説明

洗米水乾固物量の光学方式による測定装置及び測定方法

【課題】本発明は、重回帰分析手法を採用して短時間に洗米水乾固物量を測定し得る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1は、予め調整した洗米水Lを収容するセル2と、このセル2内の洗米水Lの可視光、紫外光による光学測定を行い可視光、紫外光の透過光量信号を出力する光学測定装置3と、各透過光量信号から選択した透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水Lの既知の対応する透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置4と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重回帰分析手法を採用して短時間に洗米水乾固物量を測定し得る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置及び測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、米の品質評価方法の一つとして、洗米水乾固物が考えられている。すなわち、洗米水乾固物の量の多寡は水質汚染の指標として取りざたされたり、米関連業界で無洗米の品質としてとらえられたりしている。
【0003】
後者の例としては、(社団法人)日本精米工業会が無洗米の物理的条件の指導指針として、無洗米は所定の方法で洗米した液の1/6を抽出して乾固物量を求め、その結果を6倍して、試験米100gあたりの乾固物量に相当する値に換算した乾固物量が0.90g以下、それ以外の方式では0.60g以下であること謳っている。しかし、実際の評価方法は乾燥法に拠るものなので測定作業に時間がかかる。
【0004】
(社団法人)日本精米工業会の指導指針によると、15〜20℃の水150mLの中に試料米100gを入れて、100回手で振盪後、その上澄み液を25mL採取し、乾燥(105℃乾燥器で6〜7時間乾燥)した後、放冷してから乾固物の質量を測定するとなっている。簡便法として試料米20gを用いる場合も挙げられているものの、乾燥時間は3時間としている。いずれの場合も所要の設備を要し、測定時間も長時間となっている。
また、炊飯業者間においては、乾固物量が多いと釜底が炊飯時に焦げて炊飯品質を低下させたり、洗米に多くの時間と水を浪費し、下水環境を富栄養化させてしまうことも懸念されている。
【0005】
特許文献1には、本発明に関連する技術として、洗米水の上澄みに紫外光を照射して洗米水中のフェルラ酸が紫外光に励起されて発する蛍光の強度を測定し、その測定値を基に洗米水中の糠量を判定するように構成した糠量測定装置が提案されている。
【0006】
この特許文献1の場合、懸濁液の浮遊粒子の影響を避けるため、測定試料が洗米水を一定時間静置した後の上澄みを用いている。そのため、60分程度の待ち時間を必要としているものであり、短時間に洗米水乾固物量を測定する装置とはいえないのが現状であり実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−245740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、重回帰分析手法を採用して短時間に洗米水乾固物量を測定し得る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置は、予め調整した洗米水を収容する洗米水収容手段と、この洗米水収容手段内の洗米水の2波長による光学測定を行い透過光量信号を出力する光学測定装置と、前記透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の透過光量データに基づく、懸濁浮遊粒子の存在の影響を考慮した検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置と、を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、洗米水乾固物量の測定を光学的に短時間で行うものであることから、従来の乾燥法に係る設備を廃し、作業時間と労力を大幅に軽減しつつ洗米水乾固物量に関する高精度の重回帰分析処理結果を得ることができる洗米水乾固物量の光学方式による測定装置を提供することができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、洗米水乾固物量の測定を可視光、紫外光による2波長の構成の基に懸濁浮遊粒子の静置を待たずに光学的に短時間で行うものであることから、請求項1記載の発明と同様、従来の乾燥法に係る設備を廃し、作業時間と労力を大幅に軽減しつつ洗米水乾固物量に関する高精度の重回帰分析処理結果を得ることができる洗米水乾固物量の光学方式による測定装置を提供することができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、洗米水を洗米水収容手段に収容する過程、洗米水の光学測定を行い透過光量信号を出力する過程、重回帰分析により懸濁浮遊粒子の影響による透過光量を補正し、測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する過程という一連の過程の採用により、従来の乾燥法に係る設備を廃し、作業時間と労力を大幅に軽減しつつ洗米水乾固物量に関する高精度の重回帰分析処理結果を得ることができる洗米水乾固物量の光学方式による測定方法を提供することができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、洗米水を洗米水収容手段に収容する過程、洗米水の可視光、紫外光による2波長での光学測定を行い各透過光量信号を出力する過程、重回帰分析により懸濁浮遊粒子の影響による透過光量を補正し、測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する過程という一連の過程の採用により、請求項3記載の発明と同様、従来の乾燥法に係る設備を廃し、作業時間と労力を大幅に軽減しつつ洗米水乾固物量に関する高精度の重回帰分析処理結果を得ることができる洗米水乾固物量の光学方式による測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置の全体構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置における検量線データの一例を示すグラフである。
【図3】本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置における重回帰分析処理結果(乾固物の推定値)を示すグラフである。
【図4】本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置における重回帰分析処理結果(重相関係数、重決定係数、補正、標準誤差、観測数)の値を示す図である。
【図5】本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置による測定方法の処理過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、重回帰分析により懸濁浮遊粒子の影響による透過光量を補正し、短時間に洗米水乾固物量を測定し得る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置を提供するという目的を有するものである。
【0016】
本発明の洗米水乾固物量の光学方式による測定装置は、予め調整した洗米水を収容する洗米水収容手段と、この洗米水収容手段内の洗米水の可視光、紫外光による光学測定を行い可視光、紫外光の透過光量信号を出力する光学測定装置と、前記各透過光量信号から選択した透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の対応する透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により懸濁浮遊粒子の影響による透過光量を補正し、測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置と、を有する構成により上記目的を実現した。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1及び測定方法について図1乃至図5を参照して詳細に説明する。
【0018】
本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1は、予め例えば米を洗米することにより調整した洗米水を収容する洗米水収容手段である透明樹脂製のセル2と、このセル2内の洗米水Lの光学測定を行い透過光量信号を出力する光学測定装置3と、前記透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の透過光量データに基づく検量線データとを基に、測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置4と、を有している。
【0019】
前記光学測定装置3は、可視光をセル2に向けて射出する例えばLEDからなる可視光光源11と、セル2を透過した透過光を受光する可視光センサ12と、紫外光をセル2に向けて射出する例えば紫外線ランプからなる紫外光光源13と、セル2を透過した紫外光を受光する紫外光センサ14と、を具備し、2波長による測定を行うように構成している。
【0020】
前記演算・出力装置4は、全体の制御を行う制御部20、動作プログラムを格納したROM21を具備している。
【0021】
そして、前記制御部20により、可視光センサ12、紫外光センサ14からの透過光量信号を取り込み透過光量データを生成する透過光量データ生成部31と、前記透過光量データと、予め取得している洗米水の既知の透過光量データに基づく検量線データを記憶する検量線データ記憶部32と、前記透過光量データと検量線データとに基づき重回帰分析処理を行い洗米水に関する懸濁浮遊粒子の影響による透過光量を補正し、乾固物量の推定演算処理を行う重回帰分析処理部33と、重回帰分析処理部33の処理結果を記憶する記憶部34と、処理結果を出力する出力手段であるディスプレイ35、プリンタ36と、各種データ入力を行う入力部37との各々動作制御を行うようになっている。
【0022】
前記光学測定装置3と、前記演算・出力装置4とは、必要に応じて一体に組み上げることも勿論可能である。
【0023】
前記検量線データ記憶部32には、図2に一例を示すように、洗米水の可視光による既知の透過光量データに基づく検量線データ(log(LED)で示す)、洗米水の紫外光による既知の透過光量データに基づく検量線データ(log(UV)で示す)等を吸光度:OD(Optical Density)に関連付けて記憶している。
【0024】
ここに、吸光度は、OD=−log(試料透過光量/空気透過光量)で定義しているものである。
【0025】
可視光光源11からの透過光に基づく透過光量データは「懸濁状態」の補正情報となり、紫外光光源13からの透過光に基づく透過光量データと比較して洗米水の乾固物量を推定する。
【0026】
次に、本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1を使用した洗米水乾固物量の光学方式による測定方法について、図3、図4及び図5を参照して説明する。
【0027】
最初に、図5に示すように、前記セル2に予め例えば米を洗米することにより調整した洗米水を収容する(ステップS1)。
【0028】
次に、このセル2に対して前記光学測定装置3により2波長による光学測定を行う(ステップS2)。
【0029】
すなわち、可視光光源11、紫外光光源13を順番に点灯させ、光量が安定する一定時間経過後前記セル2を光学測定装置3にセットし、セル2を透過した各透過光を可視光センサ12、紫外光センサ14により各々受光して、各出力信号を前記演算・出力装置4に送出する。
【0030】
次に、演算・出力装置4の透過光量データ生成部31により、可視光センサ12、紫外光センサ14からの透過光量信号を各々取り込み、各々透過光量データを生成する(ステップS3)。
【0031】
次に、前記重回帰分析処理部33により、検量線データ記憶部32から例えば既知の可視光による透過光量データに基づく検量線データを読み込むとともに(ステップS4)、例えば可視光センサ12からの透過光量信号を取り込み(ステップS5)、これらを基に所定の重回帰式による重回帰分析処理を実行(ステップS6)して、図3に示すような重回帰分析処理結果を得る。
【0032】
このときの重回帰分析処理における重相関係数、重決定係数、補正(自由度調整済決定係数)、標準誤差、観測数の各値を図4に示す。
【0033】
なお、検量線データ記憶部32から例えば既知の紫外光による透過光量データを読み込み、紫外光センサ14からの透過光量信号を取り込んで、所定の重回帰式による重回帰分析処理を実行して、図3に示す場合と同様な重回帰分析処理結果を得るようにすることも可能である。
【0034】
以上説明した本実施例に係る懸濁浮遊粒子の影響を補正する洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1及び測定方法によれば、洗米水乾固物量の測定を光学的に短時間で行うものであることから、従来の乾燥法に係る設備を廃し、作業時間と労力を大幅に軽減しつつ図3に示すような高精度の重回帰分析処理結果を得ることができる。
【0035】
更に付言すると、測定精度として検量線精度を維持でき、乾燥法のような設備や測定技能が不要であり、乾燥法に比べ省エネルギーを実現でき、操作に携わる作業者の個人差も軽減でき、更には、機器による測定なのでパソコン等を併用すれば出力データを集計し易い等の種々の有益な効果を奏するものである。
また、本実施例に係る洗米水乾固物量の光学方式による測定装置1及び測定方法によれば、既存のCOD測定器にソフト機能のみを追加した態様で、CODと、SS(Suspended Solid:懸濁固形分=乾固物)とをセットで評価することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、上述したような米の洗米水乾固物量の測定に適用する場合の他、原料を洗浄して食用物に加工する例えば麦等の他の種類の穀類の研ぎ水乾固物量の測定にも広範に応用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 洗米水乾固物量の光学方式による測定装置
2 セル
3 光学測定装置
4 演算・出力装置
11 可視光光源
12 可視光センサ
13 紫外光光源
14 紫外光センサ
20 制御部
21 ROM
31 透過光量データ生成部
32 検量線データ記憶部
33 重回帰分析処理部
34 記憶部
35 ディスプレイ
36 プリンタ
37 入力部
L 洗米水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め調整した洗米水を収容する洗米水収容手段と、
この洗米水収容手段内の洗米水の光学測定を行い透過光量信号を出力する光学測定装置と、
前記透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置と、
を有することを特徴とする洗米水乾固物量の光学方式による測定装置。
【請求項2】
予め調整した洗米水を収容する洗米水収容手段と、
この洗米水収容手段内の洗米水の可視光、紫外光による光学測定を行い可視光、紫外光の透過光量信号を出力する光学測定装置と、
前記各透過光量信号から選択した透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の対応する透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する演算・出力装置と、
を有することを特徴とする洗米水乾固物量の光学方式による測定装置。
【請求項3】
予め調整した洗米水を洗米水収容手段に収容する過程と、
この洗米水収容手段内の洗米水の光学測定を行い透過光量信号を出力する過程と、
前記透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する過程と、
を含むことを特徴とする洗米水乾固物量の光学方式による測定方法。
【請求項4】
予め調整した洗米水を洗米水収容手段に収容する過程と、
この洗米水収容手段内の洗米水の可視光、紫外光による光学測定を行い可視光、紫外光の透過光量信号を出力する過程と、
前記各透過光量信号から選択した透過光量信号と、予め記憶保持している洗米水の既知の対応する透過光量データに基づく検量線データとを基に、重回帰分析により測定対象である洗米水の乾固物量を推定し、出力する過程と、
を含むことを特徴とする洗米水乾固物量の光学方式による測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−185800(P2010−185800A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30516(P2009−30516)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000129884)株式会社ケット科学研究所 (13)
【出願人】(501264275)伊藤忠ライス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】