説明

活性エネルギー線硬化性組成物

【課題】耐擦傷性、耐侯性、耐クラック性等に優れた厚い硬化膜を形成できる活性エネルギー線硬化性組成物及びこれを用いた自動車ヘッドランプレンズを提供する。
【解決手段】
テトラヒドロフタル酸残基とトリメチロールプロパン残基と(メタ)アクロイル基を有するポリエステル(メタ)アクリレート(A)10〜20質量部、イソシアヌレート骨格で2官能以上の(メタ)アクリレート(B)20〜50質量部、ジイソシアネート(c1)、ポリオール(c2)及びヒドロキシ(メタ)アクリレート(c3)を反応して得た(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート(C)10〜30質量部並びに25℃における粘度が200mPa・s以下の3官能以上の(メタ)アクリレート(D)10〜30質量部[(A)〜(D)の合計100質量部]を含む活性エネルギー線硬化性組成物;及びこの組成物を硬化してなる膜厚15〜30μmの硬化膜を有する自動車ヘッドランプレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐擦傷性および耐侯性を有する硬化物を提供できる活性エネルギー線硬化性組成物に関する。この活性エネルギー線硬化性組成物は、特に自動車ヘッドランプレンズ用途に非常に有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリカーボネート樹脂は、透明性、易成型性、耐熱性、耐衝撃性に非常に優れたエンジニアリングプラスチックとして幅広く使用されている。特に上記の各性能を生かして、ヘッドランプレンズ、テールランプ、サイドカバーランプおよびグレージング材料といった自動車用途に多く用いられている。中でも、ヘッドランプレンズについては自動車の燃費向上の為の軽量化、デザインの多様性などから、ポリカーボネートが広く使用されている。
【0003】
ただし、ポリカーボネート樹脂は耐摩耗性が不足しているので、表面に傷などの損害を受け易い。また、他のエンジニアリングプラスチックに比べて、耐候性も不足している。一方、屋外で用いられる部材、例えば自動車ヘッドランプレンズ等には、高度な耐摩耗性と耐候性が要求される。自動車ヘッドランプレンズ等の部材にポリカーボネート樹脂を使用すると、砂塵や洗浄による擦り傷、太陽光などに含まれる紫外線による透明性の低下、クラックやクレージングの発生、黄帯色の増加といった外観の低下が起こり易い。
【0004】
したがって、通常はポリカーボネート製ヘッドランプレンズの表面には、優れた耐摩耗性および耐候性を付与する為の塗膜を形成する事が必要になる。その塗膜は、例えば、アクリル系、メラミン系、ウレタン系、シリコン系などの樹脂に紫外線吸収剤を配合した被覆材組成物をその表面に塗布し、熱または紫外線、電子線などの活性エネルギー線を用いて硬化させて形成する。特に活性エネルギー線で被覆材組成物を硬化する方法は、他の方法に比べて生産性に優れている。したがって、ポリカーボネート成型品に優れた耐摩耗性および耐候性を付与する目的で、多くの活性エネルギー線硬化性被覆材組成物が開発されている(例えば特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開平9−286809号公報
【特許文献2】特開平5−230397号公報
【特許文献3】特開2000−281935号公報
【特許文献4】特開2007−314770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車ヘッドランプレンズに関して、砂塵や小石などに因る経時的な傷の発生に対する改善の要望が大きくなって来ている。一方、特許文献4等で示される一般的な活性エネルギー線硬化性組成物を使用する場合は、膜厚約8μmの硬化膜をヘッドランプレンズ上に形成する。この硬化膜に砂塵や小石などが衝突すると、硬化膜が脱落してしまう場合があるので、この点に改善の余地がある。なお、硬化膜の膜厚を20μm以上にすれば上記脱落をかなり防止できるが、その場合は、硬化膜の形成初期あるいは使用短期間でクラックが発生することがあるので、厚膜化した際のクラック発生防止の点にも改善の余地がある。
【0006】
すなわち、本発明の目的は、比較的厚い硬化膜を形成可能であり、硬化膜の耐擦傷性、耐侯性、耐クラック性等の諸物性に優れる活性エネルギー線硬化性組成物およびそれを用いた自動車ヘッドランプレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、テトラヒドロフタル酸残基とトリメチロールプロパン残基と(メタ)アクロイル基を有するポリエステル(メタ)アクリレート(A)10〜20質量部、
イソシアヌレート骨格を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(B)20〜50質量部、
ジイソシアネート化合物(c1)、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物(c2)、および、分子内に1個以上のヒドロキシ基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(c3)を反応させて得られる(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート(C)10〜30質量部、ならびに、
25℃における粘度が200mPa・s以下である3官能以上の(メタ)アクリレート(D)10〜30質量部、
[(A)〜(D)成分の合計100質量部]
を含んでなる活性エネルギー線硬化性組成物である。
【0008】
さらに本発明は、その活性エネルギー線硬化性組成物を硬化してなる膜厚15〜30μmの硬化膜を有する自動車ヘッドランプレンズである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、比較的厚い硬化膜を形成可能であり、硬化膜の耐擦傷性、耐侯性、耐クラック性等の諸物性に優れている。例えば、15μm以上の厚さの膜をヘッドランプレンズの上に良好に積層形成できる。さらに、硬化性組成物の固形分濃度を50%以上にできるので、VOC(揮発性有機化合物)削減の観点から、地球に優しい塗料である。
【0010】
また、本発明の自動車ヘッドランプレンズは、砂塵や小石などによって発生する傷を抑制できる(所謂、高い耐チッピング性を有する)十分な硬化膜の膜厚を確保でき、さらには高い耐擦傷性と耐侯性を両立できるので産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いる(A)成分は、テトラヒドロフタル酸残基とトリメチロールプロパン残基と(メタ)アクロイル基を有するポリエステル(メタ)アクリレートである。このポリエステル(メタ)アクリレート(A)を製造する為の方法としては、、例えば特公昭54−30431号公報などに記載の方法を参考にする事ができる。具体的には、無水テトラヒドロフタル酸とトリメチロールプロパンとアクリル酸とを混合し、加熱することにより得ることができる。代表的には、無水テトラヒドロフタル酸とトリメチロールプロパンの重縮合反応による高分子に(メタ)アクリル酸のカルボキシル基が反応して(メタ)アクロイル基を有する構造となったポリエステル(メタ)アクリレートである。
【0012】
(A)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して10〜20質量部、好ましくは12〜18質量部である。これら各範囲は、硬化膜の可撓性、耐擦傷性、耐侯性、厚膜の耐クラック性等の諸物性の点で意義がある。例えば、各範囲の下限値は耐侯性試験後の耐クラック性の点で特に重要である。また、上限値は耐擦傷性の点で特に重要である。
【0013】
本発明に用いる(B)成分は、イソシアヌレート骨格を有する2官能以上の(メタ)アクリレートである。この(メタ)アクリレート(B)の具体例としては、トリス(2−アクロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)モノヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリス(2−アクロイルオキシプロピル)イソシアヌレート、ビス(2−アクリロイルオキシプロピル)モノヒドロキシプロピルイソシアヌレート、1分子当たり1個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亜合成社製、商品名アロニックスM−325)、1分子当たり3個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亜合成社製、商品名アロニックスM−327)およびその混合物などが挙げられる。
【0014】
(B)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して20〜50質量部、好ましくは25〜45質量部である。これら各範囲は、耐熱性、耐擦傷性、耐侯性等の諸物性の点で意義がある。例えば、各範囲の下限値はヘッドランプレンズ等の部材に必要な耐熱性と耐擦傷性を発現する点で特に重要である。また、上限値は組成物の硬化性の点で特に重要である。
【0015】
本発明に用いる(C)成分は、ジイソシアネート化合物(c1)、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物(c2)、分子内に1個以上のヒドロキシ基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(c3)を反応させて得られる(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレートである。
【0016】
ジイソシアネート化合物(c1)は、分子内に2個のイソシアネート基を有する化合物であれば良い。その具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、ビス(4−イソシアナトフェニル)メタン、ビス(3−クロロ−4−イソシアナトフェニル)メタン、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,2−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,2−水添キシリレンジイソシアネート、1,4−水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水添テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0017】
ポリオール化合物(c2)は、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物であれば良い。その具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1−メチルブチレングリコール等のポリエーテルポリオール、多価アルコール類と多塩基酸もしくは多塩基酸無水物との反応により得られるポリエステルポリオール類、多価アルコールとラクトン類との反応により得られるポリカプロラクトンポリオール、多価アルコールと多塩基酸もしくは多塩基酸無水物とラクトン類との反応によって得られるカプロラクトン変性ポリエステルポリオール類、ジオール類と炭酸エステルとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートジオール類が挙げられる。
【0018】
ヒドロキシ(メタ)アクリレート(c3)は、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基および少なくとも1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートであれば良い。その具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類や、これらのカプロラクトン付加物が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を併用して用いる事ができる。中でも、(C)成分が低粘度となる点から、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0019】
(C)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して10〜30質量部、好ましくは25〜30質量部である。これら各範囲は、耐侯性、強靭性、耐擦傷性等の諸物性の点で意義がある。例えば、各範囲の下限値は耐侯性および強靭性の点で特に重要である。また、上限値は耐擦傷性の点で特に重要である。
【0020】
本発明に用いる(D)成分は、25℃における粘度が200mPa・s以下である3官能以上の(メタ)アクリレートである。この3官能以上の(メタ)アクリレート(D)の具体例としては、EO変性(エチレンオキシド変性)グリセロールトリ(メタ)アクリレート、PO変性(プロピレンオキシド変性)グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、HPA変性(アルキレン変性)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートが挙げられる。中でも、(A)〜(C)成分との相溶性、低粘度化、耐擦傷性の向上の点から、特にトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
(D)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して10〜30質量部、好ましくは15〜25質量部である。これら各範囲は、組成物を低粘度にしてコーティング材とした際の固形分濃度を高くする点や、耐擦傷性、耐侯性等の諸物性の点で意義がある。例えば、各範囲の下限値は耐擦傷や低粘度化の点で特に重要である。また、上限値は耐侯性の点で特に重要である。
【0022】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上記(A)〜(D)の各成分を主たる構成成分とするが、必要に応じて他の成分を配合しても良い。以下に、その他の成分について説明する。
【0023】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、必要に応じて光安定剤(E)を添加しても良い。光安定剤(E)の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ブトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ペンチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ヘプチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ノニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−デカニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−ドデシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物が挙げられる。中でも、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物が好ましい。
【0024】
(E)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部である。この範囲の下限値は、耐候性の点で意義がある。また、上限値は、強靱性、耐熱性、耐摩耗性の点で意義がある。
【0025】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、紫外線から基材を守る為に、必要に応じて紫外線吸収剤(F)を添加しても良い。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、安息香酸フェニル系、または、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物の誘導体であって、最大吸収波長が240〜380nmの範囲内にある紫外線吸収剤が好ましい。特に、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤が好ましく、さらに上記紫外線吸収剤のうちの2種を組み合わせて用いることが最も好ましい。紫外線吸収剤(F)の具体例としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニルサリシレート、3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、フェニレン−1,3−ジベンゾエート、2−(2−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとグリシジルアルキル(C12−C13)エーテルとの反応生成物、2−[4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−[ビス(2,4−ジメチルフェニル)]−1,3,5−トリアジン、トリス[2,4,6−[2−{4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル}]−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0026】
(F)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜10質量部である。これら各範囲の下限値は、耐侯性の点で意義がある。また上限値は、硬化性、強靭性、耐熱性、耐摩耗性の点で意義がある。
【0027】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させる際は、通常、光重合開始剤(G)を添加する。光重合開始剤(G)は、硬化性組成物中での相溶性の観点から適宜選択すれば良い。光重合開始剤(G)の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド等のリン酸化合物;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1やカンファーキノンが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用して用いてもよく、要求される塗膜性能に応じて、任意に組み合わせることができる。
【0028】
(G)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは2〜6質量部である。これら各範囲の下限値は、硬化速度促進、耐摩耗性、基材への密着性、耐候性の点で意義がある。また上限値は、着色防止、耐候性の点で意義がある。
【0029】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物をコーティング材として用いる場合は、所望の塗装法に適した粘度にする為に、有機溶剤(H)で希釈することが好ましい。スプレー塗装の場合は、例えば、イソブタノール等のアルコール系溶剤、酢酸n−ブチルに代表されるエステル系溶剤、メチルイソブチルケトンに代表されるケトン系溶剤、トルエンに代表される芳香族系溶剤などを使用して、粘度を20mPa・s以下にする事が好ましい。シャワーフローコートやディップによる塗装に使用する場合には、粘度を100mPa・s以下にする事が望ましい。一方、固形分が80質量%を超えるハイソリッド型コーティング材とする場合は、紫外線吸収剤等の添加剤の溶解性を考慮して溶剤を適宜選択する事が重要となる。
【0030】
有機溶剤(H)としては、特に、ケトン系、エステル系、エチレングリコール系溶剤が、(A)成分や(B)成分との相溶性に優れるので好ましい。ケトン系有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンが挙げられる。エステル系有機溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチルが挙げられる。エチレングリコール系有機溶剤の具体例としては、フェノキシエタノール、エチルジグリコールアセテートが挙げられる。これらの溶剤は単数または複数用いても構わない。
【0031】
(H)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは60〜100質量部である。有機溶剤(H)の量が少なければ、従来の活性エネルギー線硬化性組成物と比較して、大気への有機溶剤放出量を大幅に削減できる。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、さらに必要に応じて、酸化防止剤、黄変防止剤、ブルーイング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、界面活性剤等の各種の添加剤を配合しても良い。
【0033】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物をコーティング材として用いる場合は、これを基材(樹脂成型品等)上に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋、硬化させることにより、基材上に硬化膜を形成すれば良い。具体的には、例えば、硬化後所望の膜厚(好ましくは15〜30μm)になるような厚さでコーティング材を基材上に塗布し、その後溶剤を揮発させ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の光源を用いて紫外線や電子線などを照射する。照射する際の雰囲気は、空気中でも良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でも良い。
【0034】
基材を構成する樹脂は、例えば、耐摩耗性や耐侯性等の改善の要望のある各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂である。そのような樹脂の具体例としては、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ(ポリエステル)カ−ボネ−ト樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレ−ト樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリアリルジグリコ−ルカ−ボネ−ト樹脂、ポリオレフィン樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。特にポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂は、透明性に優れ、かつ耐摩耗性改良要求も強いので、本発明を適用するのが特に有効である。
【0035】
以上のようにして基材(樹脂成型品等)上に硬化膜が形成された物品は、ガラス並みの性能を持ち、軽量で、易成形性を兼ね備えているので、様々な分野で好適に使用できる。例えば、自動車ヘッドランプレンズ、車両センサー、屋外の看板、温室や屋外建物の窓ガラス、テラスやガレージの屋根、バルコニー、計器類カバーなど多岐に使用できる。中でも、自動車ヘッドランプレンズの表面コーティング材として特に有用である。
【0036】
本発明の自動車ヘッドランプレンズは、膜厚15〜30μmの硬化膜を有し、その硬化膜が本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を硬化してなる膜であることを特徴としている。すなわち、ヘッドランプレンズの外側表面が比較的厚い上記硬化膜で保護された構成になっている。したがって、砂塵や小石などによって発生する傷が抑制され、所謂、耐チッピング性に優れたものとなる。また高い耐擦傷性と耐侯性も発現する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。実施例中の測定評価は次の方法で行った。また、各記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0038】
<評価用試験片の作製>
厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(SABIC社製、商品名「レキサンLS−2」)を基板として用い、この基板上にコーティング材をエアースプレー塗装した。次いで、60℃の加熱炉中にて90秒間加熱して有機溶剤を揮発させた。その後、空気中で高圧水銀ランプを用い、波長340〜380nmの積算光量が3000mJ/cm2の活性エネルギー線を照射してコーティング材を硬化させ、所定膜厚の硬化膜を形成した。この硬化膜が形成された基板を試験片として用い、以下の評価を行なった。
【0039】
<評価(1):膜厚の測定>
試験片の上側において、光干渉膜厚計(カールツァイス社製、商品名「MCS551NIR」)を用いて、硬化膜の膜厚を測定した。
【0040】
<評価(2):硬化膜外観の判定>
試験片の硬化膜側の表面外観を目視にて観察し、表面上にクラックや白化が無く平滑性の良いものを○、クラックや白化は無いが平滑性に優れないものを△、クラックや白化が観察されるものを×と判定した。
【0041】
<評価(3):初期密着性の判定>
試験片上の硬化膜に1mm間隔で基材まで達するクロスカットを入れ、1mm2の碁板目を100個作り、その上にセロハンテ−プを貼り付け急激にはがし、剥離した碁盤目を数えることにより、密着性を評価した。剥離が全く無いものを○、剥離の数が1以上50未満のものを△、剥離の数が50以上のものを×と判定した。
【0042】
<評価(4):初期ヘイズの測定>
試験片のヘイズ値を、村上色彩技術研究所製ヘイズメーターHM−65W型を用いて、JIS−K7105に従い測定することにより、試験片の透明度を評価した。ヘイズ値が0以上2%未満を◎、2%以上5%未満を○、5%以上10%未満を△、10%以上を×とした。
【0043】
<評価(5):初期YIの測定>
試験片の黄色度(イエローインデックス:YI)を、大塚電子製瞬間マルチ測光システムMCPD−3000を用いて、JIS−K7105に従い測定した。YI値が0以上3未満を◎、3以上5未満を○、5以上7未満を△、7以上を×と判定した。
【0044】
<評価(6):耐摩耗性の判定>
テーバー摩耗試験器(摩耗輪CS−10F、500g荷重)を使用して、試験片の硬化膜側を100回転摩耗した後、拡散透過率(ヘイズ値)を測定した。そして、初期ヘイズ値に対する摩耗試験後のヘイズ値の増加率により、耐摩耗性を評価した。ヘイズ値の増加率が0%以上10%未満を◎、10%以上15%未満を○、15%以上20%未満を△、20%以上を×と判定した。
【0045】
<評価(7):耐侯性試験後の塗膜外観判定>
試験片をサンシャインカーボンウエザオメーター(スガ試験機製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機を用い、ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクルで暴露という条件で、試験片の硬化膜面に対して3000時間の耐候性試験を行なった。そして、この耐候性試験後の試験片について、評価(2)と同じ方法で外観の判定を実施した。
【0046】
<評価(8):耐侯性試験後の塗膜ヘイズの測定>
上記耐候性試験後の試験片について、評価(4)と同じ方法でヘイズを測定した。
【0047】
<評価(9):耐侯性試験後のYIの測定>
上記耐候性試験後の試験片について、評価(5)と同じ方法でYIを測定した。
【0048】
<評価(10):耐侯性試験後密着性の判定>
上記耐候性試験後の試験片について、評価(3)と同じ方法で密着性を判定した。
【0049】
(合成例1:ポリエステル(メタ)アクリレート(PesA−1)の合成)
無水テトラヒドロフタル酸0.5モル、トリメチロールプロパン1モル、アクリル酸2モル、トルエン1000ml、98%硫酸をトルエン以外の全成分100部に対して2.5部、および、フェノチアジンをアクリル酸全量100部に対して0.08部の各成分を混合して、液温約110℃で攪拌しながらエステル化反応させた。その際の反応によって生成する水は、トルエンとの共沸により系外へ流出させた。そして、反応開始から8時間後にほぼ理論値の水が流出したので、反応を止め冷却した。次いで、3質量%のアンモニアと20質量%の硫安を含む水溶液で反応液を洗浄し、トルエン層に0.05gのハイドロキノンを入れ、6mmHgの減圧下、約50℃でトルエンを除去し、(A)成分としてのポリエステルアクリレート(PesA−1)を得た。
【0050】
(実施例および比較例)
表1から表3に示す各成分(配合量の数値は質量部基準)からなる活性エネルギー線硬化性組成物をコーティング材として用いて、試験片を作製した。それらの評価結果を各表に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表1〜3中の化合物の記号は次の通りである。
・「PesA−1」:合成例1で得たポリエステルアクリレート。
・「AIC」:トリス(2−アクロイルオキシエチル)イソシアヌレートとビス(2−アクリロイルオキシエチル)モノヒドロキシエチルイソシアヌレートの混合物(東亞合成社製、商品名アロニックスM−315)。
・「M−325」:1分子当たり1個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亜合成社製、商品名アロニックスM−325)。
・「M−327」:1分子当たり3個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亜合成社製、商品名アロニックスM−327)。
・「UA−1」:ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン2mol、ノナブチレングリコール1molおよび2−ヒドロキシエチルアクリレート2molから合成したウレタンアクリレート85質量部に対し、2−エチルヘキシルアクリレート15質量部で希釈したもの。
・「UA−2」:ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン2mol、ポリカプロラクトンジオール(重量平均分子量530、ダイセル化学工業社製、商品名プラクセル205)1molおよび2−ヒドロキシエチルアクリレート2molから合成したウレタンアクリレート。
・「UA−3」:ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン2mol、ポリカーボネートジオール(数平均分子量500、クラレ社製、商品名クラレポリオールC590)1molおよび2−ヒドロキシエチルアクリレート2molから合成したウレタンアクリレート。
・「TMPTA」:トリメチロールプロパントリアクリレート(25℃における粘度80mPa・s)。
・「TMP(3PO)TA」:1分子当たり3個のプロピレンオキサイドで変性されたトリメチロールプロパントリアクリレート(25℃における粘度60mPa・s)。
・「TMP(2PO)TA」:1分子あたり2個のプロピレンオキサイドで変性されたトリメチロールプロパントリアクリレート(25℃における粘度78mPa・s)。
・「HALS−1」:光安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名チヌビン152)37.3gをn−酢酸ブチル66.4gに完全に溶解させた液へ、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、商品名カレンズAOI)7.00gと、反応触媒としてジブチルチンジラウレート0.0265gとを入れて、30℃で8時間攪拌し合成して得た光安定剤。
・「HALS−2」:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートの混合物からなる光安定剤(三共化成製、商品名サノールLS−292)。
・「UVA−1」:トリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名チヌビン400)。
・「BNP」:ベンゾフェノン。
・「MPG」:メチルフェニルグリオキシレート。
・「APO」:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド。
・「L−7001」:シリコン系レベリング剤(東レダウコーニング社製、商品名L−7001)。
・「PGM」:1−メトキシ−2−プロパノール。
・「ECA」:エチルジグリコールアセテート。
【0055】
実施例1〜11は全ての性能が良好であった。
【0056】
これに対して、比較例1は(A)成分の量が多いので、耐侯性試験において試験片上にクラックが発生していた。比較例2は(A)成分の量が少なく(C)成分の量が多いので、初期の塗装外観が不良であり、耐擦傷性が不足していた。よって耐侯性試験は実施しなかった。比較例3は(D)成分の量が多いので、耐侯性試験において試験片上にクラックが発生していた。また若干のヘイズ上昇が確認された。比較例4は(C)成分の量が多く(D)成分の量が少ないので、初期の外観が不良であり耐擦傷性が不足していた。比較例5は(C)成分の量が少ないので、耐侯性試験において試験片上にクラックの発生、ヘイズの上昇、密着性の低下が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロフタル酸残基とトリメチロールプロパン残基と(メタ)アクロイル基を有するポリエステル(メタ)アクリレート(A)10〜20質量部、
イソシアヌレート骨格を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(B)20〜50質量部、
ジイソシアネート化合物(c1)、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物(c2)、および、分子内に1個以上のヒドロキシ基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(c3)を反応させて得られる(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート(C)10〜30質量部、ならびに、
25℃における粘度が200mPa・s以下である3官能以上の(メタ)アクリレート(D)10〜30質量部、
[(A)〜(D)成分の合計100質量部]
を含んでなる活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
自動車ヘッドランプレンズ用の硬化性組成物である請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリレート(D)が、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートである請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物からなる光安定剤(E)を含む請求項1〜3の何れか一項記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項5】
さらに、有機溶剤(H)1〜100質量部を含む活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項記載の活性エネルギー線硬化性組成物を硬化してなる膜厚15〜30μmの硬化膜を有する自動車ヘッドランプレンズ。

【公開番号】特開2010−59229(P2010−59229A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223386(P2008−223386)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】