説明

泥土圧シールド工法、及び、泥土圧シールドシステム

【課題】泥土圧シールド工法に用いられる添加材の回収率を高める。
【解決手段】
本発明は、切羽と隔壁13との間に形成されるカッターチャンバー3内に添加材を注入し、掘削土と混練する泥土圧シールド工法において、添加材として、切羽温度で固体状であって切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分を含有するものを用い、添加材と掘削土の混練物をカッターチャンバー3から排出し、混練物を加熱分離部21で加熱することで、液状化成分を液状化して混練物から分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥土圧シールド工法、及び、この泥土圧シールド工法を施工するための泥土圧シールドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
切羽が自立しない地盤において、トンネルや管路を掘削する場合、密閉型シールドマシンによる泥土圧シールド工法が好適に行われている。
【0003】
この泥土圧シールド工法は、掘削土に水や添加材を注入して、塑性流動性や止水性を持つ泥土に改質し、カッターチャンバー内やスクリューコンベア内に充填して、切羽と泥土とを圧力的にバランスさせた状態で地盤を掘削する工法である。ここで、カッターチャンバーからの泥土は、添加材が注入されているため、産業廃棄物として処分する必要がある。そこで、カッターチャンバーからの泥土については、その排出量をできるだけ少なくすることが望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、モルタル状の泥土を添加材として用いる泥土圧シールド工法が記載されている。この工法では、カッターチャンバーからの混練物を分離装置に送って泥土と掘削土とに分離し、掘削土を排出する一方、泥土を圧力チャンバーに供給して再利用している。
【0005】
この工法を用いることで、分離された泥土の分だけ産業廃棄物の量を減らすことができる。その結果、必要なヤード(一時保管場所)の面積を減らすことや廃棄物処分費を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−83795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1の工法では、添加材としてモルタル状の泥土を用いているので、砕石等に付着したモルタルが固まって分離され難く、分離装置で分離回収される添加材の回収率を高めることが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、泥土圧シールド工法の施工に際して、添加材の回収率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、切羽と隔壁との間に形成されるカッターチャンバー内に添加材を注入し、掘削土と混練する泥土圧シールド工法において、前記添加材として、切羽温度で固体状であって前記切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分を含有するものを用い、前記添加材と前記掘削土の混練物を前記カッターチャンバーから排出し、前記混練物を加熱分離部で加熱することで、前記液状化成分を液状化して前記混練物から分離することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、加熱分離部にて混練物を加熱することで、添加物に含まれる液状化成分が固体状から液体状に変化する。ここで、混練物に含まれる掘削土は、加熱されても固体状であるため、液状化成分を混練物から確実に分離できる。その結果、添加材の回収率を高めることができる。
【0011】
本発明において、前記液状化成分を、ミリスチルアルコール及びセチルアルコールの少なくとも一方によって構成した場合には、融点が37℃〜51℃の範囲であるため、切羽温度において固体状を維持できるとともに、液状化に必要なエネルギーを抑制することができる。
【0012】
本発明において、前記液状化成分を、ミリスチルアルコールによって構成した場合には、融点が37℃〜40℃の範囲であるため、切羽温度において固体状を維持できるとともに、液状化に必要なエネルギーを一層抑制することができる。
【0013】
本発明において、前記加熱分離部を、前記混練物が載せられる篩部と、熱を発生する熱源とを有する構成とし、前記篩部に載せられた前記混練物を前記熱源からの熱によって加熱し、前記液状化成分を液状化して前記篩部の隙間から流出させるようにした場合には、混練物に含まれる水や液状化成分を容易に分離できる。
【0014】
本発明において、前記篩部を、複数の棒状部材を周面に沿って配置した円筒籠状に構成し、前記混練物の加熱時において、前記混練物を籠内部に供給した状態で前記篩部を軸回りに回転させるようにした場合には、篩部の回転によって籠内部の混練物が攪拌されるので、混練物の全体を容易に加熱できるとともに固液分離が促進され、添加材の回収率を一層高めることができる。
【0015】
本発明において、前記熱源を、温風を発生する温風発生部によって構成し、前記混練物の加熱時において、前記篩部に載せられた前記混練物に前記温風を吹き付けて加熱するようにした場合には、温風によって混練物を加熱できるとともに、混練物に対する固液分離を促進でき、添加材の回収率を一層高めることができる。
【0016】
また、本発明は、切羽と隔壁との間に形成されるカッターチャンバー内に添加材を注入する添加材注入部と、前記添加材と前記掘削土の混練物を前記カッターチャンバーから排出する混練物排出部とを備えた泥土圧シールドシステムにおいて、前記添加材注入部は、切羽温度で固体状であって前記切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分を含有する添加材を、前記カッターチャンバー内に注入するものであり、前記混練物排出部から排出された前記混練物を加熱し、前記液状化成分を液状化して前記混練物から分離する加熱分離部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カッターチャンバー内に添加材を注入して掘削土と混練する泥土圧シールド工法において、添加材の回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】泥土圧シールドシステムの全体構成を説明する図である。
【図2】第1実施形態のシールドマシンと添加材分離供給装置を説明する図である。
【図3】液状化成分を説明する図であり、(a)は温風で加熱中の様子を示す図であり、(b)は融解後の液状化成分を冷却している様子を示す図である。
【図4】(a)は第1実施形態の加熱分離部を説明する断面図である。(b)は(a)におけるA−A断面図である。(c)は籠状篩部の部分拡大断面図である。
【図5】加熱分離部の変形例を説明する断面図である。
【図6】第2実施形態のシールドマシンと添加材分離供給装置を説明する図である。
【図7】添加材分離供給装置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示す泥土圧シールドシステムは、密閉型シールドマシン1と添加材分離供給装置2とを有している。
【0020】
このシステムでは、添加材分離供給装置2からカッターチャンバー3に添加材(ベントナイト泥水と液状化成分の混合物、詳細は後述する)を供給し、密閉型シールドマシン1によって地盤を掘削する。そして、掘削土砂と添加材の混練物を、スクリューコンベア4によってカッターチャンバー3から排出し、添加材分離供給装置2に供給する。そして、添加材分離供給装置2では、混練物から添加材を分離して回収する。
【0021】
回収した添加材は、添加材供給管24を通じて、再度カッターチャンバー3に供給される。添加材が分離された後の土砂(残渣)は、ズリ鋼車5によって発進立坑6まで移送される。発進立坑6において、土砂が積み込まれたズリ鋼車5はクレーン7によって吊り上げられ、地上に設置されたホッパー8に投入される。ホッパー8内の土砂は、トラックにより処分場へと搬出される。
【0022】
図2に例示した密閉型シールドマシン1は、スキンプレート11と、カッターヘッド12と、隔壁13と、駆動装置14と、エレクター15と、シールドジャッキ16と、テールシール17と、スクリューコンベア4とを有している。
【0023】
スキンプレート11は、密閉型シールドマシン1の外殻部分を構成する鉄板製の円筒状部材である。カッターヘッド12は、地盤を掘削する複数のビット12aが設けられた円盤状部材であり、スキンプレート11における掘進方向の前端部分に回転可能な状態で取り付けられている。隔壁13は、カッターヘッド12よりも掘進方向の後側に設けられる板状部材であり、カッターヘッド12との間にカッターチャンバー3を区画する。
【0024】
このカッターチャンバー3は、泥土が充填される空間であり、カッターチャンバー3内の泥土と切羽とを圧力的にバランスさせることで、切羽の安定化を図りつつ掘削が行なえるようにする部分である。前述したように、このカッターチャンバー3には、添加材分離供給装置2からの添加材が供給されており、掘削土と混練されることで泥土における塑性流動性や止水性が改善される。
【0025】
駆動装置14は、カッターヘッド12を回転させるための駆動源であり、隔壁13の後面側に取り付けられている。エレクター15は、シールドトンネルの構成要素であるセグメント18を所定位置に移動させる装置である。シールドジャッキ16は、掘削方向の後方に位置する既設のセグメント18から反力を得て、密閉型シールドマシン1の推進力を得る部分である。テールシール17は、裏込材や地下水等の浸入を抑制するための部分である。
【0026】
スクリューコンベア4は、カッターチャンバー3内の泥土(混練物)を排出する混練物排出部に相当する。スクリューコンベア4の入口端はカッターチャンバー3に連通されている。一方、スクリューコンベア4の出口端は、添加材分離供給装置2が有する加熱分離部21の入口に接続されている。このスクリューコンベア4は、例えば直径が750〜850mmの円管4aの中にスクリュー4bが配置されたものであり、1分間あたり5〜8回転程度の速度でスクリュー4bを回転させることで、泥土を添加材分離供給装置2側へ送り出す。
【0027】
次に、添加材分離供給装置2について説明する。図2に示すように、添加材分離供給装置2は、加熱分離部21と、添加材貯留部22と、添加材供給ポンプ23と、添加材供給管24と、添加材補充部25とを有する。
【0028】
加熱分離部21は、スクリューコンベア4から供給された泥土を加熱することで、添加材に含まれる液状化成分を液状化し、泥土に含まれる水及び土砂粒子とともに排出する部分である。これにより、泥土は、砕石や礫を主に含む土砂分と、液状化成分、水及び土砂粒子を主に含む添加材とに分離される。なお、加熱分離部21については、後で詳しく説明する。
【0029】
添加材貯留部22は、添加材が貯留される部分である。貯留される添加材には、予め調合されたものと、加熱分離部21で分離されたものとが含まれる。本実施形態の添加材貯留部22は、略直方体状の箱体によって構成され、加熱分離部21の下方に配置されている。そして、加熱分離部21で分離された添加材は、添加材貯留部22に流下して貯留される。後述するように、本実施形態における添加材は、常温(20℃)で固体状となる液状化成分を含んでいる。このため、添加材貯留部22には、液状化成分を砂粒状にするための攪拌部材が設けられている(図示せず)。
【0030】
添加材供給ポンプ23は、添加材供給管24と共に添加材注入部として機能する部分であり、添加材貯留部22に貯留された添加材をカッターチャンバー3に向けて送出する。本実施形態の添加材供給ポンプ23は、プランジャータイプのポンプ若しくはスクリュータイプのポンプによって構成されている。プランジャータイプのポンプでは、シリンダー(図示せず)を筒内で往復移動させることで、またスクリュータイプのポンプではスクリューを筒内で回転させることで、添加材が送出される。
【0031】
添加材供給管24は、添加材供給ポンプ23で送出された添加材を、カッターチャンバー3まで導くパイプ材である。添加材供給管24の入口端は添加材供給ポンプ23の送出口に連通され、出口端は隔壁13の開口を通じてカッターチャンバー3に連通されている。添加材補充部25は、添加材貯留部22の添加材をカッターチャンバー3に注入する際に、不足分の添加材成分を補充する部分である。本実施形態では添加材としてベントナイト泥水及び液状化成分を用いているため、添加材補充部25は、ベントナイトや液状化成分を添加材供給管24に注入することで、これらの添加材を補充する。
【0032】
次に、添加材について説明する。添加材は、カッターヘッド12で掘削された土砂とカッターチャンバー3内で混練される流動物であり、カッターチャンバー3内の泥土について塑性流動性や止水性を改善するために添加される。前述したように、本実施形態の添加材には、ベントナイト泥水と液状化成分が含まれている。ベントナイトは、粘土の一種であり、吸水性に富み、泥水中における分散性が良好という特性を有している。このベントナイトが水を吸収して保持するので、混練されることで泥土における潤滑性を向上させることができる。また、ベントナイト泥水をカッターチャンバー3に注入することで、泥土の粘性が調整でき、切羽を安定化させることができる。
【0033】
液状化成分もまた、泥土における塑性流動性や止水性を改善するために添加されるものであり、流動化成分に相当する。本実施形態における液状化成分は、切羽の温度(切羽温度)で固体状であってこの切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される物質が用いられる。例えば、花王株式会社製の商品名「カルコール」が好適に用いられる。
【0034】
このカルコールは、高級アルコールを主成分(純度98%)とする物質である。本実施形態では、C12のラウリルアルコールを主成分とする「カルコール2098」、C14のミリスチルアルコールを主成分とする「カルコール4098」、C16のセチルアルコールを主成分とする「カルコール6098」、及び、C18のステアリルアルコールを主成分とする「カルコール8098」を用いることができる。
【0035】
これらの製品は、何れも常温において固体状をしている。例えば、カルコール2098の融点は23.5℃〜26.5℃であり、カルコール4098の融点は37℃〜40℃である。また、カルコール6098の融点は48℃〜51℃であり、カルコール8098の融点は57℃〜60℃である。これらの製品は何れも常温においてロウ状の白色固体であり、塊状あるいは粒状である。
【0036】
図3は、カルコールに対する融解試験の様子を示す。この融解試験では、砕石とベントナイト泥水とカルコール(カルコール4098)とを混合して模擬泥土を作製し、この模擬泥土をステンレス製の角型バットに拡げた。そして、図3(a)に示すように、ドライヤーからの温風を模擬泥土に吹き付けた。その結果、符号Xで示すように、カルコールが融解することを確認できた。また、図3(b)は、カルコールが融解した状態の角型バットを氷の上に載置した状態を示している。この冷却により、符号Yで示すように、融解したカルコールの凝固が確認できた。
【0037】
以上の結果より、液状化成分としてカルコールを用いると、加熱によって液状化するので泥土から分離でき、冷却によって凝固するので添加材として再利用できる。なお、以上の融解試験はカルコール4098について行ったが、他の種類のカルコールであっても、加熱によって融解し、融点以下になると凝固する性質は共通のため、同様に用いることができる。
【0038】
ここで、シールド工法におけるトンネル内温度は、37℃以下にするように定められている。この観点からすれば液状化成分の融点は37℃以上であることが好ましい。また、融点が高すぎると、液状化成分の加熱に多くのエネルギーが必要となり、燃料や電気の消費量が増えてしまうし、トンネル内温度を過度に上昇させてしまう。この観点からすれば、液状化成分の融点は低い方が好ましい。これらの条件を勘案すると、液状化成分としてはカルコール4098(融点37〜40℃)やカルコール6098(融点48〜51℃)が好ましく、特にカルコール4098が好ましいといえる。
【0039】
また、各カルコールは、融点が相違するため、切羽温度に適した融点の製品を選択することにより、様々な切羽温度の現場に対応することができる。例えば、冬期や寒冷地など低温環境下においては、カルコール2098(融点23.5〜26.5℃)やカルコール4098を用い、夏期や高い地熱の高温環境下においては、カルコール6098やカルコール8098(融点57〜60℃)を用いればよい。言い換えると、低温環境下では炭素数が比較的小さいC10〜C12程度の高級アルコールを用いればよく、高温環境下では炭素数が比較的大きいC16〜C18程度の高級アルコールを用いればよい。
【0040】
次に、加熱分離部21について詳しく説明する。加熱分離部21は、混練物が載せられる篩部と、熱を発生する熱源と、本体ケースとを有している。例えば、図4(a)〜(c)に示す加熱分離部21は、円筒籠部材31によって篩部が構成され、温風発生部32によって熱源が構成されている。
【0041】
円筒籠部材31は、複数の棒状部材31aを周面に沿って配置することで円筒籠状に構成された部材であり、例えば鉄によって作製されている。本実施形態の円筒籠部材31は、例えば直径が1m〜1m20cm、中心軸方向の長さが2m〜2m50cmの大きさに作製されている。なお、大きさは一例であり、この大きさに限定されない。
【0042】
円筒籠部材31における長手方向両端部には、扁平な円形リング状の端板31bが取り付けられている。また、図4(b),(c)に示すように、各棒状部材31aは角パイプによって構成されており、四角形の角同士を向かい合わせて配置することで、0.25mm〜0.5mm程度の極めて狭い隙間dが形成されている。
【0043】
図4(a),(b)に示すように、円筒籠部材31の内側空間には、スクリューコンベア4から送られてきた混練物を、円筒籠部材31内で移送するための籠内スクリュー33が設けられている。この籠内スクリュー33をスクリューコンベア4と別個に設けることで、スクリューコンベア4における混練物の送出速度と円筒籠部材31における混練物の送出速度とを適宜調整できる。
【0044】
この加熱分離部21において、混練物から添加物を分離するに際しては、円筒籠部材31と籠内スクリュー33のそれぞれを軸回りに回転させる。この場合において、籠内における混練物の移動速度は、円筒籠部材31と籠内スクリュー33との回転速度の差に応じて定まる。そして、円筒籠部材31と籠内スクリュー33の回転速度を個別に設定すると、円筒籠部材31の回転に伴う混練物の攪拌と、籠内スクリュー33の回転に伴う混練物の移送速度とをバランスさせることができ、混練物からの添加材の分離効率を高めることができる。
【0045】
添加材が分離された土砂は、籠内スクリュー33によって円筒籠部材31の後端から排出される。この土砂は、排出部34を通じて加熱分離部21の外に排出され、ズリ鋼車5によって発進立坑6に移送された後、地上へと搬出される。
【0046】
温風発生部32は、温風を発生する部分である。この温風発生部32は、断熱ケースの内部に電熱線とファン(何れも図示せず)が収容されており、吸気管35から取り入れた外気を加熱して送気管36へ送る。送気管36は、加熱された空気を本体ケース37の天井部に導く。温風発生部32から発生される温風の温度は、液状化成分の融点よりも高い温度に設定される。言い換えれば、混練物に含まれる液状化成分の融解に必要な熱量を与えることのできる温度に定められる。なお、温風発生部32は、温風を発生できれば他の構成であってもよい。
【0047】
図4(b)に示すように、本体ケース37は、円筒籠部材31及び籠内スクリュー33を回転可能な状態で収容する中空体である。本体ケース37の天井部には送気管36の出口が開口している。このため、温風発生部32からの温風は、本体ケース37の内部空間を下向きに流れる。本体ケース37の底面は、排出管38の開口部に向かって下り傾斜している。これにより、底面に落下した液体状の添加材は、下り傾斜に沿って流れて排出管38へと導かれる。また、温風が下向きに流れているので、液体状の添加材は温風の流れによっても排出管38へと導かれる。排出管38の下端は添加材貯留部22に連通されている。従って、排出管38に流入した添加材は、添加材貯留部22に貯留される。
【0048】
次に、本実施形態の泥土圧シールド工法について説明する。
【0049】
図2に示すように、この泥土圧シールド工法では、添加材貯留部22に貯留された添加材(ベントナイト泥水,液状化成分)を、添加材供給ポンプ23によってカッターチャンバー3に向けて送出する。この添加材は、添加材供給管24を通じてカッターチャンバー3に供給される。このとき、添加材補充部25から添加材供給管24に向けてベントナイトと液状化成分とが補充され、混練物における塑性流動性や止水性が調整される。
【0050】
ここで、補充されるベントナイトや液状化成分の量は、予め行われた塑性流動性と止水性の試験結果に応じて定められる。例えば、塑性流動性については、スランプ試験(JIS A 1101)の結果に基づいて判断される。また、止水性については、土の透水試験(JIS A 1218)の結果に基づいて判断される。
【0051】
カッターチャンバー3では、注入された添加材と掘削土砂とを混練し、所望の塑性流動性や止水性を備えた泥土に調整する。カッターチャンバー3内を調整された泥土で満たすことにより、切羽の崩落を防止しつつ掘削を行う。そして、カッターチャンバー3内の泥土は、スクリューコンベア4によって加熱分離部21に送られる。
【0052】
加熱分離部21では、前述したように、円筒籠部材31と籠内スクリュー33とが軸回りに回転するので、供給された泥土は、円筒籠部材31と籠内スクリュー33とによって攪拌されつつ、排出部34側に搬送される。このとき、泥土に含まれる泥水分(水分と細粒分)は、円筒籠部材31の棒状部材31a同士の隙間dを通じて籠の外に流出し、本体ケース37の底部を流下して排出管38に流入する。そして、添加材として添加材貯留部22に貯留される。また、泥土に含まれる液状化成分は、温風発生部32からの温風によって加熱されて流動化する。流動化状態の液状化成分は、円筒籠部材31から流出し、泥水分と同様に添加材貯留部22に貯留される。
【0053】
従って、加熱分離部21において、カッターチャンバーからの混練物は、ベントナイト泥水や液状化成分を含んだ添加材と、添加材が分離された後の土砂(残渣)とに分離される。そして、分離された添加材は添加材貯留部22に回収され、再度カッターチャンバーへ送出される。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の泥土圧シールドシステムでは、切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分(カルコールのような高級アルコール)を添加材に含ませ、カッターチャンバー3の混練物を加熱分離部21で加熱することにより、液状化成分を固体状から液体状に変化させて土砂から分離している。ここで、混練物に含まれる掘削土は、加熱されても固体状であるため、液状化成分を掘削土から確実に分離できる。その結果、添加材の回収率を高めることができる。
【0055】
また、液状化成分として、融点が37〜51℃の範囲であるカルコール4098(ミリスチルアルコール)やカルコール6098(セチルアルコール)を用いた場合には、切羽温度において固体状を維持できるとともに、液状化に必要な加熱エネルギーを抑制することができる。なお、カルコール4098と6098は、単体で用いてもよくブレンドして用いてもよい。そして、融点が37〜40℃のカルコール4098を用いた場合、融点がシールドトンネルにおける作業温度の上限に近いため、トンネルにおける過度な温度上昇を容易に抑制できる。
【0056】
また、加熱分離部21に関し、本実施形態では、混練物が載せられる篩部(円筒籠部材31)と、熱を発生する熱源(温風発生部32)とを有する構成とし、篩部に載せられた混練物を熱源からの熱によって加熱することで、液状化成分を液状化して篩部の隙間から流出させているので、液状化成分を土砂から容易に分離することができる。
【0057】
さらに、篩部に関し、本実施形態では、複数の棒状部材31aを周面に沿って配置した円筒籠状とし、軸心を中心に回転させるようにした場合には、篩部の回転によって泥土を攪拌できるので、熱を均等に加え易くなり、混練物に含まれる水や液状化成分を土砂から容易に分離できる。
【0058】
また、熱源に関し、本実施形態では、温風を発生する温風発生部32によって構成し、混練物の加熱時において、篩部に載せられた混練物に温風を吹き付けて加熱しているので、温風によって混練物を加熱できるとともに、混練物に対する固液分離を促進できる。これにより、添加材の回収率を一層高めることができる。
【0059】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、次のように構成してもよい。
【0060】
図5は、変形例の加熱分離部21Aを説明する断面図であり、先に説明した図4(b)に相当する図である。第1実施形態における加熱分離部21との相違点は、次の通りである。
【0061】
第1の相違点は、熱源として電熱ヒータ41を用い、この電熱ヒータ41を本体ケース37´に埋設したことである。すなわち、電熱ヒータ41によって本体ケース37´の内部空間の温度を高め、円筒籠部材31及び籠内スクリュー33によって送り出される混練物を加熱している。
【0062】
第2の相違点は、本体ケース37´の内表面をステンレス鋼板42で覆ったことである。ステンレス鋼板42で覆うことにより、混練物に対する伝熱性を確保しつつ添加物を排出管38へ案内することができる。
【0063】
この変形例における他の構成は、前述の実施形態と同じであるので説明は省略する。そして、この変形例でも前述の実施形態と同様に、添加剤の回収率を高めることができる。
【0064】
図6及び図7は、第2実施形態を説明する図である。この第2実施形態では、添加材分離供給装置2´を発進立坑6に設置している点が、第1実施形態と大きく相違している。また、添加材分離供給装置2´を発進立坑6に設置した関係から、スクリューコンベア4から排出された混練物を、ベルトコンベア51によって添加材分離供給装置2´まで運んでいる。
【0065】
また、第2実施形態では、加熱分離部の形式も第1実施形態と相違している。図7に示すように、第2実施形態の加熱分離部21Bは、加熱機構付きの振動篩いによって構成されている。すなわち、加熱分離部21Bは、振動篩い52と、振動篩い52を収納するハウジング53と、ハウジング53の天井面に取り付けられたファン付きのヒータ54とを有している。
【0066】
振動篩い52は、例えば、横並びに配置された多数の棒状部材52aと、これらの棒状部材52aを上下方向に振動させる振動機構52bとによって構成することができる。この構成では、棒状部材52aを上下方向へ移動させることで、棒状部材52aに載置された混練物から添加材を分離することができる。
【0067】
また、振動篩い52を、可撓性を有する帯状の網材と、この網材を横断するように網材の裏面側に配置され、網材を下側から支える複数の横梁と、横梁を網材の長手方向に往復移動させる移動機構とによって構成してもよい(何れも図示せず)。この構成では、各横梁を網材の長手方向に往復移動させることで、網材に載置された混練物を下流側に送りつつ、混練物から添加材を分離することができる。
【0068】
なお、この第2実施形態において、添加材分離供給装置2´を地上に設置してもよい。この場合、発進立坑6まで運搬された混練物は、クレーン7によってズリ鋼車5ごと地上まで吊り上げられ、地上の添加材分離供給装置2´によって処理される。このように構成しても、前述の構成と同様の作用効果を奏する。
【0069】
また、前述の各実施形態では、加熱分離部21で分離した添加材を密閉型シールドマシン1のカッターチャンバー3内に供給して再利用するようにしたシステムを例示したが、加熱分離部21で分離した添加材を他のシールドマシンで使用してもよいし、別の用途に用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 密閉型シールドマシン
2 添加材分離供給装置
3 カッターチャンバー
4 スクリューコンベア(4a 円管,4b スクリュー)
5 ズリ鋼車
6 発進立坑
7 クレーン
8 ホッパー
11 スキンプレート
12 カッターヘッド
13 隔壁
14 駆動装置
15 エレクター
16 シールドジャッキ
17 テールシール
18 セグメント
21,21A,21B 加熱分離部
22 添加材貯留部
23 添加材供給ポンプ
24 添加材供給管
25 添加材補充部
31 円筒籠部材
32 温風発生部
33 籠内スクリュー
34 排出部
35 吸気管
36 送気管
37,37´ 本体ケース
38 排出管
41 電熱ヒータ
42 ステンレス鋼板
51 ベルトコンベア
52 振動篩い
53 ハウジング
54 ファン付きのヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽と隔壁との間に形成されるカッターチャンバー内に添加材を注入し、掘削土と混練する泥土圧シールド工法において、
前記添加材として、切羽温度で固体状であって前記切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分を含有するものを用い、
前記添加材と前記掘削土の混練物を前記カッターチャンバーから排出し、
前記混練物を加熱分離部で加熱することで、前記液状化成分を液状化して前記混練物から分離することを特徴とする泥土圧シールド工法。
【請求項2】
前記液状化成分は、ミリスチルアルコール及びセチルアルコールの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の泥土圧シールド工法。
【請求項3】
前記液状化成分は、ミリスチルアルコールであることを特徴とする請求項2に記載の泥土圧シールド工法。
【請求項4】
前記加熱分離部は、前記混練物が載せられる篩部と、熱を発生する熱源とを有し、前記篩部に載せられた前記混練物を前記熱源からの熱によって加熱し、前記液状化成分を液状化して前記篩部の隙間から流出させることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の泥土圧シールド工法。
【請求項5】
前記篩部を、複数の棒状部材を周面に沿って配置した円筒籠状に構成し、
前記混練物の加熱時において、前記混練物を籠内部に供給した状態で前記篩部を軸回りに回転させることを特徴とする請求項4に記載の泥土圧シールド工法。
【請求項6】
前記熱源を、温風を発生する温風発生部によって構成し、
前記混練物の加熱時において、前記篩部に載せられた前記混練物に前記温風を吹き付けて加熱することを特徴とする請求項4又は5に記載の泥土圧シールド工法。
【請求項7】
切羽と隔壁との間に形成されるカッターチャンバー内に添加材を注入する添加材注入部と、前記添加材と前記掘削土の混練物を前記カッターチャンバーから排出する混練物排出部とを備えた泥土圧シールドシステムにおいて、
前記添加材注入部は、切羽温度で固体状であって前記切羽温度よりも高い液状化温度で液状化される液状化成分を含有する添加材を、前記カッターチャンバー内に注入するものであり、
前記混練物排出部から排出された前記混練物を加熱し、前記液状化成分を液状化して前記混練物から分離する加熱分離部を設けたことを特徴とする泥土圧シールドシステム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−154107(P2012−154107A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14443(P2011−14443)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】