説明

治療用分子の徐放および遅延放出に用いる吸収特性が向上したシクロデキストリンを有する生体材料

本発明は、生体材料原料から、少なくとも1つの生体活性分子を含む生体材料を製造する方法であって、前記生体材料原料になされる次の連続した操作を特徴とする方法に関する。
a)− シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体および/またはシクロデキストリン誘導体包接錯体
− 少なくとも1つのポリカルボン酸
− 必要により触媒
の固体混合物の塗布;
b)1〜60分間の100〜220℃の温度での加熱;
c)水による洗浄;
d)乾燥、
および、乾燥工程の後、高濃度の生体活性剤の溶液を生体材料に含浸させることにより、少なくとも1つの生体活性剤を生体材料内に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した吸収特性および治療用分子の徐放性かつ遅延放出特性のある、シクロデキストリンを有する生体材料、その製造方法、ならびに特にプロステーシスまたはインプラントとしてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
動物またはヒトへの生体材料の移植は、外科手術中に病原体が混入することによって、感染の原因ともなり得る。血管手術のケースにおいては約1%、この種の感染が起きており、合併症によって、患者が死に至るケースが、約50%にもなり得る。
【0003】
この問題に対しては、殺生物剤(抗生剤または消毒剤)を用いた治療的措置によって対処することが可能であり、移植の直前に、生体材料を、抗生剤または消毒剤の溶液に浸漬することによって予防的に対処することができる。そして、活性成分は、感染しやすいエリアにおいて、直接in situで放出される。しかし、この対処法は、生体材料を含む材料の性質が、以下であった場合には、不完全である。
− 前記材料に吸着されている活性成分の量が非常に少ない、
− 生物内において、活性成分がすぐに(数分〜数時間で)放出される、および
− 活性成分の濃度が、急速に、最小発育阻止濃度(MIC)を下回るほどに減少する。
【0004】
その結果、上記のようなシステムでは、感染し得るリスクのある期間(数週間)に対して、その有効性が、時間に関し非常に限られたものとなっている。
【0005】
(時間および/または量について)活性成分の制御放出を可能にした生体材料が各種提案されている。
【0006】
なかでも、活性成分を含む多孔質のポリマーマトリックスから構成される生体材料がある。活性成分は、マトリックスの孔から拡散することによって放出される。
【0007】
この目的を達成するために、特許文献1は、1以上の活性成分を含有するポリマーゲル(充填ネットワーク)を孔に含んでいる、親水性または両親媒性ポリマーネットワーク(支持ネットワーク)から構成される多孔質ポリマーを含む生体材料の使用を開示している。好ましくは、支持ネットワークは、ジエチルアミノエチル基で修飾されたアクリル系コポリマーによって形成された多孔質微小球体である。当該特許文献の実施例3には、インドメタシンの放出速度と、インドメタシンを装填した発明に従った種々の微小球体についての比較検討が記述されている。当該文献の表IIに示された結果は、多量の活性成分が徐放されたものの、放出の遅延に関しては、対照とする(支持ネットワークの孔内に活性成分を含む)微小球体と比較すると、有意ではなかった。
【0008】
その他には、生体材料は、ポリマーマトリックスに含まれる活性成分を、マトリックスが分解して生体に再吸収されながら放出する生分解性ポリマーから構成されている。活性成分の放出速度は、マトリックスの分解速度に依存する。
【0009】
それに従い、特許文献2は、ポリラクチド、およびデキストランなどのポリサッカライドより構成される生分解性コポリマーを開示しており、共重合の前に、少なくとも1つの活性成分がデキストランと共有結合により結合されている。別の実施態様では、第2の活性成分を、コポリマーに非共有結合的に導入してもよく、当該第2の活性成分を、
− コポリマーが分解する前の放散;
− コポリマーの分解としてのポリマーマトリックスからの放出
という2つの異なるメカニズムによって放出することができる。
【0010】
筆者らによれば、前記生体材料からの活性成分の放出は、いくつかの基準によって調節できる。すなわち、
− デキストランに共有結合する活性成分の性質(親水性かどうか)、
− 以下のものの関数としての、デキストラン分子の加水分解、
− グリコキシド結合の性質(1,4−結合よりも1,6−結合の方が加水分解が高速)、
− コポリマーに導入されたデキストランの量。
【0011】
しかし、前記の特許文献では、活性成分の放出速度の研究はされておらず、この制御放出システムの有効性を評価することは困難である。
【特許文献1】国際公開第02/41928号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6525145号明細書
【発明の開示】
【0012】
本発明は、活性成分の徐放に適した公知の種々の生体材料において現れた欠点を克服することを提案するものである。
【0013】
本発明は、放出される生体活性剤の合計量、徐放性、および生体活性剤の放出の総持続時間について、向上した塩析能を有する、シクロデキストリンを有する生体材料に関する。本発明は、生体材料とシクロデキストリンがほとんど永続的に、共有結合を介して、または物理的相互作用によって付着しているように、生体材料とシクロデキストリンをグラフトさせることを原則として所望する。
【0014】
この目的のため、第一の側面によれば、本発明は、生体材料原料から、少なくとも1つの生体活性分子を含む生体材料を製造する方法であって、前記生体材料原料になされる次の連続した操作を特徴とする方法に関する。
a)− シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体および/またはシクロデキストリン誘導体包接錯体、
− 少なくとも1つのポリカルボン酸、
− 必要により触媒
の固体混合物の塗布;
b)1〜60分間の100〜220℃の温度での加熱;
c)水による洗浄;
d)乾燥、
および、乾燥工程の後、高濃度の生体活性剤の溶液を生体材料に含浸させることにより、少なくとも1つの生体活性剤を生体材料内に導入する。
【0015】
第二の側面によれば、本発明は、水酸基および/またはアミン基を含む化学構造を有する生体材料原料から製造される生体材料であって、前記原料の構造が、少なくとも1つのシクロデキストリン分子と、または一般式
【0016】
【化1】

【0017】
で表される繰返し単位を含む構造の、シクロデキストリンより構成されるポリマーと共有結合している生体材料に関する。
【0018】
SBは、天然もしくは人工由来のポリマー材料、および/またはバイオセラミックス材料から構成される生体材料原料の構造を示し、Xは、エステル基に属する酸素原子またはNH基であり、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボン酸基の数であり、
− yは、反応の間にエステルまたはアミドを形成した、ポリカルボン酸のカルボン酸基の数を示し、
− (x−y)は、エステルもアミドも形成しなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボン酸基の数であり、

【0019】
【化2】

【0020】
は、式
【0021】
【化3】

【0022】
のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化または、それぞれエステル化およびアミド化されており、当該分子鎖は、エステル化もアミド化もされていない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物;ならびに生体活性分子を有する、前記のシクロデキストリンの包接錯体または前記のシクロデキストリン誘導体の包接錯体、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である。
【0023】
第3の側面によれば、本発明は、生体材料原料から製造される生体材料であって、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体またはシクロデキストリン誘導体包接錯体の架橋ポリマーによって、当該生体材料原料の孔構造が占められて、あるいは当該生体材料原料の表面構造がコーティングされてまたは覆われており、当該架橋ポリマーの構造は、一般式
【0024】
【化4】

【0025】
で表される繰返し単位を含み、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボキシル基の数であり、
− yは、反応の間にエステル化された、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数を示し、
− (x−y)は、エステル化されなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボキシル基の数であり、

【0026】
【化5】

【0027】
は、式
【0028】
【化6】

【0029】
のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化されており、当該分子鎖は、エステル化反応していない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物;ならびに生体活性分子を有する、前記のシクロデキストリンの包接錯体または前記のシクロデキストリン誘導体の包接錯体、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
ここで、前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である、生体材料に関する。
【0030】
第4の側面によれば、本発明は、前記に規定する生体材料の、インプラント、プロステーシス、または少なくとも1つの治療用分子の制御放出のためのデバイスとしての使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
これより、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明は、放出される生体活性剤の合計量、徐放性、および生体活性剤の放出の総持続時間の点で、向上した塩析能を有し、少なくとも1つの生体活性剤と錯体化したシクロデキストリンを有する新規のタイプの生体材料に関する。
【0033】
この新しい機能の目的は、6〜8週間にわたり得る臨界期中の、病原菌のグラフトまたは傷へのコロニー形成が関与する術後感染の可能性を、感知できるほどに減少させることである。
【0034】
その結果、これらの前提は、この臨界期中に徐放され得る生体活性剤の十分な量を吸収することが可能な生体材料の設計の十分な根拠となる。
【0035】
本発明は、生体材料とシクロデキストリン(CD)がほとんど永続的に、共有結合を介して、または物理的相互作用によって付着しているように、生体材料とシクロデキストリンをグラフトさせることを原則として所望する。この場合、シクロデキストリンは、生体材料原料の不可欠な部分を形成する。
【0036】
一実施態様では、少なくとも1つの生体活性剤が、その後の高濃度の生体活性剤の溶液への含浸、すなわち前記生体活性剤が、生体材料に存在するシクロデキストリンの空洞の中に収容されるようになる操作によって、グラフト化された生体材料原料に導入される。
【0037】
別の実施態様では、シクロデキストリン−生体活性剤包接錯体が、最初に形成され、次いで生体材料原料にグラフトされる。
【0038】
「生体材料」は、天然または人工由来の非生物材料であり、数週間より長く生体と接触していてもヒトや動物に耐容性があり、組織、臓器、または機能を交換または治療することを目的として生物組織(皮膚、歯、骨、血等)と接触して配置されることを意図とした医療用具の製造に用いられる材料である。
【0039】
生体材料原料は、生体活性分子を含まない生体材料のことである。
【0040】
シクロデキストリン分子の生体材料原料への結合は、主に、2つのメカニズムによって行われ、各メカニズムは、前記生体材料の化学的性質に依存している。
【0041】
ヒドロキシル基および/またはアミン基を含む化学構造を有する生体材料原料を処理する場合、本発明の方法では、処理される生体材料とポリカルボン酸との間にアミド共有結合またはエステル共有結合を形成することによって生体材料と反応する、ポリカルボン酸の無水物を最初に形成させることができる。次に、最も簡単な場合には、既に生体材料と結合したポリカルボン酸の第二の無水物を形成し、続いて当該無水物を、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体の分子とエステル結合を形成させることによって、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体の分子と反応させる。
【0042】
しかし、ある種の合成または無機ポリマーの生体材料は、上記提案するメカニズムに従って反応できる官能基を有していない。この場合、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の結合は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と、少なくとも1つのポリカルボン酸とのエクスクルーシブ反応によって得られる架橋ポリマーの形成によって行われる。このようにして形成される架橋ポリマーは、処理された生体材料の構造によって、フィルム、もしくは生体材料原料上の堆積物として形成されて、または孔構造内に閉じ込められて、永続的に結合した状態にある。
【0043】
ポリマー
【0044】
【化7】

【0045】
が、共有結合によって生体材料原料の構造に結合するシクロデキストリン分子から形成されているときには、当該ポリマーは、生体材料原料との少なくとも1つの共有結合を有する。
【0046】
コポリマー
【0047】
【化8】

【0048】
が、生体材料原料の構造に結合していない、ポリカルボン酸とシクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子から形成されている場合であったとしても、架橋されている、すなわち交錯した三次元ネットワークを形成している場合には、または生体材料原料の構造を被覆している場合には、コポリマーは、当該生体材料に永続的に物理的に結合することができる。
【0049】
ポリカルボン酸分子と、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体の分子を利用する基本メカニズムは、出願人の以前の特許、欧州特許第1165621号明細書および欧州特許第1157156号明細書に開示されている。
【0050】
例えば、キトサン、ケラチン、セルロースまたはそれらの誘導体などの、アミン基またはヒドロキシル基を含むポリマー生体材料原料の場合には、2つの結合メカニズム、すなわち、共有結合を介したフィルムの形成および架橋ポリマーによる生体材料の被覆、が共存し得る。
【0051】
好ましい実施態様によれば、固体混合物の塗布を、
− シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体またはシクロデキストリン包接錯体またはシクロデキストリン−生体活性剤包接錯体、
− 少なくとも1つのポリカルボン酸、
− 必要により触媒
の水系溶液を前記生体材料原料に含浸し、次いで含浸した生体材料原料を乾燥することによって達成する。
【0052】
当該含浸および乾燥は、生体材料原料の表面、またはその孔内への試薬の均一な堆積を可能とし、この後に、シクロデキストリンと結合する反応および生体材料原料の表面上または孔内におけるポリマーの均一な堆積または被覆が得られることを容易にする特徴がある。
【0053】
好ましい実施態様では、100℃から220℃の温度で1〜60分間にわたって行われる主加熱操作の前に、好ましくは、生体材料原料を40℃〜90℃の温度で予備乾燥する。
【0054】
主加熱は、少なくとも1つの以下のメカニズムにより、ポリカルボン酸と生体材料原料との反応によって、シクロデキストリンの分子を生体材料原料と永続的に結合させることを意図している。
− 生体材料原料の構造と、場合によっては少なくとも1つの生体活性分子と錯体化している、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体との間の共有結合による化学的グラフト、あるいはシクロデキストリンポリマーおよびポリカルボン酸との共有結合による化学的グラフト;
− ポリカルボン酸と、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体または生体活性分子を有するそれらの包接錯体との、架橋コポリマーを形成するための反応(被覆による物理的グラフト)。
【0055】
ポリカルボン酸は、好ましくは、非環式ポリカルボン酸、飽和または不飽和の環状ポリカルボン酸、飽和または不飽和の芳香族ポリカルボン酸、ヒドロキシポリカルボン酸、好ましくは、クエン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、trans−アルコン酸、all−cis−1,2,3,4−シドペンタンテトラカルボン酸(cydopentanetetracarboxylic acid)、メリト酸、オキシジコハク酸、およびチオジコハク酸から選ばれる。
【0056】
上記に挙げた酸の無水物誘導体も使用してよい。
【0057】
上記混合物は、好ましくは、リン酸ニ水素、リン酸水素、ホスフェート、次亜リン酸塩、亜リン酸のアルカリ金属塩、ポリリン酸のアルカリ金属塩、カーボネート、重炭酸塩、アセテート、ボレート、アルカリ金属の水酸化物、脂肪族アミン、およびアンモニアから選ばれる、好ましくは、リン酸水素ナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、および次亜リン酸ナトリウムから選ばれる触媒を含む。
【0058】
シクロデキストリンは、好ましくは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から選ばれる、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物;ならびに生体活性分子を有する、前記のシクロデキストリンの包接錯体または前記のシクロデキストリン誘導体の包接錯体から選ばれる。
【0059】
第二の側面によれば、本発明は、ヒドロキシル基および/またはアミン基を含む化学構造を有する生体材料原料から、好ましくは本発明の方法によって製造される生体材料であって、前記原料の構造が、少なくとも1つのシクロデキストリン分子と、または一般式
【0060】
【化9】

【0061】
で表される繰返し単位を含む構造の、シクロデキストリンより構成されるポリマーと共有結合している、生体材料に関する。
【0062】
SBは、天然もしくは人工由来のポリマー材料、および/またはバイオセラミックス材料、またはポリオールから構成される生体材料原料の構造を示し、Xは、酸素原子またはNH基であり、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボキシル基の数であり、
− yは、反応の間にエステルまたはアミドを形成した、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数を示し、
− (x−y)は、エステルもアミドも形成しなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボキシル基の数であり、

【0063】
【化10】

【0064】
は、式
【0065】
【化11】

【0066】
のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化または、それぞれエステル化およびアミド化されており、当該分子鎖は、エステル化もアミド化もされていない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物;ならびに生体活性分子を有する、前記のシクロデキストリンの包接錯体または前記のシクロデキストリン誘導体の包接錯体、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である。
【0067】
「治療用分子」とは、ヒトまたは動物の疾患の予防および/または治療を意図したあらゆる分子を意味する。
【0068】
第3の側面によれば、本発明は、生体材料原料から、好ましくは本発明の方法によって製造される生体材料であって、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体またはシクロデキストリン誘導体包接錯体の架橋ポリマーによって、当該生体材料原料の孔構造が占められて、あるいは当該生体材料原料の表面構造がコーティングされてまたは覆われており、当該架橋ポリマーの構造は、一般式
【0069】
【化12】

【0070】
で表される繰返し単位を含み、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボキシル基の数であり、
− yは、反応の間にエステル化された、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数を示し、
− (x−y)は、エステル化されなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボキシル基の数であり、

【0071】
【化13】

【0072】
は、式
【0073】
【化14】

【0074】
のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化されており、当該分子鎖は、エステル化反応していない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物;ならびに生体活性分子を有する、前記のシクロデキストリンの包接錯体または前記のシクロデキストリン誘導体の包接錯体、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
ここで、前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である、生体材料に関する。
【0075】
このようにして、本発明は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子が、共有結合によってのみ結合している生体材料原料から製造された生体材料;シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体分子が、共有結合および孔構造の占拠またはシクロデキストリンの架橋ポリマーによって、生体材料原料の表面構造をコーティングもしくは覆うことの両方によって、結合している生体材料原料から製造された生体材料;ならびにシクロデキストリンが、孔構造の占拠によってのみ結合している、または、シクロデキストリンの架橋ポリマーによって、生体材料原料の表面構造をコーティングもしくは覆うことによってのみ結合している生体材料原料から製造された生体材料に関する。
【0076】
生体材料は、本発明に従い、様々なメカニズムで生体活性剤により機能化することができる。
【0077】
別の実施態様では、生体材料原料を、上記に開示した実施態様の1つによって、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子とグラフト化し、次いで、高濃度の生体活性剤の溶液を含浸させる。この操作の目的は、グラフト化したシクロデキストリンを生体活性剤の存在下に置くことであり、当該操作によって、「ホスト−ゲスト」形成錯体が形成される。このようにして、生体材料が生体に移植された後に低速で放出される活性成分を装填した生体材料を得る。
【0078】
別の実施態様では、生体材料原料を、先行技術に従って予め製造した、シクロデキストリン−生体活性剤包接錯体またはシクロデキストリン誘導体−生体活性剤包接錯体とグラフト化する。このようにして、製造工程においては、シクロデキストリンを、シクロデキストリン−生体活性剤錯体に置き換えることが満足される。
【0079】
本発明は、共有化学結合を成立させることによって、または物理的相互作用によって生体材料に付着するシクロデキストリンポリマーを堆積することによって、シクロデキストリン錯体の特性を、シクロデキストリン錯体を生体材料原料にグラフトさせることにより利用することができる。
【0080】
シクロデキストリンを生体材料原料に化学的または物理的にグラフトさせることは、前者が後者の上に存在していて、生体材料が移植される生理的な媒体中での即座の溶解によっても分離しないという利点を有する。
【0081】
本発明の生体材料は、増加した吸収能、生体活性物質の長期におよぶ放出能を有し、生体活性物質は、例えば、抗凝固剤、抗血栓剤、有糸分裂阻害薬、抗増殖剤、抗接着剤、マイグレーション防止剤、細胞接着促進剤、増殖因子、抗寄生虫分子、抗炎症薬、血管新生阻害剤、血管形成阻害薬、ビタミン類、ホルモン類、タンパク質類、抗真菌薬、抗菌分子、消毒剤、または抗生剤である。
【0082】
生体活性分子の向上した吸収能は、基材とは非特異的な相互作用(イオン性水素結合およびファンデルワールス結合)しか示さないグラフト化されていない表面とは対照的に、グラフト化したシクロデキストリンが、生体活性分子を活発に錯体化する錯形成サイトになっているという事実によるものである。
【0083】
遅延放出は、上述の分子とホスト−ゲスト包接錯体を形成する特性およびゲストを低速度で徐々に放出する特性を有するシクロデキストリンの作用による。
【0084】
また、与えられた治療薬は、使用するシクロデキストリンの性質(α、β、γ、ヒドロキシプロピル−α等)に依存して異なった錯形成の平衡定数を示すことが知られている。その結果、生体材料原料と結合する各種シクロデキストリンは、その独自の速度論に従って、より急速にまたはより遅い速度で治療薬を放出する。その結果、生体材料原料にグラフトさせる際に数種のシクロデキストリン混合物を用い、当該混合物の各シクロデキストリンの比率を調整することによって生体活性剤の放出速度を調節することができる。
【0085】
加えて、カルボキシル基(または媒体のpHによっては、カルボキシレート基)が、本発明の生体材料には存在するので、当該官能基を、イオン交換基として用いることができる。従って、カルボキシル基のH+イオン(またはカルボキシレート基のNa+)は、殺菌性が知られている全ての他のカチオン、例えば、銀イオン、四級アンモニウムイオン、塩酸クロルヘキシジンからなる群より選ばれるカチオンに置換することができる。
【0086】
本発明の生体材料に、(乾燥工程の後に)カチオン性の殺生物性化合物の溶液を含浸させることによって、当該生体材料に殺生物性を付与することができ、生体材料は、イオン交換メカニズムによって殺生物剤と結合する。このようにして処理した生体材料は、シクロデキストリンと錯体化している治療薬によって既に付与されている特性と異なったまたは同一の、追加の特性を示す。当業者は、放出されるべき治療薬、または結合するべき殺生物剤に従って、これらの機能の1つを単独で使用するか、いくつかを同時に使用するかを決めることができる。後者の場合は、例えば、芳香族(従って、シクロデキストリンに収容されるのに好適)かつカチオン性(従って、カルボキシル基と結合するのに好適)である化合物である、塩酸クロルヘキシジンに対応している。この場合は、2つの異なるメカニズムによって、in vivoで同じ生体活性剤が放出される。
【0087】
第4の側面によれば、本発明は、前記に規定する生体材料の、インプラント、プロステーシス、または少なくとも1つの治療用分子の制御放出のためのデバイスとしての使用に関する。
【0088】
本発明は、少なくとも1つの生体活性剤と錯体化したシクロデキストリンを有する生体材料の、血管のプロステーシスおよび内部人工器官(ステントで被覆);ヘルニアサポート;組織再生誘導膜;骨再生誘導膜;溝間放出デバイス(intrasulcular release device);透析、灌流、輸血または人工栄養の、チューブおよびカテーテル;経皮的インプラント;ティッシュエンジニアリングのラティスおよびネットワーク;微小孔性およびマクロ多孔性骨代用材;および医用または動物用の縫合用および包帯用ワイヤーまたは糸、としての使用に関する。
【0089】
本発明の生体材料原料の構造は、例えば、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)およびそれらのコポリマー(PLA−GA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、酸化セルロース、再生セルロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリプロピレン、ポリエチレン、ペクチン、カラギナン、アルギン酸塩、およびデキストランなどの多糖類、ケラチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、または当該ポリマーの組み合わせなどのポリマー材料からなることができる。
【0090】
別の態様では、本発明の生体材料原料の構造は、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、ジルコニア、ガラス、およびアイオノマーガラスを含むバイオセラミクスなどの無機材料より構成される。
【0091】
別の態様では、本発明の生体材料原料の構造は、上記に規定する無機化合物およびポリマー材料を組み合わせたコンポジットより構成される。
【0092】
本発明はまた、例えば上記に規定する少なくとも1つの生体材料から構成される、少なくとも1つの治療用分子の制御放出のためのデバイスに関する。
【0093】
本発明はまた、例えば上記に規定する少なくとも1つの生体材料を含む組成物に関する。
【実施例】
【0094】
本発明は、以下の実施例を考慮することによって、より理解されるであろう。当該実施例は、本発明の生体材料の特徴をよりよく説明するためのもので、これらに限定するものではないものとして示す。
【0095】
実施例1
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、140℃で30分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、2.4%であった。
【0096】
実施例2
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、150℃で30分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、7.4%であった。
【0097】
実施例3
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、160℃で30分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、9.2%であった。
【0098】
実施例4
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、170℃で30分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、9.9%であった。
【0099】
実施例5
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、170℃で5分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、8.8%であった。
【0100】
実施例6
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、β−CD(100g/l)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、175℃で6分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、25%であった。
【0101】
実施例7
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、140℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、5%であった。
【0102】
実施例8
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、104℃で7分間乾燥し、150℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、11.1%であった。
【0103】
実施例9
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、160℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、10%であった。
【0104】
実施例10
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、150℃で5分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、6.5%であった。
【0105】
実施例11
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、150℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、8.1%であった。
【0106】
実施例12
フーラードを用い、PET織布の血管プロステーシスのサンプルに、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(80g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(10g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、90℃で7分間乾燥し、150℃で15分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、11%であった。
【0107】
実施例13
フーラードを用い、PVDF多孔質膜に、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは60%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、140℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、2.4%であった。
【0108】
実施例14
フーラードを用い、PVDF多孔質膜に、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは86%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、150℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、10.5%であった。
【0109】
実施例15
フーラードを用い、PVDF多孔質膜に、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは78%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、170℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、15.5%であった。
【0110】
実施例16
フーラードを用い、PVDF多孔質膜に、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは85%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、170℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、15.8%であった。
【0111】
実施例17
フーラードを用い、多孔性再生セルロース膜に、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは163%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、170℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、3.95%であった。
【0112】
実施例18
フーラードを用い、多孔性再生セルロース膜に、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは187%であった。次いで、サンプルを、90℃で3分間乾燥し、150℃で10分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、14.9%であった。
【0113】
実施例19
フーラードを用い、ポリアミド−6布のサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、104℃で3分間乾燥し、170℃で3分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、5%であった。
【0114】
実施例20
フーラードを用い、ポリアミド−6布のサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、104℃で3分間乾燥し、170℃で5分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、10%であった。
【0115】
実施例21
フーラードを用い、ポリアミド−6布のサンプルに、β−CD(100g/l)、クエン酸(100g/l)、および次亜リン酸ナトリウム(30g/l)を含む水溶液を含浸させた。ピックアップは70%であった。次いで、サンプルを、104℃で3分間乾燥し、170℃で12分間処理し、ソックスレーを用いて水洗し、乾燥した。グラフト化による重量増加は、12.5%であった。
【0116】
実施例22
本実施例は、活性成分として選択する消毒剤であるクロルヘキシジンについて、β−CDによって機能化されたPVDF膜の、向上した吸収能および遅延放出能を例証するものである。第一工程で、未処理の膜1枚とβ−CDで機能化された膜1枚を、クロルへキシジン溶液(0.04g/l)に浸漬させた。第二工程で、クロルヘキシジンが装填された2枚の膜を、水ですすぎ、37°に保たれた生理的媒体に攪拌しながら浸漬した。次いで媒体中のクロルへキシジン濃度の漸進的変化を、紫外可視分光光度計により、255nmで測定した。
【0117】
図1は、130日の期間にわたって2枚の膜により媒体中に放出されたクロルへキシジンの量の漸進的変化を示す。
【0118】
実施例23
本実施例は、活性成分として選択する抗生剤であるバンコマイシンについて、β−CDによって機能化されたPET織布の血管プロステーシスの、向上した吸収能および遅延放出能を例証するものである。第一工程で、未処理のプロステーシス1つと10%のグラフト化率でβ−CDで機能化されたプロステーシス1つを、バンコマイシン溶液(5g/l)に浸漬させた。第二工程で、バンコマイシンが装填された2つのプロステーシスを、水ですすぎ、37°に保たれた生理的媒体に攪拌しながら浸漬した。次いで媒体中のバンコマイシン濃度の漸進的変化を、紫外可視分光光度計により、280nmで測定した。
【0119】
図2は、86日の期間にわたって2つのプロステーシスにより媒体中に放出されたバンコマイシン濃度(mg/l)の漸進的変化を示す。
【0120】
実施例24
本実施例は、生体材料原料をグラフト化する際に数種のシクロデキストリンの混合物を用い、当該混合物の各シクロデキストリンの比率を調整することによって、生体活性剤の放出速度の調節可能性を例証するものである。図3は、3つの異なるシクロデキストリン:シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンおよびγ―シクロデキストリンにより機能化されたPVDF多孔質膜による、クロルへキシジンの放出の研究について示す。得られた結果は、膜がγ−シクロデキストリンでグラフト化されている場合、クロルヘキシジンは最初の10日間で放出され、この期間の放出量はβ−シクロデキストリンの60日よりも大きいことを示している。他方では、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンは効果的ではなく、コントロールとして用いた、クロルヘキシジンのすべてを即座に放出した未処理の膜と同じ結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】130日の期間にわたって2枚の膜により媒体中に放出されたクロルへキシジンの量の漸進的変化を示す図である。
【図2】86日の期間にわたって2つのプロステーシスにより媒体中に放出されたバンコマイシン濃度(mg/l)の漸進的変化を示す図である。
【図3】3つの異なるシクロデキストリン:シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンおよびγ―シクロデキストリンにより機能化されたPVDF多孔質膜による、クロルへキシジンの放出の研究について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料原料から、少なくとも1つの生体活性分子を含む生体材料を製造する方法であって、前記生体材料原料になされる次の連続した操作を特徴とする方法。
a)− シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体および/またはシクロデキストリン誘導体包接錯体、
− 少なくとも1つのポリカルボン酸、
− 必要により触媒
の固体混合物の塗布;
b)1〜60分間の100〜220℃の温度での加熱;
c)水による洗浄;
d)乾燥、
および、乾燥工程の後、高濃度の生体活性剤の溶液を生体材料に含浸させることにより、少なくとも1つの生体活性剤を生体材料内に導入する。
【請求項2】
前記固体混合物の塗布が、
− シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体またはシクロデキストリン包接錯体またはシクロデキストリン−生体活性剤包接錯体、
− 少なくとも1つのポリカルボン酸、
− 必要により触媒
の水系溶液を前記生体材料原料に含浸し、含浸した生体材料原料を乾燥することによって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
100℃から220℃の温度で行われる主加熱操作の前に、好ましくは、前記生体材料原料を40℃〜90℃の温度で予備乾燥する請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥工程の後に、カチオン性殺生物剤の溶液を前記生体材料に含浸させる工程をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記生体材料原料が、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびそれらのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、酸化セルロース、再生セルロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリプロピレン、ポリエチレン、ケラチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、または当該ポリマーの組み合わせなどのポリマー材料からなる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生体材料原料が、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、ジルコニア、ガラス、およびアイオノマーガラスを含むバイオセラミクスなどの無機化合物より構成される、または無機化合物およびポリマー材料を含む複合材料より構成される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸が、非環式ポリカルボン酸、飽和または不飽和の環状ポリカルボン酸、飽和または不飽和の芳香族ポリカルボン酸、ヒドロキシポリカルボン酸、好ましくは、クエン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、trans−アルコン酸、all−cis−1,2,3,4−シドペンタンテトラカルボン酸、メリト酸、オキシジコハク酸、チオジコハク酸、およびこれらの酸の無水物から選ばれる先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が、リン酸ニ水素、リン酸水素、ホスフェート、次亜リン酸塩、亜リン酸のアルカリ金属塩、ポリリン酸のアルカリ金属塩、カーボネート、重炭酸塩、アセテート、ボレート、アルカリ金属の水酸化物、脂肪族アミン、およびアンモニア、好ましくは、リン酸水素ナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、および次亜リン酸ナトリウムから選ばれる先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物、から選ばれる先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記生体活性剤が、抗凝固剤、抗血栓剤、有糸分裂阻害薬、抗増殖剤、抗接着剤、マイグレーション防止剤、細胞接着促進剤、増殖因子、抗寄生虫分子、抗炎症薬、血管新生阻害剤、血管形成阻害薬、ビタミン類、ホルモン類、タンパク質類、抗真菌薬、抗菌分子、消毒剤、または抗生剤から選ばれる先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ヒドロキシル基および/またはアミン基を含む化学構造を有する生体材料原料から、好ましくは請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造される生体材料であって、前記構造が、少なくとも1つのシクロデキストリン分子と、または一般式
【化1】

で表される繰返し単位を含む構造の、シクロデキストリンより構成されるポリマーと共有結合しており、
SBは、天然もしくは人工由来のポリマー材料、および/またはバイオセラミックス材料から構成される生体材料原料の構造を示し、Xは、エステル基に属する酸素原子またはNH基であり、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボキシル基の数であり、
− yは、反応の間にエステルまたはアミドを形成した、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数を示し、
− (x−y)は、エステルもアミドも形成しなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボキシル基の数であり、

【化2】

は、式
【化3】

のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化または、それぞれエステル化およびアミド化されており、当該分子鎖は、エステル化もアミド化もされていない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である、生体材料。
【請求項12】
生体材料原料から、好ましくは請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造される生体材料であって、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体および/またはシクロデキストリン包接錯体またはシクロデキストリン誘導体包接錯体の架橋ポリマーによって、当該生体材料原料の孔構造が占められて、あるいは当該生体材料原料の表面構造がコーティングされてまたは覆われており、当該架橋ポリマーの構造は、一般式
【化4】

で表される繰返し単位を含み、
x≧3、2≦y≦(x−1)および(x−y)≧1であり、
− xは、反応前のポリカルボン酸が有するカルボキシル基の数であり、
− yは、反応の間にエステル化された、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数を示し、
− (x−y)は、エステル化されなかった、反応後におけるポリカルボン酸のカルボキシル基の数であり、

【化5】

は、式
【化6】

のポリカルボン酸の分子鎖を示し、
当該分子鎖の少なくとも2つのカルボキシル基(―COOH)は、エステル化されており、当該分子鎖は、エステル化反応していない少なくとも1つのカルボキシル基を有し、
− [CD]は、優先的に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの混合物;アミノ、メチル、ヒドロキシプロピル、スルホブチル、カルボキシメチルまたはカルボキシル誘導体から優先的に選ばれるそれらシクロデキストリンの誘導体、およびそれら誘導体の混合物、から選ばれるシクロデキストリンの分子構造を示し、
ここで、前記生体材料は、シクロデキストリンおよび/またはシクロデキストリン誘導体の分子と錯形成している少なくとも1つの生体活性剤を含み、前記生体活性剤は、治療用分子である、生体材料。
【請求項13】
前記生体材料原料が、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびそれらのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、酸化セルロース、再生セルロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリプロピレン、ポリエチレン、ペクチン、カラギナン、アルギン酸塩、およびデキストランなどの多糖類、ケラチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、または当該ポリマーの組み合わせなどのポリマー材料からなる請求項11および12のいずれかに記載の生体材料。
【請求項14】
前記生体材料原料が、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、ジルコニア、ガラス、およびアイオノマーガラスを含むバイオセラミクスなどの無機化合物より構成される、または無機化合物およびポリマー材料を含む複合材料より構成される請求項11および12のいずれかに記載の生体材料。
【請求項15】
前記生体活性剤が、抗凝固剤、抗血栓剤、有糸分裂阻害薬、抗増殖剤、抗接着剤、マイグレーション防止剤、細胞接着促進剤、増殖因子、抗寄生虫分子、抗炎症薬、抗真菌薬、抗菌分子、消毒剤、または抗生剤から選ばれる請求項11〜14のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに規定する生体材料の、インプラント、プロステーシス、または少なくとも1つの治療用分子の制御放出のためのデバイスとしての使用。
【請求項17】
前記生体材料が、血管のプロステーシスまたは内部人工器官(ステントで被覆);ヘルニアサポート;組織再生誘導膜;骨再生誘導膜;溝間放出デバイス;透析、灌流、輸血または人工栄養の、チューブまたはカテーテル;経皮的インプラント;ティッシュエンジニアリングのラティスまたはネットワーク;微小孔性またはマクロ多孔性骨代用材;あるいは、医用または動物用の縫合用または包帯用ワイヤーまたは糸、の機能を有する請求項16に記載の生体材料の使用。
【請求項18】
請求項11〜15のいずれかに規定されている、少なくとも1つの生体材料から構成される、少なくとも1つの治療用分子の制御放出のためのデバイス。
【請求項19】
請求項11〜15のいずれかに規定されている、少なくとも1つの生体材料を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−519626(P2008−519626A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540685(P2007−540685)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002829
【国際公開番号】WO2006/051227
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(507158606)ユニヴェルシテ デ シヤーンス エ テクノロジ ドゥ リール エスアーイーセー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DES SCIENCES ET TECHNOLOGIES DE LILLE SAIC
【Fターム(参考)】