説明

波形歪み緩和部材および該波形歪み緩和部材を備えた通信線路

【課題】車載通信線の幹線から支線への分岐数が増加しても、分岐位置での波形歪みを効果的に緩和し、かつ幹線の受信電圧の低下を抑制する。
【解決手段】車載通信線の幹線から支線を分岐した分岐位置において、前記幹線および支線の外周に配置される磁性部材からなり、該磁性部材により前記幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形歪み緩和部材および該波形歪み緩和部材を備えた通信線路に関し、詳しくは、車載LAN等の通信ネットワークの分岐位置で生じる伝送波形歪みを緩和するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車載LAN等の通信ネットワークにおいて、通信線の分岐位置に発生する伝送波形の歪みを緩和するため、種々の技術が提供されている。
例えば、本出願人は、特開2007−110195号公報(特許文献1)において、図11に示す分岐装置1を提案している。該分岐装置1はハウジング内にジョイント部2aと該ジョイント部2aより突出する複数の端子部2bを備えた分岐接続用のバスバー2を収容し、該バスバー2の各端子2bに筒状の磁性部材(フェライト)3を取り付けている。各端子部2bには通信線4の端末の端子5が接続され、複数の通信線4を分岐接続させている。このように、バスバー2の端子部2bに磁性材料3を取り付けて、分岐位置で発生する伝送波形の歪みを緩和している。
【0003】
前記のような分岐装置1を用いて、通信線4の幹線4aから支線4bを分岐させる場合には、磁性部材3のうち、2つのポートの磁性部材3aはインピーダンスが小さい幹線4aの外周に取り付けられ、残りのポートの磁性部材3bはインピーダンスが大きい支線4bの外周に取り付けられる。一方、各ポートで同等の波形歪みの緩和効果が得られるように、磁性部材3a、3bには支線のインピーダンスに合わせた同一の磁気特性を持たせている。よって、支線数が増加し、幹線から支線への分岐数が増加すると、幹線4aの外周に取り付けられる磁性部材3aのフィルタ特性が大きくなり、幹線の受信電圧の低下が大きくなるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007−110195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、車載通信線の幹線から支線への分岐数が増加しても、分岐位置での波形歪みを効果的に緩和し、かつ幹線の受信電圧の低下も抑制できることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第一の発明として、車載通信線の幹線から支線を分岐した分岐位置において、前記幹線および支線の外周に配置される磁性部材からなり、該磁性部材により前記幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくしていることを特徴とする波形歪み緩和部材を提供している。
【0007】
車載通信線の幹線から支線を分岐している分岐位置には、従来と同様、幹線と支線の外周に磁性部材を配置しているが、前記構成によれば、幹線の外周に配置する磁性部材のフィルタ特性と支線の外周に配置する磁性部材のフィルタ特性を相違させ、磁性部材により幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分が支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくなるようにしている。即ち、高周波インピーダンスの実数成分が小さい幹線の外周に配置される磁性部材のフィルタ特性を、支線外周に配置される磁性部材のフィルタ特性より小さくしておくことで、幹線から支線への分岐数が増加しても幹線の受信電圧の低下を抑えることができる。また、前記磁性部材による支線への高周波インピーダンスの実数成分を大きくする、即ちフィルタ特性を大きくしておくことで、支線への分岐数が増え、該分岐位置での波形歪みが大きくなっても、該歪みを効果的に緩和することが可能となる。
なお、本発明において幹線とは、両端が終端抵抗を介して機器に接続される通信線を指し、支線とは幹線から分岐し終端抵抗を介さずに機器に接続される通信線を指す。
【0008】
前記磁性部材は1つの板状材からなり、前記幹線を貫通する幹線貫通穴および各支線をそれぞれ貫通する支線貫通穴からなる複数の貫通穴を間隔をあけて備え、
前記幹線貫通穴は支線貫通穴より穴径を大とし、
前記幹線貫通穴の内周面と該幹線貫通穴を貫通させた幹線の外周面との間の隙間を、前記支線貫通穴の内周面と該支線貫通穴を貫通させた支線の外周面との間の隙間より大としていることが好ましい。
【0009】
前記のように、幹線貫通穴および支線貫通穴を備えた1つの板状材から磁性部材を形成することにより、幹線および支線毎に磁性部材を別々に取り付けていた従来構造に比べ、部品点数やサイズ、組み付け工数を低減することができる。
【0010】
また、前記のように、幹線貫通穴の穴径を支線貫通穴の穴径より大とすることにより、幹線の外周に発生する磁束線の経路が大回りとなり、結果的に幹線外周に発生する磁束を支線外周に発生する磁束より減少させ、透磁率を下げることができる。これにより、幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、幹線の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0011】
前記支線貫通穴の穴径R2に対する幹線貫通穴の穴径R1の比の値(R1/R2)は、支線の分岐状態によっても異なるため限定することはできないが、例えば、R1/R2=1.2〜1.6とすることが好ましい。
【0012】
前記穴径を変える変わりに、磁性部材からなる1つの板状材の板厚を部分的に変化させ、幹線をそれぞれ貫通させる幹線貫通穴は板厚が薄い部分に設けて、幹線貫通穴の長さを短くし、記各支線をそれぞれ貫通させる支線貫通穴は板厚が厚い部分に設けて、支線貫通穴の長さを短くしてもよい。
【0013】
前記のように、幹線貫通穴を板厚の薄い部分に設けて幹線貫通穴の長さを短くすることにより、幹線の外周に発生する磁束が減少し透磁率を小さくすることができる。これに対して、支線貫通穴を板厚の厚い部分に設けて支線貫通穴の長さを長くすることにより、支線の外周に発生する磁束が増加し透磁率を大きくすることができる。これらにより、幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、前記のように幹線の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0014】
前記支線貫通穴の長さ(板厚)D2に対する幹線貫通穴の長さ(板厚)D1の比の値(D1/D2)は、支線の分岐状態によっても異なるため限定することはできないが、例えば、D1/D2=0.6〜0.8 とすることが好ましい。
【0015】
前記磁性部材は高透磁性部分と低透磁性部分を領域を分けて備え、前記高透磁性部分に前記各支線貫通穴を設けている一方、前記低透磁性部分に前記幹線貫通穴を設けており、
前記幹線貫通穴の穴径方向の肉厚は、前記支線貫通穴の穴径方向の肉厚より薄くしてもよい。
なお、幹線貫通穴、支線貫通穴の穴径方向の肉厚とは、前記貫通穴の内周面から隣接する磁性部材外側面までの距離を指す。
【0016】
前記のように、幹線貫通穴の穴径方向の肉厚を支線貫通穴の穴径方向の肉厚より薄くすることによっても、幹線外周に発生する磁束を減少させ、幹線外周の透磁率を支線外周の透磁率より小さくすることができる。
このように、一体の磁性部材に高透磁性部分と低透磁性部分を領域を分けて設け、高透磁性部分に各支線貫通穴を、低透磁性部分に幹線貫通穴をそれぞれ設けることで、分岐位置での波形歪みを効果的に緩和しつつ、幹線の受信電圧の低下を抑制することができ、かつ一体化した磁性部材により部品点数やサイズ、組み付け工数の低減も可能となる。
【0017】
前記磁性部材はフェライトからなることが好ましい。特に、Ni−Zn成分を成分に含む材料で形成されたフェライトであることが好ましい。
また、前記磁性体を材料抵抗の低いMn−Znフェライト、ケイ素鋼板、パーマロイ、アモルファス金属磁性体により形成してもよい。
【0018】
一方、前記磁性部材を一体とせず、磁性部材として2種類の別体の高透磁性部材と低透磁性部材とから形成し、高透磁性部材に各支線をそれぞれ貫通する支線貫通部を設けている一方、前記低透磁性部材に幹線を貫通する幹線貫通穴を設けている構成としてもよい。
【0019】
即ち、異なる2種類の磁性材料から高透磁性部材と低透磁性部材を形成し、高透磁性部材に各支線貫通穴を、低透磁性部材に幹線貫通穴を設けて前記2種類の磁性部材を並列配置することにより、前記高磁性部分と低透磁性部分を備えた一体型の磁性部材と同様の効果を有する磁性部材を得ることができる。この際、前記支線貫通穴と幹線貫通穴の穴径や該貫通穴の長さ(板厚)、穴径方向の肉厚は同じとしてもよいが、磁性特性の差をさらに大きくしたいときには前記のように相違させてもよい。
【0020】
前記高透磁性部材を形成する材料は、低透磁性部材の1.2〜1.6倍の特性をもつものが好ましい。
【0021】
第二の発明として、前記第一の発明の波形歪み緩和部材を備えた通信線路を提供している。該通信線路は、前記幹線は両端が終端抵抗を介して機器に接続され、前記支線は終端抵抗を介さずに機器に接続され、
前記波形歪み緩和部材の磁性部材の両端に幹線貫通穴を設けて前記幹線を貫通させる一方、中央部に複数の支線貫通穴を設け、これら各支線貫通穴にそれぞれ前記支線を貫通させ、または、支線貫通穴を並列した領域の一端側に幹線貫通穴を並列に設け、それぞれ支線および幹線を貫通させていることを特徴としている。
【0022】
前記構成によれば、前記波形歪み緩和部材(磁性部材)によって分岐位置での波形歪みを効果的に緩和しながら幹線の受信電圧の低下も抑制でき、さらに、終端抵抗を介して幹線の両端を機器に接続することで送受信される信号の反射が抑えられるため、機器間の通信をきわめて良好に行うことができる。
磁性部材は、前記のように一体型としても別体型としてもよいが、例えば、前記磁性部材を別部材である透磁性部材と低透磁性部材から形成する場合には、支線貫通穴を並列した高透磁性部材の両端に、幹線貫通穴を設けた低透磁性部材をそれぞれ配置するか、あるいは支線貫通穴を並列した高透磁性部材の一端側に、幹線貫通穴を並列した低透磁性部材を配置することが好ましい。
【0023】
前記車載通信線が通信プロトコルをCANとする場合、幹線および支線はツイストペア電線からなり、前記波形歪み緩和部材の磁性部材に設ける幹線貫通穴および支線貫通穴を前記ツイストペア電線または該ツイストペア電線に接続した接続端子を貫通させる各一対の貫通穴としている。
【0024】
さらに、第三の発明として、前記した波形歪み緩和部材を備えた分岐コネクタを提供している。
【0025】
前記分岐コネクタは、コネクタハウジング内にバスバーを収容し、バスバーのジョイント部から突出する複数のタブ状端子部と、幹線および支線の電線端末に接続した端末側コネクタの端子とを嵌合接続することで、幹線から支線を分岐させることができる。
その際、端末側コネクタの端子を介して幹線の電線と接続されるタブ状端子部が前記幹線貫通穴に、端末側コネクタの端子を介して支線の電線と接続されるタブ状端子部が前記支線貫通穴にそれぞれ貫通されるように、前記磁性部材からなる波形歪み緩和部材を分岐コネクタのコネクタハウジング内に収容固定しておくことが好ましい。
前記磁性部材をコネクタハウジング内に固定する方法としては、例えば、モールドや係止固定などが挙げられる。
【0026】
前記構成によれば、分岐コネクタに前記波形歪み緩和部材を備えているため、幹線から支線を分岐させる際に、幹線の受信電圧の大幅な低下を招くことなく分岐位置の波形歪みを効果的に緩和することができる。
【発明の効果】
【0027】
前述したように、本発明によれば、幹線の外周に配置する磁性部材の磁性特性と支線の外周に配置する磁性部材の磁性特性を相違させる構造とし、磁性部材により幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくしてフィルタ特性を弱めているため、幹線から支線への分岐数が増加しても幹線の受信電圧の低下を抑えることができる。また、前記磁性部材による支線への高周波インピーダンスの実数成分は幹線側より大きくしているため、支線への分岐数が増えて該分岐位置での波形歪みが大きくなっても、該歪みを効果的に緩和することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に、本発明の第1実施形態を示す。
本実施形態の波形歪み緩和部材である磁性部材10は、車載LANのCAN通信回路を形成する通信線の幹線20から支線21を分岐させる分岐位置に発生する伝送波形歪みを緩和するものである。
本実施形態では、図1に示すように、幹線20から4本の支線21を分岐させる分岐コネクタ30の内部に前記磁性部材10を内嵌して用いている。
【0029】
本実施形態では差動伝送の平衡通信線路を形成するツイストペア電線20、21から通信線を構成している。ツイストペア電線20、21は、CAN−H回路を構成する通信線20H、21HとCAN−L回路を構成する通信線20L、21Lを撚り合わせて形成しており、本実施形態では、図1に示す両側各1組のツイストペア電線20を幹線とし、中央側4組のツイストペア電線21を前記幹線20から分岐される支線としている。
幹線のツイストペア電線20(20H、20L)の端末にメス端子22を接続し該メス端子22をメスコネクタ24に挿入係止すると共に、支線のツイストペア電線21(21H、21L)の端末にメス端子23を接続し該メス端子23をメスコネクタ25に挿入係止する。これにより、幹線、支線のツイストペア電線20、21端末にメスコネクタ24、25をそれぞれ接続している。
【0030】
図1〜図3に示す分岐コネクタ30は、コネクタハウジング31のコネクタ嵌合部32に前記メスコネクタ24、25を個別に挿入可能とし、コネクタ嵌合部32には分岐接続用のバスバー33を上下2段収容している。バスバー33は、導電性金属板を所要形状に打ち抜いて形成しており、帯状のジョイント部33aと、該ジョイント部33aの端縁より突出する複数本のタブ状の端子部33b、33cとからなる。本実施形態では上下のバスバー33のジョイント部33aより端子部33b、33cを計6本突出しており、両側の端子部33bは、挿入したメスコネクタ24のメス端子22を介して幹線20(20H、20L)と接続される一方、中央の4本の端子部33cは挿入したメスコネクタ25のメス端子23を介して支線21(21H、21L)と接続している。
【0031】
磁性部材10は、Ni−Znを成分に含む材料で形成されたフェライトからなり、分岐コネクタ30のコネクタ嵌合部32に内嵌できる直方体形状を有する板状材としている。
磁性部材10には、幹線貫通穴11と支線貫通穴12を設けており、本実施形態においては、図1、4に示すように、上下の幹線貫通穴11を両端に一組ずつ配置し、中央部に上下の支線貫通穴12を4組並列して配置している。
コネクタ嵌合部32に磁性部材10が内嵌された状態で、幹線20(20H、20L)と接続される端子部33bが両端の幹線貫通穴11に貫通され、支線21(21H、21L)と接続されるタブ状端子部33cが中央側の支線貫通穴12にそれぞれ貫通される。
【0032】
また、幹線貫通穴11の穴径R1を支線貫通穴12の穴径R2より大とし、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくしている。本実施形態では、R1/R2の値を1.6としている。
【0033】
前記磁性部材10を分岐コネクタ30のコネクタ嵌合部32内に挿入し、幹線貫通穴11および支線貫通穴12を、コネクタ嵌合部32に収容されているバスバー33の端子部33b、33cに根元部まで貫通させた状態で、磁性部材10をコネクタ嵌合部32内に係止固定している。コネクタ嵌合部32の周壁内面には磁性部材10を係止固定するための係止爪32aを突設している[図2(B)]。
【0034】
メスコネクタ24、25を分岐コネクタ30に嵌合接続することにより、磁性部材10の幹線貫通穴11を貫通した端子部33bが幹線20(20H、20L)と接続される一方、支線貫通穴12を貫通した端子部33cが支線21(21H、21L)と接続される。これにより、幹線20から4本の支線21を分岐させることができる(図3)。
なお、幹線20の両端は終端抵抗を介して機器(図示せず)に接続している一方、支線21は終端抵抗を介さずに機器(図示せず)に接続している。
【0035】
前記のように、幹線貫通穴11の穴径R1を支線貫通穴12の穴径R2より大とすることにより、幹線20の外周に発生する磁束を、支線21外周に発生する磁束より減少させ、透磁率を下げることができる。よって、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくし、幹線20の外周に配置される磁性部材10のフィルタ特性を支線21外周に配置される磁性部材10のフィルタ特性より小さくすることができる。
よって、幹線20から支線21への分岐数が増加しても幹線20の受信電圧の低下を抑えることができる。また、磁性部材10による支線21への高周波インピーダンスの実数成分を大きくしてフィルタ特性を大きくしておくことで、支線21への分岐数が増え該分岐位置での波形歪みが大きくなっても、該歪みを効果的に緩和することが可能となる。
【0036】
また、前記のように、幹線貫通穴11および支線貫通穴12を備えた1つの板状材から磁性部材10を形成することにより、幹線20、支線21毎に磁性部材を別々に取り付けていた従来構造に比べ、部品点数やサイズ、組み付け工数を低減することができる。
【0037】
図5に、第2実施形態を示す。
第2実施形態では、図5に示すように、磁性部材10の幹線貫通穴11、支線貫通穴12の穴径は同じとする一方、幹線貫通穴11を設けた部分の板厚D1を支線貫通穴12を設けた部分の板厚D2より薄くして、幹線貫通穴11の長さD1を支線貫通穴12の長さD2を短くしている点以外は、第1実施形態と同様としている。なお、本実施形態では、D1/D2の値を0.6としている。
【0038】
第2実施形態においても、幹線20の外周に発生する磁束を支線21の外周に発生する磁束より少なくし、幹線20外周の透磁率を支線21外周の透磁率より小さくすることができる。よって、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、幹線20の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0039】
幹線20外周の磁性部材10のフィルタ特性をさらに小さくしたい場合には、図6のように、第2実施形態の磁性部材10の幹線貫通穴11の穴径を支線貫通穴12の穴径より大きくすることによっても可能となる。
【0040】
図7に第3実施形態を示す。
第3実施形態では、図7に示すように、磁性部材10の幹線貫通穴11、支線貫通穴12の穴径は同じとする一方、幹線貫通穴11の穴径方向の肉厚d1を支線貫通穴12の穴径方向の肉厚d2より薄くしている点以外は、第1実施形態と同様としている。なお、本実施形態においては、d1/d2を1.6としている。
【0041】
第3実施形態においても、第1、第2実施形態と同様、幹線20の外周に発生する磁束を支線21の外周に発生する磁束より少なくし、幹線20外周の透磁率を支線21外周の透磁率より小さくすることができる。よって、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、幹線20の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0042】
図8に第4実施形態を示す。
図8に示すように、第4実施形態では、磁性部材10を低透磁性部材10Aと高透磁性部材10Bの2種類の材料から構成し、低透磁性部材10Aに1組の上下の幹線貫通穴11を設ける一方、高透磁性部材10Bに上下の支線貫通穴12を4組並列して設けている。前記高透磁性部材10Bの両側に低透磁性部材10Aを1個ずつ配置し、全体として第1実施形態と同様の直方体形状の磁性部材10を形成している。
本実施形態では、高透磁性部材を形成する材料は、低透磁性部材の1.2倍の特性をもつものから形成している。前記した点以外は第1実施形態と同様としている。
【0043】
前記のように、磁性部材10の幹線貫通穴11を設ける部分を低透磁性部材10Aから形成し、支線貫通穴12を設ける部分を高透磁性部材10Bから形成した場合でも、第1〜第3実施形態と同様に、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、幹線20の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0044】
図9、図10に第5実施形態を示す。
第5実施形態では、図9に示す左側2組のツイストペア電線20を幹線とし、右側4組のツイストペア電線21を前記幹線20から分岐される支線としている。
また、磁性部材10を第4実施形態と同様に低透磁性部材10Aと高透磁性部材10Bの2種類の材料から構成し、低透磁性部材10Aに上下の幹線貫通穴11を2組並列して設ける一方、高透磁性部材10Bに上下の支線貫通穴12を4組並列して設けている。前記幹線20と支線21の配列に合わせ、前記高透磁性部材10Bの一端側に前記低透磁性部材10Aを配置して、全体として直方体形状の磁性部材10を形成している(図10)。前記した点以外は第1実施形態と同様としている。
【0045】
前記のように、幹線20と支線21の配列に合わせて、高透磁性部材10Bの一端側に前記低透磁性部材10Aを配置した場合でも、第4実施形態と同様に、幹線20に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線21に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくして、幹線20の受信電圧の低下を抑制することができる。
【0046】
前記実施形態では、磁性部材10を分岐コネクタ30のコネクタ嵌合部32に内嵌し、分岐コネクタ30に収容されたバスバー33の端子部33b、33cを幹線貫通穴11および支線貫通穴12に貫通させているが、分岐位置近傍であれば、磁性部材10の幹線貫通穴11および支線貫通穴12に幹線のツイストペア電線20(20H、20L)および支線のツイストペア電線21(21H、21L)を直接貫通させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の波形歪み緩和部材(磁性部材)を分岐コネクタに適用している第1実施形態の概略説明図である。
【図2】(A)は分岐コネクタの水平断面図、(B)は分岐コネクタの垂直断面図である。
【図3】分岐コネクタに電線端末のコネクタを接続した状態を示し、(A)は水平断面図、(B)は垂直断面図である。
【図4】磁性部材の概略斜視図である。
【図5】第2実施形態の磁性部材を示す概略斜視図である。
【図6】磁性部材の別の例を示す概略斜視図である。
【図7】第3実施形態の磁性部材を示す概略斜視図である。
【図8】第4実施形態の磁性部材を示す概略斜視図である。
【図9】第5実施形態の磁性部材を分岐コネクタに適用する例を示す概略説明図である。
【図10】第5実施形態の磁性部材を示す概略斜視図である。
【図11】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0048】
10 波形歪み緩和部材(磁性部材)
10A 低透磁性部材
10B 高透磁性部材
11 幹線貫通穴
12 支線貫通穴
20 幹線となるツイストペア電線
21 支線となるツイストペア電線
22、23 メス端子
24、25 メスコネクタ
30 分岐コネクタ
31 コネクタハウジング
32 コネクタ嵌合部
33 バスバー
33a ジョイント部
33b、33c 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載通信線の幹線から支線を分岐した分岐位置において、前記幹線および支線の外周に配置される磁性部材からなり、該磁性部材により前記幹線に入る高周波インピーダンスの実数成分を支線に入る高周波インピーダンスの実数成分より小さくしていることを特徴とする波形歪み緩和部材。
【請求項2】
前記磁性部材は1つの板状材からなり、前記幹線を貫通する幹線貫通穴および各支線をそれぞれ貫通する支線貫通穴からなる複数の貫通穴を間隔をあけて備え、
前記幹線貫通穴は支線貫通穴より穴径を大とし、
前記幹線貫通穴の内周面と該幹線貫通穴を貫通させた幹線の外周面との間の隙間を、前記支線貫通穴の内周面と該支線貫通穴を貫通させた支線の外周面との間の隙間より大としている請求項1に記載の波形歪み緩和部材。
【請求項3】
前記磁性部材は1つの板状材からなり、該板状材の板厚を部分的に変化させ、前記幹線をそれぞれ貫通する幹線貫通穴は板厚が薄い部分に設けて、幹線貫通穴の長さを短くする一方、前記各支線をそれぞれ貫通する支線貫通穴は板厚が厚い部分に設けて、支線貫通穴の長さを短くしている請求項1または請求項2に記載の波形歪み緩和部材。
【請求項4】
前記磁性部材は1つの板状材からなり、前記幹線貫通穴の穴径方向の肉厚は、前記支線貫通穴の穴径方向の肉厚より薄くしている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の波形歪み緩和部材。
【請求項5】
前記磁性部材は高透磁性部分と低透磁性部分を領域を分けて備え、
前記高透磁性部分に前記各支線貫通穴を設けている一方、前記低透磁性部分に前記幹線貫通穴を設けている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の波形歪み緩和部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の波形歪み緩和部材を備えた通信線路であって、
前記幹線は両端が終端抵抗を介して機器に接続され、前記支線は終端抵抗を介さずに機器に接続され、
前記波形歪み緩和部材の磁性部材の両端に幹線貫通穴を設けて前記幹線を貫通させる一方、中央部に複数の支線貫通穴を設け、これら各支線貫通穴にそれぞれ前記支線を貫通させ、
または、支線貫通穴を並列した領域の一端側に幹線貫通穴を並列に設け、それぞれ支線および幹線を貫通させていることを特徴とする波形歪み緩和部材を備えた通信線路。
【請求項7】
前記車載通信線は通信プロトコルをCANとし、幹線および支線はツイストペア電線からなり、
前記波形歪み緩和部材の磁性部材に設ける幹線貫通穴および支線貫通穴を前記ツイストペア電線または該ツイストペア電線に接続した接続端子を貫通させる各一対の貫通穴としていることを特徴とする請求項6に記載の波形歪み緩和部材を備えた通信線路。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の波形歪み緩和部材を備えた分岐コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−33961(P2010−33961A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196761(P2008−196761)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】