説明

津波防災システム

【課題】高台移転における問題点と巨大防潮堤の建設における問題点を解決し、実現可能な津波防潮システムを提供する。
【解決手段】海岸の低地帯に住んでいる人間や建物等を津波から護るために該海岸の沿岸部に築堤された防潮堤10と、津波の予警報手段並びに避難路、避難所を具備した津波防災システムにおいて、防潮堤10の堤体の天端部11の上面に歩道または車道を設け、天端部11の両縁部に人または車の落下防止するための防止柵16,17を設け、落下防止柵16,17は、堤体の天端高さを超える津波の来襲時には、海側域で浮遊し、漂流する漂流物が陸側域内へ流入するのを防止し、津波の引き波時には陸側域内で浮遊して漂流する漂流物や人間が漂流して海側域に流出するのを防止するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は津波、特に巨大津波に対する防災システムに関する。
【背景技術】
【0002】
昔から現在に至るまで、巨大津波が日本沿岸地方に襲来し、多数の人の命を奪い、居住している家屋や働いている工場などを損壊し、流失させるという被害を与えてきた。これに対して、1933年の昭和三陸地震津波の襲来後から巨大津波に対する対策が再び本格的に考えられるようになってきた。現在までに提案された主な対策方法は以下のとおりである。
(1)高地(高台)移転:集落を津波が到達しない高地へ移転し、災害から逃れる方法である(非特許文献1,2)。これは、安全な対策であり、昭和三陸地震津波の災害を受けた後に三陸海岸の大船渡市綾里をはじめとする数多くの集落が高地移転を行った。なお、この高地移転は魚の加工処理場や漁船等の置場までも移転するものではない。
しかし、高地移転には以下のような欠点がある。漁業を生業とする者にとって、居住地から海辺までの距離が遠くなること。高地移転により、飲料水が不足したこと。交通路が不便であったこと。元の土地から離れて生活することに不便が生じたこと。先祖伝来からの土地に対する執着心があったこと。津波襲来が頻繁でなく、安全安心よりも便利さを優先するようになってきたこと。十分な代替地が得られなかったこと。被災者の生活再建や就労の機会が十分に確保できなかったこと。等の理由で、元の低い土地に復帰するものも多かった。
(2)防潮堤の建設:津波が超えられないような巨大な防潮堤を海岸線に沿って建設する方法(特許文献1)。
巨大な防潮堤としては、例えば、特許文献1の実施例では、防潮堤の胸壁高さ20m以上、底面幅30m以上としている。しかし、このような巨大な防潮堤を建造するには費用が莫大であること。建設に長期間を要すること。背後地(居住地)から海岸へのアクセスが不便になること。視界が遮られて景観が悪くなること。等の欠点があり、実現は困難であった。
また、特許文献2には、岸壁に防潮堤を設け、その前方の海域に津波の越波を許容する程度の堤高を有する複数の堤体を津波進行方向に向けて多段に設置して津波エネルギーを減衰させる方法が開示されている。しかし、記載された図面から判断する限り、普通程度の大きさの津波に対しては有効かもしれないが、巨大津波の被害を防止することはできないと考えられる。
(3)防波堤を建設する方法。防波堤とは港湾内の海域の波を静穏にするために港口の海底に構造物を建設し、外海と港湾内との連通する水路を狭める方法である。例えば、岩手県大船渡湾、同釜石湾の湾口に防波堤が設けられた。(非特許文献3、110〜112ページ)。
しかし、これは通常の津波に対しては津波のエネルギーを散逸させることにより、或いは港湾内の共振周波数を変えることにより津波の被害を軽減することは可能であるが、巨大津波の被害を防止することはできない。
(4)その他
上記の他に、防潮林を設ける方法(非特許文献3、101〜106ページ)や離岸堤を設ける方法(非特許文献3、116、117ページ)等がある。これらは何れも津波の被害を和らげることはできるが、巨大津波の被害を防止することはできない。
(5)津波の予警報と避難路・避難所
現在、津波の予警報は気象庁が担当しており、気象庁は地震データに基づき予測される津波の高さを求め、全国の沿岸を66に分割した予報区ごとに、3段階に分けた警報(大津波、津波、注意警報)を津波情報として発表している(非特許文献1、7−2津波予警報、312~318ページ)。また、全国110か所の潮位観測施設のデータをリアルタイムで津波予報中枢に収集して津波の監視を行い、実際に津波が観測された場合には津波の高さと時刻を津波情報として実況値で発表している。これらの津波情報は地上回線、衛星回線を利用して都道府県等に伝えられている。
避難路、避難所は地方の冶自体等によりハザードマップとして住民等に知らされる。避難所として高台を利用できない場合には、その代わりに人工の避難装置を建設してもよい(例えば、特許文献3、4)。しかし、人は避難すれば生命は助かるが、住居や生活上必要な建物、工場は大きな被害を免れず、大きな課題である
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】公開特許公報、特開2006−225996、津波防潮堤
【特許文献2】公開特許公報、特開平7−113219、多段津波防波堤
【特許文献3】公開特許公報、特開2008−14112、津波避難装置
【特許文献4】公開特許公報、特開2008−74385、津波シェルター装置
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】津波の辞典、2007年11月出版、朝倉書店、首藤伸夫ほか編集、
【非特許文献2】HP、78年前の「注意書」に学ぶ津波対策、2011年5月10日掲載、三原岳
【非特許文献3】TSUNAMI、2009年3月31日出版、丸善プラネット株式会社、沿岸技術研究センター編集、
【非特許文献4】津波から生き残る、平成21年11月13日出版、土木学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
津波、特に巨大津波に対しては高台移転が有効な対策方法と考えられていた。しかし、移転する高台が見つからない場合もあり、また高台が見つかったとしても前述したような不都合が生じる場合もある。これは移転先の高台が山の山頂又は中腹にある場合は移転前に整地、道路、水道等の整備に多額の費用と長期間が必要であり、津波に被災して住居や職場、財産も失って、早急に復興に着手したいと思う被災者との間に大きな隔たりがあり、課題であった。さらに、高台移転で住民の生命が助かったとしても、職場や漁具、漁船をすべて失うことは漁業者にとって耐えがたい苦痛であり、大きな課題である。また、巨大津波が乗り越えられないような巨大堤防、巨大防潮堤を築くことは土地の確保だけでなく莫大な費用が掛かることから実現困難である。本願発明は実現可能で、上記の課題を解決するシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1〜請求項4は、<防潮堤の構成>に関する発明である。
請求項1の発明は、海岸の低地帯に住んでいる人間や建物等を津波から護るために該海岸の沿岸部に築堤された津波防潮堤と、津波の予警報手段並びに避難路、避難所を具備した津波防災システムにおいて、
該防潮堤の堤体の天端部の上面に歩道または車道を設け、該堤体天端部の両縁部に人または車の落下防止するための防止柵を設け、
該落下防止柵は、該堤体の天端高さを超える津波の来襲時には、海側域で浮遊し、漂流する漂流物を陸側域内へ流入するのを防止し、津波の引き波時には内陸側で浮遊した浮遊物や人間が漂流して海側域に流出するのを防止するように構成としたことを特徴としている。
即ち、この発明は津波の波高が防潮堤の天端高さを越えない場合は、津波の被害を完全に防ぐとともに、天端高さを越えた場合でも避難することにより住民等の生命を守り、さらに堤体の上部に設けた防止柵により死者の数を減らし、行方不明者の数をゼロとし、漂流物をなくして住居等の被害を少なくすることを目的としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記落下防止柵は、前記堤体天端部の両縁部から立設する防止柵の頂点部を連結し、該防潮堤の長手方向から見た断面形状が倒立U字形状となるように形成し、海側の柵は海側域からの漂流物が引っ掛かって途中で宙づりにならないように縦部材で構成し、陸側の柵は漂流している人間が該陸側柵を手で捕まえて該陸側柵に留まり、或いは該陸側柵に捕まって移動できるように横部材で構成としたことを特徴としている。
即ち、この発明は、陸側柵に到着した人間の生還する機会を増大することを主目的としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記陸側柵の外側から前記堤体天端部の上面に移動できる避難用開口を設けたことを特徴としている。
即ち、この発明は、陸側柵に辿り着いた者が天端部の上面を通って避難できるようにしたことを目的としている。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3の発明において、前記防潮堤の天端部の上面の歩道と通じる避難用歩道を陸側域内に設けたことを特徴としている。
即ち、この発明は両端の出入り口に戻らなくても直接に避難できる歩道を設けたことを特徴としている。
【0010】
請求項5〜請求項8は<堤体本体>に関する発明である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の発明において、前記堤体は前記防潮堤の長手方向から見た断面の海側表面形状が凹面を形成し、該凹面の天端部における接線が水平面から上向き25度〜65度をなすように構成したことを特徴としている。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記堤体の海側の曲面状表面に突起状の補強材を設けて、海側域からの漂流物によって該堤体が破損、破壊などの被害を受けないようにしたことを特徴としている。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1〜請求項6の発明において、前記堤体は基台の上面に固設すると共に、前記基台は来襲する津波力及び引き波の力によって海側及び陸側に倒壊しないように杭等の手段により該基台を地面に堅固に固定したことを特徴としている。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記基台及び堤体は鉄筋コンクリート製の構造として前記津波前の地震動に対して十分に耐える構造としたことを特徴としている。
【0014】
請求項9〜請求項11の発明は、<堤体に設ける開口>に関する発明である。
請求項9の発明は、請求項1〜請求項8の発明において、前記堤体の下部に人及び車両が通行する開口を設け、該開口を自在に開閉する扉体を設けたことを特徴としている。
即ち、この発明は防潮堤の陸側と海側の浜辺への通行を容易にすることを目的とする。
【0015】
請求項10の発明は、請求項1〜請求項9の発明において、前記防潮堤を横切る河川の流れを許容する水門を該防潮堤の堤体に設けると共に、該水門を開閉自在に閉鎖する扉体を設けたことを特徴としている。
即ち、この発明は津波が河川を通じて内陸側に遡上するのを防止することを目的とする。
【0016】
請求項11の発明は、請求項1〜請求項10の発明において、前記防潮堤の堤体を超える津波が越流し、該堤体の陸側域内に溜まった海水を海側域に放水するための開閉自在な開口を該堤体の上下方向に複数個設け、該開口を上側から順次開閉操作をして海水を放水する制御手段を設けたことを特徴としている。
即ち、この発明は放水用開口を設けて溜まった海水の放水を第1の目的とし、また、季節により放水用開口を開閉することで海側と陸側の空気の流れを可能にして温度や湿度を調整することをも目的とする。
【0017】
請求項12~請求項14の発明は<観測カメラ>に関する発明である。
請求項12の発明は、請求項2〜請求項11の発明において、前記防止柵の海側柵に湾口又は深さが急激に変化している海域における波面を撮影するための望遠カメラを取り付けて襲来する津波の状態を遠隔地から観測できるようにしたことを特徴としている。
即ち、この発明は当該の湾に実際に津波が襲来したのを目で確認できるようにすることを目的とする。
【0018】
請求項13の発明は、請求項2〜請求項12の発明において、前記海側柵に海側域の浜辺の状況を観測するカメラを設けたことを設けたことを特徴としている。
【0019】
請求項14の発明は、請求項9〜請求項13の発明において、前記人及び車両が通行する開口の上方に該開口の海側域の浜辺にいる人の有無をチェックする検出カメラを設けたことを設けたことを特徴としている。
【0020】
請求項15、請求項16は<避難路、避難所>に関する発明である。
請求項15の発明は、請求項1〜請求項14の発明において、前記避難路は、海抜略10m〜15mの場所に第1避難所を設け、巨大津波が遡上しない高さの場所に第3避難所を設けたことを特徴としている。
即ち、この発明の避難路は集まりやすい場所に避難所を設けると共に、巨大津波が到達しない高台に避難所を設けて安心して避難できるようにしたことを特徴としている。
【0021】
請求項16の発明は、請求項15の発明において、前記第1避難所に、前記望遠カメラで撮影した画像を映すモニターと、前記公共放送による津波情報並びに前記防災センターの緊急避難命令を報せるスピーカーを具備したことを特徴としている。
即ち、この発明は第1避難所に避難すれば津波の状況を容易に把握できるようにして、避難の奨励を目的とする。
【0022】
請求項17〜請求項19の発明は<津波防災センター>に関する発明である。
請求項17の発明は、請求項12〜請求項16の発明において、前記堤体の陸側域内の安全な場所に津波防災センターを設け、該センター内に前記望遠カメラ、前記監視カメラからの画像を映すモニターを設置し、該センターの職員は建物等の地震動又は公共放送により津波発生の情報を得た場合には津波の予報情報を住民に提供する予報手段と、該望遠カメラにより津波来襲を判断した時は緊急避難場所と緊急避難路を含む緊急避難命令を放送する手段を具備すること特徴としている。
【0023】
請求項18の発明は、請求項17の発明において、前記津波情報、前記緊急避難命令は、来襲する津波の大きさにより通常津波、巨大津波、超巨大津波の3種類に分類して各津波の大きさに適した津波情報、避難命令を出すことを特徴としている。
【0024】
請求項19の発明は、請求項17又は請求項18の発明において、前記津波発生の情報を得た場合には前記検出カメラにより前記海辺に人がいることを認識した場合は緊急退避命令と前記堤体の通行用開口を閉鎖することを放送し、前記望遠カメラ等により津波来襲を判断した時は、該堤体の通行用開口及び水門を閉鎖する操作を緊急に開始することを特徴としている。
【0025】
請求項20、請求項21の発明は<制御システム>に関する発明である。
請求項20の発明は、請求項9〜請求項18の発明において、前記津波が引き始めたときは、前記堤体を越流して陸側域内に溜まった海水を前記放水制御手段の操作を開始し、前記海水の放水を終了した後、所定の時間経過後に前記通行用開口の扉体及び前記水門の扉体を開く操作を行うことを特徴としている。
即ち、この発明は陸側域内に溜まった海水を素早く安全に放水することを目的とする。
【0026】
請求項21の発明は、請求項20の発明において、前記所定の時間は、津波の再襲来がなくなった時刻であることを特徴としている。
【0027】
請求項22〜請求項25の発明は<漂流物の防止>に関する発明である。
請求項22の発明は、請求項1〜請求項21の発明において、前記防潮堤の海側域に存在し、津波によって漂流物となる可能性のある漁船、沿岸貯木場にある丸太、コンテナ、油タンク等を漂流しないように固定したことを特徴としている。
即ち、この発明は漂流物が被害を増大していることに鑑み、被害を減少させることを目的とする。
【0028】
請求項23の発明は、請求項1〜請求項22の発明において、前記防潮堤の陸側域に存在し、津波の越流水によって漂流物となる可能性のある乗用車、木造家屋等を漂流しないように固定したことを特徴としている。
【0029】
請求項24の発明は、請求項23の発明において、前記堤体の陸側域内に車の駐車場を設け、該駐車場に駐車している車両が浸入水により浮上して漂流しないように弾性体からなる屋根を設けたことを特徴としている。
【0030】
請求項25の発明は、請求項1〜請求項24の発明において、前記堤体の陸側域内の木造建物は該建物の基礎となる土台に固定し、前記堤体を越流した津波の浸入水及び引き波によって浮上して漂流又は倒壊しないようにしたことを特徴としている。

【発明の効果】
【0031】
請求項1の発明によれば、津波の波高が防潮堤の天端高さを越えない場合は、津波の被害を完全に防ぐとともに、天端高さを越えた場合でも避難することにより住民等の生命を守り、さらに堤体の上部に設けた防止柵により海側域へ流出する者の数を減少させ、漂流物の流入を阻止して住居等の崩壊を少なくするという効果が得られる。さらに、請求項2~請求項4によれば、生きて防潮堤まで流された場合は生き延びられる確率が大きくなるという効果が得られる。
【0032】
また、請求項12、請求項17~請求項19の発明によれば、来襲する津波の実態をより正確に把握することができるので、適切な避難命令の放送をすることができ、より多くの住民が避難命令に従って避難し、多くの住民が助かるという効果が得られる。
【0033】
請求項11、請求項20、請求項21の発明によれば、引き波時の浸入水の放水水の流速を制御することにより、住居等の建物類の損壊、流出を防止することができるという効果が得られる。この結果、住民は安心して避難できるという効果が得られる。さらに、請求項11の開口を利用すれば、夏の暑いときは開口を開き、冬の寒いときは開口を閉じて、防潮堤の内側の気温や湿度を調節できるという効果が得られる。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】防潮堤の長手方向から見た断面図を示す。
【図2】防潮堤の海側から見た一部分の側面図を示す。
【図3】防潮堤の陸側から見た一部分の側面図を示す。
【図4】実施形態を適用した地図を示す。
【図5】避難路と避難所の配置地図を示す。
【図6】防災センターの情報室の例を示す。
【図7】防潮堤を越えて陸側内部に溜まった海水と内部の建物等の水位関係を示す。
【図8】(A)津波の周期と寄せ波と引き波の時刻を示す。(B)引き波になった瞬間の側面団図を示す。(C)上から見た平面図を示す。
【図9】(A)深さと流出速度と関係を示す。(B)海水放水口を横に配置した例を示し、(C)上下方向に配置した例を示す。
【図10】開閉装置を示す。(A),(B)「開」状態の正面図、側面断面図を示し、(C)、(D)「閉」状態の正面図、側面断面図を示す。
【図11】小型漁船の固定方法を示す。(A)は平面図、(B)は断面図を示す。
【図12】水面貯木場の金網柵を示す。(A)は平面図、(B)は断面図を示す。
【図13】自動車の漂流防止手段を示す。(A)は平面図、(B)は正面図を示す。
【図14】防災システムの流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この実施形態は2、3年に1回程度来襲するような通常程度の津波、例えば、5m以下の津波高の津波に対しては大きな被害を受けることがなく、50年とか100年に1回来襲するような巨大津波、例えば10m以上の津波高の津波に対して、床上浸水のような被害は生じても家屋、工場等の建物が破損して漂流、流出するような大きな被害を防止することを目的とした実施形態である。なお、床上浸水しても、食料や衣類などの津波の海水に浸っては困る物は真空パックしておけば、大きなダメージを受けることはない。
【0036】
図1は本発明の実施形態の防潮堤10の長手方向から見た断面図を示す。図2は海側から見た防潮堤10の正面図を示し、図3は陸側から見た防潮堤10の裏面図を示す。
図1において、防潮堤10は天端部11の下側に防潮堤本体12が構成され、防潮堤本体12は鉄筋コンクリート製である。防潮堤本体12の下端部には基台13が固設されている。基台13は杭14等の手段により地面に堅固に固定され、地震や津波力によって倒壊しないように構成されている。一方、天端部11の上面は歩道又は車道として利用できるように構成され、天端部11の両端には落下防止柵16、17が設けられており、落下防止柵16、17は頂部18において連結されている。なお、防潮堤の高さは地面から4m〜6mにするのが好ましく、落下防止柵16、17の高さは天端部11から4m〜6mにするのが好ましい。天端部11の上面は歩道のみとしてもよい。この場合は、歩道幅を略1.2m〜1.5mとするのが好ましい。また、防潮堤10の建設方法は、高架道路や橋、或いはビルの建設などの建設と同様に現地の作業で建設する。
【0037】
防潮堤本体12の前面21は表面形状が凹面となるように形成され、上端の接線角度が水平面と上向き25度〜65度となるように形成されている。この凹面に海側(左側)から津波が衝突すると津波の先端は左上側向きに流れる。従って津波高さが天端部11より低いときは、津波は防潮堤10の内側には浸入しない。また、津波高さが天端部11より高いときは天端部11の上方で左側から流れてくる津波と衝突し、その津波のエネルギーの一部を減殺し、浸入する津波の遡上速度及び遡上高さが減少する。なお、前面21には補強部材として突起状の部材22が設けられている。
【0038】
天端部11の両端に設けられている落下防止柵の海側柵16は、図2に示すように、縦部材16aの間隔を横部材16bの間隔より細かくして、海側から流れてくる漂流物が横部材16bに引っ掛かって宙吊りにならないで落下するように構成している。防潮堤本体12の下部に開口24を設けて人や車などが通行できるようにしている。この開口24には点線で示す扉体25が開閉自在に設けられており、扉体25を締め切ったときは津波が開口24から侵入しないように閉じられる。また、開口24の上方には開口24の前方の浜辺に人がいるか否のチェックをするための監視カメラ26が設けられている。さらに、海側柵16には湾口又は海の深さが急変して大きな波が立ちやすい個所の津波の波面を観察する望遠カメラ27が設けられている。この望遠カメラ27及び監視カメラ26の映像は図示省略の無線機を通して後述する津波防災センター50に送信される。
【0039】
図3において、落下防止柵の陸側柵17は横部材17bの間隔を縦部材17aより狭くして、漂流してきた人間が容易に横部材17bを掴かみ、かつ陸側柵17に設けられた避難用開口29を通って、天端部11の表面に設けられた歩道に移動できるように構成されている。さらに、防潮堤本体12には、図3に示すように、防潮堤本体12を越流して陸側域内部に溜まった津波水を海側に放水するための複数の開口30(30a、30b、30c、30d)が設けられている。開口30は防潮堤本体12を貫通していると共に上下方向に複数個設けられている。また、各開口30には開閉するための開閉装置71(後述する)が設けられている。なお、開口30aの下端は天端部11の上表面からの距離をh1とし、開口30bの下端は開口30aの下端からの距離をh2とし、開口30cの下端は開口30bの下端からの距離をh3とし、開口30dの下端は開口30cの下端からの距離をh4とする。開口30の開閉制御についての詳細は後述する。なお、開口30は横方向にも複数個設けてよい。
【0040】
図4は本実施形態を適用した土地の地図である。湾40の海岸線41の両側の岬には小高い山があり、海岸線の陸側は平らな低地42が広がっており、その奥の方は小高い山々に取り囲まれている。防潮堤10は海岸線41に沿って建設されている。防潮堤10の両端は小高い山の中腹まで延長され、両端の点線部は防潮堤の天端部11の表面に設けられた歩道の出入口に続く専用の階段、又は道路である。なお、低地42へ往来する一般道路は図示を省略している。この一般道路は防潮堤10の内側に設け、トンネルを介して他の地域と連絡してもよい。歩道43は防潮堤10の通路の途中から接続されている避難用通路である。途中の丸印は支柱である。また、河川44が防潮堤10を横切って流れており、この交差点には図示省略の従来技術を利用した水門が設けられている。さらに、避難路45が適宜の場所に設けられる。
【0041】
図5は避難路45と避難所46(46a、46b、46c)を示す。図5において、避難路45の入口45aは山の登り口等で住民に親しまれている所、便利な地点を選ぶ。避難路45に沿って、第1避難所46a、第2避難所46b、第3避難所46cを設ける。第1避難所46aは標高が略10mの〜15mの地点に住民が集まれる集会場等を設ける。第1避難所46aには湾内や湾口の波の状態を映すモニターや防災センター50の放送、津波に関する公共放送を聞くためのスピーカー(何れも図示省略)を設ける。第1避難所46aに来れば、津波の状況がよく分かり、さらに高い避難所に逃げる必要があるか否かの判断も容易にできる。第3避難所46cは巨大津波が到達しない場所、例えば海抜30m〜40mの地点に設ける。これによって、巨大津波がきても逃げ場がなくなることはない。第2避難所46bは中間の地点で、多数の住民が集まれる広場があることが望ましい。また、山頂付近に無線の中継所47が設けられている。なお、第2避難所は複数設けてもよい。全ての避難所46には防災センター50の放送を聞くためのスピーカー、湾内の映像を映すモニターを備える。また、防災センター50は湾口や湾内を見渡せ、電波が容易に届く場所に設置する。
【0042】
図6は津波防災センター50の情報室を示す。スピーカー51は公共放送等の津波情報を聞くためのスピーカーで、映像を映すためのモニター52〜56が前面に設けられている。モニター52は湾口又は津波の大きさが変化しやすい海面を観察するためのモニターである。モニター52を観察して来襲する津波の津波高により津波の大きさを容易に判断できるようにする。モニター52は3D用のモニターとするのが好ましい。また、湾口等の適当な箇所に潮位計を設けて潮位の変化を映すようにしてもよい。モニター53は通行用開口24の前側の状況を映すモニターで、切り替えによってすべての通行用開口24の状況をチェックできるように構成されている。モニター54は防潮堤10の外側の浜辺にいる人々の状況を映すモニターである。モニター55は防潮堤10の内側の状況を確認するためのモニターである。モニター56は地震や津波情報に関する公共放送を受信するテレビである。マイク58は住民に避難命令等を伝えるためのもので、切り替えスイッチ59により設置されている全てのスピーカーで放送できるように構成されている。
【0043】
図7は本実施形態による防潮堤10を越流して防潮堤10の陸側域内に溜まった海水の状態を示す。海水表面の地上からの高さをHとし、h0を天端部11の上面から海水の表面までの距離とし、h1〜h4は図3に示すように、h1は天端部11から放水用開口30aの下端までの距離、h2は開口30aの下端から開口30bの下端までの距離、h3は開口30bの下端から開口30cの下端までの距離、h4は開口30cの下端から開口30dの下端(地上面)までの距離を示す。h0の区域にある海水は津波の引き潮が始まると同時に海側域に自然に放水される。h1の区域にある海水は開口30aの開閉装置70を「開」操作することにより海側域に放水される。h1区域の海水を放水した後(又は放水の半ば)で、開口30bの開閉装置70を「開」操作する。この操作により、h2区域の海水が海側域に放水される。なお、開口30bの開閉装置70を開操作する前に開口30aの開閉装置70を「閉」操作してもよい。以下同様に、開口30c、開口30dの開閉装置70を開操作する。これらの操作により防潮堤10の陸側域内に溜まった海水がすべて放水される。
このような操作により海水の放水を行うと、海水の引き波の速度が緩やかな速度に制御されて、陸側域内に建てられている建物61、62等を破壊や海側域への流失することなく海水を放水することができる。その結果、建物61、62等は海水に浸されるという被害は免れないが、破壊や流失等の被害なしにそのまま元の場所に残るので、津波後の原状回復が容易になる。また、貴重品や生活に必要な物等は真空パックをして保管することで海水に浸る被害や浮上して漂流、流出する被害から守ることができる。
【0044】
津波が陸上に遡上する時の速さは、テレビ放映などを良く知られているが、陸側域内に溜まった海水が海に向かう引き波の速度についてはあまり知られていない。図8は防潮堤が設けられていない場合の浸水を受けた場合の図である。図8(A)は津波の圧力を示す図で、時刻t=−T/ 2で津波が押し寄せて、時刻t=0で津波が引き波となったとする。津波の周期Tは略10分〜1時間程度である。津波の襲来から時間(T/2)経過したときに引き波となり、図8(B)に示すように、津波の遡上高さがHになったとする。この時の海側の圧力は大気圧(ゲージ圧で0気圧)となる。また、浸水した土地の形状を図8(C)に示すよう浸水域の幅をBとする。
【0045】
浸水の引き波の速度v(y)はトリチェリの定理によれば数式1で与えられる。yは浸水の表面からの深さである。v(y)は深さyにおける引き波の速度である。以下の式で記号「*」は掛け算を表す。「平方根()」は()の平方根を表す。
v(y)=平方根(2*g*y)・・・(1)
(1)式で、gは重力加速度で、g=9.8 m/s**2 である。
図9(A)に示すように、表面からの深さyが3m、5m、10m、15mの深さの点の速度v(y)は夫々、7.76m/s;9.87m/s;
13.99m/s;17.13m/s となる。従って、水路幅が一様であれば、遡上高さHが15mならば底部(y=15m)を流れる速度は毎秒17.13mとなり、極めて速い水流となる。図9(A)から理解できるように、水深が5mの深さの位置における流速v(5)は水深15mの深さにおける流速v(15)の略半分であり、エネルギーの大きさは略4分の1になる。従って、津波の遡上高さが高い場合は、引き波の流速は浸水時の流速に比べてかなり速くなり、速度エネルギーは速度の2乗に比例するので引き波時には陸側領域内に建てられている建物等の下端の基礎が破損され、特に木造の家屋等は浮遊して漂流し、海側域に流出される危険性は大となる。以上のごとく防潮堤が設けられていない場合は多くの木造家屋等の建物が海側域に流出する可能性が極めて高くなる。
【0046】
防潮堤を設けた場合は、津波が防潮堤を越えて陸側域に溜まった海水を海側域に放水する必要がある。このために、防潮堤に複数の開閉自在な放水用開口30を設け、溜まった海水を放水する開口30の開閉を制御する必要がある。即ち、溜まった海水はできるだけ短時間で放水し、しかも放水速度は一定の制限速度を越えないように制御する必要がある。図9(B)、(C)は2個の大きさの海水放水用開口30a、30bを設けた場合の例を示す。即ち、同じ面積の2個の開口を同じ高さに平行に配置した場合(B)と、上下方向に2個を配置した場合(C)である。この場合に(B)の場合の放水量は1個の開口の放水量の2倍にしかならないのに対し、(C)の場合は略4倍の放水量を放水することができる。従って、海水を放水する制御する方式としては、複数の開口を上下方向に配置すると共に残っている海水の表面と放水する開口の下側縁までの距離が所定の範囲内(例えば、5m〜6m)に入るようにして順次上側の開口から開操作をする制御方式が好ましい。
【0047】
図10は開口30を開閉制御する開閉装置70の好適な例を示す。図10(A)は開口30を閉じた場合の正面図を示し、図10(B)は図10(A)の矢印断面図を示す。図10(C)は開口30を開いた場合の正面図、図10(D)は同断面図を示す。開閉装置70はケーシング71の水平方向中央に軸穴を設けて軸受72を固設する。閉鎖板74を軸75に固設し、軸受72に回転自在に装着する。さらに、閉鎖板74の前後に半円のリング形状のストッパー76a、76bをそれぞれ固設する。このストッパー76a、76bを閉鎖板74の閉じる方向(反時計方向)に回転させたときに停止したい位置に設けてストッパー機能と水密機能を持たせる。また、軸75の一端にウオーム歯車78とウオーム79を取り付ける。ウオーム79に図示省略のパルスモータを接続し、防災センター50内の端末に接続されている。防災センター50は図の矢印の方向に開及び閉操作をする電気信号を与える。なお、この電気信号は図示省略の電気配線により防災センターで操作する。また、開口30には浮遊漂流物の流入を防止のために開口30の入口側、出口側の双方に流入防止用の網を設ける。
【0048】
さらに、津波によって、大きな浮遊物が漂流すると防潮堤を破損し、機能を失わせる。また、防潮堤の陸側域内にある建物等を破損する原因にもなる。従って、津波の被害を最小限に食い止めるには、これらの大きな浮遊物を漂流しないように固定しておかなければならない。浮遊して漂流物となる可能性の大きい代表例は、漁船などの小型船、水面貯水場に貯蔵されている流木、空のコンテナ、自動車、油タンク等がある(非特許文献3、62〜70頁)。
【0049】
漁船などの小型船は漁港の岸壁に係留されている場合が多い。小型漁船は係留索が外れたり、破断したりして容易に漂流する。水面貯蔵場の流木は2m以下の高さの津波でも流出することがあり、人々に大きな被害を与える危険性があり、防潮堤を毀損する危険性もある。中身が空のコンテナはかなり小さい浸水でも浮き上がってしまうので注意が必要である。自動車、特に乗用車は津波によって容易に浮き上がり、港内に落ちたり、浮上して漂流し、燃料油が漏れて火災の原因になったりするので危険である。この他に、木造の建物、例えば、木造家屋、木造の小屋等は浸水深さが5m前後の津波で大破し、壊れた破片が漂流するので、危険である。従って、木造家屋等にも浮遊防止対策や倒壊防止対策が必要である。以下に、固定方法の例を示す。
【0050】
図11は小型漁船100の固定方法で、図11(A)は上から見た平面図で、図11(B)はX-Xから見た断面図を示す。図11において、岸壁101からコンクリート製の歩道用堤102をコ字形状に設け、その内側にコンクリート製の固定用堤103を櫛形状に設ける。固定用堤103の沖側と陸側の3か所に漁船100の固定用のポール105を設ける。このポール105の先端にワンタッチで接続可能な接続具の一方を固定し、他方を漁船100の先端と後端部の左右両側にロープ等を介して設ける。接続具としては、例えば、「リング」と「ばねピン付きのフック」でもよい。接続するときはピンを押しながらフックをリングに引っ掛けるだけでよく、外すときもピンを押しながらフックを外すだけでよいので簡単に漁船100を係留することができ、係留を解くときも簡単である。漁船100を上記の様に固定すれば、津波力によってはなかなか外れないし、漁船100を3点で固定しているので転覆することもない。また、海水が漁船100の中に入っても海底に沈むこともない。従って、漁船100は容易に漂流することもなく、破壊することもない。
【0051】
図12は水面貯木場200に貯蔵されている丸太等の材木の漂流防止方法の説明図である。材木は容易に漂流しやすく、流木によって木造家屋等を破壊した例も多いので、流木の漂流を防止することは重要である。図12(A)は上面から見た図で、図12(B)は断面図である。図12において、貯木場200は海岸線から少し離れた地点に設け、貯木場200の周りに金網210(211〜213)を設けて、金網210の内側に材木201を浮かせるのがよい。金網210は陸側の金網211を海面よりも相当に高くし、天井にも金網211aを張る。津波の寄せ波により材木201が浮上したときに金網210からの流出防止のためである。また津波の引き波時には材木201は沈み込むので、沖側の金網212は底まで張る。また津波以外にも干潮時や満潮時にも流出せず、海面に浮かんだ状態を維持するように沖側の金網212の高さを決定する。さらに、潮流によって材木201が流出しないように両側の側面にも金網213を張る。さらに、これらの天井方向にも金網212a、213aを張り、中央は空き空間とする。また、材木201の取り出し口(図示省略)を一方の側面の金網213に設ける。
【0052】
図13は自動車の漂流防止手段を説明するための図である。自動車のうち、特に乗用車のような密閉空間が大きい車は容易に浮上し、漂流しやすい。乗用車でも四方が囲まれた車庫の中に保管している場合は津波が来ても車庫が壊れない限り漂流しない。しかし、四方が囲まれた車庫は乗用車が出入りする場合に入口ドアを開けたり、閉めたりしなければならない。以下は、入口ドアを開け放しにしておいても(又は、入り口ドアがない場合も)漂流を防止する手段について説明する。図13において、図(A)は上から見た図で、図(B)は入口ドアの方向、図の矢印方向から見た図である。車庫250は入口の方向のみが解放されており、上方は布等の柔らかい物質の屋根252を張ってある。車庫250に駐車している自動車255は何れも窓やドアは閉められており、浮きやすい状態にある。このような状態で入り口方向から津波(又は浸水)が押し寄せると自動車255は容易に浮上し、浮上した自動車255は漂流することになる。しかし、柔らかい物質の屋根252が張ってあると、浮上した自動車255は屋根252に接触し、屋根252が自動車255の形に添って変形する。そのため、自動車255はしっかりと押さえられ、漂流が防止される。
【0053】
図14はこの実施形態の防災システムの流れを示す。
ステップ(S301)では、管理している地区に関して津波の発生に関して公共放送があったか、または、その地区で揺れを感じる地震があったかを監視する。
ステップ(S302)では、公共放送、又は地震の揺れから当該地区の湾内に津波が押し寄せてくるかを、放送を聞きながら判断する。遠地地震による津波と近地地震による津波をキャッチする。当該地区に津波が押し寄せてくると判断した場合は「避難準備」をするように放送する。
ステップ(S303)では、防潮堤の通用門、水門を閉じるための予告放送をする。
ステップ(S304)では、予告後通用門の海側に人がいないことを確認したら、通用門、水門を閉じる。
ステップ(S305)では、その直後に、第1避難所への避難命令を放送する。
ステップ(S306)では、その後の公共放送、湾口等のビデオを見ながら状況を監視し、津波の大きさを判断する。
ステップ(S307)では、津波が小さい場合は第1避難所で待機、大きい場合は第2避難所へ移動待機、巨大の場合は第3避難所へ移動待機の命令を放送する。
ステップ(S308)では、津波の引き波が開始するのを待つ。
ステップ(S309)では、津波が引き始めたら、防潮堤の陸側域に溜まった海水の放水操作を開始する。
ステップ(S310)では、津波が再襲来するかを公共放送等で検討する。
ステップ(S311)では、再襲来すると判断できたら待機命令を放送する。
ステップ(S312)では、再襲来がないと判断したら避難解除を放送する。
ステップ(S313)では、通用門、水門を開放する。

【符号の説明】
【0054】
10 防潮堤
11 天端部
12 防潮堤本体
13 基台
16 海側柵(落下防止柵)
17 陸側柵(落下防止柵)
21 前面板
24 通行用開口
26 監視カメラ
30 放水用開口
40 湾
41 海岸線
44 河川
45 避難路
46 避難所
50 防災センター
71 開閉装置(放水用開口の制御装置)
74 閉鎖板
100 小型漁船
105 固定用ポール
200 貯木場
250 車庫
252 屋根



【特許請求の範囲】
【請求項1】
海岸の低地帯に住んでいる人間や建物等を津波から護るために該海岸の沿岸部に築堤された防潮堤と、津波の予警報手段並びに避難路、避難所を具備した津波防災システムにおいて、
該防潮堤の堤体の天端部の上面に歩道または車道を設け、該堤体天端部の両縁部に人または車の落下防止するための防止柵を設け、
該落下防止柵は、該堤体の天端高さを超える津波の来襲時には、海側域で浮遊し、漂流する漂流物が陸側域内へ流入するのを防止し、津波の引き波時には陸側域内で浮遊して漂流する漂流物や人間が漂流して海側域に流出するのを防止するように構成としたことを特徴とする津波防災システム。
【請求項2】
前記落下防止柵は、前記堤体天端部の両縁部から立設する防止柵の頂点部を連結し、該防潮堤の長手方向から見た断面形状が倒立U字形状となるように形成し、海側柵は海側域からの漂流物が引っ掛かって途中で宙づりにならないように縦部材で構成し、陸側柵は漂流している人間が該陸側柵を手で捕まえて該陸側柵に留まり、或いは該陸側柵に捕まって移動できるように横部材で構成としたことを特徴とする請求項1に記載の津波防災システム。
【請求項3】
前記陸側柵に、該陸側柵の外側から前記堤体天端部の上面に移動できる避難用開口を設けたことを特徴とする請求項2に記載の津波防災システム。
【請求項4】
前記防潮堤は、該天端部の上面の歩道と通じる避難用歩道を陸側域に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項5】
前記防潮堤の堤体は、該防潮堤の長手方向から見た断面の海側表面形状が凹面を形成し、該凹面の天端部における接線が水平面から上向き25度〜65度をなすように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項6】
前記堤体の海側の曲面状表面に突起状の補強材を設けて、海側域からの漂流物によって該堤体が破損、破壊などの被害を受けないようにしたことを特徴とする請求項5に記載の津波防災システム。
【請求項7】
前記防潮堤の堤体は、基台の上面に固設すると共に、前記基台は来襲する津波力及び引き波の力によって海側及び陸側に倒壊しないように杭等の手段により該基台を地面に堅固に固定したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項8】
前記基台及び堤体は鉄筋コンクリート製の構造として前記津波前の地震動に対して十分に耐える構造としたことを特徴とする請求項7に記載の津波防災システム。
【請求項9】
前記防潮堤の堤体の下部に人及び車両が通行する開口を設け、該開口を自在に開閉する扉体を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項10】
前記防潮堤の堤体を横切る河川の流れを許容する水門を該堤体の下部に設けると共に、該水門を開閉自在に閉鎖する扉体を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項9の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項11】
前記防潮堤の堤体を超える津波が越流し、該堤体の陸側域内に溜まった海水を海側域に放水するための開閉自在な開口を該堤体の上下方向に複数個設け、該開口を上側から順次開操作して海水を放水する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項12】
前記海側柵に、湾口又は深さが急激に変化している海域における波面を撮影するための望遠カメラを取り付けて襲来する津波の状態を遠隔地から観測できるようにしたことを特徴とする請求項2〜請求項11の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項13】
前記海側柵に、前記防潮堤の海側域の浜辺にいる人々の状況を観測するカメラを設けたことを設けたことを特徴とする請求項2〜請求項12の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項14】
前記人及び車両が通行する開口の上方に該開口の海側域の浜辺にいる人の有無をチェックする検出カメラを設けたことを設けたことを特徴とする請求項9〜請求項13の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項15】
前記避難路は、海抜略10m〜15mの場所に第1避難所を有し、巨大津波が遡上しない高さの場所に第3避難所を有することを特徴とする請求項1〜請求項14の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項16】
前記第1避難所は、前記望遠カメラで撮影した画像を映すモニターと、前記公共放送による津波情報並びに前記防災センターの緊急避難命令を報せるスピーカーを具備したことを特徴とする請求項15に記載の津波防災システム。
【請求項17】
前記防潮堤の陸側域内の安全な場所に津波防災センターを設け、該センター内部に前記望遠カメラ、前記監視カメラからの画像を映すモニターを設置し、該センターの職員は建物等の地震動又は公共放送により津波発生の情報を得たときには該情報を住民に提供する予報手段と、該望遠カメラにより津波来襲を判断したときは緊急避難場所と緊急避難路を含む緊急避難命令を緊急放送する手段を具備すること特徴とする請求項12〜請求項16の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項18】
前記津波情報、前記緊急避難命令は、来襲する津波の大きさにより通常津波、巨大津波、超巨大津波の3種類に分類して各津波の大きさに適した津波情報、避難命令を出すことを特徴とする請求項17に記載の津波防災システム。
【請求項19】
前記津波発生の情報を得た場合には前記検出カメラにより前記海辺に人がいることを認識した場合は緊急退避命令と前記防潮堤の通行用開口を閉鎖することを放送し、前記望遠カメラ等により津波来襲を判断した時は、該堤体の通行用開口及び水門を閉鎖する操作を緊急に開始することを特徴とする請求項17又は請求項18の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項20】
前記津波が引き始めたときは、前記防潮堤を越流して陸側域内に溜まった海水を放水するための前記放水制御手段の操作を開始し、前記海水の放水を終了した後、所定の時間経過後に前記通行用開口の扉体及び前記水門の扉体を開く操作を行うことを特徴とする請求項9〜請求項18の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項21】
前記所定の時間は、津波の再襲来がなくなった時刻であることを特徴とする請求項20に記載の津波防災システム。
【請求項22】
前記防潮堤の海側域に存在し、津波によって漂流物となる可能性のある漁船、沿岸貯木場にある丸太、コンテナ、油タンク等を漂流しないように固定したことを特徴とする請求項1〜請求項21の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項23】
前記防潮堤の陸側域に存在し、津波の越流水によって漂流物となる可能性のある乗用車、木造家屋等を漂流しないように固定したことを特徴とする請求項1〜請求項22の何れか1に記載の津波防災システム。
【請求項24】
前記防潮堤の陸側域内に車の駐車場を設け、該駐車場に駐車している車両が浸入水により浮上して漂流しないように弾性体からなる屋根を設けたことを特徴とする請求項23に記載の津波防災システム。
【請求項25】
前記防潮堤の陸側域にある木造建物等は、該建物の基礎となる土台に固定し、該防潮堤を越流した津波の浸入水及び引き波によって浮上して漂流又は倒壊しないようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項24の何れか1に記載の津波防災システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−92033(P2013−92033A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−55151(P2012−55151)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(306030301)
【Fターム(参考)】