説明

洗浄用溶剤、洗浄用溶剤を用いた洗浄方法、洗剤及び酸化防止剤指示薬

【課題】洗浄用溶剤を用いる場合において、その洗浄力の低下を防ぐために酸化防止剤を添加することがあるが、洗浄力の管理が容易となる洗浄用溶剤ないし洗剤を提供し、これら洗浄用溶剤ないし洗剤を用いる場合の管理方法、管理するための指示薬を提供する。
【解決手段】洗浄用溶剤及び/または洗剤にフェノール系酸化防止剤を含有させる。また、洗浄用溶剤の主成分がリモネンであり、フェノール系酸化防止剤が分子構造中に3単位以下のフェノール骨格を有するものを用いる。更に、フェノール系酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンであるのが良い。管理に当たっては、洗浄作業が洗浄に供する溶液の循環浄化工程を含むもので有り、浄化に当り、活性炭層に通過させた後、さらに吸着剤層を通過させるものである。洗浄用溶剤の酸化の程度を計るためには、その一部を採取し酸化促進剤を指示薬とする滴定を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用部品の洗浄、航空機の機体洗浄、自動車・鉄道の列車等の車体洗浄、衣料のドライクリーニング等に用いられる洗浄用溶剤、洗浄方法及び酸化防止剤指示薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用部品の洗浄、航空機の機体洗浄、自動車・鉄道の列車等の車体洗浄、衣料のドライクリーニング等に用いられる洗浄用溶剤としては、リン酸トリエステル化合物系洗浄用溶剤、iso−パラフィン、n−パラフィン、ベンゼン、ナフテン等の炭化水素等を主成分とする石油溶剤、テトラクロロエチレン、トリクロロエタン、フロン等のハロゲン化炭化水素等を主成分とする塩素系洗浄用溶剤、フッ素系洗浄用溶剤等の不燃溶剤、直鎖状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン等のシリコーンを主成分とするシリコーン溶剤、リモネン等を主成分とする天然溶剤等が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照。)。これらの溶剤は酸化防止剤を含有させて品質の安定化を図っている(例えば、特許文献6参照。)。
【0003】
しかし、これら洗浄用溶剤と酸化防止剤とは沸点が異なり、衣料の洗浄・乾燥を繰り返すうちに酸化防止剤の含有量が減少してしまうという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−171696号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開2000−87087号公報(第2〜3頁)
【特許文献3】特開2004−161936号公報(第2〜3頁)
【特許文献4】特開平6−327888号公報(第2〜3頁)
【特許文献5】特開2004−292713号公報(第2〜3頁)
【特許文献6】特表2004−535496号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、洗浄工程において衣料等の洗浄を繰り返し行うことによって減少する洗浄用溶剤中の酸化防止剤含有量の変化を的確に把握しにくい点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、衣料等の洗浄に用いる洗浄用溶剤及び/または洗剤にフェノール系酸化防止剤を含有したことを最も主要な特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、洗浄用溶剤の主成分がリモネンであり、フェノール系酸化防止剤が分子構造中に3単位以下のフェノール骨格を有するものであることを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、フェノール系酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンであることを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、洗浄用溶剤ないし洗剤を使用した洗浄作業が洗浄に供する溶液の循環浄化工程を含むもので有り、浄化に当り、活性炭層に通過させた後、さらに吸着剤層を通過させることを最も主要な特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、洗浄用溶剤を使用した洗浄作業の際に、洗浄用溶剤の酸化の程度を計るため、その一部を採取し酸化促進剤を指示薬とする滴定を行うことを最も主要な特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5記載の発明において、管理方法が洗浄用溶剤の酸化の程度を計るために用いられる指示薬の主成分が酸化促進剤であることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、フェノール系酸化防止剤が黄変することにより、洗浄用溶剤及び/又は洗剤中に酸化防止剤が含有されていることを視覚によって確認することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、洗浄用溶剤への着色が鮮明なものとなる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ジブチルヒドロキシトルエンとリモネンとの相溶性が良く、ジブチルヒドロキシトルエンのリモネンへの溶解が容易なものとなる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、洗浄用溶剤中の酸化防止剤及び着色成分が吸着剤に吸着され、洗浄用溶剤の着色度合いを回復させることができる。
【0016】
請求項5又は請求項6に記載の発明によれば、高価な分析機器を使用せずに洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を順に説明する。
本発明の洗浄用溶剤及び洗剤はフェノール系酸化防止剤を含有することが必要である。
【0018】
前記洗浄用溶剤としては、例えば、n−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン、シクロペンタノン、グリコールエーテル、プロピレングリコール、ベンゼン、1,2,4,トリメチルベンゼン、パラフィン等の炭化水素類、n−プロパノール、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、リン酸トリエステル化合物、炭酸エステル化合物等のエステル類、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、フルオロカーボン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,3,3,4−ヘプタフルオロペンタン、2H,3H−パーフルオロ−4−メチルペンタン等のフッ素系溶剤、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤、ノルマルプロピルブロマイド、イソプロピルブロマイド、ブチレンオキサイド等のブタン系溶剤、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン等のニトロ系溶剤、環状シロキサン、直鎖状ポリシロキサン等のシリコーン系溶剤、リモネン、水素化リモネン、ハロゲン化リモネン、α−ピネン等の天然系溶剤等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。
【0019】
前記洗浄用溶剤としてはテルペン又はその誘導体を用いることが好ましく、リモネンを用いることがより好ましい。テルペン又はその誘導体を用いることにより、石油等の化石資源を原料とする場合に比べ、地球温暖化を促進させることがない。また、リモネンを用いることにより、柑橘系植物の果皮から抽出することができるため、廃棄物を有効に利用することができる。
【0020】
前記フェノール系酸化防止剤は分子構造中にフェノール骨格を含有する酸化防止剤をいう。例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、dl−α−トコフェロール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス−(3,5,−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、4,4’−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−ベンゼン、2−(1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、6−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ)−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ(d,f)(1,3,2)ジオキサホスフェピン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。
【0021】
前記酸化防止剤の洗浄用溶剤100重量部に対する含有量としては、好ましくは20〜1500ppm、より好ましくは30〜1000ppm、最も好ましくは50〜600ppmである。この範囲にあるとき、洗浄用溶剤の酸化を充分に抑制することができる。含有量が20ppm未満の場合には洗浄用溶剤の酸化を充分に防ぐことができない。逆に1500ppmを超える場合には、着色の度合いが大きすぎて被洗浄物としての衣料等までをも着色してしまうおそれがある。
【0022】
前記洗剤は界面活性剤と洗浄用溶剤との混合物をいう。従って、洗剤中に含まれる酸化防止剤の含有量は洗浄用溶剤中の含有量に依存する。
【0023】
前記酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を用いることにより、衣料の洗浄等を繰り返すうちに、前記酸化防止剤が着色成分に変化し、洗浄用溶剤全体を黄色から褐色に着色する。洗浄用溶剤が着色することによって、着色の度合いを未使用の溶剤と比較することにより、光透過率を測定するなどして洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度を間接的に確認することができる。
【0024】
前記酸化防止剤の分子構造中におけるフェノール骨格の単位数は好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下であり、最も好ましくは1である。この範囲にあるとき、洗浄用溶剤への着色が鮮明なものとなる。前記酸化防止剤の分子構造中におけるフェノール骨格の単位数が3以上の場合には、着色の進行が遅く、洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度を鋭敏に判断することが困難である。
【0025】
前記酸化防止剤の沸点に比べて洗浄用溶剤の沸点が充分に低い場合には、洗浄後の乾燥工程において、酸化防止剤が被洗浄物に残留する。したがって、洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度は徐々に低下していくこととなる。この酸化防止剤濃度の低下と洗浄用溶剤の着色とのバランスを取ることで、洗浄用溶剤の交換又は再製の時期を的確に把握することができる。
【0026】
前記酸化防止剤は、洗浄溶剤としてリモネンを用いる場合には、ジブチルヒドロキシトルエンであることが好ましい。ジブチルヒドロキシトルエンを酸化防止剤として用いることにより、リモネンと分子構造が似通っているために相溶性が良く、リモネンへの溶解が容易なものとなる。
【0027】
前記酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエン(化1)である場合には、着色は以下のように進行する。まず初めにジブチルヒドロキシトルエンのフェノール骨格中、ヒドロキシル基の水素原子が解離してケトン構造(化2)に変化する。該ケトン構造は黄色である。
【0028】
【化1】


【0029】

【化2】



前記ケトン構造(化2)は2量体となると無色の[化3]又は赤色の[化4]を生成する。[化3]は酸化されると[化4]に変化する。
【0030】
【化3】


【0031】
【化4】


【0032】
前記洗浄用溶剤は活性炭を通過させることが好ましい。洗浄用溶剤を活性炭に通過させることにより着色を促進させることができる。ここで、活性炭による着色は酸化防止剤のごく一部しか起こっていないが、ごく一部の着色でも人間の視覚には濃く着色しているように見える。従って、溶剤全体の酸化防止効果を大きく低下させることはない。この際に、酸化防止剤濃度の減少量に合わせて最適な活性炭を選択することにより、酸化防止剤濃度を把握することができる。
【0033】
前記活性炭は洗浄用溶剤中の脂肪酸やタンパク質等を吸着させるために用いられる。このとき、洗剤中の界面活性剤も同様に吸着されるため、活性炭を新しく交換した場合には通常よりも多い添加量が必要となる。
【0034】
前記活性炭は石炭、ヤシ殻、大鋸屑、おが屑等の有機物を原料とする多孔質の炭化物である。形状により破砕炭、成型炭、粉末炭等に分類される。ドライクリーニングに用いる場合には、これらのうち、ヤシ殻を原料とする破砕炭又は粉末炭を用いることが好ましい。ヤシ殻を原料とする破砕炭又は粉末炭を用いることにより、洗浄用溶剤の着色が最適なものとなる。
【0035】
前記洗浄用溶剤が着色されることにより、酸化防止剤が確かに溶解されているということを確認することができる。着色されない場合には、酸化防止剤が溶解されているかどうかを視覚によって判断することができない。
【0036】
前記洗浄用溶剤は長期間使用していると酸化防止剤の着色が進行し、洗浄対象となる衣料等までも着色してしまう場合がある。このような場合には、前記洗浄用溶剤を吸着剤に通過させることが好ましい。洗浄用溶剤を吸着剤に通過させることにより、洗浄用溶剤中の酸化防止剤及び着色成分が吸着剤に吸着され、洗浄用溶剤の着色度合いを回復させることができる。
【0037】
本発明において吸着剤とは、酸化防止剤を吸着するものをいい、主に脂肪酸や酸化物を吸着する効果がある。酸化防止剤は活性炭には吸着されないが、吸着剤には吸着される。
【0038】
前記吸着剤は酸化防止剤及びその着色成分を吸着するものであれば任意に設定することができる。例えば、シリカ、アルミナ、ゼオライト、モンモリロナイト、セラミック繊維ペーパー、イオン交換体、キレート樹脂、キトサン、火山灰、骨炭、骨灰、珪藻土、珊瑚砂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。また、モンモリロナイトを鉱酸で処理し、アルミナ・鉄・マグネシウムの一部を溶出させた大きな比表面積、大きな吸着能を有する多孔質構造(いわゆる活性白土)として用いても良い。
【0039】
前記吸着剤は、酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを用いる場合には、これらのうち、シリカ、アルミナ、ゼオライト、モンモリロナイトを用いることが好ましい。シリカ、アルミナ、ゼオライト、モンモリロナイトを用いることにより効率的に酸化防止剤及びその着色成分を吸着することができるとともに、洗浄用溶剤の着色度合いと洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度の低下とのバランスが最適となる。
【0040】
前記吸着剤によって酸化防止剤及びその着色成分が減少した洗浄用溶剤に対しては、酸化防止剤を追加することが好ましい。酸化防止剤を追加することにより、洗浄用溶剤の酸化を抑制することができる。
【0041】
前記洗浄用溶剤中の酸化防止剤の濃度が減少した場合には、洗浄用溶剤を還元剤に通過させることが好ましい。洗浄用溶剤を還元剤に通過させることにより、酸化されて消費された酸化防止剤が還元され、再び機能を回復させることができる。
【0042】
前記還元剤とは、自身は酸化されることによって相手を還元することができる物質をいい、いわゆる酸化防止剤もこれに含まれる。本発明においては、洗浄用溶剤中に含有されている酸化防止剤よりも還元作用の高いものを単に還元剤という。還元剤としては例えば、HI,HS等の水素化合物、CO、SO等の低原子価酸化物、Fe2+、Sn2+等の低原子価金属イオン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素等の水溶性還元剤、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn、Cu、ヒドロキノン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。
【0043】
前記還元剤は水溶性還元剤を用いることが好ましい。水溶性還元剤を用いることにより、洗浄用溶剤を通過させても洗浄用溶剤中にほとんど溶解しないため、投入した還元剤の流出を抑制することができるとともに、溶剤中に流出した場合でも分離が容易である。
【0044】
前記還元剤は洗浄用溶剤としてリモネンを、酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを用いた場合には、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウムのうちのいずれかを用いることが好ましい。アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウムのうちのいずれかを用いることにより、水溶性還元剤であると同時にジブチルヒドロキシトルエンよりも還元効果が高いため、酸化防止剤の酸化防止機能を回復させることができる。
【0045】
以上のように構成された洗浄用溶剤は洗浄工程としてのドライクリーニングにおいて、以下のように使用される。
まず始めに、洗浄装置としてのドライクリーニング機に洗浄用溶剤としてのリモネン(酸化防止剤としてのジブチルヒドロキシトルエン200ppm含有)300リットルが収容される。前記ドライクリーニング機には洗浄工程にリモネンが活性炭としての粉末状ヤシガラ炭を通過する工程が設けられている。衣料の洗浄を繰り返すうち、ジブチルヒドロキシトルエンは黄色く着色して洗浄用溶剤の光透過率は徐々に低下していく。同時に被洗浄物としての衣料に付着した酸化防止剤は乾燥工程を経ても一定量が衣料に残留することから、洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度も徐々に低下していく。
【0046】
前記洗浄用溶剤の着色度合いと洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度の低下とのバランスを取ることで、洗浄用溶剤の交換又は再製の時期をガスクロマトグラフ等の高価な分析機器を用いなくとも的確に把握することができる。
【0047】
前記洗浄工程には洗浄用溶剤が粉末状ヤシガラ炭を通過する工程が設けられているため、3〜6ヶ月間で洗浄用溶剤の光透過率は未使用の洗浄用溶剤の光透過率を100%とした場合に比べて60%以下となる。洗浄用溶剤が洗浄工程を繰り返すたびに徐々に着色していくため、光透過率を比較することにより容易に洗浄用溶剤の交換又は再製の時期を知ることができる。
【0048】
前記洗浄用溶剤の光透過率は、洗浄用溶剤を試料の厚みが5mmのガラスセルに充填した状態にて積分球分光光度計を用いて、その平行光線光透過率を測定することによって得られる。
【0049】
前記洗浄用溶剤の光透過率は、未使用の洗浄用溶剤の光透過率を100%とした場合、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、最も好ましくは70%以上である。この範囲にあるとき、最適な洗浄を行うことができる。光透過率が60%未満の場合には、着色した酸化防止剤が衣料までをも着色してしまうおそれがある。
【0050】
前記洗浄用溶剤の交換又は再製の時期の判断方法は、光透過率に限らず、酸化防止剤濃度を測定することができる方法であれば任意に選択することができる。例えば、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、酸化促進剤の添加等が挙げられる。これらのうち、光透過率の測定又は酸化促進剤の添加を用いることが好ましい。光透過率の測定又は酸化促進剤の添加を用いることにより、高価な分析機器を使用せずに洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度を把握することができる。
【0051】
前記酸化促進剤としては例えば、酸素、オゾン、塩化鉄、塩化銅、二酸化マンガン、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、酸化銀、酸化チタン等が挙げられる。これらのうち、塩化鉄、過マンガン酸カリウムのアルカリ性溶液を用いることが好ましい。塩化鉄を用いた場合には該塩化鉄が洗浄用溶剤中の酸化防止剤の酸化を促進し、洗浄用溶剤を黄色〜褐色に着色させる。酸化防止剤の濃度が十分であれば洗浄用溶剤は着色し、濃度が低い場合にはあまり着色しない。過マンガン酸カリウムのアルカリ性溶液を用いた場合には、該過マンガン酸カリウムのアルカリ性溶液自身が洗浄用溶剤中の酸化防止剤によって褐色に変化する。これらの場合には、比色法により容易に酸化防止剤濃度を把握することができる。
【0052】
前記洗浄用溶剤としてリモネンを用いた場合には酸化促進剤として酸化チタンを用いることが好ましい。洗浄用溶剤中に酸化チタンを混合して紫外線を照射することでリモネンが重合し、洗浄用溶剤の粘度が上昇する。酸化防止剤の濃度が充分である場合には重合が抑制され、粘度は低いままである。粘度を比較することによって容易に洗浄用溶剤中の酸化防止剤の濃度を確認することができる。
【0053】
前記洗浄用溶剤の光透過率が60%を下回った段階で、粉末状ヤシガラ炭に替えて吸着剤としての活性アルミナを装着し、ドライクリーニング機内部の洗浄用溶剤を循環させる。前記活性アルミナによって洗浄用溶剤中の酸化防止剤及びその着色成分が除去され、洗浄用溶剤は徐々に脱色され、光透過率が向上していく。
【0054】
前記吸着剤を装着した後のドライクリーニング機内部の洗浄用溶剤の循環時間は好ましくは1〜20時間、より好ましくは3〜15時間、最も好ましくは5〜10時間である。この範囲にあるとき、酸化防止剤及びその着色成分を効率的に吸着させることができる。循環時間が1時間未満の場合には、酸化防止剤及びその着色成分の吸着が十分でなく、逆に20時間を超える場合には、酸化防止剤及びその着色成分がほぼ吸着されているので、これ以上時間を延長しても光透過率の変化に乏しい。
【0055】
続いて、リモネンに酸化防止剤としてのジブチルヒドロキシトルエンを溶解させた濃縮液(ジブチルヒドロキシトルエン濃度2000ppm)30リットルをドライクリーニング機の洗浄用溶剤に混合する。該洗浄用溶剤中のジブチルヒドロキシトルエン濃度は当初と同じ200ppmとなる。
【0056】
前記濃縮液に界面活性剤を溶解させることにより、濃縮液に洗剤としての効果を付与することが好ましい。濃縮液が洗剤としての効果を有することにより、別途洗剤を添加する工程を省略することができる。
【0057】
前記界面活性剤としては例えば、脂肪族高級アルコ−ル硫酸エステルナトリウム塩、脂肪酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩(α−SFE)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、アルキル硫酸トリエタノールアミン等の陰イオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド等の陽イオン性界面活性剤、脂肪族高級アルコ−ルエチレンオキサイド付加物、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE)等の非イオン性界面活性剤、アルキルジメチルベタイン、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。
【0058】
前記界面活性剤の洗浄用溶剤に対する添加量は好ましくは0.01〜1.80重量%、より好ましくは0.02〜1.20重量%、最も好ましくは0.05〜0.80重量%である。この範囲にあるとき、脂溶性汚れの溶解性に優れるとともに、静電気の発生を効果的に抑制することができる。また、溶解した汚れを包み込んでエマルジョンとすることができるため、一度溶解した汚れが被洗浄物に再付着する「逆汚染」の発生を抑制することができる。界面活性剤の添加量が0.01重量%未満の場合には、水溶性汚れの溶解性が十分でないとともに、乾燥工程において静電気が発生するおそれがある。逆に1.80重量%を超える場合には、被洗浄物が含有する水分に対する溶解性が高まり、洗浄用溶剤の含水率が高くなってしまうため、油溶性汚れの溶解力が低下してしまうおそれがある。
【0059】
以上のようにして、洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度の低下と洗浄用溶剤自身の着色とのバランスを取ることができ、洗浄用溶剤の的確な交換又は再製をすることができる。
【0060】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記洗浄用溶剤としてテルペン又はその誘導体を用いることにより、石油等の化石資源を原料とする場合に比べ、地球温暖化を促進させることがない。
【0061】
・前記酸化防止剤の洗浄用溶剤100重量部に対する含有量が20〜1500ppmであることにより、リモネンの酸化を充分に抑制することができる。
【0062】
・前記酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を用いることにより、洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度を容易に確認することができる。
【0063】
・前記酸化防止剤濃度の低下と洗浄用溶剤の着色とのバランスを取ることで、洗浄用溶剤の交換又は再製の時期を的確に把握することができる。
【0064】
・前記洗浄溶剤としてリモネンを用いる場合には、酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンであることにより、リモネンとジブチルヒドロキシトルエンとの分子構造が似通っているために相溶性が良く、リモネンへのジブチルヒドロキシトルエンの溶解が容易なものとなる。
【0065】
・前記洗浄用溶剤を活性炭に通過させることにより、着色を促進させることができ、この際に、酸化防止剤濃度の減少量に合わせて最適な活性炭を選択することにより、酸化防止剤濃度を把握することができる。
【0066】
・前記活性炭がヤシ殻を原料とする破砕炭又は粉末炭であることにより、洗浄用溶剤の着色が最適なものとなる。
【0067】
・前記酸化防止剤の着色が進行した洗浄用溶剤を吸着剤に通過させることにより、洗浄用溶剤中の酸化防止剤及び着色成分が吸着剤に吸着され、洗浄用溶剤を再製することができる。
【0068】
・前記吸着剤がシリカ、アルミナ、ゼオライト、モンモリロナイトであることにより効率的に酸化防止剤及びその着色成分を吸着することができるとともに、洗浄用溶剤の着色度合いと洗浄用溶剤中の酸化防止剤濃度の低下とのバランスが最適となる。
【0069】
・前記吸着剤によって酸化防止剤及びその着色成分が減少した洗浄用溶剤に対して酸化防止剤を追加することにより、洗浄用溶剤中の酸化防止剤の濃度を回復させることができる。
【0070】
・前記洗浄用溶剤が洗浄工程を繰り返すたびに徐々に着色していくことにより、容易に洗浄用溶剤の交換又は再製の時期を知ることができる。
【0071】
・前記吸着剤を装着した後のドライクリーニング機内部の洗浄用溶剤の循環時間が1〜20時間であることにより、酸化防止剤及びその着色成分を効率的に吸着させることができる。
【0072】
・前記濃縮液に界面活性剤を溶解させることにより、別途洗剤を添加する工程を省略することができる。
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
【0073】
・前記実施形態においては、吸着剤によって洗浄用溶剤の再製を行っているが、洗浄用溶剤を新しく交換しても良い。
【0074】
・前記実施形態においては、洗浄用溶剤の光透過率が60%未満となった段階で吸着剤による洗浄用溶剤の再製を行っているが、洗浄工程に洗浄用溶剤の蒸留回収を含む場合には、着色物質は蒸留回収により残渣として除去されるため、酸化防止剤濃度の低下が早くなる。このような場合には光透過率が70%未満となった段階で洗浄用溶剤の交換又は再製を行うことが好ましい。
【0075】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
(1) 衣料等の洗浄に用いられる洗浄用溶剤において、該洗浄用溶剤が徐々に着色していくことを特徴とする洗浄用溶剤。
このように構成した場合、洗浄用溶剤の交換又は再製の時期を視覚によって容易に知ることができる。
【0076】
(2) 請求項1、請求項2または請求項3に記載の洗浄用溶剤ないし洗剤を使用した洗浄作業が洗浄に供する溶液の循環浄化工程を含むもので有り、浄化に当り、還元剤層に通過させることを特徴とする洗浄方法。
このように構成した場合、洗浄用溶剤中の酸化防止剤の酸化防止効果を回復させることができる。
【実施例】
【0077】
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
【0078】
試験はまず初めに、1リットルの容器中に無色透明の洗浄用溶剤300ccを収容し、該洗浄溶剤中にヤシガラ活性炭粉末を10g浸漬したものをふるい試験機(RETSCH社製AS200コントロール“g”)に設置し、1000回/分で48時間振とうした。
【0079】
(実施例1)
実施例1の試験は、洗浄用溶剤としてのリモネン(純度98.5%)に酸化防止剤としてのジブチルヒドロキシトルエンを500ppm添加して行った。
試験の結果、洗浄用溶剤は黄色く着色し、光透過率は振とう前を100%とした場合、84%に低下していた。このときのジブチルヒドロキシトルエンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、380ppmであった。また、リモネンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、97.1%であった。
【0080】
(比較例1)
比較例1の試験は、洗浄用溶剤としてのリモネン(純度98.5%)のみを使用して行った。
試験の結果、洗浄用溶剤は無色透明のままであり、光透過率は振とう前を100%とした場合、98%であった。また、リモネンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、94.0%であった。
続いて、実施例1及び比較例1の試験が終了した洗浄用溶剤から、ろ紙を用いてヤシガラ活性炭を分離し、再び1リットルの容器に収容して1000回/分で48時間振とうした。
【0081】
(実施例2)
実施例2の試験は、実施例1の試験が終了した洗浄用溶剤を用いた。
試験の結果、洗浄用溶剤はより黄色く着色し、光透過率は振とう前を100%とした場合、62%に低下していた。このときのジブチルヒドロキシトルエンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、60ppmであった。また、リモネンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、97.3%であった。
【0082】
(比較例2)
比較例2の試験は、比較例1の試験が終了した洗浄用溶剤を用いた。
試験の結果、洗浄用溶剤は無色透明のままであり、光透過率は振とう前を100%とした場合、95%であった。このときのリモネンの濃度をガスクロマトグラフによって測定したところ、90.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣料等の洗浄に用いる洗浄用溶剤及び/または洗剤にフェノール系酸化防止剤を含有したことを特徴とする洗浄用溶剤ないし洗剤。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄用溶剤の主成分がリモネンであり、フェノール系酸化防止剤が分子構造中に3単位以下のフェノール骨格を有するものであることを特徴とする洗浄用溶剤。
【請求項3】
請求項2に記載のフェノール系酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンであることを特徴とする洗浄用溶剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤ないし洗剤を使用した洗浄作業が洗浄に供する溶液の循環浄化工程を含むもので有り、浄化に当り、活性炭層に通過させた後、さらに吸着剤層を通過させることを特徴とする洗浄方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤を使用した洗浄作業において、洗浄用溶剤の酸化の程度を計るため、その一部を採取し酸化促進剤を指示薬とする滴定を行うことを特徴とする洗浄用溶剤の管理方法。
【請求項6】
請求項5記載の管理方法において、洗浄用溶剤の酸化の程度を計るために用いられる指示薬の主成分が酸化促進剤であることを特徴とする酸化防止剤指示薬。

【公開番号】特開2007−119576(P2007−119576A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312749(P2005−312749)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】