説明

活性エネルギー線硬化性組成物及び該組成物の硬化被膜が表面に形成された成形体

【課題】 ポリエチレングリコール鎖を有する重合性化合物を含有する組成物であって、長時間高温環境下に曝した場合であってもポリエチレングリコール鎖が酸化劣化し難く、高い親水性又は防曇性を長期間保持することができる硬化皮膜を形成可能な活性エネルギー線硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 (i)分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基で置換されたフェニル基、(ii)-(CH2CH2O)n-(式中、nは6〜20の整数を表す。)で表される基及び(iii)(メタ)アクリロイル基を同一分子内に有する活性エネルギー線硬化性化合物(a)と、過塩素酸金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル金属塩、チオシアン酸金属塩及び硝酸の金属塩から選択される1種又は2種以上の金属塩(b)と、前記化合物(a)以外の活性エネルギー線硬化性化合物(c)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフイルム、プラスチックシート、ガラス等の表面に親水性被膜を形成し、防曇性を付与する為の組成物、また、エアコン、ラジエター等の熱交換機に付属するフィン表面を親水性化する為の組成物、また、病理診断検査チップにおいて、タンパク質、油脂、バクテリア等の吸着が少ない親水性管壁を形成する為の組成物、及び該組成物により形成された防曇性又は親水性に優れた表面を有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体の表面を親水性にする方法としては、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの物理的表面処理、スルホン化などの化学的表面処理、界面活性剤や親水性物質の練り込み法、成形材料として親水基を有するポリマーの使用、親水性ポリマーによるコーティングなどが通常行われている。また、ポリマー成形体表面への親水性モノマーのグラフト重合法も知られている。
【0003】
しかしながら、物理的表面処理法では、親水化の程度、耐久性共に劣り、化学的表面処理法では、素材の限定や、施工法の限定など制約が多かった。また、練り込み法では、耐久性に劣る上、高い親水性を付与するために多量の親水性物質を練り込むと物性の低下を招いていた。成形材料やコーティング材料として親水性のポリマーを使用する方法では、高い親水性を付与するために親水基を多く導入すると、吸湿による寸法変化、湿潤状態での強度低下、湿潤状態での基材との剥離といった問題が生じていた。表面グラフト法では、優れた親水性を付与できるが、耐久性にやや劣る上、素材や形状に制約があった。
【0004】
この様な状況の中で、紫外線硬化性組成物を成形体の表面に被覆する方法は、短時間の紫外線照射により硬化塗膜が得られる為に、生産性の点で非常に優れていることが知られ、これまで種々の親水性の皮膜が形成可能な紫外線硬化性組成物の提案がされてきた。例えば、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキシド結合を分子内に持つ反応性界面活性剤を含有してなる紫外線硬化性組成物(特許文献1)、分子内に2個以上の水酸基を持つ多官能(メタ)アクリレート及びアルキレンオキシド結合を分子内に持つ反応性界面活性剤を含有してなる紫外線硬化性組成物(特許文献2)、繰り返し数が6から20のポリエチレングリコール鎖を有する両親媒性の重合性化合物を含有してなるエネルギー線硬化性組成物(特許文献3)、ポリウレタン(メタ)アクリレート、環構造を有するジアクリレート及びポリアルキレングリコールアクリレートを含有してなる光硬化型組成物(特許文献4)等がある。
【特許文献1】特開平11−116892号
【特許文献2】特開平11−140109号
【特許文献3】特開2000−319406号
【特許文献4】特開2004−182914号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記は、いずれもポリアルキレングリコール鎖を有する重合性化合物を親水性付与成分として含有することにより、初期の親水性或いは防曇性は確保されるものの、高温環境下で空気に曝されることにより、ポリアルキレングリコール鎖が酸化劣化し、初期の親水性及び防曇性が劣化するという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ポリエチレングリコール鎖を有する重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、長時間高温環境下に曝した場合であってもポリエチレングリコール鎖が酸化劣化し難く、高い親水性又は防曇性を長期間保持することができる硬化皮膜を形成可能な活性エネルギー線硬化性組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、高い親水性又は防曇性を有する前記活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜が表面に形成された成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエチレングリコール鎖を持つ親水性又は防曇性を有する重合性化合物と金属塩を併用することにより、硬化被膜の持つ高い親水性又は防曇性を長期間維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は上記課題を解決するために、(i)分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基で置換されたフェニル基、(ii)-(CH2CH2O)n-(式中、nは6〜20の整数を表す。)で表される基及び(iii)(メタ)アクリロイル基を同一分子内に有する活性エネルギー線硬化性化合物(a)と、
過塩素酸金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル金属塩、チオシアン酸金属塩及び硝酸の金属塩から選択される1種又は2種以上の金属塩(b)と、
前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)以外の活性エネルギー線硬化性化合物(c)
を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜からなる防曇性の被膜が表面に形成された成形体を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜からなる親水性の被膜が表面に形成された成形体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物によれば、長時間高温環境下に曝した場合であってもポリエチレングリコール鎖が酸化劣化し難く、高い親水性又は防曇性を長期間保持することができる硬化皮膜を得ることができる。また、高い親水性又は防曇性を有する前記活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜が表面に形成された成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化被膜及びその硬化皮膜を表面に有する成形体を具体的に説明する。本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、(i)分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基で置換されたフェニル基、(ii)-(CH2CH2O)n-(式中、nは12〜20の整数を表す。)で表される基及び(iii)(メタ)アクリロイル基を同一分子内に有する活性エネルギー線硬化性化合物(a)、過塩素酸金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル金属塩、チオシアン酸金属塩及び硝酸の金属塩から選択される1種又は2種以上の金属塩(b)、前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)以外の活性エネルギー線硬化性化合物(c)、また必要に応じ光重合開始剤(d)、その他の成分からなるものである。
【0013】
活性エネルギー線硬化性化合物(a)は、皮膜に高い親水性又は防曇性を付与する成分であり、式(1)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)におけるRは水素原子又はメチル基を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基を表し、nは6〜20の整数を表す。Rは、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等であっても良いが、ノニル基またはドデシル基であることが好ましい。nは6〜20の整数を表わし、nの数が大きいほど好ましい。中でも、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=8〜17)(メタ)アクリレートが好ましく、更にn=17のものが特に好ましい。
【0016】
金属塩(b)としては、
・過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩
・トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のトリフルオロメタンスルホン酸塩
・トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム等のトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル金属塩
・チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等のチオシアン酸塩
・硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩
が挙げられる。
これらの中でも、重合性化合物への溶解性の点から過塩素酸リチウムが好ましく、更に過塩素酸リチウム3水和物がより好ましい。
【0017】
金属塩(b)の使用量としては、(a)の重合性化合物1モル当たり、0.5モルから3モルが好ましく、更に好ましくは、1モルから2モルが好ましい。0.5モル未満の添加量では、ポリエチレングリコール鎖の酸化劣化が進み、親水性及び防曇性が劣化する。一方、3モルを越えて添加すると、組成物中の金属塩が多くなり、架橋が弱くなること、及び耐久試験後の塗膜着色が大きくなることから好ましくない。
【0018】
活性エネルギー線硬化性化合物(a)以外の活性エネルギー線硬化性化合物(c)としては、活性エネルギー線硬化性化合物として使用できる(メタ)アクリル系モノマーが好ましく、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドの如き2官能モノマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートの如き3官能モノマー、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの如き4官能モノマー、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートの如き6官能モノマー等が挙げられる。
【0019】
また、活性エネルギー線硬化性化合物(c)として、重合性オリゴマー(プレポリマーとも呼ばれる)も用いることもでき、例えば、重量平均分子量が500〜50000のものが挙げられる。そのような重合性オリゴマーしては、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール或いはポリエステルジオールを中心構造とするウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
これらの重合性化合物は、単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して用いることもできる。また、接着性を増すなどの目的で、単官能(メタ)アクリレートモノマーを混合することも可能である。
【0021】
例えば、メチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アクリル酸ダイマー、燐酸エステル基を有する(メタ)アクリレート、スルホン酸エステル基を有する(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基を有する(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基を有する(メタ)アクリレート、(N−アルキル)アクリルアミド、(N、N−ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモリホリン、などが挙げられる。
【0022】
活性エネルギー線硬化性化合物(c)は、活性エネルギー線硬化性化合物(a)と共重合可能な重合性官能基を有するものである。活性エネルギー線硬化性化合物(a)は、硬化塗膜に親水性又は防曇性を付与する重合性成分であり、活性エネルギー線硬化性化合物(c)は硬化塗膜に架橋構造をもたらす重合性成分である。活性エネルギー線硬化性化合物(a)と活性エネルギー線硬化性化合物(c)の合計質量に対する活性エネルギー線硬化性化合物(a)の質量比率は15〜60質量%であることが好ましい。活性エネルギー線硬化性化合物(a)の質量比率が15より少ないと、硬化膜の親水性又は防曇性が不充分となり、一方活性エネルギー線硬化性化合物(a)の質量比率が60より多くなると硬化膜の強度の低下、及び活性エネルギー線硬化性が劣化するので好ましくない。また活性エネルギー線硬化性化合物(c)成分中の単官能(メタ)アクリレートモノマーは、活性エネルギー線硬化性化合物(c)中の0%から30%であることが好ましい。30%を越えると、活性エネルギー線硬化性が大きく劣化し、また硬化塗膜の耐久性も劣化するので、好ましくない。
【0023】
活性エネルギー線硬化性組成物には、必要に応じて、その他の成分を混合して使用することもできる。その他の成分としては、例えば、活性エネルギー線として、紫外線を使用するには、光重合開始剤(d)成分を添加する。それ以外の成分(e)としては、溶剤、界面活性剤、着色剤、などが挙げられる。
【0024】
光重合開始剤(d)としては、例えば、4−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1の如きアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタールの如きベンゾインエーテル類;メチルフェニルグリオキシレート等が挙げられる。一方、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル等のベンゾフェノン類;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンの如きチオキサンソン類の如く、水素引き抜き作用を持つ光重合開始剤の使用は、ポリエチレングリコール鎖を切断する作用があり、好ましくない。
【0025】
活性エネルギー線硬化性組成物に添加する光重合開始剤(d)の使用量は、(a)+(c)に対して、1〜20質量%の範囲が好ましく、2〜10質量%の範囲が特に好ましい。
【0026】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、スプレー塗装の様に、低粘度化・低固形分化することが必要な場合に溶剤を添加することが必要となる。用いる溶剤としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤が挙げられる。これらの中では、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板を侵すことの少ないアルコール系溶剤、エーテルアルコール系溶剤、及びこれらの混合溶剤が好適に用いられる。
【0027】
用いられる溶剤量は、使用するコーティング方式により異なる。コーティング方式で推奨される固形分、粘度で添加すべき溶剤量を決定する。
【0028】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物に添加することができる界面活性剤としては、硬化膜の初期の親水性及び防曇性を阻害しない範囲で使用され、例えば、非イオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノールなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなどのポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリエーテル変性シリコーンオイル等の非イオン系界面活性剤; ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンサルフェート塩等の陰イオン系界面活性剤が挙げられる。いずれも、ポリエチレンオキシド鎖を持つ界面活性剤であり、フッ素系界面活性剤の場合は、表面を低エネルギー化するので好ましくない。
【0029】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物に添加することができる着色剤としては、任意の染料や顔料、蛍光色素が挙げられる。
【0030】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を成形体に被覆する方法としては、ロールコート法、スプレーコート法、浸漬コート法、スピンコート法、フローコート法、刷毛塗り法等の通常の塗布手段が挙げられる。
【0031】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の皮膜を硬化する方法に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線の如き光線;エックス線、ガンマ線の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられるが、取り扱い性や硬化速度の面から、紫外線、可視光、電子線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物からなる硬化被膜を表面に有する成形体の親水性は水との接触角により判断されるが、水との接触角が40度以下であることが好ましく、30度以下であることがより好ましい。更に、20度以下であることが特に好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0034】
(リチウム塩添加防曇付与成分の調製方法)
活性エネルギー線硬化性化合物(a)として、第一工業製薬社製ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート(理論分子量1032)10.32gを30mlのスクリュー管に秤量し、次いで、純水0.1gをスクリュー缶に秤量し、添加した。これを60℃オーブン中で約30分加熱混合溶解した後、金属塩(b)として、キシダ化学社製試薬過塩素酸リチウム・3水和物(理論分子量160.4)1.60gを秤量し、スクリュー管に添加し、引き続き、塩が溶解均一化するまで60℃オーブン中で加熱溶解した。これを1モル塩添加のN−177E/Li塩混合物とした。
【0035】
(硬化皮膜の調製)
下記表1の組成物を500mlのステンレスビーカーに配合し、加熱溶解して均一な組成物を得た。次いで、これらの組成物をポリカーボネート基板(筒中プラスチック社製EC−100)上に滴下し、スピンコート法により回転塗布した。その後、60℃オーブン中で溶剤を加熱除去し、紫外線にて約6μm厚の硬化塗膜を形成した。
なお紫外線硬化は、空気中にて、120W/cm入力電力の高圧水銀灯(アイグラフィックッス社製H03−31)下、500mJ/cm(アイグラフィックス社製光量計UVPF−36にて)を3パス照射した。
【0036】
〔試験評価方法〕実施例比較例中の試験評価は次の方法により行った。
<水接触角の測定>
硬化塗膜を作製した試料を24℃、湿度50%に15時間静置した後、協和界面科学製接触角度計CA−X型を使用し、室温(24±2℃)にて、純水接液後時間3分で測定した。
【0037】
<呼気試験>
硬化塗膜を作製した試料を24℃、湿度50%に15時間静置した後、その環境下で硬化塗膜面に呼気を吹き付けた。その時、曇りが全く見られない場合及び一瞬曇りが見られるがすぐに曇りの消失が見られる場合をOKとし、曇りが持続した場合をNGとした。
【0038】
<接着性試験>
上記で作製した硬化皮膜付きポリカーボネート基板について、硬化後24℃、湿度50%に15時間静置した後、JIS K−5400に従い、1mm角の碁盤目を形成し、セロテープ(注:ニチバン社製登録商標)剥離試験を行った(碁盤目−セロテープ剥離試験)。100個の升目の残りの数をカウントして、全く剥離のないものは、100/100とし、全ての升目がセロテープと共に剥離した場合を0/100とした。
【0039】
<耐久性試験>
上記硬化皮膜の調製で作製した試料を130℃、オーブン中に10日間放置した。耐久性試験後の試料は、24℃、湿度50%下に15時間静置した後、試験評価用試料とした。
【0040】
組成物の配合及び評価試験結果を一覧として、表1に示す。
【0041】
【表1】


接触角の数値の単位;度
【0042】
なお、表1の実施例および比較例における略称にて示した化合物は下記のものを意味する。
【0043】
A−9300−3CL: カプロラクトン(3モル)変性エトキシ(3モル)化イソシアヌル酸トリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
BPAEPDA:ビスフェノールAエポキシ(エポキシ当量約470g/eq)のジアクリレート(大日本インキ化学工業社製)
SA−1002:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(三菱化学社製)
PHE:フェノキシエチルアクリレート(第一工業製薬株式会社製)
Irg.184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
(チバガイギー社製)
Darocure1173:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバガイギー社製)
MFG:プロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社製)
【0044】
表1に見られる様に、過塩素酸リチウム・3水和物を添加した防曇性付与成分(a)を含む実施例1,2は、初期の硬化膜に対する水接触角が10度未満と低く、極めて親水性が高い。また、防曇性(呼気試験による)も良好であり、耐久試験後もこれらの特性に変化が見られない。一方、過塩素酸リチウムを含まない防曇性付与成分(a)を含む比較例1、3は、初期の親水性が良好であり(水接触角が10度未満)、防曇性も良好であるものの、耐久性試験後には、特性の大幅な劣化が見られる。また、防曇性付与成分を含まない比較例2では、初期状態で親水性・防曇性共に不良であることが判る。
【0045】
また、実施例1及び実施例2の組成物の硬化皮膜は、ポリカーボネート基板に対して接着性が良好であり、耐久性試験後も接着性の劣化が見られないことが判る。
【0046】
以上より、本発明の組成物による硬化皮膜は、耐久性に優れた高い親水性・防曇性を示し、耐久試験後も接着性にも優れ、剥離などの不都合が生じることが無い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
表面に親水性・防曇被膜を形成した成形体として、プラスチック容器、ショーケース等に、また光学レンズ、自動車用ヘッドランプカバーの曇り止めとして、またエアコン、ラジエター等の熱交換機に付属するフィン表面を親水性化する組成物として、また、病理診断検査チップにおいて、タンパク質、油脂、バクテリア等の吸着が少ない親水性管壁を形成する為の組成物として好適に用いることが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基で置換されたフェニル基、(ii)-(CH2CH2O)n-(式中、nは6〜20の整数を表す。)で表される基及び(iii)(メタ)アクリロイル基を同一分子内に有する活性エネルギー線硬化性化合物(a)と、
過塩素酸金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル金属塩、チオシアン酸金属塩及び硝酸の金属塩から選択される1種又は2種以上の金属塩(b)と、
前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)以外の活性エネルギー線硬化性化合物(c)
を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)と前記活性エネルギー線硬化性化合物(c)の合計質量に対する前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)の質量比率が15〜60質量%である請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)が式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数6〜20のアルキル基を表し、nは6〜20の整数を表す。)で表される化合物である請求項1又は2のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
前記金属塩(b)が過塩素酸リチウム・3水和物である請求項1、2又は3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項5】
前記過塩素酸リチウム・3水和物の添加量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(a)1モル当たり0.5〜3モルである請求項4記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項6】
更に、有機溶剤(e)を含有する請求項1、2、3、4又は5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜からなる防曇性の被膜が表面に形成された成形体。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜からなる親水性の被膜が表面に形成された成形体。

【公開番号】特開2007−56128(P2007−56128A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242499(P2005−242499)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】