説明

波を利用した海水等の汲み上げ装置

【課題】可動部品が少なく構造が簡単、強固で、効率よく大量に深層水を汲み上げることができる装置を提供する。
【解決手段】汲み上げ管1は表層水域に略水平に設置される水平管13と、深層水域まで垂下される垂直管12によって構成されている。水平管13の流出開口13Aに逆止弁2が設けられている。波により逆止弁2の水平管13の内側と外側とで差圧が生じ、水平管13内側の圧力が高い時汲み上げ管1の内部の海水(深層水)が外側に流出される。内部の海水(深層水)が外側に流出された結果水平管13内部の圧力が低くなるため、流入開口11Aから深層水が流れ込み圧力が回復する。このサイクルが波による海水面高さの変動に合わせ繰り返され深層水が表層水側に汲み上げられ流出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波を利用して海水等、特に海洋の深層水を汲み上げる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋の深層水にはリンやカリウムなど海藻や植物プランクトンが生育するために必要な栄養分が多く含まれている。深層水域には太陽光が届かないために海藻や植物プランクトンは生育できない。その結果、栄養分が消費されずに保存されているためである。一方、太陽光の届く海表面近くの表層水域では、栄養分があれば海藻や植物プランクトンが栄養分を消費してしまうため、河川からの流入や又は深層水の湧き上がりにより栄養分が常時補給される一部の海域を除き栄養分が不足し海藻も植物プランクトンも生育できない領域となっている。そこで、栄養分は多いが太陽光が届かないため海藻や植物プランクトンが成長できない深層水域の海水である深層水を、人工的に太陽光の届く表面近くの表層水域に汲み上げ、海藻や植物プランクトンを成長させ、炭酸ガスを吸収させるとともに、植物資源として利用する構想がある。
【0003】
深層水を汲み上げ、飲料水等に利用することはすでに内燃機関の駆動力を利用した揚水ポンプを用いて行われている。しかし、この方法で大量の深層水を汲み上げるためには、設備コストが膨大になるとともに、駆動力を得るために大量の炭酸ガスが流出される問題もある。そのため、自然エネルギーを利用して深層水等を汲み上げる方法がいろいろ提案されている。
【0004】
自然エネルギーである波力を利用する汲み上げ装置が特許文献1に開示されている。図5に示すように、この海水等の汲み上げ装置61は、海面上に浮上し、そのほぼ中心部に汲み上げ管62が設けられ、この管が流入目的の水深まで下げられ、この水深近傍の水を波の上下動で浮体68ならびに汲み上げ管62を上下動させる事により、逆止弁63と逆止弁66、67の作用で海面上に汲み上げるものである。
【0005】
汲み上げ装置61の作動を図6により説明する。汲み上げ装置61が波64の上下動により上下する。波の位置が64Aで汲み上げ管62が下降している時は、汲み上げ管62の内部の海水は上昇する力を受け、逆止弁63が開き海水が汲み上げ管62の内部を上昇して汲み上げ管62内部の海水面65の高さが高くなる。次に波の位置が64Bで汲み上げ管62の上昇する時は汲み上げ管62の内部の海水は下降する力を受け、逆止弁63を閉じ、逆止弁66と67が開き、汲み上げられた深層水が表層水中に流出される。
【0006】
このように、海水等の汲み上げ装置61は波を利用して作動するために、炭酸ガスを流出する化石燃料を使用することなく作動し続けることができる。よって、栄養分の多く含まれた深層水を海面上に汲み上げる手段として海水等の汲み上げ装置61を用いた場合、安価な費用で深層水を海面上に汲み上げ表層水と混合し続けることが期待できる。
【0007】
前述した装置とは異なる波を利用した汲み上げ装置が特許文献2に開示されている。図7に示すように上端と下端が開放された汲み上げ管70が水中に立設・固定され、汲み上げ管70の内部に設けられた逆止弁73と、逆止弁73より上位置に流出穴74が設けられた逆止弁75を備え、逆止弁73は上方にのみ開き、逆止弁75が外側にのみ開くように構成されている。波や潮汐により汲み上げ管70近くの海面の水位が上昇すると、逆止弁75は閉じ、逆止弁73が開いた状態で、汲み上げ管70の下方の開口から汲み上げ管70内部に海水が流入し、汲み上げ管70の内部の海水が上昇する。
【0008】
次に水位が下降すると、汲み上げ管70の内部の海水も下降しようとするが、逆止弁73が下がって流通穴72が塞げられるので下降できない。しかし、逆止弁75が海水に押されて外側に開くので、汲み上げ管70の内部の海水はこの流出穴74から外部に流出される。逆止弁75は表層付近に設けられているので、汲み上げ管70の内部の海水は表層付近に流出される。波や潮汐によってこれら海水の流入と流出の動作が繰り返し生ずることになるので、汲み上げ管70の下方の海水は汲み上げ管70の中を上昇し、表層付近で流出されることになり、底の方の海水と表層付近の海水は循環・混合されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−324886
【特許文献2】特開2004−218273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されている汲み上げ装置は前述したように波の上下動で浮体68ならびに汲み上げ管62を上下動させる事により、逆止弁63と逆止弁66,67の作用で深層水を海面上に汲み上げるものであるため、汲み上げ管62の長さが長くなるに従って汲み上げ管62の自重やその中に含まれる水の重量に対する慣性力等の抵抗が増大し、作動劣化となることや、製作上、強度上、係留方法等に課題がある。
【0011】
特許文献2に開示されている汲み上げ装置では、水中に立設・固定された汲み上げ管70と、汲み上げ管の流通穴72と流出穴74に設けられた逆止弁73と逆止弁75により、波や潮汐による海面の上昇と下降を利用して、底の方の海水と表層付近の海水は循環・混合される。この汲み上げ装置は汲み上げ管70を上下動させることがないため、特許文献1の汲み上げ装置の汲み上げ管62を上下動させる事に起因する製作上、強度上、係留方法等に課題の多くは克服できると考えられる。
【0012】
しかし、特許文献2に開示されている汲み上げ装置は主として海や湖のよどみの生じやすい場所の底層の水と表層の水を循環・混合させることを主たる目的としているため、深層水等深い場所の水を汲み上げる場合について特別な記載はされていない。深層水を汲み上げる場合、まず深い深度まで届く汲み上げ管70を立設・固定する方法が問題となる。
【0013】
また、海水表面の波による圧力変動の影響は海水中の浅い場所と深い場所では異なっている。特許文献2に開示されている汲み上げ装置では、波や潮汐により汲み上げ管70近くの海面の水位が上昇すると、逆止弁75は閉じ、逆止弁73が開いた状態で、汲み上げ管70の下方の開口から汲み上げ管70内部に海水が流入し、汲み上げ管70内部の海水が上昇することが前記装置の作動原理の出発点となっている。
【0014】
しかし、波(海面高さの短周期変化)による圧力の変動は水位が深くなるに従って平均化するため、深層水を汲み上げようとした場合、汲み上げ管70の下方開口近傍の海水圧力は波による局所的な短周期の海面高さ76の変化に追従していない平均的な海面高さ77に対応した圧力になる。このため、波により汲み上げ管70の外部の水位が上昇又は下降しても、汲み上げ管70内部の海面高さ78は外部の水位76の変動に追従せず、平均的な海面高さ77に維持されることになる。従って、深層水を汲み上げようとした場合には、汲み上げ装置の作動は特許文献2に開示されている作動とは異なっている。出願人は深層水を汲み上げる場合の波の影響を考慮した結果、特許文献2に開示されている作動原理とは異なる作動原理により、汲み上げ管内部の逆止弁73が無くても深層水を汲み上げることができる知見を得た。
【0015】
前述した考察を踏まえ出願人は汲み上げ装置の汲み上げ管を上下動させないで、かつ汲み上げ管内部の海水圧力と外部の波による海水面高さの変動により変動する海水圧力の管外部の海水圧力との差を利用して、可動部品が少なく構造が簡単、強固で、効率よく大量に深層水を汲み上げることができる装置を考案した。

【課題を解決するための手段】
【0016】
図1を用いて本発明の汲み上げ装置の作動原理を説明する。汲み上げ管1は表層水域に略水平に設置される水平管13と、深層水域まで垂下される垂直管12によって構成され、水平管13には逆止弁2が設けられたひとつ又は複数の流出開口13Aが設けられ、垂直管12に流入開口11Aが設けられている。ここで、逆止弁2にかかる汲み上げ管1の内側の圧力をP0として、i番目の逆止弁2に外側からかかる圧力をPi(図1の場合はi=1〜6)とする。大気圧をPa、平均海水面と逆止弁2の設置場所の差による水頭圧をΔPhとし、i番目の逆止弁2の場所における海水面と平均海水面の高さの差すなわち波の半振幅の水頭圧をΔPiする。逆止弁2の位置の水深は浅いためΔPiの影響を強く受け、i番目の逆止弁2にかかる外側の圧力Piは、ほぼPa+ΔPh+ΔPiとなり海面高さの変動により圧力が変動する。
【0017】
一方、逆止弁2にかかる汲み上げ管1の内側の圧力P0は、逆止弁2が閉じている又は開口面積が小さい場合には汲み上げ管1の外側からの影響は小さく、基本的には流入開口11Aの圧力と、流入開口11Aと水平管13との水頭差で決まる。流入開口11A部の圧力は水深が深いため波の高さによる圧力変動の影響は殆ど受けないため、結果として逆止弁2にかかる汲み上げ管1の内側の圧力P0は、ΔPiの変動の影響がなくなりPa+ΔPhとなる。
【0018】
この結果、i番目の逆止弁2にはΔPiの差圧がかかり、海水面が平均海面より低いところ、すなわち、図1ではiが3と6の場所では汲み上げ管1の内部からの圧力が高くなり逆止弁2が外側に開き、汲み上げ管1の内部の海水(深層水)が外側に流出する。内部の海水(深層水)が外側に流出した結果、水平管13内部の圧力がP0より低くなるため、流入開口11Aから深層水が流れ込み圧力がP0にもどされる。このサイクルが波による海水面高さの変動に合わせ繰り返され深層水が表層水側に汲み上げられ流出する。流出する流速は、外側の圧力が低くなる流出開口の数、開口面積、差圧ΔPiの平方根を変数とするベルヌーイの定理で決まる。
【0019】
この作動原理は流出開口13Aの数が1つであっても働く。又、前述した特許文献2のように逆止弁が汲み上げ管の途中にもうひとつあっても逆止弁による圧力損失分効率は低下するが深層水を汲み上げることができる。
【0020】
請求項1の発明は、海水の深層水を表層水域に汲み上げる装置であって、海水中の深層水域と表層水域部分に各々開口を有する汲み上げ管の表層水域側の開口部に汲み上げ管の内側から外側に開く逆止弁を設けるとともに、汲み上げ管の表層水域側の開口部から深層水域側の開口部まで他の逆止弁を設けずに連通していることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。前述した作動原理によれば汲み上げ管内部における海水の流れは流入開口から流出開口方向への一方向のため管の内部に逆止弁を設ける必要がない。前述した従来の装置のいずれも汲み上げ管内部に逆止弁を設けているが、本発明の装置では、管の内部に逆止弁表層水域側の開口部(図1では流出開口)にのみ汲み上げ管の内側から外側に開く逆止弁を設けるだけの簡素な構成で効率よく深層水を汲み上げることができる。管の内部に他の逆止弁がないことは、装置の構造の簡素化による製造や保守の容易化だけでなく、他の逆止弁による流路抵抗による性能低下がなくなる性能面の効果もある。
【0021】
請求項2の発明は、汲み上げ管は波による短周期の海面高さの変化に追従することなくほぼ静止した状態で海水中に係留されていることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。係留方法は複数の浮体により係留する、又は水平管と浮体とを一体に構成する、場所によっては海底から立設する等がある。汲み上げ管がほぼ静止した状態で海水中に係留されているため、流出開口の外側の圧力と内側の圧力に差圧ΔPiができ、前述した作動原理により深層水を汲み上げることができる。また、汲み上げ管を上下動させる場合と比べ、汲み上げ管の自重やその中に含まれる水の重量に対する慣性力等の抵抗による汲み上げ性能低下が少なく、又、装置の強度も小さくできる。
【0022】
請求項3の発明は、汲み上げ管の少なくとも表層水側の一部分は剛性の高い管体で構成されていることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。波による圧力変動の大きさは水深とともに小さくなる。すなわち、汲み上げ管内部と外部との差圧変動は水深と共に小さくなる。海流の速さにもよるが汲み上げ管の下部では管自体の剛性はそれほど高くなくてもよく、部分的に補強された薄い金属板、樹脂、布などのパイプで構成しても良い。縦に長い垂直管の多くの部分を部分的に補強された薄い金属板、樹脂、布などのパイプで構成することで、装置のコストが安くなるとともに、海流から受ける水平方向の力によるモーメントの大きさも軽減できる。
【0023】
請求項4の発明は、汲み上げ管は表層水域に海水面に略水平に設置される水平管と、深層水域まで垂下される垂直管によって構成されていることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。一つ乃至は逆止弁より少ない数の垂直管から汲み上げた深層水を、長い水平管と複数の流出開口と逆止弁により広い海水面領域に均等に供給できる。垂直管は深層水域まで例えば300mの長さが必要であり、水平管を用いることで数が少ない垂直管で広い海水面領域に深層水を均等に供給できるためコストを低減できる。
【0024】
請求項5の発明は、水平管には複数の開口部と逆止弁が設置されていることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。複数の逆止弁のいずれかの逆止弁が波の高さが低い位置にあることにより低い位置にある逆止弁を順番に経由して連続して深層水を汲み上げることができる。連続して汲み上げることにより汲み上げ管内の海水の慣性抵抗と圧力脈動を低減でき、汲み上げ性能の向上と装置の低コスト化ができる。
【0025】
請求項6の発明は、水平管は設置された海域の平均的な波の波長よりも長い剛性の高い管体であることを特徴とする海水の汲み上げ装置である。水平管が設置された海域の平均的な波の波長よりも長い剛性の高い管体であるため、水平管のいずれかに波の高さが低い位置があるため、より確実にいずれかの逆止弁を経由して連続して深層水を流出させることができる。複数の波の波長より水平管の長さが長い場合は複数の逆止弁を経由して連続して深層水を流出させることができるため、流量の時間的変動が減少して一層汲み上げ管内の海水の慣性抵抗と圧力脈動を低減できる。
【0026】
請求項7の発明は、逆止弁が設けられた開口部の表層水側に流出管を設け、流出管に複数の小さい開口部を設けたことを特徴とする海水の汲み上げ装置である。汲み上げられた深層水は逆止弁が設けられた開口部から表層水側に流出する。この場合表層水側の海水と汲み上げられた深層水には温度と成分の差による比重の差があり深層水の方が重い。海水同士は容易に混じり合わないため攪拌が不十分だと汲み上げた深層水は短時間で沈降してしまう可能性がある。このため、逆止弁が設けられた開口部から複数の小さい開口部を設けた流出管内に一旦深層水を流出して、流出管内と流出管から表層水への開口部で深層水と表層水を積極的に攪拌することで、深層水が短時間で沈降してしまうことを防止することができる。
【0027】
請求項8の発明は、水平管が海藻又は魚介類の養殖装置の一部を構成することを特徴とする海水の汲み上げ装置である。水平管は長さの長い強度の大きい構造物のため、海藻又は魚介類の養殖装置の強度部材としても使用することができる。水平管を海藻又は魚介類の養殖装置の一部として用いることで、深層水による栄養分の供給が可能な海藻又は魚介類の養殖装置を低コストで作ることができる。また、海藻又は魚介類の養殖装置は海藻又は魚介類が必要としている栄養分がある場所に設置されるが、表層水領域に適度な栄養分がある海域の面積は少なく、この面からも海藻又は魚介類の養殖による大量生産は大きな制約を受けている。深層水を汲み上げ栄養分の全部又は一部を供給することで海藻又は魚介類の養殖面積を拡大することができる。
【発明の効果】
【0028】
管の内部に逆止弁表層水域側の開口部(図1では流出開口)にのみ汲み上げ管の内側から外側に開く逆止弁を設けるだけの簡素な構成で効率よく深層水を汲み上げることができる。管の内部に他の逆止弁がないことは、装置の構造の簡素化による製造や保守の容易化だけでなく、他の逆止弁による流路抵抗による性能低下がなくなる性能面の効果も大きい。
また、汲み上げ管は波による短周期の海面高さの変化に追従することなくほぼ静止した状態で海水中に係留されているため、汲み上げ管を上下動させる場合と比べ、汲み上げ管の自重やその中に含まれる水の重量に対する慣性力等の抵抗による汲み上げ性能低下が少なく、又、装置の強度も小さくでき、可動部品が少なく構造が簡単、強固で、効率よく大量に深層水を汲み上げることができる装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る汲み上げ装置の作動原理の説明図である。
【図2】本発明に係る汲み上げ装置の全体概要説明図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】本発明に係る海藻の養殖装置の全体概要説明図である。
【図5】従来技術の一実施例を示した図である。
【図6】従来技術の作動の説明図である。
【図7】従来技術の別実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図2は汲み上げ装置の全体概要説明図である。汲み上げ管1は表層水域に略水平に設置される水平管13と、深層水域まで垂下される垂直管12によって構成されている。水平管13には複数の流出管14と逆止弁2が設けられた複数の流出開口13Aが設けられ、垂直管12の下端部に流入管11と流入開口11Aが設けられている。逆止弁2には前述した本装置の作動原理により逆止弁2の位置における局所的な海水面と平均海水面の高さの差圧が作用する。海水面が平均海面より低い位置では汲み上げ管1の内部からの圧力が高くなり逆止弁が外側に開き、汲み上げ管1の内部の海水(深層水)が外側に流出する。内部の海水(深層水)が外側に流出された結果水平管13内部の圧力が低くなるため、流入開口11Aから深層水が流れ込み圧力が回復する。このサイクルが波による海水面高さの変動に合わせ繰り返され深層水が表層水側に汲み上げられ流出する。流出する流速は、外側の圧力が低くなる流出開口13Aの数、開口面積、差圧ΔPiの平方根を変数とするベルヌーイの定理で決まる。
【0031】
汲み上げ管1の流出開口13Aから流入開口11Aまで他の逆止弁を設けずに連通している。前述した作動原理によれば汲み上げ管1の内部における海水の流れは流入開口11Aから流出開口13A方向への一方向のため逆止弁2以外の逆止弁を設ける必要がないことに加え、他の逆止弁が流路抵抗になるため汲み上げ性能を低下させるためである。従って、流出開口13Aにのみ汲み上げ管1の内側から外側に開く逆止弁2を設けるだけの簡素な構成で効率よく深層水を汲み上げることができる。管の内部に他の逆止弁がないことは、装置の構造の簡素化による製造や保守の容易化だけでなく、他の逆止弁による流路抵抗による性能低下がなくなる性能面の効果もある。
【0032】
汲み上げ管1は波による短周期の海面高さの変化に追従することなくほぼ静止した状態で海水中に係留されている。係留方法は実施例では、複数の浮体3と係留部材4により係留している。距離の離れた複数の浮体3と係留部材4により係留されることで、汲み上げ管1は複数の浮体3と係留部材4により決まる平均的な位置にほぼ静止した状態で係留される。この他水平管13と浮体3とを一体に構成する、場所によっては海底から立設する等の方法であってもよい。汲み上げ管1がほぼ静止した状態で海水中に係留されているため、流出開口13Aの外側の圧力と内側の圧力に差圧ができ、前述した作動原理で深層水を汲み上げることができる。また、汲み上げ管を上下動させる場合と比べ、汲み上げ管の自重やその中に含まれる水の重量に対する慣性力等の抵抗による汲み上げ性能低下が少なく、又、装置の強度も小さくできる。
【0033】
汲み上げ管1の少なくても表層水側の一部分は剛性の高い管体で構成されている。実施例では水平管13と流出管14と垂直管12の上部を剛性の高い管体で構成している。波による圧力変動の大きさは水深とともに小さくなるため、汲み上げ管1内部と外部との差圧は水深と共に小さくなる。海流の速さにもよるが汲み上げ管1の下部では管自体の剛性はそれほど高くなくてもよく、部分的に補強された薄い金属板、樹脂、布などのパイプで構成しても良い。縦に長い垂直管12の多くの部分を部分的に補強された薄い金属板、樹脂、布などのパイプで構成することで、装置のコストが安くなるとともに、海流から受ける水平方向の力によるモーメントの大きさも軽減できる。
【0034】
汲み上げ管1は前述したように、表層水域に海水面に略水平に設置される水平管13と、深層水域まで垂下される垂直管12によって構成されている。一つ乃至は逆止弁より数の少ない垂直管12から汲み上げた深層水を,長い水平管13と複数の流出開口13Aと逆止弁2により広い海水面領域に均等に供給できる。垂直管12は深層水域まで例えば300mの長さが必要であり、水平管13を用いることで数が少ない垂直管12で広い海水面領域に深層水を均等に供給できるためコストを低減できる。
【0035】
水平管13には流出管14と流出管内部に設けられた流出開口13Aと逆止弁2が複数設置されている。水平管13の要部断面(図2のA−A断面)を図3に示してある。水平管13は金属製の管体であり、後述されるように設置される海域の平均的な波の波長等を考慮した所定間隔で上面側に複数の流出開口13Aが設けられている。この流出開口13A部に逆止弁2を内蔵した流出管14が固定部材13Bにより設置されている。逆止弁2は可撓性の樹脂又は金属板で作られたリード弁21を持ち、その閉じ側と開き側にスリット状の開口を持つ弁板23と押え板22で構成されている。逆止弁2が水平管13の上方に固定部材13Bでとりつけられているため逆止弁2の点検や交換、修理が容易である。又、複数の逆止弁2のいずれかの逆止弁2が波の高さが低い位置にあることにより、波の高さが低い位置にある逆止弁2を順番に経由して連続して深層水を汲み上げることができる。深層水を連続して汲み上げることにより汲み上げ管1内の海水の慣性抵抗と圧力脈動を低減でき、汲み上げ性能の向上と装置の低コスト化ができる。なお、逆止弁はリード弁以外の逆止弁でもよい。
【0036】
水平管13は設置された海域の平均的な波の波長よりも長い剛性の高い管体である。水平管13が設置された海域の平均的な波の波長よりも長い剛性の高い管体であるため、水平管13のいずれかに波の高さが低い位置があるため、より確実にいずれかの逆止弁2を経由して連続して深層水を流出させることができる。複数の波の波長より水平管13の長さが長い場合は複数の逆止弁2を経由して連続して深層水を流出させることができるため、流量の時間的変動が減少して一層汲み上げ管内の海水の慣性抵抗と圧力脈動を低減できる。
【0037】
逆止弁2が設けられた流出開口13Aの表層水側に流出管14を設け、流出管14に複数の小さい流出管開口14Aが設けられている。汲み上げられた深層水は流出開口13A,逆止弁2の弁板23の開口と流出管開口14Aを経由して表層水側に流出する。表層水側の海水と汲み上げられた深層水には、温度と成分の差による比重の差があり深層水の方が重く、又、海水同士は容易に混じり合わないため攪拌が不十分だと汲み上げた深層水は短時間で沈降してしまう可能性がある。このため、逆止弁2の弁板23の開口から流出管14内に一旦深層水を流出して、さらに複数の小さい流出管開口14Aを経由して表層水側に流出させることで、深層水と表層水を積極的に攪拌して深層水が短時間で沈降してしまうことを防止している。
【0038】
水平管13が海藻又は魚介類の養殖装置の一部を構成することも可能である。水平管13は長さの長い強度の大きい構造物のため、海藻又は魚介類の養殖装置の強度部材としても使用することができる。図4に海藻の養殖装置に用いる場合の一例を示している。水平管13を養殖装置の枠体として使用し、その枠体に海藻を養殖するための養殖部材5を配設し、浮体3と係留部材4で海水中に係留することで海藻を養殖する。水平管13を海藻又は魚介類の養殖装置の一部として用いることで、深層水による栄養分の供給が可能な海藻又は魚介類の養殖装置を低コストで作ることができる。また、海藻又は魚介類の養殖装置は海藻又は魚介類が必要としている栄養分がある場所に設置されるが、表層水領域に適度な栄養分がある海域の面積は少なく、この面からも海藻又は魚介類の養殖による大量生産は大きな制約を受けている。深層水を汲み上げ栄養分の全部又は一部を供給することで海藻又は魚介類の養殖面積を拡大することができる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・・汲み上げ管
11・・・流入管
12・・・垂直管
13・・・水平管
14・・・流出管
2・・・・逆止弁
3・・・・浮体
4・・・・係留部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水の深層水を表層水域に汲み上げる装置であって、海水中の深層水域と表層水域部分に各々開口部を有する汲み上げ管の表層水域側の前記開口部に前記汲み上げ管の内側から外側に開く逆止弁を設けるとともに、前記汲み上げ管の表層水域側の前記開口部から深層水域側の前記開口部まで他の逆止弁を設けずに連通していることを特徴とする海水の汲み上げ装置。
【請求項2】
前記汲み上げ管は波による短周期の海面高さの変化に追従することなくほぼ静止した状態で海水中に係留されていることを特徴とする請求項1に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項3】
前記汲み上げ管の少なくても表層水側の一部分は剛性の高い管体で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項4】
前記汲み上げ管は表層水域に海水面に略水平に設置される水平管と、深層水域まで垂下される垂直管によって構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項5】
前記水平管には複数の前記開口部と前記逆止弁が設置されていることを特徴とする請求項4に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項6】
前記水平管は設置された海域の平均的な波の波長よりも長い剛性の高い管体であることを特徴とする請求項4又は5のいずれか1項に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項7】
前記逆止弁が設けられた前記開口部の表層水側に流出管を設け、前記流出管に複数の小さい開口部を設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の海水の汲み上げ装置。
【請求項8】
前記水平管が海藻又は魚介類の養殖装置の一部を構成することを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載の海水の汲み上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256718(P2011−256718A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129154(P2010−129154)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(508152939)
【Fターム(参考)】