説明

活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物およびその用途

【課題】硬化性、下層との接着性が優れ、しかも臭気の問題がない活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を提供する。
【解決手段】光重合性化合物および光重合性開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物において、前記光重合性化合物が、(A)少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つのアクリロイル基を有する化合物から選択される少なくとも1種と、(B)前記化合物(A)と共重合可能な光重合性不飽和結合を有する化合物とを、(A)/(B)=0.5/99.5〜30/70の質量比率で含むものであり、かつ前記光重合性開始剤が分子間水素引抜型光重合性開始剤であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物およびその用途に関する。より詳しくは、カートンなどの紙器、紙袋などの紙製品に水性印刷インキ組成物が印刷されている印刷物の光沢向上、印刷物の保護のために使用される活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物、さらにその用途として、その活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗工した紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷物の光沢向上、印刷物の皮膜保護のため、印刷の後にオーバープリントニス組成物を塗工することが行われている。特に活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物は、その皮膜強度が優れているので広く利用されている。
【0003】
例えば、カートンなどの紙器、紙袋など紙製品の用途においては、紙基材に、水性印刷インキ組成物および水性アンカーニスを順次印刷、塗工した後、光重合性化合物および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗布し、活性エネルギー線で硬化させる技術が利用されている。
【0004】
光重合性化合物および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物においては、光重合開始剤として、ベンゾインなどの分子内結合開裂型光重合開始剤やベンゾフェノンなどの分子間水素引抜型光重合開始剤が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記オーバープリントニス組成物のうち、ベンゾインなどの分子内結合開裂型光重合開始剤を使用する組成物では、その分子内結合開裂型光重合開始剤による臭気が強いという問題がある。そこで、光重合開始剤として、臭気が少ない分子間水素引抜型光重合開始剤の検討が行われている。
【0006】
一方、ベンゾフェノンなどの分子間水素引抜型光重合開始剤を使用したものは、硬化速度が遅いため、硬化速度を速くするために増感剤である3級アミン化合物を併用するのが一般的である。しかし、その場合、紙基材に、水性印刷インキ組成物および水性アンカーニスを順次印刷、塗工した後、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗布し、活性エネルギー線で硬化させる技術に適用すると、硬化後においても前記3級アミンが紙基材に印刷・塗工されている水性印刷インキ組成物層および水性アンカーニス層に浸透しそれらを溶解するため、オーバープリントニス層の接着性が大きく低下するという問題が判明した。
【0007】
【特許文献1】特開平11−080642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、オーバープリントニス組成物の硬化性、また、下層との接着性、さらには臭気などの問題が全てが解決された活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物、および該活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗工した紙製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物として、光重合性化合物としても増感剤としても作用する、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つのアクリロイル基を有する化合物を使用し、かつ光重合性開始剤として分子間水素引抜型光重合性開始剤を含有するものを使用することにより、上記課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)光重合性化合物および光重合性開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物において、前記光重合性化合物が、(A)少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つのアクリロイル基を有する化合物から選択される少なくとも1種と、(B)前記化合物(A)と共重合可能な光重合性不飽和結合を有する化合物とを、(A)/(B)=0.5/99.5〜30/70の質量比率で含むものであり、かつ前記光重合性開始剤が分子間水素引抜型光重合性開始剤であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を提供する。
【0011】
さらに本発明は、紙基材に、部分的または全面に水性印刷インキ組成物が印刷され、その上に、ガラス転移温度が−20℃〜20℃である水性エマルジョンを含有する水性アンカーニスが塗工され、さらに前記(1)項に記載の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物が塗工され、活性エネルギー線でオーバープリントニスが硬化されてなることを特徴とする紙製品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物においては、光重合性開始剤として分子間水素引抜型光重合性開始剤を使用するので、臭気の問題が解決されている。
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物においては、光重合性開始剤として分子間水素引抜型光重合性開始剤を使用するが、光重合性化合物としても増感剤としても作用する3級アミノ基とアクリロイル基を有する化合物を使用するため、硬化速度は速く、しかも硬化後は前記3級アミノ基とアクリロイル基を有する化合物が下層の水性印刷層および水性アンカーニス層に浸透して接着性を阻害するなどの問題が生じない。
【0014】
かくして本発明においては、硬化性、下層との接着性が優れ、しかも臭気の問題がない活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物、および該活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗工した紙製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
<本発明の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物の構成材料>
本発明の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物の構成材料について説明する。
【0017】
(光重合性化合物)
(A)増感剤の作用も有する少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つのアクリロイル基を有する化合物
たとえば、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレートなどが挙げられる。N,N−ジアルキルアクリルアミドにおけるアルキル基としては、同一または異なっていてもよく、メチル基、エチル基等が挙げられる。N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレートにおけるアルキル基としては、同一または異なってもよく、メチル、エチル等が挙げられ、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基等が挙げられる。具体例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−2−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−3−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−2−エチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノ−3−プロピルアクリレート等が挙げられる。これら化合物(A)は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
(B)前記化合物(A)と共重合可能な光重合性不飽和結合を有する化合物
前記化合物(A)と共重合可能な光重合性不飽和結合を有する化合物としては、光重合性不飽和結合を有するモノマー、オリゴマーなどが挙げられる。
【0019】
光重合性不飽和結合を分子内に1個有するモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;ヘキサエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのポリアルキレングリコールモノアリールエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;イソボニル(メタ)アクリレート;グリセロール(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0020】
光重合性不飽和結合を分子内に2個以上有するモノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジ(メタ)アククリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0021】
光重合性不飽和結合を有するオリゴマーとしては、上記モノマーの1種または2種以上を適宜重合させて得られたものを用いることができる。
【0022】
上記化合物(B)は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
(前記化合物(A)/化合物(B)の割合)
前記化合物(A)/化合物(B)の割合は、質量比率で0.5/99.5〜30/70であり、好ましくは1/99〜15/85である。化合物(A)の割合が前記範囲未満では、充分な硬化速度が得られず、一方前記範囲を超えると、硬化速度が低下する傾向がある。
【0024】
(分子間水素引抜型光重合性開始剤)
具体例として、ベンゾフェノン系(ベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾイルベンゾエート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)、チオキサントン系(2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン)、キノン系(アントラキノン、ナフトキノン)などが例示できる。
【0025】
分子間水素引抜型光重合性開始剤の使用量は、この種の硬化型組成物で従来から使用されている量で使用でき、例えば、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物中に1〜20質量%である。
【0026】
(必要に応じて添加することができる添加剤)
要求される性能に応じて、必要に応じて、(メタ)アクリル酸変性された樹脂などの樹脂、レベリング剤、ワックス、防腐剤、抗菌剤、熱重合禁止剤などを添加することができる。
【0027】
<本発明の紙製品>
次に、本発明の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物が塗工される紙製品について説明する。
【0028】
本発明の紙製品は、例えば、紙基材(カートン、片艶紙などの紙)に部分的又または全面に水性印刷インキ組成物を印刷し、その上に、ガラス転移温度が−20℃〜20℃である水性樹脂エマルジョンを含有する水性アンカーニスを塗工し、さらに、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物を塗工した後、活性エネルギー線でオーバープリントニスを硬化し、成形加工することによって得られる。
【0029】
上記水性印刷インキ組成物としては、従来からフレキソ印刷に使用されている水性フレキソ印刷インキ組成物が使用できる。例えば、スチレン/マレイン酸系共重合体樹脂、スチレン/アクリル系共重合体樹脂、アクリル系共重合体樹脂などのバインダー樹脂、着色剤、塩基性化合物、水性溶媒を主として含有する水性フレキソ印刷インキ組成物が使用できる。
【0030】
上記水性アンカーニスとしては、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニスが硬化したときに発生する収縮を緩和でき、かつ活性エネルギー線硬化型オーバープリントワニスの目止めができる水性アンカーニスが利用できる。具体的には、ガラス転移温度−20〜20℃である、スチレン/ブタジエンゴム系エマルジョン、アクリル系エマルジョンなどの水性エマルジョンを含有する水性アンカーニスが例示できる。
【0031】
カートン、片艶紙などの紙基材に、水性印刷インキ組成物、水性アンカーニス、活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物をフレキソ印刷方式などによって順次印刷、塗工し、その後、紫外線、電子線などの活性エネルギー線で硬化後、さらに、箱状や袋状などに成形加工し、紙器、紙袋などの包装用の紙製品に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0033】
実施例1〜4
片艶紙に水性印刷インキ組成物(サカタインクス(株)製ラップトーンHR)をフレキソ印刷方法で印刷し、その上に水性アンカーニス(ガラス転移温度が5℃のスチレン/ブタジエンゴムエマルジョンを固形分換算で26質量%含有する水性アンカーニス)をフレキソ印刷方法(フレキソ印刷機として東谷フレキソ印刷機((株)東谷製鉄所製)を使用、以下同様)で塗工し、さらにその上に表1に示される組成(各成分の割合は質量%で示す)を有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物をフレキソ印刷方法で塗工し、ついでコンベア式紫外線照射装置(高圧水銀ランプ使用)を使用し紫外線を照射してオーバープリントニスを硬化し、紙製品を得た。
【0034】
比較例1〜5
活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物として表2に示される組成を有するもの(各成分の割合は質量%で示す)を使用したほかは、実施例1〜4と同様にして紙製品を得た。
【0035】
実施例1〜4および比較例1〜5においてオーバープリントニスの硬化性および硬化したオーバープリントニスの密着性をつぎのようにして評価した。結果を表1〜2に示す。
【0036】
(硬化性)
前記コンベア式紫外線照射装置において、60W/cm×23mの照射条件で表面タックがなくなるまでのパス回数にて評価した。
【0037】
(密着性)
前記コンベア式紫外線照射装置において、60W/cm×23mの照射条件で表面タックがなくなるまでのパス回数で硬化したオーバープリントニスの表面にセロテープ(ニチバン社製)を貼り付けた後引き剥がし、つぎの基準で評価した。
○:紙ムケが生じる。
×:オーバープリントニスが下層(水性アンカーニス)から剥離する。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性化合物および光重合性開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物において、前記光重合性化合物が、(A)少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つのアクリロイル基を有する化合物から選択される少なくとも1種と、(B)前記化合物(A)と共重合可能な光重合性不飽和結合を有する化合物とを、(A)/(B)=0.5/99.5〜30/70の質量比率で含むものであり、かつ前記光重合性開始剤が分子間水素引抜型光重合性開始剤であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物。
【請求項2】
紙基材に、部分的または全面に水性印刷インキ組成物が印刷され、その上に、ガラス転移温度が−20℃〜20℃である水性エマルジョンを含有する水性アンカーニスが塗工され、さらに請求項1記載の活性エネルギー線硬化型オーバープリントニス組成物が塗工され、活性エネルギー線でオーバープリントニスが硬化されてなることを特徴とする紙製品。

【公開番号】特開2007−45962(P2007−45962A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233065(P2005−233065)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】