説明

治療計画装置

【課題】線量分布の一様度が向上した治療計画データを作成する粒子治療計画装置を提供することを課題とする。
【解決手段】粒子線治療を行うための治療計画データを作成する治療計画装置において、患者の患部(標的)を含む複数枚の断層画像から標的の動きを抽出し、これを走査電磁石の走査面内に射影することで、走査方向を定める。この走査方向に平行な直線上に照射位置を配置することで、標的方向に主な走査を行う走査経路が算出でき、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療計画装置に係り、特に、陽子及び炭素イオン等の荷電粒子ビームを患部に照射して治療する粒子線出射装置に用いる治療計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は、標的となる腫瘍細胞に対して粒子線を照射することによって治療を行う。放射線を用いる治療の中ではX線が最も広く利用されているが、標的への線量集中性が高い陽子線や炭素線に代表される粒子線(荷電粒子ビーム)を利用した治療への需要が高まっている。
【0003】
過度の照射や照射量の不足は、腫瘍以外の正常組織への副作用や腫瘍の再発に結びつく。そのため、腫瘍領域に対しできるだけ正確に、できるだけ集中するように、指定した線量を照射することが求められる。粒子線治療においては、線量を集中させる方法としてスキャニング照射法の利用が広がりつつある。スキャニング照射法とは、細い荷電粒子ビームを、腫瘍内部を塗りつぶすように照射することで腫瘍領域にのみ高い線量を付与するという方法である。スキャニング照射法の場合、荷電粒子ビームの線量分布を腫瘍形状に成型するためのコリメータ等の患者固有の器具が基本的に必要なく、様々な分布を形成できる。
【0004】
腫瘍内部の任意の位置を照射するために、スキャニング法では、荷電粒子ビームの到達深さ(飛程)の制御と、ビーム進行方向と垂直な面内(横方向)での照射位置制御が必要となる。飛程の制御は、加速器、あるいは飛程変調体によりエネルギーを変化させることで行う。横方向の制御は、二組の走査電磁石によりビーム進行方向を偏向させ、平面内の任意の位置に導くことで行う。
【0005】
スキャニング照射法では、X線による照射のように拡げたビームで腫瘍全体を同時に照射するのではなく、分割された領域ごとに順番に照射する。そのため、呼吸や心拍等で移動する標的に対して照射すると、それぞれの照射位置の相対的な距離が計画時から変化し、計画した通りの線量分布が得られない可能性がある。これを回避するため、例えば照射する標的の動きを観察しながら標的が特定位置にある場合のみ荷電粒子ビームを照射する方法などがある。
【0006】
この他にも、照射回数や走査経路の制御により、計画した線量分布からの差異を低減させる方法が提案されている。例えば、特許文献1では、同一の位置を複数回に分割して照射することで標的の移動による誤差を平均化し、計画の線量分布に近付ける。また、非特許文献1では、荷電粒子ビームの主な走査の方向を標的の移動方向に合致させることで、より目標に近い線量分布になることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4273502号公報
【特許文献2】特開2009−66106号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S Water,R Kreuger,S Zenklusen, E Hug and A J Lomax,“Tumour tracking with scanned proton beams assessing the accuracy and practicalities”,Phys. Med. Biol. 54 (2009) 6549-6563.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、従来の治療計画装置において、荷電粒子ビームの走査方向を任意に設定することは困難であった。従来の治療計画装置では、走査方向は標的の移動方向とは無関係に以下の様に決められる。横方向の照射位置の制御は、前述のように二組の走査電磁石により行い、これらは互いに垂直な方向に荷電粒子ビームを走査する。走査可能な速度は二つの電磁石で同じではなく、一般的にビーム進行方向に対して上流側にある電磁石の方が高速に走査可能である。このため、走査する経路は高速に走査可能な方向に移動し、標的の端まで到達すると、もう一台の走査電磁石の方向に少し移動した後、再び高速な走査方向に移動することを繰り返す、ジグザグの経路をとることが一般的である。例えば、特許文献2においてはこうした経路が使われている。
【0010】
標的の移動方向と同じ方向に荷電粒子ビームの走査を行うためには、治療計画装置が標的の動きを把握した上で、どちらの走査方向が標的の動きに該当するのかを判断する必要がある。これは、照射装置により患者の任意の方向から荷電粒子ビームを照射できるため、同じ標的の動きでも照射方向を考慮した上で走査方向を決定しなくてはならず、操作者が簡単に判断することは難しかった。
【0011】
以上のように、実際の標的の3次元的な動きと指定された照射方向から、操作者が走査方向を簡便に指定できる手段はこれまでの治療計画装置にはなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、粒子線治療を行うための治療計画を作成する治療計画装置において、入力装置と、前記入力装置の入力結果に基づき演算処理を行い、治療計画情報を作成する演算装置と、前記治療計画情報を表示する表示装置とを備え、前記演算装置は、予め指定された任意の方向を、走査電磁石により粒子ビームの照射位置を走査する主な方向として走査経路を算出することを特徴とする治療計画装置により解決することができる。
【0013】
標的の移動方向として指定する方向は、標的領域を含む複数の状態を撮像した断層画像から、特定領域の位置を算出し、前記領域位置の移動方向を抽出し、前記移動方向を粒子ビーム走査面に射影した方向とすることで演算装置により算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線量分布の一様度が向上する治療計画データを作成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施形態により治療計画が立案されるまでの流れを示す図である。
【図2】本発明の好適な実施形態1の治療計画装置による治療計画の立案の流れを示すフローチャート図である。
【図3】粒子線治療システム全体の構成を示す説明図である。
【図4】照射野形成装置の構成を示す説明図である。
【図5】実施形態1の治療計画装置を含めた制御装置の構成を示す説明図である。
【図6】実施形態1の治療計画装置の構成を示す説明図である。
【図7】CTデータのスライス内における標的領域の入力を説明する図である。
【図8】スキャニング法によるビーム照射の様子を示す概念図である。
【図9】実施形態1における標的移動方向を算出する方法の手順を示す説明図である。
【図10】実施形態1における標的移動方向を算出する方法の手順を示す説明図である。
【図11】実施形態1の方法で標的移動方向を指定する画面を表す図である。
【図12】スポット位置を算出する方法の手順を示す説明図である。
【図13】実施形態1の手順により算出された走査方向を示す説明図である。
【図14】実施形態2における座標系を示す説明図である。
【図15】実施形態3の治療計画装置による治療計画の立案の流れを表すフローチャート図である。
【図16】実施形態3に記載の方法による走査経路を変更を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の好適な一実施例である治療計画装置を、図面を用いて説明する。まず、本実施例の治療計画装置を説明する前に、治療計画装置が対象とする粒子線治療システムを、図3,図4を用いて説明する。
【0018】
粒子線治療システム全体の構成を、図3を用いて説明する。荷電粒子ビーム発生装置301は、イオン源302,前段加速器303,粒子ビーム加速装置304を備える。本実施例では、シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置を想定するが、サイクロトロン等、他のどの粒子ビーム加速装置を用いても本実施例の機能は適用できる。シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304は、図3に示すように、その周回軌道上に偏向電磁石305,加速装置306,出射用の高周波印加装置307,出射用デフレクタ308、および4極電磁石(図示せず)を備える。
【0019】
図3を用いて、シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304を利用した粒子ビーム発生装置301において、荷電粒子ビームが患者へ向けて出射されるまでを説明する。イオン源302より供給された粒子(陽子や重粒子など)は、前段加速器303にて加速され、ビーム加速装置であるシンクロトロン304へと送られる。シンクロトロン304には加速装置306が設置されており、シンクロトロン304内を周回する荷電粒子ビームが加速装置306を通過する周期に同期させて加速装置306に設けられた高周波加速空胴(図示せず)に高周波を印加し、荷電粒子ビームを加速する。このようにして荷電粒子ビームが所定のエネルギーに達するまで加速される。
【0020】
所定のエネルギー(例えば70〜250MeV)まで荷電粒子ビームが加速された後、中央制御装置312より、照射制御システム314を介して出射開始信号が出力されると、高周波電源309からの高周波電力が、高周波印加装置307に設置された高周波印加電極により、シンクロトロン304内を周回している荷電粒子ビームに印加され、荷電粒子ビームがシンクロトロン304から出射される。
【0021】
高エネルギービーム輸送系310は、シンクロトロン304と照射野形成装置400とを接続している。シンクロトロン304から取り出された荷電電粒子ビームは、高エネルギービーム輸送系310を介して回転照射装置311に設置された照射野形成装置400まで導かれる。回転照射装置311は、患者406の任意の方向から荷電粒子ビームを照射するためにあって、装置全体が回転することで患者406の設置されたベッド407の周囲どの方向へも回転することができる。
【0022】
照射野形成装置400は、最終的に患者406へ照射する荷電粒子ビームの形状を整形する装置であり、その構造は照射方式により異なる。照射方式として代表的なものに、散乱体法とスキャニング法があるが、本実施例はスキャニング法を対象とする。スキャニング法においては、高エネルギービーム輸送系310から輸送された細い荷電粒子ビームをそのまま標的へ照射し、これを三次元的に走査することで、最終的に標的のみに高線量領域を形成することができる。
【0023】
スキャニング法に対応した照射野形成装置400の構成を、図4に示す。図を基に、それぞれの役割と機能とを簡単に述べる。照射野形成装置400は、上流側から二つの走査電磁石401および402,線量モニタ403,ビーム位置モニタ404を備える。線量モニタはモニタを通過した荷電粒子ビームの量を計測する。一方、ビーム位置モニタは、荷電粒子ビームが通過した位置を計測することができる。これらのモニタからの情報により、計画通りの位置に、計画通りの量の荷電粒子ビームが照射されていることを、照射制御システム314が管理することが可能となる。
【0024】
荷電粒子ビーム発生装置301から高エネルギービーム輸送系310を経て輸送された細い荷電粒子ビームは、走査電磁石401,402によりその進行方向を偏向される。これらの走査電磁石は、ビーム進行方向と垂直な方向に磁力線が生じるように設けられており、例えば図4では、走査電磁石401は走査方向405の方向にビームを偏向させ、走査電磁石402はこれに垂直な方向に偏向させる。この二つの走査電磁石を利用することで、ビーム進行方向と垂直な面内において任意の位置に荷電粒子ビームを移動させることができ、標的406aへのビーム照射が可能となる。
【0025】
照射制御システム314は、走査電磁石磁場強度制御装置411を介して、走査電磁石401および402に流す電流の量を制御する。走査電磁石401,402には、走査電磁石用電源410より電流が供給され、電流量に応じた磁場が励起されることで荷電粒子ビームの偏向量を自由に設定できる。荷電粒子ビームと偏向量と電流量との関係は、あらかじめテーブルとして中央制御装置312の中のメモリ313に保持されており、それを参照する。
【0026】
スキャニング法での荷電粒子ビームの走査方式には二通りある。一つは照射位置の移動と停止を繰り返す離散的な方式、もう一つは連続的に照射位置を変化させる方式である。離散的に移動させるには、照射位置をある点に留めたまま、規定量の荷電粒子ビームを照射する。この点のことをスポットと呼ぶ。続いて、一時的に荷電粒子ビームの供給を停止させた後、次の位置へ照射できるように走査電磁石の電流量を変化させる。次の照射位置に移動後、再び荷電粒子ビームを照射させる。この時、高速な走査が可能であれば、移動中も荷電粒子ビームを停止させないことも可能である。
【0027】
連続的に移動する方法では、荷電粒子ビームを照射したまま照射位置を変化させる。すなわち、走査電磁石の励磁量を連続的に変化させながら、照射野内全体を通過するように荷電粒子ビームを照射しながら移動させる。この方法における照射位置ごとの照射量の変化は、走査電磁石による走査速度か荷電粒子ビームの電流量、あるいはその両方を変調させることで実現する。
【0028】
続いて、本発明の好適な一実施例である治療計画装置を、図5を用いて説明する。まず、治療計画装置501は、ネットワークによりデータサーバ502,中央制御装置312と接続される。治療計画装置501は、図6に示すように、入力装置602,表示装置603,メモリ604,演算処理装置605,通信装置606を備える。演算処理装置605が、入力装置602,表示装置603,メモリ(記憶装置)604,通信装置606に接続される。
【0029】
治療に先立ち、治療計画用の画像が撮像される。治療計画用の画像として最も一般的に利用されるのはCTデータである。CTデータは、患者の複数の方向から取得した透視画像から、3次元のデータを再構成したデータである。近年の撮像時間の高速化に伴い、例えば呼吸に伴う周期的な動きのある部位でも、呼吸移動による異なる状態(位相と呼ぶ)における画像を複数枚撮像することで、位相ごとのCTデータを複数セット取得することが可能なCTもある。これを4DCTと呼ぶ。4DCT画像では、異なる位相でのCTデータを比較することで、標的の呼吸等による動きを確認することができる。この時、動きをより明確に把握するために、金属球などのマーカーを埋め込み、その動きを追うことで標的の位置を把握する方法であってもよい。
【0030】
CT装置(図示せず)により撮像されたCTデータは、データサーバ502に保存されている。治療計画装置501は、このCTデータを利用する。治療計画立案の流れを図1により示す。まず、治療計画の立案が開始されると(ステップ101)、治療計画装置501の操作者である技師(または医師)からの指示により、治療計画装置501は、データサーバ502から対象となるCTデータを読み込む。すなわち、治療計画装置501は、通信装置606に接続されたネットワークを通じて、データサーバ502からCTデータをメモリ604上にコピーする(記憶させる)。
【0031】
CTデータの読み込みが完了すると、操作者は表示装置603に表示されたCTデータを確認しながら、入力装置602に相当するマウス等の機器を用いて、CTデータのスライスごとに標的として指定すべき領域を入力する。4DCTのように、同一部位を撮像した複数のデータセットが存在する場合には、複数枚の画像から一枚の合成画像を生成し、この画像に対して上記の標的選択操作を行えばよい。例えば、それぞれの画像から、同じ位置を表す点のCT値を比較し、すべての点において最も輝度の高い数値を選択していくことで1セットの合成画像を得ることができる。
【0032】
各スライスで入力が終わると、操作者は入力した領域を装置に登録する(ステップ102)。登録することで、操作者が入力した領域は3次元の位置情報としてメモリ604内に保存される。照射線量を極力抑えるべき重要臓器が標的領域の近傍に存在するなど、他に評価,制御を必要とする領域がある場合、操作者はそれら重要臓器等の位置も同様に登録する。図7は操作者が表示装置603において、CTデータのあるスライス701上で標的領域702を入力した状態を例として示している。
【0033】
次に、操作者は、照射方向、すなわち、回転照射装置311とベッド407の角度を指定する。複数方向からの照射を行う場合には、複数の角度を選択する。この他に操作者が決定すべき照射のためのパラメータとしては、ステップ102で登録した領域に照射すべき線量値(処方線量)や隣り合うスポット間の間隔がある。処方線量は標的に照射すべき線量や、重要臓器が避けるべき最大線量が含まれる。スポット間隔は、荷電粒子ビームのビームサイズと同程度になるように初期値が自動的に決定されるが、操作者により変更することも可能である。操作者は、こうした必要な照射パラメータを設定する(ステップ103)。
【0034】
これらの照射パラメータに加えて、本実施例の治療計画装置の特徴である標的の移動方向を指定する。指定方法を、図8と図9を使って説明する。図8のように、照射時には標的領域702の重心位置がアイソセンタ(回転照射装置311の回転中心位置)801に一致するように位置決めされることが想定される。スポット位置は、アイソセンタ801を含み走査中心点(線源)802とアイソセンタ801を結ぶ直線(ビーム中心軸)803に垂直な面(アイソセンタ面)804上の座標で定義される。以下は面804をアイソセンタ面、直線803をビーム中心軸と呼ぶ。例えば、アイソセンタ面804上の位置805にスポットがあると、荷電粒子ビームはアイソセンタ面804上の点805を通過するように走査電磁石401,402の電流が調整され、その荷電粒子ビームの軌跡は直線806のようになる。この荷電粒子ビームがどこで停止するのかは、ビームエネルギーに依存する。
【0035】
以下では、マーカーを埋め込んだ状態で4DCTを撮像した例に基づき説明する。マーカーがない場合にも、操作者が画像内の任意の特徴点を指定することで同様の効果が得られる。治療計画装置501は、メモリ604上に読み込んでいる4DCTの各位相のCTデータについて、CTデータの全スライス画像を探索し、マーカー位置を特定する。自動探索が難しい場合には、操作者が直接指定してもよい。この結果、それぞれの位相に対応したCTデータでのマーカー位置が定まる。図9にこの様子を表す。点902や点903は、ある位相におけるマーカーの位置である。すべての位相でのマーカー位置を直線で結べば、マーカーの3次元的な軌跡904が求まる。この動きが標的の動きを代表するように、マーカー位置は決められている。
【0036】
次に、点902,点903を含む各位相でのマーカー位置を、アイソセンタ面804に射影する。図9で、点902がアイソセンタ面804に射影された点が点905である。このように、すべての点をアイソセンタ面804に射影することで、アイソセンタ面804に射影されたマーカーの軌跡906が求まる。
【0037】
射影結果は、治療計画装置501の表示装置603上に表示される。この様子が図10である。図10に示す点1001,1002,1003,1004,1005,1006は、位相ごとのマーカー位置をアイソセンタ面804に射影した位置を表す。表示されたこの画像から、治療計画装置501の演算処理装置605が標的移動方向を自動で算出する。例えば、演算処理装置605は、点1001〜点1006までの各点間の距離を計算し、最も距離の長くなる組み合わせとなる点と点を探索する。図10では、結果として得られた点1001と点1004を結ぶ直線1007に沿った向きを移動方向と定義する。なお、マーカーが特定の範囲内にある場合のみビームが照射される場合は、マーカーがその範囲内にある位相に対応した点のみを抽出した上で同様の計算を行うことも可能である。
【0038】
算出された方向も、治療計画装置501の表示装置603に表示される。表示される画面例を図11に示す。算出された方向1101が矢印で表示されている。この画面はアイソセンタ面804を表示した図10と同時に表示される。あるいは矢印1101が、図10の画面上に重ねて表示されてもよい。方向を定義するための座標系は図10の座標系1008、図11の座標系1102とも共通である。操作者はこれを確認し、必要があれば手動で方向を修正することもできる。図11の入力画面1103に、矢印1101のx方向とy方向の成分を入力すればよい。あるいは、マウス等の入力装置を用いて画面上で直接方向を指定することも可能である(ステップ104)。
【0039】
以上のようにマーカー位置を平面に射影した後に移動方向を定めてもよいが、射影しないまま移動方向を決めてもよい。すなわち、図9の点902,点903をはじめとする各点において、最も距離の長くなる二点の組を探索し、それを結ぶ方向を標的移動方向とする。図9の場合は、点902と点903を結ぶ直線に沿った向きが移動方向となる。続いてその方向をアイソセンタ面804に射影することで、アイソセンタ面での移動方向が定まる。
【0040】
この方法の利点は、アイソセンタ面804と垂直な方向の移動成分も計算できる点にある。荷電粒子ビームによる線量分布は、進行方向に垂直な方向ではほぼガウス分布となるが、進行方向では停止直前に鋭いピークを有する分布となっている。そのため、ビーム進行方向、すなわちアイソセンタ面804と垂直な方向の標的の移動は、横方向への移動よりも線量分布への影響が一般的に大きくなる。図11の画面に標的のアイソセンタ面804と垂直な移動成分も同時に表示することで、この値が望ましい値よりも小さくなるように、操作者がビーム照射方向、すなわち、回転照射装置311やベッド407の角度を修正することが可能となる。
【0041】
以上のパラメータが決まった後、治療計画装置501が自動で計算を行う(ステップ105)。以下で、図2に従って治療計画装置501が行う計算内容の詳細に関して説明する。
【0042】
初めに、治療計画装置501は、ビーム照射位置を決定する。離散的な走査方式であれば、離散的なスポット位置、連続的な照射であれば走査経路を算出する。本実施例では、離散的な走査方式に基づいて説明するが、連続的な走査方法であってもよい。連続的な走査方法を、走査経路上に細かく離散的な通過位置が用意されていると考えれば、本実施例と同様の効果が得られる。照射方向(回転照射装置311とベッド407の角度)として複数の方向が指定されている場合は、各方向に関して同じ操作を行う。
【0043】
治療計画装置501は、メモリ604に読み込まれたCTデータと、操作者の入力した領域情報からスポット位置の選択を開始する(ステップ201)。前述したように、照射位置はアイソセンタ面804上の座標で決定される。例として、図8でアイソセンタ面804上の位置、点805が照射位置として選ばれたとする。治療計画装置501は、線源802と、点805を結ぶ直線806に沿ってビームを照射した場合に、ビームの停止する位置がほぼ標的内となるエネルギーを探索し、そのエネルギー(一種類とは限らない)を点805の位置に照射するエネルギーとして選択する。これをアイソセンタ面上に設定したすべての照射位置に対して行うことで、標的を照射するのに必要なアイソセンタ面上の照射位置とエネルギーの組が求まる。これが、実際に照射するスポットとなる。
【0044】
アイソセンタ面804上での照射位置の選択は、隣り合う照射位置の間隔がステップ103で指定された値以下となるように並べられる。最も簡単な方法として、一辺が指定された間隔の正方格子上に並べればよい。本実施例の治療計画装置501は、この時の格子の軸、すなわち照射位置が直線上に並ぶ方向として、ステップ104で決定した方向を選ぶことができる。図12にスポットを選択するまでの概念図を示す。図12には、ステップ104で決定した方向1101が併記してある。
【0045】
まず、治療計画装置501は方向1101に平行な複数の直線を設定する(ステップ202)。その中の一つが直線1201である。直線間の間隔は、ステップ103で選択した間隔となる。次に、設定された直線上に照射位置が設定される(ステップ203)。同一直線上にある隣り合う照射位置の間隔も、直線同士の間隔に等しい。設定された照射位置が図12において1202,1203などの円で表されているが、方向1101を軸とした正方格子上に並んでいるのが分かる。最後に、これらの位置に荷電粒子ビームを照射した場合に、ビーム停止位置が標的内に入るビームエネルギーを選択する(ステップ204)。標的外となる照射位置には、荷電粒子ビームを照射しない。図12では、1202のように白い円のマークで示される照射位置には、荷電粒子ビームが照射されず、1203で示した黒い円の照射位置にだけ、荷電粒子ビームが照射される。点線1204は、あるエネルギーの荷電粒子ビームの停止位置に相当する深さでの標的形状の輪郭線を表す。
【0046】
離散的な走査であり、かつスポット間の移動中に荷電粒子ビームを停止していれば最終的な線量分布は走査経路に寄らない。この場合、走査経路の決定はスポットごとの照射量が決まった後でもよいが、それ以外の照射方法では走査経路を考慮した上で線量分布計算が必要になるため、この段階で走査経路を決定する。本実施例では、走査方式に寄らずここで走査経路を定めるとする(ステップ205)。
【0047】
走査経路は、ステップ202で設定した直線に沿うように決まる。図13では、あるエネルギーのビームのスポット位置が点1203のような黒い円のマークで表されている。操作者の定めた方向と平行な直線の中で、図で最も上にある直線である直線1301から走査経路がスタートする。走査経路は直線1301に沿って直線上のスポット間を移動し、端まで到達すると隣の直線へと移動する。次の直線上での走査向きは逆向きになる。この動きを繰り返しながら最終的に直線1302上のスポットをすべて通過したところで終了する。結果として、矢印1303で表したようなジグザグの経路となる。
【0048】
この走査経路を決める作業を、選択されたすべてのビームエネルギーに対応するスポットに関して行う。すべてのエネルギーで終了すると、照射に必要な全スポットに対して経路が定まったことになる(ステップ206)。照射方向が複数ある場合は、すべての方向に関して同様の作業を行う(ステップ207)。
【0049】
全てのスポット位置とその経路が決定されると、治療計画装置501はそのまま照射量の最適化計算を開始する(ステップ208)。ステップ103で設定された目標の線量分布に近づくように、各スポットへの照射量を決める。この計算では、スポットごとの照射量をパラメータとした目標線量からのずれを数値化した目的関数を用いる方法が広く採用されている。目的関数は線量分布が目標とする線量を満たすほど小さな値となるように定義されており、これを最小にするような照射量を反復計算により探索することで、最適とされる照射量を算出する。
【0050】
反復計算により照射量が定まると、治療計画装置501は最終的に得られたスポット位置とスポット照射量を用いて、線量分布を計算する(ステップ209)。計算した結果は、表示装置603に表示される(ステップ210)。操作者はこの結果を調べ、線量分布が目標とする条件を満たしているか否かを判断する。線量分布だけでなく、治療計画装置501により算出されたスポット位置や走査経路も、表示装置603上で確認することができる(ステップ106)。望ましくない分布や走査経路となっていた場合は、ステップ103に戻り、照射パラメータを設定し直す。変更すべきパラメータとしては、照射方向や処方線量,スポット間隔が含まれる。
【0051】
ステップ103に戻り条件を変更した場合も、ステップ104で決定した標的移動方向は保存されている。操作者の指示する新たな条件で、ステップ201〜ステップ209までの方法に従い走査経路や線量分布を更新し、新しい結果が表示装置603に表示される。望ましい結果が得られた時点で、治療計画の立案は終了する(ステップ107)。得られた照射条件は、ネットワークを通じてデータサーバ502に保存される(ステップ108,ステップ109)。
【0052】
荷電粒子ビームを照射する場合、中央制御装置312は、データサーバ502に保存されている該当する治療計画データを読み込む。データは必要があれば中央制御装置312の読み込める形式に変換される。照射制御システム314は、中央制御装置312により照射すべき荷電粒子ビームのエネルギー,走査位置,照射量が指定される。この指示に従って、照射制御システム314は荷電粒子ビームを照射する。
【0053】
本実施例によれば、患者の患部の動きを入力し、その方向に合致する方向に主に荷電粒子ビームを走査するような治療計画データを作成できるため、線量分布の一様度が向上した治療計画データを提供することができる。
【実施例2】
【0054】
実施例1では、4DCTの画像を利用して標的の移動方向を抽出する方法を述べたが、4DCTでなく通常のCTデータを利用する場合でも、移動方向を直接操作者が指定することで同様の効果を得ることができる。実施例2ではこの方法について述べる。
【0055】
本実施例における操作方法は、図1におけるステップ103までは実施例1と同様である。以下、実施例1と異なる方法について説明する。本実施例では、ステップ104での標的の移動方向の決定を、4DCTの結果は用いずに操作者が行う。マーカー等によって直接標的位置の確認を行わなくとも、特定の臓器の呼吸や心拍による移動方向は大きく変動しないと考えられる場合には、標的の移動方向を抽出する手間を省き、操作者が直接移動方向を指定することが可能である。
【0056】
操作者は、CTデータにおける3次元座標系において標的移動方向を指定する。例えば図14のような座標系で行う。図14では、足から頭の向きがz軸と定義され、それと直交する方向にx軸とy軸が設定されている。標的が足から頭の方向に移動していると判断した場合、操作者はこの座標系で3次元の向きを指定する。すなわち図11に類似する入力画面を用いて、(x,y,z)=(0,0,1)という値を入力する。
【0057】
方向が決定されると、治療計画装置は図14の座標系で指定された方向を、アイソセンタ面804に射影し、アイソセンタ面804上での方向を算出する。方向が定まると、ステップ105以降は実施例1と同じ方法で進めることができる。本実施例によれば、4DCTによる位相ごとのマーカーの位置を確認する必要がないため、操作者の手間を低減できる。
【0058】
本実施例によれば、患者の患部の動きを入力し、その方向に合致する方向に主に荷電粒子ビームを走査するような治療計画データを作成できるため、線量分布の一様度が向上した治療計画データを提供することができる。
【実施例3】
【0059】
実施例1および実施例2の方法では、指定された方向に平行な直線上にスポットが配置される。この方法では、指定した方向が変更となった場合にはスポット位置も変更となり、図2ではステップ203以降の計算をすべて再度行う必要がある。
【0060】
一方で、離散的な走査方式であって、走査中に荷電粒子ビームを停止すれば、スポットの位置が同じ限り線量分布は走査経路に依存しない。その場合は、実施例1および実施例2の方法とは別に、あらかじめ決められたスポット位置から、任意の方向に沿うように走査経路だけを変更することが可能となる。この方法を実施例3として以下に説明する。
【0061】
治療計画装置501の自動計算に相当する部分(図1のステップ105)の、本実施例における流れを図15に示す。自動計算の開始(ステップ1501)後、従来の治療計画装置と同様に、走査方向を考慮しないまま、スポット位置の選択(ステップ1502),スポットごとの照射量の最適化(ステップ1503),線量分布計算(ステップ1504)を行う。
【0062】
本実施例の方法では、ステップ1504の線量分布計算後に走査経路を変更する。まず、図1のステップ104で予め指定されていた標的の移動方向を読み込む(ステップ1505)。その後、同一エネルギー,同一方向から照射するスポットに関して、以下の様に走査経路を設定する(ステップ1506)。治療計画装置501の演算処理装置605は、走査経路が与えられた場合にその経路を適当な値に変換する関数を用意する。例えば走査経路の総走査距離を基本の値とし、ステップ104で指定された方向に走査方向が近いところでは、その値が小さくなるように定義すればよい。焼きなまし法などの手法を用いて、様々な走査経路の中で定義された関数の値が最も小さくなる最適な走査経路を探索する。
【0063】
例を図16に示す。1601はあるエネルギーのスポットに関して、走査経路を変更する前の状態を表す。黒い円がスポット位置を表し、矢印1602が初めの状態での走査経路である。経路1602では標的の移動方向は考慮されていない。続いて、指定した方向に基づいて走査経路を変更した結果が1603である。スポットの位置は走査経路変更前の状態1601と同一であるが、標的の移動方向1604が指定されており、この方向に主に走査するように走査経路1605が設定されているのが分かる。
【0064】
これを照射する全てのエネルギー、すべての照射方向(回転照射装置311とベッド407の角度)のビームに関して行う(ステップ1507,ステップ1508)。最後に、走査経路情報を含む照射パラメータを結果として出力し、終了する(ステップ1509,ステップ1510)。
【0065】
本実施例の方法では、走査経路の変更をスポット位置とスポットごとの照射量を決定した後に実施できる。そのため、この操作を治療計画装置以外で行うことも可能となる。例えば、照射直前に、中央制御装置312を用いて走査経路を変更することが考えられる。治療計画装置501によって作成された治療計画データは、データサーバ502に保存されている。実際の照射が実施されるにあたり、このデータは中央制御装置312が読み出す。この時、中央制御装置が表示装置315に走査経路を表示し、走査経路変更のためのインターフェイスを提供することで、操作者は、中央制御装置の入力装置(図示せず)を用いて走査経路を修正することが可能となる。操作者が、図11に類似する画面や、図14に示した座標系において走査経路変更のための方向を指示すると、ステップ1506と同様の方法で走査経路を変更する。
【0066】
本実施例によれば、照射直前に、その時の標的の状態を観察して荷電粒子ビームの走査経路を変更することができるため、照射時の標的の動きをよく反映することが可能となる。照射直前に走査経路を変更することは実施例1や実施例2の方法でも可能であるが、それらの方法と比較して本実施例の方法では走査経路の変更のみで線量分布は変わらないために、計算時間も短時間であり、線量分布が変更した場合必要になる計画の妥当性の再確認(ステップ107)も簡便に済ますことができるという利点がある。
【0067】
本実施例によれば、患者の患部の動きを入力し、その方向に合致する方向に主に荷電粒子ビームを走査するような治療計画データを作成できるため、線量分布の一様度が向上した治療計画データを提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
301 荷電粒子ビーム発生装置
302 イオン源
303 前段加速器
304 粒子ビーム加速装置
305 偏向電磁石
306 加速装置
307 高周波印加装置
308 出射用デフレクタ
309 高周波供給装置
310 高エネルギービーム輸送系
311 回転照射装置
312 中央制御装置
313,604 メモリ
315,603 表示装置
400 照射野形成装置
401,402 走査電磁石
403 線量モニタ
404 ビーム位置モニタ
405 走査方向
406 患者
406a 標的
410 走査電磁石用電源
411 走査電磁石磁場強度制御装置
501 治療計画装置
502 データサーバ
602 入力装置
605 演算処理装置
606 通信装置
701 CTデータのスライス
702 標的領域
801 アイソセンタ
802 線源
803 ビーム中心軸
804 アイソセンタ面
806 点805と線源802を結ぶ直線
902,903 マーカー位置
904 マーカーの軌跡
905 点902をアイソセンタ面804に射影した点
906 マーカーの軌跡904を面804に射影した軌跡
1001,1002,1003,1004,1005,1006 マーカーを面804に射影した点
1007 点1001と点1004を結ぶ直線
1008 図10での座標系
1101 指定する方向
1102 図11での座標系(1008と共通)
1103 方向1101を数値で指定するための入力画面
1201 方向1101に平行な直線
1202 照射位置
1203 ビームを照射する位置
1204 標的の輪郭
1301 最も端にある直線
1302 最も端にある直線1301と逆側の端にある直線
1303 走査経路
1601 走査経路変更前の状態
1602 変更前の走査経路
1603 走査経路変更後の状態
1604 指定した走査方向
1605 実施例3における方法での変更後の走査経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線治療を行うための治療計画データを作成する治療計画装置において、
入力装置と、
前記入力装置の入力結果に基づき演算処理を行い、治療計画情報を作成する演算装置と、
前記治療計画情報を表示する表示装置とを備え、
前記演算装置は、予め指定された任意の方向を、走査電磁石により粒子ビームの照射位置を走査する主な方向として走査経路を算出することを特徴とする治療計画装置。
【請求項2】
前記演算装置は、
標的領域を含む複数の状態を撮像した断層画像から、特定領域の位置を算出し、前記領域位置の移動方向を抽出し、前記移動方向を粒子ビーム走査面に射影した方向を、前記指定方向とすることを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記演算装置は、
粒子ビーム走査面上に前記指定方向に平行な複数の直線を設定し、粒子ビームの照射位置を前記直線上に並ぶように配置することを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
前記演算装置は、
予め定められている照射位置を保ったまま、主な走査の方向が前記指定方向と一致するように走査経路を算出することを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の治療計画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−10821(P2012−10821A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148471(P2010−148471)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】