治療薬放出用の移植可能な医療デバイス
【課題】移植可能な医療デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の様々な局面は、移植可能な医療デバイスに係り、該デバイスは、生侵食性ポリマーおよび治療薬を含む材料層(例えば、シートまたはチューブ形状にある)を含む。本発明のその他の局面は、このようなデバイスの製法に係る。本発明の更に別の局面は、このようなデバイスを用いた治療方法に関する。
【解決手段】本発明の様々な局面は、移植可能な医療デバイスに係り、該デバイスは、生侵食性ポリマーおよび治療薬を含む材料層(例えば、シートまたはチューブ形状にある)を含む。本発明のその他の局面は、このようなデバイスの製法に係る。本発明の更に別の局面は、このようなデバイスを用いた治療方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療薬放出用の医療デバイスに係り、またより詳しくは、本発明は、治療薬放出用の、生分解性ポリマー層を含む医療デバイスに係る。
【背景技術】
【0002】
患者身体内で、治療薬のその場における放出は、現代医学の実務において一般的なことである。その場での放出のために、治療薬は、しばしば医療デバイスを用いて移植され、該デバイスは、身体内のターゲット部位に、一時的にまたは永続的に配置することができる。治療薬を該ターゲット部位に放出するために、必要に応じて、短期間または長期間に渡り、これらの医療デバイスをそのターゲット部位に維持することができる。
【0003】
例えば、近年においては、ボストンサイエンティフィック社(Boston Scientific Corp)[タクサス(TAXUS)]、ジョンソン&ジョンソン社(Johnson & Johnson)[サイファー(CYPHER)]およびその他の会社から市販品として入手できる、バルーン血管形成術後の血管の開放性を維持するために、薬物を溶出する冠動脈ステントが、広く利用されている。これらの製品は、生体安定性ポリマー被膜を持つ、金属製の拡張性ステントを基本とするものであり、該被膜は、制御された速度および全用量にて、再狭窄形成抑制性薬物を放出する。
【0004】
治療薬は、またバルーンを用いて血管壁に放出されている。例えば、最近の臨床的試みは、ステント内狭窄が、パクリタクセルとイオプロミドとの混合物を噴霧して得た被膜を持つバルーンを用いて処置できることを示している。これについては、B. Scheller等, Eurointervention Supplement, (2008) Vol. 4, (別冊(Supplement) C) C63-C66を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な局面は、少なくとも1種の生分解性(biodegradable)ポリマーおよび少なくとも1種の治療薬を含む、少なくとも一つの生侵食性(bioerodible)層を持つ医療デバイスに関する。
【0006】
幾つかの態様において、該生侵食性層は、1種またはそれ以上のグリコサミノグリカンを含み、これは場合により架橋することができる。
【0007】
幾つかの態様において、該生侵食性層は、繊維質骨組、例えば該骨組内での細胞の三次元的な移動および増殖を促進するための骨組の形状にある。
【0008】
幾つかの態様において、剥離材料は、該生侵食性層の少なくとも一方の表面上に配置され、該剥離材料は、該受渡デバイスからの該生侵食性層の剥離を促進する。幾つかの態様において、接着性材料は、該生侵食性層の少なくとも一方の表面上に配置され、該接着性材料は、該材料の生体組織に対する接着を促進する。幾つかの態様において、剥離材料は、該生侵食性層の少なくとも一つの表面上に配置され、該剥離材料は、受渡デバイスからの剥離を促進し、また接着性材料は、該生侵食性層の反対側の表面上に設けられ、該接着性材料は、該剥離材料の身体組織に対する接着を促進する。
【0009】
本発明の他の局面は、このようなデバイスの製法に係る。例えば、幾つかの態様において、該生侵食性層は、受渡バルーン上にエレクトロスパンされる、繊維質管状骨組の形状にある。
【0010】
本発明の更に別の局面は、このようなデバイスを用いた治療方法に係る。例えば、幾つかの態様において、ここに記載される医療デバイスは、初めから血管内のプラーク病変部に適用される。幾つかの態様において、ここに記載される医療デバイスは、予め血管のステントで処理された領域に適用される。
【0011】
本発明の上記のおよびその他の局面および態様は、以下の詳細な説明および添付した特許請求の範囲を綿密に検討した際に、当業者には即座に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一態様に従う医療デバイスを模式的に示した図である。
【図1A−C】図1A-1Cは、本発明の様々な態様に従う、図1に示されたデバイスに関する選び得る3つの断面を模式的に示した図である。
【図2】図2は、本発明のもう一つの態様に従う医療デバイスを模式的に示す図である。
【図2A−C】図2A-2Cは、本発明の様々な態様に従う、図2に示されたデバイスに関する選び得る3つの断面を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明の一態様に従う、結合されたバルーン式受渡デバイスと共に、バルーンカテーテルを示す、模式的な部分縦断面図である。
【図4】図4は、本発明の一態様に従う、脈管構造内に該バルーン式受渡デバイスを配置するための、図3に示されたバルーンカテーテルの使用を例示する、模式的な部分断面図である。
【図5】図5は、本発明の一態様に従う、該バルーンカテーテルの脈管内への配置及び取出し後の、図3に示した該バルーン式受渡デバイスを例示する、模式的な部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前に示した如く、本発明の様々な局面は、少なくとも一つの生侵食性層(例えば、シート、チューブ等の形状にある)を持つ医療デバイスに係り、該生侵食性層は、少なくとも1種の生分解性ポリマーと少なくとも1種の治療薬とを含んでいる。このような層を、ここにおいては、「生侵食性ポリマー-含有層」と呼ぶ。
【0014】
本発明の該医療デバイスは、様々な哺乳動物の組織および器官の治療のために使用される、様々な移植可能なおよび挿入可能な医療デバイスを含む。ここで使用する用語「治療(処置)」とは、疾患または状態の予防、疾患または状態と関連した症状の軽減または排除、または疾患または状態の実質的なまたは完全な排除を意味する。対象は、脊椎動物の患者、より典型的にはヒト患者、ペットおよび家畜を包含する哺乳動物の患者である。
【0015】
本発明による利益を得る医療デバイスの例は、極めて多様であり、また移植可能なおよび挿入可能な医療デバイス、例えばステント(冠状動脈血管ステント、末梢血管ステント、脳、尿道、尿管、胆管、気管、胃腸管および食道ステントを含む)、ステント被覆、ステント移植片、血管移植片、腹部大動脈瘤(AAA)デバイス(例えば、AAAステント、AAA移植片)、脈管アクセス口、透析口、カテーテル(例えば、泌尿器用カテーテルまたは脈管カテーテル、例えばバルーンカテーテルおよび様々な中心静脈カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、遠位保護デバイス用のメッシュフィルタおよび大静脈フィルタ)、脳動脈瘤充填コイル(ガグリエルミ(Guglielmi)着脱式コイルおよび金属コイルを含む)を含む塞栓形成デバイス、隔壁欠陥閉塞デバイス、心筋プラグ、パッチ、ペースメーカー用リード、移植性電気除細動装置-除細動器用リード、脊髄刺激装置用リード、脳深部刺激装置用リード、末梢神経刺激用リード、蝸牛インプラント用リードおよび網膜インプラント用リードを包含する電気刺激リード、左心室補助心臓およびポンプを含む心室補助装置、全人工心臓、シャント、心臓弁および血管弁を含む弁、吻合術用クリップおよびリング、組織拡張デバイス、および軟骨、骨、皮膚およびその他のインビボ組織再生用の組織処理、操作用骨組、縫合糸、縫合糸アンカー、外科手術部位における結合クリップおよび組織ステープル、カニューレ、金属ワイヤ結サツ部、尿道スリング、ヘルニア「メッシュ」、人工靭帯、整形外科用補綴具、例えば骨移植片、骨プレート、フィンおよび融合デバイス、関節補綴具、整形外科用固定デバイス、例えば足関節部、膝、および手の領域における干渉ネジ、靭帯結合およびメニスカス修復用鋲、骨折部固定用ロッドおよびピン、頭蓋顎顔面修復用ネジおよびプレート、歯科インプラント、または身体内に移植または挿入され、そこから治療薬が放出されるその他のデバイスを包含する。
【0016】
幾つかの態様において、本発明の医療デバイスは、パッチおよび薬物-放出スリーブを含み、これらはステント等の構造部材と結合されていても、結合されていなくてもよい。
【0017】
本明細書において使用する、与えられた材料の「層」とは、該材料の領域であり、ここで該領域の厚みは、該領域の長さおよび幅(例えば、該領域の長さおよび幅は、その厚みよりも各々少なくとも5倍であり、しばしばそれ以上である)よりも実質的に小さい。層は、開放構造(例えば、シート、この場合該層の厚みは、該層の長さおよび幅よりも実質的に小さい)、部分的に閉じた構造(例えば、開放チューブ、この場合該層の厚みは該チューブの長さおよび径よりも実質的に小さい)、および完全に閉じた構造(例えば、球および閉じたチューブ、この場合該層の厚みは、該構造の長さおよび/または径よりも実質的に小さい)の形状であり得る。
【0018】
ここで使用するように、ポリマーは、結合開裂のメカニズム(例えば、酵素による分解、加水分解、酸化等)とは無関係に、インビボにおける該ポリマーの主鎖に沿って結合開裂を起こす場合には、「生分解性」である。医療デバイスの持つ、ポリマー-含有成分(例えば、ポリマー-含有層)の「生侵食性」または「生体吸収性」は、ここでは、ポリマーの生分解(並びに他のインビボ崩壊過程、例えば溶解等)の結果であると定義され、また該成分の元のポリマー塊の経時(例えば、該デバイスが、患者内に存続するように設計された期間)による、インビボでの実質的な喪失によって特徴付けられる。例えば、喪失量は、該デバイス成分の元のポリマー塊の50%から75%まで、90%まで、95%まで、97%まで、99%まで、あるいはそれ以上なる範囲であり得る。生体吸収時間は、高範囲に渡り変動でき、典型的な生体吸収時間は、数時間乃至約1年なる範囲に及ぶ。
【0019】
以下において更に詳しく論じられるように、様々な態様において、本発明に従う生侵食性ポリマー-含有層は、開放孔構造を持つ繊維質の骨組の形状であり得、該開放孔構造は、該繊維質の骨組内での細胞の三次元的な移動および増殖を促進助長する。
【0020】
図1は、本発明の一態様に従う医療デバイス100の模式的な斜視図である。該デバイス100は、生侵食性ポリマー-含有層、具体的にはシート110(例えば、薬物放出パッチ)の形状にある。以下においてより一層十分に論じるように、また図1A-1Cの端面図から理解されるように、幾つかの態様においては、接着層120を、該シート110の一表面上に形成することができ(図1A)、剥離層130を、該シート110の一表面上に形成することができ(図1B)、あるいは接着層120を、該シート110の一表面上に形成し、かつ剥離層130を、該シート110の反対側の表面上に形成する(図1C)ことができる。
【0021】
図2は、本発明のもう一つの態様に従う、医療デバイス100の模式的な斜視図であり、該医療デバイスは、生侵食性ポリマー-含有層、具体的にはチューブ110(例えば、脈管移植用のスリーブ)の形状にある。以下においてより一層十分に論じるように、また図2A-2Cの端面図から理解されるように、幾つかの態様においては、接着層120を、該チューブ110の外側表面上に形成することができ(図2A)、剥離層130を、該チューブ110の内側表面上に形成することができ(図2B)、あるいは接着層120を、該チューブ110の外側表面上に形成し、かつ剥離層130を、該チューブ110の内側表面上に形成する(図2C)ことができる。
【0022】
このようなデバイス100は、適当な受渡デバイスを用いて、身体に送込むことができる。例えば、図3を参照すると、そこには、バルーンカテーテル200の模式的な断面が図示されており、該カテーテルは、血管の管腔内に挿入するのに適したものである。該カテーテル200は、カテーテル本体210上に配置されたバルーン220を含む。図2Cに示したものと同様なデバイス100は、該バルーンの表面上に与えられる。従って、別々に図示されてはいないが、接着層が、該デバイスの外側表面上に与えられており、また剥離層が、該デバイスの内側表面上に与えられている。
【0023】
次に図4を参照すると、図3のカテーテル200は、血管の管腔3001内に挿入することができる。該バルーン220を膨らませた場合、該デバイス100は膨張して(例えば、該バルーンと共に拡げられて)、血管壁300wと接触する。以下においてより詳しく説明するように、この接触が起った際、該デバイス100の外側表面上にある該接着層は、該デバイス100と該血管壁300wとの間の接着性を高める。更に、該デバイス100の内側表面上にある該剥離層は、以下においてより詳しく説明するように、該バルーン220からの該デバイス100の剥離性を高める。該部位から該カテーテル200を分離する際に、該デバイス100は、図5に示すように、該血管壁300wに接着した状態を維持する。
【0024】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層は、典型的には、例えば1〜100質量%なる範囲の、1種またはそれ以上の生分解性ポリマー、より好ましくは25質量%乃至50質量%まで、75質量%まで、90質量%まで、95質量%まで、99質量%までまたはそれ以上の、1種またはそれ以上の生分解性ポリマーを含む。
【0025】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層は、その厚みにおいて、例えば100nm乃至1ミクロン(μm)まで、10μmまで、50μmまで、100μmまでまたはそれ以上なる範囲内で変えることができる。
【0026】
生侵食性ポリマー-含有層に例は、非-多孔性層および多孔性層(例えば、繊維質層)を含む。
【0027】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層を製造するのに使用できるポリマーは、合成並びに天然産の生分解性ポリマーを含む。合成生分解性ポリマーは、ポリ(l-ラクチド)、ポリ(d,l-ラクチド)、ポリ(ラクチド-co-グリコライド)、例えばポリ(l-ラクチド-co-グリコライド)およびポリ(d,l-ラクチド-co-グリコライド)を包含する、例えばラクチド、グリコライド、およびε-カプロラクトンのホモポリマーおよびコポリマーから選択されるポリエステル;トリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)を含むポリカーボネート;ポリホスファジン;ポリ無水物;およびポリオルトエステルを包含する。天然産の生分解性ポリマーは、例えばフィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲンおよびエラスチンから選択されるタンパク質;および例えばキトサン、ゼラチン、デンプンおよびグリコサミノグリカン、例えばコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、およびヒアルロン酸から選択されるポリサッカライドを含む。上記天然産および合成ポリマーのブレンドを使用することも可能である。
【0028】
様々な好ましい態様を、以下において説明するが、そこでは該生分解性ポリマーは、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸(これは、またヒアルロナンまたはヒアルロネートとも呼ばれる)および/またはヘパリンである。しかし、他のグリコサミノグリカンを包含する、他の生侵食性ポリマーを使用することも可能であることは明白である。
【0029】
ヒアルロン酸(HA)は、交互のβ-1,4-およびβ-1,3-グリコシド結合を介して一緒に結合した、D-グルクロン酸およびD-N-アセチルグルコサミンで構成される、ジサッカライドのポリマーである。ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織、および天然の組織全体に渡り広く分布している、硫酸化されていないグリコサミノグリカンである。これは細胞外マトリックスの主成分の一つであり、また内皮細胞の増殖および移動を含む、細胞増殖および移動に対して大きく寄与している。HAは、また幾つかの薬理学的諸特性をも有しており、該特性は、血小板の接着および凝集の阻害、および脈管形成の刺激を含む。HAは、生体活性薬剤の放出用途において首尾よく利用されている。これについては、Samir Ibrahima等による、「内皮細胞に及ぼす、ヒアルロナン(HA)のサイズ-特異的効果を評価するための、表面-束縛モデル(A surface-tethered model to assess size-specific effects of hyaluronan (HA) on endothelial cells)」と題する論文: Biomaterials, 28 (2007) 825835を参照のこと。HAの分子量は、広範囲に渡り、本発明においては、典型的には8x102またはそれ以下乃至8x106またはそれ以上、より典型的には、5x103〜8x106なる範囲内にある。
【0030】
幾つかの態様において、本発明の該生侵食性ポリマー-含有層におけるHAは、架橋されている。架橋は、該HAの溶解度を減じ、また該HA-含有層内に分散されたあらゆる治療薬の放出速度をも減じる恐れがある。従って、治療薬の放出速度は、該HA成分中の架橋度を調節することにより制御することができる。
【0031】
HAは、例えば水溶性カルボジイミドを用いて架橋することができる。これについては、A. Sannino等, Polymer, 46(25), 2005, 11206-11212を参照のこと。HAは、またグルタルアルデヒド、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)またはジビニルスルホン(DVS)を、架橋剤として使用して架橋されている。これについては、M.N. Collins等, Journal of Applied Polymer Science, 104(5), 2007, 3183-3191を参照のこと。更には、Y. Ji等, Biomaterials, 27 (2006) 3782-3792を参照することもでき、この文献は、3,3'-ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)-変性HAの、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートによる架橋を開示している。
【0032】
幾つかの態様においては、天然産の生分解性架橋剤を使用している。このような架橋剤の一例は、ゲニピン(genipin)である。ゲニピンは、ゲニポシド(geniposide)の加水分解生成物の一つであり、ゲニポシドは、クチナシ(Gardenia jasminoides Ellis)の果実中に存在することが分かっている。これは、低い細胞毒性を持つ天然産の生分解性分子であるから、最近、ゲニピンは、様々な用途における架橋剤として検討されている。
【0033】
ゲニピンは、また抗炎症作用を与えることができ、また恐らく抗血栓作用をも与える可能性がある。これについては、Hye-Jin Koo等の「ガルデニア抽出物、ゲニポシドおよびゲニピンの抗炎症性の評価(Anti-inflammatory evaluation of gardenia extract, geniposide and genipin)」と題する論文:Journal of Ethnopharmacology, 103(3), 2006, 496-500;Y. Suzuki等の「マウス血栓症モデルにおけるゲニポシドおよびゲニピンの抗-血栓効果(Antithrombotic effect of geniposide and genipin in the mouse thrombosis model)」と題する論文:Planta medica, 67(9), 2001, 807-810を参照のこと。上記の如く、HAは、また治療効果をも持つことができ(Samir Ibrahima 等の上記文献を参照のこと)、これは、ゲニピンと共に、疾患に冒された血管を含む組織の相乗的な治療に対して寄与し得る。
【0034】
HAと同様に、ヘパリンは、繰返し糖単位を持つ伸張されたポリマーである。これは、抗-凝血薬として広く利用されている。HAおよびヘパリンの化学的な構造は類似しているので、架橋による変性に及ぼすヘパリンの効果は、HAの場合と類似しているであろう。幾つかの態様において、ヘパリンは、上記生侵食性ポリマー-含有層における唯一の生分解性ポリマーであり得る。幾つかの態様においては、抗-凝血特性を与える目的で供される、より少量のヘパリンと共に、HAを主な生分解性ポリマーとして使用することができる。例えば、幾つかの態様において、該ポリマー層の該生分解性ポリマー含有率に関しては、1〜100質量%なる範囲のHAおよび1〜100質量%なる範囲のヘパリンを、生侵食性ポリマーとして含むことができる。所望ならば、例えばHAに関して上記した如き薬剤を用いて、ヘパリンを架橋することができる。
【0035】
上述の如く、生侵食性ポリマー-含有層の例は、非-多孔質層(例えば、ヒドロゲル層)および多孔質層(例えば、繊維質層)を含む。非-多孔質層は、浸漬塗布、噴霧塗布、アプリケータ(例えば、ローラー、ブラシ等)を用いた塗布等の技術を利用して設けることができる。
【0036】
繊維質層は、例えば繊維紡糸技術を利用して製造することができる。例えば、エレクトロスピニングは、繊維紡糸技術の一つであり、この技術によれば、ポリマーの懸垂滴(例えば、適当な溶媒中のポリマー)が、数万ボルトの電圧で帯電される。特性電圧において、該液滴は、テイラー(Taylor)コーンを生成し、また印加された電場と該ジェットの持つ電荷との相互作用により発生する引張力に応答して、該液滴表面から、ポリマーの微細なジェットが放出される。これにより、材料のフィラメントが生成される。このジェットを、バルーン受渡システム等の接地された表面に導き、また例えば50nm乃至100nmまで、250nmまで、500nmまで、1μmまで、2.5μmまで、5μmまで、10μmまで、20μmまでなる範囲のサイズを持つ繊維を与えるように調節することのできる、繊維の連続ウエブとして回収することができる。良好な被覆性を保証するために、該バルーン受渡システムを、回転させ、また該ジェットに対して往復動させることができる。出発物質の様々な濃度に対応する複数のディスペンサーを利用して、ナノ繊維ネットワークの特定の領域に、選択された材料のより高濃度領域を生成することができる。エレクトロスピニングに関する更なる情報は、例えばGreenhalgh等のUS 2005/0187605において見出すことができる。また、Y. Ji等による「エレクトロスパン、3次元ヒアルロン酸製骨組(Electrospun three-dimensional hyaluronic acid nanofibrous scaffolds)」と題する論文:Biomaterials, 27 (2006) 3782-3792をも参照のこと。
【0037】
エレクトロスパン繊維層を含む多孔質層の使用は、利用可能なその表面積を増大し、またその結果として、任意の治療薬の放出性を高め、更に非-多孔質層と比較して、生分解速度を高める。その上、このような層は、細胞の播種、成長および/または増殖用の骨組を生成するように機能し得る。例えば、脈管デバイスの場合、このような層は、インビボにおける、内皮細胞の播種成長および/または増殖用の骨組として機能し得る。
【0038】
種々の態様においては、溶液中に、例えば1種またはそれ以上の生分解性ポリマーと共に、架橋剤を含めることができ、該溶液は、生侵食性ポリマー-含有層を製造するのに使用される(ここで、適当な架橋剤は、層の生成を隠蔽しないように、さほど迅速に作用しないように選択されるものとする)。別法として、架橋剤および生分解性ポリマーを、(例えば、別々の容器から)表面に同時に堆積させて、生侵食性ポリマー-含有層を形成することができる。更に別の方法として、生分解性ポリマー層を形成した後に、該ポリマー層に、架橋剤を適用することも可能である。
【0039】
様々な態様においては、溶液に、1種またはそれ以上の治療薬を、例えば1種またはそれ以上の生分解性ポリマーと共に含めることもでき、ここで該溶液は、生侵食性ポリマー-含有層を形成するのに使用することができる。別法として、生分解性ポリマーおよび1種またはそれ以上の治療薬を、(例えば、別々の容器から)同時に堆積させて、生侵食性ポリマー-含有層を形成することも可能である。更に別の方法として、該生侵食性ポリマー-含有層を形成した後に、1種またはそれ以上の治療薬を、(例えば、溶液として)該ポリマー-含有層に適用することができる。
【0040】
広範囲に及ぶ治療薬が、本発明のデバイスにおいて使用できる。多数の治療薬を、以下において説明する:
【0041】
様々な態様において、該生侵食性ポリマー-含有層は、冠状動脈疾患の治療またはステント内再狭窄の治療のために、該脈管構造内に受け渡される、管状スリーブの形状にある。例えば、本発明は、受渡のためにバルーンを基本とするシステムを使用することができる。
【0042】
幾つかの態様において、本発明による管状スリーブは、新たな病巣部位に、治療薬を放出するために使用することができる。他の態様では、本発明による管状スリーブは、以前に配置されたステントを含む部位に、治療薬を放出するために使用することができる。更に別の態様において、ステントを、1種またはそれ以上の本発明による管状スリーブと共に同時に施すことができる(例えば、該スリーブは、該ステントの内腔外表面、該ステントの内腔表面、またはこれら両者に配置できる)。
【0043】
これらの態様で使用される治療薬の例は、特にプラーク形成防止剤、内皮層の形成を促進する薬剤、および(例えば、血管の損傷による再狭窄の形成を防止するための、既存のステント内再狭窄を処理するための)再狭窄形成防止剤を含む。再狭窄形成防止剤の例は、特にタキサン(taxanes)、例えばエストラジオール、ゲニステイン、パクリタクセル、およびオリマス(olimus)群の薬物を含む。内皮層の形成を促進する薬剤の例は、他にも多くの例が存在する中でも特に、内皮前駆細胞(EPC)および成長因子、例えばVEGFを含む。プラーク形成防止剤の例は、他にも多くの例が存在する中でも特に、脂質-低下薬物、例えばスタチン、ACE阻害剤、β-ブロッカー、酸化防止剤、マクロライド抗生物質および抗-炎症薬を包含し、MMPの阻害剤を含む。付随的な治療薬を、以下に説明する。
【0044】
特別な一例において、本発明による管状スリーブは、標準的な血管形成術用のバルーン上に配置される(例えば、該バルーン上に直接形成され、あるいは成形され、次いで該バルーン上に配置される)。このような管状スリーブは、ステント-様の構成を呈し、これは、十分に膨張されかつ対合状態とされた後に、受渡デバイスから病巣部位において解放される。このスリーブは、典型的に生物学的に活性な薬剤(例えば、パクリタクセル、オリマス群の薬物等)の制御放出を容易にし、また幾つかの態様においては、血管の疾患に冒された部分に選択的に接着し、例えば該活性薬剤の取込みを容易にする。
【0045】
高圧膨張バルーン上に設けられた、繊維質管状骨組を組込むシステムにおいて、該バルーンを配置する行為は、該繊維質材料を該プラーク病巣物質中に埋設し、該活性薬剤を溶出するために、該繊維の表面を該病巣に対して露出させることであり得る。該繊維が、該病巣内に埋設されるという事実は、病巣選択的接着法に対する必要性を軽減または排除することを可能とする。
【0046】
それにも拘らず、本発明の幾つかの局面では、様々な方策を利用して、本発明によるデバイス(例えば、管状スリーブまたはパッチ)の、身体の内腔、管腔の壁への接着を容易にする。多くの態様において、血管への接着、および幾つかの例においては、血管(例えば、冠状動脈等)内のプラーク病変に対する接着を容易にする方策を利用する。
【0047】
例えば、幾つかの態様において、1種またはそれ以上の接着性物質を、生侵食性ポリマー-含有層に、(例えば、層状に均等に分散させるか、またはより好ましくは該層の組織と接触する表面において高濃度を持つように)与えることができる。幾つかの態様において、1種またはそれ以上の接着性物質を、該生侵食性ポリマー-含有層上に設けられる接着層として与えることができる(該接着層は、該生侵食性ポリマー-含有層にある程度まで侵入することができる)。例えば、接着性物質の純粋な層または接着性物質と適当な補助薬剤とを含む層を、本発明に従う生侵食性ポリマー-含有層の組織と接触する表面上に適用することができる。接着性物質の数種の例を、以下の章において論じる。
【0048】
プラーク病巣は疎水性であることが知られているので、疎水性薬物(例えば、とりわけ、パクリタクセル)を、生侵食性ポリマー-含有層上に、またはその内部に与えて、これが病巣と接触した際の、該病巣への接着性および/または該病巣による取込み性を高める。
【0049】
他の態様においては、極性分子を、接着性物質として使用することができる。このような極性分子の例は、ポリ(アミノ酸)を含む。例えば、幾つかの態様において、両親媒性のポリ(アミノ酸)を接着性物質として使用する。該両親媒性のポリ(アミノ酸)は、該病巣との相互作用を促進するために、疎水性のポリ(アミノ酸)尾部(例えば、その長さにおいて2〜400個またはそれ以上のアミノ酸を含む)を持つことができる。疎水性アミノ酸の例は、特にフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびバリンを含む。該両親媒性のポリ(アミノ酸)は、該生分解性のポリマーとの相互作用を促進するために、親水性ポリ(アミノ酸)ヘッド(例えば、その長さにおいて2〜400個またはそれ以上のアミノ酸を含む)を持つことができる(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。親水性アミノ酸の例は、塩基性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン等)、酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、および中性アミノ酸(例えば、システイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、グリシン)を含む。
【0050】
幾つかの態様において、該親水性ポリ(アミノ酸)ヘッドは、該生分解性ポリマーとのイオン-双極子結合の生成を促進するために、両性イオン性である(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。このようなポリマーヘッドは、酸性(アニオン性)および塩基性(カチオン性)アミノ酸の混合物を含み、またその長さは、例えば2〜400個またはそれ以上のアミノ酸なる範囲であり得る。
【0051】
他の態様においては、YIGSRまたはRGD等の細胞-結合性ペプチドを含むポリ(アミノ酸)を、接着性物質として使用する。所望ならば、このような配列を繰り返すことができる。該ポリ(アミノ酸)は、更に生侵食性ポリマーとの相互作用を促進するために、親水性ポリ(アミノ酸)鎖(典型的には、2〜400個またはそれ以上のアミノ酸なる範囲の長さ)を含むことができる(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。
【0052】
他の態様においては、アミノ酸3.4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)または多数のDOPA単位を含む、ポリ(アミノ酸)鎖を、接着性物質として使用する。このような鎖は、更にDOPA単位と共にリジン単位をも含むことができる。これについては、Statz等, J. Am. Chem. Soc., 127, 2005, 7972-7973を参照することができ、そこでは、公知のイガイ由来の接着性タンパク質のDOPA-およびLys-に富む配列を模倣するように、5-マー型アンカーペプチド(DOPA-Lys-DOPA-Lys-DOPA)が選択されている。
【0053】
更に別の態様においては、MSCRAMMs(接着性マトリックス分子を認識する、微生物の表面成分)を、接着性物質として使用している。MSCRAMMsの例は、特にフィブロネクチン結合タンパク質(例えば、FnBPA、FnBPB等)、およびフィブリノーゲン結合タンパク質(例えば、ClfA、ClfB等)を含む。これについては、例えばTimothy J. Fosterの、ホスト組織に対するバクテリアの接着:メカニズムおよび結果(Bacterial Adhesion to Host Tissues: Mechanisms and Consequences), Michael Wilson編, 2002, pp.3-11の、「第1章、スタフィロコッカス属細菌の、表面タンパク質接着因子(Chapter 1, Surface protein adhesins of staphylococci)」と題する文献を参照のこと。
【0054】
本発明の幾つかの局面において、受渡用媒介物(例えば、バルーンカテーテルのバルーン)からの、本発明によるデバイス(例えば、スリーブ、パッチ等)の受渡を容易にするために、様々な方策が利用される。
【0055】
バルーン材料の例は、比較的身体的苦痛の原因とならない材料、例えばポリアミドホモポリマーおよびコポリマー等のポリアミド、およびポリアミド等のマトリックスポリマー材料が、繊維ネットワークと結合している複合材料(例えば、デュポン(Dupont)社により製造されているケブラー(KevlarTM)、即ちアラミド繊維、またはオランダ国のDSMゲレーン(Geleen)社により製造されているダイニーマ(DyneemaTM)、即ち超-強力ポリエチレン繊維)を含む。ポリアミドの具体的な例は、ナイロン、例えばナイロン6、ナイロン4/6、ナイロン6/6、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン11およびナイロン12;およびポリ(エーテル-co-アミド)コポリマー、例えばポリエーテル-ポリアミドブロックコポリマー、例えばエルフアトケム(Elf Atochem)社からペバックス(PEBAX)として入手できるポリ(テトラメチレンオキシド-b-ポリアミド-12)ブロックコポリマーを含む。バルーン材料の例は、また幾分身体的苦痛の原因となる材料、例えばシリコーン、ポリウレタンまたは高い割合でポリエーテルを含む、順応性グレードのペバックス、例えばペバックス(PEBAX) 63Dをも含む。
【0056】
例えば、幾つかの態様において、本発明によるデバイスは、結合能を崩壊し得る物質(ここでは「剥離性物質」と呼ぶ)を用いて、受渡媒介物に結合される。
【0057】
例えば、幾つかの態様においては、1種またはそれ以上の剥離性物質を、該生侵食性ポリマー-含有層に与えることができる(例えば、該層内に、またはより好ましくは該層の受渡媒介物との接触面において均等に分散される)。幾つかの態様においては、1種またはそれ以上の剥離性物質を、該受渡媒介物表面と該生侵食性ポリマー-含有層の表面との間に設けられる、剥離層内に供給することができる(該剥離層は、該生侵食性ポリマー-含有層に、ある程度まで入り込んでいてもよい)。
剥離性物質の一例は、以下の式で表される両性イオン性ホスホリルコリンであり:
【0058】
【化1】
【0059】
ここで、該化合物は、また医療デバイスの分野においては、抗-血栓性物質として作用することも明らかにされており、更に薬物放出ステントに対して、この目的のために利用されている。ホスホリルコリンは、生侵食性ポリマー、例えばHAおよび極性バルーン材料、例えばペバックス(PEBAX)を包含する、様々な極性物質と、イオン-双極子結合を形成し得る。このように、ホスホリルコリンは、該スリーブの生侵食性ポリマー部分と、該バルーン材料とを結合するように作用し得る。所望の場合には、湿潤剤(例えば、塩水または水)を使用して、該スリーブを該バルーンに維持している上記のイオン-双極子相互作用を崩壊させることが可能である。
【0060】
幾つかの態様において、該湿潤剤は、上記受渡媒介物によって供給される。例えば、膨張性微孔質または滲出性バルーンを使用して、該血管の部位を拡張させ、かつ上記両性イオン性ホスホリルコリンと相互作用する湿潤剤を受渡すことができる。もう一つの例として、塩水を装填した微小球を、該生侵食性ポリマー-含有層と該バルーンとの間に供給することができ、該微小球は、該バルーンが膨張された際に、破裂しまたその内容物を放出する。
ホスホリルコリンの誘導体を使用することも可能である。例えば、非-極性尾部を持つ両親媒性のホスホリルコリン誘導体、例えば以下の式で表されるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC):
【0061】
【化2】
【0062】
(ここで、nは14である)または以下の式で表される1-O-オクタデシル-2-O-メチル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン:
【0063】
【化3】
【0064】
を本発明によるデバイスと疎水性バルーン材料とを結合するために使用することができる。これらの態様において、該極性ホスホリルコリンヘッド部分は、極性生侵食性ポリマー、例えばHAのイオン-双極子結合を形成するのに利用され、一方でこれら分子の該疎水性アルキル部分は、隣接する非-極性のバルーン材料、例えばナイロンまたはポリウレタンと相互作用するために利用され、結果として該スリーブの該生侵食性ポリマー部分が該バルーン材料と結合される。望むならば、湿潤剤(例えば、塩水または水)を使用して、該ホスホリルコリン誘導体の該両性イオン性部分と該スリーブの該親水性生侵食性ポリマー部分との間の上記イオン-双極子相互作用を破壊することができる。
【0065】
同様に、両性イオン性ペプチドを含む他の両性イオン性材料を、剥離性物質として使用することができる。例えば、塩基性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、オルニチン等)および酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)両者を含むペプチドは、様々な極性物質(例えば、親水性生侵食性ポリマーまたは親水性バルーン材料)とイオン性のイオン-双極子結合を与えるために、両性イオン性特性を持つであろう。非-極性アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン等)の鎖は、両性イオン性の鎖と結合して、様々な非-極性物質(例えば、疎水性バルーン材料)との疎水性相互作用を与えることができる。
【0066】
剪断-感受性接着剤は、バルーン受渡媒介物と本発明によるデバイスとの間に使用できる、剥離性物質のもう一つの群を構成する。これら接着剤の基本的な原理は、該膨張中のバルーンと該接着剤との間に生成される剪断力が、これらの間の結合を破壊し、かつ剥離を容易にすることにある。このような接着剤の一例は、ポリビニルピロリドン(PVP)とポリエチレングリコール(PEG)とのブレンドであり、該ブレンドは、該デバイスが、該受渡部位における所定位置を占めるまで、該バルーンを、該生侵食性ポリマー含有層に接着する、生体適合性の層を与えるであろう。バルーンの膨張を、該接着剤の結合を破壊するのに利用でき、またその結果として、該生侵食性ポリマー-含有層を、該バルーンから剥離することができる。このようなブレンドにおけるPVP対PEGの質量基準での比は、広範囲に渡り変えることができ、例えば1:99乃至10:90まで、25:75まで、50:50まで、75:25まで、90:10まで、95:5まで、99:1までの範囲内にある。
【0067】
該受渡デバイスがバルーンである場合、該デバイスは、折畳まれた状態で該バルーンに適用され、デバイスの受渡しのために破壊される必要のある、該デバイスと該バルーンとの間の相互作用を最小化し、結果として剥離性を改善することを可能とする。
【0068】
幾つかの態様において、本発明のデバイスは、製造された後に、受渡デバイスに適用される。例えば、内側剥離層、薬物-放出性生侵食性繊維層、および外側接着剤層を含む薬物放出スリーブを製造した後、バルーンに適用する。ここで、該バルーンは、幾つかの態様においては、折畳まれていてもよい。場合により、(a) 該スリーブの適用前に(内腔外繊維層が、該ステントにとって望ましい場合)、または(b) 該繊維層を適用した後(内腔繊維層が、該ステントにとって望ましい場合)に、ステントを供給することができる。もう一つの例として、内側剥離層、第一の薬物-放出性生侵食性繊維層、ステント、第二の薬物-放出性生侵食性繊維層、および外側接着性層を含む薬物-放出性受渡スリーブを製造し、次いでバルーンに適用することができ、ここで該バルーンは、幾つかの態様においては、折畳まれた状態にあってもよい。様々な薬物を該繊維層に供給することができ、例えば内皮細胞成長促進剤を、該内側/内腔繊維層に供給し、かつ再狭窄抑制剤を、外側/内腔外繊維層に供給することができる。
【0069】
他の態様において、本発明によるデバイスは、該受渡デバイスの表面上に形成することができる。具体的な一例(他にも多くの可能性がある中で)として、剥離層を、先ず膨張性バルーンの表面に適用することができる。繊維性生侵食性ポリマー-含有層および治療薬を、次に該剥離層上に形成する。次の工程においては、接着剤層を、該繊維性生侵食性ポリマー-含有層上に設ける。より具体的な一例として、先ず、とりわけナイロン、ポリウレタンまたはペバックス(PEBAX)等の材料から形成された膨張性バルーンの表面に、剥離層を適用することができる。該剥離層は、他にも可能性があるが、(a) 剪断-感受性接着剤または(b) 両性イオン性剥離性物質、例えば塩水充填マイクロカプセル(微孔質または滲出性バルーンを使用しない場合;この場合、該塩水充填マイクロカプセルの使用は、排除される)を含むことができる。次いで、繊維質層、例えばHAと治療薬としてのパクリタクセルを含む繊維質層が、例えばエレクトロスピニング工程を利用して、該剥離層上に形成される。次に、該繊維質層内のHAを、該層にゲニピンを適用することにより架橋することができる。次工程において、DOPA(他にも可能性があるが)を、接着性物質として、該外側繊維層に適用する。
【0070】
場合により、(a) 該繊維質層の適用前(内腔外繊維質層が望ましい場合);(b) 該繊維質層の適用後(内腔繊維質層が望ましい場合)または(c) 一繊維質層の適用、これに引続くもう一層の繊維質層の適用後(内腔および内腔外繊維質層を持つ、繊維-カプセル化ステント構造が望ましい場合)に、ステントを設けることができる。
【0071】
「治療薬」、「製薬的に活性な薬剤」、「製薬的に活性な物質」、「薬物」、「生物学的に活性な薬剤」、およびこれらに関連する用語は、本明細書においては互換的に使用されており、遺伝学的治療薬、非-遺伝学的治療薬、および細胞学的薬物を包含する。広範囲に渡る治療薬を、本発明との関連で使用することができ、これらは、広範囲に渡る疾患および状態の治療のために使用されているものを含む。
【0072】
本発明に従って使用する典型的な治療薬は以下に列挙するものを含む:(a) 抗-血栓症薬、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレル、およびPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン);(b) 抗炎症薬、例えばデキサメタゾン、プレドニソロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、およびメサラミン;(c) 抗-新生物薬/増殖抑制薬/細胞分裂阻止薬、例えばパクリタクセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン(epothilones)、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞の増殖を遮断することのできるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤;(d) 麻酔薬、例えばリドカイン、ブピバカインおよびロピバカイン;(e) 抗-凝血薬、例えばD-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、RGDペプチド-含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗-トロンビン化合物、血小板レセプタアンタゴニスト、抗-トロンビン抗体、抗-血小板レセプタ抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤およびマダニ抗-血小板ペプチド;(f) 脈管細胞成長促進剤、例えば成長因子、転写活性化剤、および翻訳促進剤;(g) 脈管細胞成長阻害剤、例えば成長因子阻害剤、成長因子レセプタアンタゴニスト、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、抑制抗体、成長因子に対する抗体、成長因子と細胞毒素とからなる二官能性分子および抗体と細胞毒素とからなる二官能性分子;(h) プロテインキナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i) プロスタサイクリン類似体;(j) コレステロール-低下薬;(k) アンギオポエチン;(l) 抗-微生物薬、例えばトリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシドおよびニトロフラントイン;(m) 細胞毒性薬剤、細胞成長抑止薬および細胞増殖アフェクター;(n) 血管拡張薬;(o) 内因性血管作用メカニズムを妨害する薬剤;(p) 白血球漸増の阻害剤、例えばモノクローナル抗体;(q) サイトカイン;(r) ホルモン;(s) ゲルダナマイシンを含む、HSP 90タンパク質の阻害剤(即ち、熱ショックタンパク質、これは分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、また細胞の成長および生存に係る役割を担う、他のクライアント(client)タンパク質/シグナル伝達タンパク質の安定性および機能にとって必要とされるものである);(t) 平滑筋弛緩剤、例えばα-レセプタアンタゴニスト(例えば、デクサゾシン(doxazosin)、タムスロシン(tamsulosin)、テラゾシン、プラゾシン、およびアルフゾシン), カルシウムチャンネルブロッカー(例えば、ベラピミル(verapimil)、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピン、およびベプリジル)、β-レセプタアゴニスト(例えば、ドブタミン、およびサルメテロール)、β-レセプタアンタゴニスト(例えば、アテノロール、メタプロロール(metaprolol)およびブトキサミン)、アンギオテンシン-IIレセプタアンタゴニスト(例えば、ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン(eprosartan)およびテルミサルタン)、および鎮痙性/抗-コリン作用性薬物(例えば、オキシブチニンクロリド、フラボキサート、トルテロジン、ヒヨスチアミンサルフェート、ジクロミン(diclomine));(u) bARKct阻害剤;(v) ホスホランバン阻害剤;ホスホランバン阻害剤;(w) SERCA 2遺伝子/タンパク質;(x) アミノキゾリン(aminoquizolines)を含有する免疫応答改良剤、例えばレシキモド(resiquimod)およびイミキモド等のイミダゾキノリン;(y) ヒトアポリポプロテイン(例えば、AI、AII、AIII、AIVおよびAV等);(z) 選択的エストロゲンレセプタモジュレータ(SERMs)、例えばラロキシフェン、ラソフォキシフェン(lasofoxifene)、アルゾキシフェン(arzoxifene)、ミプロキシフェン(miproxifene)、オスペミフェン(ospemifene)、PKS 3741、MF 101およびSR 16234;(aa) PPAR アゴニスト、これはPPAR-α、-γおよび-δアゴニスト、例えばロシグリタゾン(rosiglitazone)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、ネトグリタゾン(netoglitazone)、フェノフィブラート、ベクサオテン(bexaotene)、メタグリダゼン(metaglidasen)、リボグリダゼン(rivoglitazone)およびテサグルタザール(tesaglitazar)を含む;(bb) プロスタグランジンEアゴニスト、これはPGE2アゴニスト、例えばアルプロスタジルまたはオノ(ONO)8815Lyを含む;(cc) トロンビンレセプタ活性化ペプチド(TRAP);(dd) ベナゼプリル、ホシノプリル、リジノプリル、キナプリル、ラミプリル、イミダプリル、デラプリル、モエキシプリルおよびスピラプリルを包含するバソペプチダーザ阻害剤;(ee) チモシンβ4;(ff) ホスホリルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルコリンを含むリン脂質;および(gg) VLA-4アンタゴニストおよびVCAM-1アンタゴニスト。
【0073】
具体的な治療薬は、とりわけ、タキサン(taxanes)、例えばパクリタクセル(例えば、タンパク質-結合パクリタクセル粒子、例えばアブラキサン(ABRAXANE)等のアルブミン-結合パクリタクセルナノ粒子を包含する、粒子形状にあるパクリタクセルを含む)、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ビオリムス(biolimus)、ゾタロリムス(zotarolimus)、Epo D、デキサメタゾン、エストラジオール、ハロフギノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、アラゲブリウム(alagebrium)クロリド(ALT-711)、ABT-578[アボットラボラトリーズ(Abbott Laboratories)社製]、トラピジル、リプロスチン(liprostin)、アクチノマイシンD、レステン(Resten)-NG、Ap-17、アブシキシマブ(abciximab)、クロピドグレル、リドグレル、β-ブロッカー、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、SERCA 2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI-AV)、成長因子(例えば、VEGF-2)、並びにこれらの誘導体を含む。
【0074】
必ずしも上で列挙したものに制限されることのない、多くの治療薬が、脈管治療養生のための候補として、例えば再狭窄をターゲットとする薬剤(抗-再狭窄剤)として同定されている。このような薬剤は、本発明の実施にとって有用であり、また以下に列挙するものの1種またはそれ以上を含む:(a) Ca-チャンネルブロッカー、これは例えばジルチアゼムおよびクレンチアゼム等のベンゾチアザピン、ニフェジピン、アムロジピンおよびニカルダピン(nicardapine)等のジヒドロピリジン、およびベラパミル等のフェニルアルキルアミン;(b) セロトニン経路調節剤、これはケタンセリンおよびナフチドロフリル等の5-HTアンタゴニスト、並びに5-HT取込み阻害剤、例えばフルオキセチンを含む;(c) 環状ヌクレオチド経路作用薬、これはシロスタゾールおよびジピリダモール等のホスホジエステラーゼ、アデニレート/グアニレートシクラーゼ刺激剤、例えばフォルスコリン、並びにアデノシン類似体を含む;(d) カテコールアミン調節剤、これはα-アンタゴニスト、例えばプラゾシンおよびブナゾシン、β-アンタゴニスト、例えばプロプラノロールおよびα/β-アンタゴニスト、例えばラベタロールおよびカルベジロールを含む;(e) エンドセリンレセプタアンタゴニスト、例えばボセンタン、ナトリウムシタクスセンタン(sitaxsentan)、アトラセンタン(atrasentan)、エンドネンタン(endonentan);(f) 一酸化窒素ドナー/放出性分子、これは有機ニトレート/ニトリット、例えばニトログリセリン、イソソルビドジニトレートおよびアミルニトリット、無機ニトロソ化合物、例えばナトリウムニトロ-プルシド、シドノニミン(sydnonimines)、例えばモルシドミンおよびリンシドミン、ノノエート、例えばジアゼニウムジオレートおよびアルカンジアミンのNO付加物、S-ニトロソ化合物[これは、低分子量化合物(例えば、カプトプリル、グルタチオンおよびN-アセチルペニシラミンのS-ニトロソ誘導体を含む)、および高分子量化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、オリゴサッカライド、ポリサッカライド、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS-ニトロソ誘導体)を含む]、並びにC-ニトロソ化合物、O-ニトロソ化合物、N-ニトロソ化合物およびL-アルギニンを含む;(g) アンギオテンシン転化酵素(ACE)阻害剤、例えばシラザプリル、ホシノプリルおよびエナラプリル;(h) ATII-レセプタアンタゴニスト、例えばサララシンおよびロサルチン(losartin);(i) 血小板接着阻害剤、例えばアルブミンおよびポリエチレンオキサイド;(j) 血小板凝集阻害剤[これはシロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)を含む]およびGP IIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマブ(abciximab)、エピチフィバチド(epitifibatide)およびチロフィバン(tirofiban);(k) 凝集経路調節剤[これはヘパリノイド、例えばヘパリン、低分子量ヘパリン、デキストランサルフェートおよびβ-シクロデキストリンテトラデカサルフェートを含む]、トロンビン阻害剤、例えばヒルジン、ヒルログ(hirulog)、PPACK(D-phe-L-プロピル-L-arg-クロロメチルケトン)およびアルガトロバン、FXa阻害剤、例えばアンチスタチン(antistatin)およびTAP(マダニ抗-凝血性ペプチド)、ビタミンK阻害剤、例えばワーファリン、並びに活性化タンパク質C;(l) シクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン;(m) 天然および合成コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、プレドニソロン、メタプレドニソロン(methprednisolone)およびヒドロコルチゾン;(n) リポキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばノルジヒドログアイアレチン酸およびカフェイン酸;(o) ロイコトリエンレセプタアンタゴニスト;(p) E-およびP-セレクチンのアンタゴニスト;(q) VCAM-1とICAM-1との相互作用阻害剤;(r) プロスタグランジンおよびその類似体、これはプロスタグランジン、例えばPGE1およびPGI2およびプロスタサイクリン類似体、例えばシプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロストおよびベラプロストを含む;(s) ビスホスホネートを包含するマクロファージ活性化抑制剤;(t) HMG-CoAリダクターゼ阻害剤、例えばロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン(cerivastatin);(u) 魚油およびω-3-脂肪酸;(v) 遊離基掃去剤/酸化防止剤、例えばプロブコール、ビタミンCおよびE、エブセレン、trans-レチノイン酸、SOD(オルゴテイン)およびSOD模擬物質、ベルテポルフィン、ロスタポルフィン(rostaporfin)、AGI 1067およびM 40419;(w) 様々な成長因子に影響を与える薬剤、これはFGF経路作用薬、例えばbFGF抗体およびキメラ融合タンパク質、PDGFレセプタアンタゴニスト、例えばトラピジル、ソマトスタチン類似体、例えばアンギオペプチン(angiopeptin)およびオクレオチド(ocreotide)を包含するIGF経路作用薬、TGF-β経路作用薬、例えばポリアニオン性薬剤(ヘパリン、フコイジン(fucoidin))、デコリン、およびTGF-β抗体、EGF経路作用薬、例えばEGF抗体、レセプタアンタゴニストおよびキメラ融合タンパク質、TNF-α経路作用薬、例えばサリドマイドおよびその類似体、トロンボキサンA2(TXA2)経路調節剤、例えばスロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベン(dazoxiben)およびリドグレル(ridogrel)、並びにプロテインチロシンキナーゼ阻害剤、例えばチルホスチン、ゲニステインおよびキノキサリン誘導体を含む;(x) マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)経路阻害剤、例えばマリマスタット(marimastat)、イロマスタット(ilomastat)、メタスタット(metastat)、バチマスタット(batimastat)、ペントサンポリサルフェート、レビマスタット(rebimastat)、インシクリニド(incyclinide)、アパラタスタット(apratastat)、PG 116800、RO 1130830またはABT 518;(y) 細胞運動性阻害剤、例えばサイトカラシンB;(z) 抗-増殖/抗-新生物形成薬、これは代謝拮抗物質、例えばプリンアンタゴニスト/類似体(例えば、6-メルカプトプリンおよび6-メルカプトプリンのプロ―ドラッグ、例えばアザチオプリンまたはクラドリビン(cladribine)、これは塩素化プリンヌクレオシド類似体である)、ピリミジン類似体(例えば、シタラビンおよび5-フルオロウラシル)およびメトトレキサート、ナイトロジェンマスタード(クロルメチン)、アルキルスルホネート、エチレンイミン、抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソウレア、シスプラチン、微小管の運動に影響を与える薬剤(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、エポ(Epo)D、パクリタクセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、脈管形成阻害剤(例えば、エンドスタチン、アンギオスタチンおよびスクアラミン)、オリムス群に属する薬剤、(例えば、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ビオリムス、ゾタロリムス等)、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミンを含む;(aa) マトリックス堆積/組織化経路阻害剤、例えばハロフギノンまたは他のキナゾリノン誘導体、ピルフェニドンおよびトラニラスト;(bb) 内皮形成促進剤、例えばVEGFおよびRGDペプチド;(cc) 血液レオロジー調節剤、例えばペントキシフィリン;および(dd) グルコース架橋破壊剤、例えばアラゲブリウム(alagebrium)クロリド(ALT-711)。
【0075】
同様に、本発明の実施にとって有用な、多数の追加的な治療薬が、Kunzに付与された米国特許第5,733,925号に記載されている。該米国特許の開示全体を参考としてここに組入れる。
【実施例】
【0076】
受渡媒介物(例えば、折畳まれたペバックス(PEBAX)受渡バルーン)上に、スリーブ放出剤としてのホスホリルコリン(PC)の第一層を、第一溶媒、例えばTHF(テトラヒドロフラン)またはジエチルエーテル中に該PCを溶解した溶液を該受渡媒介物に噴霧し、または該溶液中に該受渡媒介物を浸漬することにより、厚み1μmまで形成する。該第一の溶媒を十分に乾燥除去した後、薬物を担持するヒアルロン酸層(HA/薬物層)を、該PCで被覆した受渡媒介物上に、0.5〜5μmなる範囲の厚みとなるまで、第二の溶媒、例えばTHF またはDMF(ジメチルホルムアミド)中にHAおよびパクリタクセル等の治療薬を溶解した溶液を該ヒアルロン酸層に噴霧するか、あるいは該溶液中に該層を浸漬することによって形成する。該第二の溶媒を蒸発させて、該PC層上に該HA/薬物層を残す。次いで、最終的な組織接着層を、同様な様式で、即ち第三の溶媒、例えばTHFまたはDMF中にDOPAおよびHAを溶解した溶液を該受渡媒介物に噴霧するか。あるいは該溶液中に該媒介物を浸漬することによって適用し、これにより厚み1μmまでのDOPA/HA層を形成する。これに引続き、乾燥により該第三の溶媒を蒸発させて、該HA/薬物層上に該DOPA/HA層を残す。該HA/薬物層は、次には該PC層上に配置される。
【0077】
様々な態様が、本明細書において具体的に例示され、また説明されたが、本発明の改良および変更は、上記教示に含まれるものであり、また本発明の精神および意図された範囲を逸脱することなしに、添付した特許請求の範囲内に含まれるものであることが理解されよう。
【符号の説明】
【0078】
100・・医療デバイス;
110・・シート、チューブ;
120・・接着層;
130・・剥離層;
200・・バルーンカテーテル;
210・・カテーテル本体;
220・・バルーン;
3001・・血管の管腔;
300w・・血管壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療薬放出用の医療デバイスに係り、またより詳しくは、本発明は、治療薬放出用の、生分解性ポリマー層を含む医療デバイスに係る。
【背景技術】
【0002】
患者身体内で、治療薬のその場における放出は、現代医学の実務において一般的なことである。その場での放出のために、治療薬は、しばしば医療デバイスを用いて移植され、該デバイスは、身体内のターゲット部位に、一時的にまたは永続的に配置することができる。治療薬を該ターゲット部位に放出するために、必要に応じて、短期間または長期間に渡り、これらの医療デバイスをそのターゲット部位に維持することができる。
【0003】
例えば、近年においては、ボストンサイエンティフィック社(Boston Scientific Corp)[タクサス(TAXUS)]、ジョンソン&ジョンソン社(Johnson & Johnson)[サイファー(CYPHER)]およびその他の会社から市販品として入手できる、バルーン血管形成術後の血管の開放性を維持するために、薬物を溶出する冠動脈ステントが、広く利用されている。これらの製品は、生体安定性ポリマー被膜を持つ、金属製の拡張性ステントを基本とするものであり、該被膜は、制御された速度および全用量にて、再狭窄形成抑制性薬物を放出する。
【0004】
治療薬は、またバルーンを用いて血管壁に放出されている。例えば、最近の臨床的試みは、ステント内狭窄が、パクリタクセルとイオプロミドとの混合物を噴霧して得た被膜を持つバルーンを用いて処置できることを示している。これについては、B. Scheller等, Eurointervention Supplement, (2008) Vol. 4, (別冊(Supplement) C) C63-C66を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な局面は、少なくとも1種の生分解性(biodegradable)ポリマーおよび少なくとも1種の治療薬を含む、少なくとも一つの生侵食性(bioerodible)層を持つ医療デバイスに関する。
【0006】
幾つかの態様において、該生侵食性層は、1種またはそれ以上のグリコサミノグリカンを含み、これは場合により架橋することができる。
【0007】
幾つかの態様において、該生侵食性層は、繊維質骨組、例えば該骨組内での細胞の三次元的な移動および増殖を促進するための骨組の形状にある。
【0008】
幾つかの態様において、剥離材料は、該生侵食性層の少なくとも一方の表面上に配置され、該剥離材料は、該受渡デバイスからの該生侵食性層の剥離を促進する。幾つかの態様において、接着性材料は、該生侵食性層の少なくとも一方の表面上に配置され、該接着性材料は、該材料の生体組織に対する接着を促進する。幾つかの態様において、剥離材料は、該生侵食性層の少なくとも一つの表面上に配置され、該剥離材料は、受渡デバイスからの剥離を促進し、また接着性材料は、該生侵食性層の反対側の表面上に設けられ、該接着性材料は、該剥離材料の身体組織に対する接着を促進する。
【0009】
本発明の他の局面は、このようなデバイスの製法に係る。例えば、幾つかの態様において、該生侵食性層は、受渡バルーン上にエレクトロスパンされる、繊維質管状骨組の形状にある。
【0010】
本発明の更に別の局面は、このようなデバイスを用いた治療方法に係る。例えば、幾つかの態様において、ここに記載される医療デバイスは、初めから血管内のプラーク病変部に適用される。幾つかの態様において、ここに記載される医療デバイスは、予め血管のステントで処理された領域に適用される。
【0011】
本発明の上記のおよびその他の局面および態様は、以下の詳細な説明および添付した特許請求の範囲を綿密に検討した際に、当業者には即座に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一態様に従う医療デバイスを模式的に示した図である。
【図1A−C】図1A-1Cは、本発明の様々な態様に従う、図1に示されたデバイスに関する選び得る3つの断面を模式的に示した図である。
【図2】図2は、本発明のもう一つの態様に従う医療デバイスを模式的に示す図である。
【図2A−C】図2A-2Cは、本発明の様々な態様に従う、図2に示されたデバイスに関する選び得る3つの断面を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明の一態様に従う、結合されたバルーン式受渡デバイスと共に、バルーンカテーテルを示す、模式的な部分縦断面図である。
【図4】図4は、本発明の一態様に従う、脈管構造内に該バルーン式受渡デバイスを配置するための、図3に示されたバルーンカテーテルの使用を例示する、模式的な部分断面図である。
【図5】図5は、本発明の一態様に従う、該バルーンカテーテルの脈管内への配置及び取出し後の、図3に示した該バルーン式受渡デバイスを例示する、模式的な部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前に示した如く、本発明の様々な局面は、少なくとも一つの生侵食性層(例えば、シート、チューブ等の形状にある)を持つ医療デバイスに係り、該生侵食性層は、少なくとも1種の生分解性ポリマーと少なくとも1種の治療薬とを含んでいる。このような層を、ここにおいては、「生侵食性ポリマー-含有層」と呼ぶ。
【0014】
本発明の該医療デバイスは、様々な哺乳動物の組織および器官の治療のために使用される、様々な移植可能なおよび挿入可能な医療デバイスを含む。ここで使用する用語「治療(処置)」とは、疾患または状態の予防、疾患または状態と関連した症状の軽減または排除、または疾患または状態の実質的なまたは完全な排除を意味する。対象は、脊椎動物の患者、より典型的にはヒト患者、ペットおよび家畜を包含する哺乳動物の患者である。
【0015】
本発明による利益を得る医療デバイスの例は、極めて多様であり、また移植可能なおよび挿入可能な医療デバイス、例えばステント(冠状動脈血管ステント、末梢血管ステント、脳、尿道、尿管、胆管、気管、胃腸管および食道ステントを含む)、ステント被覆、ステント移植片、血管移植片、腹部大動脈瘤(AAA)デバイス(例えば、AAAステント、AAA移植片)、脈管アクセス口、透析口、カテーテル(例えば、泌尿器用カテーテルまたは脈管カテーテル、例えばバルーンカテーテルおよび様々な中心静脈カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、遠位保護デバイス用のメッシュフィルタおよび大静脈フィルタ)、脳動脈瘤充填コイル(ガグリエルミ(Guglielmi)着脱式コイルおよび金属コイルを含む)を含む塞栓形成デバイス、隔壁欠陥閉塞デバイス、心筋プラグ、パッチ、ペースメーカー用リード、移植性電気除細動装置-除細動器用リード、脊髄刺激装置用リード、脳深部刺激装置用リード、末梢神経刺激用リード、蝸牛インプラント用リードおよび網膜インプラント用リードを包含する電気刺激リード、左心室補助心臓およびポンプを含む心室補助装置、全人工心臓、シャント、心臓弁および血管弁を含む弁、吻合術用クリップおよびリング、組織拡張デバイス、および軟骨、骨、皮膚およびその他のインビボ組織再生用の組織処理、操作用骨組、縫合糸、縫合糸アンカー、外科手術部位における結合クリップおよび組織ステープル、カニューレ、金属ワイヤ結サツ部、尿道スリング、ヘルニア「メッシュ」、人工靭帯、整形外科用補綴具、例えば骨移植片、骨プレート、フィンおよび融合デバイス、関節補綴具、整形外科用固定デバイス、例えば足関節部、膝、および手の領域における干渉ネジ、靭帯結合およびメニスカス修復用鋲、骨折部固定用ロッドおよびピン、頭蓋顎顔面修復用ネジおよびプレート、歯科インプラント、または身体内に移植または挿入され、そこから治療薬が放出されるその他のデバイスを包含する。
【0016】
幾つかの態様において、本発明の医療デバイスは、パッチおよび薬物-放出スリーブを含み、これらはステント等の構造部材と結合されていても、結合されていなくてもよい。
【0017】
本明細書において使用する、与えられた材料の「層」とは、該材料の領域であり、ここで該領域の厚みは、該領域の長さおよび幅(例えば、該領域の長さおよび幅は、その厚みよりも各々少なくとも5倍であり、しばしばそれ以上である)よりも実質的に小さい。層は、開放構造(例えば、シート、この場合該層の厚みは、該層の長さおよび幅よりも実質的に小さい)、部分的に閉じた構造(例えば、開放チューブ、この場合該層の厚みは該チューブの長さおよび径よりも実質的に小さい)、および完全に閉じた構造(例えば、球および閉じたチューブ、この場合該層の厚みは、該構造の長さおよび/または径よりも実質的に小さい)の形状であり得る。
【0018】
ここで使用するように、ポリマーは、結合開裂のメカニズム(例えば、酵素による分解、加水分解、酸化等)とは無関係に、インビボにおける該ポリマーの主鎖に沿って結合開裂を起こす場合には、「生分解性」である。医療デバイスの持つ、ポリマー-含有成分(例えば、ポリマー-含有層)の「生侵食性」または「生体吸収性」は、ここでは、ポリマーの生分解(並びに他のインビボ崩壊過程、例えば溶解等)の結果であると定義され、また該成分の元のポリマー塊の経時(例えば、該デバイスが、患者内に存続するように設計された期間)による、インビボでの実質的な喪失によって特徴付けられる。例えば、喪失量は、該デバイス成分の元のポリマー塊の50%から75%まで、90%まで、95%まで、97%まで、99%まで、あるいはそれ以上なる範囲であり得る。生体吸収時間は、高範囲に渡り変動でき、典型的な生体吸収時間は、数時間乃至約1年なる範囲に及ぶ。
【0019】
以下において更に詳しく論じられるように、様々な態様において、本発明に従う生侵食性ポリマー-含有層は、開放孔構造を持つ繊維質の骨組の形状であり得、該開放孔構造は、該繊維質の骨組内での細胞の三次元的な移動および増殖を促進助長する。
【0020】
図1は、本発明の一態様に従う医療デバイス100の模式的な斜視図である。該デバイス100は、生侵食性ポリマー-含有層、具体的にはシート110(例えば、薬物放出パッチ)の形状にある。以下においてより一層十分に論じるように、また図1A-1Cの端面図から理解されるように、幾つかの態様においては、接着層120を、該シート110の一表面上に形成することができ(図1A)、剥離層130を、該シート110の一表面上に形成することができ(図1B)、あるいは接着層120を、該シート110の一表面上に形成し、かつ剥離層130を、該シート110の反対側の表面上に形成する(図1C)ことができる。
【0021】
図2は、本発明のもう一つの態様に従う、医療デバイス100の模式的な斜視図であり、該医療デバイスは、生侵食性ポリマー-含有層、具体的にはチューブ110(例えば、脈管移植用のスリーブ)の形状にある。以下においてより一層十分に論じるように、また図2A-2Cの端面図から理解されるように、幾つかの態様においては、接着層120を、該チューブ110の外側表面上に形成することができ(図2A)、剥離層130を、該チューブ110の内側表面上に形成することができ(図2B)、あるいは接着層120を、該チューブ110の外側表面上に形成し、かつ剥離層130を、該チューブ110の内側表面上に形成する(図2C)ことができる。
【0022】
このようなデバイス100は、適当な受渡デバイスを用いて、身体に送込むことができる。例えば、図3を参照すると、そこには、バルーンカテーテル200の模式的な断面が図示されており、該カテーテルは、血管の管腔内に挿入するのに適したものである。該カテーテル200は、カテーテル本体210上に配置されたバルーン220を含む。図2Cに示したものと同様なデバイス100は、該バルーンの表面上に与えられる。従って、別々に図示されてはいないが、接着層が、該デバイスの外側表面上に与えられており、また剥離層が、該デバイスの内側表面上に与えられている。
【0023】
次に図4を参照すると、図3のカテーテル200は、血管の管腔3001内に挿入することができる。該バルーン220を膨らませた場合、該デバイス100は膨張して(例えば、該バルーンと共に拡げられて)、血管壁300wと接触する。以下においてより詳しく説明するように、この接触が起った際、該デバイス100の外側表面上にある該接着層は、該デバイス100と該血管壁300wとの間の接着性を高める。更に、該デバイス100の内側表面上にある該剥離層は、以下においてより詳しく説明するように、該バルーン220からの該デバイス100の剥離性を高める。該部位から該カテーテル200を分離する際に、該デバイス100は、図5に示すように、該血管壁300wに接着した状態を維持する。
【0024】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層は、典型的には、例えば1〜100質量%なる範囲の、1種またはそれ以上の生分解性ポリマー、より好ましくは25質量%乃至50質量%まで、75質量%まで、90質量%まで、95質量%まで、99質量%までまたはそれ以上の、1種またはそれ以上の生分解性ポリマーを含む。
【0025】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層は、その厚みにおいて、例えば100nm乃至1ミクロン(μm)まで、10μmまで、50μmまで、100μmまでまたはそれ以上なる範囲内で変えることができる。
【0026】
生侵食性ポリマー-含有層に例は、非-多孔性層および多孔性層(例えば、繊維質層)を含む。
【0027】
本発明において使用するための生侵食性ポリマー-含有層を製造するのに使用できるポリマーは、合成並びに天然産の生分解性ポリマーを含む。合成生分解性ポリマーは、ポリ(l-ラクチド)、ポリ(d,l-ラクチド)、ポリ(ラクチド-co-グリコライド)、例えばポリ(l-ラクチド-co-グリコライド)およびポリ(d,l-ラクチド-co-グリコライド)を包含する、例えばラクチド、グリコライド、およびε-カプロラクトンのホモポリマーおよびコポリマーから選択されるポリエステル;トリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)を含むポリカーボネート;ポリホスファジン;ポリ無水物;およびポリオルトエステルを包含する。天然産の生分解性ポリマーは、例えばフィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲンおよびエラスチンから選択されるタンパク質;および例えばキトサン、ゼラチン、デンプンおよびグリコサミノグリカン、例えばコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、およびヒアルロン酸から選択されるポリサッカライドを含む。上記天然産および合成ポリマーのブレンドを使用することも可能である。
【0028】
様々な好ましい態様を、以下において説明するが、そこでは該生分解性ポリマーは、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸(これは、またヒアルロナンまたはヒアルロネートとも呼ばれる)および/またはヘパリンである。しかし、他のグリコサミノグリカンを包含する、他の生侵食性ポリマーを使用することも可能であることは明白である。
【0029】
ヒアルロン酸(HA)は、交互のβ-1,4-およびβ-1,3-グリコシド結合を介して一緒に結合した、D-グルクロン酸およびD-N-アセチルグルコサミンで構成される、ジサッカライドのポリマーである。ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織、および天然の組織全体に渡り広く分布している、硫酸化されていないグリコサミノグリカンである。これは細胞外マトリックスの主成分の一つであり、また内皮細胞の増殖および移動を含む、細胞増殖および移動に対して大きく寄与している。HAは、また幾つかの薬理学的諸特性をも有しており、該特性は、血小板の接着および凝集の阻害、および脈管形成の刺激を含む。HAは、生体活性薬剤の放出用途において首尾よく利用されている。これについては、Samir Ibrahima等による、「内皮細胞に及ぼす、ヒアルロナン(HA)のサイズ-特異的効果を評価するための、表面-束縛モデル(A surface-tethered model to assess size-specific effects of hyaluronan (HA) on endothelial cells)」と題する論文: Biomaterials, 28 (2007) 825835を参照のこと。HAの分子量は、広範囲に渡り、本発明においては、典型的には8x102またはそれ以下乃至8x106またはそれ以上、より典型的には、5x103〜8x106なる範囲内にある。
【0030】
幾つかの態様において、本発明の該生侵食性ポリマー-含有層におけるHAは、架橋されている。架橋は、該HAの溶解度を減じ、また該HA-含有層内に分散されたあらゆる治療薬の放出速度をも減じる恐れがある。従って、治療薬の放出速度は、該HA成分中の架橋度を調節することにより制御することができる。
【0031】
HAは、例えば水溶性カルボジイミドを用いて架橋することができる。これについては、A. Sannino等, Polymer, 46(25), 2005, 11206-11212を参照のこと。HAは、またグルタルアルデヒド、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)またはジビニルスルホン(DVS)を、架橋剤として使用して架橋されている。これについては、M.N. Collins等, Journal of Applied Polymer Science, 104(5), 2007, 3183-3191を参照のこと。更には、Y. Ji等, Biomaterials, 27 (2006) 3782-3792を参照することもでき、この文献は、3,3'-ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)-変性HAの、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートによる架橋を開示している。
【0032】
幾つかの態様においては、天然産の生分解性架橋剤を使用している。このような架橋剤の一例は、ゲニピン(genipin)である。ゲニピンは、ゲニポシド(geniposide)の加水分解生成物の一つであり、ゲニポシドは、クチナシ(Gardenia jasminoides Ellis)の果実中に存在することが分かっている。これは、低い細胞毒性を持つ天然産の生分解性分子であるから、最近、ゲニピンは、様々な用途における架橋剤として検討されている。
【0033】
ゲニピンは、また抗炎症作用を与えることができ、また恐らく抗血栓作用をも与える可能性がある。これについては、Hye-Jin Koo等の「ガルデニア抽出物、ゲニポシドおよびゲニピンの抗炎症性の評価(Anti-inflammatory evaluation of gardenia extract, geniposide and genipin)」と題する論文:Journal of Ethnopharmacology, 103(3), 2006, 496-500;Y. Suzuki等の「マウス血栓症モデルにおけるゲニポシドおよびゲニピンの抗-血栓効果(Antithrombotic effect of geniposide and genipin in the mouse thrombosis model)」と題する論文:Planta medica, 67(9), 2001, 807-810を参照のこと。上記の如く、HAは、また治療効果をも持つことができ(Samir Ibrahima 等の上記文献を参照のこと)、これは、ゲニピンと共に、疾患に冒された血管を含む組織の相乗的な治療に対して寄与し得る。
【0034】
HAと同様に、ヘパリンは、繰返し糖単位を持つ伸張されたポリマーである。これは、抗-凝血薬として広く利用されている。HAおよびヘパリンの化学的な構造は類似しているので、架橋による変性に及ぼすヘパリンの効果は、HAの場合と類似しているであろう。幾つかの態様において、ヘパリンは、上記生侵食性ポリマー-含有層における唯一の生分解性ポリマーであり得る。幾つかの態様においては、抗-凝血特性を与える目的で供される、より少量のヘパリンと共に、HAを主な生分解性ポリマーとして使用することができる。例えば、幾つかの態様において、該ポリマー層の該生分解性ポリマー含有率に関しては、1〜100質量%なる範囲のHAおよび1〜100質量%なる範囲のヘパリンを、生侵食性ポリマーとして含むことができる。所望ならば、例えばHAに関して上記した如き薬剤を用いて、ヘパリンを架橋することができる。
【0035】
上述の如く、生侵食性ポリマー-含有層の例は、非-多孔質層(例えば、ヒドロゲル層)および多孔質層(例えば、繊維質層)を含む。非-多孔質層は、浸漬塗布、噴霧塗布、アプリケータ(例えば、ローラー、ブラシ等)を用いた塗布等の技術を利用して設けることができる。
【0036】
繊維質層は、例えば繊維紡糸技術を利用して製造することができる。例えば、エレクトロスピニングは、繊維紡糸技術の一つであり、この技術によれば、ポリマーの懸垂滴(例えば、適当な溶媒中のポリマー)が、数万ボルトの電圧で帯電される。特性電圧において、該液滴は、テイラー(Taylor)コーンを生成し、また印加された電場と該ジェットの持つ電荷との相互作用により発生する引張力に応答して、該液滴表面から、ポリマーの微細なジェットが放出される。これにより、材料のフィラメントが生成される。このジェットを、バルーン受渡システム等の接地された表面に導き、また例えば50nm乃至100nmまで、250nmまで、500nmまで、1μmまで、2.5μmまで、5μmまで、10μmまで、20μmまでなる範囲のサイズを持つ繊維を与えるように調節することのできる、繊維の連続ウエブとして回収することができる。良好な被覆性を保証するために、該バルーン受渡システムを、回転させ、また該ジェットに対して往復動させることができる。出発物質の様々な濃度に対応する複数のディスペンサーを利用して、ナノ繊維ネットワークの特定の領域に、選択された材料のより高濃度領域を生成することができる。エレクトロスピニングに関する更なる情報は、例えばGreenhalgh等のUS 2005/0187605において見出すことができる。また、Y. Ji等による「エレクトロスパン、3次元ヒアルロン酸製骨組(Electrospun three-dimensional hyaluronic acid nanofibrous scaffolds)」と題する論文:Biomaterials, 27 (2006) 3782-3792をも参照のこと。
【0037】
エレクトロスパン繊維層を含む多孔質層の使用は、利用可能なその表面積を増大し、またその結果として、任意の治療薬の放出性を高め、更に非-多孔質層と比較して、生分解速度を高める。その上、このような層は、細胞の播種、成長および/または増殖用の骨組を生成するように機能し得る。例えば、脈管デバイスの場合、このような層は、インビボにおける、内皮細胞の播種成長および/または増殖用の骨組として機能し得る。
【0038】
種々の態様においては、溶液中に、例えば1種またはそれ以上の生分解性ポリマーと共に、架橋剤を含めることができ、該溶液は、生侵食性ポリマー-含有層を製造するのに使用される(ここで、適当な架橋剤は、層の生成を隠蔽しないように、さほど迅速に作用しないように選択されるものとする)。別法として、架橋剤および生分解性ポリマーを、(例えば、別々の容器から)表面に同時に堆積させて、生侵食性ポリマー-含有層を形成することができる。更に別の方法として、生分解性ポリマー層を形成した後に、該ポリマー層に、架橋剤を適用することも可能である。
【0039】
様々な態様においては、溶液に、1種またはそれ以上の治療薬を、例えば1種またはそれ以上の生分解性ポリマーと共に含めることもでき、ここで該溶液は、生侵食性ポリマー-含有層を形成するのに使用することができる。別法として、生分解性ポリマーおよび1種またはそれ以上の治療薬を、(例えば、別々の容器から)同時に堆積させて、生侵食性ポリマー-含有層を形成することも可能である。更に別の方法として、該生侵食性ポリマー-含有層を形成した後に、1種またはそれ以上の治療薬を、(例えば、溶液として)該ポリマー-含有層に適用することができる。
【0040】
広範囲に及ぶ治療薬が、本発明のデバイスにおいて使用できる。多数の治療薬を、以下において説明する:
【0041】
様々な態様において、該生侵食性ポリマー-含有層は、冠状動脈疾患の治療またはステント内再狭窄の治療のために、該脈管構造内に受け渡される、管状スリーブの形状にある。例えば、本発明は、受渡のためにバルーンを基本とするシステムを使用することができる。
【0042】
幾つかの態様において、本発明による管状スリーブは、新たな病巣部位に、治療薬を放出するために使用することができる。他の態様では、本発明による管状スリーブは、以前に配置されたステントを含む部位に、治療薬を放出するために使用することができる。更に別の態様において、ステントを、1種またはそれ以上の本発明による管状スリーブと共に同時に施すことができる(例えば、該スリーブは、該ステントの内腔外表面、該ステントの内腔表面、またはこれら両者に配置できる)。
【0043】
これらの態様で使用される治療薬の例は、特にプラーク形成防止剤、内皮層の形成を促進する薬剤、および(例えば、血管の損傷による再狭窄の形成を防止するための、既存のステント内再狭窄を処理するための)再狭窄形成防止剤を含む。再狭窄形成防止剤の例は、特にタキサン(taxanes)、例えばエストラジオール、ゲニステイン、パクリタクセル、およびオリマス(olimus)群の薬物を含む。内皮層の形成を促進する薬剤の例は、他にも多くの例が存在する中でも特に、内皮前駆細胞(EPC)および成長因子、例えばVEGFを含む。プラーク形成防止剤の例は、他にも多くの例が存在する中でも特に、脂質-低下薬物、例えばスタチン、ACE阻害剤、β-ブロッカー、酸化防止剤、マクロライド抗生物質および抗-炎症薬を包含し、MMPの阻害剤を含む。付随的な治療薬を、以下に説明する。
【0044】
特別な一例において、本発明による管状スリーブは、標準的な血管形成術用のバルーン上に配置される(例えば、該バルーン上に直接形成され、あるいは成形され、次いで該バルーン上に配置される)。このような管状スリーブは、ステント-様の構成を呈し、これは、十分に膨張されかつ対合状態とされた後に、受渡デバイスから病巣部位において解放される。このスリーブは、典型的に生物学的に活性な薬剤(例えば、パクリタクセル、オリマス群の薬物等)の制御放出を容易にし、また幾つかの態様においては、血管の疾患に冒された部分に選択的に接着し、例えば該活性薬剤の取込みを容易にする。
【0045】
高圧膨張バルーン上に設けられた、繊維質管状骨組を組込むシステムにおいて、該バルーンを配置する行為は、該繊維質材料を該プラーク病巣物質中に埋設し、該活性薬剤を溶出するために、該繊維の表面を該病巣に対して露出させることであり得る。該繊維が、該病巣内に埋設されるという事実は、病巣選択的接着法に対する必要性を軽減または排除することを可能とする。
【0046】
それにも拘らず、本発明の幾つかの局面では、様々な方策を利用して、本発明によるデバイス(例えば、管状スリーブまたはパッチ)の、身体の内腔、管腔の壁への接着を容易にする。多くの態様において、血管への接着、および幾つかの例においては、血管(例えば、冠状動脈等)内のプラーク病変に対する接着を容易にする方策を利用する。
【0047】
例えば、幾つかの態様において、1種またはそれ以上の接着性物質を、生侵食性ポリマー-含有層に、(例えば、層状に均等に分散させるか、またはより好ましくは該層の組織と接触する表面において高濃度を持つように)与えることができる。幾つかの態様において、1種またはそれ以上の接着性物質を、該生侵食性ポリマー-含有層上に設けられる接着層として与えることができる(該接着層は、該生侵食性ポリマー-含有層にある程度まで侵入することができる)。例えば、接着性物質の純粋な層または接着性物質と適当な補助薬剤とを含む層を、本発明に従う生侵食性ポリマー-含有層の組織と接触する表面上に適用することができる。接着性物質の数種の例を、以下の章において論じる。
【0048】
プラーク病巣は疎水性であることが知られているので、疎水性薬物(例えば、とりわけ、パクリタクセル)を、生侵食性ポリマー-含有層上に、またはその内部に与えて、これが病巣と接触した際の、該病巣への接着性および/または該病巣による取込み性を高める。
【0049】
他の態様においては、極性分子を、接着性物質として使用することができる。このような極性分子の例は、ポリ(アミノ酸)を含む。例えば、幾つかの態様において、両親媒性のポリ(アミノ酸)を接着性物質として使用する。該両親媒性のポリ(アミノ酸)は、該病巣との相互作用を促進するために、疎水性のポリ(アミノ酸)尾部(例えば、その長さにおいて2〜400個またはそれ以上のアミノ酸を含む)を持つことができる。疎水性アミノ酸の例は、特にフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびバリンを含む。該両親媒性のポリ(アミノ酸)は、該生分解性のポリマーとの相互作用を促進するために、親水性ポリ(アミノ酸)ヘッド(例えば、その長さにおいて2〜400個またはそれ以上のアミノ酸を含む)を持つことができる(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。親水性アミノ酸の例は、塩基性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン等)、酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、および中性アミノ酸(例えば、システイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、グリシン)を含む。
【0050】
幾つかの態様において、該親水性ポリ(アミノ酸)ヘッドは、該生分解性ポリマーとのイオン-双極子結合の生成を促進するために、両性イオン性である(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。このようなポリマーヘッドは、酸性(アニオン性)および塩基性(カチオン性)アミノ酸の混合物を含み、またその長さは、例えば2〜400個またはそれ以上のアミノ酸なる範囲であり得る。
【0051】
他の態様においては、YIGSRまたはRGD等の細胞-結合性ペプチドを含むポリ(アミノ酸)を、接着性物質として使用する。所望ならば、このような配列を繰り返すことができる。該ポリ(アミノ酸)は、更に生侵食性ポリマーとの相互作用を促進するために、親水性ポリ(アミノ酸)鎖(典型的には、2〜400個またはそれ以上のアミノ酸なる範囲の長さ)を含むことができる(ここでは、HA等の親水性ポリマーが使用される)。
【0052】
他の態様においては、アミノ酸3.4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)または多数のDOPA単位を含む、ポリ(アミノ酸)鎖を、接着性物質として使用する。このような鎖は、更にDOPA単位と共にリジン単位をも含むことができる。これについては、Statz等, J. Am. Chem. Soc., 127, 2005, 7972-7973を参照することができ、そこでは、公知のイガイ由来の接着性タンパク質のDOPA-およびLys-に富む配列を模倣するように、5-マー型アンカーペプチド(DOPA-Lys-DOPA-Lys-DOPA)が選択されている。
【0053】
更に別の態様においては、MSCRAMMs(接着性マトリックス分子を認識する、微生物の表面成分)を、接着性物質として使用している。MSCRAMMsの例は、特にフィブロネクチン結合タンパク質(例えば、FnBPA、FnBPB等)、およびフィブリノーゲン結合タンパク質(例えば、ClfA、ClfB等)を含む。これについては、例えばTimothy J. Fosterの、ホスト組織に対するバクテリアの接着:メカニズムおよび結果(Bacterial Adhesion to Host Tissues: Mechanisms and Consequences), Michael Wilson編, 2002, pp.3-11の、「第1章、スタフィロコッカス属細菌の、表面タンパク質接着因子(Chapter 1, Surface protein adhesins of staphylococci)」と題する文献を参照のこと。
【0054】
本発明の幾つかの局面において、受渡用媒介物(例えば、バルーンカテーテルのバルーン)からの、本発明によるデバイス(例えば、スリーブ、パッチ等)の受渡を容易にするために、様々な方策が利用される。
【0055】
バルーン材料の例は、比較的身体的苦痛の原因とならない材料、例えばポリアミドホモポリマーおよびコポリマー等のポリアミド、およびポリアミド等のマトリックスポリマー材料が、繊維ネットワークと結合している複合材料(例えば、デュポン(Dupont)社により製造されているケブラー(KevlarTM)、即ちアラミド繊維、またはオランダ国のDSMゲレーン(Geleen)社により製造されているダイニーマ(DyneemaTM)、即ち超-強力ポリエチレン繊維)を含む。ポリアミドの具体的な例は、ナイロン、例えばナイロン6、ナイロン4/6、ナイロン6/6、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン11およびナイロン12;およびポリ(エーテル-co-アミド)コポリマー、例えばポリエーテル-ポリアミドブロックコポリマー、例えばエルフアトケム(Elf Atochem)社からペバックス(PEBAX)として入手できるポリ(テトラメチレンオキシド-b-ポリアミド-12)ブロックコポリマーを含む。バルーン材料の例は、また幾分身体的苦痛の原因となる材料、例えばシリコーン、ポリウレタンまたは高い割合でポリエーテルを含む、順応性グレードのペバックス、例えばペバックス(PEBAX) 63Dをも含む。
【0056】
例えば、幾つかの態様において、本発明によるデバイスは、結合能を崩壊し得る物質(ここでは「剥離性物質」と呼ぶ)を用いて、受渡媒介物に結合される。
【0057】
例えば、幾つかの態様においては、1種またはそれ以上の剥離性物質を、該生侵食性ポリマー-含有層に与えることができる(例えば、該層内に、またはより好ましくは該層の受渡媒介物との接触面において均等に分散される)。幾つかの態様においては、1種またはそれ以上の剥離性物質を、該受渡媒介物表面と該生侵食性ポリマー-含有層の表面との間に設けられる、剥離層内に供給することができる(該剥離層は、該生侵食性ポリマー-含有層に、ある程度まで入り込んでいてもよい)。
剥離性物質の一例は、以下の式で表される両性イオン性ホスホリルコリンであり:
【0058】
【化1】
【0059】
ここで、該化合物は、また医療デバイスの分野においては、抗-血栓性物質として作用することも明らかにされており、更に薬物放出ステントに対して、この目的のために利用されている。ホスホリルコリンは、生侵食性ポリマー、例えばHAおよび極性バルーン材料、例えばペバックス(PEBAX)を包含する、様々な極性物質と、イオン-双極子結合を形成し得る。このように、ホスホリルコリンは、該スリーブの生侵食性ポリマー部分と、該バルーン材料とを結合するように作用し得る。所望の場合には、湿潤剤(例えば、塩水または水)を使用して、該スリーブを該バルーンに維持している上記のイオン-双極子相互作用を崩壊させることが可能である。
【0060】
幾つかの態様において、該湿潤剤は、上記受渡媒介物によって供給される。例えば、膨張性微孔質または滲出性バルーンを使用して、該血管の部位を拡張させ、かつ上記両性イオン性ホスホリルコリンと相互作用する湿潤剤を受渡すことができる。もう一つの例として、塩水を装填した微小球を、該生侵食性ポリマー-含有層と該バルーンとの間に供給することができ、該微小球は、該バルーンが膨張された際に、破裂しまたその内容物を放出する。
ホスホリルコリンの誘導体を使用することも可能である。例えば、非-極性尾部を持つ両親媒性のホスホリルコリン誘導体、例えば以下の式で表されるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC):
【0061】
【化2】
【0062】
(ここで、nは14である)または以下の式で表される1-O-オクタデシル-2-O-メチル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン:
【0063】
【化3】
【0064】
を本発明によるデバイスと疎水性バルーン材料とを結合するために使用することができる。これらの態様において、該極性ホスホリルコリンヘッド部分は、極性生侵食性ポリマー、例えばHAのイオン-双極子結合を形成するのに利用され、一方でこれら分子の該疎水性アルキル部分は、隣接する非-極性のバルーン材料、例えばナイロンまたはポリウレタンと相互作用するために利用され、結果として該スリーブの該生侵食性ポリマー部分が該バルーン材料と結合される。望むならば、湿潤剤(例えば、塩水または水)を使用して、該ホスホリルコリン誘導体の該両性イオン性部分と該スリーブの該親水性生侵食性ポリマー部分との間の上記イオン-双極子相互作用を破壊することができる。
【0065】
同様に、両性イオン性ペプチドを含む他の両性イオン性材料を、剥離性物質として使用することができる。例えば、塩基性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、オルニチン等)および酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)両者を含むペプチドは、様々な極性物質(例えば、親水性生侵食性ポリマーまたは親水性バルーン材料)とイオン性のイオン-双極子結合を与えるために、両性イオン性特性を持つであろう。非-極性アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン等)の鎖は、両性イオン性の鎖と結合して、様々な非-極性物質(例えば、疎水性バルーン材料)との疎水性相互作用を与えることができる。
【0066】
剪断-感受性接着剤は、バルーン受渡媒介物と本発明によるデバイスとの間に使用できる、剥離性物質のもう一つの群を構成する。これら接着剤の基本的な原理は、該膨張中のバルーンと該接着剤との間に生成される剪断力が、これらの間の結合を破壊し、かつ剥離を容易にすることにある。このような接着剤の一例は、ポリビニルピロリドン(PVP)とポリエチレングリコール(PEG)とのブレンドであり、該ブレンドは、該デバイスが、該受渡部位における所定位置を占めるまで、該バルーンを、該生侵食性ポリマー含有層に接着する、生体適合性の層を与えるであろう。バルーンの膨張を、該接着剤の結合を破壊するのに利用でき、またその結果として、該生侵食性ポリマー-含有層を、該バルーンから剥離することができる。このようなブレンドにおけるPVP対PEGの質量基準での比は、広範囲に渡り変えることができ、例えば1:99乃至10:90まで、25:75まで、50:50まで、75:25まで、90:10まで、95:5まで、99:1までの範囲内にある。
【0067】
該受渡デバイスがバルーンである場合、該デバイスは、折畳まれた状態で該バルーンに適用され、デバイスの受渡しのために破壊される必要のある、該デバイスと該バルーンとの間の相互作用を最小化し、結果として剥離性を改善することを可能とする。
【0068】
幾つかの態様において、本発明のデバイスは、製造された後に、受渡デバイスに適用される。例えば、内側剥離層、薬物-放出性生侵食性繊維層、および外側接着剤層を含む薬物放出スリーブを製造した後、バルーンに適用する。ここで、該バルーンは、幾つかの態様においては、折畳まれていてもよい。場合により、(a) 該スリーブの適用前に(内腔外繊維層が、該ステントにとって望ましい場合)、または(b) 該繊維層を適用した後(内腔繊維層が、該ステントにとって望ましい場合)に、ステントを供給することができる。もう一つの例として、内側剥離層、第一の薬物-放出性生侵食性繊維層、ステント、第二の薬物-放出性生侵食性繊維層、および外側接着性層を含む薬物-放出性受渡スリーブを製造し、次いでバルーンに適用することができ、ここで該バルーンは、幾つかの態様においては、折畳まれた状態にあってもよい。様々な薬物を該繊維層に供給することができ、例えば内皮細胞成長促進剤を、該内側/内腔繊維層に供給し、かつ再狭窄抑制剤を、外側/内腔外繊維層に供給することができる。
【0069】
他の態様において、本発明によるデバイスは、該受渡デバイスの表面上に形成することができる。具体的な一例(他にも多くの可能性がある中で)として、剥離層を、先ず膨張性バルーンの表面に適用することができる。繊維性生侵食性ポリマー-含有層および治療薬を、次に該剥離層上に形成する。次の工程においては、接着剤層を、該繊維性生侵食性ポリマー-含有層上に設ける。より具体的な一例として、先ず、とりわけナイロン、ポリウレタンまたはペバックス(PEBAX)等の材料から形成された膨張性バルーンの表面に、剥離層を適用することができる。該剥離層は、他にも可能性があるが、(a) 剪断-感受性接着剤または(b) 両性イオン性剥離性物質、例えば塩水充填マイクロカプセル(微孔質または滲出性バルーンを使用しない場合;この場合、該塩水充填マイクロカプセルの使用は、排除される)を含むことができる。次いで、繊維質層、例えばHAと治療薬としてのパクリタクセルを含む繊維質層が、例えばエレクトロスピニング工程を利用して、該剥離層上に形成される。次に、該繊維質層内のHAを、該層にゲニピンを適用することにより架橋することができる。次工程において、DOPA(他にも可能性があるが)を、接着性物質として、該外側繊維層に適用する。
【0070】
場合により、(a) 該繊維質層の適用前(内腔外繊維質層が望ましい場合);(b) 該繊維質層の適用後(内腔繊維質層が望ましい場合)または(c) 一繊維質層の適用、これに引続くもう一層の繊維質層の適用後(内腔および内腔外繊維質層を持つ、繊維-カプセル化ステント構造が望ましい場合)に、ステントを設けることができる。
【0071】
「治療薬」、「製薬的に活性な薬剤」、「製薬的に活性な物質」、「薬物」、「生物学的に活性な薬剤」、およびこれらに関連する用語は、本明細書においては互換的に使用されており、遺伝学的治療薬、非-遺伝学的治療薬、および細胞学的薬物を包含する。広範囲に渡る治療薬を、本発明との関連で使用することができ、これらは、広範囲に渡る疾患および状態の治療のために使用されているものを含む。
【0072】
本発明に従って使用する典型的な治療薬は以下に列挙するものを含む:(a) 抗-血栓症薬、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレル、およびPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン);(b) 抗炎症薬、例えばデキサメタゾン、プレドニソロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、およびメサラミン;(c) 抗-新生物薬/増殖抑制薬/細胞分裂阻止薬、例えばパクリタクセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン(epothilones)、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞の増殖を遮断することのできるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤;(d) 麻酔薬、例えばリドカイン、ブピバカインおよびロピバカイン;(e) 抗-凝血薬、例えばD-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、RGDペプチド-含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗-トロンビン化合物、血小板レセプタアンタゴニスト、抗-トロンビン抗体、抗-血小板レセプタ抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤およびマダニ抗-血小板ペプチド;(f) 脈管細胞成長促進剤、例えば成長因子、転写活性化剤、および翻訳促進剤;(g) 脈管細胞成長阻害剤、例えば成長因子阻害剤、成長因子レセプタアンタゴニスト、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、抑制抗体、成長因子に対する抗体、成長因子と細胞毒素とからなる二官能性分子および抗体と細胞毒素とからなる二官能性分子;(h) プロテインキナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i) プロスタサイクリン類似体;(j) コレステロール-低下薬;(k) アンギオポエチン;(l) 抗-微生物薬、例えばトリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシドおよびニトロフラントイン;(m) 細胞毒性薬剤、細胞成長抑止薬および細胞増殖アフェクター;(n) 血管拡張薬;(o) 内因性血管作用メカニズムを妨害する薬剤;(p) 白血球漸増の阻害剤、例えばモノクローナル抗体;(q) サイトカイン;(r) ホルモン;(s) ゲルダナマイシンを含む、HSP 90タンパク質の阻害剤(即ち、熱ショックタンパク質、これは分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、また細胞の成長および生存に係る役割を担う、他のクライアント(client)タンパク質/シグナル伝達タンパク質の安定性および機能にとって必要とされるものである);(t) 平滑筋弛緩剤、例えばα-レセプタアンタゴニスト(例えば、デクサゾシン(doxazosin)、タムスロシン(tamsulosin)、テラゾシン、プラゾシン、およびアルフゾシン), カルシウムチャンネルブロッカー(例えば、ベラピミル(verapimil)、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピン、およびベプリジル)、β-レセプタアゴニスト(例えば、ドブタミン、およびサルメテロール)、β-レセプタアンタゴニスト(例えば、アテノロール、メタプロロール(metaprolol)およびブトキサミン)、アンギオテンシン-IIレセプタアンタゴニスト(例えば、ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン(eprosartan)およびテルミサルタン)、および鎮痙性/抗-コリン作用性薬物(例えば、オキシブチニンクロリド、フラボキサート、トルテロジン、ヒヨスチアミンサルフェート、ジクロミン(diclomine));(u) bARKct阻害剤;(v) ホスホランバン阻害剤;ホスホランバン阻害剤;(w) SERCA 2遺伝子/タンパク質;(x) アミノキゾリン(aminoquizolines)を含有する免疫応答改良剤、例えばレシキモド(resiquimod)およびイミキモド等のイミダゾキノリン;(y) ヒトアポリポプロテイン(例えば、AI、AII、AIII、AIVおよびAV等);(z) 選択的エストロゲンレセプタモジュレータ(SERMs)、例えばラロキシフェン、ラソフォキシフェン(lasofoxifene)、アルゾキシフェン(arzoxifene)、ミプロキシフェン(miproxifene)、オスペミフェン(ospemifene)、PKS 3741、MF 101およびSR 16234;(aa) PPAR アゴニスト、これはPPAR-α、-γおよび-δアゴニスト、例えばロシグリタゾン(rosiglitazone)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、ネトグリタゾン(netoglitazone)、フェノフィブラート、ベクサオテン(bexaotene)、メタグリダゼン(metaglidasen)、リボグリダゼン(rivoglitazone)およびテサグルタザール(tesaglitazar)を含む;(bb) プロスタグランジンEアゴニスト、これはPGE2アゴニスト、例えばアルプロスタジルまたはオノ(ONO)8815Lyを含む;(cc) トロンビンレセプタ活性化ペプチド(TRAP);(dd) ベナゼプリル、ホシノプリル、リジノプリル、キナプリル、ラミプリル、イミダプリル、デラプリル、モエキシプリルおよびスピラプリルを包含するバソペプチダーザ阻害剤;(ee) チモシンβ4;(ff) ホスホリルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルコリンを含むリン脂質;および(gg) VLA-4アンタゴニストおよびVCAM-1アンタゴニスト。
【0073】
具体的な治療薬は、とりわけ、タキサン(taxanes)、例えばパクリタクセル(例えば、タンパク質-結合パクリタクセル粒子、例えばアブラキサン(ABRAXANE)等のアルブミン-結合パクリタクセルナノ粒子を包含する、粒子形状にあるパクリタクセルを含む)、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ビオリムス(biolimus)、ゾタロリムス(zotarolimus)、Epo D、デキサメタゾン、エストラジオール、ハロフギノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、アラゲブリウム(alagebrium)クロリド(ALT-711)、ABT-578[アボットラボラトリーズ(Abbott Laboratories)社製]、トラピジル、リプロスチン(liprostin)、アクチノマイシンD、レステン(Resten)-NG、Ap-17、アブシキシマブ(abciximab)、クロピドグレル、リドグレル、β-ブロッカー、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、SERCA 2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI-AV)、成長因子(例えば、VEGF-2)、並びにこれらの誘導体を含む。
【0074】
必ずしも上で列挙したものに制限されることのない、多くの治療薬が、脈管治療養生のための候補として、例えば再狭窄をターゲットとする薬剤(抗-再狭窄剤)として同定されている。このような薬剤は、本発明の実施にとって有用であり、また以下に列挙するものの1種またはそれ以上を含む:(a) Ca-チャンネルブロッカー、これは例えばジルチアゼムおよびクレンチアゼム等のベンゾチアザピン、ニフェジピン、アムロジピンおよびニカルダピン(nicardapine)等のジヒドロピリジン、およびベラパミル等のフェニルアルキルアミン;(b) セロトニン経路調節剤、これはケタンセリンおよびナフチドロフリル等の5-HTアンタゴニスト、並びに5-HT取込み阻害剤、例えばフルオキセチンを含む;(c) 環状ヌクレオチド経路作用薬、これはシロスタゾールおよびジピリダモール等のホスホジエステラーゼ、アデニレート/グアニレートシクラーゼ刺激剤、例えばフォルスコリン、並びにアデノシン類似体を含む;(d) カテコールアミン調節剤、これはα-アンタゴニスト、例えばプラゾシンおよびブナゾシン、β-アンタゴニスト、例えばプロプラノロールおよびα/β-アンタゴニスト、例えばラベタロールおよびカルベジロールを含む;(e) エンドセリンレセプタアンタゴニスト、例えばボセンタン、ナトリウムシタクスセンタン(sitaxsentan)、アトラセンタン(atrasentan)、エンドネンタン(endonentan);(f) 一酸化窒素ドナー/放出性分子、これは有機ニトレート/ニトリット、例えばニトログリセリン、イソソルビドジニトレートおよびアミルニトリット、無機ニトロソ化合物、例えばナトリウムニトロ-プルシド、シドノニミン(sydnonimines)、例えばモルシドミンおよびリンシドミン、ノノエート、例えばジアゼニウムジオレートおよびアルカンジアミンのNO付加物、S-ニトロソ化合物[これは、低分子量化合物(例えば、カプトプリル、グルタチオンおよびN-アセチルペニシラミンのS-ニトロソ誘導体を含む)、および高分子量化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、オリゴサッカライド、ポリサッカライド、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS-ニトロソ誘導体)を含む]、並びにC-ニトロソ化合物、O-ニトロソ化合物、N-ニトロソ化合物およびL-アルギニンを含む;(g) アンギオテンシン転化酵素(ACE)阻害剤、例えばシラザプリル、ホシノプリルおよびエナラプリル;(h) ATII-レセプタアンタゴニスト、例えばサララシンおよびロサルチン(losartin);(i) 血小板接着阻害剤、例えばアルブミンおよびポリエチレンオキサイド;(j) 血小板凝集阻害剤[これはシロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)を含む]およびGP IIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマブ(abciximab)、エピチフィバチド(epitifibatide)およびチロフィバン(tirofiban);(k) 凝集経路調節剤[これはヘパリノイド、例えばヘパリン、低分子量ヘパリン、デキストランサルフェートおよびβ-シクロデキストリンテトラデカサルフェートを含む]、トロンビン阻害剤、例えばヒルジン、ヒルログ(hirulog)、PPACK(D-phe-L-プロピル-L-arg-クロロメチルケトン)およびアルガトロバン、FXa阻害剤、例えばアンチスタチン(antistatin)およびTAP(マダニ抗-凝血性ペプチド)、ビタミンK阻害剤、例えばワーファリン、並びに活性化タンパク質C;(l) シクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン;(m) 天然および合成コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、プレドニソロン、メタプレドニソロン(methprednisolone)およびヒドロコルチゾン;(n) リポキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばノルジヒドログアイアレチン酸およびカフェイン酸;(o) ロイコトリエンレセプタアンタゴニスト;(p) E-およびP-セレクチンのアンタゴニスト;(q) VCAM-1とICAM-1との相互作用阻害剤;(r) プロスタグランジンおよびその類似体、これはプロスタグランジン、例えばPGE1およびPGI2およびプロスタサイクリン類似体、例えばシプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロストおよびベラプロストを含む;(s) ビスホスホネートを包含するマクロファージ活性化抑制剤;(t) HMG-CoAリダクターゼ阻害剤、例えばロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン(cerivastatin);(u) 魚油およびω-3-脂肪酸;(v) 遊離基掃去剤/酸化防止剤、例えばプロブコール、ビタミンCおよびE、エブセレン、trans-レチノイン酸、SOD(オルゴテイン)およびSOD模擬物質、ベルテポルフィン、ロスタポルフィン(rostaporfin)、AGI 1067およびM 40419;(w) 様々な成長因子に影響を与える薬剤、これはFGF経路作用薬、例えばbFGF抗体およびキメラ融合タンパク質、PDGFレセプタアンタゴニスト、例えばトラピジル、ソマトスタチン類似体、例えばアンギオペプチン(angiopeptin)およびオクレオチド(ocreotide)を包含するIGF経路作用薬、TGF-β経路作用薬、例えばポリアニオン性薬剤(ヘパリン、フコイジン(fucoidin))、デコリン、およびTGF-β抗体、EGF経路作用薬、例えばEGF抗体、レセプタアンタゴニストおよびキメラ融合タンパク質、TNF-α経路作用薬、例えばサリドマイドおよびその類似体、トロンボキサンA2(TXA2)経路調節剤、例えばスロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベン(dazoxiben)およびリドグレル(ridogrel)、並びにプロテインチロシンキナーゼ阻害剤、例えばチルホスチン、ゲニステインおよびキノキサリン誘導体を含む;(x) マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)経路阻害剤、例えばマリマスタット(marimastat)、イロマスタット(ilomastat)、メタスタット(metastat)、バチマスタット(batimastat)、ペントサンポリサルフェート、レビマスタット(rebimastat)、インシクリニド(incyclinide)、アパラタスタット(apratastat)、PG 116800、RO 1130830またはABT 518;(y) 細胞運動性阻害剤、例えばサイトカラシンB;(z) 抗-増殖/抗-新生物形成薬、これは代謝拮抗物質、例えばプリンアンタゴニスト/類似体(例えば、6-メルカプトプリンおよび6-メルカプトプリンのプロ―ドラッグ、例えばアザチオプリンまたはクラドリビン(cladribine)、これは塩素化プリンヌクレオシド類似体である)、ピリミジン類似体(例えば、シタラビンおよび5-フルオロウラシル)およびメトトレキサート、ナイトロジェンマスタード(クロルメチン)、アルキルスルホネート、エチレンイミン、抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソウレア、シスプラチン、微小管の運動に影響を与える薬剤(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、エポ(Epo)D、パクリタクセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、脈管形成阻害剤(例えば、エンドスタチン、アンギオスタチンおよびスクアラミン)、オリムス群に属する薬剤、(例えば、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ビオリムス、ゾタロリムス等)、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミンを含む;(aa) マトリックス堆積/組織化経路阻害剤、例えばハロフギノンまたは他のキナゾリノン誘導体、ピルフェニドンおよびトラニラスト;(bb) 内皮形成促進剤、例えばVEGFおよびRGDペプチド;(cc) 血液レオロジー調節剤、例えばペントキシフィリン;および(dd) グルコース架橋破壊剤、例えばアラゲブリウム(alagebrium)クロリド(ALT-711)。
【0075】
同様に、本発明の実施にとって有用な、多数の追加的な治療薬が、Kunzに付与された米国特許第5,733,925号に記載されている。該米国特許の開示全体を参考としてここに組入れる。
【実施例】
【0076】
受渡媒介物(例えば、折畳まれたペバックス(PEBAX)受渡バルーン)上に、スリーブ放出剤としてのホスホリルコリン(PC)の第一層を、第一溶媒、例えばTHF(テトラヒドロフラン)またはジエチルエーテル中に該PCを溶解した溶液を該受渡媒介物に噴霧し、または該溶液中に該受渡媒介物を浸漬することにより、厚み1μmまで形成する。該第一の溶媒を十分に乾燥除去した後、薬物を担持するヒアルロン酸層(HA/薬物層)を、該PCで被覆した受渡媒介物上に、0.5〜5μmなる範囲の厚みとなるまで、第二の溶媒、例えばTHF またはDMF(ジメチルホルムアミド)中にHAおよびパクリタクセル等の治療薬を溶解した溶液を該ヒアルロン酸層に噴霧するか、あるいは該溶液中に該層を浸漬することによって形成する。該第二の溶媒を蒸発させて、該PC層上に該HA/薬物層を残す。次いで、最終的な組織接着層を、同様な様式で、即ち第三の溶媒、例えばTHFまたはDMF中にDOPAおよびHAを溶解した溶液を該受渡媒介物に噴霧するか。あるいは該溶液中に該媒介物を浸漬することによって適用し、これにより厚み1μmまでのDOPA/HA層を形成する。これに引続き、乾燥により該第三の溶媒を蒸発させて、該HA/薬物層上に該DOPA/HA層を残す。該HA/薬物層は、次には該PC層上に配置される。
【0077】
様々な態様が、本明細書において具体的に例示され、また説明されたが、本発明の改良および変更は、上記教示に含まれるものであり、また本発明の精神および意図された範囲を逸脱することなしに、添付した特許請求の範囲内に含まれるものであることが理解されよう。
【符号の説明】
【0078】
100・・医療デバイス;
110・・シート、チューブ;
120・・接着層;
130・・剥離層;
200・・バルーンカテーテル;
210・・カテーテル本体;
220・・バルーン;
3001・・血管の管腔;
300w・・血管壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたヒアルロン酸および治療薬を含有する、繊維質管状骨組を含むことを特徴とする、移植可能な医療デバイス。
【請求項2】
前記繊維質管状骨組の内側表面上に、受渡デバイスからの剥離を促進する剥離層を更に含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項3】
前記繊維質管状骨組の外側表面上に、該繊維質骨組の身体組織に対する接着を促進する、接着層を更に含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項4】
前記接着層が、前記繊維質骨組の血管壁に対する接着を促進する、請求項3記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項5】
前記繊維質管状骨組が、更にヘパリンをも含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項6】
前記繊維質管状骨組が、生分解性の架橋剤により架橋されている、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項7】
前記治療薬が、プラーク形成抑制剤、再狭窄形成抑制剤、および内皮形成促進剤から選択される、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項8】
前記デバイスが、更にステントをも含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項9】
バルーンカテーテルと、生侵食性ポリマーおよび治療薬を含む繊維質管状骨組とを含み、該繊維質管状骨組が、該バルーンカテーテルのバルーン上に、エレクトロスパンされていることを特徴とする、受渡システム。
【請求項10】
前記繊維質管状骨組が、グリコサミノグリカンを含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項11】
前記繊維質管状骨組が、ヒアルロン酸を含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項12】
前記繊維質管状骨組が、ヒアルロン酸およびヘパリンを含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項13】
前記バルーン上に前記繊維質骨組をエレクトロスピニングする前に、該バルーンからの剥離を促進する材料で出来た層を、該バルーンに適用する、請求項9記載の受渡システム。
【請求項14】
前記繊維質管状骨組の身体組織への接着を促進する材料で出来た層を、該繊維質管状骨組の外側表面に適用する、請求項9記載の受渡システム。
【請求項15】
(a) 生侵食性ポリマーおよび治療薬含む、シートまたはチューブ形状にある骨組、(b) 該繊維質骨組の一表面上の、受渡デバイスからの剥離を促進する剥離材料、および(c) 該繊維質骨組の反対側表面上の、該繊維質骨組の身体組織に対する接着を促進する接着性材料を含むことを特徴とする、移植可能な医療デバイス。
【請求項16】
前記骨組が、架橋されたヒアルロン酸および治療薬を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項17】
前記剥離材料が、両性イオン性分子を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項18】
前記両性イオン性分子が、ホスホリルコリン、1種またはそれ以上のアルキル鎖を含むホスホリルコリン誘導体、および疎水性ポリアミノ酸部分と両性イオン性親水性ポリアミノ酸部分を含む両親媒性ペプチドアミノ酸から選択される、請求項17記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項19】
更に、マイクロカプセルを含む塩水を含有する、請求項17記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項20】
前記剥離材料が、剪断応力に対して感受性の接着剤を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項21】
前記剪断応力感受性接着剤が、ポリビニルピロリドン(PVP)とポリエチレングリコール(PEG)とのブレンドである、請求項20記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項22】
前記接着性材料が、疎水性薬物を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項23】
前記接着性材料が、MSCRAMMを含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項24】
前記接着性材料が、疎水性ポリアミノ酸部分と親水性ポリアミノ酸部分を含む両親媒性ペプチドアミノ酸を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項25】
前記接着性材料が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項26】
前記接着性材料が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含むポリ(アミノ酸)である、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項27】
前記治療薬が、プラーク形成抑制剤、再狭窄形成抑制剤、および内皮形成促進剤から選択される、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項28】
請求項1記載のデバイスを、血管に適用する工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【請求項29】
請求項15記載のデバイスを、血管に適用する工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【請求項30】
請求項9記載の受渡システムを、血管内に挿入し、該システムのバルーンを膨張させる工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【請求項1】
架橋されたヒアルロン酸および治療薬を含有する、繊維質管状骨組を含むことを特徴とする、移植可能な医療デバイス。
【請求項2】
前記繊維質管状骨組の内側表面上に、受渡デバイスからの剥離を促進する剥離層を更に含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項3】
前記繊維質管状骨組の外側表面上に、該繊維質骨組の身体組織に対する接着を促進する、接着層を更に含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項4】
前記接着層が、前記繊維質骨組の血管壁に対する接着を促進する、請求項3記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項5】
前記繊維質管状骨組が、更にヘパリンをも含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項6】
前記繊維質管状骨組が、生分解性の架橋剤により架橋されている、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項7】
前記治療薬が、プラーク形成抑制剤、再狭窄形成抑制剤、および内皮形成促進剤から選択される、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項8】
前記デバイスが、更にステントをも含む、請求項1記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項9】
バルーンカテーテルと、生侵食性ポリマーおよび治療薬を含む繊維質管状骨組とを含み、該繊維質管状骨組が、該バルーンカテーテルのバルーン上に、エレクトロスパンされていることを特徴とする、受渡システム。
【請求項10】
前記繊維質管状骨組が、グリコサミノグリカンを含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項11】
前記繊維質管状骨組が、ヒアルロン酸を含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項12】
前記繊維質管状骨組が、ヒアルロン酸およびヘパリンを含む、請求項9記載の受渡システム。
【請求項13】
前記バルーン上に前記繊維質骨組をエレクトロスピニングする前に、該バルーンからの剥離を促進する材料で出来た層を、該バルーンに適用する、請求項9記載の受渡システム。
【請求項14】
前記繊維質管状骨組の身体組織への接着を促進する材料で出来た層を、該繊維質管状骨組の外側表面に適用する、請求項9記載の受渡システム。
【請求項15】
(a) 生侵食性ポリマーおよび治療薬含む、シートまたはチューブ形状にある骨組、(b) 該繊維質骨組の一表面上の、受渡デバイスからの剥離を促進する剥離材料、および(c) 該繊維質骨組の反対側表面上の、該繊維質骨組の身体組織に対する接着を促進する接着性材料を含むことを特徴とする、移植可能な医療デバイス。
【請求項16】
前記骨組が、架橋されたヒアルロン酸および治療薬を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項17】
前記剥離材料が、両性イオン性分子を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項18】
前記両性イオン性分子が、ホスホリルコリン、1種またはそれ以上のアルキル鎖を含むホスホリルコリン誘導体、および疎水性ポリアミノ酸部分と両性イオン性親水性ポリアミノ酸部分を含む両親媒性ペプチドアミノ酸から選択される、請求項17記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項19】
更に、マイクロカプセルを含む塩水を含有する、請求項17記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項20】
前記剥離材料が、剪断応力に対して感受性の接着剤を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項21】
前記剪断応力感受性接着剤が、ポリビニルピロリドン(PVP)とポリエチレングリコール(PEG)とのブレンドである、請求項20記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項22】
前記接着性材料が、疎水性薬物を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項23】
前記接着性材料が、MSCRAMMを含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項24】
前記接着性材料が、疎水性ポリアミノ酸部分と親水性ポリアミノ酸部分を含む両親媒性ペプチドアミノ酸を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項25】
前記接着性材料が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含む、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項26】
前記接着性材料が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を含むポリ(アミノ酸)である、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項27】
前記治療薬が、プラーク形成抑制剤、再狭窄形成抑制剤、および内皮形成促進剤から選択される、請求項15記載の移植可能な医療デバイス。
【請求項28】
請求項1記載のデバイスを、血管に適用する工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【請求項29】
請求項15記載のデバイスを、血管に適用する工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【請求項30】
請求項9記載の受渡システムを、血管内に挿入し、該システムのバルーンを膨張させる工程を含むことを特徴とする、治療方法。
【図1】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【公表番号】特表2012−527320(P2012−527320A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511989(P2012−511989)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/035391
【国際公開番号】WO2010/135418
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/035391
【国際公開番号】WO2010/135418
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】
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