物に処方される。例えば、適切な担体として、0.9%NaCl溶液、もしくはデキストロースまたはグルコース溶液のような5%糖水溶液が可能である。Remington:The Science and Practice of Pharmacy,D.B.Troy,Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(第21編、2005)803−849ページ参照。
【0032】
投与、例えば、非経口投与の目的のため、水溶性塩類(例えば、NaCl)の無菌水溶液を使用することができる。付加的な、または代替の担体として、ゴマ油、ピーナッツ油、および含水プロピレングリコールが挙げられ得る。水溶液は、緩衝化されているのが適切な場合があり、必要であれば、該液状希釈剤は、先ず、十分な生理食塩水またはグルコースで等張化され得る。これらの水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内および腫瘍内(IT)注射に特に適している。腫瘍内注射は、前立腺癌を始めとする癌の治療のようなある種の治療に特に有用であり得る。適切な無菌水性媒体は、購入することができ(例えば、Sigma−Aldrich社、St.Louis,MO)、あるいは当業者に周知の標準的な手法によって調製することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、組成物は、エタノール、ジメチルスルホキシド、または他の有機溶剤、リン脂質、ひまし油、およびひまし油誘導体の1つ以上のような添加剤を全く含まない。他の実施形態では、組成物は、上記の成分を実質的に含まない。本明細書で使用する場合、「実質的に含まない」とは、組成物が、約2.5重量%未満、約2重量%未満、約1.5重量%未満、約1重量%未満、約0.5重量%未満、または約0.25重量%未満を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、ある添加剤が、ミセルの安定性を高め得る。一実施形態では、界面活性剤をミセル中に(例えば、約0.25重量%〜約2.5重量%)含有させることができる。例えば、適切な界面活性剤として、ポリエチレングリコール共役ジステアロイルホスファチジル−エタノールアミン(PEG−DSPE)のような負電荷のリン脂質が挙げられ得る。
【0034】
ミセル処方物を使用する治療
ミセルを医薬溶液に処方し、患者に投与することができる。医薬溶液処方物は、必要量の17−AAGの、許容し得る時間内、例えば、約10分〜約3時間、一般には約1〜約2時間、例えば約90分以内での体内への送達を可能にする。
【0035】
投与は、非経口、例えば、輸液、注射またはIVによって行うことができ、患者は、哺乳類、例えばヒトであってもよい。投与時には、ミセルは無処理で循環し、個々のポリマー鎖に解離し、活性剤を放出し(拡散あるいはミセル解離によって)、組織内に分布し、および/または腎クリアランスを経ることができる。これらの事象の予定は、はっきりとは予測することはできず、これらの事象は、17−AAGのような活性剤の抗腫瘍活性に有意に影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、薬物負荷ミセルは、腫瘍間質に血管外遊出することができる。活性剤含有ミセルは、加水分解して17−AAGを放出することができ、次いで、該ミセルから活性剤を放出することができる。次いで、活性剤は腫瘍細胞に拡散することができる。本発明の別の態様は、漏出性脈管構造を横断し、腫瘍細胞に取り込まれ、腫瘍細胞の増殖を阻害し、および/または腫瘍細胞を死滅させるミセルを包含する。
【0036】
疾患、障害または状態は、17−AAGを含有するミセルの医薬処方物を投与することによって処置することができる。本明細書に記載する組成物の投与により、患者における癌性増殖の大きさおよび/または数を減らし、そして/または1つ以上の対応する関連症状を減らすことができる。本明細書に記載された方法によって有効量を投与した場合、本発明の組成物は、癌細胞増殖の阻害、癌または腫瘍の大きさの縮小、さらなる転移の阻止、腫瘍血管新生の阻害および/または癌性細胞の死のような病理学的に適切な応答を生み出すことができる。以下に記載するような、上記の疾患および状態を処置する方法は、治療有効量の本発明の組成物を患者に投与することを含む。該方法は、必要に応じて、例えば、毎日、毎週または毎月、あるいはこれらを何度か繰り返してもよい。
【0037】
処置することができる状態としては、頭および首の癌を始めとする過剰増殖性疾患(これには、頭、首、鼻腔、副鼻腔、鼻咽頭、口腔、中咽頭、喉頭、下咽頭、唾液腺の腫瘍、およびパラガングリオーマが含まれる);肝臓および胆樹の癌、特に肝細胞癌;腸の癌、特に結腸直腸癌;卵巣癌;小細胞肺癌および非小細胞肺癌;前立腺癌;膵臓癌;乳癌肉腫、例えば、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、胎児性横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、神経線維肉腫、骨肉腫、滑膜肉腫、脂肪肉腫および胞状軟部肉腫;中枢神経系の腫瘍、特に脳癌;および/またはリンパ腫、例えば、ホジキンリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、ろ胞性リンパ腫、粘膜関連リンパ組織リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、B系統大細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、またはT細胞未分化大細胞リンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
細胞の過剰増殖を特徴とする非癌状態も、本明細書に記載の方法を使用することによって処置することができる。例えば、17−AAGを、細胞の過剰増殖を特徴とする状態を処置するために、本明細書に記載する方法に従って投与することができる。該非癌状態、障害または疾患の例として、萎縮性胃炎、炎症性溶血性貧血、移植片拒絶反応、炎症性好中球減少症、水疱性類天疱瘡、セリアック病、脱髄性神経障害、皮膚筋炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎および/またはクローン病)、多発性硬化症、心筋炎、筋炎、鼻ポリープ、慢性副鼻腔炎、尋常性天疱瘡、原発性糸球体腎炎、乾癬、外科手術後の癒着、狭窄または再狭窄、強膜炎、強皮症、湿疹(アトピー性皮膚炎、刺激性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎を含む)、歯周疾患(すなわち、歯周炎)、多発性嚢胞腎疾患、およびI型糖尿病が挙げられるが、これらに限定されない。他の例として、脈管炎、例えば、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎、高安動脈炎)、結節性多発動脈炎、アレルギー性血管炎および肉芽腫症(チャーグ・ストラウス病)、多発性血管炎重複症候群、過敏性血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)、血清病、薬物誘発性脈管炎、感染性脈管炎、腫瘍性脈管炎、結合組織障害に関連する脈管炎、補体系の先天性欠損に関連する脈管炎、ウェゲナー肉芽腫症、川崎病、中枢神経系の脈管炎、バージャー病および全身性硬化症;胃腸管疾患、例えば、膵臓炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、潰瘍性直腸炎、原発性硬化性胆管炎、特発性のものを含む任意の原因の良性狭窄(例えば、胆管、食道、十二指腸および小腸または大腸の狭窄);呼吸器疾患(例えば、喘息、過敏性肺臓炎、石綿肺症、ケイ肺症、および他の形態のじん肺症、慢性気管支炎および慢性閉塞性気道疾患);鼻涙管疾患(例えば、特発性のものを含む全ての原因の狭窄);耳管疾患(例えば、特発性のものを含む全ての原因の狭窄);ならびに神経性疾患、真菌性疾患、ウィルス感染および/またはマラリアが挙げられる。
【0039】
用語「処置する」および「処置」は、ヒトを含む哺乳類を、その状態を直接または間接的に改善する目的で、医療扶助に供する任意のプロセス、作用、適用、療法などを意味する。処置は、一般に、有効量の本明細書に記載するミセル組成物の投与を意味する。
【0040】
用語「有効量」または「治療有効量」は、状態、疾患または障害の症状の1つ以上をある程度軽減すること、例えば、1)癌細胞の数の減少、2)腫瘍の大きさの縮小、3)癌細胞の周辺器官への浸潤の阻害(すなわち、ある程度緩慢にする、好ましくは停止する)、3)腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度緩慢にする、好ましくは停止する)、4)腫瘍増殖のある程度の阻害、5)該障害に関連する1つ以上の症状をある程度軽減または減らすこと、および/または6)活性剤の投与に伴う副作用を軽減または減らすこと(これらに限定されない)に必要な治療剤の量を特定するものである。
【0041】
用語「阻害」は、腫瘍形成、腫瘍増殖または腫瘍細胞増殖をいう場合、特に、原発性または二次性腫瘍の出現の遅延、原発性または二次性腫瘍の発達の遅延、原発性または二次性腫瘍の発生の減少、疾患の二次的影響の遅延または重症度の減少、腫瘍増殖の阻止、および腫瘍の退行によって評価してもよい。極端な場合、完全な阻害は、予防または化学的予防ということができる。阻害は、処置をしない場合に起こり得る進行に対して、約10%、約25%、約50%、約75%または約90%の阻害であり得る。
【0042】
本発明の医薬溶液処方物を使用して、17−AAGおよび/または抗癌剤または細胞毒性剤のような活性剤を、投与の回数に応じて、約4mg/m〜約4000mg/mの範囲の用量で投与することができる。一実施形態では、17−AAGのための投薬計画は、1週あたり約400〜500mg/m、あるいは1週あたり約450mg/mとすることができる。Banerjiら,Proc.Am.Soc.Clin.Oncol.,22,199(2003,abstract797)参照。あるいは、1週あたり約300mg/m〜約325mg/m、または約308mg/mの用量を患者に投与することができる。Goetzら,Eur.J.Cancer,38(Supp.7),S54−S55(2002)参照。別の投薬計画として、週に2回の注射であって、約200mg/m〜約360mg/m(例えば、患者の状態の重症度および健康状態によって、約200mg/m、約220mg/m、約240mg/m、約250mg/m、約260mg/m、約280mg/m、約300mg/m、約325mg/m、340mg/m、約350mg/mまたは約360mg/m)が挙げられる。ドセタキセルのような別の薬剤との併用療法のために使用することがでドセタキセルのような他の薬剤との併用療法のために使用することができる投薬計画は、2種類の薬物を3週おきに投与することであり得、17−AAGの用量は、各投与につき、約500mg/m〜約700mg/m、あるいは最大約650mg/mである。
【0043】
PEG−PLAミセルにおける薬物の組合せ
17−AAGに加えて他の活性剤を、同じ準備手順で本明細書に記載したミセル中にカプセル化することができる。例えば、パクリタキセル含有ミセルを、17−AAG含有ミセルと共に処方物中に使用することができる(各ミセルが異なる活性剤を含有する「単純に混合された」ミセル処方物)。従って、本発明は、17−AAGと第2活性剤とを含む組成物であって、17−AAGと第2活性剤との両方がPEG−PLAミセル内でカプセル化によって水溶液中に可溶化されている組成物を提供する。例えば、該組成物は、パクリタキセルおよび17−AAGを、単純に混合されたミセル処方物中に含有することができる。また、17−AAGおよび第2活性剤の両方がミセル調製手順で溶解している場合も処方物を調製することができ、この処方物は、17−AAGおよび第2活性剤の両方を含有する個々のミセルを形成し、その結果、1個以上のミセルが2種の異なる活性剤を含有する「物理的に混合された」ミセルを提供する。
【0044】
従って、17−AAGは、他の活性剤(例えば、抗癌剤または細胞毒性剤)と組み合わせて(例えば、本明細書に記載するようなミセルにおいて)投与することができ、他の活性剤としては、アルキル化剤、血管新生阻害剤、代謝拮抗薬、DNAクリーバー、DNA架橋剤、DNA干渉物質、DNA小溝結合剤、熱ショックタンパク質90(Hsp90)阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、微小管安定剤、ヌクレオシド(プリンまたはピリミジン)類縁体、プロテアソーム阻害剤、トポイソメラーゼ(IまたはII)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤が挙げられる。具体的な活性剤として、β−ラパコン、17−DMAG、ビカルタミド、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カリチアマイシン、カリスタチンA、カンプトセシン、カペシタビン、カルゼレシン、CC−1065、シスプラチン、クランフェヌル、クリプトフィシン、シクロスポリンA、ダウノルビシン、ジアゼパム、ディスコデルモリド、ドセタキセル、ドキソルビシン、デュオカルマイシン、ディネマイシンA、エポチロン、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲフィチニブ、ゲルダナマイシン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イマチニブ、インターフェロン、インターロイキン、イトラコナゾール、イリノテカン、レプトマイシンB、メトトレキサート、マイトマイシンC、オキサリプラチン、パクリタキセル、スポンギスタチン、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、テニポシド、チオテパ、トポテカン、トリコスタチンA、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビンデシンが挙げられる。また、同時投与される抗癌剤または細胞毒性剤も、プロテインキナーゼ阻害剤であり得る。プロテインキナーゼ阻害剤の例としては、ラパマイシン;キナゾリン、特に4−アニリノキナゾリン類、例えば、イレッサ(AstraZeneca;N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−(4−モルホリニル)プロポキシ]−4−キナゾリンアミン)またはタルセバ(Roche/Genentech;N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−m−エトキシエトキシ)−4−キナゾリンアミン一塩酸塩);フェニルアミノピリミジン類、例えば、グリベック(Novartis;4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]−N−[4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]フェニル]−ベンズアミド);ピロロ−またはピラゾロピリミジン類、例えば、BIBX1382(Boehringer Ingelheim;N8−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−N−2−(1−メチル−4−ピペリジニル)−ピリミド[5,4−d]ピリミジン−2,8−ジアミン);インドール類またはオキシインドール類、例えば、セマキシニブ(Pharmacia;3−[(3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−イル)メチレン]−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン);ベンジリデンマロノニトリル類;フラボン類、例えば、フラボピリドール(Aventis;2−(2−クロロフェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−[(3S,4R)−3−ヒドロキシ−1−メチル−4−ピペリジニル]−4H−1−ベンゾピラン−4−オン);スタウロスポリン類、例えば、CEP−701(Cephalon);抗体、例えば、ハーセプチン(Genentech);および/またはリボザイム、例えば、アンギオザイム(Ribozyme Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0045】
17−AAGおよびある他の活性剤の組合せは、相乗的抗癌活性を有する。例えば、相乗効果は、17−AAGをパクリタキセル、ドセタキセル、エトポシドならびに先に挙げた数種の他の薬剤と組み合わせて投与した時に観察される。種々の実施形態で、これらの2種の薬剤を同じミセル中に組み合わせる(物理的に混合された処方)ことができ、あるいはパクリタキセルおよび17−AAGを別々のミセル中に別個に含有するミセルを、患者への投与のために、1つの治療用処方物に組み合わせる(単純に混合された処方)こともできる。他の実施形態では、17−AAGミセルを17−AAG以外の薬物の投与より前、それと同時もしくはその後に投与することができる。17−AAG以外の薬物は、本明細書に記載するミセルによるカプセル化による投与を始めとする、任意の効果的な手段によって投与することができる。17−AAGは、有効な処置のために、他の薬物の必要量が少なくなるように、患者を感作することができる。
【0046】
さらに、二重薬剤ミセルは、薬物負荷が単剤ミセルで得られる最大負荷の約20%以内になるように調製できることが、意外にも見出された。この驚くべき結果に加えて、コア内に両方の活性剤を含有するPEG−PLAミセルは、一方の活性剤の損失に対する安定性が高いことが見出された。従って、2種の活性剤を含有するミセルでは、該活性剤は、活性剤の放出に関して、ミセルの安定性を増すような様式で相互作用し得ることが見出された。従って、17−AAG、およびパクリタキセル、ドセタキセルまたはエトポシドのような第2活性剤を含有するミセルは、該活性剤を1つしか含有しないミセルよりも安定であることが見出されている。
【0047】
これらの発見は、治療用処方物中での相当量の有機溶剤または界面活性剤の使用に頼ることなく、Hsp90阻害剤(例えば、17−AAG)および化学療法剤(例えば、特にパクリタキセル、ドセタキセルまたはエトポシド)の投与を可能にする。臨床試験では、17−AAGとパクリタキセルとの組合せは、DMSOと、Cremophor(登録商標)ELを必要とし、これはすなわち4成分混合剤である。このような処方物の成分は、患者に重大な望ましくない副作用を引き起こすことがあることがわかっている。また、2つの薬物を混合して一緒に輸液することはできず、同時薬物投与によって薬物の相乗効果が得られることはない(Solitら,Cancer Res.,2003;63:2139−2144)。パクリタキセル/PEG−PLAは、安全に患者に投与できることが知られている。例えば、Genexol−PMは、現在臨床試験のフェーズIIにある。また、17−AAGを、ミセルの数をあまり増加させる必要なく、PEG−PLAミセルに共負荷することができる。このような処方物は、有機溶剤または他の界面活性剤の使用を避けることもできる。
【0048】
従って、本明細書に記載する両親媒性ブロック共重合体(ABC)ミセル系を使用して、種々の状態を処置することができる。薬物相乗作用は、ミセルの使用によって達成することができ、ミセル送達ビヒクル内に薬物をカプセル化しているため、投薬計画の毒性を低下させることができる。活性剤の組合せを、該ミセルにおいて使用することができる。単純混合および物理的混合処方物は、2種の異なる活性剤の投与を、例えばIV輸液によって、1回に投与することを可能にする。ある有用な組合せおよび手法は、米国特許第7,221,562号明細書(Rosenら)に記載されている。本発明の実施形態で使用することができる他の両親媒性共重合体としては、米国特許第4,745,160号明細書(Churchillら)に記載されたものが挙げられる。
【0049】
本明細書に開示されるミセル組成物は、17−AAGの負荷能力が予想外に高く、制御放出処方物を調製するのに使用することができる、改良された処方物を提供する。また、薬物負荷二重活性ミセルは、単一薬剤ミセルに近いか、それと同等の薬物負荷能力を持つことも見出された。さらに、二重活性ミセル中の活性剤同士の相互作用は、そのようなミセルの安定性を高め得る。例えば、17−AAGは、単純混合処方物および物理的混合処方物の両方について、二重薬剤ミセル処方物の安定剤として作用することができる。
【0050】
以下の実施例は、上記の発明を説明するためのものであり、その範囲を狭めるものと解釈すべきではない。当業者であれば、実施例は、本発明を実施し得る種々の他の様式を提示していることを容易に理解するであろう。本発明の範囲内で、多くの変更および修正がなされ得ることが理解されよう。
【実施例】
【0051】
実施例1. PEG−PLAミセルにおける17−AAGカプセル化
17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシンの調製 (17−AAG)をゲルダナマイシン(GA)から実験室で合成した(LC Laboratories,Woburn,MA)。つまり、100mgのGA(0.2mmol)を2mLの乾燥CHClに溶解した。次に、5当量のアリルアミン(57.1g/mol,d=0.763g/mL)をフラスコに滴下した。反応系を、弱光下、室温(RT;約23℃)で、TCL分析が完了するまで(約2日間)(95:5CHCl:MeOH,R0.21)攪拌し、ヘキサン(3×)で沈殿させ、2000g’sで15分間遠心分離し、蒸発乾固した。収量:95mg、95%;MS m/z 584(M);1HNMR (CDCl3) d 0.99 (m, 6H, 10-Me, 14-Me), 1.25(t, 1H, H-13), 1.60-1.85 (br m, 6H, H-13, H-14, 8-Me), 2.05 (s, 3H, 2-Me), 2.46(br m, 2H, H-15), 2.83-2.90 (br m, 3H, H-10), 3.27 (s, 3H, OMe), 3.36 (s,3H, OMe), 3.40 (t, 1H, H-12), 3.58-3.68 (br m, 2H, H-11, H-23), 4.31 (d, 1H,H-7), 5.10 (br s, 1H), 5.21-5.55 (br m, 3H, H-9, H-24), 5.86-5.99 (br t, 2H,H-5, H-23) , 6.59 (t, 1H, H-4), 6.94 (d, 1H, H-3), 7.28 (br s, 1H, H-19).
薬物負荷PEG−PLAミセルの調製および特性評価
Kataokaおよび共同研究者(J.Control.Release62(1−2)(1999)89−100)の手順に従って、17−AAGを、PEG−PLA(12:6kDa)(Polymer Source,Montreal,Canada)とともにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、HOに対して透析することによって処方した。例えば、5mgの17−AAGおよび45mgのPEG−PLA(10:90w/w)を10mLのDMAcに溶解した。得られた溶液を、3500MWCOチューブ(SpectraPor)中で、HOに対して透析した。得られたミセルを5000g’sで10分間遠心分離して、取り込まれていない薬物を沈殿させた。ミセルへの取込みを、水性GPC(Shodex SB−806M)を使用して、ミセルの屈折率および17−AAGの吸光度(UVλ332)に基づく等価保持時間を確認することによって検証した。ミセル溶液を、減圧、室温下で回転蒸発によって濃縮し、次いで遠心分離(5000g’sで10分間)した。図8に、単離されたPEG−PLAミセルの透過型電子顕微鏡(TEM)画像(18,000×)を示す。
【0052】
ミセル中に負荷された薬物の量を、逆相HPLC(Shodex C18カラム、65−82.5:35−17.5MeOH〜55%MeOH+0.2%ギ酸勾配、40℃、332nm検出)によって、17−AAGの曲線下面積(AUC)(17−AAG検量線に基づく)を監視することによって測定した。薬物が存在する場合としない場合のPEG−PLAミセルの有効径を、ガウス強度装置を備えるBrookhaven動的光散乱装置(100mW、532nmレーザー)を用いて測定した。これらのPEO−b−PDLLAミセルの臨界ミセル濃度(CMC)を、種々の濃度(3×10−5mg・mL−1〜1mg・mL−1)のPEG−PLAの存在下で、ピレンの339/334nm励起比を測定することによって決定した。
【0053】
つまり、PEO−b−PDLLAミセルを、連続的に希釈して先に記載したように調製し、0.6μMのピレンを用いて80℃で1時間培養し、暗所に室温で15時間放置し、ピレンの蛍光発光を390nmで測定した(RF−5301PC分光蛍光光度計、Shimadzu)。ピレンは、微小環境極性に応答して周知の光物理的変化を受ける(Colloids Surf.,A Physiochem.Eng.Asp.118(1996)1−39)。ピレンが優先的にPEO−b−PDLLAミセルの疎水性コアに分割すると、CMCの急増が339/334nm励起の比内で起こる(J.Control.Release77(1−2)(2001)155−160)。
【0054】
実施例2. PEG−PLAミセルを使用する、17−AAGのCremophor(登録商標)非含有処方物:ラットにおける特性評価および薬物動態
17−AAGを可溶化するためのナノ担体としてのポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(D,L−ラクチド)(PEG−PLA)で構成される分解性両親媒性ジブロックポリマーのような両親媒性ブロック共重合体(ABC)ミセルの調製を、実施例1に上記した。この実施例では、これらのナノ担体の薬物動態挙動を、CrEL−EtOH−PEG400中の17−AAGの現在の処方物と比較する。
【0055】
PEG−PLAミセル薬物放出実験 先に記載した温度およびpH制御の修正(Forrestら、J.Control.Release116(2)(2006)139−149)を加えて、放出実験は、Eisenbergおよび共同研究者の方法(Sooら、Langmuir18(2002)9996−10004)をもとにした。ミセル薬物溶液を、先に記載したように、10%w/w薬物を含む0.3mMのPEG−PLAポリマーで調製し、ミセル溶液の2.0mLを、10,000個のMWCO透析カセット(Pierce、Rockford、IL)(n=3)に注入した。透析カセットを、よく混合した、温度37℃に調整した水浴中に配置し、浴槽水を15〜20分ごとに新しくした。別個に、コンピュータ制御下にあるぜん動ポンプから50g/Lの二塩基性および一塩基性リン酸塩溶液を注入し、pHを7.4±0.1に維持した(一体化された装置)。一定の時点で、必要であれば、透析カセット内容物をddHOで2mLとし、100μLのアリコートを取り除いた。これを100μLのMeOHと混合し、該混合物の40μLを逆相HPLC(ShodexC18カラム;65−82.5:35:17.5のA〜B、ここで、A:MeOHおよびB:55%MeOH+0.2%ギ酸;40℃;332nm検出)によって分析した。
【0056】
インビトロ細胞毒性実験. PC−3ヒト前立腺細胞(ATCC CRL−1435)をRPMI1640(Hyclone、Logan、UT)で成長させ、MCF−7ヒト乳癌細胞(ATCC HTB−22)をDMEM(Hyclone)で培養した。ここで、両方とも、10%ウシ胎児血清(Hyclone)、100μg/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Cambrex Biosciences、Baltimore、MD)、および2mMのL−グルタミン(Cambrex Biosciences)が添加されていた。細胞株を、90μLの適切な培養液中で、1ウェル当たり3000細胞の初期密度で96ウェルプレートに置き、5%CO雰囲気下、37℃に維持した。24時間後、DMSO中の17−AAGを成長培養液で10倍に希釈し、10μLのアリコート(1%v/vの最終DMSO濃度)としてウェル(3つのウェルが2組、n=6)に加えた。薬物負荷ミセルまたはミセル単体を、ミリQ水で処方した(DMSOの透析に倣って、ミセルを形成した)。ウェルへの添加前にさらに試料を希釈する必要はなかった。細胞を全ての試験化合物とともに72時間培養した。その後、細胞の代謝速度をレサズリン染料(Sigma−Aldrich)を使用して測定した。データをヒル−スロープ曲線(Sigma Plot9.0、Systat Software,Inc.)に合わせることによって、対照に対して細胞増殖を50%阻害する濃度(IC50)を測定し、別々の測定の平均値±標準偏差として報告する。
【0057】
薬物動態実験. 17−AAGの標準的なビヒクルをZhongら(米国特許出願公開第2005/0256097号公報)に従って処方した。ここで、注入の直前に2:1:1 EtOH:CrEL:PEG400中の15mg/mLの17−AAGを、3mg/mLに希釈した。これらのミセルの取込みおよび薬物放出の方法は、記載されている方法に僅かな変更を加えて行った(Forrestら、J.Control.Release110(2)(2006)370−377)。オスのスプラーグ・ドーレイラットに右頸静脈経由でカニューレを挿入し、新しい処方物(1.5mg/mLのPEG−PLA中の17−AAG)またはCrEL−EtOH−PEG400の標準的な処方物のいずれかを、それぞれ10mg/kg(各処置群についてn=5)で静脈内に投薬した。投薬後、連続した血液試料(約0.30mL)および尿試料を24時間まで採取した。
【0058】
100μLの血清または尿に、100μLの内部標準を加えた(25μg/mLのゲルダナマイシン)。試料を1mLのEtOAcで抽出し、有機画分を乾燥、濃縮した。残渣を400μLの初期移動相中に溶かし、遠心分離し、150μLをRP−HPLCに注入した。A:50mMの酢酸+10mMのTEA、およびB:MeOH+10mMのTEA(0〜3分 40% B、3.01〜11分 80% B、11.01〜18分 40% B)中で、17−AAGを、305nmの内部標準を用いて、Genesis3μmC18 33mm×4.6mmカラム、1mL/分を使用して、332nmで分析した。薬物動態パラメータを、WinNonlin(登録商標)ソフトウェア(ver.5.01)および非区画モデリングを使用して計算した。動物実験は全て「実験動物の飼育に関する原則」(NIH publication No.85−23,1985年に改訂)に従って行った。
【0059】
生体内分布実験. 17−AAGの組織内分布に対する処方物の効果を評価するために、ラット(各群につきn=5、200〜240g)にカニューレを挿入し、CrEL−EtOH−PEG400中の17−AAG、またはPEG−PLAミセル中の17−AAGを静脈内に投与した。これらは全て、先行する薬物動態実験と同等であった。処方物の注入から3時間後、各動物(各時点に関してn=5)を麻酔し、心穿刺によって放血した。脳、肺、心臓、肝臓、ひ臓、腎臓、膀胱、筋肉および骨、ならびに全血および血清の試料を収集した。組織試料をペーパータオルでふき、氷冷した生理食塩水中で洗浄し、ビンに入れて過剰の流体を除去し、秤量し、液体窒素中で迅速に冷凍し、液体窒素下、乳鉢および乳棒で微粉末に粉砕し、HPLC分析により薬物濃度を評価するまで−70℃で保存した。
【0060】
データ分析. 収集したデータは、平均、および平均の標準誤差(平均±SEM)、または別途に指示がある場合は、平均および標準偏差(平均±SD)として示す。可能な場合は、NCSS Statistical and Power Analysis Software(NCSS、Kaysville、UT)を使用して、データの統計学的有意性を分析した。Studentのt検定を、不対試料用に使用した。p<0.05の値は、統計的に有意であると考えられる。
【0061】
結果および検討
ゲルダナマイシン(GA)は、水溶性が低い。一般的な医薬担体中のGA処方物は、肝毒性が著しく高い。これは、肝臓が主な排出経路であるためである。17−DMAGおよび17−AAGのような類縁体は、GAより低い肝毒性を示すが、一つにはそれらの広い分布のため、非特異的毒性の上昇を特徴とする。従って、ナノ担体処方物が強く求められる。生体適合性、製造の容易さ、動力学的および熱力学的安定性、および大量の親油性薬物を可溶化するPEG−PLAミセルの能力によって、本発明のミセル処方物と組み合わせて使用することができるナノ担体系が提供され得るかどうかを、これらの実験は決定しようとしている。種々の量の17−AAGが、PEG−PLAミセルに可溶化された(表1)。
【0062】
【表1】

17−AAGの送達のための高い溶解性およびきつい界面活性剤の欠如は、このミセル処方物が、CrELを含む現在の送達ビヒクルよりもはるかに優れていることを実証している。
【0063】
ミセルの物理的特性評価.動的光散乱(Brookhaven Instruments Corporation)により、薬物を含有しない平均寸法242±5nmのPEG−PLA(12:6kDa)ミセル、および薬物を負荷した平均寸法257±2nmのPEG−PLA(12:6kDa)ミセルは、最大1.5mg/mLの17−AAGを可溶化することが実証された。PEG−PLA(12:6kDa)は、350nMの低い臨界ミセル濃度(CMC)を有する(図1(b))ことがわかり、これは、以下のGibbsのミセル形成の自由エネルギーに示されるように、該ミセルの熱力学的安定性が高かったことを示唆する。
【0064】
ΔG=RTln(CMC)
PEG−PLA(12:6kDa)ミセルに関してここで報告した大きさおよびCMCは、Kataokaらによって先に報告されているものよりもかなり大きい(J.Control.Release62(1−2)(1999)89−100)。ミセルへの17−AAGのカプセル化は、有機溶剤としてDMSOを使用して行われていたが、透析法でミセルを形成する場合は、DMAcの使用が有利であることがわかった。17−AAGを可溶化するPEG−PLAミセルの適合性を評価するために、10%w/wで負荷実験を行った。
【0065】
表1における17−AAG負荷の報告値は、PEG−PLAに基づく17−AAGの10%w/w負荷を示す。薬物のミセルへの取り込みは、水性GPC(Shodex SB−806M)を使用して、屈折率(ミセル)および17−AAG(UVλ332)において、等価保持時間を監視することによって検証した。PEG−PLAに対する17−AAGのモル比は、0.73±0.09〜1の範囲であり、17−AAG負荷効率は19±3%w/wであった。回転蒸発による濃縮の後、0.3mMのPEO6000−b−PDLLA12000中の17−AAGの最大溶解度は、約1.5±0.2mg/mLであり、17−AAGに比べて約150倍改善した(National Cancer Instituteに従い約10μg/mL)。ラパマイシンに関して先に報告したように、薬物に対して1:1の比のα−トコフェロールを取り込むことにより、負荷を改良することが試みられた(J.Control.Release110(2)(2006)370−377)が、得られたミセルは大きく(>500nm)、不安定であった。4℃でも、4〜5時間後に、薬物は溶液から析出した。PEG−PLA(12:12kDa)ミセル中の薬物負荷は、PEG−PLA(12:6kDa)ミセル(1.5mg/mL)、およびα−トコフェロール含有および非含有の場合と比べて、非常に少ない(<0.5mg/mL)こともわかった。
【0066】
17−AAG放出実験.正常な体温でのPEG−PLAミセルからの17−AAGのインビトロ放出動力学を、37℃の水に対する薬物負荷ミセルの透析によって調べた。17−AAGの溶解性が低いことから、放出媒体は、浴を連続的にパージしなくても素早く飽和していたであろう。従って、放出データの分析における制約とは、PEG−PLAミセルから直接17−AAGの放出を測定できないことであった。一旦薬物がPEG−PLAミセルから放出されると、薬物は透析膜を通って拡散するしかなく、第2の拡散バリアを生じて分析を複雑にした。透析膜が放出速度全体に大きな影響を与えるかどうかを測定するために、カセットに遊離の17−AAG(水で希釈する前に、最小量のMeOHに初期に溶解させたもの)を負荷し、等価保持時間を測定した。PEG−PLAミセルは、約4時間の半減期での放出を示し(図2)、これは薬物のみの場合と比べて2倍の改善であった。
【0067】
インビトロ細胞毒性実験.ミセルにカプセル化された17−AAGのMCF−7ヒト乳癌およびPC−3前立腺癌細胞に対する増殖阻害活性を、レサズリン染料を使用してインビトロで測定し、代謝活性を検査した。17−AAGは、MCF−7における22±14nMのIC50、およびPC−3細胞における74±14nMのIC50のサブマイクロモル濃度で活性であった。National Cancer Instituteによって報告された範囲内の全ての数字は、それぞれ、MCF−7についてのIC50として12.6nM、およびPC−3についての50.1nMであった。比較として、薬物にカプセル化されたミセルは、MCF−7においてIC50が160±56nM、PC−3細胞において536±13nMであった(表2)。
【0068】
【表2】

IC50値におけるこの相違は、ミセルからの長時間にわたる薬物の放出のため、および放出と、閉ざされた系内のミセルのコアへと戻る薬物分配との間で達した偶発的な均衡状態のためであり得る。ミセル単独では、調べた細胞株内において明らかな毒性は示さなかった(IC50>10,000nM)。カプセル化された薬物は、17−AAGより活性が低いように思われるが、ナノカプセル化は、腫瘍蓄積が促進されるため、インビボでの17−AAG送達の全体的な効力を増大させると考えられる。同じように、Liらは、ポリ−(L−グルタミン酸)−パクリタキセル複合物の効力が、インビトロではパクリタキセルよりも有意に低かったが、腫瘍中で蓄積が促進されるため、インビボでは優れた活性を実証したと報告した(Cancer Res.58(1998)2404−2409)。
【0069】
薬物動態実験.CrEL−EtOH−PEG400の標準的な処方物と比較した、PEG−PLA(12:6kDa)ミセル処方物の薬物動態学的プロファイルの相違を図3に示す。対照処方物と比べたミセル処方物からの24時間以内の17−AAGの効果的な定量化(定量化限界値を下回る前の最大12時間のみの効果的な定量化)によって観察されるように、ミセル処方物は、注入から24時間後に血清AUCの増加を示した(図3a)。また、ミセル処方物は、24時間後、尿中に存在する17−AAGの増加(図3b)、36時間にわたる腎クリアランスのより早い速度(図3c)、および注入から48時間後の尿中の高い薬物濃度(図3d)も示した。PEG−PLAミセルの血清の曲線下面積(AUC)は、標準的な処方物の1.3倍であった。10mg/kg(表3)で、ミセル処方剤の総クリアランス(総CL)は、標準的なビヒクルと比べて1.3倍減少し、ミセル処方剤の薬物の腎クリアランス(腎CL)は、より高い(1.5倍)肝クリアランス(肝CL)を示した標準的なビヒクルと比べて増加した(4.3倍)。
【0070】
【表3】

PEG−PLA(12:6kDa)ミセル処方物では、薬物の血清半減期(t1/2)が2.7倍延長した。対照の標準的なビヒクル処方物に比べて、総クリアランスの低下(1.3倍減少)によって観察されたように、長時間血中に存在するため、ミセル処方物の分布容積(V)の増加(1.7倍)、および血清における半減期の延長(2.7倍延長)および尿中における半減期の延長(1.2倍延長)が観察された。ミセル処方物に関する薬物の腎クリアランス(腎CL)は、標準ビヒクルに比べて増加し(4.3倍)、肝クリアランス(肝CL)がより高い(1.5倍)ことを示した。最後に、2種の処方物の間に、平均滞留時間(MRT)の有意な相違はないことがわかった。
【0071】
2種の処方物の間の薬物動態パラメータ全体には大きな相違はないが、ここでの結果により、好ましくない副作用における大きな減少が、17−AAG PEG−PLAミセルナノ担体処方物によってもたらされ得ることが示されている。標準的な処方物は、CrEL、すなわち患者にアナフィラキシーを起こすことが知られている有害な界面活性剤を含む。CrEL処方物の使用は、抗ヒスタミン類およびステロイド類で予備処置を必要とする(Sydorら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、2006;103(46)、17408−13)。本発明によるミセル処方物は、そのような予備処置を必要としない。
【0072】
PEG−PLAミセル中の17−AAGは、ラットにおいて良好な忍容性を示した。該実験の期間中、激しい毒性の徴候は観察されなかった。また、CrEL−EtOH−PEG400の標準的な処方物について観察された24時間以内の死亡率が35%であったのに比べて、ナノ担体処方物について観察された死亡率は0であった。従って、PEG−PLAミセルナノ担体処方物中の17−AAGは、EtOHおよびCrELのような毒性薬剤を必要とすることなく、17−AAGの薬物動態的性質を保持することができる。従って、該処方物は、癌治療において、有望な化学療法剤17−AAGを使用する新しい方法を提供する。
【0073】
生体内分布実験.定量可能な量の17−AAGを、測定した全ての組織で観察した(図4(a))。組織採取を、10mg/kgの異なる処方物のIV投与から3時間後に行った。対照処方物に関して、17−AAG濃度の最も高いものから最も低いものの順序は、肺>腎臓>肝臓>ひ臓>心臓>脳>膀胱>骨>筋肉>血清>全血であった。ミセル処方物に関して、最も高い濃度から最も低い濃度の順序は、肺>腎臓>肝臓>ひ臓>脳>骨>膀胱>心臓>筋肉>血清>全血であった。ミセル系は、17−AAGの脳、心臓、および膀胱への組織内分布において、いくらかの違いを示したが、分析された他の組織においては、標準的な処方物に類似する濃度が見られた。ミセル処方物に関して、全ての組織における組織対血清比(K)の値(図4(b))は、対照より低かった。標準的な処方物(CrEL−EtOH−PEG400)およびミセル処方物にカプセル化された17−AAGの投与後のKp値(図4、下のパネル)は、脳、心臓、膀胱および全血に関して、統計的に相違し、このことは、組織の間で分配に何らかの優先性があることを示唆する(図4(b))。いくつかの組織のうち、処方物間のKp値の相違は、対照と本発明によるミセル処方物との間の担体の特性、分配、クリアランス、および17−AAGの分布容積の相違を始めとするいくつかの要因に起因するものであろう。
【0074】
結論
適切な処方物がないために、17−AAGの臨床試験への移行が妨げられてきた。17−DMAG(アルベスピマイシン)のようなより新しい誘導体は、水溶性に関連するいくつかの問題を克服している。しかし、肝臓によるこれらの誘導体の優先的かつ迅速なクリアランスは、腫瘍への薬物分布を限定し、そのため、薬物の効力を大きく制限している。有機共溶剤またはきつい界面活性剤を必要としない17−AAGの処方物が調製されている。該処方物は、1.5mg/mLの17−AAGをPEG−PLA(12:6kDa)ミセルに可溶化することができる。有機共溶剤または界面活性剤を必要としない17−AAGの第2の処方物が調製されている。この処方物は、約5mg/mLの17−AAGをPEG−PLA(2:2kDa)ミセルに可溶化することができる。パクリタキセルのPEG−PLAミセルへのカプセル化に関する類似の研究は、このより安全なミセル処方物が、CrELを患者に投与した後に該薬物に関連する有害な副作用を最小限にできることを実証している。さらに、ナノスケールの寸法は、たとえ標的リガンドが存在しなくても、EPR効果により薬物の腫瘍特異性にさらなる利点を与える。
【0075】
実施例3.ポリマー組成物および薬物負荷
本発明によるある特定のミセルを、表4および5のデータに示すように調製した。
【0076】
【表4】

表4で製造したミセルの各試料に関して、0.5mLのアセトニトリル(AcCN)を使用して薬物およびポリマー(約60℃で)を溶解し、その後溶液を濃縮し、0.5mLの脱イオン水(DW)を加えてミセルを形成した。0.45μm孔フィルターを使用して、ろ過によりミセルを単離した。パクリタキセル/17−AAG二重薬剤ミセル(PAX+AAG)に関して、薬剤のポリマーに対する比を、各薬剤の質量によって計算した。例えば、2mgのパクリタキセルと2mgの17−AAGとを、5mgのPEG−PLAポリマー(2K−2K)で可溶化し、1:2.5の薬物:ポリマー比のミセルとした(すなわち、この比は、薬剤の合計ではなく、1つの薬剤の質量によって計算した)。
【0077】
【表5】

表5は、パクリタキセル(PAX)、17−AAG、または2つの薬剤を一緒に負荷してカプセル化した種々のPEG−PLAミセルの物理的安定性を示す。表中の値は、室温で蒸留水中に24時間保存された後、ミセルによって保持された活性剤の量を示す。17−AAGを単独で、またはパクリタキセルと組み合わせてカプセル化したミセルは、パクリタキセル単一薬剤ミセルよりも有意に安定であった。類似の安定性結果が、17−AAG/ドセタキセルまたは17−AAG/エトポシドの組合せを含有するミセルに関しても得られた(図12〜15参照)。図10に、脱イオン水に溶解することができる薬物処方物の量(mg/mL)を示す。
【0078】
5K:6K(それぞれPEG:PLA)のブロックサイズのPEG−PLAミセルは、パクリタキセル単独あるいは17−AAG単独を、約5mg/mLで適切に可溶化する。しかし、パクリタキセルミセルは、パクリタキセルがミセルから析出することによって(例えば、パクリタキセルの水溶性の喪失)、17−AAGミセルよりも速くミセルのコアから薬物を失った(24時間で)。17−AAGミセルは、特定の他の活性剤(例えば、パクリタキセル)だけを含むミセルよりも、有意に安定であり溶解性が高いことがわかった。従って、17−AAGは、ミセル安定剤と考えることができる。
【0079】
パクリタキセルおよび17−AAGの両方を同時にPEG−PLAミセルに負荷した場合、予想外の効果が見出された。これらのミセルにおいて、各薬物の可溶化は、各薬物を単独でPEG−PLAミセルに負荷した場合に得られるレベルに近づいた。例えば、5K:6Kミセルでは、両薬剤のそれぞれに関して、(薬剤のみの場合の約5mg/mLと比較して)約4〜5mg/mLの負荷が達成された。
【0080】
これらの画期的な結果に加えて、両薬剤をコア内に含有するPEG−PLAミセルは、非17−AAG活性剤の損失について安定性が高いことが示された(図11参照)。PEG−PLAミセルのコア内の活性剤、例えば、17−AAGとパクリタキセルとの間の相互作用により、ミセルの安定性が増すことが見出された。5K−6Kおよび12K−6KのPEG−PLAを有するポリマーミセルは、ミセルの薬物:ポリマー比が1:7.5で、さらなる安定性を示した。同じ結果が、17−AAGと共にドセタキセルまたはエトポシドを含有するミセルにも見られた。従って、17−AAG(Hsp90阻害剤および化学療法剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、テニポシドおよび/またはエトポシド)の組合せを、有機溶剤、界面活性剤などに頼ることなく投与することができる。
【0081】
これらの結果を、PEG−PLAミセル(PEG−PLA 5K6K、薬物:ポリマー比=1:7.5)による、17−AAGとエトポシド、ドセタキセルおよびパクリタキセルとの共可溶化の結果を示す図10および11にさらに示す。具体的には、図10は、PEG−PLAミセル中でのパクリタキセルおよび17−AAGを合わせた可溶化を示す。2K−2Kおよび12K−3K PEG−PLAから調製されたミセルは、薬物:ポリマー比が1:5未満で、より低い薬物可溶化結果をもたらした。5K−3K、5K−6Kおよび12K−6K PEG−PLAから調製されたミセルは、1:7.5の薬物:ポリマー比で、最も高い可溶化をもたらした。
【0082】
エトポシドおよびドセタキセルは、パクリタキセルおよび17−AAGと同じ方法で、17−AAGと共可溶化することができる。また、17−AAGの存在下で、より多くのエトポシドが24時間にわたって溶液中にとどまる。図12〜15に、水中でのPEG−PLAミセルからの薬物放出を始めとする、ある量の分解に起因する、第2活性剤(パクリタキセル、ドセタキセルまたはエトポシド)の析出時の光学密度の変化を示す。17−AAGを含有するミセルは、この分解の発生を予防および/または阻害する。
【0083】
図12(a)〜(d)に、パクリタキセル/17−AAGミセルの溶解度、およびそれらの24時間後の安定性(PEG−PLA 5K:6K、薬物:ポリマー比=1:7.5)を示す。Malvern Zetasizerを、粒子径データを作成するために使用した。図12(c)は、24時間後に、98%を超えるPAXと97%を超える17−AAGがミセル内に残留したことを示す。図12(d)は、24時間後に、わずか8%のPAXがPAX単独ミセル中に残留したことを示し、これは、17−AAGの存在が、物理的に混合されたミセルに対して有意な安定性を提供することを示唆している。
【0084】
類似の結果が、エトポシド(ETO)およびエトポシド/17−AAGミセル(図13(a)〜(d))、ならびにドセタキセル(DCTX)およびドセタキセル/17−AAGミセル(図14(a)〜(d))について観察された。PEG−PLA 5K:6Kから調製されたミセルを使用して、1:7.5(wt./wt.)の薬物:ポリマー比で、図13および14のデータを得た。図13(c)は、24時間後に、ほぼ100%のエトポシドおよび17−AAGがミセル内に残留したことを示し、一方、エトポシド単独ミセルでは、エトポシドの大量の損失が観察された(図13(d):平均で70%を超える損失(n=3))。エトポシドは、わずか1〜2時間後には、エトポシド単独ミセルから析出し始めた。
【0085】
図14(c)は、ドセタキセルを含むミセル内に17−AAGを含有させることが、ドセタキセル単独ミセルと比較して有意な安定性の向上をもたらしたことを示す。24時間後、ドセタキセルおよび17−AAGは両方ともミセル内に95%を超える量で残留し、一方ドセタキセル単独ミセルでは、ドセタキセルの大量の損失が観察された(図14(d):平均で73.2%を超える損失(n=3))。ドセタキセルは、わずか2時間後には、ドセタキセル単独ミセルから析出し始めた。
【0086】
図15(a)および16(b)は、パクリタキセルに加えて、17−AAGをミセルに取り込むと、さらなる安定性がミセルに与えられることをさらに示す。薬物−ミセルにおける光学密度(OD)変化の測定は、ディッププローブを備えるVarian(登録商標)Cary50(0〜1440分;15分ごと;獲得:0.1秒)を使用して、650nm(RT)で行った。1:7.5の薬物:ポリマー比を、5K:6K PEG−PLAミセルで使用した。パクリタキセルカプセル化ミセルに13.4%パクリタキセル(wt./wt.)を負荷し、パクリタキセル/17−AAG二重薬剤ミセルに26.8%の薬剤を負荷した(組合せ;各薬物につき13.4%)。図15(a)は、大量のパクリタキセルがパクリタキセルカプセル化ミセルから失われたことを示し、一方、パクリタキセル/17−AAGミセルは、24時間にわたって実質的に安定であった(図15(b))。
【0087】
さらに、単純混合ミセル組成物を調製したときに、予想外な結果が観察された。例えば、1つの試料のミセルがパクリタキセルをカプセル化し、第2の試料のミセルが17−AAGをカプセル化したPEG−PLAミセルを調製した。ミセルの2種類の試料を組み合わせて単一の水性処方物とした場合、パクリタキセル単一薬剤ミセルは、PEG−PLAミセルの純粋なパクリタキセル単一薬剤処方物よりも、析出に対して安定であった。従って、17−AAGミセルを有する処方物におけるパクリタキセルカプセル化ミセルは、PEG−PLAミセルにパクリタキセルだけを取り込んだ処方物に比べて、安定性が向上した。いくつかの実施形態では、処方物中のミセル間で活性剤の平衡が起こり得る。他の単一薬剤ミセルは、17−AAGカプセル化PEG−PLAミセルで単純混合処方物を形成することによって、同様に安定化することができる。
【0088】
全ての公報、特許および特許文献は、参照によって個別に組み込まれているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。本発明を、種々の特的の好ましい実施形態および手法に言及して記載した。しかし、本発明の精神および範囲内にある限り、多くの変更および修正がなされてもよいことが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
17−AAGカプセル化ミセルを含む組成物であって、
ミセルは、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)ポリマーを含み、
ポリマーの疎水性ポリ(乳酸)ブロックは各ミセルの内部に向き、ポリマーの親水性ポリ(エチレングリコール)ブロックは各ミセルの外部に向き、
ポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量は約1,000〜約35,000g/molであり、ポリ(乳酸)ブロックの分子量は約1,000〜約15,000g/molであり、
ミセル中の17−AAGの薬物負荷は、ミセルの重量に対して約1重量%〜約25重量%であり、かつ
エタノール、ジメチルスルホキシド、ひまし油、およびひまし油誘導体を実質的に含まない、組成物。
【請求項2】
ミセル中の17−AAGの薬物負荷は、10重量%〜約20重量%である、請求項1の組成物。
【請求項3】
水性ビヒクルをさらに含み、17−AAGの濃度は、水性ビヒクルの容積に対して約0.6mg/mL〜約20mg/mLである、請求項1の組成物。
【請求項4】
17−AAGの濃度は、水性ビヒクルの容積に対して約1mg/mL〜約6mg/mLである、請求項3の組成物。
【請求項5】
約2重量%未満のエタノール、ジメチルスルホキシド、ひまし油、およびひまし油誘導体を含む、請求項1の組成物。
【請求項6】
ポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量は約10,000〜約14,000g/molであり、ポリ(乳酸)ブロックの分子量は約5,000〜約7,000g/molであり、ミセルの平均直径は約250nm〜約270nmである、請求項1〜5のいずれか1項の組成物。
【請求項7】
ポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量は約1,500〜約2,500g/molであり、ポリ(乳酸)ブロックの分子量は約1,500〜約2,500g/molであり、ミセルの平均直径は約40nm〜約60nmである、請求項1〜5のいずれか1項の組成物。
【請求項8】
1つ以上のPEG−PLAミセルにカプセル化された第2活性剤をさらに含み、ミセル中の第2活性剤の薬物負荷は、ミセルの重量に対して約1重量%〜約25重量%である、請求項1の組成物。
【請求項9】
17−AAGおよび第2活性剤は、1つ以上のPEG−PLAミセルに一緒に取り込まれている、請求項8の組成物。
【請求項10】
17−AAGおよび第2活性剤は、PEG−PLAミセルに別々に取り込まれ、該ミセルは、単一の水性ビヒクル内で組み合わされている、請求項8の組成物。
【請求項11】
第2活性剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、またはテニポシドである、請求項8〜10のいずれか1項の組成物。
【請求項12】
請求項1または8の組成物と、水性担体とを含む医薬組成物であって、該組成物は、静脈内または腹腔内投与のために処方され、水性担体は、生理食塩水または炭水化物を含む、医薬組成物。
【請求項13】
17−AAGの投与によって治療され得る状態の、あるいはそのような状態であると診断された患者に17−AAGを投与する方法であって、有効量の17−AAGカプセル化ミセルを含む組成物を投与することを含み、ミセルはポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)ポリマーを含み、
ポリマーの疎水性ポリ(乳酸)ブロックは、各ミセルの内部に向き、ポリマーの親水性ポリ(エチレングリコール)ブロックは、各ミセルの外部に向き、
ポリ(エチレングリコール)ブロックの分子量は約1,000〜約35,000g/molであり、ポリ(乳酸)ブロックの分子量は約1,000〜約15,000g/molであり、
ミセル内の17−AAGの薬物負荷は、ミセルの重量に対して約1重量%〜約25重量%であり、かつ
該組成物は、エタノール、ジメチルスルホキシド、ひまし油、およびひまし油誘導体を実質的に含まない、方法。
【請求項14】
ミセル中の17−AAGは、約4mg/m〜約4000mg/mの量で投与される、請求項13の方法。
【請求項15】
ミセル中の17−AAGは、1週あたり約100mg/m〜1週あたり約500mg/mの量で投与される、請求項13の方法。
【請求項16】
ミセル中の17−AAGは、1週あたり約300mg/m〜1週あたり約400mg/mの量で投与される、請求項13の方法。
【請求項17】
組成物は、17−AAGを含むミセル内部に第2活性剤をさらに含む、請求項13の方法。
【請求項18】
癌細胞を阻害または死滅させる方法であって、該細胞に、阻害または致死させるのに有効な量の請求項1または請求項8の組成物を接触させる工程を含む、方法。
【請求項19】
接触がインビボで行われる、請求項18の方法。
【請求項20】
接触がインビトロで行われる、請求項18の方法。
【請求項21】
癌細胞は、ヒト乳癌細胞、ヒト前立腺癌細胞、または白血病細胞である、請求項18の方法。
【請求項22】
Hsp90を阻害する方法であって、該Hsp90を、有効阻害量の請求項1または8の組成物と接触させる工程を含む、方法。
【請求項23】
接触がインビボで行われる、請求項22の方法。
【請求項24】
接触がインビトロで行われる、請求項22の方法。
【請求項25】
17−AAG、およびポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)ポリマーから形成されるミセルを含まない担体の投与後の血液中の17−AAGの半減期と比較して、哺乳類の血液中の17−AAGの半減期を延長する方法であって、請求項1または8の組成物の投与を含む、方法。
【請求項26】
17−AAG−カプセル化ミセルを製造する方法であって、17−AAGとポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)ポリマー単位とを、水混和性溶剤に溶解する工程と、該溶液を透析バッグに加える工程と、該透析バッグを水を含む浴に加えて、該透析バッグ中に17−AAG−カプセル化ミセルを得る工程と、該ミセルを単離する工程とを含む、方法。
【請求項27】
17−AAG−カプセル化ミセルを遠心分離して、取り込まれていない17−AAGを析出させる工程と、ろ過によって取り込まれていない17−AAGを除去し、単離された17−AAG−カプセル化ミセルを得る工程とをさらに含む、請求項26の方法。
【請求項28】
水を含む浴は、溶解した固体を含有する、請求項26または27の方法。
【請求項29】
溶解した固体は、塩化ナトリウム、デキストロースおよび緩衝液のうち1つ以上を含む、請求項27の方法。
【請求項30】
水混和性溶剤は、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドまたはジメチルアセトアミドである、請求項26または27の方法。
【請求項31】
17−AAG−カプセル化ミセルを製造する方法であって、17−AAGおよびポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(乳酸)ポリマー鎖を、水混和性溶剤に溶解して溶液を得る工程と、水混和性溶剤を除去してポリマーと17−AAGとを含む固体または油様組成物を得る工程と、水を該組成物に加えて水性混合物を得る工程と、該混合物を遠心分離して17−AAG−カプセル化ミセルと沈降物とを含有する上澄み液を得る工程と、該沈降物を除去して、単離された17−AAG−カプセル化ミセルを得る工程とを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15A】
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【図15B】
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【公表番号】特表2010−533180(P2010−533180A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516045(P2010−516045)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/008417
【国際公開番号】WO2009/009067
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(509239820)
【出願人】(510009566)
【出願人】(510009577)
【Fターム(参考)】