説明

洋上風車設置用船舶およびこれを用いた洋上風車設置方法

【課題】組み立てられた状態の風車を運搬して設置海域にて設置する場合に、簡便な作業で風車を設置することができる洋上風車設置用船舶を提供する。
【解決手段】風車タワー22、ナセル24及び風車翼26が組み立てられた風車20をデッキ2上に搭載し、風車設置海域まで自航または曳航し、デッキ2上に設けられたクレーン6によって風車20を吊り上げて洋上の目標設置位置に設置する洋上風車設置用船舶1であって、外方へ張り出す張出部5を複数有した船型本体3とされ、クレーン6は、隣り合う張出部5の間に形成された凹所側を目標設置位置として風車20を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風車設置用船舶およびこれを用いた洋上風車設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、欧州では、洋上風車建設が盛んに行われており、今後益々その規模が拡大し、洋上における設置工事量が大幅に増大する傾向にある。さらに、風車の設置海域も岸からより遠く、大水深海域での風車設置が計画されており、使用される風車自体も大型化の傾向にある。
【0003】
洋上風車の設置作業は、ジャッキアップ装置及びデッキクレーンを備えた自動昇降台船が用いられる。この自動昇降台船上に、分割または一部接合された風車翼、発電機・増速機を内包したナセル、タワーといった風車パーツや、洋上に風車を設置するために海底から築かれる基礎構造が積込まれる。そして、自動昇降台船を自航または曳航により風車設置海域まで運搬した後、ジャッキアップ装置のジャッキアップ脚を海底へ降ろして船体を海面上へ完全に持ち上げた状態で台船上のデッキクレーンを用いて風車の組立作業が行われる。
【0004】
既存の大半の風車設置用台船では、風車2〜3台分の風車パーツおよび基礎構造を一度に積載できるようになっている。風車パーツおよび基礎構造を集積港にて船積みした後、設置海域へ移動して積載した基数分の風車および基礎構造を設置した後、再び集積港へ戻り、風車の輸送・設置を繰り返している。
【0005】
また、風車の設置海域に自動昇降台船を風車設置作業専用として常駐させ、一方で別の自動昇降台船をパーツ輸送用として用いる場合もある。すなわち、集積港から複数の風車パーツ、基礎構造をパーツ輸送用台船に積載し、常駐している風車設置作業専用台船の隣へ停船し、ジャッキアップした後、設置作業専用台船のデッキクレーンでパーツ輸送用台船上に積載された風車パーツおよび基礎構造を吊り上げ、そのまま設置作業を行う。
【0006】
しかし、上記のような現状の工法では設置工事時間および台船用船コストの観点で洋上での設置工事に莫大なコストが必要となることが見込まれ、その削減、改善が大きな課題となっている。
設置工事時間の問題は、風車の設置海域が岸から現状よりも更に遠くなることから集積港から設置海域までの回航時間が増大すること、設置海域の水深がこれまで以上に深まることで台船をジャッキアップ装置により昇降する時間が増大すること、また使用する風車の大型化により現状使用している機材で一度に輸送できる風車の台数が減ることにより時間的作業効率が下がることが挙げられる。
台船用船コストの問題は、工事量の増大により作業台船需要が増大すること、使用する風車の大型化に伴い台船のサイズ、ジャッキアップ装置やデッキクレーンの容量が大きくなることで台船の船価が増大することが挙げられる。
【0007】
一方、下記特許文献1には、風車の基礎を浮体とし、設置海域まで曳航し、浮体を海中に沈めて着座させることによって洋上風車を設置する方式が開示されている。このように、風車を組み立てた状態で設置海域まで運搬して設置するので、設置現場での組み立て作業が発生しないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−69025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1では、風車を設置する際に、クレーン船によって風車を支持して姿勢を保ちながら浮体を海中に沈める必要があり、困難な作業が伴う。また、曳航船に加えてクレーン船をも手配する必要があるので、コストの低減を図ることが難しい。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、組み立てられた状態の風車を運搬して設置海域にて設置する場合に、簡便な作業で風車を設置することができる洋上風車設置用船舶およびこれを用いた洋上風車設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の洋上風車設置用船舶およびこれを用いた洋上風車設置方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる洋上風車設置用船舶は、タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、下端が海底に固定されるとともに上端に風車が固定される基礎をデッキ上に搭載し、風車設置海域まで自航または曳航し、前記デッキ上に設けられたクレーンによって前記風車または前記基礎を吊り上げて洋上の目標設置位置に設置する洋上風車設置用船舶であって、外方へ張り出す張出部を複数有した船型本体とされ、前記クレーンは、隣り合う前記張出部の間に形成された凹所側を前記目標設置位置として前記風車または前記基礎を設置することを特徴とする。
【0012】
本発明の洋上風車設置用船舶は、タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、基礎をそのまま風車設置海域まで運搬し設置するいわゆる風車一体設置を行う。したがって、風車の設置海域における組み立て作業を省略することができる。
そして、外方へ張り出す張出部を複数有する船型本体とし、これら張出部の間に形成された凹所側を目標設置位置として、風車または基礎をクレーンによって設置することとした。このように、目標設置位置が凹所側に設けられているので、クレーンによって風車または基礎を移動させる距離を短くすることができ、クレーンによる設置作業の短縮化を図ることができる。
【0013】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、前記目標設置位置は、前記クレーンのリーチ範囲内となる前記凹所内に設けられていることを特徴とする。
【0014】
目標設置位置をクレーンのリーチ範囲内となる凹所内に設けることとしたので、クレーンのアウトリーチをさらに短縮することができ、作業性が向上する。
【0015】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、複数台の前記風車及び/又は複数台の前記基礎の前記デッキ上における搭載位置は、前記クレーンを中心として取り囲むように設けられていることを特徴とする。
【0016】
複数台の風車及び/又は複数台の基礎をデッキ上に搭載する際に、クレーンを中心として取り囲むように搭載することとしたので、クレーンリーチ内に複数台の風車及び/又は基礎が搭載されることとなり、作業性が向上する。
【0017】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、前記風車及び/又は前記基礎の前記デッキ上における搭載位置は、前記クレーンと前記凹所の間に設けられていることを特徴とする。
【0018】
風車や基礎のデッキ上における搭載位置を、クレーンと凹所の間とすることにより、風車や基礎を目標設置位置に近い位置で搭載することができる。これにより、クレーンによる風車または基礎の移動距離を短くできるので、クレーンによる設置作業の短縮化を更に図ることができる。
【0019】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、各前記張出部には、前記船型本体を海底から持ち上げて支持するジャッキアップ装置が設けられていることを特徴とする。
【0020】
各張出部にジャッキアップ装置を設けることとした。これにより、風車または基礎の設置作業時に、船舶を安定的に位置決めすることができるので、作業効率が向上する。
【0021】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、船型本体の下方には、複数のコラムを介してロワーハルが設けられていることを特徴とする。
【0022】
船型本体の下方に複数のコラムを介してロワーハルを設けることとした。ロワーハルは所定の浮力を与えるだけの大きさで水中に位置し、バラストの出し入れによって重心を下げ所定の復原力を与える。すなわち、セミサブ(半没水)型の船舶とされている。また、ロワーハルはコラムによって船型本体から離間された状態で船型本体の下方に設けられているのでバラスト張水などにより重心を下げ、コラムは所定の復原力が得られる程度に展開されかつ直径を細くすることで、波浪による船体の動揺を小さく抑えかつ所定の復原性を得ることができる。
なお、風車の設置時には、DPS(Dynamic Positioning System)によって船体の位置および姿勢を固定することが好ましい。このようにすれば、船舶を固定するためのジャッキアップおよびジャッキダウンの工程が不要となるので、より作業時間を短縮することができる。
【0023】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、前記船型本体は、平面視した場合に、略正方形の四隅から外方に前記張出部が張り出した形状とされ、前後左右方向に対称とされた形状とされていることを特徴とする。
【0024】
船型本体を、正方形を基本とした前後左右対称形状とし、その四隅から張出部が張り出す形状とした。これにより、隣り合う張出部の間の4つの側面に面する4カ所に風車または基礎の搭載位置を設定することができ、4台を同時に運搬して設置することができる。
【0025】
さらに、本発明の洋上風車設置用船舶では、前記凹所が形成された位置とは別の位置に、流体抵抗を低減する壁部が隣り合う前記張出部の間に亘って設けられていることを特徴とする。
【0026】
流体抵抗を低減する壁部が隣り合う張出部の間に亘って設けられているので、自航または曳航するときの流体抵抗を低減することができる。このような壁部としては、張出部間を直線状に結んだ壁部としても良いし、あるいは、張出部間に突出部を有する船首形状とした壁部としても良い。
【0027】
また、本発明の洋上風車設置方法では、タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、下端が海底に固定されるとともに上端に風車が固定される基礎をデッキ上に搭載し、風車設置海域まで自航または曳航し、前記デッキ上に設けられたクレーンによって前記風車または前記基礎を吊り上げて洋上の目標設置位置に設置する洋上風車設置用船舶を用いた洋上風車設置方法であって、前記洋上設置用船舶は、外方へ張り出す張出部を複数有した船型本体とされ、前記クレーンは、隣り合う前記張出部の間に形成された凹所側を前記目標設置位置として前記風車または前記基礎を設置することを特徴とする。
【0028】
本発明の洋上風車設置方法は、タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、基礎をそのまま風車設置海域まで運搬し設置するいわゆる風車一体設置を行う。したがって、風車の設置海域における組み立て作業を省略することができる。
そして、外方へ張り出す張出部を複数有する船型本体とし、これら張出部の間に形成された凹所を目標設置位置として、風車または基礎をクレーンによって設置することとした。このように、目標設置位置が凹所側に設けられているので、クレーンによって風車または基礎を移動させる距離を短くすることができ、クレーンによる設置作業の短縮化を図ることができる。
【0029】
さらに、本発明の洋上風車設置方法は、前記風車を正面視した場合の各前記風車翼の角度位置が、隣り合う前記風車の前記風車翼の角度位置と異なるように各前記風車翼を固定して複数台の前記風車を前記デッキ上に搭載することを特徴とする。
【0030】
風車を正面視した場合の風車翼の角度(アジマス角)位置を、隣り合う風車ごとに異なるようにした。これにより、隣り合う風車間で風車翼が接触しないようにすることができる。
例えば、3枚の風車翼を備えた風車の場合、正面視してY形状に各風車翼を位置させた角度位置を基準位置とし、隣り合う風車の風車翼は基準位置から5〜10°程度ずらされた角度位置とされる。このように角度位置をずらすことで、例えばクレーンを取り囲むように3台の風車を搭載する場合に効果的である。
【発明の効果】
【0031】
外方へ張り出す張出部を複数有する船型本体とし、これら張出部の間に形成された凹所側を目標設置位置として、風車または基礎をクレーンによって設置することとしたので、クレーンによって風車または基礎を移動させる距離を短くすることができ、クレーンによる設置作業の短縮化を図ることができる。これにより、工事期間の短縮かおよび工事費用の低減が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる洋上風車設置用船舶であり、風車を搭載した場合を示した斜視図である。
【図2】風車搭載位置と風車設置位置の関係を概略的に示した平面図である。
【図3】図1の洋上風車設置用船舶が基礎構造物を搭載した場合を示した斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる洋上風車設置用船舶であり、風車を搭載した場合を示した斜視図である。
【図5】図4の洋上風車設置用船舶を斜め下方から見た斜視図である。
【図6】風車の設置手順の変形例を示した平面図である。
【図7】船型本体の形状の変形例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図3を用いて説明する。
図1には、4台の風車を搭載した洋上風車設置用船舶1(以下、単に「船舶1」という。)が示されている。
船舶1は、上面にデッキ2を有する船型本体3と、デッキ2の略中央に立設された主タワー4と、この主タワー4の上端に設置されたクレーン6とを備えている。
【0034】
船舶1の船型本体3は、図2のように平面視した場合に、略正方形とされた四隅から外方に張り出した張出部5が設けられている。すなわち、船型本体3は、正方形に対して、その対角線上に延在するX形状(十文字形状)が重ね合わされた外形状となっており、前後左右対称な形状とされている。各張出部5の間には、船型本体3の中央側(クレーン6側)に凹むように船型本体3の外形状を形成する側面縁部13が設けられており、これにより、隣り合う張出部5間には凹所11が形成されている。
各張出部5には、図1に示すように、ジャッキアップ装置7が設けられており、張出部5を上下方向に貫通するジャッキアップ脚9が上下動させられるようになっている。風車を設置する作業時には、ジャッキアップ脚9の下端が海底に着床し、船舶1全体を持ち上げて足場を固定するようになっている。
【0035】
デッキ2上には、複数台(本実施形態では4台)の風車20が搭載されるようになっている。風車20は、風車タワー22と、増速機や発電機が収容されるナセル24と、風力を受けて回転する風車翼26とを備えている。これら風車タワー22、ナセル24及び風車翼26は、洋上輸送前の陸上にて予め組み立てられた上でデッキ2上に搭載されている。搭載時には、隣り合う風車20の風車翼26同士が干渉しないように、所定のアジマス角にて風車翼26が固定されている。具体的には、図1のように4台の風車20を搭載する場合には、同図において左側に位置した風車20のように、3枚とされた風車翼26が正面視してY形状となるようにアジマス角を設定して各風車翼26を固定し、これと隣り合う同図において右側に位置した風車20についてはY形状を上下反転させた逆Y形状となるように各風車翼26を固定する。すなわち、クレーン6を挟んで一対の風車20はY形状となるように各風車翼26が固定され、他対の風車20は逆Y形状となるように各風車翼26が固定される。
なお、クレーン6を取り囲むように3台の風車20を設置する場合には、図1で示したようにY形状と逆Y形状の組合せとする必要は無く、一の風車翼26をY形状に設定した場合には、隣り合う他の風車20の風車翼26はY形状から所定角度(例えば5〜10°)ずらした角度位置にて固定するようにすればよい。
【0036】
図2には、各風車20のデッキ2上における搭載位置が示されている。同図に示すように、各風車20は、クレーン6を中心として取り囲むように設けられ、クレーン6を支持する主タワー4と凹所11との間、具体的には、側面縁部13が主タワー4側に最も近づいた位置(隣り合う張出部5間の略中央位置)の近傍に設けられている。本実施形態では、デッキ2が前後左右対称形状となっているので、主タワー4の周囲の4カ所に風車の搭載位置が設けられている。
【0037】
図1に示すように、クレーン6は、デッキ2上に搭載された風車20を吊り上げて、風車20の目標設置位置となる基礎30上まで風車20を搬送できるようになっている。クレーン6は、ブーム6aと、フックを備えた吊り具6bと、吊り具6bからブーム6a先端を通過して巻上ドラム(図示せず)へと導かれる巻上ワイヤ6cとを備えている。クレーン6は、ブーム6aを起伏させることによって吊り具6bをクレーン6中心から半径方向に接近離間させることができるようになっており、また巻上ワイヤ6cを巻上ドラムで巻上げまたは繰り出すことによって、吊り具6bを上下させることができ、また、クレーン6を中心軸線回りに回転させることによって吊り具6bを旋回させることができる。
クレーン6が風車20を吊り上げる際には、風車20下端および中間位置に掛け回された吊りワイヤ36を吊り具6bのフックに引っ掛けた状態で吊り上げるようになっている。
【0038】
風車20の目標設置位置となる基礎30は、図2に示すように、クレーン6から見て凹所11側に設けられている。すなわち、張出部5間に目標設置位置を挟み込むような状態で船舶1の位置が固定され、風車20の設置作業が行われる。
基礎30は、海底に設置されて風車タワー22の下端を固定するものであり、例えば図1に示すように、金属材料で構成された骨組み構造とされている。
風車タワー22の両側方には、風車ガイド32が立設され、風車20の転倒を防止している。
【0039】
主タワー4の中間位置には、操舵装置を備えた船橋40が設けられている。この船橋40の下方位置には、船員等の居住区域が設けられている。
【0040】
また、船舶1は、基礎30を輸送する際にも利用することができ、図3に示すように、基礎30を風車20と同様に搭載できる。なお、基礎30の大きさによっては、図3に示すように、基礎30の下端を設置するための延長部14を張出部5間に設けることが好ましい。
【0041】
次に、上記構成の船舶1を用いた風車20の洋上における設置方法について説明する。
風車20は、洋上輸送前の陸上にて、風車タワー20、ナセル24及び風車翼26が予め組み立てられる。そして、陸側のクレーンまたは船舶1のクレーン6によって、船舶1のデッキ2上に搭載される。搭載される位置は、図2に示したように、側面縁部13が主タワー4側に最も近づいた位置の近傍である。本実施形態では、4台の風車20が同時に搭載される。
風車20を搭載した後、各風車20の風車翼26が干渉しないように風車翼26のアジマス角を固定する。
その後、図示しない曳航船によって船舶1は風車設置海域まで曳航される。なお、船舶1に推進装置を設け、自航するようにしてもよい。
風車設置海域に到達すると、予め設置されている基礎30に接近し、図2に示すように、基礎30がクレーン6から見て凹所11側に位置するように、より具体的にはクレーン6のリーチ範囲内となる凹所11内に位置するように、隣り合う張出部5間に基礎30を挟み込む位置で停船する。この状態で、設置する予定の風車20に対向するように、目標設置位置が位置されることになる。
停船後、ジャッキアップ装置7によってジャッキアップ脚9を海底に降ろし、ジャッキアップ脚9の下端を海底に着床させた後に、船舶1全体を持ち上げる。これにより、風車設置作業のための足場を固定する。
そして、クレーン6によって、図2の矢印Aで示すように、風車20を、その搭載位置から基礎30上へと移動させる。このように、風車20の目標設置位置である基礎30がクレーン6から見て凹所11側に位置させているので、クレーン6によって風車20を吊り上げた後の移動距離を短くすることができ、クレーン6で吊った後に少し外側へブーム6aを振り出すだけで目標設置位置へと風車20を搬送することができるので、極めて簡便かつ短時間で設置作業を行うことができる。
風車20を基礎30上へと搬送した後は、所定の固定作業等が行われ、風車20が基礎30上に確実に固定される。
【0042】
次の風車20を設置する際には、ジャッキアップ装置7によってジャッキアップ脚9を海底から引き上げ(ジャッキダウン)、次の目標設置位置まで船舶1を移動させる。そして、上述したのと同様に、設置する予定の風車20に対向するように、次の目標設置位置に位置する基礎30に対向させて停船させ、ジャッキアップを行い、設置作業を行う。
この作業工程を順次繰り返して、船舶1に搭載された4台の風車の設置作業が行われる。
【0043】
なお、図3に示した基礎30を搭載した船舶1の設置作業についても、上述した風車の場合と同様に、目標位置まで移動し、ジャッキアップした後に、設置作業が行われる。
【0044】
以上の通り、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
船舶1は、風車タワー22、ナセル24及び風車翼26が組み立てられた風車20、及び/又は、基礎30をそのまま風車設置海域まで運搬し設置するいわゆる風車一体設置を行うので、設置海域における組み立て作業を省略することができる。
そして、外方へ張り出す張出部5を複数有する船型本体3とし、これら張出部5の間に形成された凹所11側(より具体的にはクレーン6のリーチ範囲内となる凹所11内)を目標設置位置として、風車20または基礎30をクレーン6によって設置することとしたので、クレーン6によって風車20または基礎30を移動させる距離を短くすることができ、クレーン6による設置作業の短縮化を図ることができる。
また、船型本体3を前後左右対称形状として、4つの側面に面する4カ所に風車20または基礎30の搭載位置を設定して、4台を同時に運搬して設置することとした。これにより、多くの風車を一度に運搬して設置することができるので、風車の設置コストを下げることができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図4及び図5を用いて説明する。
第1実施形態に示した船舶1は、ジャッキアップ装置7を備えたいわゆるジャッキアップ船であるが、本実施形態の船舶1Bは、セミサブ(半没水)型とされている点が相違する。それ以外の構成は、第1実施形態と同様なので、共通する構成については同一符号を付しその説明を省略する。
【0046】
船舶1Bは、船型本体3の下面から下方に向かって伸びる複数のコラム52を備えており、各コラム52の下端にロワーハル54が固定されている。ロワーハル54は、船型本体3の対角線方向に延在するX形状(十文字形状)に倣って、略直交する2つの円筒体によって形成されたX形状(十文字形状)となっている。ロワーハル54は所定の浮力を与えるだけの大きさで水中に位置し、ロワーハル54内に海水等のバラストの出し入れによって重心を下げ所定の復原力を与える。このバラストの調整によって、喫水は、おおよそコラム52の中間位置に保たれる。
本実施形態では、ロワーハル54がコラム52によって船型本体3から離間された状態で船型本体3の下方に設けられているので、バラスト張水などにより重心を下げ、しかもコラム52は所定の復原力が得られる程度に展開されかつ直径を細くすることで、波浪による船体の動揺を小さく抑えかつ所定の復原性を得ることができるようになっている。
船型本体3の下面には、複数のプロペラ推進装置58が設けられている。風車20および基礎30の設置作業時には、これらプロペラ推進装置58を制御するDPS(Dynamic Positioning System)によって、船体の位置および姿勢を固定することができるようになっている。すなわち、本実施形態の船舶1Bは、第1実施形態のようにジャッキアップおよびジャッキダウンを行わずに船体の位置および姿勢を固定することができるので、作業時間を更に短縮することができる。
なお、風車20及び基礎30を洋上の設置海域へと輸送し設置する工程は、上述した第1実施形態と同様なのでその説明を省略する。
【0047】
なお、上述した各実施形態では、設置する予定の風車20に対向するように、目標設置位置(基礎30の位置)を凹所11側に位置させて停船することとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図6に示すように、目標設置位置(基礎30の位置)に対向する位置まで、他の搭載位置にある風車20を移動させ(矢印B参照)、その後、風車20を目標設置位置まで移動させる(矢印A)こととしても良い。他の搭載位置から目標設置位置に対向する搭載位置まで移動させる作業(矢印B参照)は、単にクレーン6を旋回させるだけで良いので、それほど作業時間の増大にはならない。
【0048】
また、図7に示すように、船型本体3の流体抵抗を低減するように、隣り合う張出部5の間に亘って壁部を設けても良い。具体的には、突出部を有する船首形状となるような船首壁部61や、張出部間に連続して直線状に連結して船側形状を成す船側壁部63を構成する。なお、これら船首壁部61や船側壁部63は、必要に応じて何れか一方を用いても良い。
船首壁部61や船側壁部63が設けられた位置では、凹所11がなくなるので、この位置では風車20や基礎30の設置作業を行うことができない。このような場合には、凹所11が形成された搭載位置まで風車20を移動させ(矢印B参照)、その後、設置作業が行われる。
【符号の説明】
【0049】
1,1B 船舶(洋上風車設置用船舶)
2 デッキ
3 船型本体
5 張出部
6 クレーン
7 ジャッキアップ装置
9 ジャッキアップ脚
11 凹所
20 風車
22 風車タワー
24 ナセル
26 風車翼
30 基礎
52 コラム
54 ロワーハル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、下端が海底に固定されるとともに上端に風車が固定される基礎をデッキ上に搭載し、風車設置海域まで自航または曳航し、前記デッキ上に設けられたクレーンによって前記風車または前記基礎を吊り上げて洋上の目標設置位置に設置する洋上風車設置用船舶であって、
外方へ張り出す張出部を複数有した船型本体とされ、
前記クレーンは、隣り合う前記張出部の間に形成された凹所側を前記目標設置位置として前記風車または前記基礎を設置することを特徴とする洋上風車設置用船舶。
【請求項2】
前記目標設置位置は、前記クレーンのリーチ範囲内となる前記凹所内に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項3】
複数台の前記風車及び/又は複数台の前記基礎の前記デッキ上における搭載位置は、前記クレーンを中心として取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項4】
前記搭載位置は、前記クレーンと前記凹所の間に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項5】
各前記張出部には、前記船型本体を海底から持ち上げて支持するジャッキアップ装置が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項6】
船型本体の下方には、複数のコラムを介してロワーハルが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項7】
前記船型本体は、平面視した場合に、略正方形の四隅から外方に前記張出部が張り出した形状とされ、前後左右方向に対称とされた形状とされていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項8】
前記凹所が形成された位置とは別の位置に、流体抵抗を低減する壁部が隣り合う前記張出部の間に亘って設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の洋上風車設置用船舶。
【請求項9】
タワー、ナセル及び風車翼が組み立てられた風車、及び/又は、下端が海底に固定されるとともに上端に風車が固定される基礎をデッキ上に搭載し、風車設置海域まで自航または曳航し、前記デッキ上に設けられたクレーンによって前記風車または前記基礎を吊り上げて洋上の目標設置位置に設置する洋上風車設置用船舶を用いた洋上風車設置方法であって、
前記洋上設置用船舶は、外方へ張り出す張出部を複数有した船型本体とされ、
前記クレーンは、隣り合う前記張出部の間に形成された凹所側を前記目標設置位置として前記風車または前記基礎を設置することを特徴とする洋上風車設置用船舶を用いた洋上風車設置方法。
【請求項10】
前記風車を正面視した場合の各前記風車翼の角度位置が、隣り合う前記風車の前記風車翼の角度位置と異なるように各前記風車翼を固定して複数台の前記風車を前記デッキ上に搭載することを特徴とする請求項9に記載の洋上風車設置用船舶を用いた洋上風車設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112370(P2012−112370A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274503(P2010−274503)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】