説明

注射用キット及び薬剤入りシリンジの調製方法

【課題】 複数の薬剤を分離して保存し、使用時には外気に触れずに当該複数薬剤を十分に混合し得、更に当該混合された複数薬剤を外気に触れずに注射用シリンジ内へ導入し得るのみならず、このような複数薬剤の混合から混合薬剤のシリンジ内への導入までの作業を簡便に行ない得る、衛生性、操作性に優れた注射用キットを提供する。
【解決手段】 先端に排出部を有するシリンジ2と、シリンジ2の前記排出部に分離可能に接続されてその内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器3と、前記柔軟性容器内に収納される複数の薬剤(361,371)とを具備し、前記柔軟性容器3内に設けられた第一弱シール部341により前記複数の薬剤が互いに隔離され、前記柔軟性容器3内に設けられた第二弱シール部342によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との連通が遮断されてなることを特徴とする注射用キット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め混合しておくと不安定な複数の薬剤を分離して保存することができ、使用時には外気と触れずに当該複数の薬剤を十分に混合することができ、しかも当該混合された複数の薬剤を外気と触れずに注射用シリンジ内へ導入することができるのみならず、このような複数薬剤の混合から混合薬剤のシリンジ内への導入までの作業を簡便に行ない得る、衛生性、操作性に優れた注射用キット、及び当該注射用キットを用いた薬剤入りシリンジの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め混合しておくと不安定な2種以上の薬剤を患者に注射投与する場合には、バイアル瓶やアンプルから各々の薬剤を個別のシリンジに採取し、複数本の注射を続けて患者に行なうことが行なわれていたが、このような作業は細菌感染防止の観点から好ましくないものであり、また、作業も煩雑なものであったため、その改善が求められていた。
【0003】
このような課題に鑑み、例えば特許文献1:特開平11−169459号公報には、形状に特徴を有する移動隔壁をシリンジ内に設けることにより一本のシリンジ内に複数の薬液を収納し、使用時にプランジャを押し込めばそのまま複数の薬剤が連続して排出される薬剤入りシリンジが提案されている。
しかし、1つのシリンジ内に複数の薬液を接触させずに充填する操作は難易度が高く、コスト高や不良品の原因となりかねない。同様にシリンジ自体の構造を工夫する注射器の提案は、特許文献2:特開昭62−5357号公報等にもなされているが、同様のコスト高問題、不良品問題を抱えるおそれがある。
しかも、複数の薬剤を患者に投与するに際し、複数の薬剤を予め十分に混合しておきたい場合があるが、上記引用文献1等に記載の薬剤入りシリンジではその構造上、複数薬剤の十分な混合は困難であると考えられる。複数の薬剤中に粉体や固体の薬剤が含まれる場合には上記のような十分な混合や溶解は尚のこと困難であると考えられ、従って、上記引用文献1等に記載の薬剤入りシリンジを用いる場合には自ずと薬剤選択の自由度が制限されることとなる。
【0004】
一方、特許文献3:特開2003−159310号公報や特許文献4:特開2004−81276号公報には、各収納部に収納されている薬剤を密閉環境下で混合した後に患者に投与し得る医療用複室容器が記載されている。
【0005】
しかしながら、これら特許文献3,4に記載された柔軟性複室容器を用いれば複数の薬剤を密閉環境下で混合すること自体は可能であるものの、混合薬剤を患者に注射投与する場合には改めてシリンジに採取する作業が必要となるため、なお衛生性、作業性の観点から改善の余地が残る。
また、特許文献5:特開2003−175091号公報には、水溶液中で不安定な薬剤を使用時に溶解液に溶解し調製するために、薬剤と溶解液が分離して収容された複室容器製剤が記載されているが、プランジャを用いるものではないため、やはり薬剤入りシリンジとしては使用できない。
複数の薬剤の混合作業及びシリンジ内への薬剤導入作業を衛生的かつ簡便になし得る、注射用キットの開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平11−169459号公報
【特許文献2】特開昭62−5357号公報
【特許文献3】特開2003−159310号公報
【特許文献4】特開2004−81276号公報
【特許文献5】特開2003−175091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、予め混合しておくと不安定な複数の薬剤を分離して保存することができ、使用時には外気と触れずに当該複数の薬剤を十分に混合することができ、しかも当該混合された複数の薬剤を外気と触れずに注射用シリンジ内へ導入することができるのみならず、このような複数薬剤の混合から混合薬剤のシリンジ内への導入までの作業を簡便に行ない得る、衛生性、操作性に優れた注射用キット、及び当該注射用キットを用いた薬剤入りシリンジの調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、第一の発明として、先端に排出部を有するシリンジと、このシリンジの前記排出部に分離可能に接続されてその内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器と、前記柔軟性容器内に収納される複数の薬剤とを具備し、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第一弱シール部により柔軟性容器内に収納される前記複数の薬剤が互いに隔離され、且つ、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第二弱シール部によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との前記連通が遮断されてなることを特徴とする注射用キットを提供する。
更に、第二の発明として、上記注射用キットを用いた薬剤入りシリンジの調製方法であって、先端に排出部を有しプランジャを備えるシリンジと、このシリンジの前記排出部に分離可能に接続されてその内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器と、前記柔軟性容器内に収納される複数の薬剤とを具備し、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第一弱シール部により柔軟性容器内に収納される前記複数の薬剤が互いに隔離され、且つ、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第二弱シール部によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との前記連通が遮断されてなる注射用キットを用いるものであると共に、以下の(A)〜(D)の各工程、
(A)前記柔軟性容器に物理力を加えて前記第一弱シール部を破壊し、前記複数の薬剤同士の隔離を解除して混合薬剤を得る工程、
(B)前記(A)工程の後、前記柔軟性容器に物理力を加えて前記第二弱シール部を破壊し、シリンジ内部と柔軟性容器内部との連通の遮断を解除してシリンジ内部と柔軟性容器内部とを液密に連通させる工程、
(C)前記(B)工程の後、さらに物理力を加え続けて、及び/又は前記シリンジのプランジャを後退させて、前記(A)工程にて調製された前記混合薬剤をシリンジ内に導入する工程、
(D)前記(C)工程の後、シリンジと柔軟性容器とを互いに分離する工程、
を有することを特徴とする薬剤入りシリンジの調製方法を提供する。
【0009】
即ち、本発明の注射用キットは柔軟性容器内に複数の薬剤を収納し、これら複数薬剤の隔離が、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊することができる前記柔軟性容器内に設けられた第一弱シール部によりなされているため、複数の薬剤を互いに接触させることなく密閉環境下で保存可能であり、混合により成分劣化等の不具合が生じる薬剤の組合せに対しても好ましく使用可能な注射用キットである。そして、密閉環境下で押圧するなど物理力を加えることにより隔壁(第一弱シール部)を容易に破壊することができ、複数薬剤の混合を衛生的かつ容易になし得る。
【0010】
そして、本発明の注射用キットは先端に排出部を有するシリンジと、このシリンジの前記排出部に分離可能に接続されてその容器内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器とが柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊することができる前記柔軟性容器内に設けられた第二弱シール部によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との前記連通が遮断されているため、密閉環境下で押圧するなど物理力を加えることにより隔壁(第二弱シール部)を破壊してシリンジ内部と柔軟性容器内部とを容易に連通させることができ、柔軟性容器内に収容されている混合された複数薬剤を衛生的にシリンジ内へと導入することが可能である。導入に際しては、柔軟性容器内に薬剤を収容した状態で柔軟性容器部分を全体的に押圧すれば、薬剤を容易にシリンジ側へ押出すことができる。つまり、本発明によれば、十分に混合した薬剤を密閉環境下で衛生的に、しかも容易にシリンジ内へ導入する(薬剤入りシリンジを調製する)ことができる。
【0011】
また、本発明においては注射用キットの一部が柔軟性容器で形成されているため、柔軟性容器内に薬剤を収容した状態で、この柔軟性容器の部分を手で変形させる等により薬剤に適切な攪拌力を加えれば、各薬剤の十分な混合を衛生的かつ容易になし得ることとなる。
【0012】
本発明において、複数の薬剤は少なくとも柔軟性容器内に収容されているが、複数の薬剤の形態としては、液体剤或いは溶解液が少なくとも1つ含まれることが望ましい。液体剤或いは溶解液が少なくとも1つ含まれれば、柔軟性容器の第一弱シール部の破壊作業が容易となると共に、粉末状薬剤や顆粒状薬剤といった固体薬剤が並存した場合であっても、より容易に混合薬剤を溶解、混合させて均質化することができるためである。なお、本願発明においては、シリンジ内は空でも良いが、更にシリンジ内にも、予め薬剤を収容しておくこともできる。シリンジ内に収納される薬剤としては漏洩の危険性が小さいことから固体薬剤であることが好ましい。薬剤が収納されたシリンジは蓋材などで剥離可能にシールして封止しても良いが、プランジャを差し込んで封止すると混合された薬液を導入する作業が衛生的で容易となるので好ましい。
ここで、上記シリンジがプランジャを具備し、シリンジ内に薬剤が収容されている場合に、一旦、シリンジに導入した混合薬剤をプランジャで柔軟性容器に戻すことにより、大胆に混合作業を行なうことができ、より確実に各薬剤を均質化できることとなるため好適である。つまり、再度混合薬剤を柔軟性容器内へ注入することにより、柔軟性容器内で混合薬剤に十分な攪拌力を加えることが可能となるため、より確実に混合薬剤全体を均質化することができる。
さらには、柔軟性容器内に収容されている混合された複数薬剤をシリンジ内へ導入するに際して、柔軟性容器部分を全体的に押圧することに加えて、又は、押圧することに代えてプランジャを後退させれば、薬剤を容易にシリンジへ導入することができる。
【0013】
本発明においては、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な弱シール部を、複数の薬剤同士を隔離するための隔壁(第一弱シール部)、乃至、シリンジ内部と柔軟性容器内部との連通を遮断する隔壁(第二弱シール部)として用いるものであるが、このような弱シール部は柔軟性容器内に設けられたものである。従って、シリンジ内部に物理的遮断手段を設ける場合に比べて注射用キットの製造が容易であり、コスト高問題、不良品問題を解消した注射用キットとなり得る。
【0014】
ここで、前記第二弱シール部が前記柔軟性容器のどの部分に形成されるかについては特に限定されるものではないが、包装材料を無駄にしない観点から、前記シリンジの排出部近傍位置に形成されることが好適である。また、本発明の注射用キットを外装する際に柔軟性容器の部分で折り畳む場合、第二弱シール部が折り畳み線の直近でシリンジ排出部と同じ側となる位置に形成されることが好ましい。その理由は、輸送時の振動によって、シリンジ排出部の先端が柔軟性容器のシートを傷つけるおそれがないと共に、柔軟性容器に収納される薬剤が液体である場合に、液体薬剤が振動しても、第二弱シール部を剥離させようとする力が折り畳み線によって緩和されるので不用意に剥離することがない。
【0015】
本発明の注射用キットにおいて、シリンジ排出部と柔軟性容器との接続方法、乃至分離方法としては、その接続を簡便に分離可能なものとする観点から、以下のような形態を採用することができる。
(i)シリンジ排出部と柔軟性容器との前記接続が、剥離可能なヒートシール(弱シール)によりなされ、該弱シールを剥離することにより前記シリンジ排出部と柔軟性容器とが互いに分離される形態。
(ii)シリンジ排出部と柔軟性容器との前記接続が、前記柔軟性容器側に設けられた接続部材、又は前記シリンジ排出部側及び前記柔軟性容器側の双方に設けられた接続部材を介してなされ、該接続部材が前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とを嵌合乃至螺合させるものであると共に、該嵌合乃至螺合を解除することにより前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とが互いに分離される形態。
(iii)シリンジ排出部と柔軟性容器との前記接続が、前記シリンジ排出部の内周面及び/又は外周面に周方向に沿って設けられた破断可能な薄肉部を介してなされ、該薄肉部を破断することにより前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とが互いに分離される形態。
【0016】
ここで、前記嵌合用/螺合用の接続部材としては公知のものを採用することができ、適宜Oリング等を併用することもできる。そして、シリンジ排出部に注射針を装着するネジが設けられている場合、螺合する場合の接続部材としてこのネジを兼用しても良い。
また、前記破断可能な薄肉部が形成される前記排出部の形状としては、筒状であれば特に制限はないが、円筒であると柔軟性容器に容易かつ確実にヒートシールなどで固着することができ好適である。そして、薄肉部は前記排出部の内外面いずれに形成されても良いが、外面に形成されると形成作業が容易であり、分離時に形成箇所が視認できるので好ましい。この薄肉部は連続する線状であることが好ましいが、断続する破線状であってもよい。
【0017】
本発明の注射用キットにおけるシリンジは、上記の通りプランジャを備えるものであることが好適であるが、シリンジは通常、先端に排出部を有する筒状体と、この筒状体内部を液密に摺動するプランジャとを備えるものである。前記筒状体内壁面とプランジャ側面との液密性は、プランジャの表面が全面的に筒状体内壁面に液密に接することでもたらされるものであっても良いし、プランジャが一部にガスケットを具備し、当該ガスケットの表面が筒状体内壁面に液密に接することでもたらされるものであっても良い。そして、薬剤との相互作用が懸念されなければ、シリコーンなどの潤滑剤が塗布されていても良い。
【0018】
上記筒状体或いはプランジャの材質としては、使用する薬剤の種類に応じて適宜選定することができるが、例えば高密度ポリエチレン、高分子ポリエチレン、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック類や、ガラス類等を挙げることができる。
【0019】
上記ガスケットの材質としても、上記筒状体との液密性を発現し得る材質であって、収容する薬剤に悪影響の無い材質であれば特に限定されないが、例えば天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系等の各種エラストマー、又はそれらの混合物等を適宜使用することができる。
【0020】
上記柔軟性容器の材質としては、収容薬剤の安定性を保持することができ、手による押圧により容器が完全に潰れる程度の柔軟性を有するものであることが望ましい。
より具体的には、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高分子ポリエチレン、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、塩化ビニリデン共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック類にて形成されるフィルム、アルミホイル等の金属フィルム、アルミ蒸着フィルムやシリカ蒸着フィルム等の複合フィルム等を用い、これらから適宜選定した単層シート、又はこれらを適宜組み合わせた多層シートとして上記柔軟性容器の形成材料とすることができる。
【0021】
本発明の注射用キットに収容される薬剤としては、特に限定されるものではないが、各種ビタミン剤、抗生物質、神経系・感覚器官・循環器官・呼吸器官・消化器官用薬、ホルモン剤、診断用薬、外皮用薬、滋養強壮剤、血液用薬、代謝性用薬品、腫瘍用薬、アレルギー用薬、化学療法用薬等が挙げられる。
【0022】
一方、本発明の薬剤入りシリンジの調製方法は、上述した本発明の注射用キットを用いるものである。本発明の調製方法は、前記柔軟性容器内で前記複数の薬剤を混合した後、シリンジ内へ混合薬剤を導入する方法であるため、外部から十分な攪拌力を混合薬剤へ加えることができることから、複数の薬剤中に固体薬剤等の溶解困難な薬剤が含まれる場合であっても可及的に均一に混合することが可能な調製方法である。しかも、混合薬剤を前記シリンジの排出部を通じ、柔軟性容器の押圧やシリンジの操作(プランジャの後退)によりシリンジ内へ導入するものであるため、密閉された状態を保持して衛生的かつ簡便に、必要な複数の薬剤が十分に混合された混合薬剤をシリンジへ収容可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明によれば、複数薬剤の混合及びこの混合により得られた混合薬剤のシリンジ内への移動を共に外部環境と接触させず、簡便に行なうことが可能な注射用キットが提供される。この注射用キットを用いれば、十分に混合された薬剤の入ったシリンジを衛生的かつ簡便に調製することができ、複数薬剤を患者へ投与する際に好適である。
【発明を実施するための最良の形態及び実施例】
【0024】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
図1は本発明の一実施例にかかる注射用キット1の上面図であり、図2は図1に示す注射用キット1のX−X断面図である。注射用キット1は、図1,2に示されるように、患者への薬剤投与を担うシリンジ2と、シリンジ2の先端に備えられた筒状排出部24に接続されて容器内部がシリンジ2内部と液密に連通する柔軟性容器3とを具備するものである。柔軟性容器3は、複数薬剤の収納と共に、それらの混合に主として寄与する容器である。
【0025】
シリンジ2は、略円筒形状を有する筒状体21と、この筒状体21内部をその軸方向に沿って液密に摺動可能に配設されたプランジャ22とで構成されている。プランジャ22はその一端側(筒状体21とプランジャ22とで形成されるシリンジの室23に面する端面側)にガスケット221を具備し、該ガスケット221が筒状体21の内壁面と液密に摺動可能となっている。なお、図1,2においてシリンジの室23には、粉末状の薬剤231が収容されている。
【0026】
筒状体21はその先端(シリンジ2と柔軟性容器3との接続部に面する端面側)に筒状排出部24を具備し、プランジャ22を筒状体21内で液密に排出部24に向けて移動、乃至、排出部24から後退させるように(離れる方向に)移動させることで、筒状排出部24の排出流路を通じて柔軟性容器3からシリンジの室23内への薬剤の導入、乃至シリンジの室23からの薬剤の排出が可能となっている。なお、筒状排出部24の外周面には周方向に沿って切断用溝25が設けられ、該溝の底部と筒状排出部24の内壁面との間に、破断可能な薄肉部が形成されている。
【0027】
一方、柔軟性容器3は、2枚のシート31及び32を重ね合わせ、シート周縁部に強シール部33を設けて形成された容器内部空間を剥離可能な第一弱シール部341,第二弱シール部342により区画された柔軟性容器の室35,36,37を有する複室容器である。図において柔軟性容器3とシリンジ2との接続部に近い側から離れる側へ向けて順に室35,36,37が設けられていると共に、室36,37にはそれぞれ液状の薬剤361,371が収容されている。
【0028】
この注射用キット1の製造方法としては、まず第1に、シリンジ2及びシート31,32を公知の方法を用いて個別に形成する。
第2に、シリンジ2に筒状排出部24を介して、又はプランジャ22を筒状体21から取り外すことにより筒状体21の背面側から薬剤231を室23に導入する。
第3に、シート32を真空成形又は圧空成形することによりシート33の所定位置に2箇所の凹部を深絞り成型し、該凹部に薬剤361,371を収容する。
第4に、シート31と薬剤を収容するシート32とを重ね合わせたシート周縁部においてシリンジ2の筒状排出部24の先端部分を両シート間に挟持すると共に、シート周縁部を全周にわたり熱圧着して強シール部33を形成する。この場合、筒状排出部24の挟持される部分においては筒状排出部24の排出口を強シール部で塞がないようにシート31,32と筒状排出部とをそれぞれ強シールすると共に、筒状排出部24の外周面に周方向に沿って設けられた切断用溝25が柔軟性容器3の外部に露出するようにする。その他のシート周縁部分においてはシート同士を強シールする。
最後に、上記挟持部から離れる方向に向けて所定の間隔をおいてシート31,32を熱圧着して弱シール部を2箇所設けることにより、シリンジ2と、このシリンジ2の筒状排出部24に接続されて容器内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器3と、柔軟性容器3内に収納される複数の薬剤361,371と、この複数の薬剤を物理的に隔離する剥離可能な第一弱シール部341と、シリンジ内部と柔軟性容器内部との連通を遮断する第二弱シール部342とを具備する注射用キット1が形成される。
【0029】
なお、上記において強シール部及び弱シール部はいずれもシート31,32の熱圧着により設けられるが、ヒートシール強度の調整方法としては、圧着温度条件、圧着時間条件、圧着圧力条件を適宜選定する方法や、シート31とシート32とがそれぞれ容器内面側に備えるシーラント層の材質を適宜選定する方法等を用いることができる。また、弱シール部にイージーピール用テープ、例えば、シーラント層がポリプロピレンやポリエチレンである場合にポリプロピレンとポリエチレンとの混合樹脂層を片面あるいは両面に備えるテープを介在させても良い。そして、この注射用キットを折り畳んで外装する場合には弱シール部の直近を深絞り成型されていないシートが内側となるように折り畳むことが好ましい。
【0030】
この注射用キット1の使用に際しては、まず第1に、薬剤371を収容する室37を押圧して室36と室37との間に設けられた第一弱シール部341を破壊し、薬剤361と371とを混合する。この場合、室36,37は共に密閉された柔軟性容器3内に存するものであるため、薬剤361と371との混合に際して柔軟性容器3を十分に変形等させることができ、両薬剤の十分な混合が衛生的に実現される。
第2に、柔軟性容器3を全体的に押圧等して室35と室36との間に設けられた第二弱シール部342を破壊し、シリンジの室23と柔軟性容器3の内部とを連通すると共に、筒状排出部24を通じて液状の薬剤361,371の混合物をシリンジの室23内へ導入する。ここで、シリンジの室23に収容される粉末の薬剤231と、液状の薬剤361及び371の混合物との混合が一度の操作で十分に行なえない場合には、プランジャ22を筒状体21内に押し込む等の方法により再度薬剤231,361,371の混合物を柔軟性容器3側へ移動させれば、柔軟性容器3内で十分な混合力を薬剤混合物に加えることができ、これら薬剤の十分な混合を簡便かつ確実に実現することができる。このような混合操作は適宜複数回行なっても良い。混合後は、再度柔軟性容器3を全体的に押圧したり、柔軟性容器3を折り曲げたり等することにより、混合薬剤を再度シリンジの室23内へ導入することができる。この時、プランジャを後退させ吸引しても良い。
【0031】
最後に、筒状排出部24に曲げ応力を加えて切断用溝25に応力を集中させて筒状排出部24を切断用溝25位置にて切断し、柔軟性容器3を分離し、分離後の筒状排出部24先端位置に注射針を装着する。
このような操作を行なうことにより、薬剤の十分な混合からシリンジへの混合薬剤の導入までを全く外気と接触させることなく衛生的に、しかも簡便に行なうことができる。
【0032】
図3は、本発明の他の実施例にかかる注射用キット1Aの、シリンジ2Aと柔軟性容器3Aの接合部を示す概略断面図である。図3において嵌合筒38Aは柔軟性容器3Aを構成する2枚のシート31A,32Aに挟持されて強シール固定される円筒状の接続部材であり、円筒内壁面に周方向に沿ってOリング設置溝381A及び該Oリング設置溝に設置されるOリング382Aを具備している。このような嵌合筒38A内にシリンジ2Aの有する筒状排出部24Aを挿入して嵌合することにより、注射用キット1Aを使用する際に複数の薬剤を混合してシリンジ2A内に導入後、柔軟性容器3Aを容易に分離し得ることとなって好適である。なお、Oリングに代えてシリンジ排出部外面に沿って凸条を設け、合成樹脂の弾力を利用して嵌合させても良い。また、嵌合用の溝をシリンジ排出部に設けOリングや凸条を接続部材側に設置しても良い。そして、シリンジ排出部は接続部材に外嵌する構成としても良い。
【0033】
図4は、本発明の他の実施例にかかる注射用キット1B〜1Dの、柔軟性容器3B〜3Dの構成例を示す概略図である。図4において柔軟性容器3B〜3Dは、2以上の室をシリンジの筒状排出部24B〜24Dとの接続位置から柔軟性容器側へ向けた方向に沿って順に室が設けられていると共に、柔軟性容器3C,3Dについては、当該順次設けられた室から更に、前記接続部位置から柔軟性容器側へ向けた方向と直交する方向に室が設けられている。中でも図4Aや図4Bの様に複数の室が直線状に並んでいる形態を採用すれば、それぞれの室に異なる薬剤を充填する際、複数の室が面して強シールされる辺から複数の薬剤を同時に又は逐次に充填して当該辺を一度のヒートシールで封止できるので充填作業、及び、柔軟性容器の製造が容易となり、特に、図4Aの形態の場合、注射用キットを外装する際、シリンジの筒状排出部24Bの存在しない側の第1弱シール部342Bの直近で折り畳むことができるので外装形態がコンパクトで輸送時の漏れが発生しにくい外装形状となって好適であり、また、図4Cの様に複数の室が縦横に複数列状に並んでいる形態を採用すれば室の数が多い場合で折り畳むことが好ましくない場合であってもコンパクトとなって好適である。
【0034】
図5は、本発明の他の実施例にかかる注射用キット1Eの断面図である。上記注射用キット1とは、シリンジ内に薬剤が収納されていない点で異なる。この様に構成すると予めシリンジと柔軟性容器を一体化させておくことができ、柔軟性容器のみに薬剤を充填すれば充填作業が完了する。薬剤は無菌環境下で充填される場合も多いので、充填作業が大幅に軽減される。
【0035】
図6は、本発明の他の実施例にかかる注射用キット1Fの、シリンジと柔軟性容器の接合部を示す概略断面図である。上記注射用キット1Aとは、シリンジ2Fと柔軟性容器3Fとの接続が螺合によりなされている点で異なる。図6において螺合筒38Fは柔軟性容器3Fを構成する2枚のシート31F,32Fに挟持されて強シール固定される円筒状の接続部材であり、円筒内壁面に、周方向に対してやや傾く方向に沿って螺合用溝を具備している。また、シリンジ2Fの有する筒状排出部24F外周面には、螺合用突起が設けられている。この螺合用突起は注射針を装着するためのものであっても良い。
【0036】
図7は、本発明の他の実施例にかかる注射用キット1Gを折り畳んで包装材4Gにて外装する例を示す概略断面図である。本実施例においてはシリンジ2Gの内部と柔軟性容器3Gの内部との連通を遮断する第二弱シール部342Gが折り畳み線の直近でシリンジ排出部と同じ側となる位置に形成されているため、柔軟性容器3G内に収容される、図示しない薬剤が輸送時に振動しても、第二弱シール部342Gを剥離させようとする力が折り畳み線によって緩和されるため、第二弱シール部342Gが不用意に剥離することが防止される。
【0037】
なお、上述した実施例において、筒状排出部24を含むシリンジ2は注射用に限らず、輸液容器などに薬剤を添加するためのものであっても良いし、柔軟性容器3の形状や大きさ、柔軟性容器3の層構成や成型の有無、収容される薬剤種や薬剤数、柔軟性容器3に設けられる室の配置や数等については本発明の目的を損なわない範囲で適宜選定し得る。また、本発明の注射用キットについての製造方法としても特に限定されるものではない。シリンジと柔軟性容器との接合方法、接合部の位置、大きさ、強シール又は弱シールの接着剤使用の有無、加熱の有無、接着の際の接着条件等についても所望の条件が選定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例にかかる注射用キットの上面図である。
【図2】図1に示す注射用キットのX−X断面図である。
【図3】本発明の他の実施例にかかる注射用キットの、シリンジと柔軟性容器の接合部を示す概略断面図である。
【図4】本発明の他の実施例にかかる注射用キットの、柔軟性容器の構成例を示す概略図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかる注射用キットの断面図である。
【図6】本発明の他の実施例にかかる注射用キットの、シリンジと柔軟性容器の接合部を示す概略断面図である。
【図7】本発明の他の実施例にかかる注射用キットを折り畳んで外装する例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1,1A〜1G 注射用キット
2 シリンジ
231 薬剤
24 筒状排出部
3 柔軟性容器
341 第一弱シール部
342 第二弱シール部
361,371 薬剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に排出部を有するシリンジと、このシリンジの前記排出部に分離可能に接続されてその内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器と、前記柔軟性容器内に収納される複数の薬剤とを具備し、
柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第一弱シール部により柔軟性容器内に収納される前記複数の薬剤が互いに隔離され、且つ、
柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第二弱シール部によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との前記連通が遮断されてなることを特徴とする注射用キット。
【請求項2】
前記シリンジ内にも薬剤が収納されている請求項1記載の注射用キット。
【請求項3】
シリンジ排出部と柔軟性容器との前記分離可能な接続が、剥離可能なヒートシールによりなされ、該ヒートシールを剥離することにより前記シリンジ排出部と柔軟性容器とが互いに分離される請求項1又は2記載の注射用キット。
【請求項4】
シリンジ排出部と柔軟性容器との前記分離可能な接続が、前記柔軟性容器側に設けられた接続部材、又は前記シリンジ排出部側及び前記柔軟性容器側の双方に設けられた接続部材を介してなされ、該接続部材が前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とを嵌合乃至螺合により接続させるものであると共に、該嵌合乃至螺合を解除することにより前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とが互いに分離される請求項1又は2記載の注射用キット。
【請求項5】
シリンジ排出部と柔軟性容器との前記分離可能な接続が、前記シリンジ排出部の内周面及び/又は外周面に周方向に沿って設けられた破断可能な薄肉部を介してなされ、該薄肉部を破断することにより前記シリンジ排出部と前記柔軟性容器とが互いに分離される請求項1又は2記載の注射用キット。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の注射用キットを用いた薬剤入りシリンジの調製方法であって、
先端に排出部を有しプランジャを備えるシリンジと、このシリンジの前記排出部に分離可能に接続されてその内部がシリンジ内部と液密に連通する柔軟性容器と、前記柔軟性容器内に収納される複数の薬剤とを具備し、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第一弱シール部により柔軟性容器内に収納される前記複数の薬剤が互いに隔離され、且つ、柔軟性容器を破壊することのない小さな物理力で破壊可能な前記柔軟性容器内に設けられた第二弱シール部によりシリンジ内部と柔軟性容器内部との前記連通が遮断されてなる注射用キットを用いるものであると共に、以下の(A)〜(D)の各工程、
(A)前記柔軟性容器に物理力を加えて前記第一弱シール部を破壊し、前記複数の薬剤同士の隔離を解除して混合薬剤を得る工程、
(B)前記(A)工程の後、前記柔軟性容器に物理力を加えて前記第二弱シール部を破壊し、シリンジ内部と柔軟性容器内部との連通の遮断を解除してシリンジ内部と柔軟性容器内部とを液密に連通させる工程、
(C)前記(B)工程の後、さらに物理力を加え続けて、及び/又は、前記シリンジのプランジャを後退させて、前記(A)工程にて調製された前記混合薬剤をシリンジ内に導入する工程、
(D)前記(C)工程の後、シリンジと柔軟性容器とを互いに分離する工程、
を有することを特徴とする薬剤入りシリンジの調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−230467(P2006−230467A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45524(P2005−45524)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】