説明

洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置

【課題】 高洗浄性、良好な乾燥性、非引火性を維持するための洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置の提供。
【解決手段】 20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a1)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)とを含有する洗浄剤組成を、洗浄工程における洗浄剤の沸点変化を測定することにより検知し、補給液の給液により洗浄剤組成を調整する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類を洗浄するのに好適な非塩素系フッ素化合物を含有する洗浄剤組成を調整するための方法、装置及び洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類、例えば切削油、プレス油、引き抜き油、熱処理油、防錆油、潤滑油等、または、グリース類、ワックス類等が使用されるが、これらは汚れとして最終的に除去する必要があり、溶剤による除去が一般に行われている。
【0003】
また、電子回路の接合方法としてはハンダ付けが最も一般的に行われているが、ハンダ付けすべき金属表面の酸化物の除去清浄化、再酸化防止、ハンダ濡れ性の改良の目的で、フラックスでハンダ付け面を予め処理することが通常行われている。このフラックス残渣は金属の腐食や絶縁性の低下の原因となるため、ハンダ付け終了後、十分に除去する必要がある。
【0004】
これらの洗浄、除去には、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下CFC113という)やCFC113とアルコールなどを混合した溶剤で洗浄していたが、オゾン層破壊等の地球環境汚染問題が指摘され、日本では1995年末にその生産が全廃された。このCFC113の代替品として、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンと1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの混合物(以下HCFC225という)等のハイドロクロロフルオロカーボンが提案されているが、これらもオゾン層破壊能があるため、日本では2020年にその使用が禁止される予定である。
【0005】
さらに、近年では塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類(以下HFCという)やハイドロフルオロエーテル類(以下HFEという)等のオゾン層破壊能が全くなく、不燃性のフッ素系溶剤が提案されているが、塩素原子を含まないために溶解能が低く単独では洗浄剤として使用できないので、特許文献1、特許文献2および特許文献3等に、HFCやHFEに可燃性溶剤を組み合わせた洗浄剤の技術が開示されている。
【0006】
この洗浄剤は、CFC113やHCFC225の様な単独成分または共沸組成の洗浄剤とは異なり、揮発性のHFCやHFEと、高沸点溶剤の混合物で非共沸組成の洗浄剤である。よって、この洗浄剤を連続して使用している場合、HFCやHFEが蒸発し洗浄剤中の可燃性溶剤の割合が高くなることにより、洗浄性や乾燥性の悪化、引火点の出現等の問題が起こるため、HFCやHFEと可燃性溶剤との組成比について適切に管理する必要があるが、これまでは有効に液管理をする方法がなかった。
【0007】
また、従来のHCFCにおける液管理で使用されていた物性によっては、混入した汚れ成分と洗浄剤の組成変動が物性に与える影響が密接に相関し、汚れ成分濃度の影響を受けて洗浄剤の組成変動を検知することができない場合がある。また、特許文献4に、低分子シロキサンとフルオロカーボンの組成変動の管理について記載されているが、Si−O結合を持つ低分子シロキサンを主成分とするすすぎ剤において、組成制御する方法が開示されているが各成分を個別に供給するため複数センサーを必要とする複雑な給液機構となると共に、連続的に蒸留しながら使用しているため、混合すすぎ剤中の低分子シロキサンを分離しては供給することを繰り返す非効率的な装置となり、実質的に実用化するのが困難である。さらに、開示されている組成変化監視部では高精度の組成制御ができない。
【0008】
特許文献5では組成管理方法や汚れ濃度管理方法に関する記載があるものの具体的な管理機構に関する記載が全く開示されていない。
このように非塩素系フッ素化合物と可燃性溶剤を含有し、使用時にその組成が変動する可能性のある洗浄剤において、洗浄剤組成を効率的に調整する技術が確立されていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平10−316598号公報
【特許文献2】特開平10−212498号公報
【特許文献3】特開平10−251692号公報
【特許文献4】特許第3002261号公報
【特許文献5】特開2001−275053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)とを含有する洗浄剤組成において、化合物(a1)が分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満であることで引火点出現抑制効果が低く、使用中の組成変動による化合物(a1)濃度のわずかな減少により引火点が出現するため、高精度の組成調整方法及び装置により非引火性を保持しつつ安定した洗浄性及び乾燥性を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、汚れ成分が混入した、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)とを含有する洗浄剤組成では、1,1,1−トリクロロエタンに代表される塩素系洗浄剤やHCFC225に代表されるHCFC系洗浄剤とは異なった挙動を示し、加工油等の汚れの持ち込みによる沸点変化がなく一定であることを発見し、汚れ濃度の補正を必要としない正確な組成変化を沸点により検知し、補給液を給液することで洗浄剤組成を高精度に調整できることを見出した。
【0012】
また、本発明者は、高精度の組成管理に適した沸点測定に基づく給液は、沸点が低いために組成変動しやすく、かつ、引火点がなく消防法には該当しないものの最小着火エネルギー及び燃焼範囲を有する2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)に代表される(a1)の場合、引火点出現を防止するのに特に有効であることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者は、補給液は使用中に蒸発ロスした組成とすることにより、複数の成分よりなる洗浄剤組成調整を一液で管理することが可能となり、シンプルで故障の少ない省スペース対応型の装置となることを見出し、さらに、洗浄剤を加熱および/または沸騰して洗浄し、その時に発生した蒸気の凝縮液をリンス剤として利用する洗浄装置においては、洗浄槽より持ち出される洗浄剤がリンス剤でリンスされた後、最終的に全て洗浄槽に戻る構造となっているため洗浄剤補給の必要がなく、補給液を給液することにより組成調整及び容量調整が同時に可能となる洗浄装置であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
発明の第一は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)とを含有する洗浄剤組成を、洗浄工程における洗浄剤の沸点変化を測定することにより検知し、補給液の給液により洗浄剤組成を調整する方法である。
発明の第二は、前記非塩素系フッ素化合物(a)が、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満である非塩素系フッ素化合物(a1)であることを特徴とする請求項1記載の補給液の給液により洗浄剤組成を調整する方法である。
発明の第三は、前記非塩素系フッ素化合物(a1)が、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)である発明の第二に記載の洗浄剤組成を調整する方法。
発明の第四は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)を更に含有する発明の第二、第三に記載の洗浄剤組成を調整する方法である。
【0015】
発明の第五は、洗浄剤を加熱及び/または沸騰した状態で、洗浄剤の沸点変化を測定することにより検知する発明の第一〜第四に記載の洗浄剤組成を調整する方法である。
発明の第六は、洗浄剤の沸点変化を洗浄槽で測定することにより検知する発明の第一〜第五に記載の洗浄剤組成を調整する方法である。
発明の第七は、補給液が、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)及び/または20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)を含有する発明の第一〜第六に記載の洗浄剤組成を調整する方法である。
【0016】
発明の第八は、補給液が、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)を含有する発明の第一〜第七に記載の洗浄剤組成を調整する方法である。
発明の第九は 補給液が、洗浄剤を加熱及び/または沸騰することで発生した蒸気を凝縮して得られる凝縮液と同一組成であることを特徴とする発明の第一〜第八に記載の洗浄剤組成を調整する方法。
発明の第十は、発明の第一〜第九に記載の洗浄剤組成を調整する方法を実施するための装置において、組成変動を検知するための機構(A)、補給液を貯えるタンク(B)及び補給液を給液するための機構(C)を有する洗浄剤組成を調整する装置である。
【0017】
発明の第十一は、組成変動を検知するための機構(A)におけるセンサーが、温度計である発明の第十に記載の洗浄剤組成を調整する装置である。
発明の第十二は 補給液を給液するための機構(C)が、組成変動を検知するための機構(A)より出力される信号により、制御されるポンプ及び/またはバルブを有する発明の第十、第十一に記載の洗浄剤組成を調整する装置である。
発明の第十三は、発明の第十〜第十二に記載の洗浄剤組成を調整する装置、洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱及び/または沸騰することで蒸気を発生させるための加熱機構を有する洗浄槽(D)、該洗浄槽から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン(E)、発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽(F)及び水分離槽(F)において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽(G)を有する洗浄装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置は、非塩素系フッ素化合物と、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物を含有する洗浄剤において物性の変化を測定し、混入した汚れ成分濃度に影響されずに組成を検知し管理することによって、洗浄剤またはリンス剤の持つ高洗浄性、良好な乾燥性、非引火性という特徴を損なうことなく洗浄を実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「組成変動」とは、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)を含有する引火点を有さない洗浄剤、リンス剤または補給液中の揮発性の高い成分が、蒸発により抜けていくことで、化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)の配合比が変化することを表す。
【0020】
また、「汚れ成分」とは、被洗物から除去したい成分を表す。例えば精密部品に付着した加工油、プリント基板に付着したフラックス残渣、液晶セルのギャップ間に残留した液晶等が挙げられ、またリンス剤においては、洗浄剤成分も表す。
【0021】
以下に示す洗浄剤組成を調整する方法を実施することによって、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)や20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)と20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)を含有する洗浄剤組成を検知することができ、安定した洗浄レベルを維持するための洗浄剤組成の調整を行うことが可能となる。
上記20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)としては、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)を用いることが好ましい。
【0022】
沸点については、化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)を含有する洗浄剤において、沸点の高い化合物(b)濃度の上昇と相関関係にある洗浄剤沸点が上昇し、洗浄剤組成変化を検知することができる。沸点を測定する場合、共沸組成物からなる洗浄剤では沸騰状態における気相部及び液相部のいずれで測定しても良いが、非共沸組成物の場合には沸騰状態における気相部と液相部の温度が異なるため、測定箇所をどちらか一方に固定する必要があるが、ヒーター容量や気温の外的要因の影響が少ない液相部で測定することが好ましい。
【0023】
具体的な洗浄剤組成を調整する方法の事例として、好ましくは本発明の第九〜第十一に記載の洗浄剤組成を調整する装置を挙げることができる。以下に本発明の洗浄剤組成を調整する方法及び装置の事例を添付図面によって具体的に説明する。本発明の第九〜第十一に記載の洗浄剤組成を調整する装置の一例である図1に示す装置は、主な構造として、組成変動を検知するための機構(A)、補給液を貯えるタンク(B)6、組成変動を検知するための機構(A)から出力される信号により補給液を給液するための機構(C)とからなる。
【0024】
実際の組成調整においては、組成変動を検知するためのセンサー(A)1を洗浄剤の入る洗浄槽に設置することで、洗浄剤組成変化を信号2として出力し、組成変化検知部(A)3からの信号4により、ポンプ及び/またはバルブ(C)5を作動させることで補給液用タンク(B)6に貯えられている補給液をバルブ(C)7で流速を調整した上で配管8を通って洗浄槽内に給液する。補給液の給液により、洗浄剤組成が調整されたことを検知し信号2として出力し、組成変化検知部(A)3からの信号4により、ポンプ及び/またはバルブ(C)5を作動し給液を止めることで組成調整を完了させる。
【0025】
洗浄剤組成の変動を検知するためのセンサー(A)1としては、組成変動に対する感度に優れ、かつ、洗浄剤中に持ち込まれる加工油やフラックスの影響を受けずに組成変動を測定することが可能な温度センサーであればいずれでも良くが、感度的に優れる白金測温抵抗体や熱電対が好ましい。また、設置位置としては洗浄剤の変化を検出できる位置であればどこでも良いが、洗浄工程における洗浄槽内、洗浄槽外及び洗浄槽に付随した配管に設置することが好ましい。さらに、洗浄槽内における補給液の給液口付近にセンサーを設置することは、高精度の組成管理が可能となるのでより好ましい。
【0026】
補給液用タンク(B)6は補給液を貯えられるタンクであればいずれでも良く、材質としては金属、樹脂及びガラスを挙げることができ、サイズについては組成調整する洗浄剤容量によって自由に設定することができる。また、タンクは必ずしも給液装置と一体である必要はなく、設置箇所によっては装置本体と切り離すことができる。
【0027】
補給液を給液するための機構(C)は、センサー(A)1の信号により補給液の給液を手動あるいは自動でコントロールできる装置であればいずれでも良いが、効率的に給液するためには信号により自動的に作動するポンプ及びバルブが好ましい。さらに、補給液の影響を受けず、高精度の組成調整が可能となる自動ボールバルブがより好ましい。補給液は洗浄剤中に供給されればいずれの方法で給液されても良いが、給液した補給液による測定値の変化をより早く検知するには、洗浄槽内に給液することが好ましく、さらに、洗浄槽内洗浄剤中に給液することがより好ましい。
【0028】
具体的な洗浄剤組成を調整する装置を設置した洗浄装置の事例として、好ましくは本発明の第十二に記載の洗浄剤組成を調整する装置を設置した洗浄装置を挙げることができる。以下に本発明の洗浄剤組成を調整する装置を設置した洗浄装置の事例を添付図面によって具体的に説明する。
【0029】
本発明の第十二に記載の洗浄剤組成を調整する装置を設置した洗浄装置の一例である図2に示す洗浄装置は、洗浄剤組成を調整する装置と洗浄装置からなる。洗浄剤組成を調整する装置の主な構造としては、組成変動を検知するための機構(A)、補給液を貯えるタンク(B)6、組成変動を検知するための機構(A)から出力される信号により補給液を給液するための機構(C)を含む構造であり、一方、洗浄装置の主な構造としては、洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱または/および沸騰することで蒸気を発生させるための加熱機構13を有する洗浄槽(D)9、洗浄槽(D)9から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン(E)11、発生した蒸気を冷却管14によって凝縮し、得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽(F)12、水分離槽(F)12において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽(G)10とからなる。
実際の洗浄においては被洗物を専用のジグやカゴ等に入れて、洗浄装置内を洗浄槽(D)9、リンス槽(G)10、蒸気ゾーン(E)11の順に通過させながら洗浄を完了させる。
【0030】
図2に示す洗浄装置では洗浄装置において被洗物を洗浄することで洗浄剤組成が変化するため、洗浄剤組成を調整する装置における組成変動を検知するための温度センサー(A)1により沸点変化を検知し、洗浄剤組成変化を信号2として出力し、組成変化検知部(A)3からの信号4により、ポンプ及び/またはバルブ(C)5を作動させることで補給液用タンク(B)6に貯えられている補給液をバルブ(C)7で流速を調整した上で配管8を通って洗浄槽内に給液することにより、洗浄槽内洗浄剤組成を調整することで、非引火性を保持しつつ安定した洗浄性及び乾燥性を維持することが可能となる。
【0031】
凝縮液は、水分離槽(F)12に集められた後、配管18からリンス槽(G)10に入り、オーバーフローして矢印19の様に洗浄槽(D)9に戻り、ヒーター13で加熱沸騰され、その組成の一部または全部が蒸気となって矢印15の様に冷却管14で凝縮された後、配管16から水分離槽12に戻る。
補給液は水分離槽(F)12に貯えられている凝縮液あるいは凝縮液と同一組成の液とすることで、複数の成分よりなる洗浄剤の組成調整を一液で管理することが可能となる。
【0032】
洗浄槽(D)9では、洗浄剤を加熱し蒸気を発生しながら被洗物に付着した汚れを浸漬して洗浄除去する。この時、物理的な力としては超音波、揺動及び洗浄剤の液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。
【0033】
洗浄槽(D)9では、洗浄剤をヒーター13で加熱し、蒸発した蒸気を冷却管14によって凝縮し、水分離槽(F)12で冷却管17により凝縮液の液温を低下させるとともに水分を除去し、リンス槽(G)10に戻った水分の除去された凝縮液で浸漬により、被洗物に付着した洗浄剤および汚れ成分を洗浄除去する。この時、物理的な力としては揺動や洗浄剤の液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。また、リンス槽(G)10にはあらかじめリンス剤を使用することにより、洗浄剤の組成変動を抑制することが可能となる。さらに、リンス剤組成は、洗浄剤を沸騰して得られる凝縮液と同一組成とすることで、洗浄剤の組成変動を抑制できるのでより好ましい。
【0034】
蒸気ゾーン(E)11では、主に洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(b)の蒸気を冷却管14で凝縮させ水分離槽(F)12に集めた後、リンス槽(G)10に送りリンス槽(G)10において被洗物を凝縮液に浸漬することによって付着している洗浄剤中に溶解および/または分散している汚れ成分を除去する。凝縮液は、水分離槽(F)12に集められた後、配管18からリンス槽(G)10に入り、オーバーフローして矢印19のように洗浄槽(D)9に戻りヒーター13で加熱沸騰され、その組成の一部または全部が蒸気となって矢印15のように冷却管14で凝縮された後、配管16から水分離槽12に戻る。
【0035】
本発明の洗浄装置では、洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱または/および沸騰することで蒸気を発生させながら、被洗物に付着した汚れを洗浄することで被洗物材質に対する影響を低減し、かつ、主に洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(b)が洗浄装置内で液体や気体に状態変化させながら循環し、被洗物に付着しているわずかに残留している可能性の有る汚れ成分をリンス槽(G)10および蒸気ゾーン(E)11で洗浄することで、より高い洗浄レベルの求められる精密洗浄に適合することができる。
【0036】
前記図2に示した洗浄装置では、その目的や用途によって、洗浄槽および/またはリンス槽の数を2槽以上にすることができる。さらに、洗浄槽内の洗浄剤をポンプ等の攪拌する機構を設けることにより、洗浄槽内の洗浄剤温度をより均一することができるようになり、その結果、より精密な組成管理を実施することが可能となる。
【0037】
また、洗浄槽の液面を一定の高さに保持する必要のある場合には加熱機構を有する加熱槽を設けた上で、洗浄槽と加熱槽とを配管で接続し、加熱槽内の洗浄剤をポンプ等で洗浄槽に送液し、洗浄槽に送液された洗浄剤が加熱槽へオーバーフローする機構とすることで可能となる。この時、洗浄剤の組成変動を検知するための機構(A)に含まれるセンサーの設置位置は洗浄剤の沸点変化を検知することが可能な場所であればどこでも良い。
【0038】
以下に本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤について説明する。
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤、リンス剤及び補給液に含有される、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)とは、炭化水素類やエーテル類の水素原子の一部がフッ素原子のみで置換され、塩素原子を含まないフッ素化合物であり、例えば、下記一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFEの、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げられる。
【0039】
2n−m ・・・・・・ (1)
(式中、4≦n≦6、m<(4/3)nの整数を示す)
2x+2−y ・・・・・・ (2)
(式中、4≦x≦6、y<(4x+4)/3の整数を示す)
2s+1OC2t+1 ・・・・・・ (3)
(式中、4≦s≦6、t>(2s−1)/4の整数を示す)
【0040】
環状HFCの具体例としては3H,4H,4H−パーフルオロシクロブタン等を挙げることができる。
鎖状HFCの具体例としては1H,2H,3H,4H−パーフルオロブタン、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)、1H,4H,5H,5H,5H−パーフルオロペンタン等を挙げることができる。
HFEの具体例としてはエチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル等を挙げることができる。
【0041】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置は、これら分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の引火点出現抑制効果の低い非塩素系フッ素化合物(a1)を含む洗浄剤の組成管理に適しているが、好ましくは分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が1以下の引火点出現抑制効果の低い非塩素系フッ素化合物であり、より好ましくは分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が1以下の引火点出現抑制効果の低い非塩素系フッ素化合物であり、かつ、沸点が低くいために使用中の組成変動が大きく、かつ、消防法には該当しないものの最小着火エネルギーや燃焼範囲を有するために引火点抑制効果が低く、化合物(b)と組み合わせて使用する場合に正確な組成管理を必要とする2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc、沸点:40℃、最小着火エネルギー:10mj、燃焼範囲:3.6〜13.3容量%)を含む洗浄剤の組成管理に適している。
【0042】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤、リンス剤及び補給液に含有される、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)とは、炭化水素類やエーテル類の水素原子の一部がフッ素原子のみで置換され、塩素原子を含まないフッ素化合物であり、例えば、下記一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFEの、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げられる。
【0043】
2n−m ・・・・・・ (4)
(式中、4≦n≦6、m≧(4/3)nの整数を示す)
2x+2−y ・・・・・・ (5)
(式中、4≦x≦6、y≧(4x+4)/3の整数を示す)
2s+1OC2t+1 ・・・・・・ (6)
(式中、4≦s≦6、t≦(2s−1)/4の整数を示す)
【0044】
環状HFCの具体例としては4H,5H,5H−パーフルオロシクロペンタン、5H,6H,6H−パーフルオロシクロヘキサン等を挙げることができる。
鎖状HFCの具体例としては1H,2H−パーフルオロブタン、1H,3H−パーフルオロブタン、2H,3H−パーフルオロブタン、4H,4H−パーフルオロブタン、1H,1H,3H−パーフルオロブタン、1H,1H,4H−パーフルオロブタン、1H,2H,3H−パーフルオロブタン、1H,2H−パーフルオロペンタン、1H,4H−パーフルオロペンタン、2H,3H−パーフルオロペンタン、2H,4H−パーフルオロペンタン、2H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H,3H−パーフルオロペンタン、1H,3H,5H−パーフルオロペンタン、1H,5H,5H−パーフルオロペンタン、2H,2H,4H−パーフルオロペンタン、1H,2H,4H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H−パーフルオロヘキサン、2H,3H−パーフルオロヘキサン、2H,4H−パーフルオロヘキサン、2H,5H−パーフルオロヘキサン、3H,4H−パーフルオロヘキサン等を挙げることができる。
HFEの具体例としてはメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロペンチルエーテル、メチルパーフルオロシクロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロペンチルエーテル等を挙げることができる。
【0045】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤においては、これら分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を組み合わて用いることができるが、好ましくは、引火点出現抑制効果に優れるフッ素原子/水素原子の数量比が3以上の鎖状HFCまたはHFEを挙げることができる。より好ましくは、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびメチルパーフルオロブチルエーテルとメチルパーフルオロイソブチルエーテルとの混合物(HFE7100)を挙げることができる。
【0046】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤においては、あらゆる汚れに対する洗浄力の向上を目的に、化合物(a1)及び/または化合物(a2)と共に、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつエーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)から選ばれる化合物の一種、または二種以上を併用することができる。ここで、化合物(b)におけるエステル類及び/またはグリコールエーテル類を併用した組成物を使用する場合があるが、併用する化合物(b)が互いに近い沸点を有する時、洗浄剤の組成調整が容易となり好ましい。
【0047】
化合物(b)は、例えば、種々のエステル類、グリコールエーテル類が、各種汚れに対して良好な洗浄性を有し、且つ20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の化合物である。化合物(b)の蒸気圧が、この範囲にあるときに、本発明に係る洗浄性に優れた洗浄剤が得られる。好ましくは、20℃において6.66×10Pa以下であり、さらに好ましくは1.33×10Pa以下である。
【0048】
以下、化合物(b)を溶剤の種類ごとに例示する。
エステル類では酢酸−n−ブチル、酢酸イソアミル、酢酸−2−エチルヘキシル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ−ブチルラクトン、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0049】
グリコールエーテル類では、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。
【0050】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置において組成調整の対象となる洗浄剤は、上述した化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)の各成分を定法に従って混合し均一化して得られる。
【0051】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置における組成調整を必要とする洗浄剤としては、洗浄剤の特徴である、高洗浄性、低毒性、低引火性が損なわれない範囲であれば、特に制限はないが、使用中の経時変化により化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)との組成が変化することで、引火点が出現しやすい洗浄剤を挙げることがでる。本発明の洗浄剤組成を調整する方法は使用中の組成変化により、洗浄剤中の化合物(b)の添加濃度が20%増加した時点で引火点が出現する洗浄剤の組成調整に好ましく、さらに洗浄剤中の化合物(b)の添加濃度が10%増加した時に引火点が出現する洗浄剤の組成調整により好ましく、使用中の経時変化による引火点出現の抑制が可能となる。ここで挙げる引火点は「JIS K 2265」に従い、測定温度80℃まではタグ密閉式で測定し、引火点が確認されない場合にはさらにクリーブランド開放式で測定し、最終的に引火点の有無を判断することができる。
【0052】
本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する洗浄剤、リンス剤及び補給液には、1.013×10Paにおける沸点が20℃〜100℃で、化合物(a1)、化合物(a2)及び化合物(b)とは異なる化合物を洗浄力改良剤、安定剤、融点降下剤等の添加成分として添加し、化合物(b)の添加量の抑制、洗浄性の向上、蒸気洗浄時の気相での金属安定性の向上及び冷却時の洗浄剤の凝固防止等を図ることもできる。
【0053】
また、洗浄剤、リンス剤及び補給液の酸化劣化を防ぐ目的でフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤酸化防止剤を使用することができ、さらに、必要に応じて各種助剤、例えば、界面活性剤、安定剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0054】
また、本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用するリンス剤は、化合物(a1)を含有するものであればいかなる組成でも良いが、化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)を含有した洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を、加熱及び/または沸騰させて得られる化合物(a1)及び/または化合物(a2)とわずかに含まれる化合物(b)を含有した蒸気組成をリンス剤とすることにより、使用中の洗浄剤の組成変動が減少するので好ましい。
【0055】
また、本発明の洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置に使用する補給液は、化合物(a1)を含有するものであればいかなる組成でも良いが、化合物(a1)及び/または化合物(a2)と化合物(b)を含有した洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を、加熱及び/または沸騰させて得られる化合物(a1)及び/または化合物(a2)とわずかに含まれる化合物(b)を含有した蒸気組成を補給液とすることにより、各化合物を個別に補給する必要がなくなり、洗浄剤組成の調整が効率的になるので好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
表1に示した組成の洗浄剤について下記に示すような沸点、比重及び屈折率の測定を行った。
【0057】
(1)沸点測定
表1における例1、例6、例11の洗浄剤に加工油(商品名:ユニカットテラミAM30、日石三菱(株)製)を各1重量%、3重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%を混入させた後、各洗浄剤の沸点を測定した。測定結果を図3〜5に示す。
また、表1の例1〜5、例6〜10、例11〜15の洗浄剤中の化合物(b)濃度と洗浄剤の沸点との関係を測定した。測定結果を図6〜8に示す。
【0058】
(2)比重測定
表1における例1、例6、例11の洗浄剤に加工油(商品名:ユニカットテラミAM30、日石三菱(株)製)を各5重量%、10重量%、15重量%、20重量%を混入させた後、各洗浄剤の25℃における比重を測定した。測定結果を図9〜11に示す。
【0059】
(3)屈折率測定
表1における例1、例6、例11の洗浄剤に加工油(商品名:ユニカットテラミAM30、日石三菱(株)製)を各3重量%、5重量%、10重量%を混入させ、デジタル糖度計(商品名:パレット100、(株)アタゴ製)により、20℃における屈折率を測定した。測定結果を図12〜14に示す。
【0060】
[実施例1〜3]
表1における例1、例6、例11の洗浄剤についての沸点測定によると、図3〜5に示すように洗浄剤の沸点は加工油混入濃度の上昇により変化しないことが明らかとなった。また、表1における例1〜5、例6〜10、例11〜15の洗浄剤では、図6〜8に示すように沸点と各洗浄剤中の化合物(b)濃度との間に相関のあることが明らかになった。
したがって、沸点では洗浄剤中に持ち込まれる加工油濃度に影響されず、洗浄剤中の化合物(b)濃度の変化を測定できることが明らかとなった。
【0061】
[比較例1〜3]
表1における例1、例6、例11の洗浄剤についての比重の試験結果によると、図9〜11に示すように洗浄剤の比重は混入した加工油により変化してしまい、補正なしに洗浄剤組成を測定できないことが明らかになった。
【0062】
[比較例4〜6]
表1における例1、例6、例11の洗浄剤についての屈折率の測定試験によると、図12〜14に示すように洗浄剤の屈折率は混入した加工油により変化してしまい、補正なしに洗浄剤組成を測定できないことが明らかになった。
【0063】
(4)実機稼働試験(組成変動性)
以下に記載する方法により、26日間の実機試験を行った。
図2に示す洗浄剤組成を調整する装置を設置した洗浄装置において、洗浄槽(D)9に洗浄剤を、補給液用タンク(B)6、リンス槽(G)10及び水分離槽(F)12に同一組成の補給液あるいはリンス剤を入れた。
【0064】
洗浄槽(D)9内の洗浄剤をヒーター13により加熱沸騰させ、発生した蒸気を冷却管14によって凝縮し、凝縮した液を水分離槽(F)12に集めた後、配管18からリンス槽(G)10に入れ、オーバーフローして矢印19に示すように凝縮液が洗浄槽(D)9に戻るサイクルを繰り返す状態で稼動し、一方、図2に示す洗浄剤組成を調整する装置により、試験開始後、洗浄機開口部からの蒸気の散逸による系内の洗浄剤組成の変化を洗浄槽内の洗浄剤の沸点を温度センサー(A)1により検知し、組成変化検知部A(3)の設定温度に従い自動バルブ(C)7の開閉信号を出力することで自動バルブ(C)7を制御し、補給液用タンク(B)6内の補給液を洗浄槽(D)9に給液することで組成をコントロールした状態で運転する。補給液は全て補給液用タンク(B)6に給液し、洗浄槽(D)9には直接給液しない。
【0065】
図2に示す洗浄装置及び洗浄剤組成を調整する装置の停止は、洗浄槽(D)9のヒーター13を切り、その後1時間経過した後洗浄装置のメイン電源を切り開口部にフタをした状態で停止する。洗浄槽内の洗浄剤の組成変化については、装置の停止操作において洗浄槽(D)9のヒーターを切る直前に、洗浄槽内の洗浄液をサンプリングしガスクロマトグラフにより組成分析を行ない、以下の計算式で洗浄剤における化合物(b)の組成変動率を算出した。
洗浄剤における化合物(b)の組成変動率(%)
= {(サンプリング液組成−試験開始前組成)/試験開始前組成}×100
【0066】
<稼動条件>
稼動期間 :26日間
稼働時間 :608時間(運転と停止を交互に行う)
運転サイクル
運転時 :8時間×20回(ヒーター13が作動している時間帯を運転時とみなす)
停止時 :16時間×19回、48時間×3回(ヒーター13が停止している時間帯
を停止時とみなす)
【0067】
洗浄機開口部
運転時 :フタをしない。
停止時 :フタをする
冷却管14温度 :5〜8℃
容量
洗浄槽(D)9 :洗浄剤4L
リンス槽(G)10 :リンス剤5L
水分離槽(F)12 :リンス剤0.5L
補給液用タンク(B)6 :補給液3L
【0068】
組成変化検知部(A)3 :電子温度調節器E5LD−7(オムロン製)
自動モーターバルブ(C)5 :EAL100−UTE(KITZ製)
組成変化検知部A(3)設定温度
洗浄剤組成1:54.8℃(54.8℃で給液開始)
洗浄剤組成2:75.2℃(75.2℃で給液開始)
洗浄剤組成3:60.5℃(60.5℃で給液開始)
組成変化検知部A(3)感度 : 0.5℃(設定温度−0.5℃で給液停止)
投入加工油:AM30(商品名:ユニカットテラミAM30、日石三菱(株)製)
洗浄槽(D)9への加工油投入量:90g/回×3回(48時間停止後に投入)
給液装置稼動状態:実施例では「稼動」、比較例では「停止」
【0069】
<洗浄剤組成>
洗浄剤組成1
<1> HFC365mfc(a1)
<2> 3−メチル−3−メトキシブタノール(b)
組成:<1>/<2>=50.0/50.0質量%
リンス剤及び補給液組成
<1>/<2>=99.5/0.5質量%
【0070】
洗浄剤組成2
<1>HFE7100(a)
<2>3−メチル−3−メトキシブタノール(b)
<3>ジプロピレングリコールジメチルエーテル(b)
組成: <1>/<2>/<3>=50.0/30.0/20.0質量%
リンス剤及び補給液組成
<1>/<2>/<3>=99.0/0.6/0.4質量%
【0071】
洗浄剤組成3
<1> HFC365mfc(a1)
<2> HFE7100(a2)
<3> 3−メチル−3−メトキシブタノール(b)
<4> 3−メチル−3−メトキシブチルアセテート(b)
組成:<1>/<2>/<3>/<4>
=45.0/5.0/20.0/30.0質量%
リンス剤及び補充液組成
<1>/<2>/<3>/<4>=88.0/11.7/0.2/0.1質量%
上記記載の組成の洗浄剤、リンス剤、および補給液を用いて試験を行った。
【0072】
(5)引火点測定
JIS K 2265に従い、測定温度80℃まではタグ密閉式で測定し、引火点が確認されない場合にはさらにクリーブランド開放式で測定し、最終的に引火点の有無を判断した。なお、測定液は上記(4)実機稼動試験における組成分析結果に基づき調合した。
評価は以下の基準による。
○:引火点なし
×:引火点あり
【0073】
[実施例4〜6]
洗浄剤組成を調整する装置を稼動した状態で26日間試験した結果を表2、表4、表6及び図15、図16、図17に示す。洗浄剤中の加工油濃度に関する補正をせず、沸点変化を測定することにより、洗浄剤中の化合物(b)濃度の変化を±5%の非常に狭い濃度範囲に安定して制御できることが確認され、試験期間中の引火点の出現を完全に抑制できることが確認された。
【0074】
[比較例7〜9]
洗浄剤組成を調整する装置を停止した状態で試験した結果を表3、表5、表7に示す。運転開始から2〜5日目には組成変動による引火点が確認された。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類やグリース類やワックス類、電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類、基板製造時に使用されるスクリーンに付着したインキやペースト類および樹脂吐出装置のミキシング部に付着した樹脂類を洗浄する洗浄剤組成を調整する方法、装置及び洗浄装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の洗浄剤組成を調整する方法を利用した装置の一例である。
【図2】本発明の洗浄剤組成を調整する方法を利用した装置を設置した洗浄機の一例である。
【図3】例1の洗浄剤についての沸点−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図4】例6の洗浄剤についての沸点−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図5】例11の洗浄剤についての沸点−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図6】例1〜5の洗浄剤についての沸点−化合物(b)濃度の関係を示すグラフである。
【図7】例6〜10の洗浄剤についての沸点−化合物(b)濃度の関係を示すグラフである。
【図8】例11〜15の洗浄剤についての沸点−化合物(b)濃度の関係を示すグラフである。
【図9】例1の洗浄剤についての比重−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図10】例6の洗浄剤についての比重−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図11】例11の洗浄剤についての比重−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図12】例1の洗浄剤についての屈折率−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図13】例6の洗浄剤についての屈折率−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図14】例11の洗浄剤についての屈折率−加工油濃度の関係を示すグラフである。
【図15】実施例4における試験日数−組成変動率の関係を示すグラフである。
【図16】実施例5における試験日数−組成変動率の関係を示すグラフである。
【図17】実施例6における試験日数−組成変動率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
1 センサー(A)
2 センサー信号(A)
3 検知部(A)
4 開閉信号(A)
5 ポンプまたはバルブ(C)
6 補給液用タンク(B)
7 給液量調整バルブ(C)
8 給液用配管
9 洗浄槽
10 リンス槽
11 蒸気ゾーン
12 水分離器
13 ヒーター
14 冷却管
15 蒸気の流れ
16 凝縮液用配管
17 水分離後の凝縮液用配管
18 オーバーフロー液の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)と、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分であり、かつ、エーテル結合及び/またはエステル結合を有する有機化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(b)とを含有する洗浄剤組成を、洗浄工程における洗浄剤の沸点変化を測定することにより検知し、補給液の給液により洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項2】
前記非塩素系フッ素化合物(a)が、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満である非塩素系フッ素化合物(a1)であることを特徴とする請求項1記載の補給液の給液により洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項3】
前記非塩素系フッ素化合物(a1)が、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)であることを特徴とする請求項2記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項4】
20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)を更に含有することを特徴とする請求項2又は3に記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項5】
洗浄剤を加熱及び/または沸騰した状態で、洗浄剤の沸点変化を測定することにより検知する請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項6】
洗浄剤の沸点変化を洗浄槽で測定することにより検知することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項7】
前記補給液が、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2未満の非塩素系フッ素化合物(a1)及び/または20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上であり、かつ、分子内におけるフッ素原子/水素原子の数量比が2以上の非塩素系フッ素化合物(a2)を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項8】
前記補給液が、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項9】
前記補給液が、洗浄剤を加熱及び/または沸騰することで発生した蒸気を凝縮して得られる凝縮液と同一組成であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する方法を実施するための装置において、組成変動を検知するための機構(A)、補給液を貯えるタンク(B)及び補給液を給液するための機構(C)を有することを特徴とする洗浄剤組成を調整する装置。
【請求項11】
前記組成変動を検知するための機構(A)におけるセンサーが、温度計であること特徴とする請求項10に記載の洗浄剤組成を調整する装置。
【請求項12】
前記補給液を給液するための機構(C)が、組成変動を検知するための機構(A)より出力される信号により、制御されるポンプ及び/またはバルブを有することを特徴とする請求項10又は11に記載の洗浄剤組成を調整する装置。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の洗浄剤組成を調整する装置、洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分を加熱及び/または沸騰することで蒸気を発生させるための加熱機構を有する洗浄槽(D)、該洗浄槽から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン(E)、発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽(F)及び水分離槽(F)において水分の除去された凝縮液により浸漬リンスするためのリンス槽(G)を有する洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−231173(P2006−231173A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47931(P2005−47931)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】