説明

津波防波堤

【課題】費用や時間を削減でき、船舶の航行や、自然環境に影響を与えず、景観も損なわない津波防波堤を提供する。
【解決手段】防災上必要とされる高さを持ち、水上に浮上できる缶体1を成型しこれを堤体2とし、堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設け、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12を持つ津波防波堤にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は津波防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波の多くは地震による海底のズレや火山活動により発生すると考えられており、沿岸地域では、常々津波に対する備えが必要であることは一般に理解されることであるが、従来の津波防波堤は、防波堤を大きく、重く、堅固にすることで津波の衝撃に耐えるという考えで設計されていることから、きわめて多量の資材を用いて建設しなければならず、建設には長い期間が必要となり、多額の建設費用がかかるという問題点があった。
【0003】
一般に、沿岸の人口や社会資本の多くは、入り江や湾岸、港湾を持つ都市に集中する傾向があり、津波防波堤の建設が望まれる地域もこれらに重なっている。このような事情から、沿岸の人々や社会資本の多くを津波による被害から効果的に守るには、入り江や湾、港の入り口の狭まった場所を締め切る形で津波防波堤を建設すれば都合がよい。しかし、従来の津波防波堤を入り江や湾、港の入り口の狭まった場所に建設すると、船舶の航行ができなくなり港湾の機能は失われ、津波防波堤が潮流を塞ぎ止めることから自然環境や漁業に与える影響が深刻になる。
【0004】
このため従来の津波防波堤の多くは、これらの悪影響を配慮して、入り江や湾口、港口の沖合いに、防波堤の一部を開放する形で建設されるが、一般に沖合いは水深が大きくなるので、津波防波堤を建設できる場所が限られるという問題点があり、同様に水深が大きいことから到達する津波の速度が大きく、防波堤の受ける衝撃が大きくなることや、沖合いになるに従って、防災上に必要な防波堤の長さが長くなることから、大規模な津波防波堤が必要となるという問題点があった。また、防波堤の一部を開放する形で津波防波堤を建設しなければならないことから、津波の進入を阻止するという津波防波堤本来の目的が充分に達成されず、従来の海中に建設される津波防波堤の防災効果は、陸上に到達する津波の波高を半減できる程度のもでしかなく、景観上も好ましいものではなかった。
【0005】
さらにまた、従来型の津波防波堤は質量が大きく、形状が長大であることから、津波の原因となる地震が近くで発生した場合には、地震そのものによる衝撃や、地盤の変動によって津波防波堤が損傷を受けたり、沈下したりすることが考えられ、津波防波堤の損傷や沈下によって、津波防波堤が津波に襲われた際に本来の機能を発揮できなくなるとうい問題点もあった。
【0006】
これらを解決すべく、沿岸の海中に建設されるコンクリート等から成る津波防波堤の開口部を、浮力体や膜状部材等を使用し、上下に可動できる津波防波堤が提唱されているが、津波の持つ運動エネルギーを考慮すると、津波の衝撃を左右の津波防波堤に設けられた垂直溝で受け止めるという構造的な制約から、膜状部材等を用いて広い開口幅を確保することには問題があり、また、複雑な構成のものは海生生物の付着や津波に先立つ地震の衝撃による地盤の変化のために必要時に十分機能しないのではないかという懸念もあった。
【特許文献1】特開2000−282434
【非特許文献1】大矢雅彦ほか著「自然災害を知る・防ぐ」古今書院 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明が解決しようとする課題は、船舶の航行や、自然環境や漁業に深刻な影響を与えることなく、入り江や湾口、港口を閉鎖できる津波防波堤を提供することであり、地震による衝撃や地盤の変動による影響が少なく、景観にも配慮した津波防波堤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために、津波の衝撃に対して十分な強度を確保できる材料を用いて、防災上必要とされる高さを持ち、水上に浮上できる缶体1を成型しこれを堤体2とし、堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設け、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12を持つことを特徴とする津波防波堤にする。
【0009】
あるいは、津波の衝撃に対して十分な強度を確保できる材料を用いて、防災上必要とされる高さを持ち、水上に浮上できる缶体1を成型しこれを堤体2とし、堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設け、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12および、堤体上部に独立した水タンク13とこれに繋がる給水ポンプ14を加えたことを特徴とする津波防波堤にする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の津波防波堤は、堤体を構成する部材の多くの部分を陸上の施設で高能率に組み立てることができ、部品の標準化や共通化による費用の削減効果も見込まれるので、建設費用を低くできる利点がある。また、平時には津波防波堤が海岸の一部として格納されており、必要時に回転移動させて入り江や湾口、港口を閉鎖するので、船舶の航行や自然環境や漁業に与える影響を小さくでき、津波防波堤の建設によって景観を悪くすることもない。
【0011】
さらに、本発明の津波防波堤は、従来の津波防波堤に比較して堤体が極めて軽量なことから衝撃や地盤の変動に強く、仮に、津波の原因となる地震が近くで発生した場合にも、地震そのものによる衝撃や地盤の変動によって津波防波堤が損傷を受けたり、沈下したりすることが少ないと考えられ、津波防波堤の損傷や沈下によって津波防波堤が津波に襲われた際に本来の機能を発揮できなくなるとうい問題点も解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して説明する。図1で示すように本発明の津波防波堤は、鋼材料やコンクリートまたは、これらを複合して、格納時の経年変化や津波の衝撃に対して十分な強度を確保するとともに、想定される津波の高さ、設置すべき地点の開口幅、製作や運搬、設置上の容易さを考慮した寸法の缶体1を成型しこれを堤体2とする。この堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設ける。
【0013】
また、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12を取り付けるが、水タンクの開口は堤体を展開した際に港外側となる堤体下部側面に設けるのが望ましく、堤体の回転支点から離れた端部附近、あるいは、これと対応する陸地部に堤体が着底すると機能する繋止装置15を設けるとよい。
【0014】
なお、図1、図2、図3、図4、図5、においては、堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8としてスクリュープロペラを持ち、推進装置の水流が堤体を貫いて流れる構造のものを1個表わしているが、他の推進装置として堤体側方のやや離れた位置にスクリュープロペラを置き堤体を貫く水路を省略したり、ジェット水流を推進力とする方式のものでも差し支えなく、堤体の長さによっては複数個必要な場合もある。また、推進装置の水流が堤体を貫いて流れる構造の場合には、水路を遮断する扉を持つことが望ましい。
【0015】
平時には、図6で示すように、堤体を海岸の一部として入り江や湾口、港口附近に格納しておき、津波や異常な高潮位などの必要時に、原動機を起動し推進装置を働かせることによって、堤体を支点5の置かれた端部を中心に回転させ、入り江や湾口、港口を閉鎖する。堤体が所定の位置に達した後に空気タンクに通じる排気弁12を開放すると、堤体内の空気タンクを兼ねた水面下に開口を持つ水タンク11に浸水し、堤体が着底することになる。また、図1のものは堤体の繋止装置15があり、これが働いて堤体が固定される。この際、堤体の内陸側になる陸地部に堤体当り面16を用意したり、展開時の堤体が置かれる海底に着底時の堤体下部が固定できる溝17や突起18を建設しておくことで、衝撃を受ける堤体の安定を一層はかることができる。
【0016】
図2は、堤体の格納時における中央部断面を示している。格納時には、空気タンクに通じる空気供給配管19を設けて、これを通じて堤体の空気タンクに出来るだけ多くの空気を満たして堤体を上昇させ、推進装置などの主要部分を気中に出して置くことで、海生生物などの付着が原因となる障害を回避することができるが、この場合には、原動機を起動し推進装置を働かせる前に空気タンクに通じる排気弁12を操作するなどして、堤体の喫水を調整する必要がある。また、堤体を支点の置かれた端部を中心に回転させる場合には、推進装置が水没し有効に機能すればよいので、堤体の喫水を必要以上に多くしない方が迅速に堤体を展開することができ、所定の位置で堤体を着底させると短時間で有効な津波防波堤が出現することになる。
【0017】
図3は、堤体の喫水調整後における中央部断面を示している。排気弁12につながる配管20の他に、配管下端がこれより下方に位置する配管21を空気タンク内に設け、排気弁22を取り付けて置き、排気弁12を閉じた状態で排気弁22を開放すると、堤体を図3に示す位置で停止させることができる。その後、原動機を起動し推進装置を働かせ、堤体が所定の位置に達した後に空気タンクに通じる排気弁12を開放すると、堤体内の空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11に浸水し、堤体が着底する。
【0018】
図4は、堤体の着底後における中央部断面を示している。着底時の堤体下部が固定できる溝17や図1中の突起18を建設しておくことで、衝撃を受ける堤体の安定をはかることができ、水タンクの開口10を堤体展開時に港外側となる堤体下部側面に設けた場合には、押し寄せてくる津波や高潮などの高水位が堤体内に導入され、衝撃を受ける堤体の安定を更に高めることができる。堤体底部の突起23は、津波の水流が堤体下部から侵入するのを防ぐ機能をはたしている。また、推進装置の水流が堤体を貫いて流れる構造の津波防波堤では、堤体が所定の位置に達した後にも推進装置を運転し続けると、堤体で遮断される防波堤内側から防波堤外に向かって排水することができる。堤体が所定の位置に達した後に推進装置の運転を止める場合には、推進装置の水路を閉鎖する必要がある。
【0019】
図5は、特許請求の範囲の請求項2に記載の津波防波堤の堤体中央部断面図である。
これは、請求項1の津波防波堤の堤体上部に独立した水タンク13とこれに繋がる給水ポンプ14を加えたもので、堤体が所定の位置に置かれた後、堤体上部の独立した水タンク13内に給水ポンプ14で水を補充することで、堤体の質量を増加させることができ、より一層大きな津波の衝撃に耐えることができる津波防波堤である。
【実施例1】
【0020】
図6は、本発明津波防波堤の1実施例である。一般に、沿岸の人口や社会資本の多くは、入り江や湾岸、港湾を持つ都市に集中する傾向があり、津波防波堤の建設が望まれる地域もこれらに重なっている。このような事情から、沿岸の人々や社会資本の多くを津波による被害から効果的に守るには、入り江や湾、港の入り口の狭まった場所24を締め切る形で津波防波堤を建設すれば、汀線付近に長々と津波防波堤を建設する場合に比較して、はるかに少ない費用と時間で防災上の効果が得られることになる。
【0021】
図6においては、格納時の津波防波堤25を示すが、平時は津波防波堤が海岸の一部として格納されているので、景観や、船舶の航行の障害となることがなく、水流を阻害することによって生じる漁業や自然環境に与える悪影響も少ないものである。また、本津波防波堤の格納状態から展開に至る一連の作業は容易に自動化できるので、自動化すれば、人命が危険に晒されることを回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の津波防波堤は、津波以外の高波や高潮に対しても適応できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】特許請求の範囲請求項1に記載の津波防波堤の展開時における鳥瞰図(図の下方が津波の押し寄せる側)である。
【図2】特許請求の範囲請求項1に記載の津波防波堤の格納時における中央部断面図(図の右側が津波の押し寄せる側)である。
【図3】特許請求の範囲請求項1に記載の津波防波堤の展開途中における中央部断面図(図の右側が津波の押し寄せる側)である。
【図4】特許請求の範囲請求項1に記載の津波防波堤の着底後における中央部断面図(図の右側が津波の押し寄せる側)である。
【図5】特許請求の範囲請求項2に記載の津波防波堤の格納時における中央部断面図(図の右側が津波の押し寄せる側)である。
【図6】本発明津波防波堤の実施例鳥瞰図(図の下方が津波の押し寄せる側)である。
【符号の説明】
【0024】
1 水上に浮上できる缶体
2 堤体
3 堤体の端部の一方
4 海面
5 堤体の回転支点
6 陸地部の回転支点
7 堤体の他方の端部に近い下よりの位置
8 推進装置
9 原動機
10 水タンクの開口
11 空気タンクを兼ねた水タンク
12 排気弁
13 独立した水タンク
14 給水ポンプ
15 堤体の繋止装置
16 堤体当り面
17 海底に設けた溝
18 海底に設けた突起
19 空気供給配管
20 排気弁12につながる配管
21 配管下端が20より下方に位置する配管
22 配管21につながる排気弁
23 堤体底部の突起
24 入り江や湾、港の入り口の狭まった場所
25 格納時の津波防波堤
26 展開後の津波防波堤
27 堤体の回転方向を示す矢印
28 平時の海面
29 津波時の津波防波堤内側の海面
30 津波時の津波防波堤外側の海面
31 缶体内の水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波の衝撃に対して十分な強度を確保できる材料を用いて、防災上必要とされる高さを持ち、水上に浮上できる缶体1を成型しこれを堤体2とし、堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設け、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12を持つことを特徴とする津波防波堤。
【請求項2】
津波の衝撃に対して十分な強度を確保できる材料を用いて、防災上必要とされる高さを持ち、水上に浮上できる缶体1を成型しこれを堤体2とし、堤体の端部の一方3に堤体が軸垂直に海面4に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点5を設けるとともに、陸地部にこれと組み合せることで堤体を軸垂直に海面に沿って回転でき、軸方向もしくは、ほぼ軸方向に移動可能な回転支点6を設け、堤体の他方の端部に近い位置の下より7に堤体を軸垂直に海面に沿って回転させることのできる推進装置8と堤体の内部あるいは外部に推進装置に動力を供給する原動機9を備え、堤体内に空気タンクを兼ね、水面下に開口10を持つ水タンク11、操作の容易な任意の位置に空気タンクに通じる排気弁12および、堤体上部に独立した水タンク13とこれに繋がる給水ポンプ14を加えたことを特徴とする津波防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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