説明

注型成形金型

【課題】突出部を有する成形品を成形する注型成形金型であって、キャビティに成形剤を充填する際に、キャビティ内を良好に脱気することができると共に、上型と成形品とを容易に外すことができる注型成形金型を提供することである。
【解決手段】キャビティ12に成形樹脂剤を充填すると、キャビティ12と連通する上型2の凹部5に成形樹脂剤が達する。上型2には外部と凹部5とを連通させる孔2aが設けてある。孔2aには剛性を有するシリンダロッド8が配置されており、シリンダロッド8は脱型用シリンダ7によって上下移動が可能である。成形樹脂剤がキャビティ12内に充填される際には、キャビティ12内の空気はシリンダロッド8を介して成形型1の外部に排出され、成形品11が成形されると凹部5に付着したリブ11bをシリンダロッド8で押圧する。これにより、凹部5からリブ11bが外され、成形品11が脱型される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上型と下型とで構成され、上型に成形品の突出部を形成する凹部が設けられた注型成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上型と下型で仕切られたキャビティに成形材が充填されて成形品が成形されると、成形品は上型及び下型から脱型されて取り出される。特許文献1に開示されている成形品は、脱型時に上型よりも下型に付着し易い。そのため、特許文献1に開示されている発明においては、下型側からノックアウトピンを突出させて成形品を押し上げ、成形品を下型から脱型させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−239742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されている成形型で成形される成形品にはリブ等の部分的に突出する部位がない。その結果、成形直後の成形品は、脱型時に上型よりも下型の方に付着し易い。そのため、特許文献1に開示されているように、ノックアウトピンを下型側から突出させることによって、成形品を下型から取り外すようにしている。
【0005】
ここで、成形品35にリブ35b等の突出部を設けるには、図3(a),図3(b)に示すように上型31に凹部31aを形成し、この凹部31aに成形樹脂材を充填することにより、成形品本体35aとリブ35bとを一体に成形することができる。
【0006】
すなわち、成形品35にリブ35bのような突出部を設けるために、上型31の凹部31aにも成形樹脂材が充填される。この凹部31aに充填された成形樹脂材が硬化し、凹部31aに対する成形品35の付着力が増大する。その結果、成形品35は脱型時に下型32よりも上型31に付着し易くなる。よってこの場合には、ノックアウトピン33を上型31の凹部31aに設け、上型31側から押圧して成形品35を取り外すようにする必要がある。
【0007】
仮に、このノックアウトピン33を凹部31a以外の部位に設けた場合には、図3(a)に示すように、脱型時においてノックアウトピン33で成形品35を押圧すると、リブ35b(突出部)が凹部31aから抜けず、無理に押圧力を強めると成形品35が破断(例えば破断線38に沿って破断)してしまう恐れがある。
【0008】
一方、キャビティ34に成形樹脂材を充填する際には、キャビティ34内を脱気する必要がある。そのため、上型31には脱気機構36が設けられる。ところで、上型31に凹部31aを設けた結果、キャビティ34の上壁31における最も高い部分が凹部31aの底の部分になるため、図3(b)に示すように脱気機構36を凹部31a以外の部位に設けると、凹部31aに貯まった空気37は、脱気機構36で排出することができない。そのため、排出できない空気37が邪魔になって、凹部31a内に成形樹脂材を充填することができない。よって、図3(a)に示すように脱気機構36は凹部31aに設ける必要がある。
【0009】
しかし、前述のように凹部31aには脱型時に備えてノックアウトピン33を設置しなければならず、ノックアウトピン33と脱気機構36の両方を狭い凹部31aに設置することはレイアウト上極めて困難である。
【0010】
そこで本発明は、突出部を有する成形品を成形する注型成形金型であって、キャビティに成形材を充填する際に、キャビティ内を良好に脱気することができると共に、上型と成形品とを容易に脱型することができる注型成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、上型と下型で仕切られるキャビティに成形剤を充填して成形品を成形する注型成形金型であって、成形品の突出部を形成する凹部が前記上型に設けられている注型成形金型において、上型に中空のロッドを設置し、前記ロッドは上型の凹部からキャビティ側に突出可能であることを特徴とする注型成形金型である。
【0012】
請求項1の発明では、上型に中空のロッドを設置したので、キャビティ内に成形材を充填する際に、中空のロッドを介してキャビティ内の空気を円滑に外部に排出することができる。すなわち、キャビティ内の空間の最も高い壁面を形成する凹部に中空のロッドを設置するので、キャビティ内の空気は、成形材が充填されるにつれて中空のロッドを介して外部へ排出される。その結果、凹部内の空気が完全に排出され、凹部内にも成形材が良好に充填される。よって、成形品に突出部が良好に設けられる。
【0013】
またロッドは、上型の凹部からキャビティ側に突出可能であるので、ロッドによって成形品の突出部を押圧することができる。その結果、成形品から上型を良好に脱型することができる。
【0014】
請求項2の発明は、前記ロッド内に脱気用チューブを配置し、ロッドの先端に通気性を有し、成形材の侵入を阻止するフィルタを設けたことを特徴とする請求項1に記載の注型成形金型である。
【0015】
請求項2の発明では、ロッド内に脱気用チューブを配置し、ロッドの先端に通気性を有し、成形剤の侵入を阻止するフィルタを設けたので、キャビティに成形剤を充填する際に、キャビティ内の空気はフィルタと脱気用チューブを通って外部に円滑に排出されるとともに、成形材はフィルタによって外部への流出が阻止される。すなわち、キャビティ内の空気のみを外部に排出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の注型成形金型によれば、キャビティ内に成形剤を充填する際に、キャビティ内を円滑に脱気することができると共に、脱型時に上型から成形品を容易に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による注型成形金型の要部の拡大断面図であり、(a)は上型と下型の間にキャビティが形成されている状態を示しており、(b)は(a)の上型に脱気兼押出装置を設置した状態を示しており、(c)は(b)の状態からキャビティ内に成形樹脂を充填し、成形樹脂材が固化した後に下型のみを脱型した状態を示し、(d)は(c)の状態から脱気兼押出装置によって上型を脱型した状態を示している。
【図2】本発明の注型成形金型を示し、(a)は分解図であり、(b)は組立図である。
【図3】従来の手法により、成形品を脱型する際の部分断面図であり、(a)は上型の凹部に脱気装置を設けた場合を示し、(b)は上型の凹部にノックアウトピンを設けた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(b)に示すように、成形型1は上型2、下型3、脱気兼押出装置4で構成されている。上型2には、孔2aと凹部5とが設けられている。また上型2は、成形樹脂材(成形材)の図示しない供給通路を有する。この供給通路は、上型2の外部と後述するキャビティ12とを連通し、成形樹脂材の供給源からキャビティ12へ成形樹脂材を供給するための通路である。
【0019】
凹部5は、上型2の内部(後述の下型3と組み合わされたときの内部)であって、キャビティ12を仕切る壁面である内面2bに設けられたくぼみである。また、凹部5は、紙面の手前側から奥側へ伸びる溝構造を呈している。孔2aは、上型2の外部(後述の下型3と組み合わされたときの外部)と内部の凹部5とを連通させる孔である。すなわち、上型2には、内部に溝形状の凹部5が形成されており、この凹部5が孔2aによって外部と連通している。
【0020】
下型3は、内面3aを有している。下型3と上型2とが組み合わされると、下型3の内面3aと上型2の内面2bとが対向する。そして両者の間にはキャビティ12が形成される。前述の上型2の凹部5は、キャビティ12と連通する空間を構成する。すなわち、キャビティ12は、凹部5に設けられた孔2aによって成形型1の外部と連通している。
【0021】
図2(a)に示すように脱気兼押出装置4は、脱気機構部6、脱型用シリンダ7、シリンダロッド8、脱気チューブ9、フィルタ10を有する。
【0022】
脱気チューブ9は、安価な素材で形成されたチューブであり、上端は開放されており、下端9bには通気性を有するフィルタ10が固着されたエアーベント機能を有する部材である。フィルタ10は、空気は通すが、成形樹脂材の通過は阻止する素材(例えば多孔質材や不織布等)で構成されている。すなわち、脱気チューブ9の内部9aには、フィルタ10によって空気は通過し、成形樹脂材は通さない。フィルタ10は、孔2a内に圧入されている。そのため、フィルタ10と脱気チューブ9は、キャビティ12内に落下しない。
【0023】
シリンダロッド8は、剛性を有する素材で構成されており、円筒形状を呈している。シリンダロッド8の内部8aには脱気チューブ9が配置される。また、シリンダロッド8は脱型用シリンダ7を貫通している。さらにシリンダロッド8の上端には脱気機構部6が装着されている。脱気機構部6は、脱気チューブ9を貫通させている。脱型用シリンダ7は、シリンダロッド8を保持すると共に、図示しない駆動源によってシリンダロッド8を上下に移動させる機構を有している。脱型用シリンダ7と脱気機構部6は、周知のものを採用する。
【0024】
このような構成を有する脱気兼押出装置4を上型2に装着する。すなわち、シリンダロッド8を上型2の孔2aに上面2c側から挿通させ、フィルタ10の下端を凹部5の底部(上壁)と一致させる。また、脱型用シリンダ7を上型2の上面2c上に載置する。その結果、脱気兼押出装置4は、脱型用シリンダ7によって上型2に保持される。シリンダロッド8の外径は、上型2の孔2aの内径と略一致している。
【0025】
脱型用シリンダ7は、図示しない駆動源によって駆動され、シリンダロッド8を上下方向に往復移動させることができる。すなわちシリンダロッド8が、脱型用シリンダ7によって下方へ移動すると、シリンダロット8の下端(フィルタ10)は、凹部5内に侵入する。逆に上方へ移動させると、シリンダロット8の下端は凹部5から退避する。
【0026】
次に、図1(a)〜図1(d)を参照しながら、成形品11を脱型するまでの手順を説明する。まず図1(a)に示すように上型2と下型3とが組み合わされ、成形型1内部にキャビティ12が形成される。そして図1(b)に示すように上型2に脱気兼押出装置4が装着される。脱気兼押出装置4は、上型2に装着する前に、図2(b)に示すように予め組み立てておく。
【0027】
図1(b)に示す状態で、図示しない成形樹脂材の充填装置によってキャビティ12内に成形樹脂材を充填する。その結果、キャビティ12(凹部5を含む)内の空気は、脱気兼押出装置4のフィルタ10及び脱気チューブ9を介して成形型1の外部へ押し出されて排出される。成形樹脂材はやがて上型2の内面2bに達する。このとき、空気は凹部5内にのみ存在する。
【0028】
そして充填され続ける成形樹脂材の上面が凹部5内を上昇し、やがてフィルタ10の下面に達する。このとき、キャビティ12内の空気は、すべてキャビティ12内から排出される。
【0029】
フィルタ10が成形樹脂材の通過を阻止するので、成形樹脂材の充填装置が成形樹脂材をさらにキャビティ12内に供給しようとしても、もはやこれ以上は供給することはできない。すなわち、キャビティ12への成形樹脂材の供給は停止する。キャビティ12内に充填された成形樹脂材は、やがて硬化し、成形品11が完成する。
【0030】
成形品11は、本体部11aとリブ11b(突出部)とを有する。すなわち、凹部5に侵入した成形樹脂剤が硬化した結果、リブ11bが形成される。リブ11bには、フィルタ10が当接している。
【0031】
次に脱型を実施する。まず、成形品11に対して下型3が取り外される。特別な装置及び道具を使用しなくても、比較的容易に下型3は成形品11から外れ、図1(c)に示す状態となる。
【0032】
ところが上型2と成形品11は、上型2の凹部5と成形品11のリブ11bが係合した形になっており、容易には外れない。そこで脱気兼押出装置4を作動させ、脱型用シリンダを駆動してシリンダロッド8を下方に移動させる。その結果、シリンダロッド8(フィルタ10)によってリブ11bが下方に押圧され、上型2の凹部5から成形品11のリブ11bが外れる。そして、図1(d)に示すように上型2から成形品11が外れ、脱型が完了する。
【0033】
ここでリブ11bは、フィルタ10を介してシリンダロッド8で押圧されるので、フィルタ10は非圧縮性の素材で構成されているのが好ましい。また、上型2の凹部5は溝であり、図2(b)に示す脱気兼押出装置4は、溝である凹部5に沿って複数箇所に配置するのが好ましい。その結果、成形品11の突条であるリブ11bの複数箇所が、脱気兼押出装置4で押圧され、成形品11は良好に上型2から取り外される。
【0034】
さらに、図1に示す成形品11には1つのリブ11bが設けられているが、複数のリブが設けられている成形品11を成形する場合にも本発明を実施することができる。すなわち、各リブ(上型2の凹部5)に対して脱気兼押出装置4を設ける。その結果、成形時においては各凹部5内の空気が良好に排出されて成形樹脂材が各凹部5内に良好に充填され、複数のリブ11bが良好に形成される。また、脱型時には各リブ11bが各々脱気兼押出装置4で押圧され、円滑に脱型される。
【0035】
また、シリンダロッド8の内部8aには脱気チューブ9が配置されているが、この脱気チューブ9はフィルタ10と共に交換可能である。すなわち、フィルタ10は成形樹脂材の侵入を阻止するが、完全に阻止することはできない。よって、成形樹脂剤の一部が脱気チューブ9内に達することがある。このような場合には、フィルタ10及び脱気チューブ9を新規品と交換する。よって、フィルタ10と脱気チューブ9は使い捨てすることより、洗浄する手間を省くことができる。また、脱気機構部6、脱型用シリンダ7、そしてシリンダロッド8は再利用することができ、経済的である。
【0036】
さらに、成形樹脂材のキャビティ12への充填量を予め計量しておき、成形樹脂材をこの充填量だけキャビティ12に供給するようにすれば、フィルタ10及び脱気チューブ9を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 成形型
2 上型
3 下型
4 脱気兼押出装置
5 上型の凹部
6 脱気機構部
7 脱型用シリンダ
8 シリンダロッド
9 脱気チューブ
10 フィルタ
11 成形品
11b 成形品のリブ(突出部)
12 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型で仕切られるキャビティに成形剤を充填して成形品を成形する注型成形金型であって、成形品の突出部を形成する凹部が前記上型に設けられている注型成形金型において、
上型に中空のロッドを設置し、前記ロッドは上型の凹部からキャビティ側に突出可能であることを特徴とする注型成形金型。
【請求項2】
前記ロッド内に脱気用チューブを配置し、
ロッドの先端に通気性を有し、成形剤の侵入を阻止するフィルタを設けたことを特徴とする請求項1に記載の注型成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43320(P2013−43320A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181368(P2011−181368)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】