説明

波長変換器および発光装置

【課題】 平均粒子径10nm以下の半導体蛍光体をLEDチップと組み合わせてなる発光装置において良好な波長変換効率を発揮するとともに、安価で小型化も可能である波長変換器、およびこれを用いた発光装置を提供する。
【解決手段】 本発明の波長変換器は、0.05〜100μmサイズの液滴3を含んだ高分子5によって形成されており、前記液滴3は、含水率0.1質量%以下の液体9と該液体9中に分散した状態で存在する平均粒子径0.5〜10nmの半導体蛍光体7とからなり、前記高分子5の酸素透過度は10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下である。本発明の発光装置は、発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する前記波長変換器1とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子ディスプレイ用のバックライト電源、蛍光ランプ等に好適に用いられる発光装置とこれに用いる波長変換器とに関し、より詳しくは、発光素子から発せられる光を波長変換して外部に取り出すために用いられる波長変換器およびこれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以後、LEDチップと言うこともある)は、小型で電力効率が良く、鮮やかな色の発光を生じる。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特長を有するため、液晶などのバックライト光源や蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
【0003】
近年では、例えば、紫外発光素子(発光波長400nm以下)上に3種類の蛍光体を含有する波長変換部を形成することにより、幅広い範囲で発光波長をカバーし、演色性の向上した白色の発光装置を得る試みがなされている。この試みの中で、平均粒子径が10nm以下の半導体蛍光体を用いる技術が検討されており(非特許文献1参照)、次のような知見が報告されている。つまり、半導体蛍光体の平均粒子径を10nm程度の適切な値に設定すれば、半導体粒子のエネルギー準位が離散的となり、半導体粒子のバンドギャップエネルギーは半導体粒子の粒子径に合わせて変化することになる。したがって、半導体蛍光体の粒子径を変えることで、赤(長波長)から青(短波長)まで様々な発光を得ることができる。例えば、セレン化カドミウムは、平均粒子径を2nmから10nmの範囲で変化させることにより、その粒子径に応じて赤(波長700nm)から青(波長450nm)の蛍光を発する。この技術は、演色性が高く効率のよい発光装置の作製を可能にするものとして期待されている。
【0004】
一般に、LEDチップと蛍光体とを組み合わせて発光装置とするには、蛍光体を樹脂(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂など)に混合、分散させた後、これをLEDチップ上で固めて波長変換器を形成する方法が採られている。平均粒子径が10nm以下の半導体蛍光体をLEDチップと組み合わせる場合においても同様であり、半導体蛍光体を樹脂に混合、分散させ、これをLEDチップ上で固めて波長変換器を形成する方法で発光装置の開発が進められている。
【0005】
【非特許文献1】アール エヌ バルガバ(R.N.Bhargava)、ディー ガラガー(D.Gallagher)、エックス ホン(X.Hong)、エー ヌルミッコー(A.Nurmikko)著、フィジカル レビュー レターズ(Phys.Rev.Lett) 72巻 3号 1994年 (米国)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、平均粒子径が10nm以下といった超微粒子の半導体蛍光体を樹脂に混合、分散させたのち固めることにより波長変換器を形成した場合、製造上の不具合や、長期間使用の際の熱応力もしくは樹脂劣化などが起因して、半導体蛍光体と樹脂との間に隙間ができやすく、この隙間となった部分で光の反射がおこるため光の伝達効率が悪くなり、充分な波長変換効率を得ることができないという問題があった。
他方、半導体材料に光が照射されるとき、照射される光が酸素および水分存在下で励起可能なエネルギーを持つ光であると、そのエネルギーにより半導体材料は表面から酸化(光溶解)されて蛍光を示さなくなり、その結果、波長変換効率が損なわれることになる。特に、半導体蛍光体がナノサイズの超微粒子である場合には、半導体蛍光体の体積に比べて比表面積が格段に大きいため、蛍光体の劣化は著しい。この蛍光体劣化の問題を回避するには、半導体蛍光体の超微粒子を分散させた液体を、酸素および水分を遮断できるガラスや樹脂等で封止すればよいと考えられる。しかし、その場合、小型化が困難になると同時に、製造コストが高騰するといった問題を招くことになる。
【0007】
従って、本発明の課題は、平均粒子径10nm以下の半導体蛍光体をLEDチップと組み合わせてなる発光装置において良好な波長変換効率を発揮するとともに、安価で小型化も可能である波長変換器、およびこれを用いた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)0.05〜100μmサイズの液滴を含んだ高分子によって形成されており、前記液滴は、含水率0.1質量%以下の液体と該液体中に分散した状態で存在する平均粒子径0.5〜10nmの半導体蛍光体とからなり、前記高分子の酸素透過度は10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下である、ことを特徴とする波長変換器。
(2)前記高分子の分子量は10,000〜100,000である、前記(1)記載の波長変換器。
(3)前記液体は、変性シリコーンオイルおよびジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなる、前記(1)または(2)記載の波長変換器。
(4)発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の波長変換器とを具備する、ことを特徴とする発光装置。
【発明の効果】
【0009】
前記(1)によれば、平均粒子径0.5〜10nmの半導体蛍光体は高分子中に直接分散しているのではなく、液滴内において液体に分散した状態で存在することにより、平均粒子径10nm以下の半導体蛍光体を樹脂に混合、分散させた場合に起こる光の伝達効率の悪化を回避し、良好な波長変換効率を得ることができる。また、前記高分子の酸素透過度が10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下であり、かつ、前記液滴内の液体の含水率が0.1質量%以下であることにより、半導体蛍光体を酸素および水分から遮断することができ、その結果、半導体蛍光体に励起可能なエネルギーを持つ光が照射されても、そのエネルギーにより半導体蛍光体が酸化されることはなく、良好な波長変換効率を得ることができる。しかも、半導体蛍光体の酸化を防止するために半導体蛍光体を分散させた液体を酸素または水分を遮断できるガラスや樹脂で封止する必要もないので、安価に製造ができ、小型化も可能になる。さらに、平均粒子径0.5〜10nmの半導体蛍光体を0.05〜100μmサイズの液滴内に分散させるので、多数個の半導体蛍光体を存在させることが可能となり、結果として、高分子中には高濃度の半導体蛍光体が含まれ、より効率の良い波長変換を達成することができる。
【0010】
前記(2)によれば、前記高分子の分子量が10,000〜100,000であることにより、高分子溶液の粘度調整が容易であり、高分子内に液滴を形成しやすくなる、という利点が得られる。
前記(3)によれば、前記液体が変性シリコーンオイルおよびジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなることにより、耐熱性の向上をも図ることができる。
前記(4)によれば、発光素子とともに、上記構成の波長変換器が具備されていることにより、発光素子からの光を効率良く波長変換することができ、しかも安価で小型化も可能な発光装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[波長変換器]
以下、本発明の波長変換器の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1(a)は、本実施形態の波長変換装置を示す概略断面図であり、図1(b)は、本実施形態の波長変換装置における液滴を拡大して示す概略断面図である。
【0012】
本発明の波長変換器1は、例えば図1(a)に示すように、0.05〜100μmサイズの液滴3を含んだ高分子5によって形成されている。具体的には、高分子5中に0.05〜100μmサイズの液滴3が分散されてなる。そして、この液滴3は、図1(b)に示すように、液体9と該液体9中に分散した状態で存在する半導体蛍光体7とからなっている。このように、波長変換器1における半導体蛍光体7の保持を、従来用いられていた固体の樹脂ではなく、固体に比べ格段に容易に変形可能な液体9を用いて行うようにすることで、半導体蛍光体7と液体9との間に応力が発生せず、半導体蛍光体7と液体9との間に隙間が生じることを回避することができ、その結果、半導体蛍光体7の波長変換効率の低下を抑制することができるのである。さらに、液体9は、何らかの材料で包みこみ漏洩しないよう厳重に保持する必要があるが、その材料としてガラス等の容器を用いると、小型化が難しく、製造過程が複雑になり、取り扱い性やコスト的に不利となることが懸念される。本発明の波長変換器1は、液体9を液滴3として高分子5中に分散させて保持するようにしたことで、前記懸念を払拭し、安価に製造ができ、小型化も可能になる、という利点が得られる。
【0013】
本発明の波長変換器1に用いられる半導体蛍光体7は、光を波長変換する機能を有する。つまり、半導体蛍光体7は光源(後述する発光装置における発光素子13)より発せられた光を吸収し、この光の波長を変えて放出する機能を持つものである。
【0014】
本発明において、半導体蛍光体7の平均粒子径は0.5〜10nmであることが重要である。好ましくは、2〜5nmであるのがよい。半導体蛍光体7の平均粒子径が前記範囲であると、LED等の発光装置または半導体蛍光体7自身から発せられた光の散乱を抑制する事ができ、効率よく外部へ光を取り出すことができる。なお、平均粒子径は、例えば実施例で後述するように、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL社製「JEM2010F」)により加速電圧200kVで観察して測定するなどの方法にて求めることができる。
【0015】
半導体蛍光体7としては、上記の機能を有するものであれば特に制限されないが、例えば、周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第9族元素との周期表第16族元素との化合物、周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第4族元素との周期表第16族元素との化合物、周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、カルコゲンスピネル類等が挙げられる。
【0016】
具体的には、周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、テルル化鉛(PbTe)等が挙げられ、周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物として、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等が挙げられ、周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物として、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ge2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等が挙げられ、周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物として、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等が挙げられ、周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等が挙げられ、周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物として、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等が挙げられ、周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化銅(I)(Cu2O)等が挙げられ、周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物として、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、ヨウ化銀(AgI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等が挙げられ、周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化ニッケル(II)(NiO)等が挙げられ、周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等が挙げられ、周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物として、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等が挙げられ、周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化マンガン(II)(MnO)等が挙げられ、周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物として、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等が挙げられ、周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物として、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(II)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等が挙げられ、周期表第4族元素との周期表第16族元素との化合物として、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等が挙げられ、周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物として、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等が挙げられ、カルコゲンスピネル類として、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等が挙げられる。
【0017】
上記で例示した中でも、特に、AgI等の第11−17族化合物半導体、CdSe、CdS、ZnS、ZnSe等の第12−16族化合物半導体、InAs、InP等の第13−15族化合物半導体を主体とする化合物半導体のいずれかが望ましい。なお、本発明で使用する周期表は、IUPAC無機化学命名法1990年規則に従うものとする。
【0018】
また、半導体蛍光体7の表面には、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基等の官能基をもつ有機化合物などを結合させることが好ましい。アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基等の官能基をもつ有機化合物には、半導体蛍光体7の表面の欠陥を電気的に補修する効果があるため、半導体蛍光体7の波長変換効率を高めることができるからである。
【0019】
本発明の波長変換器1に用いられる液体9は、半導体蛍光体7の分散媒となるものであり、半導体蛍光体7を水や大気など外部の雰囲気から遮断し、半導体蛍光体7の濃度を適当に調整する働きをなす。
【0020】
本発明において、液体9は、含水率0.1質量%以下であることが重要である。液体9の含水率は短期的な波長変換効率の低下に影響するものであり、0.1質量%以下とすることにより、水分の存在下で励起光により生じる半導体蛍光体7の劣化を抑制することができ、結果として、該半導体蛍光体7の劣化によって波長変換効率が低下するのを防ぐことができる。液体9の含水率は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であるのがよい。液体9の含水率を0.1質量%以下とするには、例えば、液体9中にモレキュラーシーブを適量(通常、液体9の総量に対して10重量%程度)添加して水分を吸着させたり、減圧下で加熱するなどの方法等が挙げられる。なお、含水率は、JIS−K−0068に規定されたカールフィッシャー滴定法(水分気化法)で滴定することなどにより測定することができる。
【0021】
液体9としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、流動パラフィン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、ヘキセン、オクテン、デセン、オクタデセン、トルエン、キシレン、ベンゼン、オレイルアミン、ドデシルアミン、2−エチルへキサン酸、ドデカンチオール、オレイン酸、デカノール等の炭素数6〜20程度の炭化水素を挙げることができる。これらの中でも特に、変性シリコーンオイルおよびジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種が好ましい。変性シリコーンオイルやジメチルシリコーンオイルは、比較的沸点が高いため取り扱い性に優れ、変質しにくく、水の溶解度が低く、耐久性に優れているという利点を有するからである。なお、変性シリコーンオイルとは、ジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイルに各種官能基を結合させて機能付与したものであり、変性シリコーンオイルの中でも、とりわけアミノ変性したものやカルボキシル変性したものが好適である。
【0022】
また、液体9は、水の溶解度が0.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以下であるのがよい。液体9の水の溶解度は、長期的な波長変換効率の低下に影響するものであり、0.1質量%以下であることにより、水が液体9を経由して半導体蛍光体7に接触するのを抑制することができる。つまり、波長変換器1を作製する工程で高分子5の水溶液を使用した場合など、仮に雰囲気中に多量の水分があったとしても、液体9の水分含有量を低く抑え、水を確実に遮断することができるのである。この点で好ましい液体9としては、例えば、シリコーンオイル、n−オクタン、キシレン、変性シリコーンオイル等が挙げられる。なお、本発明における前記水の溶解度とは、40℃において液体9に溶解する水の質量%を意味する。
【0023】
また、液体9として、例えば、オレイルアミン、ドデカンチオール、オレイン酸、ドデシルアミン、変性シリコーンオイル、2−エチルへキサン酸、オクタデシルアミン等のように極性を有する液体を用いることも好ましい。これにより、液体9が半導体蛍光体7表面の欠陥補修の作用を果たすことができるため、予め半導体蛍光体7の表面の欠陥を有機アミン等により補修しておかなくて済む。しかも、半導体蛍光体7の表面の欠陥補修をしている有機アミン等の化合物がたとえ脱離してしまった場合でも、半導体蛍光体7の周囲に存在する液体9が、該化合物に代わって半導体蛍光体7表面の欠陥を補修できる。このように、液体9として極性を有する液体を用いることで、長期間にわたり半導体蛍光体7表面の欠陥補修効果を維持でき、その結果、長期間にわたり安定して波長変換を行なわせることができるという利点が得られるのである。また、例えば、半導体蛍光体7の表面に欠陥補修効果のある有機アミン等を予め結合させておくことはせず、極性を持たない液体に極性を持つ化合物(液体)を併用する等して液体9に直接欠陥補修効果を持たせることもできる。このとき、極性を持たない液体に極性を持つ化合物(液体)を併用する際の組合せとしては、例えば、オクタデセンとオレイン酸との組み合わせ、オクタデセンとオクタデシルアミンとの組み合わせ、シリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
さらに、液体9は、複数の種類の半導体蛍光体7で波長変換器1を構成する場合、あるいは半導体蛍光体7と半導体蛍光体7以外の蛍光体(例えば、屈折率を調整するための機能性材料粒子など)とを組み合わせて波長変換器1を構成する場合に、これらが偏ったり凝集したりすることなく保持できる機能を備えていることが望ましい。また、液体9は、光源(後述する発光装置における発光素子13)が出力した光が半導体蛍光体7まで届く光路、および半導体蛍光体7が波長変換した光が発光装置の外部へ出るまでの光路となるため、これらの光に対して透過率が高いことが望ましい。また、光源(後述する発光装置における発光素子13)が出力した光や半導体蛍光体7が波長変換した光、あるいは光源(後述する発光装置における発光素子13)が発生した熱により変質しないことが望ましい。なお、液体9は、単一の成分からなる必要はなく、複数の成分からなるものでもよい。
【0025】
半導体蛍光体7と液体9とからなる液滴3は、そのサイズが0.05〜100μmであることが重要である。前述したように、半導体蛍光体7は平均粒子径が0.5〜10nmであり、このような微小な半導体蛍光体7を0.05〜100μmサイズの液滴3内に分散させることで、多数個の半導体蛍光体7を存在させることが可能となり、結果として、高分子5中に高濃度の半導体蛍光体7が含まれ、より効率の良い波長変換を達成することができるようになる。液滴3のサイズが前記範囲となるようにするには、例えば、後述するように、高分子5の溶液に半導体蛍光体7を分散した液体9を加えて攪拌し乳化させるにあたり、攪拌能力を考慮して高分子5の溶液粘度を調整するようにすればよい。なお、液滴3のサイズは、例えば、得られた波長変換器を液体窒素で凍結し、その凍結した波長変換器を破断してその破断面を電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
【0026】
液滴3における半導体蛍光体7と液体9との割合は、特に限定されないが、例えば、半導体蛍光体7の濃度(すなわち、液体9に対する半導体蛍光体7の割合)が2〜10質量%、好ましくは4〜6質量%とするのがよい。なお、この両者の割合は、高分子5中の全液滴3に占める半導体蛍光体7の総量と、高分子5中の全液滴3に占める液体9の総量との割合で判断すればよい。
なお、半導体蛍光体7は液体9中に存在しているのであり、その表面は液体9に取り囲まれているのであるが、その際、液体9の含水率が0.1質量%以下でなければならないのと同様の理由から、半導体蛍光体7の表面が水や−0H基を介さずに液体9に取り囲まれていることが望ましい。このように、半導体蛍光体7の表面が水や−0H基を介さずに液体9に取り囲まれるようにするには、半導体蛍光体7として、実質的に水のない環境で製造されたものを用いることが重要となる。また、使用する半導体蛍光体7を予め乾燥機等で乾燥させておくことも好ましい。
【0027】
本発明において、高分子5の酸素透過度は10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下であることが重要である。これにより、高分子5に分散している液滴3中の半導体蛍光体7を酸素から遮断することができるため、半導体蛍光体7に励起可能なエネルギーを持つ光が照射されても、そのエネルギーにより半導体蛍光体7が酸化して劣化することはなく、半導体蛍光体7の劣化により波長変換器1の波長変換効率が低下することがない。
酸素透過度が10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下の高分子としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコールあるいはポリビニルアルコールとポリエチレンの共重合体等が挙げられる。なお、酸素透過度は、例えば、JIS K 7126に準じたGTRテック(株)GTR−100GW/30X等の装置で測定することができる。
【0028】
さらに、高分子5の分子量は、10,000〜100,000であることが好ましい。より好ましくは、20,000〜90,000であるのがよい。高分子5の分子量が前記範囲であることにより、高分子5内に液滴3を形成しやすく、高分子5の溶液粘度の調整が容易でフィルム状等にも成形しやすい、という利点が得られる。高分子5の分子量が10,000未満であると、硬化しにくいためフィルム状等に成形できなくなる恐れがある他、加える水分量が少なくなるため、樹脂の水溶液の粘度の調整が難しくなるおそれがある。一方、100,000を超えると、水に溶解しにくいため内部に液滴3を形成できなくなる恐れがある。なお、前記分子量は、重量平均分子量を意味するものであり、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
高分子5中に占める液滴3の割合は、特に限定されないが、例えば、高分子5中の全液滴3に含まれる半導体蛍光体7の総量が、高分子5に対して0.1〜0.7質量%、好ましくは0.4〜0.6質量%となる範囲であることが好ましい。
【0029】
以下、本発明の波長変換器1の製造方法について、半導体蛍光体7としてセレン化カドミウム(CdSe)を用いた場合を一例として説明する。但し、本発明の波長変換器1を得る際の方法は、勿論、以下の方法に限定されるものではなく、用いる半導体蛍光体7の種類等に応じて、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0030】
本発明の波長変換器を製造するに際しては、まず、半導体蛍光体7の合成を行なう。具体的には、例えば、ドデシルアミンやオレイルアミン等の液体9と、トリオクチルフォスフィンおよび酢酸カドミウムとを混合して200〜300℃に加熱し、これにトリオクチルフォスフィンとセレンとの混合物を加え、さらに同じ温度で加熱することにより、平均粒子径0.5〜10nmのセレン化カドミウム粒子を合成することができる。このとき、半導体蛍光体7の粒子径は、合成温度や合成時間によって制御することができ、具体的には、合成温度を高くするか、あるいは合成時間を長くすると、半導体蛍光体7の粒子径は大きくなる。なお、半導体蛍光体7の合成は、実質的に水のない環境で行なうことが望ましく、前記液体9として用いるドデシルアミンやオレイルアミン等は、前述した範囲の含水率となるよう、モレキュラーシーブを適量(通常、液体9の総量に対して10重量%程度)添加して水分を吸着させたり、減圧下で加熱するなどして予め水分を充分に除去しておくことが好ましい。
【0031】
前記合成で得られたセレン化カドミウム粒子は、必要に応じて、例えばエタノール等の貧溶媒を加えて遠心分離機にかけ、セレン化カドミウム粒子を沈殿させて、デカンテーションにより精製することができる。このとき用いるエタノール等の貧溶媒は、五酸化りん等により予め充分に脱水したものを用いることが望ましい。なお、セレン化カドミウム粒子をデカンテーションにより精製した場合には、精製したセレン化カドミウム粒子を再び液体9に分散させておく。ここで分散に用いる液体9は、前記合成時に使用した液体と同じものであってもよいし、別のものであってもよい。好ましくは、分散に用いる液体9として、前述した液体9のうち、シリコーンオイル、n−オクタン、キシレン、変性シリコーンオイル等を用いるのがよく、特に、極性を有する変性シリコーンオイルを用いることがより好ましい。
【0032】
次に、このようにして得た半導体蛍光体7が分散した液体9を、液滴3として高分子5中に含有させる。具体的には、例えば、高分子5としてポリビニルアルコールを用い、まず、該ポリビニルアルコールを水と混合したのち加熱攪拌して水溶液にする。この水溶液中に、上記合成もしくは精製で得た分散液(すなわち、セレン化カドミウム粒子が分散した液体9)を加え、メカニカルスターラー等で攪拌することによりポリビニルアルコール水溶液の中に前記分散液の液滴3を形成し、乳化した状態とする。ここで、形成される液滴3のサイズが0.05〜100μmの範囲となるように、ポリビニルアルコール水溶液の粘度を予め攪拌能力に合わせて適度に調整しておくことが重要である。このようにして得た乳化状態の液体を基板上に塗工したのち、真空加熱乾燥を施すことにより、波長変換器1を得ることができる。なお、塗工の際の厚みは、得られる波長変換器1の厚みが0.5〜2mmとなるように適宜設定すればよい。
【0033】
以上、本発明の波長変換器1の製造方法の一例について説明したが、前述したように、特に、半導体蛍光体7の合成工程において、水が実質的にない環境を整えることが重要である。水が存在する環境で作製した半導体蛍光体7は、はじめから波長変換効率が低く、生体マーカーとしては機能しうるものの照明用途には全く適さないものとなる恐れがある。
【0034】
[発光装置]
以下、本発明の発光装置の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態の発光装置を示す概略断面図である。なお、図2においては、前述した図1(a)および図1(b)の構成と同一または同等な部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0035】
本発明の発光装置15は、図2に示すように、発光素子13と、この発光素子13からの光を受け、この光を波長変換する本発明の波長変換器1とを具備するものである。具体的には、発光素子13からの光が波長変換器1に照射されるように、発光素子13を搭載した基板(発光素子用配線基板)10に波長変換器1を配設することで本発明の発光装置15となる。詳しくは、基板10には、発光素子13の電力を供給するための電極(配線回路)11が配設され、この電極11と発光素子13の端子(図示せず)とがワイヤ19を介して接続されている。なお、発光素子13は、半田や樹脂などの接着層21により基板10に固定されており、発光素子13を保護するために発光素子13を覆うように被覆樹脂23が形成されている。このような発光装置15においては、発光素子13から発せられる励起光の一部が、波長変換器1を通過する途中で波長変換器1に含まれる半導体蛍光体7に吸収され出力光を発する。なお、所望により、発光素子13の側面には、光を反射する反射体を設け、側面に逃げる光を前方に反射し、出力光の強度を高めることもできる。
【0036】
基板10としては、熱伝導性に優れ、全反射率の大きなものが好適であり、例えば、アルミナ、窒素アルミニウム等のセラミック材料や、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂等が好ましく挙げられる。
発光素子13は、中心波長が450nm以下、特に370〜420nmの紫外光を発するものであることが好ましい。この範囲の波長域の励起光を用いることにより、蛍光体の励起を効率的に行なうことができ、出力光の強度を高め、より発光強度の高い発光装置を得ることが可能となることに加え、出力光の色合いのコントロールを容易に行うことができる。
【0037】
発光素子13は、前記中心波長を発するものであれば、特に制限されるものではないが、発光素子基板(不図示)の表面に半導体材料からなる発光層(不図示)を備える構造を有していることが、高い外部量子効率を有する点で好ましい。ここで、半導体材料としては、発光波長が前記波長範囲であれば特に限定されないが、例えば、ZnSeや窒化物半導体(GaN等)など種々の半導体を挙げることができる。また、発光素子基板は、発光層との組み合わせを考慮して材料選定をすればよく、例えば、窒化物半導体からなる発光層を表面に形成する場合には、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、ZrB2、GaNおよび石英等の材料からなるものが好適である。特に、結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるためにはサファイア基板を用いることが好ましい。例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタシャル成長法等の結晶成長法を用いて、前記半導体材料からなる発光層を有する積層構造を前記発光素子基板上に形成することにより、発光素子13を得ることができる。
【0038】
被覆樹脂23としては、波長変換器1を構成する高分子5として前述したものを用いることができるほか、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアリレート、さらにこれら材料の誘導体等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が、光透過性を有していることに加え、耐熱性にも優れる点で、特に好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、半導体蛍光体の平均粒子径の測定は下記のようにして行った。
【0040】
<平均粒子径>
まず、粒子濃度が0.002〜0.02モル/リットルの範囲の半導体蛍光体分散液を調製して確認した。このとき、溶媒としてはイソプロピルアルコール(IPA)やトルエンを用いた。
次に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用マイクログリッドを上記で調製した半導体蛍光体分散液に浸すことにより半導体蛍光体を付着させた後、これを常温でデシケーター中に静置して半導体蛍光体分散液を乾燥させ、半導体蛍光体の粒子が表面に付着したTEM観察用マイクログリッドを作成して測定に供した。
【0041】
上記で作成したTEM観察用マイクログリッドを透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL社製「JEM2010F」)を用い、加速電圧200kVで観察した。この際、倍率は500000倍から1000000倍で、粒子の格子縞が見えるように焦点を合わせ、得られたTEM像の拡大写真上で200個以上の粒子を試料として、粒子径を測定した。粒子径が大きくて粒子全体が視野に入らない場合は、格子縞が見える高倍率で1次粒子であることを確認した後、粒子全体が視野に入る倍率でTEM像を観察し、粒子径を測定した。ここで、半導体蛍光体粒子は、格子縞が見えている部分のみを対象としており、粒子表面に吸着している有機配位子などの有機物は粒径に換算していない。
【0042】
また、半導体蛍光体粒子に比べて充分に大きいサブミクロン以上の粒子は、樹脂の破断面を走査型電子顕微鏡で観察することで、200個以上の粒子について粒子径を測定した。この際、粒子の直径は、破断面表面に露出している部分の直径に対し、係数1.5を掛けて粒子全体の直径として扱った(インターセプト法、「セラミックスのキャラクタリゼーション技術」pp.7〜8、社団法人窯業協会編、社団法人窯業協会発行)。
【0043】
測定した粒子の直径は、ヒストグラムを書いて統計的に計算することで、長さ平均径を算出した。長さ平均径の算出方法は、粒子径区に属する個数をカウントし、粒子径区の中心値と個数のそれぞれの積の和を、測定した粒子の個数の総数で割るという方法を用いた(平均粒子径の形状とその計算式、「セラミックの製造プロセス」pp.11〜12、窯業協会編集委員会講座小委員会編、社団法人窯業協会発行)。このようにして計算した長さ平均径を平均粒子径として扱った。
なお、TEM観察で得られた像を透明な樹脂フィルムシートに写し取り、画像解析処理装置によって、粒子の平均粒子径を求める方法でも測定は可能であることを確認した。
【0044】
(半導体蛍光体の合成)
最初に、CdSe半導体蛍光体粒子ならびにZnS半導体蛍光体粒子を水が混入しない方法を用いて非水系で合成した。具体的には、CdSe半導体蛍光体粒子の合成は次のように行なった。まず、五酸化りんで乾燥させた窒素雰囲気のグローブボックス中でフラスコにトリオクチルフォスフィン12.5gとセレン0.395gを加え、これを1時間攪拌した。次に、これにトリオクチルフォスフィン20g、酢酸カドミウム0.266g、ドデシルアミン20mLを予め130℃で混合したものを加えた。これを200℃に加熱し、撹拌しながらそのまま200℃に維持して10分間攪拌し、CdSe半導体蛍光体粒子を合成した。
【0045】
また、ZnS半導体蛍光体粒子の合成は次のように行なった。まず、五酸化りんで乾燥させた窒素雰囲気のグローブボックス中でフラスコにトリオクチルフォスフィン12.5gと硫黄0.16gを加え、これを1時間攪拌した。次に、これにトリオクチルフォスフィン20g、酢酸亜鉛0.212g、ドデシルアミン20mLを予め130℃で混合したものを加えた。これを200℃に加熱し、撹拌しながらそのまま200℃に維持して10分間攪拌し、ZnS半導体蛍光体粒子を合成した。
なお、上記非水系での合成において溶媒として用いたドデシルアミンは、予め酸化カルシウムを加えて2時間還留した後に蒸留して水を除去したものを用いた。
【0046】
次に、比較用の半導体蛍光体として含水系溶媒中でZnS半導体蛍光体粒子を合成した。具体的には、まず、ヘプタン15mLにビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム1.6gを溶解し、これに水0.518gを添加した。これに硫化ナトリウム1.17gを加えた。また、これとは別にヘプタン15mLにビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム1.6gを溶解し、これに水0.518gを添加した。これに酢酸亜鉛を5.5g溶解した。次に、これら2つの溶液を混合して24時間攪拌し、ZnS半導体蛍光体粒子を合成した。
【0047】
上記のようにして合成した各半導体蛍光体粒子の平均粒子径を測定したところ、水が混入しない方法を用いて非水系で合成したCdSe半導体蛍光体粒子ならびにZnS半導体蛍光体粒子および含水系溶媒中で合成したZnS半導体蛍光体粒子の平均粒子径は、いずれも3.5nmであった。
【0048】
(半導体蛍光体の分散)
水が混入しない方法を用いて非水系で合成したCdSe半導体蛍光体粒子ならびにZnS半導体蛍光体粒子は、次のようにして液体に分散させた。すなわち、CdSe半導体蛍光体粒子の場合、まず、合成したCdSe半導体蛍光体粒子を精製した。具体的には、CdSe半導体蛍光体粒子の合成で得られた反応液に、モレキュラーシーブ3Aで脱水したエタノールをCdSe半導体蛍光体粒子が凝集体を形成する量まで加え、続いてこれを遠心分離機にかけてCdSe半導体蛍光体粒子を完全に沈殿させたのち、上澄みのエタノール溶液を取り除くことにより、CdSe半導体蛍光体粒子から原料未反応物や副生成物を除去した。次に、沈殿しているCdSe半導体蛍光体粒子に対して、試料No.に応じてそれぞれ表1に示す液体を加え、該液体に分散させた。このとき、加える液体の量は半導体蛍光体粒子の濃度が5質量%となる量とした。ZnS半導体蛍光体粒子の場合も、上記と同様にして表1に示す液体に分散させた。
【0049】
含水系溶媒中で合成したZnS半導体蛍光体粒子は、次のようにして液体に分散させた。すなわち、まず、合成したZnS半導体蛍光体粒子を精製した。具体的には、ZnS半導体蛍光体粒子の合成で得られた反応液に、チオフェノールをZnS半導体蛍光体粒子が凝集体を形成する量まで加え、続いてこれを遠心分離機にかけてZnS半導体蛍光体粒子を完全に沈殿させたのち、上澄み液を取り除くことにより、ZnS半導体蛍光体粒子から原料未反応物や副生成物を除去した。次に、沈殿しているZnS半導体蛍光体粒子に対して、表1に示す液体を加え、該液体に分散させた。このとき加える液体の量は半導体蛍光体粒子の濃度が2.5質量%となる量とした。
なお、上記のようにして得られた半導体蛍光体が分散した液体(以下、「半導体蛍光体分散液」と称することもある)について、それぞれ、含水率をJIS−K−0068に規定されたカールフィッシャー滴定法(水分気化法)により測定したところ、各々表1に示す通りであった。用いた液体の水の溶解度についても各々表1に併せて示す。
【0050】
(波長変換器の作製)
上記のようにして得た試料No.1〜7の半導体蛍光体分散液を用い、該半導体蛍光体分散液が各々表1に示す高分子中で液滴として存在するように加工し、波長変換器を作製した。
具体的には、高分子として酸素透過度が5.2×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)であり分子量22,500のポリビニルアルコール(PVA)を用いた場合、まず、このポリビニルアルコール5gを水18gと混合し、90℃に加熱して15時間攪拌し、ポリビニルアルコールを水に溶解させ、粘度およそ5,000csのポリビニルアルコール水溶液とした。このポリビニルアルコール水溶液に、各試料No.の半導体蛍光体分散液を0.33g添加し、メカニカルスターラーを用い600rpmで5時間攪拌混合して、乳化した液体とした。次に、この乳化した液体をドクターブレード法でPETフィルム上に塗工し、加熱して温度30〜80℃で真空乾燥し、フィルムを形成した。このとき、塗工の厚みは、形成したフィルムの厚みが0.7mmとなるように設定した。得られたフィルムを直径7mmの円形に切り取り、波長変換器とした。このようにして得られた波長変換器を液体窒素で凍結して破断し、その破断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、いずれも、サイズが1〜50μmの範囲である液滴が分散されて存在していることが確認できた。
液滴のサイズは前述のインターセプト法を用いて算出した。すなわち、樹脂の破断面を走査型電子顕微鏡で破断面表面に露出している液滴の存在した部分200箇所以上を観察し、この部分の直径に対し、係数1.5を掛けて液滴の全体の直径として扱った。また、測定した液滴の直径は、ヒストグラムを描いて統計的に計算することで、長さ平均径を算出し、これを液滴のサイズとした。長さ平均径の算出方法は、粒子径区に属する個数をカウントし、粒子径区の中心値と個数のそれぞれの積の和を、測定した粒子の個数の総数で割るという方法を用いた。
【0051】
高分子として酸素透過度が2.010×1010cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)であり分子量45,000のポリスチレン(PS)を用いた場合、まず、このポリスチレン5gをトルエン7gと混合し、70℃に加熱して15時間攪拌し、ポリスチレンをトルエンに溶解させ、粘度およそ5,000csのポリスチレンのトルエン溶液とした。このポリスチレンのトルエン溶液に、半導体蛍光体分散液を0.33g添加し、メカニカルスターラーを用い600rpmで5時間攪拌混合した。このとき、液体は乳化しなかった。次に、この乳化していない液体をドクターブレード法でPETフィルム上に塗工し、加熱真空乾燥し、フィルムを形成した。このとき、塗工の厚みは、形成したフィルムの厚みが0.7mmとなるように設定した。得られたフィルムを直径7mmの円形に切り取り、波長変換器とした。このようにして得られた波長変換器を液体窒素で凍結して破断し、その破断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、分散状態の液滴は認められなかった。
【0052】
(波長変換器の評価)
得られた各試料No.の波長変換器を、それぞれ、波長395nm、出力0.84W、サイズ0.3mm×0.3mmのIn−Ga−N組成LEDチップ上に載せ、Labsphere社製の全光束測定システム(DAS−2100)を用いて波長変換効率を測定した。
【0053】
具体的には、まず、波長変換器をLEDチップに載せずに、LEDチップの出力エネルギー(a)を求めるとともに、LEDチップの出力波長の最大値を求めた。このLEDチップの出力波長の最大値は430nmであった。次に、波長変換器をLEDチップに載せ、LEDチップを発光させ、波長変換器に光を照射し、波長変換器から出力された220〜1100nmの範囲の光を積分球で回収して、その回収エネルギー(b)を求めた。このエネルギーのうち、LEDチップの出力波長の最大値である430nm以下の波長のエネルギーを未変換のエネルギー(c)とした。そして、得られたLEDチップの出力エネルギー(a)と、回収エネルギー(b)と、未変換のエネルギー(c)とを用い、下記式に基づき波長変換器の波長変換効率(%)を求めた。この値を初期値とする。
波長変換効率(%)=100×((b)−(c))÷((a)−(c))
【0054】
次いで、波長変換器を、波長395nm、出力0.84W、サイズ0.3mm×0.3mmのIn−Ga−N組成LEDチップ上に載せ、500時間光を照射し続けた後に、再度、上記と同様にして、500時間後の波長変換効率を測定した。そして、波長変換効率初期値に対する500時間後の波長変換効率の比率を百分率で求め、これを500時間後の波長変換効率の維持率(%)とした。
各試料No.について、波長変換効率の初期値および500時間後の波長変換効率の維持率を表1に示す。なお、表中、*は、そのNo.の試料が本発明の範囲外であることを示すものである。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、請求項1で規定する要件の全てが本発明の範囲である試料No.1〜5ではいずれも、初期の波長変換効率は45%以上と良好であり、しかもこの良好な変換効率を500時間後においても維持率85%以上で維持できる。
これに対して、液体の含水率が本発明の範囲外である試料No.6では、初期の波長変換効率が非常に低く、しかも500時間後の波長変換効率の維持率は55%であり、波長変換効率は経時的にさらに低下していった。また、高分子の酸素透過度が本発明の範囲外である試料No.7では、初期の波長変換効率は29%で試料No.1〜5と比べやや低い程度であるが、500時間後の波長変換効率の維持率は3%と極端に低く、500時間後にはもはや波長変換に使用しうるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明にかかる波長変換器の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかる発光装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・波長変換器
3・・・液滴
5・・・高分子
7・・・半導体蛍光体
9・・・液体
10・・・基板
11・・・電極
13・・・発光素子
15・・・発光装置
19・・・ワイヤー
21・・・接着層
23・・・被覆樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05〜100μmサイズの液滴を含んだ高分子によって形成されており、前記液滴は、含水率0.1質量%以下の液体と該液体中に分散した状態で存在する平均粒子径0.5〜10nmの半導体蛍光体とからなり、前記高分子の酸素透過度は10×106cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下である、ことを特徴とする波長変換器。
【請求項2】
前記高分子の分子量は10,000〜100,000である、請求項1記載の波長変換器。
【請求項3】
前記液体は、変性シリコーンオイルおよびジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなる、請求項1または2記載の波長変換器。
【請求項4】
発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する請求項1〜3のいずれかに記載の波長変換器とを具備する、ことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262375(P2007−262375A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93202(P2006−93202)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】