説明

波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体

【課題】各種の既存の基材に適応でき、常温における塗膜形成も可能な波長選択型遮蔽膜を提供する。
【解決手段】バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、有機紫外線吸収剤と、希釈溶媒と、硬化触媒とを、含有してなる波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られる波長選択型遮蔽膜であって、前記バインダー成分が、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランとを反応させてなる反応物であり、前記近赤外線遮蔽成分が、一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子であり、前記有機紫外線吸収剤が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等であり、前記バインダー成分の硬化触媒が三弗化ホウ素ピペリジンであることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、プラスチック、その他の透明基材を始めとする各種の基材に適用可能な波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を塗布硬化させて得られる、紫外線遮蔽機能および日射遮蔽機能を有する波長選択型遮蔽膜並びに波長選択型遮蔽体であって、当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を塗布した後に、有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止された波長選択型遮蔽膜とそれを具備する波長選択型遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外線、可視光線、紫外線の3つに大きく分けることができる。このうち、長波長領域の近赤外線(熱線)は、熱エネルギーとして人体に感じる波長領域の光であり、室内、車内の温度上昇の原因ともなるものである。一方、短波長領域の紫外線は、日焼け、しみ、そばかす、発癌、視力障害など人体への悪影響があり、物品の機械的強度の低下、色褪せなどの外観の劣化、食品の劣化、印刷物の色調の低下なども引き起こすものである。
【0003】
これらの不要な近赤外線(熱線)や有害な紫外線のうち、近赤外線を遮蔽するために、該近赤外線を遮蔽する日射遮蔽膜を基材上に形成して、日射遮蔽機能を持たせたガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材が使用されている。そして、従来から、前記日射遮蔽膜として、金、銀、銅、アルミニウムなどのような伝導電子を多量に持つ金属材料の薄膜を日射遮蔽材料とした日射遮蔽膜が用いられている。
【0004】
一方、日射遮蔽材料を含有する塗布液を適宜な基材上に塗布し、日射遮蔽膜を当該基材上に形成することによって簡単に、かつ低コストで日射遮蔽機能を持たせた透明基材を製造することも提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、自由電子を多量に保有する六ホウ化物を微粒子化し、日射遮蔽膜へ高度に分散させることによって、可視光領域に透過率の極大を持つとともに、可視光領域に近い近赤外領域に強いプラズマ反射を発現して、該近赤外領域に透過率の極小を持つようになることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2は、日射遮蔽材料としてバインダー中に六ホウ化物を含有した日射遮蔽膜形成用塗布液について記載している。そして、特許文献2に記載の日射遮蔽膜へさらに紫外線吸収剤を添加することによって、日射遮蔽能に加え紫外線遮蔽能も付与された波長選択型遮蔽膜が得られることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3は、日射遮蔽機能を有する微粒子として一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.0<z/y<3.0)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、および/または一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子を含む中間層を、板ガラス、プラスチックおよび日射遮蔽機能を有する微粒子を含むプラスチックから選ばれた2枚の合わせ板間に介在させてなる日射遮蔽用合わせ構造体(酸化タングステン系近赤外光遮蔽材料)を記載している。
【0008】
特許文献4は、上記特許文献3に記載の酸化タングステン系近赤外光遮蔽材料へ、さらに平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種からなる微粒子と、平均粒径200nm以下のアンチモンドープ酸化錫(ATO)と平均粒径200nm以下の錫ドープ酸化インジウム(ITO)のうちから選ばれる少なくとも1種類の微粒子とを混合することで、日射遮蔽膜の色調の制御範囲を幅広くし、高い日射遮蔽能と機械強度を有する日射遮蔽膜について記載している。
【0009】
【特許文献1】特開平11−693984号公報
【特許文献2】特開2001−262061号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/087680
【特許文献4】特開2006−299087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等の検討によると、有機紫外線吸収剤を含有する波長選択型遮蔽膜において、バインダーの硬化速度を制御することで、硬化速度が過大である場合に塗膜に生じる筋状の欠陥や、硬化速度が過小である場合に塗膜に生じるごみや埃の付着を回避できる。そして、当該バインダーの硬化速度制御は、バインダーに添加する硬化触媒濃度の制御により行うことが出来ることを見出した。ところが、実用的な硬化速度が得られるように、硬化触媒の適正配合量を調整した場合であっても、塗膜が硬化途中の段階において、梅雨時のような高湿度下に曝されると、含有されている有機紫外線吸収剤が塗膜表面に浮き出てしまい、塗膜が白く曇る現象が生じた。例えば、硬化触媒として三弗化ホウ素ピペリジンを0.1重量%の配合率で添加すると、可視光に対する透明性および膜厚の均一性に優れた塗膜が常温で得られるが、塗膜が硬化途中の段階で高湿度の環境下に曝されると、有機紫外線吸収剤が塗膜表面に浮き出てしまい、塗膜が白く曇る現象が起きてしまう。そこで、三弗化ホウ素ピペリジンの配合量をさらに増やすと、今度は波長選択型遮蔽膜形成用塗布液のレベリング性が低下し、硬化して得られた波長選択型遮蔽膜に濃淡ムラが生じるといった問題があった。
【0011】
本発明は、上述の問題点を解決し、有機紫外線吸収剤を含む波長選択型遮蔽膜形成用塗布液から形成される波長選択型遮蔽膜であって、各種の既存の基材に適応でき、20℃から25℃程度の常温における塗膜形成も可能で、且つ、優れた膜強度を有し、且つ、当該塗膜の硬化途中の段階において著しく湿度が高い環境下に曝された場合であっても、有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止された波長選択型遮蔽膜、並びに、当該波長選択型遮蔽膜が基材上に形成されてなる波長選択型遮蔽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、有機紫外線吸収剤を含む波長選択型遮蔽膜形成用塗布液から形成される波長選択型遮蔽膜において、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランを混合反応させてなる反応物をバインダー成分として用い、さらに近赤外光遮蔽成分として複合タングステン酸化物の微粒子(日射遮蔽機能を有する微粒子として、一般式MxWyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合酸化物微粒子)を用い、さらに硬化触媒として三弗化ホウ素ピペリジンを波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中に0.2〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%添加した波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を製造し、該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を適宜な基材上で硬化させることにより、20〜25℃といった常温下における塗膜形成が可能で、優れた膜強度が得られ、かつ、有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止された波長選択型遮蔽膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の構成は、
バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、有機紫外線吸収剤と、希釈溶媒と、バインダー成分の硬化触媒とを、含有してなる波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られる波長選択型遮蔽膜であって、
前記バインダー成分の少なくとも1種が、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランとをモル比で2:1〜1:1の範囲で反応させてなる下記一般式(化1)で表される反応物であり、
前記近赤外線遮蔽成分が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物から選ばれる少なくとも1種類を含む、平均粒径200nm以下の微粒子であり、
前記有機紫外線吸収剤が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選択される1種類以上であり、
前記バインダー成分の硬化触媒が、三弗化ホウ素ピペリジンであり、該三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.2〜0.7重量%であることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【化1】

【0014】
本発明の第2の構成は、
前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液における、
前記近赤外遮蔽成分の配合量が1〜10重量%であり、
前記バインダー成分の配合量が10〜40重量%であり、
前記有機紫外線吸収剤の配合量が0.5〜5重量%であり、
他に、前記希釈溶剤が添加され、総量で100重量%となる、第1の構成に記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0015】
本発明の第3の構成は、
前記三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.4〜0.6重量%である、第1または第2の構成に記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0016】
本発明の第4の構成は、
さらに、紫外線吸収剤として、CeO、ZnO、Fe、FeOOHから選択される少なくとも1種類以上であって、平均粒径100nm以下の無機紫外線遮蔽微粒子が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.5〜5重量%添加されている、第1〜第3の構成のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0017】
本発明の第5の構成は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を含む、第1〜第4の構成のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0018】
本発明の第6の構成は、
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素である、第1〜第5の構成のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0019】
本発明の第7の構成は、
25℃における粘度が、2cps以上、20cps以下である、第1〜第6の構成のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0020】
本発明の第8の構成は、
第1〜第7の構成のいずれかに記載された波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、スポンジコート法により基材へ塗布後、温度20〜25℃の大気下、または、温度25〜150℃の熱風下で、乾燥、硬化させて得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜である。
【0021】
本発明の第9の構成は、
第1〜第8の構成のいずれかに記載の波長選択型遮蔽膜が、基材の少なくとも片面に形成され、且つ、可視光に対して透明性を有することを特徴とする波長選択型遮蔽体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、適宜な基材上に塗布することで20〜25℃という常温でも硬化する。そして、当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液が硬化することで得られる本発明に係る波長選択型遮蔽膜は、高い紫外線遮蔽機能、高い日射遮蔽機能、高い表面強度、可視光に対する高い透明性を有するのみならず、高湿度下の保管後でも有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止されたものである。
【0023】
また、適宜な基体上に本発明に係る波長選択型遮蔽膜を具備した本発明に係る波長選択型遮蔽体は、高い紫外線遮蔽機能と、高い日射遮蔽機能、高い表面強度、可視光に対する高い透明性とを有し、さらに高湿度下に曝された場合であっても有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止された波長選択型遮蔽体である。ここで前述した適宜な基体として、ガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材等を用いることにより、低コストで優れた波長選択型遮蔽性能を有した波長選択型遮蔽体を作製できることとなる。当該波長選択型遮蔽体は、広汎な分野に適用でき極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る波長選択型遮蔽膜を製造するための波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、ベンゾフェノン系および/またはベンゾトリアゾール系の有機紫外線吸収剤と、希釈溶媒と、三弗化ホウ素ピペリジンとを含有する波長選択型遮蔽膜形成用塗布液である。
【0025】
本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液のバインダー成分の少なくとも1種は、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランと
をモル比で2:1〜1:1の範囲で反応させてなる一般式(化1)で表される反応物である。
【化1】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、a、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【0026】
本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の近赤外線遮蔽成分は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む平均粒径200nm以下の微粒子である。
【0027】
さらに、本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、三弗化ホウ素ピペリジンを0.2〜0.7重量%含有している。
【0028】
本発明に係る波長選択型遮蔽膜は、上述した記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られる、近赤外波長領域と紫外波長領域との両方の光を遮蔽すると伴に、可視光は透過する波長選択型の遮蔽膜である。
そして、本発明に係る波長選択型遮蔽体とは、適宜な基材上に設けられた当該波長選択型遮蔽膜と、当該適宜な基材とである。
【0029】
本発明に係る波長選択型遮蔽膜を得るための波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、上述したようにバインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、有機紫外線吸収剤と、希釈溶媒と、バインダー硬化触媒とを含有して構成される。
そこで、当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液と波長選択型遮蔽膜とについて、1.近赤外線遮蔽成分、2.近赤外線遮蔽成分(複合タングステン酸化物微粒子)の製造方法、3.近赤外線遮蔽成分の添加方法、4.紫外線吸収剤、5.バインダー成分、6.バインダー成分の製造方法、7.希釈溶媒、8.バインダーの硬化触媒(三弗化ホウ素ピペリジン)、9.波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の調製、10.波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法、11.有機紫外線吸収剤の浮き出し、の順で詳細に説明する。
【0030】
1.近赤外線遮蔽成分
本実施形態において近赤外線遮蔽成分として用いられる近赤外線吸収材料は、平均分散粒子径が200nm以下である複合タングステン酸化物の微粒子を含んでいる。
当該複合タングステン酸化物は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、N
b、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子である。当該複合タングステン酸化物は、十分な量の自由電子が生成されるため近赤外線吸収成分として有効に機能する。
【0031】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましい。さらに、例えば、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子の場合であれば、好ましいM元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素から選択される1種類以上の元素を含む複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。
【0032】
このとき、添加されるM元素の添加量xは、x/yの値で0.001以上、1.0以下が好ましく、さらに好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるxの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。一方、酸素の存在量は、z/yの値で2.2以上、3.0以下が好ましい。好ましい複合タングステン酸化物の典型的な例としては、Cs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、y,zが上述の範囲に収まるものであれば、有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
【0033】
以上説明した複合タングステン酸化物微粒子は、単独で使用してもよいが、二種類以上を混合して使用することも好ましい。本発明者らの実験によれば、これらの微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜は、波長400〜700nmの間に透過率の極大値を持ち、かつ、波長700〜1800nmの間に透過率の極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜は、可視光を十分に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射するものであることが理解できる。
【0034】
複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下とすることが好ましい。その理由は、平均粒径が200nm以下であると微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中における微粒子の沈降が回避できるからである。また平均粒径が200nm以下の微粒子は、光散乱による可視光透過率の低下の原因とならない。一方、現在の技術において、粒径2nm程度までの微粒子は商業的に容易に製造できる。また、複合タングステン酸化物微粒子の含有量は、1〜10重量%以下が好ましい。複合タングステン酸化物微粒子の含有量が1重量%以上あれば、日射遮蔽効果が得られ、含有量が10重量%以下であれば、塗膜強度の低化や、後述する塗膜の筋状の外観不良が回避出来るからである。
【0035】
2.近赤外線遮蔽成分(複合タングステン酸化物微粒子)の製造方法
上記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を、不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0036】
複合タングステン化合物出発原料としては、3酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物、6塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、または、金属タングステン粉末、から選ばれた、いずれか一種類以上であることが好ましい。
【0037】
尤も、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末や、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末を用いることが好ましい。さらに、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一に混合することが可能となる観点から、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることが好ましい。これらの原料を用い、これらを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理することで、上述した粒径を有する複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0038】
元素Mの原料も、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものとすることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず溶液状になるものであれば好ましい。
【0039】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は十分な着色力を有し、複合タングステン酸化物微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上、650℃以下で熱処理する。次いで、不活性ガス雰囲気中で650℃以上、1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合には、体積比で0.1%以上のHを含有する還元雰囲気が好ましく、さらに好ましくは2%以上Hを含有するものが良い。0.1%以上Hを含有する還元雰囲気であれば、効率よく還元を進めることができる。
【0040】
水素を含有する還元雰囲気で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な近赤外線遮蔽特性を示し、この状態で近赤外線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、複合タングステン酸化物微粒子中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む複合タングステン酸化物微粒子を、不活性雰囲気中650℃以上で熱処理することで、さらに安定なものとすることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、複合タングステン酸化物微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0041】
上述したようにして得られた複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0042】
3.近赤外線遮蔽成分の添加方法
本実施形態においては、上記平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種と、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子とを混合して使用することも好ましい構成である。
上記複合タングステン酸化物の添加量の一部を、これらの微粒子に置き換えることによって、膜の色調を幅広く制御することが可能となる。具体的には、例えば、六ホウ化ランタン(以下LaBと記載)はグリーンの色調を、ATOはニュートラルな色調を、ITOは薄いブルーの色調を有する近赤外線遮蔽材料である。
【0043】
複合タングステン酸化物微粒子に添加される近赤外線遮蔽成分である六ホウ化物微粒子
としては、CeB、GdB、TbB、DyB、HoB、YB、SmB、EuB、ErB、TmB、YbB6、LuB、SrB、CrB、LaB、PrB、NdB微粒子が挙げられる。これら六ホウ化物微粒子は、単独あるいは2種以上を混合して使用することもできる。これら六ホウ化物微粒子は、暗い青紫などに着色した粉末である。そして該六ホウ化物微粒子は、粒径が可視光波長に比べて十分に小さく、且つ、薄膜中に分散した状態であると、当該薄膜に可視光透過性が生じるが、近赤外線遮蔽能は十分強く保持できる。
【0044】
本発明者の実験によれば、この六ホウ化物微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、かつ波長700〜1800nmの間に極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を十分に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0045】
六ホウ化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下とする。その理由は、平均粒径が200nm以下であれば、微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中に微粒子の沈降が生じ難いからであり、また平均粒径が200nm以下の微粒子もしくはそれらが凝集した粒子であれば、それによる光散乱によっても可視光透過率の低下の原因とならないからである。なお平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下と小さいほど好ましいが、現在の技術では商業的に製造できる最小粒径はせいぜい2nm程度である。
【0046】
また、本実施形態で用いるITO微粒子やATO微粒子は、可視光領域で光の吸収や反射がほとんど無く、波長1000nm以上の領域でプラズマ共鳴に由来する反射・吸収が大きい。尚、これらの透過プロファイルでは、近赤外領域で長波長側に向かうに従って透過率が減少する。一方、六ホウ化物の透過プロファイルでは、上述のごとく波長1000nm付近に透過率の極小値をもち、それより長波長側では徐々に透過率の上昇を示す。このため、六ホウ化物とITOやATOとを組み合わせて使用することにより、可視光透過率は減少させずに、近赤外領域の熱線を遮蔽することが可能となり、それぞれ単独で使用するよりも熱線遮蔽特性が向上する。
【0047】
ITO微粒子やATO微粒子の微粒子も、上述と同様の理由で平均粒径200nm以下が好ましい。尚、透光性材料の一部の用途においては、透明性よりも不透明な光透過性を要求されることがあり、その場合は粒径を大きくして散乱を助長する構成が望ましい。しかし、ITO微粒子等の粒径が大きすぎると赤外線吸収能そのものも減衰するため、やはり200nm以下の平均粒径が好ましい。
【0048】
六ホウ化物微粒子の単位重量当たりの熱線遮蔽能力は非常に高く、ITO微粒子やATO微粒子と比較して30分の1以下の使用量で同等の効果を発揮する。従って、六ホウ化物微粒子を添加することによって、少量でも好ましい熱線遮蔽効果が得られるうえ、ITO微粒子やATO微粒子と併用した場合にはこれらの微粒子を削減してコスト低下を図ることが可能となる。また、全微粒子の使用量を大幅に削減できるので、基材である樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性の低下を防ぐことができる。これらの理由から、六ホウ化物微粒子の含有量は波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.5重量%以下が好ましい。
【0049】
4.紫外線吸収剤
形成される塗膜が日射遮蔽機能に加え紫外線遮蔽機能を有するよう、本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液へ、紫外線吸収剤として有機紫外線吸収剤および/または無機紫外線遮蔽成分を含有させる。
尚、一般的に、有機紫外線吸収剤は無機紫外線吸収剤に比べ、少ない添加量でも同等の紫外線遮蔽機能を発揮するという特長がある。一方、無機紫外線吸収剤は有機紫外線吸収剤に比べ、紫外線遮蔽機能が長期間持続するという特長がある。
【0050】
有機紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系(例えば、ベンゾフェノン)とべンゾトリアゾール系(例えば、ベンゾトリアゾール)の有機紫外線吸収剤のいずれか一方、または両方を含有させることができる。
【0051】
また、波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体の用途によっては、紫外線吸収剤として無機紫外線遮蔽成分を含有させてもよい。この場合の無機紫外線遮蔽成分として、平均粒径が100nm以下のCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子の中から選ばれた1種もしくは2種以上を選択することができる。平均粒径を100nm以下とした理由は、粒径が100nm以下であれば微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中における微粒子の沈降が生じ難いこと、また粒径が100nm以下であれば、当該微粒子に起因する光散乱によっても可視光透過率の低下の原因とならないからである。
【0052】
さらに、無機紫外線遮蔽成分としてFe、FeOOH微粒子を選択することによって、塗布膜に赤味や黄色味を持たせることも可能である。そして、これらの無機紫外線遮蔽成分は経時変化が少ない。なお、無機紫外線遮蔽成分の平均粒径は小さいほど好ましい。無機紫外線遮蔽成分においても現在の技術において、粒径2nm程度までの微粒子は商業的に容易に製造できる。
【0053】
5.バインダー成分
本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液に用いられるバインダー成分の少なくとも1種は、グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとを混合反応させて得られた反応物である。グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとしては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどを挙げることができ、またアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとしては、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0054】
6.バインダー成分の製造方法
上記混合反応において、グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランと、アミノプロピル基を含有するアルコキシシランとの配合比は、モル比で2:1〜1:1とするのが好ましい。グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとの配合比が、モル比で2:1以下であれば波長選択型遮蔽膜の硬化が速く、強度も強くなる。一方、当該配合比が、モル比で1:1以上であれば波長選択型遮蔽膜が白化することがない。
【0055】
得られる反応物の基本構造は下記の一般式(化1)で示される。
【化1】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水
分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、またa、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【0056】
上記反応物を得るためには、20〜25℃の常温で2週間程度の熟成が必要である。ここで、混合後に加熱することによって、熟成時間を短縮することも可能である。その際の加熱温度は40〜80℃が好ましい。加熱温度が40℃以上あれば、熟成時間短縮の効果があり、80℃以下であれば反応物が着色することがないからである。
【0057】
本実施形態におけるバインダー成分は、前記一般式(化1)の基本構造に示すように、分子両端にアルコキシル基を持ち、分子内にフレキシブルなメチレン鎖を持つ。このアルコキシル基は室温で加水分解して反応性の高いシラノールを生じ、これが縮合重合することによって自身で高分子化、あるいは他の成分と結合することができる。また分子中のメチレン鎖は、前記縮合重合時の歪みを吸収し塗膜のクラック発生を抑制する。
【0058】
さらに、本実施形態における日射遮蔽膜形成用塗布液の硬化は、バインダー成分中のアルコキシル基の加水分解と、それに続くシラノールの縮合重合による高分子化とによって起こる。このとき形成されたシロキサン結合は強固であり、堅牢な塗膜を形成することができる。
【0059】
7.希釈溶媒
本発明に係る日射遮蔽膜形成用塗布液中の希釈溶媒は、特に限定されるものではなく塗布条件や、塗布環境、塗布液中の固形分の種類に合わせて選択可能である。当該選択可能な溶媒として、例えばメタノール、エタノール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類など各種溶媒を挙げることが出来る。また、波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体の用途によって、前記1種または2種以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0060】
8.バインダーの硬化触媒(三弗化ホウ素ピペリジン)
本発明のバインダー成分の硬化は、バインダー成分中のアルコキシル基の加水分解と、それに続くシラノールの縮合重合による高分子化とによって起こる。ここで、常温での硬化速度を実用的なものとするために、波長選択型遮蔽膜形成用塗布液に硬化触媒の添加を行うことが必要である。この硬化触媒としては、三弗化ホウ素ピペリジンが好適である。そして、当該三弗化ホウ素ピペリジンの添加量を調整することによって、硬化時間を制御することが可能となる。
【0061】
硬化触媒の添加量は、バインダー成分の種類やその使用状況によって異なる。
従来、バインダー成分への硬化触媒の添加量は0.01〜10重量%、さらには0.01〜3重量%が好ましいとされていた。しかし、本発明者等の研究によると、好ましい硬化触媒添加量範囲の上限である3重量%近くまで三弗化ホウ素ピペリジンの添加量を増やした場合、本発明に用いる波長選択型遮蔽膜形成用塗布液のレベリング性が低下し、硬化して得られた波長選択型遮蔽膜に濃淡ムラが生じる可能性があることが判明した。実際に、試験してみると、三弗化ホウ素ピペリジンの添加量を3重量%付近とした場合には、常温で硬化する塗膜は得られるものの、濃淡ムラが生じ、透明基材への適用の際、塗膜外観を重視する場合には実用的でないことが確認された。
【0062】
上述した研究結果から、本発明に係る波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体において、塗膜外観を重視する場合には、バインダー成分への三弗化ホウ素ピペリジンの添加量
を0.2〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%とすることが肝要である。
ここで、バインダー成分への三弗化ホウ素ピペリジンの添加方法としては、まず三弗化ホウ素ピペリジンを溶媒で希釈しておき、塗布直前にバインダー成分へ添加することが好ましい。三弗化ホウ素ピペリジンのバインダー成分への添加を塗布直前とするのは、三弗化ホウ素ピペリジンをバインダー成分へ添加した状態で波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を長期間保管しておくと、波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中で硬化反応が進んで粘度が増加し、塗布が困難になる可能性があるからである。
【0063】
9.波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の調製
本発明に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の調製について説明する。
近赤外遮蔽成分である上記複合タングステン酸化物微粒子を1〜10重量%、有機紫外線吸収剤を0.5〜5重量%、所望により無機紫外線吸収剤を0.5〜5重量%となるよう秤量し、バインダー成分を10〜40重量%、三弗化ホウ素ピペリジンを0.2〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%秤量し、さらに、希釈溶剤を秤量して、総量で100重量%として混合する。
【0064】
尚、上述した理由により、三弗化ホウ素ピペリジンのバインダー成分への添加は、波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の塗布直前とすることが好ましい。ここで、近赤外遮蔽成分の全配合量が1重量%以上であれば形成される波長選択型遮蔽膜の近赤外遮蔽能が十分に確保でき、一方、10重量%以下であれば波長選択型遮蔽膜としての可視光に対する透明性および良好な膜外観が確保可能である。また、バインダーの配合量が10重量%以上であれば、形成される波長選択型遮蔽膜の表面硬度が満足できるものとなる。また、バインダーの配合量を40重量%以下とすることで、塗布液の粘度が適正化され、所望の膜厚で均一な塗布が可能となる。
【0065】
また、有機紫外線吸収剤の配合量が0.5重量%以上であれば、形成される波長選択型遮蔽膜の紫外線遮蔽能が十分には確保でき、5重量%以下であれば良好な膜外観の確保が可能である。
一方、無機紫外線遮蔽成分の含有量は0.5〜5重量%が好ましい。無機紫外線遮蔽成分の含有量が0.5重量%以上あれば形成される日射遮蔽膜の紫外線遮蔽能が十分に発揮され、さらに紫外線遮蔽能の持続性も十分に発揮される。一方、5重量%以下であれば該無機紫外線遮蔽成分に起因する可視光透過率の低下や塗膜のムラが顕著になることを回避できるからである。
【0066】
さらに、三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が0.01重量%以上であれば、形成される波長選択型遮蔽膜の硬化に対して促進効果が得られる。さらに、上述したように、三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が0.2重量%以上であれば、形成される波長選択型遮蔽膜の硬化反応は良好である。従って、三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が0.2重量%以上であれば、硬化が完了する前に著しい高湿度下に置かれた場合でも、波長選択型遮蔽膜の表面の有機紫外線吸収剤の浮き出しを抑止できる。一方、三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が0.7重量%以下であれば塗布時の液のレベリング性が確保され、形成された波長選択型遮蔽膜に濃淡のムラを抑止できる。
【0067】
さらに、添加する三弗化ホウ素ピペリジンは、メタノール、エタノール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類などの各種溶媒に、予め溶解させておくことが好ましい。溶液の形態であれば、添加が容易で且つ直ちに均一化できるからである。また波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体の用途によって、前記1種または2種以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
上述した複合タングステン酸化物微粒子に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子を混合して使用することも好ましい。上記複合タングステン酸化物の添加量の一部をこれらの微粒子に置き換えることによって、六ホウ化ランタンがグリーンの色調を、ATOがニュートラルな色調を、またITOが薄いブルーの色調を有する近赤外線遮蔽材料であることから、波長選択型遮蔽膜および波長選択型遮蔽体の色調を幅広く制御することが可能となる。
【0069】
10.波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法
波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法は特に限定されるものではなく、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、布や刷毛による塗布方法など、処理液を平坦で、薄く、かつ均一に塗布できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、建築物窓等に塗布する際の一般的な方法であるスポンジコート法を用いる場合、波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度は常温(25℃)で2cps〜20cpsの範囲が好ましい。波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度が2cps以上であれば、スポンジコート後のウェット膜厚は、十分な厚さを得ることが出来、乾燥後に基板ガラスと光学的干渉を生じることが無く、外観を損なうことがない。また、粘度が20cps以下であれば、スポンジコート後のウェット膜厚が大きくなり過ぎずに保たれ、液のレベリングが十分に得られるので、乾燥後に生じる仕上がりの濃淡ムラが抑えられる。
さらに、上記のように波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、上記塗布法により基材へ塗布後、温度20〜25℃の大気下、または、温度25〜150℃の熱風下で、乾燥、硬化させて波長選択型遮蔽膜を得ることが好ましい。温度については、大気下、または、熱風等を送らない場合は温度20〜25℃の範囲が好ましく、熱風を送る場合は、20〜150℃の温度範囲であれば透明性に優れた波長選択型遮蔽膜を得ることができる。熱風を送る場合、流量について特に制限はないが、あまり流量が多く強すぎると、乾燥前の塗布インクが基材上を流れてしまい、膜厚が不均一になってしまう可能性があるので、乾燥前の塗布インクが基材上を流れてしまい、膜厚の不均一が発生するようなことがないように適宜選択されれば良い。
【0070】
11.有機紫外線吸収剤の浮き出し
上述したように、波長選択型遮蔽膜の硬化途中の段階において、塗膜が、梅雨時のように著しく湿度が高い環境下に曝された場合、当該波長選択型遮蔽膜の表面が白く曇ることがある。この現象が有機紫外線吸収剤の浮き出しである。有機紫外線吸収剤の浮き出しは、高湿度下に所定時間保管した波長選択型遮蔽膜を観察することによって目視で認識できるが、高湿度での保管前後のヘイズ値(曇り度)の差で定量化することができる。即ち、梅雨時における波長選択型遮蔽膜表面の温度および湿度を想定した温湿度条件の恒温槽に波長選択型遮蔽膜が形成された基材を所定時間保管し、保管前後のヘイズ値の差を比較する。そして、当該ヘイズ値の差が小さいほど有機紫外線吸収剤の浮き出しが少ないといえる。
【0071】
以上、詳細に説明したように、本発明に係る波長選択型遮蔽膜は、有機紫外線吸収剤を含む波長選択型遮蔽膜形成用塗布液から形成される波長選択型遮蔽膜であって、
各種の既存の基材に適応でき、20℃から25℃程度の常温における塗膜形成も可能である。そして、本発明に係る波長選択型遮蔽膜は、優れた膜強度を有している。さらに、本発明に係る波長選択型遮蔽膜は、当該塗膜の硬化途中の段階において著しく湿度が高い環境下に曝された場合であっても、有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止されているものである。
従って、当該波長選択型遮蔽膜が基材の少なくとも片面に形成されてなる波長選択型遮蔽体は、可視光に対して透明性を有し、優れた膜強度を有し、当該塗膜の硬化途中の段階
において著しく湿度が高い環境下に曝された場合であっても、有機紫外線吸収剤の浮き出しが抑止されているものである。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。
なお、当該実施例および比較例に用いた波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の構成成分を表1に示し、該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を用いて形成した波長選択型遮蔽膜の特性を表2に示した。
【0073】
[実施例1]
メタタングステンアンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と塩化セシウムの水溶液とを、WとCsとのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合して混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。
この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を製造した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また、当該Cs0.33WO粉末についてX線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0074】
このCs0.33WO粉末20重量%と、プロピレングリコールモノエチルエーテル75重量%と、分散剤5重量%とを混合し、ペイントシェイカーまたはビーズミルを用いて分散処理を行い、Cs0.33WOの平均分散粒子径80nmの分散液(以下、「A液」と記載する場合がある。)とした。
一方、FeOOH微粒子20重量%と、プロピレングリコールモノエチルエーテル75重量%と、分散剤5重量%とを混合しペイントシェイカーまたはビーズミルを用いて分散処理を行い、FeOOHの平均分散粒子径80nmの分散液(以下、「B液」と記載する場合がある。)を製造した。
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60gとアミノプロピルトリエトキシシラン40gとを混合し、マグネティックスターラーで1時間撹拌後、室温(25℃)で14日間熟成させて、実施例1に係るバインダー成分100g(以下、「合成液」と記載する場合がある。)を得た。
25gの合成液と、18gのイソブチルアルコールと、20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、20gのA液と、2gのベンゾトリアゾールと、5gのB液とを、混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:2重量%)10gを加えて撹拌することによって、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を製造した。当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中の三弗化ホウ素ピペリジン濃度は、0.5重量%となる。また、液温25℃における実施例1に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度は5cpsであった。
【0075】
この実施例1に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、厚さ3mmのソーダライム系ガラス基板上にスポンジを用いて塗布し、温度25℃、湿度60%RHに制御された室内で1時間放置して、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜を得た。
得られた波長選択型遮蔽膜における光の透過率を、日立製作所(社)製U−4000の分光光度計を用いて測定し、JIS R 3106にしたがって可視光透過率(τv)、日射透過率(τe)を、ISO 9050にしたがって紫外線透過率(τuv)を算出した。
当該測定結果を表1に記載する。
【0076】
また、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜の表面硬度を、テーバー摩耗試験機を用いて評
価した。
具体的には、テーバー摩耗試験機に摩耗輪CS10fを装着し、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜に対し、荷重250g、50回転で回転摩擦させ、波長選択型遮蔽膜の試験片のヘイズの変化を測定する。荷重と回転数は、試験片の塗膜強度の差異が明確になるよう独自に設定した。そして、当該試験前後のへイズ値の変化量(以下、「ΔH1」と記載する場合がある。)を測定し、当該ΔH1の値により、膜の表面硬度を評価した。
波長選択型遮蔽膜を建築物窓に適用する場合、一般的に鉛筆強度4H以上が要求されるため、当該ΔH1の値の値が7.5%以下であれば、表面硬度の非常に高い膜が形成されていると判断され、7.5%を超えると膜の表面硬度は建築物窓等に適用するには相応しくないと判断される。
尚、へイズ値は、村上色彩技術研究所(社)製の反射・透過率計村上色彩技術研究所(社)製ヘイズメーターHR−100で測定した。
当該測定結果を表1に記載する。
【0077】
さらに、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜の硬化途中の段階において、当該塗膜が著しく湿度が高い環境下に曝された場合に発生する有機紫外線吸収剤の浮き出しの程度について評価した。
具体的には、上述した実施例1に係る波長選択型遮蔽膜を、温度25℃、湿度60%RHに制御された室内で5日間放置した。その後、該波長選択型遮蔽膜を、温度40℃、湿度90%RHに制御された恒温槽内に48時間保管した。そして、当該保管前後におけるヘイズ値の変化量(以下、「ΔH2」と記載する場合がある。)を測定し、当該ΔH2の値により、有機紫外線吸収剤の浮き出しの程度を評価した。
当該ΔH2の値が、1.0%以上であると有機紫外線吸収剤の浮き出しが目視で認識される。そこで、ΔH2の値が1.0%未満であることが求められるが、さらに、0.5%以下であれば、有機紫外線吸収剤の浮き出しは阻止されていると判断される。
当該測定結果を表1に記載する。
【0078】
表1の結果より、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜のτvは78.0%、τeは55.9%、τuvは2.0%であった。当該測定結果から、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜は、可視光透過性があり、日射および紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜のΔH1は3.3%であり、表面硬度の非常に高い膜が形成されていることが判明した。
さらに、当該波長選択型遮蔽膜のΔH2は0.5%であり、高湿度環境下に曝波後における波長選択型遮蔽膜の曇りは目視で認識されず、有機紫外線吸収剤の浮き出しは阻止されていると判断された。
そして、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、常温(25℃)で硬化可能であり、低コスト、且つ、容易に波長選択型遮蔽膜を得ることができた。
【0079】
次に、実施例1に係る波長選択型遮蔽膜において、上記測定点以外の4ヶ所でτvを測定したところ、それぞれ、78.3%、78.5%、77.6%、77.8%であり、最大値(τv(max))と最小値(τv(min))の差(τv(max)−τv(min))は0.9%であった。この結果から、当該波長選択型遮蔽膜は、濃淡ムラの少ない波長選択型遮蔽膜であることが判明した。
【0080】
[実施例2]
波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中に添加する三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液の濃度を7重量%とする以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を得た。当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中の三弗化ホウ素ピペリジン濃度は、0.7重量%となる。また、液温25℃における波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度は、8cpsであった。
【0081】
実施例1と同様な手順で、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜を形成した。そして、当該長選択型遮蔽膜に対し、実施例1と同様の測定を行った。
当該測定結果を表1に記載する。
【0082】
表1の結果より、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜のτvは77.5%、τeは54.5%、τuvは1.6%であった。当該測定結果から、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜は、可視光透過性があり、日射および紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜のΔH1は3.2%であり、表面硬度の非常に高い膜が形成されていることが判明した。さらに、当該波長選択型遮蔽膜のΔH2は0.4%であり、高湿度環境下に曝波後における波長選択型遮蔽膜の曇りは目視で認識されず、有機紫外線吸収剤の浮き出しは阻止されていると判断された。
【0083】
実施例2に係る波長選択型遮蔽膜は、実用上全く問題ないレベルを満足していることが判明した。
さらに、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液は、常温(25℃)で硬化可能であり、低コスト、且つ、容易に波長選択型遮蔽膜を得ることができた。
【0084】
次に、実施例2に係る波長選択型遮蔽膜において、上記測定点以外の4ヶ所でτvを測定したところ、それぞれ、78.3%、78.1%、77.7%、77.3%であり、最大値(τv(max))と最小値(τv(min))の差(τv(max)−τv(min))は1.0%であった。この結果から、当該波長選択型遮蔽膜は、濃淡ムラの少ない波長選択型遮蔽膜であることが判明した。
【0085】
[比較例1]
波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中に添加する三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液の濃度を1重量%とする以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を得た。当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中の三弗化ホウ素ピペリジン濃度は0.1重量%となる。また、液温25℃における当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度は4cpsであった。
次に、実施例1と同様な手順で比較例1に係る波長選択型遮蔽膜を形成した。そして、当該波長選択型遮蔽膜に対し、実施例1と同様の測定を行った。
当該測定結果を表1に記載する。
【0086】
表1の結果より、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜のτvは78.5%、τeは56.4%、τuvは2.3%であった。当該測定結果から、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜は、可視光透過性があり、日射および紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜のΔH1は3.6%であり、表面硬度の非常に高い膜が形成されていることが判明した。
しかし、当該波長選択型遮蔽膜のΔH2は1.0%であり、高湿度環境下に曝波後における有機紫外線吸収剤の浮き出しによる波長選択型遮蔽膜の曇りが目視で認識された。
【0087】
次に、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜において、上記測定点以外の4ヶ所でτvを測定したところ、それぞれ、79.3%、79.1%、78.6%、78.4%であり、最大値(τv(max))と最小値(τv(min))の差(τv(max)−τv(min))は0.9%であった。この結果から、当該波長選択型遮蔽膜は、濃淡ムラの少ない波長選択型遮蔽膜であることが判明した。
【0088】
[比較例2]
波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中に添加する三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアル
コール溶液の濃度を10重量%とする以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を得た。当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液中の三弗化ホウ素ピペリジン濃度は1重量%となる。また、液温25℃における当該波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の粘度は12cpsであった。
次に、実施例1と同様な手順で比較例2に係る波長選択型遮蔽膜を形成した。そして、当該波長選択型遮蔽膜に対し、実施例1と同様の測定を行った。
当該測定結果を表1に記載する。
【0089】
表1の結果より、比較例2に係る波長選択型遮蔽膜のτvは77.2%、τeは53.2%、τuvは1.3%であった。当該測定結果から、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜は、可視光透過性があり、日射および紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、比較例1に係る波長選択型遮蔽膜のΔH1は3.1%であり、表面硬度の非常に高い膜が形成されていることが判明した。そして、当該波長選択型遮蔽膜のΔH2は0.4%であり、高湿度環境下に曝波後における波長選択型遮蔽膜の曇りは目視で認識されなかった。
【0090】
次に、比較例2に係る波長選択型遮蔽膜において、上記測定点以外の4ヶ所でτvを測定したところ、それぞれ、77.6%、76.1%、75.4%、74.6%であり、最大値(τv(max))と最小値(τv(min))の差(τv(max)−τv(min))は3.0%であった。この結果から、当該波長選択型遮蔽膜は、実施例1および実施例2に係る波長選択型遮蔽膜に比べ、濃淡ムラの大きい膜であることが判明した。
【0091】
以上の結果から、バインダー成分の選択と、硬化触媒である三弗化ホウ素ピペリジンの添加量制御との組み合わせにより、20℃から25℃程度の常温における塗膜形成も可能で、優れた強度を有し、かつ、塗膜の硬化途中の段階において著しく湿度が高い環境下に塗膜が曝された場合に発生する有機紫外線吸収剤の浮き出しを抑止できる波長選択型遮蔽膜が成形できることが判明した。
【0092】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、有機紫外線吸収剤と、希釈溶媒と、バインダー成分の硬化触媒とを、含有してなる波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られる波長選択型遮蔽膜であって、
前記バインダー成分の少なくとも1種が、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランとをモル比で2:1〜1:1の範囲で反応させてなる下記一般式(化1)で表される反応物であり、
前記近赤外線遮蔽成分が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物から選ばれる少なくとも1種類を含む、平均粒径200nm以下の微粒子であり、
前記有機紫外線吸収剤が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選択される1種類以上であり、
前記バインダー成分の硬化触媒が、三弗化ホウ素ピペリジンであり、該三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.2〜0.7重量%であることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【化1】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、a、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【請求項2】
前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液における、
前記近赤外遮蔽成分の配合量が1〜10重量%であり、
前記バインダー成分の配合量が10〜40重量%であり、
前記有機紫外線吸収剤の配合量が0.5〜5重量%であり、
他に、前記希釈溶剤が添加され、総量で100重量%となる、請求項1記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項3】
前記三弗化ホウ素ピペリジンの配合量が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.4〜0.6重量%である、請求項1または2記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項4】
さらに、紫外線吸収剤として、CeO、ZnO、Fe、FeOOHから選択される少なくとも1種類以上であって、平均粒径100nm以下の無機紫外線遮蔽微粒子が、前記波長選択型遮蔽膜形成用塗布液の0.5〜5重量%添加されている、請求項1〜3のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを
特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を含む、請求項1〜4のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項6】
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素である、請求項1〜5のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項7】
25℃における粘度が、2cps以上、20cps以下である、請求項1〜6のいずれか記載の波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を基材上に塗布硬化して得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載された波長選択型遮蔽膜形成用塗布液を、スポンジコート法により基材へ塗布後、温度20〜25℃の大気下、または、温度25〜150℃の熱風下で、乾燥、硬化させて得られることを特徴とする波長選択型遮蔽膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の波長選択型遮蔽膜が、基材の少なくとも片面に形成され、且つ、可視光に対して透明性を有することを特徴とする波長選択型遮蔽体。

【公開番号】特開2010−75775(P2010−75775A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243683(P2008−243683)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】