説明

活性エネルギー線硬化性組成物、硬化物及び光ディスク

【課題】光ディスクを構成する反射膜や記録層の耐腐食性に優れ、光ディスクの長期間の保存に対する耐久性に優れた光ディスク硬化物層を構成する材料である活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化物及び該硬化物からなる層を有する光ディスクを提供する。
【解決手段】分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、該活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度が、0.1μmol/g以上、350μmol/g以下である活性エネルギー線硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性組成物及びその硬化物、並びに該硬化物からなる層を有する光ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録の媒体として、コンパクトディスク(以下、CDと略記)、追記型光ディスク、光磁気ディスク、相変化型光ディスク等の光ディスクが広く用いられている。
【0003】
これらの光ディスクは、ランド、ピット、グルーブ等の微細な凹凸を形成した透明樹脂基板上に、金属薄膜等で反射膜や記録層を形成する。さらにその劣化を防ぐために紫外線硬化性組成物を硬化してなる硬化物層からなる保護膜を該記録層上に設けた構造が一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。
【0004】
近年、記録容量を高めるために、0.6mm厚の光ディスク基板を貼り合わせたデジタルビデオディスク又はデジタルバーサタイルディスク(以下、DVDと略記)が広く、普及しつつある(例えば、特許文献4を参照)。
【0005】
さらに、DVDよりも記録容量を向上させ、高品位の動画情報等を長時間録画することが可能な高密度光ディスクが提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
【0006】
この高密度光ディスクは、プラスチック等で形成される透明又は不透明の支持体基板上に記録層を形成し、次いで記録層上に約100μmの光透過層を積層したもので、該光透過層側からレーザー光により記録情報の再生及び/又は記録を行う。このような光ディスクも実用化されつつある。
【0007】
かかる高密度光ディスクの光透過層としては、上述したCD等の従来の光ディスクの保護膜と同様の紫外線硬化性組成物を硬化してなる硬化物層を用いればよいと考えられていた。
【0008】
しかし、紫外線硬化性組成物を用いて硬化物層を形成した高密度光ディスクは、反射膜や記録層の耐腐食性について更なる改善が必要とされている。該高密度光ディスクは、高温高湿条件下で所定時間保存すると、該硬化物層中の塩素イオンにより記録層が腐食することが知られている。反射膜や記録層が腐食すると、光ディスクから記録情報の再生及び/又は記録を行う場合に不具合が生じる。
【0009】
前記硬化物層中の塩素イオンは、硬化物層を形成する硬化性組成物の製造過程において、外部から混入する場合がある。また、硬化物層を形成する材料を選定する場合においては、一定の塩素イオンを含有する材料は他の性能が優れていても使用することができない。
【0010】
光ディスクの反射膜や記録層の耐腐食性を向上させる方法として、光透過層を構成する材料であるポリカーボネート樹脂の精製を行うことにより、塩素イオン濃度を低減した光透過層を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献6を参照)。
【特許文献1】特開平2−123172号公報
【特許文献2】特開平3−131605号公報
【特許文献3】特開平4−264167号公報
【特許文献4】特開平8−212597号公報
【特許文献5】特開平8−235638号公報
【特許文献6】特開2001−250269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、光ディスクを構成する反射膜や記録層の耐腐食性に優れ、光ディスクの長期間の保存に対する耐久性に優れた光ディスク硬化物層を構成する材料である活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化物及び該硬化物からなる層を有する光ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、該活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度が、0.1μmol/g以上、350μmol/g以下である活性エネルギー線硬化性組成物である。
【0013】
また、本発明は、前記活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物である。
【0014】
さらに、本発明は前記硬化物からなる硬化物層を有する光ディスクである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記硬化物層中に塩素イオンが含有されていても、塩素イオンによる光ディスクの反射膜や記録層の腐食を抑制することができ、長期間の保存に対する耐久性に優れた光ディスクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物(以下、適宜「組成物」と略記する)は、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)(以下、適宜「成分(A)」と略記する)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)(以下、適宜「成分(B)」と略記する)、及び光重合開始剤(C)(以下、適宜「成分(C)」と略記する)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、該活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度が、0.1μmol/g以上、350μmol/g以下である。前記活性エネルギー線硬化性組成物は、記録層の耐腐食性に優れ、長期間の保存に対する耐久性に優れた光ディスクの光透過層などの形成に好適なものである。
【0018】
本発明に用いる成分(A)は、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であり、記録層の耐腐食性及び長期間の保存に対する耐久性を付与する成分である。この成分(A)としては、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(A1)(以下、適宜「成分(A1)」と略記する)、エポキシ基含有ポリマー、エポキシ基含有オリゴマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0019】
前記成分(A1)としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、アリルフェノールグリシジルエーテル、3−アリル−1,4−ジヒドロキシメチルベンゼンジグリシジルエーテル、メタクリル酸2−メチルオキシラニルメチル、4−ペンテン酸グリシジル、5−ヘキセン酸グリシジル、6−ヘプテン酸グリシジル、7−オクテン酸グリシジル等のグリシジル基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0020】
これらは一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。この中でも、重合性の観点から、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0021】
前記エポキシ基含有ポリマーとしては、グリシジルメタクリレートポリマー、グリシジルアクリレートポリマー、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価アルコールグリシジルエステル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
本発明における活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度は、0.1μmol/g以上、350μmol/g以下である。前記エポキシ基の官能基濃度が、0.1μmol/g未満の場合は、記録層の耐腐食性や耐久性が十分に得られない。また、エポキシ基の官能基濃度が350μmol/gを超えると、硬化物の硬化性が低下する。なお、前記エポキシ基の官能基濃度とは、活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の濃度を示す。
【0023】
前記活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度は、好ましくは、1μmol/g以上、100μmol/g以下である。エポキシ基の官能基濃度が1μmol/g以上、100μmol/g以下の場合、エポキシ基が塩素イオンを効果的に捕捉するため、塩素イオンの記録層への移動を抑制し、記録層の耐腐食性を向上することができる。また、エポキシ基が導入されていても硬化物層の硬化性や吸水性に影響を与えない。
【0024】
本発明に用いる成分(B)は、成分(A)以外のエチレン性不飽和化合物であれば特に限定されるものではない。
【0025】
本発明において、成分(B)の具体例としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、トリスエトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、炭素数2〜5の脂肪族炭化水素変性トリメチロールプロパントリアクリレート、炭素数2〜5の脂肪族炭化水素変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、炭素数2〜5の脂肪族炭化水素変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステル類;
ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸メチルペンタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチルペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカンジメタノール、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ジ(メタ)アクリル酸シクロヘキサンジメタノール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエトキシレーテッドシクロヘキサンジメタノール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロポキシレーテッドシクロヘキサンジメタノール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエトキシレーテッドビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロポキシレーテッドビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸水添ビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸ポリエトキシレーテッド水添ビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロポキシレーテッド水添ビスフェノールA、ビスフェノキシフルオレンエタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのγ−ブチロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ネオペンチルグリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ブチレングリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、シクロヘキサンジメタノールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ジシクロペンタンジオールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、水添ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールFのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル等ジ(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、2−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチルビシクロヘプタン、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸テトラシクロドデカニル、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;
酢酸ビニル、酪酸ビニル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アジピン酸ジビニル等のビニルエステルモノマー類;
エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等のアクリルアミド類;
フタル酸、コハク酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、アジピン酸等の多塩基酸、エチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の多価アルコール及び(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応で得られるポリエステルポリ(メタ)アクリレート類;
アルカンジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、スピログリコール化合物等の1種又は2種以上の混合物からなるアルコール類の水酸基に有機ジイソシアネート化合物を付加し、残ったイソシアネート基に、分子中に1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基、及び1つのヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させたウレタンポリ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0026】
本発明の光重合開始剤(C)は、本発明の組成物を効率よく活性エネルギー線照射により硬化させることのできるものであれば、特に限定されない。
【0027】
成分(C)の具体例としては、光の照射によりラジカルを生成する重合開始剤が挙げられ、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4−フェニルベンゾフェノン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、メチルベンゾイルホルメート等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0028】
例えば、光ディスクの読み取りに用いるレーザーの波長が380〜800nmの範囲である場合には、読み取りに必要なレーザー光が十分に光透過層を通過するよう、光重合開始剤の種類及び使用量を適宜選択して用いることが好ましい。この場合、得られる光透過層が青色レーザー光を吸収し難い、短波長感光型光重合開始剤を使用することがより好ましい。
【0029】
この短波長感光型光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4−フェニルベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート等が挙げられる。
【0030】
これらは、1種又は2種以上を併用して用いることができる。この中でも、硬化物の黄変が少ない点から、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンが好ましい。なお、本発明の組成物を硬化させる重合反応において、成分(A)のエポキシ基は反応しない。
【0031】
本発明において、光重合開始剤(C)の含有量は特に限定されないが、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対して、0.001質量部以上、10質量部以下の範囲が好ましい。
【0032】
本発明において、光重合開始剤(C)の含有量が0.001質量部以上、10質量部以下の範囲では、組成物の硬化において十分な硬化性が得られ、また、硬化性膜が着色せず青色レーザーでの記録層の情報読み取りの不良が生じないため好ましい。
【0033】
より好ましくは、0.01質量部以上、9質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以上、7質量部以下である。
【0034】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の光増感剤を添加することもできる。
【0035】
以上が本発明の光ディスク用活性エネルギー線硬化性組成物の構成成分であるが、その性能を損なわない範囲であれば、必要に応じて、例えば、熱可塑性高分子、スリップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等、公知の添加剤等を適宜配合して用いてもよい。
【0036】
これらの添加剤の中でも、長期使用に際して、硬化層の黄変を防ぎ、青色レーザーによる光ディスクの読み込み或いは書き込みに支障をきたさないようにするため、酸化防止剤や光安定剤を使用することが好ましい。
【0037】
酸化防止剤の具体例としては、例えば、各種市販されている、「スミライザーBHT」、「スミライザーS」、「スミライザーBP−76」、「スミライザーMDP−S」、「スミライザーGM」、「スミライザーBBM−S」、「スミライザーWX−R」、「スミライザーNW」、「スミライザーBP−179」、「スミライザーBP−101」、「スミライザーGA−80」、「スミライザーTNP」、「スミライザーTPP−R」、「スミライザーP−16」(商品名、住友化学(株)製)、「アデカスタブAO−20」、「アデカスタブAO−30」、「アデカスタブAO−40」、「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60AO−70」、「アデカスタブAO−80」、「アデカスタブAO−330」、「アデカスタブPEP−4C」、「アデカスタブPEP−8」、「アデカスタブPEP−24G」、「アデカスタブPEP−36」、「アデカスタブHP−10」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブ260」、「アデカスタブ522A」、「アデカスタブ329K」、「アデカスタブ1500」、「アデカスタブC」、「アデカスタブ135A」、「アデカスタブ3010」(商品名、(株)ADEKA製)等を用いることができる。
【0038】
光安定剤の具体例としては、「チヌビン770」、「チヌビン765」、「チヌビン144」、「チヌビン622」、「チヌビン111」、「チヌビン123」、「チヌビン292」(商品名、チバ・ジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物の製造方法としては、成分(A)、成分(B)及び成分(C)、各成分の混合量を適宜選択し、必要に応じて、上記添加剤等を加え、これらを室温〜60℃の温度範囲で混合、攪拌する方法が挙げられる。
【0040】
前記組成物の塗膜の形成方法としては、特に限定されるものではないが、膜厚制御が容易であるスピンコーター法による塗工方法が好ましい。特に、光ディスク外周部の盛り上がりを少なくするために、スピンコート後、回転させながら活性エネルギー線照射により硬化する方法、スピンコートの回転を止めた直後〜0.8秒以内に硬化する方法が好ましい。
【0041】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、活性エネルギー線を照射することにより硬化するものである。かかる活性エネルギー線の種類としては、例えば、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線等を挙げることができる。
【0042】
本発明の組成物を用いて、硬化膜厚が100μm程度の硬化物層を得る場合には、工業的に低コストである点から、紫外線を、適当な光重合開始剤と組み合わせて用いることが好ましい。紫外線の発生源としては特に限定されないが、実用性や経済性の観点から、一般に使用されている紫外線ランプを用いることが好ましい。紫外線ランプとしては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。これらの活性エネルギー線は、一種類を単独で使用してもよく、複数種を、同時に又は順次に使用してもよい。
【0043】
活性エネルギー線としては、その照射強度、照射時間を適宜選択することができる。これらの活性エネルギー線を照射する雰囲気は、空気中でもよく、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でもよい。
【0044】
本発明の前記活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物は、エポキシ基の官能基濃度が0.1μmol/g以上、350μmol/g以下であることが好ましい。
【0045】
前記エポキシ基(グリシジル基を含む)の官能基濃度とは、硬化物中のエポキシ基の濃度を示す。前記エポキシ基の官能基濃度が0.1μmol/g以上の場合は、記録層の耐腐食性や耐久性が十分となる。また、エポキシ基の官能基濃度が350μmol/g以下の場合、硬化物の硬度が高くなる。
【0046】
硬化物層内にエポキシ基が存在した場合に記録層の腐食を抑制する理由としては、記録層の腐食を発生させる要因と考えられる塩素イオンを、硬化物層内のエポキシ基が捕捉するため、記録層に塩素イオンが移動せず、記録層の腐食が抑制されると考えられる。
【0047】
また、前記硬化物中のエポキシ基の官能基濃度は、1μmol/g以上、100μmol/g以下であることがより好ましい。エポキシ基の官能基濃度が1μmol/g以上、100μmol/g以下の場合、記録層の腐食を発生させる要因と考えられる塩素イオンを効果的に捕捉することができ、かつ、硬化物層の硬化性や吸水性への影響を与えない。
【0048】
本発明の硬化物は、例えば、高密度光ディスクにおける記録層に対する光透過層や、多層記録型光ディスクにおける接着剤兼光透過層等に用いられ、光ディスクの基材上に設けられて各機能を有する。前記光ディスクの光透過層に用いた場合には、記録層の耐腐食性に優れ、長期間の保存に対する耐久性に優れる。
【0049】
本発明の硬化物からなる硬化物層が設けられる基材としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、アモルファスポリオレフィン等のプラスチック基板上にアルミニウム、銀、又はこれらの合金等の反射膜、色素、銀・In・Te・Sb合金、銀・In・Te・Sb・Ge合金、Ge・Sb・Te合金、Ge・Sn・Sb・Te合金、Sb・Te合金、Tb・Fe・Co合金等の材質の記録層を設けたものである。
【0050】
前記硬化物層の厚さは、例えば、プラスチック等の基板上に設けられた記録層等の表面に積層する場合は、所望する特性が得られる厚さであればよく、例えば、光透過層としての硬化物層の場合、20μm以上、200μm以下の範囲が好ましい。硬化物層の厚さが20μm以上の場合には、光ディスク中の記録層の酸素や水による劣化を抑制することができ、200μm以下であれば、得られる光ディスクの反り量を抑制することができる。硬化物層の厚さは、50μm以上、150μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0051】
このような硬化物層は、所望の厚さとなるように、活性エネルギー線硬化性組成物の塗布膜を形成し、次いで活性エネルギー線を照射、硬化させて形成することができ、その照射強度、照射時間を適宜選択し、塗布膜の硬化を行うことができる。
【0052】
前記硬化物層は、前記活性エネルギー線硬化性組成物を用いて、公知の方法、例えば、バーコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、フレキソコート、スクリーンコート、スピンコート、フローコート等により得ることができるが、スピンコートによることが生産性の点から、好ましい。
【0053】
また、耐候性や表面硬度をさらに向上させる目的で、前記硬化物層にハードコート層等を適宜積層することができる。このハードコート層としては、アクリル系ハードコート材、シリカ微粒子含有ハードコート材等、公知の各種ハードコート用組成物を塗工しそれを硬化させて形成することができる。
【0054】
このようなハードコート用組成物には、光ディスクのスリップ性が良好となり、傷付き抑制性能が向上することから、必要に応じてフッ素系又はポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系のスリップ剤を添加してもよい。
【0055】
本発明の光ディスクは、上記本発明の硬化物からなる硬化物層を有するものであれば、特に制限されるものではない。
【0056】
本発明の光ディスクとしては、コンパクトディスク、追記型光ディスク、光磁気ディスク、相変化型光ディスク、高密度光ディスク及び多層記録型光ディスク等、いずれの形態の光ディスクにも適用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明にて実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下、実施例中の「部」は「質量部」を表す。
【0058】
<GMAポリマー合成例>
グリシジルメタクリレート(GMA)20g、及び2,2‐アゾビスイソブチロニトリル1.0gをフラスコ中に入れ、乾燥窒素を満たした。フラスコ内容物の温度を60℃に加熱して、15分後にドライアイス−メタノールに浸して反応を停止した。反応混合物を500mlのメタノール中に注いで、生成したポリマーを沈殿させた。これをフィルター上に集め、メタノールで数回洗浄し、60℃で減圧乾燥することによって、GMAポリマーを得た。
【0059】
<ウレタンアクリレート(UA)合成例>
(1)5Lの4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート1110g、及びジブチル錫ジラウレート0.5gを仕込んでウオーターバスで内温が70℃になるように加熱した。
【0060】
(2)ポリカーボネートジオール(商品名:「T5650J」、(株)ADEKA製、数平均分子量800)2000gを側管付きの保温滴下ロート(60℃保温)に仕込み、この滴下ロート内の液を、前記(1)で調製したフラスコ中の内容物を攪拌しつつ、フラスコ内温を70℃に保ちながら、4時間等速滴下により滴下し、同温度で2時間攪拌して反応させた。
【0061】
(3)次いで、フラスコ内容物の温度を50℃にして、同温度で1時間攪拌し、別の滴下ロートに仕込んだ2−ヒドロキシエチルアクリレート582gと、2,6−ジ−ターシャリブチル−4−メチルフェノール0.5g及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.5gを均一に混合溶解させた液を、フラスコ内温を75℃に保ちながら、2時間等速滴下により滴下した。その後、フラスコ内容物の温度を75℃に保ち、反応率が99%以上となるまで4時間攪拌して、ウレタンアクリレートを製造した。なお、ここで反応の終点はイソシアネート価により決定し、具体的には反応率が99%以上になった時点を反応終了とした。
【0062】
[実施例1]
<活性エネルギー線硬化性組成物の調製>
成分(B)として合成例で得られたウレタンアクリレート48部、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート10部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート10部、及び(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルアクリレート29部、光重合開始剤(C)として1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン3部、成分(A)としてGMA0.1部を混合溶解し、活性エネルギー線硬化性組成物を得た。このときの活性エネルギー線硬化性組成物のエポキシ基の官能基濃度は7μmol/gであった。
【0063】
<硬化物層を有する光ディスクの作製>
ポリカーボネート樹脂を射出成型して得た光ディスク形状を有する透明円盤状基板(直径12cm、板厚1.1mm)の片面に、バルザース(株)製スパッタリング装置「CDI−900」(製品名)により、銀を膜厚20nmとなるようにスパッタリングした。これにより、基板に銀反射膜を有する評価用光ディスク基材(以下、基材と略記)を得た。
【0064】
前記基材の銀反射膜上に、上記で得られた活性エネルギー線硬化性組成物を、スピンコーターを用いて平均硬化膜厚が100μmとなるように塗工した。得られた塗膜を、ランプ高さ10cmの高圧水銀灯(120w/cm)により、積算光量1500mJ/cm2のエネルギー量で硬化させて、硬化物層を有する光ディスクを得た。
【0065】
<エポキシ基の官能基濃度の測定>
本発明において、エポキシ基の官能基濃度は、塩酸−ジオキサン法にて測定した。試料500mgを200mlの三角フラスコにとり、25mlの0.2mol/Lの塩酸ジオキサン溶液を加え、試料を溶解させた。試料溶液を室温で30分間放置した後、10mlのメチルセロソルブを加え、クレゾールレッドを指示薬として0.1mol/LのNaOHエタノール−メチルセロソルブ混合溶液で滴定して求めた。
【0066】
<塩素イオン量の測定>
光ディスクから硬化物層を剥ぎ取り、細かく裁断して、超純水に60℃で17時間、浸漬して、硬化物層中から塩素イオンを抽出した。その後、以下に示したイオンクロマトグラフィーを用いて、以下に示した条件で超純水中に溶出した塩素イオン量を測定し、硬化物層から超純水中に溶出した塩素イオン濃度を算出した。
【0067】
装置:Dionex製 4520iイオンクロマトグラフィー
カラム:IonPac AS4A
溶離液:1.8mmol/L Na2CO3 / 1.7mmol/L NaHCO3溶液
再生液:0.025N H2SO4溶液
流速:1.5mL/min。
【0068】
<保護性能>
得られた光ディスクを80℃、85%RHの環境下に96時間放置した。その後、該光ディスクの銀反射膜面を顕微鏡で観察し、以下の基準で保護性能を評価した。
【0069】
○:初期と変化なし
×:銀表面が変色する等の腐食が発生。
【0070】
得られた光ディスク硬化物層から溶出した塩素イオン濃度及び保護性能を表1に示す。
【0071】
[実施例2〜4、比較例1]
表1の実施例2〜4及び比較例1の欄に示すGMA及びGMAポリマーの添加量以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。また、得られた組成物を用い、実施例1と同様にして硬化物層を有する光ディスクを得た。また、得られた光ディスクについて、実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、
該活性エネルギー線硬化性組成物中のエポキシ基の官能基濃度が、0.1μmol/g以上、350μmol/g以下である活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)が、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(A1)である請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物。
【請求項4】
請求項3記載の硬化物からなる硬化物層を有する光ディスク。

【公開番号】特開2009−179703(P2009−179703A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19188(P2008−19188)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】