説明

洗浄用溶剤およびこれを用いた洗浄方法ならびに乾燥方法

【課題】塩素系洗浄用溶剤を主成分とする洗浄用溶剤の代替として、物品を十分な洗浄力で洗浄することができるとともに、環境や人体にやさしく、また、引火性が著しく抑制されて、取り扱いやすい洗浄用溶剤を提供する。特にはノズル内部等に付着したウレタンを溶かして十分に洗浄することができる洗浄用溶剤を提供する。
【解決手段】少なくともn−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有した溶剤に、水を配合したものである洗浄用溶剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品を洗浄するたのめの洗浄用溶剤に関し、特には環境や人体にやさしい洗浄用溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品を洗浄するにあたっては塩素系の洗浄用溶剤が幅広く用いられていた。例えば、ウレタン原液を所定領域に充填して冷蔵庫等の断熱パネルを製造するときに、ウレタン注入のためにノズルが用いられるが、そのノズルの内部を使用後に洗浄する場合、塩化メチレンを用いて洗浄が行われていた。
【0003】
このウレタン注入に使用されるノズルでは、使用後、内部にウレタン原液が残留しており、残留したウレタンは時間がたつと固化し、固化したウレタンによりノズル内部が閉塞されてしまう。これを防ぐために、上述したように、例えば塩化メチレンをノズル内部に導入し、ウレタンを溶かして洗浄を行っていた(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような塩素系の洗浄用溶剤やそれを主成分とする洗浄用溶剤は洗浄効果が非常に高いものの、安全性や環境や人体への影響が問題視されており、使用する場合はPRTR法等の環境上の規制法も考慮する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−71622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたもので、塩素系洗浄用溶剤を主成分とする洗浄用溶剤の代替として、物品を十分な洗浄力で洗浄することができるとともに、環境や人体にやさしく、また、引火性が著しく抑制されて、取り扱いやすい洗浄用溶剤を提供することを目的とする。特にはノズル内部等に付着したウレタンを溶かして十分に洗浄することができる洗浄用溶剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくともn−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有した溶剤に、水を配合したものであることを特徴とする洗浄用溶剤を提供する(請求項1)。
【0008】
このように、少なくともn−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有した溶剤に、水を配合したものであれば、まず、n−プロピルブロマイドにより、物品を十分に洗浄することが可能であるし、また、塩素系洗浄用溶剤を主成分とする洗浄用溶剤ではないため、環境や人体にやさしいものとすることができる。
【0009】
例えば、上述したウレタン原液を注入するときに使用するノズルの内部に残留したウレタンを溶かして洗浄することができる。この場合、本発明の洗浄用溶剤は、一価のアルコールを含有しているので、洗浄後のウレタンが溶けた廃液において、ウレタン反応が次々と生じて廃液が固化するのを効果的に阻止することができる。このため、洗浄後の廃液を蒸留精製して、廃液をリサイクルすることが可能である。この点においても、経済的に有利であるほか、環境にもやさしいものとなる。
【0010】
また、アルコールを含有しているため本来引火点を有することになるが、本発明は、このようなn−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有する溶剤にさらに水を配合したものであるので、引火点をなくして溶剤を非危険物とすることが可能である。あるいは、少なくとも引火点がなくならないまでも、引火点を上げて燃えにくくすることができる。
【0011】
このとき、前記一価アルコールが、n−プロピルアルコールであるものとすることができる(請求項2)。
このように、溶剤に含有されている一価アルコールがn−プロピルアルコールであれば、n−プロピルアルコールは引火点が低すぎることもなく比較的扱いやすいものであるとともに、低価格で用意することができるためコストを低減することができる。また、高純度のものを用意できるのが、高清浄度が要求されるものの洗浄に適している。
【0012】
また、前記水が、0.75wt%以上配合されたものであるのが好ましい(請求項3)。
このように、水が0.75wt%以上配合されていれば、引火点を特に効果的に上げて燃えにくくすることができ、さらには引火点をなくすことができる。
【0013】
そして、さらに、ニトロアルカン類、エーテル類、エポキシド類およびアミン類から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有するものとすることができる(請求項4)。
このように、さらに、ニトロアルカン類、エーテル類、エポキシド類およびアミン類から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有するものとすれば、洗浄用溶剤の分解を抑制して物性が安定した洗浄用溶剤とすることができる。
【0014】
また、さらに、シリコン系溶剤、フッ素系溶剤、塩素系溶剤および石油系溶剤から選ばれる少なくとも1つの溶剤を含有するものとすることができる(請求項5)。
このように、さらに、シリコン系溶剤、フッ素系溶剤、塩素系溶剤および石油系溶剤から選ばれる少なくとも1つの溶剤を含有するものであれば、目的に応じて適当量配合することで、物品をより効果的に洗浄することができる。
【0015】
また、本発明は、前記の洗浄用溶剤を用いてウレタンを溶かして洗浄することを特徴とする洗浄方法を提供する(請求項6)。
このように、前記の洗浄用溶剤を用いてウレタンを溶かして洗浄する洗浄方法であれば、n−プロピルブロマイドにより、ウレタン注入のためのノズルなどの物品に付着したウレタンを溶かし、物品を十分に洗浄することが可能である。
【0016】
また、一価アルコールの存在により洗浄後の廃液においてウレタン反応が進行するのを停止させ、廃液が固化するのを効果的に防止することができるので、例えば蒸留精製することにより廃液をリサイクルすることが可能である。
このように廃液を再利用することができるので、環境にやさしいし、塩素系の溶剤を主成分とするのではないので、環境や人体に対する影響を著しく低減することができる上に、経済的である。
【0017】
さらに、水が配合されて引火点があがって燃えにくかったり、あるいは引火点がない洗浄用溶剤を用いるので、比較的取り扱いやすく簡便に洗浄することができる。そして、軟質、半硬質、硬質、あるいはエラストマータイプのいずれのウレタンに対しても好適に用いることができる。
【0018】
また、本発明は、前記の洗浄用溶剤を用いて水切り乾燥を行うことを特徴とする乾燥方法を提供する(請求項7)。
このように、前記の洗浄用溶剤を用いて水切り乾燥を行う乾燥方法であれば、効果的に洗浄した物品の乾燥を行うことができる。また、例えば従来のようにイソプロピルアルコールを用いて水切り乾燥を行う場合よりも、防爆装置が不要であり、安全性を向上することができるとともに、設備費を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の洗浄用溶剤によって、環境や人体への悪影響を著しく低減することができるとともに、十分な洗浄力により物品を洗浄することが可能である。また、引火性を低減し、安全性を向上し、取り扱いやすいものとすることができる。
そして、本発明の洗浄用溶剤を用いることにより、効果的に、ウレタンを溶かして洗浄することができたり、物品の水切り乾燥をより安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述したように、従来広く用いられてきた塩素系洗浄用溶剤を主成分とした溶剤では、環境等へ悪影響を及ぼしてしまうことが問題とされており、この塩素系洗浄用溶剤のように十分な洗浄力を有しつつ、環境等へ与える影響が少なく、より安全な代替溶剤が求められている。
【0021】
特には、ウレタン原液を注入するときに用いるノズルについて、使用後にノズル内部に残留するウレタンが固化することにより閉塞されてしまうのを防ぐため、従来では塩化メチレンを使用して洗浄していたが、これに替わることができる有効な溶剤が求められている。
【0022】
そこで本発明者らが、この代替溶剤について鋭意研究を重ねたところ、n−プロピルブロマイドと一価アルコールを少なくとも含有しており、さらに水を配合した洗浄用溶剤であれば、幅広い用途に使用できる溶剤とすることができるとともに、特にウレタンの洗浄に関して、高い洗浄力を有し、かつ環境問題等に対しても十分に配慮された洗浄用溶剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
以下、本発明の洗浄用溶剤について、さらに詳細に説明する。
本発明の洗浄用溶剤は、上記のように、少なくとも、n−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有しており、さらに水を配合した洗浄用溶剤である。このn−プロピルブロマイド、一価アルコール、水についてさらに述べる。
【0024】
まず、毒性も少なく、物性も比較的安定しているn−プロピルブロマイドを含有していることより、物品に対して十分な洗浄力を安定して有するとともに、比較的安全に用いることができる洗浄用溶剤とすることができる。
このように洗浄用溶剤として、臭素系の溶剤を主成分とすることにより、従来の塩素系の溶剤を主成分としたものとは異なり、環境への影響を著しく低減することができる。したがって、環境等への配慮に優れた洗浄用溶剤とすることができ、好適に使用することができるものとなる。
【0025】
なお、n−プロピルブロマイドの物性を安定させるため、例えば安定剤を含有させることもできる。安定剤を入れることによって、より確実に安定して洗浄を行うことが可能になる。安定剤としては、ニトロアルカン類、エーテル類、エポキシド類、アミン類などが挙げられる。これらの中から少なくとも1種を含有させることが可能である。
このとき、安定剤の含有量は、洗浄する物質の材質や洗浄を行う際の洗浄条件等に応じて適宜調節することができる。
【0026】
また、一価アルコールを含有しているので、例えばウレタンの洗浄に用いた場合、洗浄後の廃液において、ウレタン反応(ウレタン結合)が進行し、廃液が固化するのを効果的に防止することができる。そして、この廃液を蒸留精製等行うことにより、廃液をリサイクルすることができる。
【0027】
これは、例えばウレタン原液を注入するためのノズルを洗浄した場合、本発明の洗浄用溶剤中のn−プロピルブロマイドにより、ノズル内部に残留する固化したウレタンが溶けて洗い出されるが、そのウレタンが溶けて、複数のイソシアネート基を有するイソシアネートと複数の水酸基を有するポリオールが存在する廃液中において、イソシアネートとポリオールがイソシアネート基と水酸基とで結合するウレタン反応が生じてしまう。それぞれ複数のイソシアネート基または水酸基を有しており、上記ウレタン反応により分子鎖が大きくなっていく。このようにしてウレタン反応が次々と進行していき、廃液が固化してしまう。
【0028】
しかしながら、本発明のように、溶剤中に一価のアルコールを含有していれば、使用後の廃液中において、イソシアネートのイソシアネート基に、一価のアルコールの水酸基が結合することによって、イソシアネートとポリオールが結合するのを阻害することが可能である。一価のアルコールは水酸基は1つのみなので、複数の水酸基を有するポリオールとは異なって、分子鎖が増大していくのを防ぐことができる。このように、ウレタン反応が次々と生じるのを防止し、廃液が固化するのを効果的に防止することができ、廃液の回収率も改善することが可能である。
【0029】
このような一価アルコールは特に限定されるものではないが、例えばn−プロピルアルコール、メタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、オクタノール、ベンジルアルコール、t−ブチルセロソルブ等とすることができる。特にn−プロピルアルコールであれば、表8に示すように、引火点が低すぎることもなく、また、比較的安価で純度の高いものを手に入れることができるので好ましい。当然、他の一価アルコールを使用することもできる。洗浄の対象物や洗浄条件、コスト等を考慮して、その都度決定することができる。
【0030】
また、この一価アルコールの溶剤中の割合が大きければ大きいほど、当然上記のウレタン反応が進行するのを阻害しやすくなり、蒸留精製してリサイクルしやすくなるが、しかしながら、一方で、一価アルコールの割合が大きくなるほど、当然引火性を有し、引火点も低くなり溶剤が燃えやすくなってしまう。このように引火性を有するものであると、例えば消防法にふれてしまい、取り扱いの面で不便である。
【0031】
そこで本発明者らは、水を意図的に配合することによって、このような引火性をなくす、あるいは引火点を高くしてより燃えにくい溶剤にすることができることを見出した。
すなわち、上記のように、本発明の洗浄用溶剤にはアルコールが含まれており、アルコールの割合が大きくなれば、そのままでは引火点が存在する溶剤となるが、水を所定量配合することにより、引火点を上げて火がつきにくい洗浄用溶剤とすることができる。さらには、水を適当量配合させることにより、引火性をなくすことも可能であることを発見した。特に引火性をなくすことができれば、非危険物とすることができ、取り扱い等が容易になる。
【0032】
そして、本発明者らがさらに研究を重ねた結果、水を例えば0.75wt%以上配合させたものであれば、特に効果的に燃えにくいものとすることができることがわかった。
なお、このような引火点をなくすことができる、あるいは引火点を上げて燃えにくいものとできる水の濃度は、同洗浄用溶剤中の一価アルコールの量や他の成分の量等により大きく異なるため、その都度予め実験等を行い、その適切な水の量を測定し、その分だけ水を配合させれば良い。
【0033】
このように、水を配合することによって引火点をある程度調整することもできるので、本発明の洗浄用溶剤における一価アルコールの量を比較的多めにすることも可能になる。すなわち、イソシアネートが比較的少ない軟質ウレタンのみならず、イソシアネートが比較的多い硬質ウレタンを溶かして洗浄を行った場合においても、ウレタン反応の進行を十分に阻害でき、廃液のリサイクルを行うことが可能である。
硬質ウレタンを溶かした廃液中ではイソシアネートが多量に存在しているが、その廃液中のイソシアネートの量に対して不足することなく、同様に多量に一価アルコールを含有させることができ、イソシアネートとポリオールでのウレタン反応を効果的に抑制することが可能である。
【0034】
なお、水の配合の割合を必要以上に大きくしすぎると、例えば本発明の洗浄用溶剤を貯蔵しておくための貯蔵缶をサビさせてしまったり、あるいは溶剤の安定性等に影響を与えてしまう可能性があるため、できるだけ小さい割合で配合するのが好ましい。
このような適切な水の配合の割合(上限等)に関しても、洗浄用溶剤の他の成分等により変化するので、予め実験を実施することによってその都度適切な水の量を決定すれば良い。
【0035】
このように、少なくともn−プロピルブロマイド、一価アルコールを含有し、水を配合した本発明の洗浄用溶剤は、目的に応じて、さらに、例えばシリコン系溶剤、フッ素系溶剤、塩素系溶剤、石油系溶剤等の溶剤を含有させることが可能である。これらの溶剤はそれぞれ単独で本発明の洗浄用溶剤に含有させても良いし、またこれらの溶剤を複数組み合わせて洗浄用溶剤に含有させても良い。
【0036】
例えば、フッ素系溶剤をさらに含有させた本発明の洗浄用溶剤であれば、この溶剤をドライクリーニング等に用いる場合、洗浄用溶剤に塩素が含まれないようにする(または、微量にする)ことができるし、また火傷や肌荒れ等の人体への影響もなくすことができるので、環境や人体に対する悪影響を著しく抑制した好適な洗浄用溶剤とすることができる。
【0037】
そして、本発明では、以上のような本発明の洗浄用溶剤を用い、ウレタンを溶かして洗浄を行う洗浄方法を提供する。
ウレタン原液を所定の空間に注入する際にノズル等を用いて行うが、注入後のノズル内部にはウレタン原液が残留しており、時間が経つにつれてウレタンが固化してしまう。そして固化することによりノズル内部が閉塞されてしまい、そのままではノズルを介してウレタン原液を注入することができなくなる。
【0038】
そこで、本発明の洗浄用溶剤をノズル内部に供給すれば、ノズル内部で固化したウレタンを溶かして洗浄することができる。従来のような塩素系洗浄用溶剤を主成分とした溶剤でなくとも、臭素系洗浄用溶剤であるn−プロピルブロマイドによって、十分にノズル内部を洗浄することができる。
【0039】
そして、本発明の洗浄方法を実施した場合、この洗浄後の廃液を再利用することが可能である。前述したように、本発明の洗浄用溶剤中に含有された一価アルコールが廃液中のイソシアネートと結合することによって、廃液中のイソシアネートとポリオールとが鎖状に次々とウレタン結合して廃液の固化が進行するのを効果的に防止することが可能である。このため、この廃液を蒸留精製することができ、廃液をリサイクルすることができる。
【0040】
また、本発明の洗浄方法を実施すれば、軟質ウレタンのみならず硬質ウレタンを溶かして洗浄した廃液をもリサイクルすることができる。本発明の洗浄用溶剤は水を配合したものであり、上記の一価アルコールを含有することにより有する引火性をなくすことができたり、あるいはその引火点を上げて、より燃えにくいものとすることができ、比較的アルコール含有量を多めにしても取り扱いが容易なものとすることができる。このようにアルコール含有量が高ければ、比較的イソシアネートの量が多い硬質ウレタンであっても、そのイソシアネートの量に対して不足することなく一価アルコールを提供することができ、イソシアネートとポリオールによりウレタン結合が次々と進行するのを抑制して廃液の固化の進行を阻止することができる。
【0041】
なお、上記ではノズル内部のウレタンを例に挙げて述べたが、洗浄の対象とされる物品は、当然このようなノズルに限定されず、例えばウレタン原液を貯めておくタンク等とすることもできる。
【0042】
また、本発明の洗浄用溶剤は、洗浄物を汚染することなく水切り乾燥を行う場合に好適に用いることができる。
例えば基板を水で洗浄し、その後水切り乾燥を行う場合、従来ではイソプロピルアルコールの蒸気中に基板を配置し、基板に付着した水とイソプロピルアルコールとの置換を行って脱水を行っていた。このような従来法では、イソプロピルアルコールは発火性があるため、水切り乾燥を行う装置には防爆のための対策が必要である。
【0043】
しかしながら、上記イソプロピルアルコールの代わりに本発明の洗浄用溶剤を用いて水切り乾燥を行えば、すなわち水を適量配合することにより基板を汚染することなく引火点のない洗浄用溶剤で水切り乾燥を行うことが可能であるため、従来の方法では懸念される爆発等が生じる可能性を著しく低減することができ、安全性を向上することができる。
また、防爆のための装備等も、従来と比べて緩和することも可能であり、コストの低減を図ることが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
(実施例1〜5)
本発明の洗浄用溶剤を用意し、クリーブランド開放式試験を行い、各サンプルの引火点の測定を行った。用意したサンプルは、それぞれ溶剤X(引火点なし)を85wt%、(n−プロピルアルコール+水)を15wt%の割合で混ぜたものである(表1参照)。A〜Eは表3におけるn−プロピルアルコールと水の割合を変えたサンプルである。
溶剤Xの組成と各成分の物性を表2に示す。表2に示すように、溶剤Xはn−プロピルブロマイドが95wt%、安定剤(ニトロエタン、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン)が5%である。
また、n−プロピルアルコールと水の割合を表3に示す。
なお、クリーブランド開放式試験を行ったときの引火点の判定について、5秒以上継続燃焼したときの温度を引火点とした。また、サンプルが完全沸騰した温度においても5秒以上継続燃焼しなかった場合を引火点なしと判定した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
試験の結果を表4に示す。表4のように、実施例2〜5においては引火点がなかった。すなわち、このような組み合わせの場合、洗浄用溶剤全体における水の割合が0.75wt%以上であれば引火性がなく、非危険物とすることができることが判る。
なお、実施例1では、溶剤X、n−プロピルアルコール、水をそれぞれ混合したときに攪拌しても白濁したままであったため、クリーブランド開放式試験は行わなかった。白濁したのは、水の割合が大きく、溶剤Xが溶けきらなかったためと考えられる。
【0049】
【表4】

【0050】
(実施例6〜9)
溶剤Xの代わりにn−プロピルブロマイド(ブチレンオキサイド500ppm含む)を用い、n−プロピルブロマイドを85wt%、(n−プロピルアルコール+水)を15wt%の割合で混合し(表5、表6参照)、クリーブランド開放式試験を行った(実施例6、7)。
また、n−プロピルブロマイドを84.5wt%、ブチレンオキサイドを0.5wt%、(n−プロピルアルコール+水)を15wt%の割合で混合した洗浄用溶剤についても同様の試験を行った(実施例8、9)。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
試験の結果を表7に示す。表7に示すように、洗浄用溶剤全体における水の割合が0.75wt%の実施例6では引火点がなかったが、水の割合が0.375wt%の実施例7ではサンプルが完全沸騰したときに引火して継続燃焼した(引火点:67℃)。
また、単独での引火点が−22℃で燃えやすいブチレンオキサイドを洗浄用溶剤全体に対して0.5wt%混ぜた実施例8(水の割合:0.75wt%)では、サンプルが完全沸騰したときに引火して継続燃焼した(引火点:66℃)。そして、実施例9(水の割合:0.375wt%)でも、サンプルが完全沸騰したときに引火して継続燃焼した(引火点63℃)。
【0054】
このように、実施例6、7から判るように、実施例6、7の洗浄用溶剤の組成であれば、水の割合が0.75wt%以上あれば引火点がない洗浄用溶剤とすることができる。
また、実施例6、8から判るように、例えばブチレンオキサイド等の燃えやすいものをさらに混入させた溶剤の場合は、引火点が生じてしまう場合がある。ただし、引火点は十分に高くすることができ、本発明により、引火しにくくできていることが判る。このように、洗浄用溶剤において、たとえ水の割合が同じであったとしても、その組成により引火性の有無が変化する。そして、実施例8、9から判るように、水の割合が大きいほど引火点が上がり、燃えにくくなることが判る。
【0055】
【表7】

【0056】
(比較例1〜8)
溶剤Xとアルコールを混合した洗浄用溶剤を用意し、クリーブランド開放式試験を行った。
各サンプルにおいて、溶剤Xとアルコールの混合割合、アルコールの種類、引火点についてまとめたものを表8に示す。アルコールの種類の項目におけるかっこ内は、アルコール単独での引火点である。
表8に示すように、いずれのサンプルも引火性を有する結果となった。
【0057】
ここで、例えば表8の比較例3の洗浄用溶剤(引火点46.0℃)は、溶剤Xを95wt%、アルコール(n−プロピルアルコール(引火点24℃))を5wt%の割合で混合したものであるが、上述したように溶剤Xは引火性がないので、溶剤Xの混合割合を減らし、アルコールの混合割合を増やせば、当然より燃えやすい洗浄用溶剤になると考えられる。すなわち、例えば溶剤Xが85wt%、アルコール(n−プロピルアルコール)が15wt%の割合で混合した洗浄用溶剤Yは、引火点が46℃以下になると考えられる。
そして、この洗浄用溶剤Yと、実施例5、実施例7〜9とを比較して判るように、洗浄用溶剤全体におけるアルコールの割合がほとんど同程度(15wt%)であるにもかかわらず、水を配合していない洗浄用溶剤Yでは引火点が46℃以下で存在するが、水を配合した実施例5では引火点はなくなっている。
また、実施例7〜9では、上述したように引火点は存在するものの、引火点は63℃以上であり、洗浄用溶剤Yの引火点(46℃以下)と比べて著しく引火性が低くなっている。
このように、各比較例のように、水を配合していない洗浄用溶剤とは異なり、各実施例における本発明の洗浄用溶剤のように水を意図的に配合すれば、引火性をなくしたり、あるいは引火点を高くして燃えにくい洗浄用溶剤とすることができることが良く判る。
【0058】
【表8】

【0059】
(実施例10〜15)
本発明における洗浄用溶剤(溶剤X+n−プロピルアルコール+水)H、Iを用い、まず、ビーカー内においてウレタン(50g)と混ぜて、ウレタンを溶かして十分洗浄できるかどうかについて試験を行った。
各サンプルの溶剤X、n−プロピルアルコール、水の混合割合を表9に示す。
また、洗浄に用いた各サンプルの量は、ウレタン50gに対し、それぞれ、H(480g:実施例10、240g:実施例11、100g:実施例12)、I(480g:実施例13、240g:実施例14、100g:実施例15)とした。
【0060】
【表9】

【0061】
いずれのサンプルもウレタンを溶かすことができ、それぞれ十分に洗浄することができることがわかった。
続いて、洗浄後の廃液を蒸留精製し、廃液をリサイクルできるかどうかの試験を行った。
実施例10〜12の洗浄後の廃液のリサイクル結果を表10に示す。
表10に示すように、まず、実施例10、11の廃液では、蒸留精製でき、65vol%以上の量を回収することができた。このように、ウレタンに対し、洗浄用溶剤中(廃液中)の一価アルコール量が比較的多ければ、ウレタン反応が進行するのを効果的に妨げることができ、したがって廃液が固化せず蒸留精製等の工程にかけることが可能であり、リサイクルすることができる。
【0062】
一方、実施例12では、廃液が固化してしまい、廃液を蒸留精製の工程にかけることができなかった。これは、ノズルの内部に残留するウレタンを溶かして十分に洗浄することができたものの、ウレタン量に対する一価アルコールの含有量が少ないために、廃液中でのイソシアネートとポリオールとのウレタン反応の進行を効果的に阻止することができず、廃液の固化が進んでしまったものと考えられる。
【0063】
なお、実施例13〜15の洗浄後の廃液についてもリサイクルできるかどうかの試験を行ったところ、ウレタンに対し、一価アルコール量が比較的多い実施例13、14は、実施例10、11と同様にリサイクルすることができ、回収率は65vol%以上であった。
また、実施例15では、実施例12と同様に廃液が固化し、廃液を蒸留精製の工程にかけられなかった。
【0064】
【表10】

【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
上記では、本発明の洗浄用溶剤を、ウレタンの溶解洗浄、基板等の洗浄後の水切り乾燥に用いることを紹介したが、本発明の洗浄用溶剤の用途はこれに限定されず、洗浄することが必要な種々の物品の洗浄およびこれに引き続き乾燥に用いることができる。例えば、衣類等の繊維物の洗浄、乾燥、半導体基板や石英基板等の精密基板の洗浄、乾燥、さらには、金属部品、レンズ、センサーやICのパッケージ、種々化学製品の製造プロセスで用いられる装置等の洗浄、乾燥に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともn−プロピルブロマイドと一価アルコールを含有した溶剤に、水を配合したものであることを特徴とする洗浄用溶剤。
【請求項2】
前記一価アルコールが、n−プロピルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄用溶剤。
【請求項3】
前記水が、0.75wt%以上配合されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄用溶剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤であって、さらに、ニトロアルカン類、エーテル類、エポキシド類およびアミン類から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有するものであることを特徴とする洗浄用溶剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤であって、さらに、シリコン系溶剤、フッ素系溶剤、塩素系溶剤および石油系溶剤から選ばれる少なくとも1つの溶剤を含有するものであることを特徴とする洗浄用溶剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤を用いてウレタンを溶かして洗浄することを特徴とする洗浄方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の洗浄用溶剤を用いて水切り乾燥を行うことを特徴とする乾燥方法。


【公開番号】特開2008−7690(P2008−7690A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181124(P2006−181124)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(593145766)美浜株式会社 (10)
【Fターム(参考)】