治療用タンパク質をコードする発現ベクターの硝子体内投与による光受容体のレスキュー方法
本発明は、眼疾患の治療において有用なタンパク質を発現させるための組み換え媒体を用いて眼疾患を治療するための方法を提供し、網膜における細胞亜集団を標的とするためにニューロトロフィン-4(NT-4)を使用することが特に好ましい。ベクターの硝子体内投与を介して、インサイチューにて網膜神経節細胞(RGC)層の細胞を形質導入させるために、ニューロトロフィン-4(NT-4)のような成長因子をコードする配列を含む、遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターが使用される。したがって、RGC層の網膜細胞亜集団を標的とすることによる光受容体のレスキューを含む、組み換え発現ベクターを介した治療用タンパク質の送達によって、それを必要とする対象を治療するための方法が開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、眼の治療法に関連するものであり、より具体的には、神経栄養成長因子を標的化および発現させる組み換え送達媒体を用いて、治療用タンパク質、好ましくはヒトニューロトロフィン4(NT4)を網膜の特定の亜集団に供給することにより、光受容体の変性を治療および予防する方法に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
背景の情報
網膜色素変性症(RP)は、光に反応する網膜の能力に影響を及ぼす遺伝的疾患群を指す用語である。本疾患はほとんどの場合において常染色体劣性であると考えられる一方、常染色体優性またはまれにX連鎖である場合もあり、複合症候群の一部として生じる可能性もある。RPを有する患者は青年期に夜盲症を発症し、その後成人期には完全に失明する。
【0003】
RPは主に桿体細胞、すなわち夜間視力、薄明かりの中での視力、および周辺視を司る光受容体細胞に影響を与える。色覚および明光下での視力を司る錐体細胞も疾患の進行の過程で影響を受ける可能性がある。
【0004】
ロドプシンは眼の桿体に占有的に認められる光感受性の眼の色素である。常染色体優性型のRPを有する個体においては、ロドプシン遺伝子が1つのヌクレオチドの変化を含む。突然変異遺伝子は、それがなければ症状が表れない個体において網膜の異常な光誘発反応が生じる原因となり、結果的に桿体および錐体の双方の光受容体細胞の進行性の変性を導く。変性の正確なメカニズムは不明であるが、非分解性突然変異ロドプシンおよび異常な円板膜が桿体細胞に徐々に蓄積し、この先天異常に対して網膜の二次反応が生じることから起こる可能性がある。
【0005】
ニューロトロフィンは、末梢神経系および中枢神経系における選択的なニューロンの生存および分化において重要な役割を果たすことが知られている(例えば神経成長因子 (NGF);脳由来神経栄養因子(BDNF);およびニューロトロフィン-4(NT4))。これらの因子が視覚系に属する細胞上で作用することが示されている。これらの因子の受容体は網膜において発現される。これらの因子のいくつかは、集まって視神経を構成するRGCの軸索に沿って順行性に輸送されることが可能である。
【0006】
多くのCNS領域においては、発達中のニューロンおよびそれらの結合は過剰に形成され、その後部分的に除去される。正常なげっ歯類においては、〜65%の発達中のRGCが核濃縮によって死滅する。未熟な末梢感覚ニューロンおよび末梢交感神経ニューロンは、標的由来のニューロトロフィンについて競合することによって生き残る。発達中のCNSニューロンに対するニューロトロフィンの生存促進効果については議論がなされるところであるが、インビトロにおいてはニューロトロフィンがこれらのニューロンの生存を促進することが示され、発達中のRGCおよび成熟したRGCを含むCNSニューロンの軸索切断に誘導される死滅を遅延あるいは減少させることが示された。
【0007】
したがって、過去の研究から、成長因子が死にかけている光受容体細胞をレスキューし得ることが示されている。例えば、8種の異なる因子を、高強度の連続光に曝露されたラットの網膜に注入した場合、全ての因子が光受容体細胞の変性を遅延させる能力を示した。これらはFGF(酸性型および塩基性型の両方)、BDNF、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびインターロイキン1(IL-1)を含む。ニューロトロフィン3(NT-3)、インスリン様増殖因子II(IGF-II)、トランスホーミング増殖因子β(TGF-β)ならびに腫瘍壊死因子αおよびβ(TNF-α、TNF-β)も生存維持活性を示したが、他の因子よりはるかに低い程度に過ぎなかった。しかし、光受容体の機能の長期の治療および維持のためには、これらのタンパク質因子を直接注入するだけでは不十分である。
【0008】
近年の研究により、30年間以上RPの研究のためのモデルとして供されてきたrdマウスの網膜変性表現型が、トランスジェニックマウスにおけるウシcGMPホスホジエステラーゼβサブユニットの発現によりレスキューされ得ることが示された。同様に、網膜緩慢変性(retinal degeneration slow:rds)マウスのrds表現型も、野生型rds遺伝子産物である39 kDaの膜結合糖タンパクを発現するトランスジェニックマウスの作製によって是正することが可能である。しかし、トランスジェニック技術をヒトの治療に直接的に適用することはできない。
【0009】
したがって、様々な眼の状態を治療するための治療法において、インビボおよびインサイチューにおける、ニューロトロフィンの持続性の送達がなおも必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、網膜における細胞亜集団を標的とするための、神経栄養因子を発現させる組み換え媒体を用いて眼の光受容体をレスキューすることによって眼疾患を治療する方法に関連する。神経成長因子(好ましくはニューロトロフィン-4(NT-4))をコードする配列を含有する遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターを用いると、硝子体内投与した場合にはそのベクターによって網膜神経節細胞(RGC)層がインサイチューにて特異的に形質導入される、または、成長因子をコードする発現ベクターにより形質導入されたドナー細胞の硝子体内移植後のその成長因子の発現によって該RGC層が影響を受ける。したがって、RGC層細胞亜集団を標的とすることによって光受容体をレスキューする段階を含む、それを必要とする対象を本ベクターを用いて治療するための方法が開示される。
【0011】
ある態様においては、成長因子を機能的にコードする発現ベクターによって網膜の網膜神経節細胞(RGC)を感染させる段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法が開示され、本方法において、眼への硝子体内注入によってベクターはRGCに投与され、さらには感染した細胞はその成長因子を構成的に発現する。関連する局面においては、発現ベクターは硝子体内での成長因子の発現のために、眼に移植される適したドナー細胞に含まれて送達され得る。
【0012】
関連する局面においては、本方法は第二の成長因子またはカルシウムチャネル遮断薬の投与を含む。その他の関連する局面においては、第二の成長因子は脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)または毛様体神経栄養因子(CNTF)である。さらに関連する局面においては、第二の神経成長因子は、成長因子をコードする組み換え発現ベクターのインビボ送達を介して、または遺伝子操作されたドナー細胞から組み換え発現されたものとして、タンパク質として硝子体内送達または網膜下送達される。
【0013】
ある局面においては、成長因子はNT4である。なおもその他の局面においては、発現ベクターはアデノ随伴ウイルスに由来するAAVベクターである。その他の局面においては、AAVベクターはAAV2型(AAV2)である、または眼細胞に対する親和性を有するその他のAAV血清型である。さらなる局面においては、近傍の細胞がRGCの感染を介して活性化され、そのような近傍の細胞は、非限定的に、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞、水平細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞を含む。
【0014】
ある局面においては、本方法は、眼疾患における光受容体の変性と関連するscotopic b波、scotopic a波、および/またはphotopic b波の振幅を増大させる。関連する局面においては、眼疾患は、網膜色素変性症(アッシャー症候群、バルデー-ビードル症候群、レフサム病を含む)、レーバー先天性黒内症、黄斑変性(加齢黄斑変性症の湿性型および乾性型、ならびにシュタルガルト病を含む)、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病を含む)、先天性脈絡膜欠如、網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、桿体錐体ジストロフィー、家族性ドルーゼン(malattia Leventinese)(またはドイン蜂巣状脈絡膜炎)、網膜血管腫状増殖(RAP)、黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)、または白点状網膜炎である。
【0015】
その他の局面においては、本方法は、網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さを増加させる。関連する局面においては、ONL層の厚さの増加は対照に比して著しい。
【0016】
ある局面においては、ONL層の厚さの増加は、網膜下注入されたAAVベクターによる光受容体細胞の感染に対する反応に比して著しい。関連する局面においては、感染したRGCによって近傍の細胞によるパラクリン反応が誘導される。
【0017】
その他の局面においては、発現ベクターは眼組織に対する親和性を有するAAV血清型に由来するものであり、該ベクターはウイルスタンパク質をコードする配列を欠くが、NT4をコードする核酸配列を含むものである。関連する局面においては、NT4遺伝子にはAAV末端逆位反復配列(ITR)が隣接している。
【0018】
その他の態様においては、組織特異的プロモーターの制御下で成長因子を機能的にコードする、感染力のある組み換え発現ベクターを投与する段階を含む、インサイチューにおいて光受容体の酸化損傷を治療する方法が開示され、本方法において、ベクターは対象の眼に硝子体内投与され、感染によって、成長因子の発現は眼の中の少なくとも1つの選択された組織に実質的に限定される。
【0019】
ある局面においては、成長因子はNT4である。その他の局面においては、NT4の発現は、組織特異的プロモーターの使用によって内網膜または外網膜またはその組み合わせ、特にミュラーグリア細胞に実質的に指向される。関連する局面においては、ベクターは、網膜細胞、特にミュラーグリアに特異的であることが認められているグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターを含む。その他の局面においては、本方法はさらに、少なくとも1つの血管新生阻害作用物質を成長因子(例えばNT4)と共投与する段階を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はCERE-140ベクター構築物の説明図を示す。
【図2】図2は、(A)製剤緩衝液(formulation buffer:FB)対照および(B)CERE-140の硝子体内注入後4週のCERE-140注入眼における、NT4の免疫化学的染色の典型的な画像を示す。赤矢印は網膜の神経節におけるNT4の発現を示し、網状層およびアマクリン細胞に渡るNT4の発現は黒矢印にて識別される。GCL=神経節細胞層;IPL=内網状層;INL=内核層;OPL=外網状層;ONL=外核層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮。
【図3】図3は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデル(左図)およびS334-4トランスジェニックラットモデル(右図)における、CERE-140(NT4-140)の硝子体内注入後のERGの結果を示す。上の図においては平均ERG振幅のヒストグラムが示される。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各ラットについての個々のデータの点がプロットされており、対側眼からのデータと線で連結されている。
【図4】図4は、光受容体変性の連続光損傷モデルにおいてCERE-140(NT4-140)を硝子体内投与した後のERGの結果を示す。scotopic b波反応(左図)およびphotopic b波反応(右図)についての平均振幅が個々のデータの点群内に実線によって示される。
【図5】図5は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図6】図6は、RP のS334-4トランスジェニックラットモデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図7】図7は、網膜変性の連続光損傷モデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図8】図8は、硝子体内注入後4週における(A)製剤緩衝液(FB)対照および(B)AAV/NTN(CERE-120構築物)注入眼における、ニュールツリン(NTN)免疫組織学的染色の顕微鏡写真画像を示す。GLC=神経節細胞層;IPL=内網状層;INL=内核層;OPL=外網状層;ONL=外核層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮。
【図9】図9は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデル(左図)およびS334-4トランスジェニックラットモデル(右図)における、CERE-120(NTN-120)の硝子体内注入後のERGの結果のヒストグラムを示す。上図においては平均ERG振幅のヒストグラムが示される。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各ラットについての個々のデータの点がプロットされており、対側眼についてのデータと線で連結されている。
【図10】図10は、光受容体変性の連続光損傷モデルにおける、CERE-120(NTN-120)の硝子体内注入後のERGの結果のヒストグラムを示す。scotopic b波反応(左図)およびphotopic b波反応(右図)についての平均振幅が個々のデータの点群内に実線によって示される。
【図11】図11は、光受容体変性のrcd3イヌモデルにおける、CERE-140(NT4-140)の硝子体内注入後のERGの結果を示す。photopic a波およびフリッカーERGの振幅についての平均値(上図)および個々の値(下図)。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各動物についての個々のデータの点がプロットされており、対側眼についてのデータと線で連結されている。CERE-140注入眼においては、製剤緩衝液を注入した対照対側眼と比較して、photopic a波(p=0.004)および錐体フリッカー振幅(p=0.01)における有意な増大が認められた。
【図12】図12は、網膜下新血管新生部位へのNT4の標的化送達がvldlr-/-網膜をニューロン変性から保護することを示す。(A〜D)GFAPプロモーター制御下のアデノ随伴ウイルス2(AAV2)プラスミドにより、網膜下新血管新生領域の周囲の活性化されたミュラー細胞において選択的に遺伝子産物の発現が生じる。全てのウイルス調製物はP14において注入された。(A)AAV-GFAP-GFPを感染させたWT網膜。(B)対照CAG駆動性プロモーターを有するベクター(AAV-CAG-GFP)を感染させたWT網膜。(C〜D)注入後2週(P28、C)および注入後1カ月(P45、D)のミュラー細胞におけるGFPの発現。(E〜F)は、異常な新血管新生周囲の網膜下領域近傍のNT4遺伝子産物の局在を示す。(G)は、網膜下新血管新生周囲の領域におけるオプシン-1およびロドプシンのmRNAの定量的RT-PCR解析を提供する。(H〜I)は、網膜の機能に対するAAV-GFAP-NT4処置のERG解析を提供する。(J)は、3〜4カ月齢のWTマウス、3〜4カ月齢の非処置vldlr-/-マウス、4カ月齢の対照AAV-GFAP-GFP処置vldlr-/-マウス、および4カ月齢のAAV-GFAP-NT4処置vldlr-/-マウスを比較した、ERG測定の定量的解析を提供する。太字のp値は、AAV-GFAP-NT4処置された眼とAAV-GFAP-GFP処置された対側眼との間で統計学的有意差があった測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本組成物および方法を説明する前に、説明される特定の方法、プロトコール、細胞系、アッセイ、および試薬は変化し得るため、本発明はそれらに限定されないことを理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、本発明の特定の態様を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲において述べられるように、本発明の範囲を限定することを決して意図しないことも理解されるべきである。
【0022】
本明細書において、および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形の「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、そうではないと文脈が明らかに指示していない限り複数形の指示物を含むことを注記しなければならない。したがって、例えば「あるベクター」という指示語は複数のそのようなベクターを含み、「ニューロトロフィン」という指示語は1つまたは複数のニューロトロフィンおよび当業者に公知のその同等物に言及する、等である。
【0023】
そうではないと定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書において説明されるものと同様のまたは同等の任意の方法および材料を使用することができるが、ここで、好ましい方法および材料を説明する。
【0024】
そうではないと指示されない限り、本発明の実施は、当技術分野の範囲内で化学、生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学および薬理学の従来法を使用するものである。そのような技術は文献において十分に説明されている。例えば、Gennaro,A.R.編(1990)Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, Mack Publishing Co.;Colowick, Sら編, Methods In Enzymology, Academic Press, Inc.;Handbook of Experimental Immunology, I-IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編, 1986, Blackwell Scientific Publications);Maniatis, T.ら編(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Mannual, 第2版, I-III巻, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら編(1999)Short Protocols in Molecular Biology, 第4版, John Wiley&Sons;Reamら編(1998)Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course, Academic Press;PCR(Introduction to Biotechniques Series), 第2版(Newton & Graham編, 1997, Springer Verlag)を参照のこと。
【0025】
本発明は、眼細胞の治療のための成長因子、好ましくはNT4をコードする外来核酸の送達、および特にインサイチューにおける送達のための方法を開示する。驚くべきことに、他の状況においては神経系疾患の治療に有用であることが知られている少なくとも1つの他の成長因子であるニュールツリン(NTN)については、本発明の方法においては有効であると証明されなかった。したがって、眼細胞を治療するために提供される好ましい方法は、インサイチューにおけるNT4の送達のために遺伝子操作されたベクターを利用するものである。本方法は、眼細胞に外来核酸を取り込ませそれを発現させるような条件下で、NT4をコードする核酸を含むベクターを眼細胞に接触させる段階を含む。ある態様においては、ベクターは硝子体内注入を介してRGC層に送達される。
【0026】
または、成長因子、例えばNT4をコードする発現ベクターを用いて形質転換されたドナー細胞からの発現によって成長因子を送達してもよい。ある態様においては、成長因子はドナー細胞の硝子体内移植を介してRGC層に送達される。
【0027】
理論に縛られるのではないが、本発明に従った成長因子をコードする発現ベクター(例えばAAV/NT4)によって提供される機能的および解剖学的な利益は、成長因子の生理活性に依存する、および特に、NT4タンパク質が連続光損傷モデルにおいて光受容体をレスキューすることが示されているため、NT4の生理活性に依存すると仮定するのが合理的である。対照的に、その他の成長因子(BDNF、bFGF、CNTF、およびGDNFを含む)が光受容体変性のいくつかのインビボモデルにおいて有効であることも示されている。再度、理論に縛られるのではなく、AAV/NT4の網膜下経路よりも硝子体内投与後に有効性の改善が認められることについて可能な一つの説明は、網膜内にNT4を放出させるためには、硝子体腔および特にRGC層を標的とすることがより有効であるというものである。後者の仮説は、1つまたは複数の第二メッセンジャー分子により結局は光受容体の生存率が保たれるというパラクリンメカニズムを支持する可能性が高い。それ自体、パラクリンカスケードの成長因子誘発に影響され得る介入細胞タイプの数を最大化するためには、光受容体から離れた硝子体腔(すなわち硝子体液内であるがその中の前方の場所)への、神経成長因子をコードする発現ベクターの送達が望ましい。
【0028】
本明細書においては「インサイチューの眼細胞」という用語、または文法的なその同等語は、眼内すなわちインビボにおいて含まれる眼細胞を意味する。眼細胞は、水晶体、角膜(角膜内皮細胞、角膜実質細胞および角膜上皮細胞のいずれも)、虹彩、網膜、脈絡膜、強膜、毛様体、硝子体、眼血管系、シュレム管、眼筋細胞、視神経、ならびにその他の眼の感覚神経、運動性神経および自律神経の細胞を含む。好ましい態様においては、眼細胞は網膜神経節細胞層に含まれる。
【0029】
本明細書においては「遺伝子操作された」という用語は、外来核酸またはトランスジーンの導入のような組み換えDNA操作に供された核酸媒体であり、結果的に通常は自然界に認められないような形体となる核酸媒体を意味する。一般には、外来核酸またはトランスジーンは、組み換えDNA技術を用いて作製される。一旦遺伝子操作された媒体が作製されると、組み換え技術を使わずに、すなわち宿主細胞のインビボの細胞機構を用いて複製され得るが、それも本発明の目的のために遺伝子操作されたものとなおも考えられることが理解される。また、ドナー細胞の場合、外来核酸、特に組み換え発現ベクターによって形質導入された場合に、そのような細胞は遺伝子操作されたものと考えられる。
【0030】
本明細書においては「核酸」という用語または文法的なその同等語は、DNAまたはRNA、またはリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドの双方を含む分子のいずれかを意味する。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、ならびにセンス核酸およびアンチセンス核酸を含むオリゴヌクレオチドを含む。核酸は、二本鎖、一本鎖であってもよく、または二本鎖配列もしくは一本鎖配列の双方の部分を含んでもよい。
【0031】
本明細書においては「外来核酸」または「異種核酸」または「組み換え核酸」という用語、または文法的なその同等語は、通常は眼細胞において認知できる量または治療用量では産生されないようなタンパク質をコードする核酸を意味する。したがって、外来核酸は、他の生物に由来する異種核酸のような、眼細胞のゲノムには通常は認められない核酸を含む。外来核酸はまた、眼細胞のゲノム内に通常認められるが、眼細胞において通常は認知できる量または治療用量では発現されないタンパク質の発現を許容する形体にある核酸をも含む。または、外来核酸は、天然に存在するタンパク質の変異体もしくは突然変異体の形体のものをコードし得る。
【0032】
一旦外来核酸が作製され宿主細胞または宿主生物に再導入されると、インビトロにおける操作ではなく、組み換え技術を使わずに、すなわちインサイチューの宿主細胞またはドナー細胞のインビボの細胞機構を用いて複製される;しかし、一旦組み換え技術で作製されたそのような核酸は、それに続いて組み換え技術を使わずに複製されたとしても、本発明の目的のためには「外来」または「組み換え」であるとなおも考えられることが理解される。
【0033】
ある態様においては、外来核酸は、発現されるべきタンパク質をコードする。すなわち、それは眼疾患を治療するために使用されるタンパク質である。
【0034】
ある態様においては、外来核酸は1つのタンパク質をコードする。その他の態様においては、外来核酸は1つ以上のタンパク質をコードする。したがって、例えば、ある眼の障害を治療するために有用な複数のタンパク質が望ましいという可能性がある;または、複数のタンパク質をコードする外来核酸を使用して複数の眼疾患が一度に治療される可能性がある。
【0035】
同様に、「外来タンパク質」または「組み換えタンパク質」は、組み換え技術を用いて、すなわち上記に説明されたように外来核酸または組み換え核酸の発現を通して産生されたタンパク質である。組み換えタンパク質は、少なくとも1つまたはそれ以上の特性によって、天然に存在するタンパク質から識別される。例えば、タンパク質の量が増加するように誘導型プロモーターまたは高発現プロモーターを使用することによって、通常に認められるものよりも著しく高い濃度でタンパク質を産生することが可能である。したがって、例えばある外来タンパク質は、眼組織において通常には発現されないものである。または、タンパク質は、エピトープタグの付加もしくはアミノ酸の置換、挿入および欠失のような、自然界では通常は認められない形体であることが可能である。
【0036】
好ましい態様においては、外来核酸は眼疾患の治療において有用なタンパク質をコードする。タンパク質は外来核酸によって発現される成長因子である。提供される成長因子の発現は一過性または構成的である。したがって、例えば治療用タンパク質が短期間送達されるような場合、一過性発現系を使用することが可能である;例えば、眼の手術または創傷の後に、ある種の外来タンパク質が望ましいような場合である。または、網膜色素変性症もしくは黄斑変性のような進行性もしくは先天性の眼疾患については構成的な発現が望ましい可能性がある。
【0037】
本明細書においては、「眼疾患」は遺伝的欠損、傷害またはその他の外傷(例えば手術後の状態)、疾患またはその他の障害のいずれかの結果として生じる、健常な状態の動物にとって正常ではない眼の障害または病理学的状態を意味する。そのような眼疾患の当技術分野において許容されている動物モデルは既知のものである;例えば、rdマウスの網膜変性表現型は、ヒトの網膜色素変性症の研究のためのモデルとして30年以上供されている(Lemら, Proc.Natl.Acad.Sci USA., 15:442(1992))。本明細書では、動物モデルにおける網膜の損傷を作製および修復するためのその他の実験プロトコールが例証される。
【0038】
ある態様においては、眼疾患は遺伝的欠損によって引き起こされる可能性がある。遺伝子が同定されているそのような眼疾患の例は、非限定的に、常染色体網膜色素変性症、常染色体優性白点状網膜炎、中心窩の蝶形色素ジストロフィー、成人型卵黄状黄斑ジストロフィー、ノリエ病、青錐体一色型色覚、先天性脈絡膜欠如および脳回転状萎縮を含む。これらはまた遺伝性眼疾患と呼ばれる場合もある。
【0039】
その他の態様においては、眼疾患は(将来的には遺伝的要因を有することが示される可能性があるが)特定の既知の遺伝子型によって引き起こされるものではない可能性がある。これらの眼疾患は、非限定的に、黄斑変性、網膜芽腫、前部ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎、網膜血管疾患、白内障、角膜ジストロフィーのような遺伝する角膜欠損、網膜の剥離および変性、虹彩萎縮、ならびに、糖尿病性網膜症のような緑内障および糖尿病に伴う網膜の二次疾患を含む。
【0040】
さらに、眼疾患という用語は、遺伝的な素因によるものでなはいが、なおも眼の障害または機能不全を引き起こす状態を含む。これらは、非限定的に、単純疱疹ウイルスまたはサイトメガロウイルス(CMV)への感染のようなウイルス感染、アレルギー性結膜炎およびその他の眼のアレルギー反応、ドライアイ、リソソーム蓄積症、糖原病、コラーゲンの障害、グリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンの障害、スフィンゴリピドーシス、ムコリピドーシス、アミノ酸代謝障害、甲状腺眼疾患、前部および後部角膜ジストロフィー、網膜の光受容体の障害, 角膜潰瘍、アッシャー症候群、バルデー-ビード症候群、レフサム病、レーバー先天性黒内症、非限定的に湿性型および乾性型の加齢黄斑変性症を含む黄斑変性、シュタルガルト病、非限定的にベスト病を含む卵黄状黄斑ジストロフィー、先天性脈絡膜欠如、網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、桿体錐体ジストロフィー、家族性ドルーゼン(malattia Leventinese)またはドイン蜂巣状脈絡膜炎、白点状網膜炎、ならびに手術後のもののような眼球の創傷または酸化ストレス/損傷によって引き起こされる異常、例えば網膜血管腫状増殖(RAP)および黄斑部毛細血管拡張症 (MacTel)を含む。
【0041】
本明細書においては、「酸化損傷」または「酸化ストレス」という用語は、フリーラジカルの放出およびその結果として細胞変性が生じることにより特徴化される、細胞においてオキシダント産生が増加した状態を意味する。酸化ストレスは過剰な新血管新生に相関し、網膜の錐体光受容体を含むある種のニューロンの病因と一般に関連する。糖尿病性網膜症のような、異常な網膜脈管形成に関連する障害においては、内網膜から硝子体にまで異常な血管が成長し得る。黄斑部毛細血管拡張症(または突発性傍中心窩毛細血管拡張症)と呼ばれる、網膜の血管新生の一般的な形体においては、網膜内の毛細管拡張性の血管が内網膜の中央部において増殖し、通常は無血管の外網膜にまで成長し得る。加齢黄斑変性症(AMD)では、典型的に脈絡膜から異常な血管が生じ、網膜下腔まで侵入する。しかし、AMD患者の小集団においては、内網膜血管から網膜内および網膜下に新血管新生が生じ、網膜血管腫状増殖(RAP)として知られる状態になる。
【0042】
ある態様においては、組織特異的プロモーターの制御下で成長因子を機能的にコードする、感染力のある組み換え発現ベクターを投与する段階を含む、疾患または光受容体の酸化損傷を含む損傷を治療する方法が開示され、ベクターは対象の眼に硝子体内投与され、感染により、成長因子の発現は眼の中の少なくとも1つの選択された組織に実質的に限定される。本明細書においては、「組織特異的プロモーター」という用語は、1つまたは複数の選択機能を営むような形態学的に同様な細胞における転写産物の発現を選択的に制御する制御因子を意味する。
【0043】
関連する局面においては、ベクターはグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターを含む。GFAPプロモーター配列は当技術分野において周知であり(例えば、本参照により本明細書に組み入れられる、Besnardら, J. Biol. Chem., 266:18877-18883, 1991; Masood ら, J. Neurochem. 61:160-166, 1993; Brenner ら, J. Neurosci., 14:1030-1037, 1994を参照のこと)、このプロモーターを含むベクターは商品として利用可能である。GFAPプロモーターは、硝子体内に送達された場合に網膜細胞、特にミュラーグリアに対して特異性を有することが認められている。
【0044】
その他の局面においては、治療する方法は、少なくとも1つの血管新生阻害作用物質を共投与する段階をも含む。関連する局面においては、血管新生阻害作用物質は、VEGFR-1、NRP-1、アンジオポイエチン2、TSP-1、TSP-2、アンジオスタチン、エンドスタチン、バソスタチン(vasostatin)、カルレチクリン(calreticulin)、血小板第4因子、IMP、CDAI、Meth-1、Meth-2、INF-α、INF-β、INF-γ、CXCL10、IL-4、 IL-12、IL-18、プロトロンビン(クリングルドメイン-2)アンチトロンビンIII 断片、プロラクチン、VEGI、SPARC、オステオポンチン、マスピン、カンスタチン(canstatin)、プロリフェリン関連タンパク質、restin、ベバシズマブ、カルボキシアミドトリアゾール、TNP-470、CM101、スラミン、トロンボスポンジン、抗血管新生ステロイド/ヘパリン、軟骨由来血管新生阻害因子、RNAアプタマー (例えばMACUGEN, OSI Pharmaceuticals, Long Island, NY)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、2-メトキシエストラジオール、Tecogalan、αvβ3 阻害剤、およびリノマイド(linomide)を含む。
【0045】
本明細書においては、「外来核酸の取り込みを許容するような条件」という用語は、インサイチューの眼細胞に外来核酸を取り込ませ、それによって形質転換させるような実験条件を意味する。
【0046】
許容条件は、外来核酸の形体に依存する。したがって、例えば、外来核酸がウイルス性組み換え発現ベクターの形体にある場合、許容条件は細胞のウイルス感染を許容するものである。同様に、外来核酸がプラスミドの形体にある場合、許容条件はプラスミドを細胞に入らせるものである。したがって、外来核酸の形体とその取り込みを許容するような条件は相関する。これらの条件は、一般的に当技術分野において周知であり、本発明に従った発現ベクターの眼細胞へのインビボの送達に使用される、または、ドナー細胞のエクスビボの形質導入に使用される。
【0047】
外来核酸の取り込みのための特定の条件は、当技術分野において周知である。それらは、非限定的に、レトロウイルス感染、ウイルスベクター感染(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルスへの感染)、プラスミドを用いた形質転換、外来核酸を含むリポソームを用いた形質転換、微粒子銃による核酸送達(すなわち核酸を金またはその他の金属粒子に充填し、細胞に撃ち込むまたは注入する)、およびヘルペスウイルス感染を含む。これらは全て本発明の目的のための「発現ベクター」と考えられ得る。
【0048】
ある態様においては、ベクターはAAVベクターである。AAVベクター系は、真核細胞において様々な遺伝子を発現させるために使用されてきた。HermonatおよびMuzyczka, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:6466-6470, 1984は、AAVカプシド遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子(neo)に置換されており、ネズミおよびヒトの細胞系へのrAAVによるネオマイシン耐性の形質導入が認められた組み換えAAV(rAAV)ウイルス株を作製した。Tratschenら, Mol. Cell. Biol., 4:2072-2081, 1984は、ヒト細胞においてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を発現することが認められたrAAVを作製した。Lafare ら, Virology, 162:483-486, 1988は、AAVベクターを用いた造血前駆細胞への遺伝子伝達を認めた。Ohiら, J. Cell. Biol., 107:304A, 1988は、ヒトβ-グロビンcDNAを含む組み換えAAVゲノムを構築した。Wondisford ら, Mol. Endocrinol., 2:32-39, 1988は、ヒト甲状腺刺激ホルモンのサブユニットを各々がコードする2つの異なる組み換えAAVベクターによって細胞を共トランスフェクションし、生物学的に活性な甲状腺刺激ホルモンの発現を認めた。
【0049】
いくつかのrAAVベクター系が設計されている。例えば、Samulski ら, J. Virol., 61:3096-3101, 1987は、ウイルスタンパク質をコードするドメインに隣接する2つのXbaI切断部位を含む、感染力のあるアデノ随伴ウイルスゲノムを構築した;これらの制限酵素切断部位は、AAVのシス作用性の末端反復配列の間への非ウイルス性配列の挿入を許容するように作製された。米国特許第4,797,368号は、プラスミドに含まれ、AAV粒子にパッケージングされることが可能であり、AAV転写プロモーターの制御下に置かれた場合に真核細胞において遺伝子またはDNA配列の安定した維持または発現を行わせるためのベクターとして機能するAAVベクターに関連する。その他のAAVベクターおよびその使用については、米国特許第5,139,941号およびPCT国際特許出願国際公開公報第94/13788号、およびYokoiら, Investigative Ophthalmology and Visual Science, 48:3324-3328, 2007(自己相補性AAVベクター)において説明されている。
【0050】
数多くのAAV血清型が眼組織に対して親和性を有することが知られている(例えば Alloccaら, Expert Opinion on Biological Therapy, 12:1279-1294, 2006を参照のこと)。そのような血清型は、本発明における発現ベクターとしての使用のために特に好ましく、AAV2およびAAV5を含む。
【0051】
一般に、これらの発現ベクターは、外来核酸に機能的に連結された転写制御核酸および翻訳制御核酸を含む。本文脈における「機能的に連結された」とは、転写制御DNAおよび翻訳制御DNAが、転写が開始されるように外来タンパク質のコード配列に対して配置されることを意味する。一般に、これはプロモーター配列および転写開始配列が外来タンパク質コード領域に対して5’側および/または3’側に配置されることを意味する。転写制御核酸および翻訳制御核酸は一般に、外来タンパク質を発現させるために使用される宿主眼細胞に対して適当なものとなる;例えば、哺乳類およびヒトにおいて外来タンパク質を発現させるためには哺乳類細胞、特にヒト細胞に由来する転写制御核酸配列および翻訳制御核酸配列が好ましくは使用される。当技術分野においては、数多くのタイプの適当な発現ベクターおよび適した制御配列が知られている。
【0052】
一般に、転写制御配列および翻訳制御配列は、非限定的に、ITR、TR、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および転写停止配列、翻訳開始配列および翻訳停止配列、ならびにエンハンサー配列またはアクチベーター配列を含み得る。好ましい態様においては、制御配列はプロモーター配列および転写開始配列および転写停止配列を含む。
【0053】
プロモーター配列は、構成的なプロモーターまたは誘導型のプロモーターのいずれかをコードする。プロモーターは、天然に存在するプロモーターまたはハイブリッドプロモーターのいずれかであり得る。1つ以上のプロモーターの要素を組み合わせたハイブリッドプロモーターも当技術分野においては知られており、本発明において有用である。
【0054】
さらに、発現ベクターは付加的な要素を含み得る。例えば、発現ベクターを組み込むために、発現ベクターは宿主細胞ゲノムに相同の少なくとも1つの配列を含み、好ましくは発現構築物に隣接する2つの相同の配列を含む。ベクター内への封入に適した相同の配列を選択することによって、組み込むベクターを宿主細胞(インサイチューまたはエクスビボのドナー細胞)における特定の遺伝子座に指向させることが可能である。ベクターを組み込むための構築物は当技術分野において周知のものである。
【0055】
本明細書においては、「眼疾患の治療において有用なタンパク質」は、眼疾患の症状を緩和するのに有効であるタンパク質を意味する。眼疾患は遺伝性であり得るか、または遺伝的要因を有していない場合もある。したがって、例えば、眼の創傷、アレルギー、ウイルス感染、潰瘍化などを、有用なタンパク質によって治療することが可能である。例えば、gDは単純疱疹ウイルス感染の治療において有用なタンパク質であり、トランスホーミング増殖因子β(TGFβ)は角膜上皮の創傷の治療において有用である;眼のアレルギーについては抗IgE抗体、そして網膜変性についてはBDNF、GDNFおよびCNTFが有用である。網膜変性のために、または網膜血管疾患、もしくは網膜剥離もしくは緑内障の後の損傷を遅延もしくは予防するために、ニューロトロフィン4(NT4)ならびにBDNF、ならびにそれらの融合体および/または変異体を使用してもよい。これらの神経栄養因子を、視神経の圧縮、外傷または脱髄を治療するために使用してもよい。免疫抑制性タンパク質を、角膜移植後の移植片拒絶を治療するために使用してもよい。抗体または小分子のような血管内皮細胞増殖因子(VEGF)アンタゴニストを、網膜および硝子体の血管新生障害を治療するために使用してもよい。塩基性線維芽細胞増殖因子は、ラットにおいて光受容体の寿命を延長することが示された(Faktorovichら, Nature 347:83-86 (1990))。しかし、上記に述べられたように、実施例において説明される網膜変性モデルにおいてそれを使用し得られた優れた結果に基づくと、本発明における使用のためにはNT4が好ましい成長因子である。
【0056】
ある態様においては、眼疾患の治療において有用なタンパク質はNT4であり、NT4はベクターによって送達される。ある局面においては、AAVベクターは、全体的または部分的にアデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV2)に由来する、遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターである。関連する局面においては、AAVベクターはAAV/NT4である(図1において「CERE-140」と表される)。CERE-140構築物は、全てのウイルスタンパク質コードDNA配列を欠くが、ヒトニューロトロフィン-4タンパク質(NT4)をコードする配列(例えばGenBankアクセッション番号NM 006179を参照のこと)を含む。NT4トランスジーンの発現は、CAGプロモーター(CMVエンハンサーとニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーターおよびウサギβ-グロビン遺伝子イントロンとの融合体)およびヒト成長ホルモンによって制御される。
【0057】
眼への送達について、「単位用量」は、眼疾患の治療において有用なタンパク質、例えばNT4をコードする発現ベクターを含む薬学的に許容される組成物のベクターゲノム/mlの濃度を一般に指す。最適には、ウイルス性発現ベクターを用いたニューロトロフィンの送達については、本発明に従って提供される各単位用量は薬学的組成物の治療的に有効な用量を含むものであり、その組成物は薬学的に許容される流体中にウイルス性発現ベクターを含み、組成物ml当たり1010から1015までのタンパク質発現ベクターゲノム(vg)を提供する。本発明に従ってRGCに送達されると、1×1010 vg/眼の薬学的組成物(NT4をコードするAAV2)からは、33.119 ± 10.517 ng/網膜の検出可能なNT4タンパク質が産生される。一般に網膜、特にRGCは比較的小さな器官であるため、当業者は本発明の実施のために動物モデルにおいて使用される用量から、ヒトにおいて治療的利益をもたらすであろう臨床用量を推定できるはずである。
【0058】
本発明に従った成長因子をコードする発現ベクターの実際の送達は、薬学的組成物の硝子体腔への直接的な導入によるものである、または、ドナー細胞の移植によるものである。ベクターを介した投与の経路については注入が好ましい送達手段である。しかし、特に成長因子をコードする外来核酸の硝子体腔へのベクターを用いない送達(例えばプラスミドによる送達)のためには、マイクロインジェクション(DePamphilis ら, BioTechnique 6:662-680 (1988));エレクトロポレーション(Tonequzzo ら, Molec. Cell. Biol. 6:703-706 (1986), Potter, Anal. Biochem. 174: 361-33 (1988));リン酸カルシウムトランスフェクション法(Grahamおよびvan der EB, 前記, ChenおよびOkayama, Mol. Cell. Biol. 7:2745-2752 (1987), Chenおよび Okayama, BioTechnique, 6:632-638 (1988))およびDEAE-デキストラン仲介の伝達(McCutchanおよびPagano, J Natl. Cancer Inst. 41:351-357 (1968))のような化学的に仲介されたトランスフェクション;カチオン性リポソームを介したトランスフェクション(Felgner ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:7413-7417 (1987), FelgnerおよびHolm, Focus 11:21-25 (1989) ならびにFelgner ら, Proc. West. Pharmacol. Soc. 32:115-121 (1989))、ならびに当技術分野において知られている他の方法のような、その他の送達手段が適している可能性がある。
【0059】
ドナー細胞の移植による送達のための第一段階は、外来核酸のそこへの取り込みを許容するような条件下でドナー細胞を作製することである。インビトロにおいてドナー細胞に遺伝子を伝達するための方法は以下の基本的な段階を含む:(1)上記の他の所で説明されるように、適当な外来核酸を選択する段階;(2)上記の他の所で説明されるように、遺伝子伝達のために適切なおよび効率のよいベクターを選択および開発する段階;(3)初代培養または樹立細胞系からドナー細胞を調製する段階;(4)新規の機能を発現する移植されたドナー細胞が生存でき、トランスジーン産物を安定しておよび効率よく発現できることを実証する段階;(5)移植が重要な有害事象を引き起こさないことを実証する段階;(6)対象における望ましい表現型効果を実証する段階。
【0060】
移植のためのドナー細胞の選択は、発現される遺伝子の性質、ベクターの特性、および望ましい表現型の結果に大いに依存する。ドナー細胞は、初代培養または樹立細胞系、複製しつつある胎児性眼細胞または複製しつつある成体眼細胞のような、活発に成長している細胞であってよい。細胞はまた、前駆体細胞、前駆細胞、または幹細胞;即ち、眼細胞を含む多くの異なる細胞タイプに発生できるという意味で多能性の細胞であってよい。眼細胞は網膜の神経細胞(例えば桿体または錐体の光受容体細胞)、網膜色素上皮(RPE)細胞、虹彩上皮細胞および網膜幹細胞(例えば網膜前駆細胞)を含む。
【0061】
移植された細胞の長期の生存は、細胞に対するウイルス感染の影響、培養条件により生じる細胞の損傷、細胞移植のメカニズム、適切な血管新生の確立、および、外来の細胞または導入された遺伝子産物に対する宿主動物体の免疫応答に依存する可能性がある。哺乳類の眼は従来、免疫学的特権器官であると考えられてきた。実行できるなら自己細胞を使用することによって、表現型の是正に関連するもの以外の細胞表面抗原に変化を生じさせないようなベクターの使用によって、およびおそらくは胎生期のように宿主動物体の免疫寛容期の期間における細胞の導入によって、移植細胞により誘導される拒絶および移植片対宿主反応の可能性を最小化することが何にもかかわらず重要である。それゆえ、同一種の細胞が望ましい;例えば霊長類への送達には霊長類細胞、ヒトへの送達にはヒト細胞、等である。
【0062】
本明細書において使用されるように、「対象」は、ヒトおよびその他の動物および生物のいずれをも含む。したがって、本方法はヒトの治療および獣医学への応用の双方に適用できる。例えば、獣医学への応用は、非限定的に、イヌ、ウシ、ネコ、ブタ、ウマ、およびヒツジの動物個体、ならびに爬虫類、トリ、ウサギ、およびラット、マウス、モルモットおよびハムスターのようなげっ歯類を含むその他の家畜動物をも含む。動物園の動物のような貴重な非家畜動物を治療することも可能である。好ましい態様においては、動物は哺乳類であり、最も好ましい態様においては、動物はヒトである。
【0063】
さらに、本発明において概説される方法は、眼疾患動物モデルの作製において有用である。すなわち、薬物スクリーニングおよび治療のためのモデルを作製するために、遺伝子の突然変異コピーを動物個体に導入することが可能である。
【0064】
以下の実施例は例証することを意図するものであり、本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0065】
1.AAV/NT4の硝子体内投与後の網膜におけるNT4の発現
AAV/NT4仲介の発現およびそれに続く形質導入された網膜細胞からのNT4の分泌が、免疫組織化学によって確証された(図2)。硝子体内注入後、NT4は主に網膜の最内層の網膜神経節細胞(RGC)層全体に渡って分布していた。AAV/NT4の硝子体内注入後、NT4陽性の内核層細胞(アマクリン細胞、双極細胞、および/または水平細胞)およびときにはミュラーグリア細胞も網膜において検出される。AAV/NT4の硝子体内注入後には、光受容体の節においてもわずかなNT4標識が認められる。さらに、NT4タンパク質は、RGCから脳の網膜受容(retino-recipient)領域に、主に脳の外側膝状核および上丘領域まで、視路を介して順行性に輸送されもする。
【0066】
AAV/NT4(1×1010 vg/眼)の硝子体内投与後4週の単離網膜におけるNT4の量のELISAによる定量化も行った。NT4の濃度は1.015 ± 0.259 ng/mg組織(平均 ± SEM)または33.119 ± 10.517 ng/網膜である。未処置の眼およびFB注入眼からの対照網膜は全て、本アッセイについての定量下限(LLOQ)(0.032 ng/ml)以下である。
【0067】
2.光受容体変性の動物モデルにおける硝子体内AAV/NT4の有効性
網膜色素変性症(RP)のP23H系1(P23H-1)トランスジェニックラットモデルおよびS334系4(S334-4)トランスジェニックラットモデル、ならびに光毒性網膜変性の連続光損傷モデル(野生型アルビノSprague Dawley ラットにおけるもの)を含む、光受容体変性の数種の実験ラットモデルにおいてAAV/NT4の有効性が示された。表1は、これらの3つのモデルについての光受容体変性速度(およびしたがってモデルの重症度)、どの経路でAAV/NT4が試験されたか、および実施された実験測定基準を示す。
【0068】
(表1)眼内に投与されたAAV/NT4の有効性を試験するために用いられたラットモデル、および、対応する結果測定基準
*RPにおける最も一般的な突然変異。N/A=適用なし。ERG=網膜電図;ONL=外核層(光受容体核からなる)
【0069】
これらの3モデルにおける、光受容体変性による2つの主要な影響は、1)網膜電図(ERG)によって測定されるような、光フラッシュ刺激に応答した網膜のニューロンの電気生理学的反応における減少、ならびに、2)光受容体細胞の数における減少、およびそれによる、網膜において光受容体細胞体が存在するところである外核層(ONL)の厚さにおける減少である。ONL厚さの測定が光受容体変性の量の定量的解剖学的指標を提供する一方で、ERG測定は網膜の機能を評価するものである。
【0070】
ERG測定の3つの主要な成分は、scotopic b波、scotopic a波、およびphotopic b波である(表2を参照のこと)。
【0071】
(表2)ERGシグナルならびにその細胞および機能性の測定基準
【0072】
scotopic b波は主に、双極細胞およびミュラー細胞を含む内網膜細胞の健康状態を反映し、したがって網膜の全体的機能の評価基準を表す。scotopic a波は、暗所における周辺視、単色視覚を主に担う細胞タイプである桿体光受容体の機能的反応を主に反映する。photopic b波は、明所における中心視、色覚を主に担う細胞タイプである錐体光受容体の機能的反応を主に反映する。
【0073】
P23H-1系およびS334-4系に関わる有効性についての実験のために、P11〜12(すなわち出生後11〜12日)においてトランスジェニックラットに注入を行った。連続光損傷モデルについては、ラットが連続光に曝露されるおよそ4週前に注入を行った。全ての場合において、ラットには2.4 ×1010 vg/眼のAAV/ NT4を総量2μlで片側に硝子体内注入した。動物個体内対照として対側眼に製剤緩衝液(FB)2μlを注入した。対照対側眼と比較してAAV/NT4注入眼における網膜の生理学的健康状態を評価するために、P23H-1ラットおよびS334-4 ラットについてはP60〜64において屠殺する前に、または連続光への7日間の曝露後に屠殺する前に網膜電図測定を行った。屠殺後、外核層(ONL)の厚さを測定し、網膜の構造を定性的に評価する組織学検査のために眼の調製を行った。
【0074】
ERGデータ。製剤緩衝液注入または非注入の対照体側眼と比較して、AAV/ NT4の硝子体内投与後には、P23H-1モデルおよびS334-4モデルの双方において全てのb波およびa波のERG反応が著しく改善された(図3)。scotopic b波、scotopic a波、およびphotopic b波の振幅において認められた増大は、双方のモデルにおいて著しく有意であった(p値: P23H-1モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0002、scotopic a波振幅について0.0004、およびphotopic b波振幅について<0.0001;S334-4モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0119、scotopic a波振幅について0.0039、およびphotopic b波振幅について0.0169:図3)。これらの結果は、硝子体内投与されたAAV/ NT4は、これらのRPモデルにおける光受容体の変性に関連する機能欠損を予防または軽減し得、かつ桿体、錐体、ならびに双極細胞およびミュラーグリア細胞のようなその他の下流の内網膜細胞の健康状態を特異的に保護または回復することが可能であることを示す。さらにこれらの結果から、特に桿体光受容体集団に光受容体変性からの機能保護を提供するという点で、硝子体内投与経路は網膜下投与経路より有効であることが示唆される。
【0075】
硝子体内投与されたAAV/NT4には、連続光損傷モデルにおけるscotopic b波および photopic b波の双方のERG反応に対する正の効果もあった(図4)。眼の間には考慮されるべきかなりのばらつきがあったが、AAV/NT4の硝子体内注入後の両モデルにおける平均scotopic b波振幅および平均photopic b波振幅は、対照眼におけるもよりも大きかった。変性の重症度により、これらの測定では全ての眼においてscotopic a波振幅は存在しなかった。したがって、AAV/NT4には網膜の機能(特に内核層細胞および錐体のもの)を保護する傾向があったが、この重症の変性モデルにおける桿体の機能性はなおも害されたままであった。
【0076】
硝子体内注入後の組織学的解析では、P23H-1モデルおよび連続光損傷モデルにおいては、FBを注入した対照対側眼と比較してAAV/NT4を注入した眼では、網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さにおける著しい増加が終始明らかであり、それは有意な増加であったが、S334-4モデルにおいては統計学的有意差に達しなかった。各々のモデルについて、AAV/NT4注入眼および対照眼について、網膜断面の典型的な画像が示され、網膜全体に渡る同一領域の部分から得られた平均ONL厚さ測定の「spiderグラフ」も示される。
【0077】
図5は、P23H-1トランスジェニックマウスモデルについて、AAV/NT4注入眼におけるONL(濃い色で染色された細胞の列によって識別される)が、より多くの数の光受容体細胞体の層を有してより厚くなっていることを示す。さらに、対照眼とは異なり、AAV/NT4注入眼には、適当な形態および配列を有した強固な光受容体の外節および内節が認められる。「spiderグラフ」から、硝子体内投与されたAAV/NT4による神経保護効果が網膜全体に渡って示され、病巣領域に限定されなかったことが示唆される。さらに、AAV/NT4注入眼におけるONL厚さの増加は著しく有意であった(p = 0.003)。
【0078】
図6は、S334-4トランスジェニックマウスモデルについて、AAV/NT4注入眼においては、対照眼と比較して、光受容体の外節および内節が適当な形態および配列を有してより健康な状態になることを示す。「spiderグラフ」はONL厚さが増加する傾向を表しているが、この効果は統計学的に有意ではなかった(p = 0.195)。
【0079】
図7は、連続光損傷モデルについて、双方の網膜は実質的に変性しているが、AAV/NT4注入眼においてはONL厚さの増加が明らかに認められることを示す。本モデルにおいてはこの段階では媒体注入対照眼に光受容体はほとんど全く存在しておらず、それが本モデルの重症度を表していることに注意すべきである。「spiderグラフ」は、硝子体内投与されたAAV/NT4の神経保護効果が網膜全体に渡って示され、病巣領域に限定されなかったことを示唆している。さらに、この重症かつ進行速度の速い光受容体変性モデルにおいてでさえ、AAV/NT4注入眼におけるONL厚さの増加は著しく有意であった(p < 0.002)。
【0080】
3.硝子体内投与されたAAV/NT4の有効性の結果と網膜下注入により得られた結果との比較
AAV/NT4の硝子体内注入は、試験された3つ全てのラットモデルにおいて光受容体のONL厚さの形態学的改善をもたらし、P23H-1モデルおよび連続光損傷モデルにおいては有意な増加が認められた。S334-4モデルにおいてはONL厚さの増加傾向があり、ラット小集団については治療に対する明らかな反応が認められた。さらに、硝子体内投与されたAAV/NT4は、ERGのscotopic a波における著しい増大という結果をもらたした;scotopic a波は網膜における最も豊富な光受容体細胞タイプである桿体光受容体の機能的健康状態を反映することから、AAV/NT4が硝子体内投与された場合に桿体光受容体集団に対して神経保護効果を発揮することが推察される。また、ERGの結果から、AAV/NT4の硝子体内投与についてはscotopic b波振幅およびphotopic b波振幅における著しい増大が示され、これによって錐体および内網膜細胞の健康状態にとっても網膜へのAAV/NT4仲介のNT4の送達が有益であり得ることが示唆される。
【0081】
AAV/NT4の網膜下注入は、網膜色素上皮(RPE)におけるいくらかの付加的な発現と共に、主に光受容体細胞自体におけるNT4タンパク質の発現をもたらす。硝子体内投与の結果とは対照的に、AAV/NT4の網膜下投与から得られた結果は、これら3つのモデルのいずれにおいても、光受容体細胞における変化を示さなかった。P23H-1トランスジェニックモデルおよびS334-4 トランスジェニックモデルまたは連続光損傷モデルにおいて網膜下投与を行った場合、AAV/NT4注入眼およびFB注入(または非注入)眼の間にONL厚さの測定による差異は全く示されなかった。scotopic a波は桿体、即ちONLにおける最も豊富な光受容体細胞タイプの機能的状態を表すため、AAV/NT4の網膜下注入後に光受容体の有意な増加がないことを考慮すると、これらのモデルのいずれにおいてもscotopic a波ERG反応においても有意な改善が認められなかったことは驚くべきことではない。ERG測定からは、P23H-1系およびS334-4系の双方について、FB注入された対照対側眼と比較して、AAV/NT4注入眼のscotopic b波およびphotopic b波における有意な増大が示された(対応のあるt検定 p値:P23H-1モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0057、photopic b波振幅について0.0009;S334-4 モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0027、photopic b波振幅について0.0019)(図4)。しかし、AAV/NT4の網膜下注入を用いて得られたこれらの正の変化のサイズは、同じモデルにおいてAAV/NT4の硝子体内注入について認められたものよりはるかに少ない。したがって、組織学的解析および機能解析によって、AAV/NT4の硝子体内経路による投与が網膜下経路よりも光受容体変性からの保護においてより有効であることが示唆される。
【0082】
AAV/NT4の硝子体内注入の後には非常にわずかな光受容体が形質導入される。しかし、網膜下注入は光受容体を直接的に標的とするが光受容体細胞の損失は引き起こさないため、広範囲に渡る神経保護のために光受容体におけるNT4の発現が必要であるとは考えられない。したがってNT4によって刺激された場合に、ミュラー細胞のようなその他の細胞タイプが光受容体細胞の死滅または機能の損失を予防するのに必要な栄養的なサポートを提供する可能性がある。いずれの場合においても、網膜下投与よりも硝子体内投与が、特に桿体光受容体については、より多くの量の組織学的および機能的な保護を提供するものと考えられる。
【0083】
4.AAV/NTNの硝子体内投与後の、網膜におけるNTN発現
CERE-120は、アデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV2)に由来する、遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターである。CERE-140においてヒトNT4タンパク質をコードする配列が、CERE-120においてはヒトβ神経成長因子(βNGF)pre/pro配列に融合された成熟ヒトニュールツリン(NTN)タンパク質をコードする配列と置換されていること以外は、CERE-120は、構造および配列においてCERE-140と同一である。
【0084】
AAV/NTN仲介の発現、およびそれに続く形質導入された網膜細胞からのNTNの分泌が免疫組織化学によって確証された(図8を参照のこと)。硝子体内注入後、NTNは主に網膜の最内部の網膜神経節細胞(RGC)層全体に渡って分布している。AAV/NTNの硝子体内注入後、NTN陽性の内核層細胞(アマクリン細胞、双極細胞、および/または水平細胞)およびときにはミュラーグリア細胞も網膜において検出される。AAV/NTNの硝子体内注入後には、光受容体の節においてもわずかなNTN標識が認められる。AAV/NTNの硝子体内投与後に認められたNTNトランスジーンの発現パターンは、CERE-140(AAV/NT4)の硝子体内投与の後にNT4について認められたものとほとんど同一のものである。
【0085】
5.光受容体変性の動物モデルにおける、硝子体内投与されたAAV/NTNの有効性
網膜色素変性症(RP)のP23H系1 (P23H-1)トランスジェニックラットモデルおよびS334系4(S334-4)トランスジェニックラットモデル、ならびに光傷害性網膜変性の連続光損傷モデル(野生型アルビノSprague Dawleyラットにおけるもの)を含む、数種の光受容体変性実験ラットモデルにおいてAAV/NTNの有効性を調べた。これらは、硝子体内投与されたAAV/NT4の効果が試験されたものと同じモデルであり、CERE-140ベクターおよびAAV/NTNベクターの双方について試験された結果測定基準も同じものであった。
【0086】
P23H-1系およびS334-4系に関わる有効性についての実験のために、トランスジェニックラットに各々P12 またはP15において(すなわち出生後12日または15日に)注入を行った。連続光損傷モデルについては、連続光に曝露するおよそ4週間前に野生型ラットに注入を行った。全ての場合において、ラットには2.4×1010 vg/眼のAAV/ NTNを総量2 μlで片側に硝子体内注入した。動物個体内対照として、対側眼に製剤緩衝液(FB)2 μlを注入した。対照対側眼と比較してAAV/ NTN注入眼における網膜の生理学的健康状態を評価するために、P23H-1ラットについてはP60 において屠殺する前に、S334-4ラットについてはP65 において屠殺する前に、または野生型ラットにおいては連続光への7日間の曝露後に屠殺する前に網膜電図測定を行った。屠殺後、外核層(ONL)の厚さを測定し、網膜の構造を定性的に評価する組織学検査のために眼の調製を行った。
【0087】
ERGデータ。FB注入または非注入の対照対側眼と比較して、AAV/NTN の硝子体内投与は、P23H-1モデルおよびS334-4モデルの双方において適度の機能的な利益をもたらした(図9)。P23H-1モデルにおいては、AAV/NTN仲介のNTN送達の結果、scotopic b波のみにおいて有意な増大が生じた(p = 0.0136)。S334-4モデルにおいては、3つ全ての波において有意な増大が認められた(p値:scotopic b波振幅について0.0340 、scoptopic a波振幅について0.0469、およびphotopic b波振幅 について0.0041)。それに比して、同じ用量のAAV/NT4(NT4を送達する)では、双方のモデルにおいて3つ全ての波における有意な増大が生じ、これらの増大の程度および有意性はいずれも、AAV/NT4を用いたものの方がAAV/NTNを用いたものよりもはるかに大きかった(図3および図4を図9と比較のこと)。
【0088】
連続光モデルにおいては、3つのERG波のいずれにおいても、硝子体内投与されたAAV/NTNによる改善は認められなかった(図10)。変性の重症度により、これらの測定では全ての眼においてscoptopic a波振幅が存在しなかった。それに比して、硝子体内投与されたAAV/NT4によっては、scotopic b波およびphotopic b波の双方のERG反応において平均の改善がもたらされたが、ばらつきにより、これらの増大は統計学的有意性に達しなかった。それでもやはり、この重症の変性モデルにおいてAAV/NTNは有効ではなかった一方、AAV/NT4には網膜機能(特に内核層細胞および錐体のもの)を保護する傾向が認められた。
【0089】
組織学的データ。組織学的解析から、RPのP23H-1トランスジェニックラットモデルおよびS334-4トランスジェニックラットモデルまたは連続光損傷モデルにおいては、AAV/NTNの硝子体内注入は、FBを注入した対照対側眼と比較して、網膜全体に渡って外核層(ONL)厚さに対する効果が全くないことが示された。それに比して、AAV/NT4の硝子体内投与後には、P23H-1モデル および連続光損傷モデルにおいて網膜全体に渡ってONL厚さにおける有意な増加が認められ、S334-4モデルにおいてはONL厚さの増加傾向が認められた(図 5、 6および7を参照のこと)。
【0090】
6.光受容体変性のrcd3イヌモデルにおいて硝子体内投与されたCERE-140
光受容体変性のrcd3イヌモデル。rcd3イヌは、PDE6A 遺伝子に突然変異を有するカーディガンウェルシュコーギー犬の系統である。膜電流を制御し、したがって視覚シグナルの伝達および増幅に関与する桿体光受容体の外節において発現されるタンパク質であるサイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ6Aのアルファサブユニットが、この遺伝子によってコードされる。PDE6Aにおける突然変異は、桿体光受容体の初期の損失およびそれに続く錐体光受容体の損失を特徴とする、桿体-錐体異形成として知られる進行性網膜萎縮の表現型を導く可能性がある。
【0091】
rcd3イヌにおける桿体-錐体異形成は早期に発症し、著しく進行が速い。網膜色素変性症(RP)およびいくつかのその他の失明疾患においては、より遅い進行速度ではあるが、光受容体変性の同様のパターンが生じる。さらに、PDE6A突然変異が少数のRP症例を特異的に説明している。そのため、rcd3イヌは、RPおよびその他の光受容体変性疾患のための潜在的な治療法を試すのに関連のあるモデルである。
【0092】
rcd3イヌモデルにおいて硝子体内投与されたCERE-140の有効性。ラットにおける研究から、網膜におけるAAV2ベースのベクターの最大のトランスジーン発現は、硝子体内注入後およそ4週に生じることが示された。したがって、病理学的症状の発症に相対してNT4の十分な発現を確実にするために、rcd3イヌに早期の時点にCERE-140を投与した。イヌ総数8個体には各々、CERE-140の単回硝子体内注入を右眼に受けさせた。イヌ5個体には出生後4日に15 μlのCERE-140(総用量:3.8×1011 vg)を注入し、イヌ3個体には9日(n = 1)または12日(n = 2)に20 μlのCERE-140 (総用量:5.0×1011 vg)を注入した。動物個体内対照として役立てるために、左の対側眼には同量の製剤緩衝液を硝子体内注入した。
【0093】
光フラッシュに反応した錐体の機能を評価するために、およそ7週齢において網膜電図(ERG)測定を行った。非常に早期の週齢のrcd3変異イヌ個体において桿体は機能性を有さないため、本モデルにおける桿体の機能の回復は期待されなかった。したがって、錐体光受容体の健康状態を反映するERG測定のみを特定的に解析した。錐体の機能に関連するな2つのERG測定は、通常の光条件下における単回の明光フラッシュ照射から生じるERGシグナルの成分であるphotopic a波、および、選択的に錐体を刺激する高周波(およそ30 Hz)の白色明光のフリッカーから生じる電気的シグナルである、錐体フリッカー応答である。
【0094】
ERGの結果。図11において、7週目で得られたERGデータの結果が示される。製剤緩衝液を注入した対照眼と比較して、photopic a波および錐体フリッカー応答の双方において有意な増大が認められた。CERE-140注入眼において認められたphotopic a波およびフリッカー応答のERG振幅における有意な増大は、錐体光受容体の電気生理学的活性を保って、光受容体変性のrcd3モデルにおける錐体の機能をCERE-140が保護したことを示唆する。ヒトにおいては、そのような治療法によって中心視力、視力明瞭度、色覚の喪失が予防されるはずである。
【0095】
7.vldlr-/-マウスにおける異常な網膜新血管新生に対する組み合わせ療法およびGFAPプロモーターの組織特異性
VLDLR欠損マウス(vldlr-/-)は、外見上は正常に見え、生存可能および繁殖可能である(Frykmanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:8453-8457, 1995)が、網膜の血管系において異常を表す(Heckenlively ら, Retina, 23:518-522, 2003;Liら, Arch. Ophthalmol., 125:793-803, 2007)。新生仔vldlr-/-マウスの系統的評価から、出生後第1週を通しては網膜血管の正常な発達があることが示された。出生後第2週の間に、vldlr-/-の網膜は、特に網膜末梢近くの新たに血管化した領域において、浅層脈管叢および関連アストロサイトの一過性の過剰増殖を示した。この関連アストロサイトの増殖は、網膜浅層における血管とアストロサイトの間の直接的な相関を示す過去の研究と一致するものである(Dorrellら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 43:3500-3510, 2002;StoneおよびDreher, J. Comp. Neurol., 255:35-49, 1987; Fruttigerら, Neuron,17:1117-1131, 1996)。出生後第3週までに、浅層脈管叢における血管およびアストロサイトの密度は正常なレベルにまで低減した。
【0096】
vldlr-/-網膜においては、出生後第5週までに、網膜下血管病変の周囲において正常なRPE単層は崩壊し、RPE細胞の多重層が新生血管複合体を包み込んだ。5週間に渡る異常の蓄積により、網膜の病巣歪みおよび瘢痕形成が導かれ、その異常は光受容体内節(PIS)および光受容体外節(POS)の病巣の消失と関連しており、それは網膜下新血管新生を有する領域における異常な網膜の形態および赤/緑(rd/gr)オプシン染色の不在によって示される。光受容体変性も認められた。神経の異常が、網膜内および網膜下の新血管新生の出現に先立つことはなかった。電子顕微鏡および共焦点顕微鏡によって評価すると、出生後12日(P12)において、異常な新血管新生の発症の直前には、全ての網膜層は自然のままであり、同一齢の野生型C57BL6/J(WT)対照と識別されなかった。したがって、vldlr-/-マウスの網膜における神経の異常は新血管新生の原因ではなく結果であると考えられる。
【0097】
抗血管新生療法(例えば、抗血管新生活性を有するトリプトファンtRNA合成酵素の断片T2-TrpRSと共にインテグリンαvβ3およびαvβ5アンタゴニストを用いる、即ちMACUGENを用いるもの)を使用すると、網膜下新生血管の形成において著しい減少が得られるが、その効果は一過性にすぎなかった;処置後2〜3週間以内に、処置した動物個体における網膜下新血管新生は再発した。これは、抗血管新生物質には有益な効果があるが、その効果はしばしば部分的にすぎないことを報告する、一般的に慢性疾患の治療法に関与する臨床的所見と同様である。したがって、眼血管疾患において網膜視力を保護するためのさらなる方法がなおも必要とされている(Bradleyおよび Robinson, Angiogenesis (2007) 10:141-148)。血管疾患を有する眼の網膜ニューロン機能を保護するための作用物質として、網膜新血管新生部位およびしたがって網膜変性の活発な部位に特異的に送達される神経栄養因子を用いてさらなる解析が行われた。
【0098】
AAV-CAG-GFP(CAGプロモーター駆動性GFP発現)、AAV-GFAP-GFP(GFAPプロモーター駆動性GFP発現)、またはAAV-GFAP-NT4 (GFAPプロモーター駆動性ニューロトロフィン-4発現)を含むアデノ随伴ウイルス粒子の0.5 μl溶液、抗体価〜1e 13 vg/mlを、2週齢のvldlr-/-マウスの眼に硝子体内注入した。注入後1か月および2か月におけるGFP発現を解析することによってウイルスのトランスフェクションを評価した。注入後3か月においてvldlr-/-マウスの神経変性表現型に対する効果を評価した。
【0099】
vldlr-/-マウスの網膜においては、ミュラー細胞におけるGFAPの活性化が網膜下新生血管の周囲で特異的に生じる。対照のWTマウスにおいては、GFPベクター(AAV-GFAP-GFP)の硝子体内注入により、発現が内網膜に限定されることが示された(図12A)。しかし、vldlr-/-マウスにおいては、内網膜および外網膜全体に渡ってGFP発現が認められ、網膜下新生血管に近接する活性化されたミュラー細胞によって特異的に発現されていた(図12C〜D)。対照的に、偏在するCAG駆動性プロモーターを有する対照ベクター(AAV-CAG-GFP)では、内網膜の全ての細胞によるGFPの非特異的な発現が示されたが、外網膜においては最小限の発現しか認められなかった(図12B)。GFAPプロモーターを有するAAVウイルスベクターを用いて活性化したミュラーグリアを標的とすることにより、網膜下新生血管に直接的に近接する領域における外網膜へのベクター産物の特異的な送達が得られた。
【0100】
網膜変性を含むニューロン変性のいくつかのモデルにおいてニューロトロフィン-4 (NT-4)がニューロンを保護することが示されてきた(Lykissasら, Curr. Neurovasc. Res., 4:143-151, 2007; Haradaら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 46:669-673, 2005)。GFPベクターと同様に、GFAP 駆動性のNT-4の発現を行わせるAAV-2ベクター(AAV-GFAP-NT4)により、網膜内新生血管に特異的に近接する活性化したミュラー細胞においてNT-4の産生がもたらされた(図12E)。これにより、網膜の中央3分の2全体に渡る網膜下新血管新生領域近くの光受容体の外節および内節におけるNT-4の広範囲に渡る蓄積が生じた(図12F)。
【0101】
AAV-GFAP-NT4ベクターの使用により、オプシンおよびロドプシンのmRNA発現の標準化によって認められたように(図11G)、網膜はニューロン変性から保護され、ERG解析によって認められたように、vldlr-/-網膜は視覚機能の特徴的な喪失から保護された(図12H〜J)。網膜下新血管新生を有する網膜域への神経栄養因子の選択的な送達によって提供されるこの保護は、網膜における異常な新血管新生とニューロン変性の間の直接の相関を強く示唆するものである。さらに、ミュラーグリアの活性化は数多くの網膜疾患、特に関連異常新血管新生を有するものと関係するため、これらの結果は、硝子体内注入を用いて様々な治療用遺伝子産物を外網膜にウイルス仲介(GFAPベクター)で送達するための活性化ミュラーグリアの使用を支持するような概念実証データを提供するものである。
【0102】
上記に引用される全ての参照は、本参照により本明細書に組み入れられる。2008年2月7日に出願された米国特許仮出願第61/026,990号、および2008年8月29日に出願された米国特許仮出願第61/093,228号の全ての内容および図面もまた、本参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
上記の実施例を参照して本発明を説明したが、改変および変更が本発明の精神内および範囲内に包含されることが理解されるべきである。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、眼の治療法に関連するものであり、より具体的には、神経栄養成長因子を標的化および発現させる組み換え送達媒体を用いて、治療用タンパク質、好ましくはヒトニューロトロフィン4(NT4)を網膜の特定の亜集団に供給することにより、光受容体の変性を治療および予防する方法に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
背景の情報
網膜色素変性症(RP)は、光に反応する網膜の能力に影響を及ぼす遺伝的疾患群を指す用語である。本疾患はほとんどの場合において常染色体劣性であると考えられる一方、常染色体優性またはまれにX連鎖である場合もあり、複合症候群の一部として生じる可能性もある。RPを有する患者は青年期に夜盲症を発症し、その後成人期には完全に失明する。
【0003】
RPは主に桿体細胞、すなわち夜間視力、薄明かりの中での視力、および周辺視を司る光受容体細胞に影響を与える。色覚および明光下での視力を司る錐体細胞も疾患の進行の過程で影響を受ける可能性がある。
【0004】
ロドプシンは眼の桿体に占有的に認められる光感受性の眼の色素である。常染色体優性型のRPを有する個体においては、ロドプシン遺伝子が1つのヌクレオチドの変化を含む。突然変異遺伝子は、それがなければ症状が表れない個体において網膜の異常な光誘発反応が生じる原因となり、結果的に桿体および錐体の双方の光受容体細胞の進行性の変性を導く。変性の正確なメカニズムは不明であるが、非分解性突然変異ロドプシンおよび異常な円板膜が桿体細胞に徐々に蓄積し、この先天異常に対して網膜の二次反応が生じることから起こる可能性がある。
【0005】
ニューロトロフィンは、末梢神経系および中枢神経系における選択的なニューロンの生存および分化において重要な役割を果たすことが知られている(例えば神経成長因子 (NGF);脳由来神経栄養因子(BDNF);およびニューロトロフィン-4(NT4))。これらの因子が視覚系に属する細胞上で作用することが示されている。これらの因子の受容体は網膜において発現される。これらの因子のいくつかは、集まって視神経を構成するRGCの軸索に沿って順行性に輸送されることが可能である。
【0006】
多くのCNS領域においては、発達中のニューロンおよびそれらの結合は過剰に形成され、その後部分的に除去される。正常なげっ歯類においては、〜65%の発達中のRGCが核濃縮によって死滅する。未熟な末梢感覚ニューロンおよび末梢交感神経ニューロンは、標的由来のニューロトロフィンについて競合することによって生き残る。発達中のCNSニューロンに対するニューロトロフィンの生存促進効果については議論がなされるところであるが、インビトロにおいてはニューロトロフィンがこれらのニューロンの生存を促進することが示され、発達中のRGCおよび成熟したRGCを含むCNSニューロンの軸索切断に誘導される死滅を遅延あるいは減少させることが示された。
【0007】
したがって、過去の研究から、成長因子が死にかけている光受容体細胞をレスキューし得ることが示されている。例えば、8種の異なる因子を、高強度の連続光に曝露されたラットの網膜に注入した場合、全ての因子が光受容体細胞の変性を遅延させる能力を示した。これらはFGF(酸性型および塩基性型の両方)、BDNF、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびインターロイキン1(IL-1)を含む。ニューロトロフィン3(NT-3)、インスリン様増殖因子II(IGF-II)、トランスホーミング増殖因子β(TGF-β)ならびに腫瘍壊死因子αおよびβ(TNF-α、TNF-β)も生存維持活性を示したが、他の因子よりはるかに低い程度に過ぎなかった。しかし、光受容体の機能の長期の治療および維持のためには、これらのタンパク質因子を直接注入するだけでは不十分である。
【0008】
近年の研究により、30年間以上RPの研究のためのモデルとして供されてきたrdマウスの網膜変性表現型が、トランスジェニックマウスにおけるウシcGMPホスホジエステラーゼβサブユニットの発現によりレスキューされ得ることが示された。同様に、網膜緩慢変性(retinal degeneration slow:rds)マウスのrds表現型も、野生型rds遺伝子産物である39 kDaの膜結合糖タンパクを発現するトランスジェニックマウスの作製によって是正することが可能である。しかし、トランスジェニック技術をヒトの治療に直接的に適用することはできない。
【0009】
したがって、様々な眼の状態を治療するための治療法において、インビボおよびインサイチューにおける、ニューロトロフィンの持続性の送達がなおも必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、網膜における細胞亜集団を標的とするための、神経栄養因子を発現させる組み換え媒体を用いて眼の光受容体をレスキューすることによって眼疾患を治療する方法に関連する。神経成長因子(好ましくはニューロトロフィン-4(NT-4))をコードする配列を含有する遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターを用いると、硝子体内投与した場合にはそのベクターによって網膜神経節細胞(RGC)層がインサイチューにて特異的に形質導入される、または、成長因子をコードする発現ベクターにより形質導入されたドナー細胞の硝子体内移植後のその成長因子の発現によって該RGC層が影響を受ける。したがって、RGC層細胞亜集団を標的とすることによって光受容体をレスキューする段階を含む、それを必要とする対象を本ベクターを用いて治療するための方法が開示される。
【0011】
ある態様においては、成長因子を機能的にコードする発現ベクターによって網膜の網膜神経節細胞(RGC)を感染させる段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法が開示され、本方法において、眼への硝子体内注入によってベクターはRGCに投与され、さらには感染した細胞はその成長因子を構成的に発現する。関連する局面においては、発現ベクターは硝子体内での成長因子の発現のために、眼に移植される適したドナー細胞に含まれて送達され得る。
【0012】
関連する局面においては、本方法は第二の成長因子またはカルシウムチャネル遮断薬の投与を含む。その他の関連する局面においては、第二の成長因子は脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)または毛様体神経栄養因子(CNTF)である。さらに関連する局面においては、第二の神経成長因子は、成長因子をコードする組み換え発現ベクターのインビボ送達を介して、または遺伝子操作されたドナー細胞から組み換え発現されたものとして、タンパク質として硝子体内送達または網膜下送達される。
【0013】
ある局面においては、成長因子はNT4である。なおもその他の局面においては、発現ベクターはアデノ随伴ウイルスに由来するAAVベクターである。その他の局面においては、AAVベクターはAAV2型(AAV2)である、または眼細胞に対する親和性を有するその他のAAV血清型である。さらなる局面においては、近傍の細胞がRGCの感染を介して活性化され、そのような近傍の細胞は、非限定的に、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞、水平細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞を含む。
【0014】
ある局面においては、本方法は、眼疾患における光受容体の変性と関連するscotopic b波、scotopic a波、および/またはphotopic b波の振幅を増大させる。関連する局面においては、眼疾患は、網膜色素変性症(アッシャー症候群、バルデー-ビードル症候群、レフサム病を含む)、レーバー先天性黒内症、黄斑変性(加齢黄斑変性症の湿性型および乾性型、ならびにシュタルガルト病を含む)、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病を含む)、先天性脈絡膜欠如、網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、桿体錐体ジストロフィー、家族性ドルーゼン(malattia Leventinese)(またはドイン蜂巣状脈絡膜炎)、網膜血管腫状増殖(RAP)、黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)、または白点状網膜炎である。
【0015】
その他の局面においては、本方法は、網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さを増加させる。関連する局面においては、ONL層の厚さの増加は対照に比して著しい。
【0016】
ある局面においては、ONL層の厚さの増加は、網膜下注入されたAAVベクターによる光受容体細胞の感染に対する反応に比して著しい。関連する局面においては、感染したRGCによって近傍の細胞によるパラクリン反応が誘導される。
【0017】
その他の局面においては、発現ベクターは眼組織に対する親和性を有するAAV血清型に由来するものであり、該ベクターはウイルスタンパク質をコードする配列を欠くが、NT4をコードする核酸配列を含むものである。関連する局面においては、NT4遺伝子にはAAV末端逆位反復配列(ITR)が隣接している。
【0018】
その他の態様においては、組織特異的プロモーターの制御下で成長因子を機能的にコードする、感染力のある組み換え発現ベクターを投与する段階を含む、インサイチューにおいて光受容体の酸化損傷を治療する方法が開示され、本方法において、ベクターは対象の眼に硝子体内投与され、感染によって、成長因子の発現は眼の中の少なくとも1つの選択された組織に実質的に限定される。
【0019】
ある局面においては、成長因子はNT4である。その他の局面においては、NT4の発現は、組織特異的プロモーターの使用によって内網膜または外網膜またはその組み合わせ、特にミュラーグリア細胞に実質的に指向される。関連する局面においては、ベクターは、網膜細胞、特にミュラーグリアに特異的であることが認められているグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターを含む。その他の局面においては、本方法はさらに、少なくとも1つの血管新生阻害作用物質を成長因子(例えばNT4)と共投与する段階を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はCERE-140ベクター構築物の説明図を示す。
【図2】図2は、(A)製剤緩衝液(formulation buffer:FB)対照および(B)CERE-140の硝子体内注入後4週のCERE-140注入眼における、NT4の免疫化学的染色の典型的な画像を示す。赤矢印は網膜の神経節におけるNT4の発現を示し、網状層およびアマクリン細胞に渡るNT4の発現は黒矢印にて識別される。GCL=神経節細胞層;IPL=内網状層;INL=内核層;OPL=外網状層;ONL=外核層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮。
【図3】図3は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデル(左図)およびS334-4トランスジェニックラットモデル(右図)における、CERE-140(NT4-140)の硝子体内注入後のERGの結果を示す。上の図においては平均ERG振幅のヒストグラムが示される。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各ラットについての個々のデータの点がプロットされており、対側眼からのデータと線で連結されている。
【図4】図4は、光受容体変性の連続光損傷モデルにおいてCERE-140(NT4-140)を硝子体内投与した後のERGの結果を示す。scotopic b波反応(左図)およびphotopic b波反応(右図)についての平均振幅が個々のデータの点群内に実線によって示される。
【図5】図5は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図6】図6は、RP のS334-4トランスジェニックラットモデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図7】図7は、網膜変性の連続光損傷モデルにおける、CERE-140の硝子体内注入後のONLの厚さを示す。CERE-140(NT4-140)を注入した眼の網膜の上面における典型的な網膜断面(上の顕微鏡写真)と、媒体を注入した対照対側眼(下の顕微鏡写真)との比較が示される。顕微鏡写真の下の「spiderグラフ」は、正中面において網膜全体に渡る複数の同一部位でのONLの厚さにおける差異を示す。ONH=視神経頭。
【図8】図8は、硝子体内注入後4週における(A)製剤緩衝液(FB)対照および(B)AAV/NTN(CERE-120構築物)注入眼における、ニュールツリン(NTN)免疫組織学的染色の顕微鏡写真画像を示す。GLC=神経節細胞層;IPL=内網状層;INL=内核層;OPL=外網状層;ONL=外核層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮。
【図9】図9は、RP のP23H-1トランスジェニックラットモデル(左図)およびS334-4トランスジェニックラットモデル(右図)における、CERE-120(NTN-120)の硝子体内注入後のERGの結果のヒストグラムを示す。上図においては平均ERG振幅のヒストグラムが示される。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各ラットについての個々のデータの点がプロットされており、対側眼についてのデータと線で連結されている。
【図10】図10は、光受容体変性の連続光損傷モデルにおける、CERE-120(NTN-120)の硝子体内注入後のERGの結果のヒストグラムを示す。scotopic b波反応(左図)およびphotopic b波反応(右図)についての平均振幅が個々のデータの点群内に実線によって示される。
【図11】図11は、光受容体変性のrcd3イヌモデルにおける、CERE-140(NT4-140)の硝子体内注入後のERGの結果を示す。photopic a波およびフリッカーERGの振幅についての平均値(上図)および個々の値(下図)。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。下の2つの図においては各動物についての個々のデータの点がプロットされており、対側眼についてのデータと線で連結されている。CERE-140注入眼においては、製剤緩衝液を注入した対照対側眼と比較して、photopic a波(p=0.004)および錐体フリッカー振幅(p=0.01)における有意な増大が認められた。
【図12】図12は、網膜下新血管新生部位へのNT4の標的化送達がvldlr-/-網膜をニューロン変性から保護することを示す。(A〜D)GFAPプロモーター制御下のアデノ随伴ウイルス2(AAV2)プラスミドにより、網膜下新血管新生領域の周囲の活性化されたミュラー細胞において選択的に遺伝子産物の発現が生じる。全てのウイルス調製物はP14において注入された。(A)AAV-GFAP-GFPを感染させたWT網膜。(B)対照CAG駆動性プロモーターを有するベクター(AAV-CAG-GFP)を感染させたWT網膜。(C〜D)注入後2週(P28、C)および注入後1カ月(P45、D)のミュラー細胞におけるGFPの発現。(E〜F)は、異常な新血管新生周囲の網膜下領域近傍のNT4遺伝子産物の局在を示す。(G)は、網膜下新血管新生周囲の領域におけるオプシン-1およびロドプシンのmRNAの定量的RT-PCR解析を提供する。(H〜I)は、網膜の機能に対するAAV-GFAP-NT4処置のERG解析を提供する。(J)は、3〜4カ月齢のWTマウス、3〜4カ月齢の非処置vldlr-/-マウス、4カ月齢の対照AAV-GFAP-GFP処置vldlr-/-マウス、および4カ月齢のAAV-GFAP-NT4処置vldlr-/-マウスを比較した、ERG測定の定量的解析を提供する。太字のp値は、AAV-GFAP-NT4処置された眼とAAV-GFAP-GFP処置された対側眼との間で統計学的有意差があった測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本組成物および方法を説明する前に、説明される特定の方法、プロトコール、細胞系、アッセイ、および試薬は変化し得るため、本発明はそれらに限定されないことを理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、本発明の特定の態様を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲において述べられるように、本発明の範囲を限定することを決して意図しないことも理解されるべきである。
【0022】
本明細書において、および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形の「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、そうではないと文脈が明らかに指示していない限り複数形の指示物を含むことを注記しなければならない。したがって、例えば「あるベクター」という指示語は複数のそのようなベクターを含み、「ニューロトロフィン」という指示語は1つまたは複数のニューロトロフィンおよび当業者に公知のその同等物に言及する、等である。
【0023】
そうではないと定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書において説明されるものと同様のまたは同等の任意の方法および材料を使用することができるが、ここで、好ましい方法および材料を説明する。
【0024】
そうではないと指示されない限り、本発明の実施は、当技術分野の範囲内で化学、生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学および薬理学の従来法を使用するものである。そのような技術は文献において十分に説明されている。例えば、Gennaro,A.R.編(1990)Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, Mack Publishing Co.;Colowick, Sら編, Methods In Enzymology, Academic Press, Inc.;Handbook of Experimental Immunology, I-IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編, 1986, Blackwell Scientific Publications);Maniatis, T.ら編(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Mannual, 第2版, I-III巻, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら編(1999)Short Protocols in Molecular Biology, 第4版, John Wiley&Sons;Reamら編(1998)Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course, Academic Press;PCR(Introduction to Biotechniques Series), 第2版(Newton & Graham編, 1997, Springer Verlag)を参照のこと。
【0025】
本発明は、眼細胞の治療のための成長因子、好ましくはNT4をコードする外来核酸の送達、および特にインサイチューにおける送達のための方法を開示する。驚くべきことに、他の状況においては神経系疾患の治療に有用であることが知られている少なくとも1つの他の成長因子であるニュールツリン(NTN)については、本発明の方法においては有効であると証明されなかった。したがって、眼細胞を治療するために提供される好ましい方法は、インサイチューにおけるNT4の送達のために遺伝子操作されたベクターを利用するものである。本方法は、眼細胞に外来核酸を取り込ませそれを発現させるような条件下で、NT4をコードする核酸を含むベクターを眼細胞に接触させる段階を含む。ある態様においては、ベクターは硝子体内注入を介してRGC層に送達される。
【0026】
または、成長因子、例えばNT4をコードする発現ベクターを用いて形質転換されたドナー細胞からの発現によって成長因子を送達してもよい。ある態様においては、成長因子はドナー細胞の硝子体内移植を介してRGC層に送達される。
【0027】
理論に縛られるのではないが、本発明に従った成長因子をコードする発現ベクター(例えばAAV/NT4)によって提供される機能的および解剖学的な利益は、成長因子の生理活性に依存する、および特に、NT4タンパク質が連続光損傷モデルにおいて光受容体をレスキューすることが示されているため、NT4の生理活性に依存すると仮定するのが合理的である。対照的に、その他の成長因子(BDNF、bFGF、CNTF、およびGDNFを含む)が光受容体変性のいくつかのインビボモデルにおいて有効であることも示されている。再度、理論に縛られるのではなく、AAV/NT4の網膜下経路よりも硝子体内投与後に有効性の改善が認められることについて可能な一つの説明は、網膜内にNT4を放出させるためには、硝子体腔および特にRGC層を標的とすることがより有効であるというものである。後者の仮説は、1つまたは複数の第二メッセンジャー分子により結局は光受容体の生存率が保たれるというパラクリンメカニズムを支持する可能性が高い。それ自体、パラクリンカスケードの成長因子誘発に影響され得る介入細胞タイプの数を最大化するためには、光受容体から離れた硝子体腔(すなわち硝子体液内であるがその中の前方の場所)への、神経成長因子をコードする発現ベクターの送達が望ましい。
【0028】
本明細書においては「インサイチューの眼細胞」という用語、または文法的なその同等語は、眼内すなわちインビボにおいて含まれる眼細胞を意味する。眼細胞は、水晶体、角膜(角膜内皮細胞、角膜実質細胞および角膜上皮細胞のいずれも)、虹彩、網膜、脈絡膜、強膜、毛様体、硝子体、眼血管系、シュレム管、眼筋細胞、視神経、ならびにその他の眼の感覚神経、運動性神経および自律神経の細胞を含む。好ましい態様においては、眼細胞は網膜神経節細胞層に含まれる。
【0029】
本明細書においては「遺伝子操作された」という用語は、外来核酸またはトランスジーンの導入のような組み換えDNA操作に供された核酸媒体であり、結果的に通常は自然界に認められないような形体となる核酸媒体を意味する。一般には、外来核酸またはトランスジーンは、組み換えDNA技術を用いて作製される。一旦遺伝子操作された媒体が作製されると、組み換え技術を使わずに、すなわち宿主細胞のインビボの細胞機構を用いて複製され得るが、それも本発明の目的のために遺伝子操作されたものとなおも考えられることが理解される。また、ドナー細胞の場合、外来核酸、特に組み換え発現ベクターによって形質導入された場合に、そのような細胞は遺伝子操作されたものと考えられる。
【0030】
本明細書においては「核酸」という用語または文法的なその同等語は、DNAまたはRNA、またはリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドの双方を含む分子のいずれかを意味する。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、ならびにセンス核酸およびアンチセンス核酸を含むオリゴヌクレオチドを含む。核酸は、二本鎖、一本鎖であってもよく、または二本鎖配列もしくは一本鎖配列の双方の部分を含んでもよい。
【0031】
本明細書においては「外来核酸」または「異種核酸」または「組み換え核酸」という用語、または文法的なその同等語は、通常は眼細胞において認知できる量または治療用量では産生されないようなタンパク質をコードする核酸を意味する。したがって、外来核酸は、他の生物に由来する異種核酸のような、眼細胞のゲノムには通常は認められない核酸を含む。外来核酸はまた、眼細胞のゲノム内に通常認められるが、眼細胞において通常は認知できる量または治療用量では発現されないタンパク質の発現を許容する形体にある核酸をも含む。または、外来核酸は、天然に存在するタンパク質の変異体もしくは突然変異体の形体のものをコードし得る。
【0032】
一旦外来核酸が作製され宿主細胞または宿主生物に再導入されると、インビトロにおける操作ではなく、組み換え技術を使わずに、すなわちインサイチューの宿主細胞またはドナー細胞のインビボの細胞機構を用いて複製される;しかし、一旦組み換え技術で作製されたそのような核酸は、それに続いて組み換え技術を使わずに複製されたとしても、本発明の目的のためには「外来」または「組み換え」であるとなおも考えられることが理解される。
【0033】
ある態様においては、外来核酸は、発現されるべきタンパク質をコードする。すなわち、それは眼疾患を治療するために使用されるタンパク質である。
【0034】
ある態様においては、外来核酸は1つのタンパク質をコードする。その他の態様においては、外来核酸は1つ以上のタンパク質をコードする。したがって、例えば、ある眼の障害を治療するために有用な複数のタンパク質が望ましいという可能性がある;または、複数のタンパク質をコードする外来核酸を使用して複数の眼疾患が一度に治療される可能性がある。
【0035】
同様に、「外来タンパク質」または「組み換えタンパク質」は、組み換え技術を用いて、すなわち上記に説明されたように外来核酸または組み換え核酸の発現を通して産生されたタンパク質である。組み換えタンパク質は、少なくとも1つまたはそれ以上の特性によって、天然に存在するタンパク質から識別される。例えば、タンパク質の量が増加するように誘導型プロモーターまたは高発現プロモーターを使用することによって、通常に認められるものよりも著しく高い濃度でタンパク質を産生することが可能である。したがって、例えばある外来タンパク質は、眼組織において通常には発現されないものである。または、タンパク質は、エピトープタグの付加もしくはアミノ酸の置換、挿入および欠失のような、自然界では通常は認められない形体であることが可能である。
【0036】
好ましい態様においては、外来核酸は眼疾患の治療において有用なタンパク質をコードする。タンパク質は外来核酸によって発現される成長因子である。提供される成長因子の発現は一過性または構成的である。したがって、例えば治療用タンパク質が短期間送達されるような場合、一過性発現系を使用することが可能である;例えば、眼の手術または創傷の後に、ある種の外来タンパク質が望ましいような場合である。または、網膜色素変性症もしくは黄斑変性のような進行性もしくは先天性の眼疾患については構成的な発現が望ましい可能性がある。
【0037】
本明細書においては、「眼疾患」は遺伝的欠損、傷害またはその他の外傷(例えば手術後の状態)、疾患またはその他の障害のいずれかの結果として生じる、健常な状態の動物にとって正常ではない眼の障害または病理学的状態を意味する。そのような眼疾患の当技術分野において許容されている動物モデルは既知のものである;例えば、rdマウスの網膜変性表現型は、ヒトの網膜色素変性症の研究のためのモデルとして30年以上供されている(Lemら, Proc.Natl.Acad.Sci USA., 15:442(1992))。本明細書では、動物モデルにおける網膜の損傷を作製および修復するためのその他の実験プロトコールが例証される。
【0038】
ある態様においては、眼疾患は遺伝的欠損によって引き起こされる可能性がある。遺伝子が同定されているそのような眼疾患の例は、非限定的に、常染色体網膜色素変性症、常染色体優性白点状網膜炎、中心窩の蝶形色素ジストロフィー、成人型卵黄状黄斑ジストロフィー、ノリエ病、青錐体一色型色覚、先天性脈絡膜欠如および脳回転状萎縮を含む。これらはまた遺伝性眼疾患と呼ばれる場合もある。
【0039】
その他の態様においては、眼疾患は(将来的には遺伝的要因を有することが示される可能性があるが)特定の既知の遺伝子型によって引き起こされるものではない可能性がある。これらの眼疾患は、非限定的に、黄斑変性、網膜芽腫、前部ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎、網膜血管疾患、白内障、角膜ジストロフィーのような遺伝する角膜欠損、網膜の剥離および変性、虹彩萎縮、ならびに、糖尿病性網膜症のような緑内障および糖尿病に伴う網膜の二次疾患を含む。
【0040】
さらに、眼疾患という用語は、遺伝的な素因によるものでなはいが、なおも眼の障害または機能不全を引き起こす状態を含む。これらは、非限定的に、単純疱疹ウイルスまたはサイトメガロウイルス(CMV)への感染のようなウイルス感染、アレルギー性結膜炎およびその他の眼のアレルギー反応、ドライアイ、リソソーム蓄積症、糖原病、コラーゲンの障害、グリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンの障害、スフィンゴリピドーシス、ムコリピドーシス、アミノ酸代謝障害、甲状腺眼疾患、前部および後部角膜ジストロフィー、網膜の光受容体の障害, 角膜潰瘍、アッシャー症候群、バルデー-ビード症候群、レフサム病、レーバー先天性黒内症、非限定的に湿性型および乾性型の加齢黄斑変性症を含む黄斑変性、シュタルガルト病、非限定的にベスト病を含む卵黄状黄斑ジストロフィー、先天性脈絡膜欠如、網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、桿体錐体ジストロフィー、家族性ドルーゼン(malattia Leventinese)またはドイン蜂巣状脈絡膜炎、白点状網膜炎、ならびに手術後のもののような眼球の創傷または酸化ストレス/損傷によって引き起こされる異常、例えば網膜血管腫状増殖(RAP)および黄斑部毛細血管拡張症 (MacTel)を含む。
【0041】
本明細書においては、「酸化損傷」または「酸化ストレス」という用語は、フリーラジカルの放出およびその結果として細胞変性が生じることにより特徴化される、細胞においてオキシダント産生が増加した状態を意味する。酸化ストレスは過剰な新血管新生に相関し、網膜の錐体光受容体を含むある種のニューロンの病因と一般に関連する。糖尿病性網膜症のような、異常な網膜脈管形成に関連する障害においては、内網膜から硝子体にまで異常な血管が成長し得る。黄斑部毛細血管拡張症(または突発性傍中心窩毛細血管拡張症)と呼ばれる、網膜の血管新生の一般的な形体においては、網膜内の毛細管拡張性の血管が内網膜の中央部において増殖し、通常は無血管の外網膜にまで成長し得る。加齢黄斑変性症(AMD)では、典型的に脈絡膜から異常な血管が生じ、網膜下腔まで侵入する。しかし、AMD患者の小集団においては、内網膜血管から網膜内および網膜下に新血管新生が生じ、網膜血管腫状増殖(RAP)として知られる状態になる。
【0042】
ある態様においては、組織特異的プロモーターの制御下で成長因子を機能的にコードする、感染力のある組み換え発現ベクターを投与する段階を含む、疾患または光受容体の酸化損傷を含む損傷を治療する方法が開示され、ベクターは対象の眼に硝子体内投与され、感染により、成長因子の発現は眼の中の少なくとも1つの選択された組織に実質的に限定される。本明細書においては、「組織特異的プロモーター」という用語は、1つまたは複数の選択機能を営むような形態学的に同様な細胞における転写産物の発現を選択的に制御する制御因子を意味する。
【0043】
関連する局面においては、ベクターはグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターを含む。GFAPプロモーター配列は当技術分野において周知であり(例えば、本参照により本明細書に組み入れられる、Besnardら, J. Biol. Chem., 266:18877-18883, 1991; Masood ら, J. Neurochem. 61:160-166, 1993; Brenner ら, J. Neurosci., 14:1030-1037, 1994を参照のこと)、このプロモーターを含むベクターは商品として利用可能である。GFAPプロモーターは、硝子体内に送達された場合に網膜細胞、特にミュラーグリアに対して特異性を有することが認められている。
【0044】
その他の局面においては、治療する方法は、少なくとも1つの血管新生阻害作用物質を共投与する段階をも含む。関連する局面においては、血管新生阻害作用物質は、VEGFR-1、NRP-1、アンジオポイエチン2、TSP-1、TSP-2、アンジオスタチン、エンドスタチン、バソスタチン(vasostatin)、カルレチクリン(calreticulin)、血小板第4因子、IMP、CDAI、Meth-1、Meth-2、INF-α、INF-β、INF-γ、CXCL10、IL-4、 IL-12、IL-18、プロトロンビン(クリングルドメイン-2)アンチトロンビンIII 断片、プロラクチン、VEGI、SPARC、オステオポンチン、マスピン、カンスタチン(canstatin)、プロリフェリン関連タンパク質、restin、ベバシズマブ、カルボキシアミドトリアゾール、TNP-470、CM101、スラミン、トロンボスポンジン、抗血管新生ステロイド/ヘパリン、軟骨由来血管新生阻害因子、RNAアプタマー (例えばMACUGEN, OSI Pharmaceuticals, Long Island, NY)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、2-メトキシエストラジオール、Tecogalan、αvβ3 阻害剤、およびリノマイド(linomide)を含む。
【0045】
本明細書においては、「外来核酸の取り込みを許容するような条件」という用語は、インサイチューの眼細胞に外来核酸を取り込ませ、それによって形質転換させるような実験条件を意味する。
【0046】
許容条件は、外来核酸の形体に依存する。したがって、例えば、外来核酸がウイルス性組み換え発現ベクターの形体にある場合、許容条件は細胞のウイルス感染を許容するものである。同様に、外来核酸がプラスミドの形体にある場合、許容条件はプラスミドを細胞に入らせるものである。したがって、外来核酸の形体とその取り込みを許容するような条件は相関する。これらの条件は、一般的に当技術分野において周知であり、本発明に従った発現ベクターの眼細胞へのインビボの送達に使用される、または、ドナー細胞のエクスビボの形質導入に使用される。
【0047】
外来核酸の取り込みのための特定の条件は、当技術分野において周知である。それらは、非限定的に、レトロウイルス感染、ウイルスベクター感染(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルスへの感染)、プラスミドを用いた形質転換、外来核酸を含むリポソームを用いた形質転換、微粒子銃による核酸送達(すなわち核酸を金またはその他の金属粒子に充填し、細胞に撃ち込むまたは注入する)、およびヘルペスウイルス感染を含む。これらは全て本発明の目的のための「発現ベクター」と考えられ得る。
【0048】
ある態様においては、ベクターはAAVベクターである。AAVベクター系は、真核細胞において様々な遺伝子を発現させるために使用されてきた。HermonatおよびMuzyczka, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:6466-6470, 1984は、AAVカプシド遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子(neo)に置換されており、ネズミおよびヒトの細胞系へのrAAVによるネオマイシン耐性の形質導入が認められた組み換えAAV(rAAV)ウイルス株を作製した。Tratschenら, Mol. Cell. Biol., 4:2072-2081, 1984は、ヒト細胞においてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を発現することが認められたrAAVを作製した。Lafare ら, Virology, 162:483-486, 1988は、AAVベクターを用いた造血前駆細胞への遺伝子伝達を認めた。Ohiら, J. Cell. Biol., 107:304A, 1988は、ヒトβ-グロビンcDNAを含む組み換えAAVゲノムを構築した。Wondisford ら, Mol. Endocrinol., 2:32-39, 1988は、ヒト甲状腺刺激ホルモンのサブユニットを各々がコードする2つの異なる組み換えAAVベクターによって細胞を共トランスフェクションし、生物学的に活性な甲状腺刺激ホルモンの発現を認めた。
【0049】
いくつかのrAAVベクター系が設計されている。例えば、Samulski ら, J. Virol., 61:3096-3101, 1987は、ウイルスタンパク質をコードするドメインに隣接する2つのXbaI切断部位を含む、感染力のあるアデノ随伴ウイルスゲノムを構築した;これらの制限酵素切断部位は、AAVのシス作用性の末端反復配列の間への非ウイルス性配列の挿入を許容するように作製された。米国特許第4,797,368号は、プラスミドに含まれ、AAV粒子にパッケージングされることが可能であり、AAV転写プロモーターの制御下に置かれた場合に真核細胞において遺伝子またはDNA配列の安定した維持または発現を行わせるためのベクターとして機能するAAVベクターに関連する。その他のAAVベクターおよびその使用については、米国特許第5,139,941号およびPCT国際特許出願国際公開公報第94/13788号、およびYokoiら, Investigative Ophthalmology and Visual Science, 48:3324-3328, 2007(自己相補性AAVベクター)において説明されている。
【0050】
数多くのAAV血清型が眼組織に対して親和性を有することが知られている(例えば Alloccaら, Expert Opinion on Biological Therapy, 12:1279-1294, 2006を参照のこと)。そのような血清型は、本発明における発現ベクターとしての使用のために特に好ましく、AAV2およびAAV5を含む。
【0051】
一般に、これらの発現ベクターは、外来核酸に機能的に連結された転写制御核酸および翻訳制御核酸を含む。本文脈における「機能的に連結された」とは、転写制御DNAおよび翻訳制御DNAが、転写が開始されるように外来タンパク質のコード配列に対して配置されることを意味する。一般に、これはプロモーター配列および転写開始配列が外来タンパク質コード領域に対して5’側および/または3’側に配置されることを意味する。転写制御核酸および翻訳制御核酸は一般に、外来タンパク質を発現させるために使用される宿主眼細胞に対して適当なものとなる;例えば、哺乳類およびヒトにおいて外来タンパク質を発現させるためには哺乳類細胞、特にヒト細胞に由来する転写制御核酸配列および翻訳制御核酸配列が好ましくは使用される。当技術分野においては、数多くのタイプの適当な発現ベクターおよび適した制御配列が知られている。
【0052】
一般に、転写制御配列および翻訳制御配列は、非限定的に、ITR、TR、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および転写停止配列、翻訳開始配列および翻訳停止配列、ならびにエンハンサー配列またはアクチベーター配列を含み得る。好ましい態様においては、制御配列はプロモーター配列および転写開始配列および転写停止配列を含む。
【0053】
プロモーター配列は、構成的なプロモーターまたは誘導型のプロモーターのいずれかをコードする。プロモーターは、天然に存在するプロモーターまたはハイブリッドプロモーターのいずれかであり得る。1つ以上のプロモーターの要素を組み合わせたハイブリッドプロモーターも当技術分野においては知られており、本発明において有用である。
【0054】
さらに、発現ベクターは付加的な要素を含み得る。例えば、発現ベクターを組み込むために、発現ベクターは宿主細胞ゲノムに相同の少なくとも1つの配列を含み、好ましくは発現構築物に隣接する2つの相同の配列を含む。ベクター内への封入に適した相同の配列を選択することによって、組み込むベクターを宿主細胞(インサイチューまたはエクスビボのドナー細胞)における特定の遺伝子座に指向させることが可能である。ベクターを組み込むための構築物は当技術分野において周知のものである。
【0055】
本明細書においては、「眼疾患の治療において有用なタンパク質」は、眼疾患の症状を緩和するのに有効であるタンパク質を意味する。眼疾患は遺伝性であり得るか、または遺伝的要因を有していない場合もある。したがって、例えば、眼の創傷、アレルギー、ウイルス感染、潰瘍化などを、有用なタンパク質によって治療することが可能である。例えば、gDは単純疱疹ウイルス感染の治療において有用なタンパク質であり、トランスホーミング増殖因子β(TGFβ)は角膜上皮の創傷の治療において有用である;眼のアレルギーについては抗IgE抗体、そして網膜変性についてはBDNF、GDNFおよびCNTFが有用である。網膜変性のために、または網膜血管疾患、もしくは網膜剥離もしくは緑内障の後の損傷を遅延もしくは予防するために、ニューロトロフィン4(NT4)ならびにBDNF、ならびにそれらの融合体および/または変異体を使用してもよい。これらの神経栄養因子を、視神経の圧縮、外傷または脱髄を治療するために使用してもよい。免疫抑制性タンパク質を、角膜移植後の移植片拒絶を治療するために使用してもよい。抗体または小分子のような血管内皮細胞増殖因子(VEGF)アンタゴニストを、網膜および硝子体の血管新生障害を治療するために使用してもよい。塩基性線維芽細胞増殖因子は、ラットにおいて光受容体の寿命を延長することが示された(Faktorovichら, Nature 347:83-86 (1990))。しかし、上記に述べられたように、実施例において説明される網膜変性モデルにおいてそれを使用し得られた優れた結果に基づくと、本発明における使用のためにはNT4が好ましい成長因子である。
【0056】
ある態様においては、眼疾患の治療において有用なタンパク質はNT4であり、NT4はベクターによって送達される。ある局面においては、AAVベクターは、全体的または部分的にアデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV2)に由来する、遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターである。関連する局面においては、AAVベクターはAAV/NT4である(図1において「CERE-140」と表される)。CERE-140構築物は、全てのウイルスタンパク質コードDNA配列を欠くが、ヒトニューロトロフィン-4タンパク質(NT4)をコードする配列(例えばGenBankアクセッション番号NM 006179を参照のこと)を含む。NT4トランスジーンの発現は、CAGプロモーター(CMVエンハンサーとニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーターおよびウサギβ-グロビン遺伝子イントロンとの融合体)およびヒト成長ホルモンによって制御される。
【0057】
眼への送達について、「単位用量」は、眼疾患の治療において有用なタンパク質、例えばNT4をコードする発現ベクターを含む薬学的に許容される組成物のベクターゲノム/mlの濃度を一般に指す。最適には、ウイルス性発現ベクターを用いたニューロトロフィンの送達については、本発明に従って提供される各単位用量は薬学的組成物の治療的に有効な用量を含むものであり、その組成物は薬学的に許容される流体中にウイルス性発現ベクターを含み、組成物ml当たり1010から1015までのタンパク質発現ベクターゲノム(vg)を提供する。本発明に従ってRGCに送達されると、1×1010 vg/眼の薬学的組成物(NT4をコードするAAV2)からは、33.119 ± 10.517 ng/網膜の検出可能なNT4タンパク質が産生される。一般に網膜、特にRGCは比較的小さな器官であるため、当業者は本発明の実施のために動物モデルにおいて使用される用量から、ヒトにおいて治療的利益をもたらすであろう臨床用量を推定できるはずである。
【0058】
本発明に従った成長因子をコードする発現ベクターの実際の送達は、薬学的組成物の硝子体腔への直接的な導入によるものである、または、ドナー細胞の移植によるものである。ベクターを介した投与の経路については注入が好ましい送達手段である。しかし、特に成長因子をコードする外来核酸の硝子体腔へのベクターを用いない送達(例えばプラスミドによる送達)のためには、マイクロインジェクション(DePamphilis ら, BioTechnique 6:662-680 (1988));エレクトロポレーション(Tonequzzo ら, Molec. Cell. Biol. 6:703-706 (1986), Potter, Anal. Biochem. 174: 361-33 (1988));リン酸カルシウムトランスフェクション法(Grahamおよびvan der EB, 前記, ChenおよびOkayama, Mol. Cell. Biol. 7:2745-2752 (1987), Chenおよび Okayama, BioTechnique, 6:632-638 (1988))およびDEAE-デキストラン仲介の伝達(McCutchanおよびPagano, J Natl. Cancer Inst. 41:351-357 (1968))のような化学的に仲介されたトランスフェクション;カチオン性リポソームを介したトランスフェクション(Felgner ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:7413-7417 (1987), FelgnerおよびHolm, Focus 11:21-25 (1989) ならびにFelgner ら, Proc. West. Pharmacol. Soc. 32:115-121 (1989))、ならびに当技術分野において知られている他の方法のような、その他の送達手段が適している可能性がある。
【0059】
ドナー細胞の移植による送達のための第一段階は、外来核酸のそこへの取り込みを許容するような条件下でドナー細胞を作製することである。インビトロにおいてドナー細胞に遺伝子を伝達するための方法は以下の基本的な段階を含む:(1)上記の他の所で説明されるように、適当な外来核酸を選択する段階;(2)上記の他の所で説明されるように、遺伝子伝達のために適切なおよび効率のよいベクターを選択および開発する段階;(3)初代培養または樹立細胞系からドナー細胞を調製する段階;(4)新規の機能を発現する移植されたドナー細胞が生存でき、トランスジーン産物を安定しておよび効率よく発現できることを実証する段階;(5)移植が重要な有害事象を引き起こさないことを実証する段階;(6)対象における望ましい表現型効果を実証する段階。
【0060】
移植のためのドナー細胞の選択は、発現される遺伝子の性質、ベクターの特性、および望ましい表現型の結果に大いに依存する。ドナー細胞は、初代培養または樹立細胞系、複製しつつある胎児性眼細胞または複製しつつある成体眼細胞のような、活発に成長している細胞であってよい。細胞はまた、前駆体細胞、前駆細胞、または幹細胞;即ち、眼細胞を含む多くの異なる細胞タイプに発生できるという意味で多能性の細胞であってよい。眼細胞は網膜の神経細胞(例えば桿体または錐体の光受容体細胞)、網膜色素上皮(RPE)細胞、虹彩上皮細胞および網膜幹細胞(例えば網膜前駆細胞)を含む。
【0061】
移植された細胞の長期の生存は、細胞に対するウイルス感染の影響、培養条件により生じる細胞の損傷、細胞移植のメカニズム、適切な血管新生の確立、および、外来の細胞または導入された遺伝子産物に対する宿主動物体の免疫応答に依存する可能性がある。哺乳類の眼は従来、免疫学的特権器官であると考えられてきた。実行できるなら自己細胞を使用することによって、表現型の是正に関連するもの以外の細胞表面抗原に変化を生じさせないようなベクターの使用によって、およびおそらくは胎生期のように宿主動物体の免疫寛容期の期間における細胞の導入によって、移植細胞により誘導される拒絶および移植片対宿主反応の可能性を最小化することが何にもかかわらず重要である。それゆえ、同一種の細胞が望ましい;例えば霊長類への送達には霊長類細胞、ヒトへの送達にはヒト細胞、等である。
【0062】
本明細書において使用されるように、「対象」は、ヒトおよびその他の動物および生物のいずれをも含む。したがって、本方法はヒトの治療および獣医学への応用の双方に適用できる。例えば、獣医学への応用は、非限定的に、イヌ、ウシ、ネコ、ブタ、ウマ、およびヒツジの動物個体、ならびに爬虫類、トリ、ウサギ、およびラット、マウス、モルモットおよびハムスターのようなげっ歯類を含むその他の家畜動物をも含む。動物園の動物のような貴重な非家畜動物を治療することも可能である。好ましい態様においては、動物は哺乳類であり、最も好ましい態様においては、動物はヒトである。
【0063】
さらに、本発明において概説される方法は、眼疾患動物モデルの作製において有用である。すなわち、薬物スクリーニングおよび治療のためのモデルを作製するために、遺伝子の突然変異コピーを動物個体に導入することが可能である。
【0064】
以下の実施例は例証することを意図するものであり、本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0065】
1.AAV/NT4の硝子体内投与後の網膜におけるNT4の発現
AAV/NT4仲介の発現およびそれに続く形質導入された網膜細胞からのNT4の分泌が、免疫組織化学によって確証された(図2)。硝子体内注入後、NT4は主に網膜の最内層の網膜神経節細胞(RGC)層全体に渡って分布していた。AAV/NT4の硝子体内注入後、NT4陽性の内核層細胞(アマクリン細胞、双極細胞、および/または水平細胞)およびときにはミュラーグリア細胞も網膜において検出される。AAV/NT4の硝子体内注入後には、光受容体の節においてもわずかなNT4標識が認められる。さらに、NT4タンパク質は、RGCから脳の網膜受容(retino-recipient)領域に、主に脳の外側膝状核および上丘領域まで、視路を介して順行性に輸送されもする。
【0066】
AAV/NT4(1×1010 vg/眼)の硝子体内投与後4週の単離網膜におけるNT4の量のELISAによる定量化も行った。NT4の濃度は1.015 ± 0.259 ng/mg組織(平均 ± SEM)または33.119 ± 10.517 ng/網膜である。未処置の眼およびFB注入眼からの対照網膜は全て、本アッセイについての定量下限(LLOQ)(0.032 ng/ml)以下である。
【0067】
2.光受容体変性の動物モデルにおける硝子体内AAV/NT4の有効性
網膜色素変性症(RP)のP23H系1(P23H-1)トランスジェニックラットモデルおよびS334系4(S334-4)トランスジェニックラットモデル、ならびに光毒性網膜変性の連続光損傷モデル(野生型アルビノSprague Dawley ラットにおけるもの)を含む、光受容体変性の数種の実験ラットモデルにおいてAAV/NT4の有効性が示された。表1は、これらの3つのモデルについての光受容体変性速度(およびしたがってモデルの重症度)、どの経路でAAV/NT4が試験されたか、および実施された実験測定基準を示す。
【0068】
(表1)眼内に投与されたAAV/NT4の有効性を試験するために用いられたラットモデル、および、対応する結果測定基準
*RPにおける最も一般的な突然変異。N/A=適用なし。ERG=網膜電図;ONL=外核層(光受容体核からなる)
【0069】
これらの3モデルにおける、光受容体変性による2つの主要な影響は、1)網膜電図(ERG)によって測定されるような、光フラッシュ刺激に応答した網膜のニューロンの電気生理学的反応における減少、ならびに、2)光受容体細胞の数における減少、およびそれによる、網膜において光受容体細胞体が存在するところである外核層(ONL)の厚さにおける減少である。ONL厚さの測定が光受容体変性の量の定量的解剖学的指標を提供する一方で、ERG測定は網膜の機能を評価するものである。
【0070】
ERG測定の3つの主要な成分は、scotopic b波、scotopic a波、およびphotopic b波である(表2を参照のこと)。
【0071】
(表2)ERGシグナルならびにその細胞および機能性の測定基準
【0072】
scotopic b波は主に、双極細胞およびミュラー細胞を含む内網膜細胞の健康状態を反映し、したがって網膜の全体的機能の評価基準を表す。scotopic a波は、暗所における周辺視、単色視覚を主に担う細胞タイプである桿体光受容体の機能的反応を主に反映する。photopic b波は、明所における中心視、色覚を主に担う細胞タイプである錐体光受容体の機能的反応を主に反映する。
【0073】
P23H-1系およびS334-4系に関わる有効性についての実験のために、P11〜12(すなわち出生後11〜12日)においてトランスジェニックラットに注入を行った。連続光損傷モデルについては、ラットが連続光に曝露されるおよそ4週前に注入を行った。全ての場合において、ラットには2.4 ×1010 vg/眼のAAV/ NT4を総量2μlで片側に硝子体内注入した。動物個体内対照として対側眼に製剤緩衝液(FB)2μlを注入した。対照対側眼と比較してAAV/NT4注入眼における網膜の生理学的健康状態を評価するために、P23H-1ラットおよびS334-4 ラットについてはP60〜64において屠殺する前に、または連続光への7日間の曝露後に屠殺する前に網膜電図測定を行った。屠殺後、外核層(ONL)の厚さを測定し、網膜の構造を定性的に評価する組織学検査のために眼の調製を行った。
【0074】
ERGデータ。製剤緩衝液注入または非注入の対照体側眼と比較して、AAV/ NT4の硝子体内投与後には、P23H-1モデルおよびS334-4モデルの双方において全てのb波およびa波のERG反応が著しく改善された(図3)。scotopic b波、scotopic a波、およびphotopic b波の振幅において認められた増大は、双方のモデルにおいて著しく有意であった(p値: P23H-1モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0002、scotopic a波振幅について0.0004、およびphotopic b波振幅について<0.0001;S334-4モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0119、scotopic a波振幅について0.0039、およびphotopic b波振幅について0.0169:図3)。これらの結果は、硝子体内投与されたAAV/ NT4は、これらのRPモデルにおける光受容体の変性に関連する機能欠損を予防または軽減し得、かつ桿体、錐体、ならびに双極細胞およびミュラーグリア細胞のようなその他の下流の内網膜細胞の健康状態を特異的に保護または回復することが可能であることを示す。さらにこれらの結果から、特に桿体光受容体集団に光受容体変性からの機能保護を提供するという点で、硝子体内投与経路は網膜下投与経路より有効であることが示唆される。
【0075】
硝子体内投与されたAAV/NT4には、連続光損傷モデルにおけるscotopic b波および photopic b波の双方のERG反応に対する正の効果もあった(図4)。眼の間には考慮されるべきかなりのばらつきがあったが、AAV/NT4の硝子体内注入後の両モデルにおける平均scotopic b波振幅および平均photopic b波振幅は、対照眼におけるもよりも大きかった。変性の重症度により、これらの測定では全ての眼においてscotopic a波振幅は存在しなかった。したがって、AAV/NT4には網膜の機能(特に内核層細胞および錐体のもの)を保護する傾向があったが、この重症の変性モデルにおける桿体の機能性はなおも害されたままであった。
【0076】
硝子体内注入後の組織学的解析では、P23H-1モデルおよび連続光損傷モデルにおいては、FBを注入した対照対側眼と比較してAAV/NT4を注入した眼では、網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さにおける著しい増加が終始明らかであり、それは有意な増加であったが、S334-4モデルにおいては統計学的有意差に達しなかった。各々のモデルについて、AAV/NT4注入眼および対照眼について、網膜断面の典型的な画像が示され、網膜全体に渡る同一領域の部分から得られた平均ONL厚さ測定の「spiderグラフ」も示される。
【0077】
図5は、P23H-1トランスジェニックマウスモデルについて、AAV/NT4注入眼におけるONL(濃い色で染色された細胞の列によって識別される)が、より多くの数の光受容体細胞体の層を有してより厚くなっていることを示す。さらに、対照眼とは異なり、AAV/NT4注入眼には、適当な形態および配列を有した強固な光受容体の外節および内節が認められる。「spiderグラフ」から、硝子体内投与されたAAV/NT4による神経保護効果が網膜全体に渡って示され、病巣領域に限定されなかったことが示唆される。さらに、AAV/NT4注入眼におけるONL厚さの増加は著しく有意であった(p = 0.003)。
【0078】
図6は、S334-4トランスジェニックマウスモデルについて、AAV/NT4注入眼においては、対照眼と比較して、光受容体の外節および内節が適当な形態および配列を有してより健康な状態になることを示す。「spiderグラフ」はONL厚さが増加する傾向を表しているが、この効果は統計学的に有意ではなかった(p = 0.195)。
【0079】
図7は、連続光損傷モデルについて、双方の網膜は実質的に変性しているが、AAV/NT4注入眼においてはONL厚さの増加が明らかに認められることを示す。本モデルにおいてはこの段階では媒体注入対照眼に光受容体はほとんど全く存在しておらず、それが本モデルの重症度を表していることに注意すべきである。「spiderグラフ」は、硝子体内投与されたAAV/NT4の神経保護効果が網膜全体に渡って示され、病巣領域に限定されなかったことを示唆している。さらに、この重症かつ進行速度の速い光受容体変性モデルにおいてでさえ、AAV/NT4注入眼におけるONL厚さの増加は著しく有意であった(p < 0.002)。
【0080】
3.硝子体内投与されたAAV/NT4の有効性の結果と網膜下注入により得られた結果との比較
AAV/NT4の硝子体内注入は、試験された3つ全てのラットモデルにおいて光受容体のONL厚さの形態学的改善をもたらし、P23H-1モデルおよび連続光損傷モデルにおいては有意な増加が認められた。S334-4モデルにおいてはONL厚さの増加傾向があり、ラット小集団については治療に対する明らかな反応が認められた。さらに、硝子体内投与されたAAV/NT4は、ERGのscotopic a波における著しい増大という結果をもらたした;scotopic a波は網膜における最も豊富な光受容体細胞タイプである桿体光受容体の機能的健康状態を反映することから、AAV/NT4が硝子体内投与された場合に桿体光受容体集団に対して神経保護効果を発揮することが推察される。また、ERGの結果から、AAV/NT4の硝子体内投与についてはscotopic b波振幅およびphotopic b波振幅における著しい増大が示され、これによって錐体および内網膜細胞の健康状態にとっても網膜へのAAV/NT4仲介のNT4の送達が有益であり得ることが示唆される。
【0081】
AAV/NT4の網膜下注入は、網膜色素上皮(RPE)におけるいくらかの付加的な発現と共に、主に光受容体細胞自体におけるNT4タンパク質の発現をもたらす。硝子体内投与の結果とは対照的に、AAV/NT4の網膜下投与から得られた結果は、これら3つのモデルのいずれにおいても、光受容体細胞における変化を示さなかった。P23H-1トランスジェニックモデルおよびS334-4 トランスジェニックモデルまたは連続光損傷モデルにおいて網膜下投与を行った場合、AAV/NT4注入眼およびFB注入(または非注入)眼の間にONL厚さの測定による差異は全く示されなかった。scotopic a波は桿体、即ちONLにおける最も豊富な光受容体細胞タイプの機能的状態を表すため、AAV/NT4の網膜下注入後に光受容体の有意な増加がないことを考慮すると、これらのモデルのいずれにおいてもscotopic a波ERG反応においても有意な改善が認められなかったことは驚くべきことではない。ERG測定からは、P23H-1系およびS334-4系の双方について、FB注入された対照対側眼と比較して、AAV/NT4注入眼のscotopic b波およびphotopic b波における有意な増大が示された(対応のあるt検定 p値:P23H-1モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0057、photopic b波振幅について0.0009;S334-4 モデルにおけるscotopic b波振幅について0.0027、photopic b波振幅について0.0019)(図4)。しかし、AAV/NT4の網膜下注入を用いて得られたこれらの正の変化のサイズは、同じモデルにおいてAAV/NT4の硝子体内注入について認められたものよりはるかに少ない。したがって、組織学的解析および機能解析によって、AAV/NT4の硝子体内経路による投与が網膜下経路よりも光受容体変性からの保護においてより有効であることが示唆される。
【0082】
AAV/NT4の硝子体内注入の後には非常にわずかな光受容体が形質導入される。しかし、網膜下注入は光受容体を直接的に標的とするが光受容体細胞の損失は引き起こさないため、広範囲に渡る神経保護のために光受容体におけるNT4の発現が必要であるとは考えられない。したがってNT4によって刺激された場合に、ミュラー細胞のようなその他の細胞タイプが光受容体細胞の死滅または機能の損失を予防するのに必要な栄養的なサポートを提供する可能性がある。いずれの場合においても、網膜下投与よりも硝子体内投与が、特に桿体光受容体については、より多くの量の組織学的および機能的な保護を提供するものと考えられる。
【0083】
4.AAV/NTNの硝子体内投与後の、網膜におけるNTN発現
CERE-120は、アデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV2)に由来する、遺伝子操作された遺伝子伝達ベクターである。CERE-140においてヒトNT4タンパク質をコードする配列が、CERE-120においてはヒトβ神経成長因子(βNGF)pre/pro配列に融合された成熟ヒトニュールツリン(NTN)タンパク質をコードする配列と置換されていること以外は、CERE-120は、構造および配列においてCERE-140と同一である。
【0084】
AAV/NTN仲介の発現、およびそれに続く形質導入された網膜細胞からのNTNの分泌が免疫組織化学によって確証された(図8を参照のこと)。硝子体内注入後、NTNは主に網膜の最内部の網膜神経節細胞(RGC)層全体に渡って分布している。AAV/NTNの硝子体内注入後、NTN陽性の内核層細胞(アマクリン細胞、双極細胞、および/または水平細胞)およびときにはミュラーグリア細胞も網膜において検出される。AAV/NTNの硝子体内注入後には、光受容体の節においてもわずかなNTN標識が認められる。AAV/NTNの硝子体内投与後に認められたNTNトランスジーンの発現パターンは、CERE-140(AAV/NT4)の硝子体内投与の後にNT4について認められたものとほとんど同一のものである。
【0085】
5.光受容体変性の動物モデルにおける、硝子体内投与されたAAV/NTNの有効性
網膜色素変性症(RP)のP23H系1 (P23H-1)トランスジェニックラットモデルおよびS334系4(S334-4)トランスジェニックラットモデル、ならびに光傷害性網膜変性の連続光損傷モデル(野生型アルビノSprague Dawleyラットにおけるもの)を含む、数種の光受容体変性実験ラットモデルにおいてAAV/NTNの有効性を調べた。これらは、硝子体内投与されたAAV/NT4の効果が試験されたものと同じモデルであり、CERE-140ベクターおよびAAV/NTNベクターの双方について試験された結果測定基準も同じものであった。
【0086】
P23H-1系およびS334-4系に関わる有効性についての実験のために、トランスジェニックラットに各々P12 またはP15において(すなわち出生後12日または15日に)注入を行った。連続光損傷モデルについては、連続光に曝露するおよそ4週間前に野生型ラットに注入を行った。全ての場合において、ラットには2.4×1010 vg/眼のAAV/ NTNを総量2 μlで片側に硝子体内注入した。動物個体内対照として、対側眼に製剤緩衝液(FB)2 μlを注入した。対照対側眼と比較してAAV/ NTN注入眼における網膜の生理学的健康状態を評価するために、P23H-1ラットについてはP60 において屠殺する前に、S334-4ラットについてはP65 において屠殺する前に、または野生型ラットにおいては連続光への7日間の曝露後に屠殺する前に網膜電図測定を行った。屠殺後、外核層(ONL)の厚さを測定し、網膜の構造を定性的に評価する組織学検査のために眼の調製を行った。
【0087】
ERGデータ。FB注入または非注入の対照対側眼と比較して、AAV/NTN の硝子体内投与は、P23H-1モデルおよびS334-4モデルの双方において適度の機能的な利益をもたらした(図9)。P23H-1モデルにおいては、AAV/NTN仲介のNTN送達の結果、scotopic b波のみにおいて有意な増大が生じた(p = 0.0136)。S334-4モデルにおいては、3つ全ての波において有意な増大が認められた(p値:scotopic b波振幅について0.0340 、scoptopic a波振幅について0.0469、およびphotopic b波振幅 について0.0041)。それに比して、同じ用量のAAV/NT4(NT4を送達する)では、双方のモデルにおいて3つ全ての波における有意な増大が生じ、これらの増大の程度および有意性はいずれも、AAV/NT4を用いたものの方がAAV/NTNを用いたものよりもはるかに大きかった(図3および図4を図9と比較のこと)。
【0088】
連続光モデルにおいては、3つのERG波のいずれにおいても、硝子体内投与されたAAV/NTNによる改善は認められなかった(図10)。変性の重症度により、これらの測定では全ての眼においてscoptopic a波振幅が存在しなかった。それに比して、硝子体内投与されたAAV/NT4によっては、scotopic b波およびphotopic b波の双方のERG反応において平均の改善がもたらされたが、ばらつきにより、これらの増大は統計学的有意性に達しなかった。それでもやはり、この重症の変性モデルにおいてAAV/NTNは有効ではなかった一方、AAV/NT4には網膜機能(特に内核層細胞および錐体のもの)を保護する傾向が認められた。
【0089】
組織学的データ。組織学的解析から、RPのP23H-1トランスジェニックラットモデルおよびS334-4トランスジェニックラットモデルまたは連続光損傷モデルにおいては、AAV/NTNの硝子体内注入は、FBを注入した対照対側眼と比較して、網膜全体に渡って外核層(ONL)厚さに対する効果が全くないことが示された。それに比して、AAV/NT4の硝子体内投与後には、P23H-1モデル および連続光損傷モデルにおいて網膜全体に渡ってONL厚さにおける有意な増加が認められ、S334-4モデルにおいてはONL厚さの増加傾向が認められた(図 5、 6および7を参照のこと)。
【0090】
6.光受容体変性のrcd3イヌモデルにおいて硝子体内投与されたCERE-140
光受容体変性のrcd3イヌモデル。rcd3イヌは、PDE6A 遺伝子に突然変異を有するカーディガンウェルシュコーギー犬の系統である。膜電流を制御し、したがって視覚シグナルの伝達および増幅に関与する桿体光受容体の外節において発現されるタンパク質であるサイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ6Aのアルファサブユニットが、この遺伝子によってコードされる。PDE6Aにおける突然変異は、桿体光受容体の初期の損失およびそれに続く錐体光受容体の損失を特徴とする、桿体-錐体異形成として知られる進行性網膜萎縮の表現型を導く可能性がある。
【0091】
rcd3イヌにおける桿体-錐体異形成は早期に発症し、著しく進行が速い。網膜色素変性症(RP)およびいくつかのその他の失明疾患においては、より遅い進行速度ではあるが、光受容体変性の同様のパターンが生じる。さらに、PDE6A突然変異が少数のRP症例を特異的に説明している。そのため、rcd3イヌは、RPおよびその他の光受容体変性疾患のための潜在的な治療法を試すのに関連のあるモデルである。
【0092】
rcd3イヌモデルにおいて硝子体内投与されたCERE-140の有効性。ラットにおける研究から、網膜におけるAAV2ベースのベクターの最大のトランスジーン発現は、硝子体内注入後およそ4週に生じることが示された。したがって、病理学的症状の発症に相対してNT4の十分な発現を確実にするために、rcd3イヌに早期の時点にCERE-140を投与した。イヌ総数8個体には各々、CERE-140の単回硝子体内注入を右眼に受けさせた。イヌ5個体には出生後4日に15 μlのCERE-140(総用量:3.8×1011 vg)を注入し、イヌ3個体には9日(n = 1)または12日(n = 2)に20 μlのCERE-140 (総用量:5.0×1011 vg)を注入した。動物個体内対照として役立てるために、左の対側眼には同量の製剤緩衝液を硝子体内注入した。
【0093】
光フラッシュに反応した錐体の機能を評価するために、およそ7週齢において網膜電図(ERG)測定を行った。非常に早期の週齢のrcd3変異イヌ個体において桿体は機能性を有さないため、本モデルにおける桿体の機能の回復は期待されなかった。したがって、錐体光受容体の健康状態を反映するERG測定のみを特定的に解析した。錐体の機能に関連するな2つのERG測定は、通常の光条件下における単回の明光フラッシュ照射から生じるERGシグナルの成分であるphotopic a波、および、選択的に錐体を刺激する高周波(およそ30 Hz)の白色明光のフリッカーから生じる電気的シグナルである、錐体フリッカー応答である。
【0094】
ERGの結果。図11において、7週目で得られたERGデータの結果が示される。製剤緩衝液を注入した対照眼と比較して、photopic a波および錐体フリッカー応答の双方において有意な増大が認められた。CERE-140注入眼において認められたphotopic a波およびフリッカー応答のERG振幅における有意な増大は、錐体光受容体の電気生理学的活性を保って、光受容体変性のrcd3モデルにおける錐体の機能をCERE-140が保護したことを示唆する。ヒトにおいては、そのような治療法によって中心視力、視力明瞭度、色覚の喪失が予防されるはずである。
【0095】
7.vldlr-/-マウスにおける異常な網膜新血管新生に対する組み合わせ療法およびGFAPプロモーターの組織特異性
VLDLR欠損マウス(vldlr-/-)は、外見上は正常に見え、生存可能および繁殖可能である(Frykmanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:8453-8457, 1995)が、網膜の血管系において異常を表す(Heckenlively ら, Retina, 23:518-522, 2003;Liら, Arch. Ophthalmol., 125:793-803, 2007)。新生仔vldlr-/-マウスの系統的評価から、出生後第1週を通しては網膜血管の正常な発達があることが示された。出生後第2週の間に、vldlr-/-の網膜は、特に網膜末梢近くの新たに血管化した領域において、浅層脈管叢および関連アストロサイトの一過性の過剰増殖を示した。この関連アストロサイトの増殖は、網膜浅層における血管とアストロサイトの間の直接的な相関を示す過去の研究と一致するものである(Dorrellら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 43:3500-3510, 2002;StoneおよびDreher, J. Comp. Neurol., 255:35-49, 1987; Fruttigerら, Neuron,17:1117-1131, 1996)。出生後第3週までに、浅層脈管叢における血管およびアストロサイトの密度は正常なレベルにまで低減した。
【0096】
vldlr-/-網膜においては、出生後第5週までに、網膜下血管病変の周囲において正常なRPE単層は崩壊し、RPE細胞の多重層が新生血管複合体を包み込んだ。5週間に渡る異常の蓄積により、網膜の病巣歪みおよび瘢痕形成が導かれ、その異常は光受容体内節(PIS)および光受容体外節(POS)の病巣の消失と関連しており、それは網膜下新血管新生を有する領域における異常な網膜の形態および赤/緑(rd/gr)オプシン染色の不在によって示される。光受容体変性も認められた。神経の異常が、網膜内および網膜下の新血管新生の出現に先立つことはなかった。電子顕微鏡および共焦点顕微鏡によって評価すると、出生後12日(P12)において、異常な新血管新生の発症の直前には、全ての網膜層は自然のままであり、同一齢の野生型C57BL6/J(WT)対照と識別されなかった。したがって、vldlr-/-マウスの網膜における神経の異常は新血管新生の原因ではなく結果であると考えられる。
【0097】
抗血管新生療法(例えば、抗血管新生活性を有するトリプトファンtRNA合成酵素の断片T2-TrpRSと共にインテグリンαvβ3およびαvβ5アンタゴニストを用いる、即ちMACUGENを用いるもの)を使用すると、網膜下新生血管の形成において著しい減少が得られるが、その効果は一過性にすぎなかった;処置後2〜3週間以内に、処置した動物個体における網膜下新血管新生は再発した。これは、抗血管新生物質には有益な効果があるが、その効果はしばしば部分的にすぎないことを報告する、一般的に慢性疾患の治療法に関与する臨床的所見と同様である。したがって、眼血管疾患において網膜視力を保護するためのさらなる方法がなおも必要とされている(Bradleyおよび Robinson, Angiogenesis (2007) 10:141-148)。血管疾患を有する眼の網膜ニューロン機能を保護するための作用物質として、網膜新血管新生部位およびしたがって網膜変性の活発な部位に特異的に送達される神経栄養因子を用いてさらなる解析が行われた。
【0098】
AAV-CAG-GFP(CAGプロモーター駆動性GFP発現)、AAV-GFAP-GFP(GFAPプロモーター駆動性GFP発現)、またはAAV-GFAP-NT4 (GFAPプロモーター駆動性ニューロトロフィン-4発現)を含むアデノ随伴ウイルス粒子の0.5 μl溶液、抗体価〜1e 13 vg/mlを、2週齢のvldlr-/-マウスの眼に硝子体内注入した。注入後1か月および2か月におけるGFP発現を解析することによってウイルスのトランスフェクションを評価した。注入後3か月においてvldlr-/-マウスの神経変性表現型に対する効果を評価した。
【0099】
vldlr-/-マウスの網膜においては、ミュラー細胞におけるGFAPの活性化が網膜下新生血管の周囲で特異的に生じる。対照のWTマウスにおいては、GFPベクター(AAV-GFAP-GFP)の硝子体内注入により、発現が内網膜に限定されることが示された(図12A)。しかし、vldlr-/-マウスにおいては、内網膜および外網膜全体に渡ってGFP発現が認められ、網膜下新生血管に近接する活性化されたミュラー細胞によって特異的に発現されていた(図12C〜D)。対照的に、偏在するCAG駆動性プロモーターを有する対照ベクター(AAV-CAG-GFP)では、内網膜の全ての細胞によるGFPの非特異的な発現が示されたが、外網膜においては最小限の発現しか認められなかった(図12B)。GFAPプロモーターを有するAAVウイルスベクターを用いて活性化したミュラーグリアを標的とすることにより、網膜下新生血管に直接的に近接する領域における外網膜へのベクター産物の特異的な送達が得られた。
【0100】
網膜変性を含むニューロン変性のいくつかのモデルにおいてニューロトロフィン-4 (NT-4)がニューロンを保護することが示されてきた(Lykissasら, Curr. Neurovasc. Res., 4:143-151, 2007; Haradaら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 46:669-673, 2005)。GFPベクターと同様に、GFAP 駆動性のNT-4の発現を行わせるAAV-2ベクター(AAV-GFAP-NT4)により、網膜内新生血管に特異的に近接する活性化したミュラー細胞においてNT-4の産生がもたらされた(図12E)。これにより、網膜の中央3分の2全体に渡る網膜下新血管新生領域近くの光受容体の外節および内節におけるNT-4の広範囲に渡る蓄積が生じた(図12F)。
【0101】
AAV-GFAP-NT4ベクターの使用により、オプシンおよびロドプシンのmRNA発現の標準化によって認められたように(図11G)、網膜はニューロン変性から保護され、ERG解析によって認められたように、vldlr-/-網膜は視覚機能の特徴的な喪失から保護された(図12H〜J)。網膜下新血管新生を有する網膜域への神経栄養因子の選択的な送達によって提供されるこの保護は、網膜における異常な新血管新生とニューロン変性の間の直接の相関を強く示唆するものである。さらに、ミュラーグリアの活性化は数多くの網膜疾患、特に関連異常新血管新生を有するものと関係するため、これらの結果は、硝子体内注入を用いて様々な治療用遺伝子産物を外網膜にウイルス仲介(GFAPベクター)で送達するための活性化ミュラーグリアの使用を支持するような概念実証データを提供するものである。
【0102】
上記に引用される全ての参照は、本参照により本明細書に組み入れられる。2008年2月7日に出願された米国特許仮出願第61/026,990号、および2008年8月29日に出願された米国特許仮出願第61/093,228号の全ての内容および図面もまた、本参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
上記の実施例を参照して本発明を説明したが、改変および変更が本発明の精神内および範囲内に包含されることが理解されるべきである。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長因子を機能的にコードする組み換え発現ベクターによって網膜の網膜神経節細胞(RGC)層を感染させる段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法であって、
眼への硝子体内送達によってRGC層にベクターが投与され、かつさらに、感染した細胞によって成長因子が構成的に発現される、方法。
【請求項2】
成長因子がNT4である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
RGC層の近傍の細胞がNT4の発現を介して活性化され、当該近傍の細胞が、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞、水平細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
眼疾患における光受容体変性と関連するscotopic b波、scotopic a波、および/またはphotopic b波の振幅を増大させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
眼疾患が網膜色素変性症または加齢黄斑変性症である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さを増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ONL層の厚さにおける増加が対照と比較して有意である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ONL層の厚さにおける増加が、AAVベクターの網膜下注入による光受容体細胞の感染に対する反応と比較して有意である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
感染したRGC層によって近傍の細胞によるパラクリン反応が誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
発現ベクターがウイルスタンパク質コード配列を欠くAAVベクターであり、該ベクターがNT4をコードする核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
AAVベクターがAAV血清型2(AAV2)ベクターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
NT4遺伝子にAAV2末端逆位反復配列(ITR)が隣接している、請求項10記載の方法。
【請求項13】
第二の成長因子またはカルシウムチャネル遮断薬の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
第二の神経成長因子がBDNF、GDNFまたはCNTFである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
第二の神経成長因子が硝子体内送達または網膜下送達される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ドナー細胞に形質導入された組み換え発現ベクターによって第二の神経成長因子がコードされ、眼への該ドナー細胞の移植によって眼に該ベクターが送達される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
成長因子を機能的にコードする組み換え発現ベクターを有するドナー細胞の硝子体内移植によって、網膜の網膜神経節細胞(RGC)層に成長因子を送達する段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法。
【請求項1】
成長因子を機能的にコードする組み換え発現ベクターによって網膜の網膜神経節細胞(RGC)層を感染させる段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法であって、
眼への硝子体内送達によってRGC層にベクターが投与され、かつさらに、感染した細胞によって成長因子が構成的に発現される、方法。
【請求項2】
成長因子がNT4である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
RGC層の近傍の細胞がNT4の発現を介して活性化され、当該近傍の細胞が、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞、水平細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
眼疾患における光受容体変性と関連するscotopic b波、scotopic a波、および/またはphotopic b波の振幅を増大させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
眼疾患が網膜色素変性症または加齢黄斑変性症である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
網膜全体に渡って外核層(ONL)の厚さを増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ONL層の厚さにおける増加が対照と比較して有意である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ONL層の厚さにおける増加が、AAVベクターの網膜下注入による光受容体細胞の感染に対する反応と比較して有意である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
感染したRGC層によって近傍の細胞によるパラクリン反応が誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
発現ベクターがウイルスタンパク質コード配列を欠くAAVベクターであり、該ベクターがNT4をコードする核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
AAVベクターがAAV血清型2(AAV2)ベクターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
NT4遺伝子にAAV2末端逆位反復配列(ITR)が隣接している、請求項10記載の方法。
【請求項13】
第二の成長因子またはカルシウムチャネル遮断薬の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
第二の神経成長因子がBDNF、GDNFまたはCNTFである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
第二の神経成長因子が硝子体内送達または網膜下送達される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ドナー細胞に形質導入された組み換え発現ベクターによって第二の神経成長因子がコードされ、眼への該ドナー細胞の移植によって眼に該ベクターが送達される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
成長因子を機能的にコードする組み換え発現ベクターを有するドナー細胞の硝子体内移植によって、網膜の網膜神経節細胞(RGC)層に成長因子を送達する段階を含む、インサイチューにおいて眼の光受容体をレスキューする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−511090(P2011−511090A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546007(P2010−546007)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/033275
【国際公開番号】WO2009/100253
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(510215499)セレジーン インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/033275
【国際公開番号】WO2009/100253
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(510215499)セレジーン インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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