説明

洗浄すすぎ方法

【課題】洗浄性、すすぎ性に優れた、物品の洗浄すすぎ方法を提供する。
【解決手段】汚染物質が付着した物品を、芳香族炭化水素を含有する炭化水素系溶剤に接触させる洗浄工程と、含フッ素エーテルに接触させるすすぎ工程を有する物品の洗浄すすぎ方法であって、含フッ素エーテルが式1で表される化合物であることを特徴とする物品の洗浄すすぎ方法。
−O−R ・・・式1
ただし、R、Rは、各々独立に含フッ素アルキル基を示す。RおよびRに含まれるフッ素原子の数はそれぞれ1以上であり、かつRおよびRに含まれる炭素原子の数の合計は4〜8である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板、樹脂成型部品等の物品に付着する油脂類、プリント基板等のフラックス、塵埃などの汚れを除去するために用いられる不燃性溶剤を用いた洗浄すすぎ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機械工業、光学機器工業、電気電子工業、およびプラスチック加工業等における製造加工工程等で付着した油、フラックス、塵埃、ワックス等を除去するための精密洗浄に用いるフッ素系溶剤としては、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225という。)等のハイドロクロロフルオロカーボン(以下、HCFCという。)が広く使われていた。
【0003】
しかし、HCFCはオゾン破壊係数があるため、先進国においては、2020年に全廃されることになっている。HCFCの代替となる溶剤であって、分子中に塩素を含まずオゾン破壊係数がゼロであるフッ素系溶剤としては、ハイドロフルオロカーボン(以下、HFCという。)、ハイドロフルオロエーテル(以下、HFEという。)等が知られている。
【0004】
例えば、約20〜120℃の沸点を有するHFEを用いて印刷回路板や金属等からなる物品を洗浄する方法が知られている(特許文献1参照。)。しかし、この方法においては、HFEの汚染物質に対する溶解力が十分ではないため、汚染物質を十分に除去できない場合が多い。また、脂肪族炭化水素等を用いて物品を洗浄する方法が知られている。
【0005】
しかし、これらの炭化水素系溶剤はオゾン破壊係数がゼロであり、汚染物質の除去効率が高いものの、乾燥しにくいため、洗浄後の物品を乾燥させるために多大なエネルギーを必要とする問題があった。
【0006】
この問題を解決する方法として、炭化水素系溶剤で洗浄した後、HFEですすぐ方法(特許文献2参照。)が提案されている。しかし、この文献にはHFEについての例示はない。
【0007】
しかし、上記方法においても、HFEの種類によっては洗浄に用いる炭化水素系溶剤との相溶性が低く、HFEで被洗浄物品をすすいでも炭化水素系溶剤を十分に除去できず、被洗浄物品の表面に炭化水素系溶剤が残存してしみが発生する等のすすぎ不良が発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−271692号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−202209号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来は炭化水素系溶剤との相溶性が十分ではなく、すすぎに利用することが困難であったHFEを用いた物品の洗浄すすぎ方法であって、洗浄性能およびすすぎ性能に優れる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、汚染物質が付着した物品を、芳香族炭化水素を含有する炭化水素系溶剤に接触させる洗浄工程と、含フッ素エーテルに接触させるすすぎ工程を有する物品の洗浄すすぎ方法であって、含フッ素エーテルが式1で表される化合物である物品の洗浄すすぎ方法を提供する。
【0011】
−O−R ・・・式1
ただし、R、Rは、各々独立に含フッ素アルキル基を示す。RおよびRに含まれるフッ素原子の数はそれぞれ1以上であり、かつRおよびRに含まれる炭素原子の数の合計は4〜8である。
【0012】
本発明によれば、洗浄工程において炭化水素系溶剤として芳香族炭化水素を含むものを用いることにより、HFEを用いたすすぎ工程において優れたすすぎ性能を発現させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来はすすぎに利用することが困難であった式1で示される化合物をすすぎ工程に用いることができ、優れた洗浄性能およびすすぎ性能を発現させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における含フッ素エーテルは、式1で表される化合物である。RおよびRの各々は、1以上、好ましくは、2〜10のフッ素原子を有し、かつRおよびRに含まれる炭素数の合計は4〜8である。本発明における含フッ素エーテルは、RまたはRのいずれか一方にフッ素原子を有するHFEに比べ、熱安定性の点で優れるものである。
【0015】
式1で表される含フッ素エーテルとしては、具体的には、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CHFCF−O−CHCF、以下、HFE347という。)、1,1,2,2−テトラフルロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(CHFCF−O−CHCFCHF、以
下、HFE458という。)等が挙げられる。本発明において、含フッ素エーテルは1種で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
また、表面を炭化水素系溶剤で被覆された被洗浄物品の表面を含フッ素エーテルに置き換え、乾燥させることから、含フッ素エーテルとしては沸点が30〜100℃であるものを用いるのが好ましく、RおよびRに含まれる炭素原子の数の合計は4〜6であるものがより好ましい。
【0017】
本発明において洗浄工程で用いられる炭化水素系溶剤は、芳香族炭化水素またはグリコールエーテル類を含有する。
【0018】
この芳香族炭化水素としては、洗浄力が高い、引火点が高い、および式1で表される含フッ素エーテルとの相溶性が高いという観点から、特には炭素数が7〜10であるものが好ましく、さらには炭素数が9または10であるものが好ましい。具体的にはトルエン、キシレン、メシチレン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン等が挙げられる。なかでも式1で表される化合物と適度な相溶性を有することから、メチルエチルベンゼンが好ましい。
【0019】
また、グリコールエーテル類の具体例としては、式1で表される含フッ素エーテルとの相溶性が高いという観点から、ジエチレングリコールのアルキルエーテル類やジプロピレングリコールのアルキルエーテル類が好ましい。具体的には、以下の化合物が挙げられる。
【0020】
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコール系エーテル。
【0021】
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル等のジプロピレングリコール系エーテル。
【0022】
炭化水素系溶剤における、芳香族炭化水素の含有割合およびグリコールエーテル類の含有割合の合計は、炭化水素系溶剤と式1で表される含フッ素エーテルとの相溶性を高め、すすぎを短時間で効率よく行うという観点から、10質量%以上であるのが好ましくさらには30質量%以上であるのが好ましい。
【0023】
本発明における炭化水素系溶剤は芳香族炭化水素またはグリコールエーテル類の他に、さらに脂肪族炭化水素を含んでいてもよい。脂肪族炭化水素は安価で洗浄力が高い上に、他の炭化水素系溶剤と比べ熱安定性が高いという利点を有する。
【0024】
脂肪族炭化水素としては、炭素数が8以上である、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素が好ましく、具体的には、n−オクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、灯油、ミネラルスピリット等が挙げられる。
【0025】
なお、通常、物品の洗浄は30〜100℃の加温下で行われるが、炭化水素系溶剤の沸点は洗浄温度より高いことが好ましいことから、100℃以上、特には150℃以上であるのが好ましい。
【0026】
また、洗浄工程およびすすぎ工程から炭化水素系溶剤および含フッ素エーテルを回収する際に、効率よく蒸留分離して再生するという観点から、炭化水素系溶剤と含フッ素エーテルの沸点の差が50℃以上となるように含フッ素エーテルと炭化水素系溶剤との組合せを選ぶのが好ましい。
【0027】
すすぎ工程で用いる含フッ素エーテルと、洗浄工程で用いる炭化水素系溶剤の好ましい組合せの具体例を挙げると、含フッ素エーテルがHFE347またはHFE458である場合は、炭化水素系溶剤は、メチルエチルベンゼン等の炭素数が9の芳香族炭化水素、炭素数が9の芳香族炭化水素とジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルとの混合物、n−デカンとジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルの混合物、n−ドデカンとn−ウンデカンとジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルとの混合物等が挙げられる。
【0028】
また、本発明における炭化水素系溶剤は、必要に応じてアルコール類、含窒素有機物、および有機ケイ素化合物より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0029】
アルコール類:2−エチルブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、シクロヘキサノール。
【0030】
含窒素有機物:N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン。
【0031】
有機ケイ素化合物:ジメチルポリシロキサン、シクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン。
【0032】
また、本発明においては、すすぎ助剤を含有する含フッ素エーテルを用いてすすぎ工程を行ってもよい。すすぎ助剤としては、炭化水素類、低級アルコール類およびケトン類等を用いることができる。すすぎ助剤の混合割合は、含フッ素エーテルとすすぎ助剤の合計量に対して20質量%未満であるのが好ましく、10質量%未満である場合は、含フッ素エーテルが不燃性となる場合が多いのでより好ましい。
【0033】
含フッ素エーテルは蒸留して再使用するため、すすぎ助剤の回収効率を高めるためには、含フッ素エーテルと同様、沸点が30〜100℃であるものが好ましい。さらに、含フッ素エーテルとすすぎ助剤からなる混合溶液が共沸組成物または共沸様組成物である場合は、蒸留後にすすぎ助剤の添加量の調整が不要となる上、すすぎ工程の後に、含フッ素エーテルとすすぎ助剤との混合物を用いて、さらに蒸気洗浄を行うことができるためさらに好ましい。
【0034】
ここで、すすぎ助剤としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0035】
炭化水素類:n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン。
【0036】
低級アルコール類:メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール。
【0037】
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン。
【0038】
以下に、本発明の汚染物質が付着した物品の洗浄すすぎ方法を、具体的な手順にしたがい説明する。
【0039】
まず初めに、汚染物質が付着した物品に炭化水素系溶剤を接触させる。物品と炭化水素系溶剤との接触方法は、物品を炭化水素系溶剤中に浸漬する方法、物品に炭化水素系溶剤をスプレー式に吹き付ける方法等、任意の方法により行うことができる。
【0040】
物品と炭化水素系溶剤とを接触させるときの温度は、汚染物質の除去促進のためには、炭化水素系溶剤の引火点のない範囲で、やや加温することが好ましい。具体的には、炭化水素系溶剤の引火点より10℃以上低い温度の浴に物品を浸漬させるのが好ましい。また、浸漬による接触方法においては、汚染物質の溶解除去を促進するために、超音波振動、撹拌、揺動、ブラッシング等の機械的な力を付与する手段を併用してもよい。物品と炭化水素系溶剤との接触時間は、汚染物質が所望の程度まで除去されるのに必要な時間をとればよい。
【0041】
次に、炭化水素系溶剤と接触させて洗浄した被洗浄物品を含フッ素エーテルからなるすすぎ液と接触させてすすぐ。物品とすすぎ液との接触方法も、被洗浄物品をすすぎ液中に浸漬する方法、被洗浄物品にすすぎ液をスプレー式に吹き付ける方法、被洗浄物品をすすぎ液の蒸気と接触させることにより洗浄する方法などにより行うことができる。
【0042】
また、すすぎの効率を高めるためには、同一のすすぎ方法を繰り返したり、異なるすすぎ方法を組み合せて行ってもよい。特に、浸漬する方法または吹き付ける方法と、蒸気と接触させる方法とを組み合せるとすすぎの効率が高くなる。この場合、すすぎ液中に被洗浄物品を浸漬、またはスプレー式に吹き付けした後、蒸気にさらしてすすぐのが好ましい。
【0043】
また、被洗浄物品をすすぎ液に浸漬した後、蒸気に接触させてすすぐ場合は、蒸気と接触させる直前のすすぎ液の温度を含フッ素エーテルの沸点より10℃以上低い温度にすると、すすぎの効率を高めることができることから好ましい。これは、被洗浄物品が含フッ素エーテルの沸点にまで温まる間に、被洗浄物品の表面で含フッ素エーテルの凝縮が続くためである。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例および比較例を説明する。例1、2、4〜8、10〜14、16〜20、22〜24は実施例、例3、9、15および21は比較例である。
【0045】
[例1〜6]
HFE347(沸点56℃)、またはHFE347とエタノールの共沸組成物(HFE347/エタノール=94.5/5.5(質量基準)、沸点54℃)と、表1に記載の炭化水素系溶剤との混合溶液について、該混合溶液が2相に相分離しない、炭化水素系溶剤の最大の含有割合を測定した。上記炭化水素系溶剤の最大の含有割合は、25℃のHFE100gに炭化水素系溶剤を相分離するまで加えることにより測定した。
【0046】
測定結果を表1に示す。表1の「測定結果」において、◎:上記炭化水素系溶剤の最大の含有割合が50%以上であったもの、○:上記炭化水素系溶剤の最大の含有割合が30〜50%であったもの、×:上記炭化水素系溶剤の最大の含有割合が30%未満であったものを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
[例7〜12]
HFE458(沸点93℃)、またはHFE458とエタノールの共沸組成物(HFE458/エタノール=71.0/29.0(質量基準)、沸点74℃)、と表2に記載の炭化水素系溶剤との混合溶液について、例1〜6と同様にして該混合溶液が2相に相分離しない、炭化水素系溶剤の最大の含有割合を測定した。測定結果を表2に示す。表2の「測定結果」における◎、○、×は表1と同じ意味を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
[例13〜18]
50mm×50mmに切断した100メッシュの金網を、表1に記載の炭化水素系溶剤に1分間浸漬し、次いで、室温にてHFE347、またはHFE347とエタノールの共沸組成物中に3分間浸漬させた後、引き上げた後の金網の外観を観察した。評価結果を表3に示す。表3において、◎:シミなし、○:わずかにシミあり、×:シミあり、を示す。
【0051】
【表3】

【0052】
[例19〜24]
50mm×50mmに切断した100メッシュの金網を、表2に記載の炭化水素系溶剤に1分間浸漬し、次いで、室温にてHFE458、またはHFE458とエタノールの共沸組成物中に3分間浸漬させた後、引き上げた後の金網の外観を観察した。評価結果を表3に示す。表3において、◎:シミなし、○:わずかにシミあり、×:シミあり、を示す。
【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質が付着した物品を、芳香族炭化水素を含有する炭化水素系溶剤に接触させる洗浄工程と、含フッ素エーテルに接触させるすすぎ工程を有する物品の洗浄すすぎ方法であって、含フッ素エーテルが式1で表される化合物であることを特徴とする物品の洗浄すすぎ方法。
−O−R ・・・式1
ただし、R、Rは、各々独立に含フッ素アルキル基を示す。RおよびRに含まれるフッ素原子の数はそれぞれ1以上であり、かつRおよびRに含まれる炭素原子の数の合計は4〜8である。
【請求項2】
含フッ素エーテルが、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、または1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルである請求項1に記載の洗浄すすぎ方法。
【請求項3】
炭化水素系溶剤が、芳香族炭化水素としてメチルエチルベンゼンを含有する請求項1または2に記載の洗浄すすぎ方法。
【請求項4】
炭化水素系溶剤がさらに脂肪族炭化水素を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の洗浄すすぎ方法。
【請求項5】
脂肪族炭化水素が、炭素数が8以上である、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素である請求項4に記載の洗浄すすぎ方法。

【公開番号】特開2010−242097(P2010−242097A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158628(P2010−158628)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【分割の表示】特願2005−511045(P2005−511045)の分割
【原出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】